【投稿】不況を理由とする解雇問題と労働組合
この不景気にわたしの身近な人たちの中でも解雇や派遣の打ち切り、出向や配転という詰もあり、また組合つぶしを狙った大倉産業の工場閉鎖など経営側の「この機に」とばかりのやり方も目につくほどです。わたしの参加している地域ユニオンでもこの間、数件の解雇をとりあげ、業績不振で支店を閉鎖した個人商店(15年以上パートタイム、実情はフルタイムで勤務)を手当なしで即日解雇された女性ではユニオンに加入して交渉し、解雇に対する謝罪を実現して解雇予告手当・退職金・解決金を獲得したものもありますし、公務関係の20代の女性の件では労政事務所を通じ解雇を撤回させるが本人は精神的に落ち込み自己退職して帰郷してしまうなど、残念な結果もあります。 A社は大手電機メーカーで、この夏1千人規模の人員削減計画が公になった会社です。実はこれは社内通達よりもマスコミにすっぱ抜かれて、あわてて社内での説明があるという事態だったようです。それが実際11月下旬にやっときちんとした計画となって社員に示され、わたしの友人の職場50人中5、6人を出向させるという内容だったようです。一応期間は1、2年ということらしいのですが、これを信じている社員はほとんどいないようです。組合は何をやっているのかというと、職場の執行委員は職制からその話を聞くまで知らなかった、労使協議会でも議題にのぼらなかったということです。これが大手メーカーでの経営と労組の実態です。一般組合員は何にも知らないで、一部で確かに「協議」されているのでしょうけれども、民主主義のかけらもないわけです。こうなると社員は身構えて、ひとりひとりが猜疑心と不安でいっぱいになってくるわけで、組合は何の存在感すらないのです。
前述の執行委員氏と私の友人は、バブルに乗じて見境もなく大量採用しておいていまさら出向とは何だ、会社・人事部の責任はどうなんだ、と席で息を巻きました。(A社は、90年以降、大卒だけで、毎年1000人前後を採用した)が、それが大きな声にはなっていかないようです。
ちなみに、民間で資本が武器にする「解雇」は公務員にはない。「退職」はもちろんある。一般的な「社内調整」といわれる人員合理化には希望退職、配転、出向(子会社、関連企業へ)などが行われ、グループ内で調整が行われますが、これにともなって下へ下へと「あまった人」がはじきだされるわけです。
大手電機メーカーのH社では、生産調整でヒマな時間を消化するため1週間もかけて運動会を行い、運動会での成績が「査定」<首切り>になるというウソのような詰もある。
これまでの経緯からして、また今回のバブルでは顕著ですが、儲けはすべて資本の元に、そのしわよせと矛盾はすべて労働者側へというやりかたです。昨年末の一時金闘争を見ても、バブルピーク時の一昨年の状況と経常利益や売上高を比較して、経営状況が悪いのは当然であって、それだけで労働側へのいわゆる「成果配分」にすらおほつかない回答(現物支給)で「妥結」されてはたまりません。さらに経営状況の悪化で、6カ月をさかのぼって残業代の削減、打ち切りが行われ、40歳近いひとでは年収が100万円もちがってきています。
それにしても、こうした攻撃に対して労働側の無力さにあらためて感嘆させられます。
「連合」としてこうした事態になんらの対処もできす、それどころか、はっきりとした「声明」すらだせない状況をわたしたちはきちんと見ておく必要があります。これが大多数の日本の労働組合の体質ともいうべき弱点です。
労働市場全体にたいしてアプローチすべき労働組合が、資本と同じ論理で、「氏名解雇」でははなく「希望退職」という首きりで組合としても「不況」を乗切ろうとするやりかたで、果たして組合員の結集が得られるのか?企業内組合という自明の「限界」や、労働組合主義という観点からしても、それ以前の問題としてまず「組合の姿勢」が問われているのではないだろうか?
