【投稿】住民合意の被災地復興はできるか

【投稿】住民合意の被災地復興はできるか

阪神淡路大震災からの復興が急がれている。しかし、その手法を巡って行政と住民との間でコンセンサスが取れないままに進んでいるように思える。目立つ手法は区画整理や再開発手法である。私も都市計画に関わる仕事をしている関係もあり、復興手法をめぐる問選について私見を述べさせていただきたい。

<政府が復興特別法を制定>
政府は2月17日被災地復興に向けて5つの特別法を閣議決定している。国税・地方税に関する臨時特例に関する法案、復興対策本部設置などの法案の他に、「被災市街地復興特別措置法」がある。内容を十分に見ていないが、市街地の復興のため、従来の制度に特例的な支援策を盛り込んだものと考えれば良い。例えば被災者には所得制限を綾和して公共住宅への入居を認めるとか、現に存在しない消失した建物の補償を事業参加すればできるようにするなどの特例が盛り込まれている。しかし、行政側の「復興計画」に対しては、根強い住民不信があるのも事実だ。都市計画決定によって、その地域には今後提案されてくる具体的な計画への賛否の権利は留保されているとは言え、建築制限がかかり個人が勝手に建築する事が法律的に規制されていくからである。

<課題が山稚み—住宅の再建>
進行している過程を整理すると、まず倒壊した建物の解体撤去が問題となる。震災直後から解体等の作業が始まっているが、まもなく地震から2カ月になろうとしている現在も、解体撤去作業は先が見えない状況にある。
戸建て住宅では順次進むと思われるが、特に集合住宅では複雑な権利関係、家主と借家人との関係など、解体そのものに着手する前に解決すべき問題が多く、現にトラブルが多数発生している。
特に古い建物では、新たに建築する場合に容積率などの規制で従来の建物の延面積が確保できない場合があったり、新築住宅では以前の家賃ではすまなくなり大幅な家賃の引き上げが予想され、借家人には厳しい現実が待っている。
一方、高層マンションなどでは、権利関係が複雑で、区分所有法に基づく所有者の合意が前提となる。特に権利者が死亡している場合など、財産の相続人の確定など、手間のかかる作業と言える。神戸市内だけでも1000棟を越えるマンションが倒壊・損傷を受けていると言われ、事態は重大である。
個人住宅、マンションなどに共通しているのが、補強工事、新築工事費など費用負担の間遭がある。住宅ローン返済中の建物が倒壊した場合、新築すれば2重のローンとなる。倒壊したマンションなどの新築費用は工法的に通常の2倍の費用が掛かると言われており、2重以上のローン負担が待っている。マンションは日本では戦後建築が始まり歴史も浅く、従来からマンション立替は、震災前からでも問題を指摘されてきた。震災の混乱もあり、所有者内での合意には国・自治体の支援策が明らかになっていない現状ではさらに時間がかかると思われる。

<都市計画案は示されたが>
神戸市の例を取ると、特に火災により低層の木造住宅が面的に焼失した地域などを中心に、区画整理事業5地区地区(約1ha)再開発事業2地区(約26ha)地区計画1地区(約70ha)の合計8地区(約221ha)で「防災モデル都市」をめざして実施する都市計画案を2月21日にまとめている。
建築基準法による建築制限が切れる3月17日までに「都市計画決定」を行おうとしている。震災から2カ月で復興プランを確定しようというわけだ。同様の計画は西宮市は4地区、芦屋市は2地区で進めることを決めている。
しかし、毎日新開によると神戸市の森南地区の地元組織が、同地区の住民約3200名の内2800名の反対者名を集めて、都市計画案の見直しを求めて陳情を行った。また神戸市を中心に地元住民が都市計画案の見直しを求めて住民連絡会議を3月9日に行っている。
都市計画法に基づく縦覧(権利者に計画内容を公開する)が始まったが、住民からは「計画の説明が不十分」「住民の意見を開いていない」など、急ぐ行政の動きに、訴訟も含めた反発が続いている。

<区画整理・再開発とは>
区画整理は、一定の区域を決めて、広い道を確保し、従来の地権者の土地については、土地価格に応じてあたらしい整形の土地を配分する手法である。新しい道の土地は、それぞれの地権者の土地を少しずつ負担してもらうわけだ。特に震災に強い街がうたわれているため、火災の延焼を押きえる道路・公園の確保は当然の必要ではある。空地や畑などが少ない市街地の真ん中での区画整理事業となると住民のコンセンサスはなかなか難しいのが現実である。
次に再開発法による再建策がある。都市再開発は、前述の区画整理が土地に関わる都市改造の方法だとすれば、これに建物も加わると考えればよい。この法律の前身は防災街区整備法で、木造の建物から耐火建築物へ、さらに広い道を確保する手法であり、この法律が高度経済成長の時代に、容積率の綾和、建物の高度利用を主眼に改正され、列島改造論やバブル時代に民間活力導入のかけ声で大きく事業地区を延ばしたたものである。
この手法は、バブルが終わり経済環境が変化する中では、全国的に困難に直面している事業手法である。民間に活力がない中でこれまで以上の行政投資が行われない限り通常は事業成立は厳しいと言わねばならない。災害復興資金がどれだけ投入できるか、まだわからない。

<急ぐ自治体、とまどう住民>
上記の二つの事業は、通常地元合意形成や資金問題など5年や10年は準備期間が必要とされる。災害復興だということでわずか2カ月で都市計画決意という早さには、拙速の非難を免れない。
これまでマスコミは、関東大震災の直後、東京市長後藤新平は内務大臣となり、即座に帝都復興計画を精力的に打ち立てたことを例にして、一日も早い復興計画が必要と主張していた。ほとんどが木造平屋であった大正時代、基本的人権も不十分だった旧帝国憲法下での対応を現代に当てはめていいものか。住民の権利意識も高く、地震体験を共有した住民・行政の十分な話し合いの積み重ねの手法こそ、人と建物、一体となった「防災の街」が生まれるための大切な過程である。
現在はあくまでも「都市計画決定」の段階であり、都市決定されたものが必ずしも実現するとは限らないが、地域を拘束することは間違いがない。住民の不安もそこにある。
神戸市など阪神地区は、従来から再開発事業が数多く進められており、行政側の人材含めて体制は良い方ではあろう。しかし、神戸市株式会社の都市経営に批判が起こり、住民との合意形成に手を抜けば、形は防災都市でも、人の住まない都市になっては、復興の意味がないことを忘れてはならないと思う。(佐野秀夫)

【出典】 アサート No.208 1995年3月18日

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