【書籍紹介】「政治改革」
岩波新書 山口二郎著 ¥580 93年5月発刊
<造反議員を批判 若手の政治学者>
すでに昨年5月に出版されている本書ですが、最近著者本人の講演を聴く機会があったので、その印象も含めて紹介します。
著者は、北海道大学教授の山口二郎氏。35才という若手政治学者である。その講演を聴いた印象は、非常に若く、新しいタイプの学者だということです。私は氏の講演を聴いていて、何よりも社会党左派への心情的な肩入れが皆無である点が非常に新鮮でした。
参議院での社会党内左派と称する造反議員が展望もなく、与党案に反対したとき、山口氏は2月8日の日経朝刊の経済教室でも「・・・・・・同時に浮かび上がったのは、社会党内の造反派の責任である。彼らは政府案を葬ることによって、結果的に自民党案に近い制度改革の実現を助けた。・・・55年体制のもとでは、社会党は役割としての反対に専念して結果を考慮する必要がなかったが、今では反対のもたらす結果を引き受けなければならない」と痛烈に批判されています。私も同感です。
<政治をどう考えるか>
「政治を理念や理論の実現のため、たとえ小数でも主張し続けるのか、大多数の国民の利益の一歩の前進をめざして妥協も含めて決断していくのか、私は政治の仕事は後者だと考える。」講演の冒頭、山口氏は切り出した。非常にすっきりした論法である。
著書の中では、政治腐敗の原因は選挙制度だけにあるのではなく、また政治家の倫理の問題だけではなく、「政治腐敗を根元から断つためには、規制や助成のさまざまな政策の立案・実施の過程、それらの政策を生み出す行政や統治の構造にまで踏み込むことが不可欠となる。そして、政治による社会に対する利益配分の政策が政治家による私利私欲の追求の舞台とならないような工夫・・・責任追求を容易にするための工夫を考えることが必要となる」という出発点から論を進めている。
腐敗が起こる要因を「政策的要因」「行政的要因」「政治的要因」に分けて分析し、必要な改革と、それをどう進めるかを明らかにされている。
<地方分権と情報公開、対抗政党が必要>
特に小選挙区制との関連で、山口氏が論じているのは、地方分権を伴わない小選挙区制は、腐敗を助長する危険が大きいため、財源・権限など地方分権を進めて、中央の政治が関与する範囲を狭めることが必要だということ。
また、日本の政党政治は確立してこなかったと指摘されている。腐敗した政治家や誤りを犯した政治家を政党が断固処断する規律がない、政党の政策と反対のことを主張して当選する政治家が多いなど、国民が選ぶのは政治家個人ではなくて、政党を選ぶことだという原則を確立することが必要であり、そういう政治環境の中での政策と権力をめぐる政党間の競争が行われるような政党のあり方、政治のあり方が必要だと主張する。
また、法律は国会で決まるが、通達や許認可に代表される行政府の裁量に属する官僚の権限についても、一部政権政党との癒着というものが腐敗の温床になるとして、行政・政治の情報公開のシステムが必要になること。
<社民リベラル勢力の再編成が必要>
社会党が野党であり続けてきたのは、戦後革新運動の中心であったこともさることながら、国会のシステムが反対政党の存在を際だたせるものであったこと。それは、国会の会期が非常に短く、審議未了案件は廃案となるため、野党の戦術が政策論争より審議拒否や議会内の駆け引きとなり、政権交代が起こらないという前提の下で、政権党から一定の譲歩を引き出してこれた。こうした構造の終末が国対政治というものになった。
政策政党、対抗政党としてすべての政党は、出直す必要があるという主張になる。
「・・・国会改革の基本的な方針としては『国会は政府に対する抵抗の場だけではなく、政党間の相互批判と政権党の鍛錬の場へ』というスローガンを導き出すことができる」
そこで、社会党を含めた政界再編にあたっての政策的分水嶺が以下の2点にあるとされる。第1は、対外政策における政治大国派かネオ護憲派か、第2は国内政策における自由放任か公共性かである。
社会民主主義とリベラルとの結合による社民リベラル政党の創出に社会党は取り組み、政治のイニシアチブを握るべきだ、という主張である。
<新しい社会党のブレーンとなるか?>
実は、氏の講演を聴く数日前、昨年5月にすでに購入していた本書をもう一度読み返してみた。歴史的な93年7月の総選挙の前に書かれた内容だが、政治改革に具体的で明快な主張であること、社会党が陥っている袋小路の原因と、今後の問題についても明確な提起が含まれていることなど、改めて認識した次第です。(佐野秀夫)
参考図(政策的対抗軸と政党再編)
政治大国(実質改憲)
↑
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自民党 | 小沢新党
守旧派 |
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公共性 ←―― |-----→自由放任
保守本流 |
さきがけ|日本新党
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社民 |
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↓
ミドルパワー(ネオ護憲)
【出典】 アサート No.195 1994年2月15日