【投稿】総選挙への突入-問われる連立の政策

【投稿】総選挙への突入-問われる連立の政策

<<戦後最低の投票率?>>
いよいよ10/20の総選挙に突入した。その結果は、直前直後から始まるであろう政界再編成を必至のものとさせることは間違いない。それは、冷戦体制崩壊後のいまだ不安定な政局、自民党単独政権から連合政権への移行、細川、羽田、村山、橋本とめまぐるしく政権交代劇を演じた日本の政治の新しい再編成に向けて、一段階を画するものとなるであろう。
しかしそれにしては、なにかしら盛り上げに欠ける進行状況である。人々は進行中の政変、再編劇を実にシニカルに、冷笑的に見ているとも言えよう。候補者調整のドタバタ劇、「節操も仁義もない」鞍替え、お国替えの続出、いとも簡単な政党間の転身から衣替え、中曽根氏などの「終身一位議員」の誕生、小選挙区制にともない投票するに足る候補者がいない、似たりよったりの「行革選挙」の大合唱、等々がいっそう拍車をかけているのである。
10/1付け朝日新聞の世論調査によると、「投票に必ず行く」と答えた人は64%である。前回93年総選挙の時は、76%の人が「必ず行く」と答えたにもかかわらず、実際の投票率は戦後最低の67.26%だった。昨年の参院選前、6月の調査では「ぜひ投票に行きたい」と答えた人が57%だったが、実際は45%であった。今のままでは、投票率が50%を割った昨年夏の参院選並みか、戦後最低の投票率になりかねない事態である。

投票する政党 小選挙区 比例区  好きな政党    選挙後の政権には
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自民に    19%    20%    28(24)%      自民中心の連立を 41%
新進に     7     7     7(14)       非自民連立を    16
民主に      7     9     9          自民単独政権を  11
社民に      2     2     5( 6)       非自民単独政権を  17
共産に      4     4     3( 4)       その他、無回答   15
さきがけに    1     1     1( 1)       ——————
決めてない    43    40     31(41)=なし
他、無回答    17    17    16( 9)       ( )は96/3調査
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今度の衆院選に       投票に
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大いに関心がある 24     必ず行く    64
少しは関心がある  50    できれば行きたい  24
関心はない     24    行かない      7
他、無回答     2     他、無回答     5
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民主党へ        消費税問題
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期待している  33   重視する    66
期待していない 51   重視しない    23
他、無回答   16   他、無回答    11
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<<靖国参拝と「民主党の歴史認識」>>
それでも政界再編成のキーポイントとなる変化の芽が大きく浮上してきていることには注目すべきであろう。民主党と消費税問題である。
民主党へは、3人に1人が「期待している」と答え、「民主党に投票する」は小選挙区では新進と肩を並べ、比例区では新進をも上回り、社民党、さきがけ、共産党を引き離している。日経新聞調査でも、「投票する党」は自民が22.4%、民主党が7.8%、新進党が6.5%であった。連合政権成立の鍵を握る可能性が、登場したばかりの民主党にもたらされているのである。
当初、自民党は、加藤幹事長とは別個に、梶山官房長官が「有事では社民党より新進党が近い」として有事法制整備などについて「改革大連合」構想をぶち上げ、新進党との保・保連合構想を前面に出し、自民党の公約にわざわざ「靖国神社への公式参拝の実現」、「尖閣列島、竹島の領有権」をいれるという異例の対応を行った。これに対して韓国外務省は10/1、自民党がこうした公約を掲げたことについて「政権与党の自民党が韓国固有の領土である独島の領有権を主張し、前例のない選挙公約として表明したことは公党として無責任な態度」であると指摘し、靖国神社公式参拝についても、「侵略戦争を正当化するもので、受け入れることができない。今後とも断固として対処していく」という論評を発表するに至った。今年7月現職首相としては11年ぶりに靖国参拝を強行した橋本首相もこれには釈明せざるを得ず、与党と政府は別であるなどと消え入らんばかりである。
これに対して民主党は、今回決定した基本政策の第一に「民主党の歴史認識」を掲げ、その中で「日本社会は何よりも、アジアの人々に対する植民地支配と侵略戦争に対する明瞭な責任を果たさずに今日を迎えている。21世紀に向け、アジアと世界の人々の信頼を取り戻すため、アジアの国々の多様な歴史を認識することを基本に、過去の戦争によって引き起こされた元従軍慰安婦などの問題に対する深い反省と謝罪を明確にする。そうした過ちを再び繰り返さないための平和アピールを全世界に向かって発信する。そして過去の重荷がアジアをめぐる現実の諸問題に対する認識や対応に曇を生じるようなことは、厳に戒めなければならない」と明記している。
自民党や新進党が連立のパートナーとして民主党を取り込もうとする際には、このことは無視しえない重要な政策的柱であり、民主党自身もこれを踏み外すことは自己否定になるものであろう。

