【投稿】青島・ノックの当選がもたらすもの
統一地方選挙の前半戦が終了した。この号が読者の手元に届く頃には、後半戦の結果も明らかになっているだろう。前半戦で最も特徴的だったのが、東京都知事選の青島幸男氏、大阪府知事選の横山ノック氏の当選である。マスコミは「政党政治の限界」「無党派層の怒り」などとさかんにはやしたてているが、事はそう簡単なものではない。確かに、既成政党への不信、それによる「支持政党なし」層の増大は事実である。新党ブームも、細川をはじめとしたリーダーたちの「裏切り」と小沢ー新進党への収えんによって、冷えきったどころか、さらに政治不信を起こすという結果になった。連立政権という実験は、新党ブームの終わりと社会党のふがいなさによって、明らかに失敗に終わったが、今回の統一地方選挙の結果は、第3極としての民主主義ーリベラル政党の登場の遅れを横目に、地方自治体からの新たな実験の過程として、今後の行方が注目されることとなったのである。
なぜ、青島、横山両氏が当選するに至ったのか。マスコミや学者によって様々な分析が行われているし、おそらくアサートのこの号でも、どなたかが分析しておられることであろうから、詳細かつ正確な分析はおまかせすることとしよう。ひとつ言えることは彼らは依って立つ政治基盤や市民運動の基盤があるわけではなく、未だ得体のしれない「無党派層」なるものの選択肢なき選択によって選ばれた、言わば消極的当選だった。そのことは今後の両氏にとって、立場にとらわれることのない自由な政治的活動の担保になる一方で、脆弱な基盤による指導力の弱さ、政策実現能力の弱さをもたらすことになるだろう。これからの両氏の活動はどういったイメージになるのか、何をもたらし、何を変えることができるのか、考えてみたい。
まず、彼らが登庁して真っ先に問題となるのは、地方官僚たちとの関係である。いかに彼らが政策を提起しようとも、それを具現化させるのは官僚たちである。長いオール与党の保守・中道路線の知事に慣れてきた職員たちがどのような対応を見せるのか、また、両新知事が職員達をどう使うことができるのか、これからの具体的な活動のたびに問題が生じてくることになるだろう。臨海副都心ー都市博問題、関空全体構想ー負担問題などで、さっそくこれまでの既定の方向性とのギャップがでてきている。地方行政のプロ集団である地方官僚たちは、これまで蓄積されたデータや行政ノウハウをフルに活用して、新知事の説得にあたることになるだろう。マスコミはさかんにお堅い頭をもった役所に新風を吹き込め、といった形で煽ってはいるが、無理矢理にトップダウンで政策を決めていくことが良いやり方とはいえない。いかに折り合いをつけていくか、官僚たちにとっても、これからはこういった形での知事や行政体制が普通になってくるかもしれない時代に、柔軟な対応、懐の深さが求められているのだろう。
次に、オール与党からオール野党に転じた議会との関係である。先に述べた地方官僚をも含めて行政側ともちつもたれつ、自分たちの利害を実現できる長年の関係をつくりあげてきたわけであるが、これからは緊張した場面も多々見られることになるだろう。しかし、提案された予算案や条例案を次々に否決するというような全面対決の姿勢は、相手が共産党首長とは違い、広範な市民から人気のある彼らにはあまり取りにくいのではないかと思う。ミエミエの足引っ張りは、自らの支持者からの反発も十分にありえるからだ。地方官僚と結びついての「知事いじめ」に終始することなく、政策立案ー立法機関としての本来の議会機能を発揮するよい契機になることを期待したい。
職員組合との関係も重要になってこよう。連合結成以来、東京、大阪とも複雑な組織問題を抱えている中で、新知事が対応していくのか。とくに大阪では、大きく二つに分裂している状況にあって、「土・日の府民サービス部門の開庁」というこれまで築きあげてきた週休二日制の成果とは違う方向の労働条件の大きな変化をもたらす打ち出されている。これまで自治労としても与党勢力を構成する一員として、自らの政策を実現させてきていたわけであるが、民間や市町村にまで波及しかねないこの問題にどういった対応をしていくのか、今後の労使関係にもかかわっていくだけに重要な問題となるであろう。また、連合としても、中川引退表明の遅れが選挙体制の遅れにつながり、このような結果になったのだという連合責任論が根強く残っている中で、平和ー健康ー福祉、弱者の立場に立った府政を叫ぶ新知事に対して、「福祉のまちづくり条例」を実現させたような具体的な政策提起をしていくことによって、挽回していかなければならない局面だといえよう。
さらに、財界や運動団体を含めた外部勢力との関係をどうしていくのか。ゼネコンとの関係など、しがらみのない広範な人気をバックに整理していけばよいだろうが、実際に地方官僚が末端で関係を維持していたことが発覚した場合、いかなる決断がくだせるのか。また、運動団体との間で築き上げてきた行政の責任を十分に踏まえることができるのか。景気対策や福祉ー人権対策を進めていく中で、様々な問題が生じてくることになろう。
公約の中で注目されるのは横山ノック氏の「外国人の参政権」の問題である。最高裁判決や多くの地方議会の意見書の採択というここ最近のムードの盛り上がりの中で、単なる選挙用の宣伝に終わるのか、実現に向けて積極的に動くのか、彼の人権感覚が問われている問題である。
以上、彼らの当選以来思いついた課題をあげてみた。何せこういった事態には不慣れな我々である。連立政権の誕生以来「何でもあり」の時代になってきたといってみたものの、予想を越えた事実を前に、この変化の時代にまだまだ想像力がついていけていないことに情けなさを感じてもいる。ともあれ、「ミニ開明君主」では限界のあることは革新自治体の崩壊によって証明されている。具体的な政策活動の展開によって、両新知事を地方分権の時代を切り開く武器としていけるのかどうか、お手並み拝見といった無責任な客観的な見方ではなく、主体的に関わっていくことが重要になってくるだろう。
(江川 明)
【出典】 アサート No.209 1995年4月18日