「国民の政治に対する信頼をとりもどすため」…と歴代首相のことばを何回聞いたことか? どうせ金権・派閥政治は変ることがないのさ・・・と思われている。
同様に、労働組合は「解雇」「配転」「出向」問題で組合員にどう思われているのだろうか? この間題の解決のキーワードに労働組合というものは存在しない人がほとんどでしょう。
【現状を考えるためのいくつかの数字】
■雇用者数の増大
雇用者数 労働組合員数
1960年 2914万人 10147千人
1970 3662 12590
1980 4301 12418
1990 4875 12265
1992 5062 12397
●現在、15歳以上の人口は1億199万人、労働力人口は6505万人、このうち雇用者の割合は78%で約5000万人である。男女別ではおよそ男子3000万人、女子2000万人(40%)である。
●とくに雇用者における女性の比率は1970年の32%から92年には40%へと大きく伸びている。
●女性労働の変化は未婚者の減少(既婚者の増大)、年齢別では35から54歳が中心であり、このうち約7割が家庭をもつ。総務庁統計局の「労働力調査」で週35時間未満の雇用者は800万人、そのうち女子は550万人(約7割)。
●パートタイム労働者は、したがって「連合」に匹敵する数の労働者が存在する。
こうした変化は、労働者生活全般にわたり、家族構成・育児・居住などライフスタイルも大きく変ろうとしている。
(家をもてない、子供をうめない・うまない、Dinksなど) ボランティア活動、福祉活動、生協活動や地域活動、文化サークルやリサイクル運動など多様な労働者運動が展開され、社会全体でこれらの生活スタイルの変化をともなった活動の活性化が見られる。
■労働組合の組織
1992年、労働組合員数は1240万人、推定組織率は24.5%である。
組合員数における女性の比率は28%である。
注意すべきは産業別および男女別の組織率である。
産業別では 公務員72.6%
電気ガス水道60.9%
金融・保険、不動産47.6%
運輸・通信46.1%では高い比率である。
女子の割合が高い産業は 金融・保険57.1%
サービス業44.1%
卸売・小売、飲食37.6%
主要団体別では 連 合761万人
全労連 84万人
全労協 30万人
その他387万人
●いわゆる「労働戦線」問題がいずれもかたまり、やっと組織問題から運動面へと力を注ぎつつある。
いずれも「力」と「政策」を現実のものとするためにも労働市場全体へ働きかけることぬきには、未組織や中小、零細における労働条件の改善、はたらく仲間意識、公正・自由・連帯などの民主主義的な価値を具現していくことは困難である。
●現実の組織的基碇を固めつつより大きな統一的な規制力を発揮できるようその運動が問われている。
●さきの労働者生活の変化とともに労働組合の運動自身も変化を求められている。多様な価値やニーズに応じながら、同時に共通の価値を形成していくという運動と課題が労働組合の活動家に求められている。(たとえばUI運動とか)
■国際化の中で
外国人労働者問題、あるいは日本からの資本輸出と現地法人での雇用者数の増大などに見られるよう、すでに労働力自身も国際化の中であらわれている。
●世界のGNPはおよそ22兆7000億ドルであるが、そのうちアメリカが5兆5000、ECが6兆ドル、日本が3兆ドル、この世界の3極だけでおよそ2/3を占める。
発展途上国中で注目のNIESでもGNPは5000億ドルと、日本のわずか1/6である。いかにこの3極が多大な影響力をもっており、世界の諸国の「期待」と「羨望」は当然である。
●いわゆる「先進7カ国」が60年代から90年代へとめざましい発展と変革をもたらしたが、発展途上固は20年昔のままの状態が引き続いている。
●経済のグローバル化は労働力市場においても同じである。日本の労働組合と様々な労働者運動がこうした事態にどのような価値と自己革新でこたえていくのか、視野のひろい回答が必要とされている。
●今年、東京で開催されたICA(国際協同組合同盟)大会へむけたベーク報告(変化する世界一協同組合の基本的価値)では、概況次のような点が指摘されている。
協同組合へ加入する個人ないし世帯の組合員数
5億5000万(ちなみに世界人口は53億人)
アジア圏における拡大 途上国における展望
旧計画経済体制における展望
脱工業社会に向けて
協同組合のグローバルな連帯
■新たな生産調整と合理化
昨年はバブル経済のピークにあたり、をめぐる異常なまで暴騰、取引が金融株式・土地等の資産保険業界の不祥事件を引き起こしながら破綻し、企業における不良債券・資産の増加、設備投資の急減、経費の削減、景気の後退により、個人消費も減退した。
大手企業はいっせいに人員・生産の合理化計画を発表し、業再編が進行している。
【出典】 青年の旗 No.183 1993年1月15日