<<「実行できなければ議員を辞職」>>
一方、新進党は、10/2に選挙公約を発表したが、その中で「消費税は3%に据え置き、さらに所得税・住民税を半減して来年から18兆円の大減税をする」、「大胆な行革と規制緩和で経費20兆円を削減」、「公共料金を2~5割引き下げます」を打ち出した。これを発表した小沢党首自ら「これは単なる公約ではなく国民との契約。契約不履行の場合は法的責任を問われる」として「実行できなければ議員を辞職する」と大ミエを切ったのである。言やよしである。ただし「単独で過半数をとったとき」という条件付きである。
この公約では、小沢氏自らの持論である、消費税10%、自衛隊海外派遣、憲法改正には一切触れずじまいであった。94/2、当時の細川首相は3年後に消費税を7%に引き上げるという国民福祉税構想を打ち出した。昨年暮れの新進党首選で小沢党首は「消費税率の10年後10%への段階的引き上げ」を公約した。その公約を守っていれば、来年3月には消費税は7%になる予定であった。今回の公約とは天と地の開きである。「細川、小沢両氏は『あれは間違っていました』と国民、党員に謝罪し、どこをなぜまちがえたか、きちんと説明する義務がある」(10/3日経社説)という主張は当然の要求といえよう。
菅・民主党代表が、新進党のこの公約について「財源をどうするのか明らかにすべきだ。赤字公債の発行か消費税アップかはっきりしてほしい」(10/5)と述べ、山崎・自民政調会長が「小沢新進党と保・保連合をすることは100%なくなった。総額18兆円の減税をするといったが、これくらい国民をだます手はない。全く無責任だ」(10/5)と呼応している。
しかし一方で菅氏は、「与党になることも選択枝の一つだが、場合によっては西岡さんのところ(新進党)とも同じやり方をすればやれるかもしれない」(9/29読売)とも述べており、西岡・新進党幹事長は「(民主党との選挙協力について)政治を少しでも変えることにつながる、ということでは想定し得る」(10/5)と呼応している。市川・新進党常任顧問は「民主党は新進党と組むしか生き残る道はない」と断言している(9/30)。小沢氏は創価学会の支援なくしては当選し得ない鳩山邦夫氏を仲介役にして、民主党を丸ごと抱き込もうと画策しており、総選挙後は由紀夫氏を首班に指名して第二の細川のように操ろうという魂胆であろうと憶測されるゆえんでもある。まことに妖怪出没、ちみもうりょうの世界である。
そういう意味では、これまでの与党としての政策も責任もかなぐり捨てて、土井たか子衆院議長を選挙戦の看板に引っ張り出すために「消費税の論議の白紙化」という土井提案を受け入れて、消費税論議を選挙の一大争点に浮上させたことは評価できるともいえよう。しかしあまりにも遅きに失したのではないだろうか。

