【投稿】財政再建は国民の負担増で–財政審報告を読む

【投稿】財政再建は国民の負担増で–財政審報告を読む

<財政・行革が争点に浮かび上がる>
大蔵大臣の諮問機関である財政制度審議会は、7月10日に、財政再建目標を年末までに設定すべきとする中間報告及び財政構造改革白書(財政審白書)を発表している。二つの報告は、4年前には170兆円だった国債発行残高が、今年度末には約1.5倍の240兆円に達するという状況、また依然バブル崩壊後の景気低迷が底を打ったといわれながら、設備投資の回復に至らない状況が続く中での税収の横ばい状況、住専問題だけでなく巨額の不良債権を抱える金融状況などを背景にしつつ、来年度からの消費税5%問題をにらみつつ、財政赤字の削減を目標にして、医療・年金・公共投資・防衛費などを財政サービスの削減が必至として、行革の推進、公務員の定数削減などを主張している。諮問機関の報告であり、論議を起こそうという意味だろうが、地方分権の推進や高齢者福祉の充実が求められる折から、一定の分析・評価をする必要があると思われる。
特に、この財政審報告が出される3日まえに厚生省は昨年95年の人工動態統計を発表し、出生数が過去最低の118万7千人に、また出生率も1.43と過去最低となったこと報じており、年金・医療など社会システムへの不安を掻き立てる中で、この報告が出されたことは意味深であろう。

<行革推進の橋本政権を援護>
中間報告では概論的に財政赤字の削減方策について考え方をしめし、財政審白書は具体的な項目をあげて、財政赤字削減方策を示そうとしている。
中間報告だが、高齢化社会の進展により国民負担率は急上昇するのは必至として、歳出抑制・財政再建の手法について年内に目標を設定すべきだと。そこで議論されているのはアメリカ方式の「2002年までに財政赤字をゼロ」にする方式か、EUの「97年に単年度財政赤字をGDP比3%以内に」という方式か、ということだが、両論併記となっている。財政赤字ゼロのためには毎年5%の歳出実質減が必要との試算も示されている。
さらに、財政に頼った景気刺激策への慎重論と、行革の推進を内容としている。
すべての結論は橋本政権に預けているわけだが、「行革推進」をカラーとする橋本首相を援護しているわけだが、財政審の豊田会長(経団連)は、同時に「増税なき財政再建を思い出す必要があり、安易な増税ではなく、歳出削減で再建すべき」と増税については釘を刺している。

<年金・医療などサービス低下>
これらの要点を具体的に各分野に当てはめたのが「財政審報告」ということだ。正式名称は「財政構造改革白書」である。
まず、医療保険制度については、97年度に抜本的改革が必要と以下の点を上げている。薬価の公定価格制度の見直し、診療報酬の出来高制から定額制への移行、保険改革では政府管掌健康保険などの公的保険の対象を「基礎的な医療サービス」への給付に限定し、自由診療を拡大、結果として国民の自己負担を増やす、というわけだ。また、公的介護保険制度についても、民間企業の活用でサービスを充実すべき、としている。もちろん、97年度中に結論は出せるはずもないが、「国民の負担増」で乗り切ろうという意図ははっきりしている。
さらに年金では、年金給付水準の引き下げを示唆し、「経済的に豊かな高齢者への公的年金の給付の制限」なども検討課題とした。

<教育でも自治体・国民負担増>
教育・研究分野については、大規模研究プロジェクトの見直しなどとともに、公教育・義務教育についてはかなり踏み込んでいる。教科書の無償配布について全体では400億円必要だが、児童一人あたりでは4000円程度であり、各家庭での教育費が年間25万円程度になっているので、有償化しても過度の負担にはならないと教科書有償化を検討すべきとし、教職員の給与の1/2を国が負担する現行の国庫負担制度についても、任命権者である自治体が全額負担すべきと国と地方の役割の見直しを求めたりしている。
旧国鉄債務についても、現有の土地等を売却しても20兆円の赤字は必至として新幹線利用税(?)など「一定の国民負担が必要」と利用者の負担増に言及しつつ、整備新幹線問題については、橋本政権の動向にも配慮したあいまいな表現となっている。
その他、防衛費、ODA、公共事業などにも触れているが、やはり医療・年金・福祉などのサービスの低下に一番の即効性があるというトーンになっている。

<地方分権はどうなるのか>
そして最後は、行革の推進と公務員の削減ということになる。国家公務員の定数縮減と地方公務員の定数を適正化せよと。こうして見てくると「国家財政の再建」という課題が重大な政治争点になるであろうことは明白である。鳩山は一旦郵政事業の民営化を出したが全逓の意向も配慮してトーンを下げたと報じられている。一方で具体的日程に上っている消費税5%のためにも「行革推進が形だけでも進めない」と橋本政権は命取りになる。 あくまでも国家財政ということだが、国の負担の減と地方の負担増という構図が見え隠れしており、年末に出てくる地方分権委員会の最終報告との関連では、財政再建下の「地方分権」論議は極めて厳しい環境にある、と考えるべきであろう。不良債権問題、消費税、地方分権、財政再建問題が複雑に絡み合う中、いつあってもおかしくない総選挙を前に早急に新党・民主改革派の側の整理が必要と思われる。(続く)

(紙面と時間の都合で、今月号はここまでと勝手にさせていただきます。以後少し状況は違いますが、財政が危機的状況といわれている大阪府の動向分析、また、7月に日経新聞が連続の主張として掲載した「行財政改革ゼロからの出発」シリーズ、さらに地方分権委員会の動向、そして新党論議と行革政策と繋げて考えていきたいと思っています。同様の問題意識の方も投稿していただければ幸いです。 1996-08-18 佐野秀夫)

【出典】 アサート No.225 1996年8月24日

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