<<「行革の断行」と大蔵解体>>
各党は「行革の断行」ではこれほど一致していることはないほどである。しかしこの行革ほど、誰からも信じてもらえていない政策はないといえよう。そこでより過激になり、現実とは遊離した政策の空疎な競い合いが展開される。
自民党は、中央省庁の再編成について、22省庁を「半分程度に削減する」とうたった。これに負けじと新進党は「最終的には10省に再編成」と提案、民主党は「8つの分野区分をベースに再編」、という具合である。特徴的なことにどの提案も具体名を上げた大蔵省や霞が関諸官庁の解体・再編計画を示していない。
新進党は所得税、法人関係税などの18兆円減税を、行革を通じた20兆円以上の行政経費の削減、税収増でひねりだしていくというのであるが、どの分野をどのように削減すれば、20兆円も浮かせることができるのかという肝心な点はぼかしたままである。ましてや軍事費の削減には触れようともしていない。
しかしそれでも、政官財癒着の結節点となってきた官僚機構の大改革に取り組むチャンスが到来していることも事実であろう。肥大化し機能不全に落ち入ってきた無責任体質は、住専問題における大蔵省、薬害エイズにおける厚生省に象徴的である。建設、環境行政もしかりである。上げ出せば、キリがないほどである。そしてこうした事態を助長し、情報公開を拒否し、絶えざる腐敗と癒着を繰り返してきた族議員が与野党を問わず強固に存在している。大蔵省はその頂点に位置している。これを解体し、全く新しい形に再編成することは、納税者の権利を確立し、地方自治を拡大する上でも決定的と言えよう。大蔵省も狼狽するに至った各党の大蔵解体・再編提案を具体化させ、情報を公開させ、監視することが緊急かつ可能な課題となってきたのである。

<<民主党への「期待と不安」>>
民主党のインターネット上のホームページには、「市民との対話・討論を実現する」ことをめざした「フォーラム」のコーナーがあり、そこには数多くの意見が寄せられている。その一端を紹介しよう。
●「前回の選挙で、日本新党に投票した者です。日本新党はその後どうなってしまったのかを考えてみると、我々の意見としての投票結果が非常に軽々しく扱われてしまったことが分かります。若い人、都会の人は甘くないです。シビアに見てますよ。というわけで、ちょっと期待してます」
●「内容はかなり期待できると思ったのですが、政治家に対する不信感のせいか信用しきれない部分があります。私は社民党支持でしたが、今回は決して社民党にだけは投票しないでしょう。日本、そして日本の労働者をどうするか、考えてないと見えるからです。民主党には期待しています。」
●「基本政策は違和感ないです。が、旧体制がやられてこまるような政策がなければ「市民が主役の」政治になんか、移行できないはず。薬害エイズでは、それができたからこそ、国民は拍手喝采しました。「どきっ」とする、政策待ってます。」
●「既成政党には正直幻滅しており、民主党には期待してます。しかし、選挙まで時間がないからといい加減な候補を立てないよう注意して頂きたい。」
●「いろいろごたごたはありましたが、考え方が180度違うと思われる船田氏や、あきらかに選挙対策と思われる社民党丸ごと参加にならなくて良かったと思います。選別、結構ではないですか。とにかく、変に妥協しないで下さい。」
●「物心ついてからずっと社会党ファンで選挙ではずっと「社会党」しか書いたことがなかったのですが、今度の選挙では初めて「民主党」と書きそうです。まだ「書く」と断定できないのは、「社民党」丸ごとの是非はあるのでしょうが、もう少しリベラル勢力の大同団結が出来なかったのか残念に思い、若干ながら「社会党」(その残り滓の「社民党」)に後ろ髪を引かれる想いがあるからです。」
●「大変、民主党に期待しております。パワーを持つためには幅広い結集が必要だと思います。さきがけの分裂、社民党の分裂は大変残念です。今後も、合流への努力を続けて下さい。地方選挙での共産党の躍進でも分かるように、有権者は、自民党も新進党も支持していないのです。また、いまの政権に対する野合政権という批判は当たらないと思います。ですから、その主犯とか言われる人を排除(選別)することは、民主党にとって大変マイナスだと思います。選挙に勝利して、ぜひ行革を断行して下さい。」
ここには、期待と不安が率直に提起されており、今回の選挙を通じて、またその後の事態の展開の中で、これにどのように応えて行くのかが、「未来への責任」を掲げる民主党に鋭く問われているといえよう。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.227 1996年10月12日

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