【投稿】がんばれ、久米宏—皇太子成婚報道—
正月ボケのせいか、初出勤2日目というのは非常に疲れるものです。公団の賃貸住宅の抽選にはずれたこともあり、グツタリと部屋でうなだれていた。そんな時に、突如弟が飛び込んできて、大声で叫ぶのでした。「兄ちゃん、皇太子の嫁はん決ったで!」「誰や?」「小和田雅子て言んや!」「ああ、聞いたことあるなあ」「ダウンタウン見てたら急に画面変わったんや、おもろいとこやったのに」 さあ、それからは恐るべし皇室報道が嵐のように襲ってきます。既に用意されているVTRをこれでもかと執拗に流し、いかに雅子さんが素晴らしい女性かを最上級のほめ言葉で、いやらしく思える程の敬語で、私たちに教えてくれます(そう言えば「ほめ殺し」という言葉が去年流行ったなあ。いや、確かに雅子さんは優秀な方だと思います。どんな考えの方かは知りませんが)。街角インタビューでの市民の皆さんの演技力には驚嘆しました。ニューハーフの登場にもびっくり。しかし、ダイアナ妃の話題を出してしまったが故に中継画面を切り換えられた外国の方には同情します(あの人は何て言ったのだろう。このとき程自分の語学力のなさが情けないと思ったことはありません)。
何だかんだと言いながら、1時間も見てしまっている私でした。時折、弟に解説してあげながら皇室報道を見るのも楽しいものです。「みんなほめてばかりで気色わるいなあ、誰か一人くらい悪口言えへんかなあ」「そんなこと言うたら、右翼に狙われてエライ目に会うんや。仮に言うても絶対テレビは流れへん。」「ちょっとでもええから、誰か文句言うてくれへんかなあ。そうや、もうすぐニュースステイション始まるやんか。久米宏やったら何か言うかな」「久米でもよう言わいんやろ。そんなことより、この時期に発表したタイミングや。自民党は国会乗り切りやすくなるで。この雰囲気やったら、野党も追及しにくくなるやろ」「そこまで考えてるかなあ」 ニュースステイションが始まりました。また同じVTRです。顔ぶれも同じ宮内庁担当デスクにハーバード大学時代からの知人の教授です。久米宏の方は、いもの軽い調子で無難にこなしています。宮内庁と言えばこの人、神田さんも嬉しそうにこれからのスケジュールを教えてくれます。(ああ、久米もやっぱりなあ)その時です。
『・・ところで話しは脱線するのですが、この日程でいくと当然解散・総選挙にも影響がありますよね』『ありますね』『そうなってくると、佐川事件の真相解明や政治改革、ウルグアイラウンド、景気対策といった大事な政治にも影響が出てくるってことですね』『でてくるでしょうね』『う-ん、そうなってくるとおかしなことになるなあ・・話しが脱線してしまいましたが、コマーシャルの後もニュースです』(ビデオに撮っていたわけではないので、曖昧ですが、たしかにこんなやりとりだったかと・・)やってくれたぜ、久米宏!必ずしも考え方に共感することばかりではなく、ややもすれば奇をてらったり、時には迎合ぎみなところを最近久米宏には感じてきたのですが、このささやかな抵抗には、素直に拍手を送ります。
嵐のような皇室報道のおかげで、貴・りえの婚約解消騒ぎはふっ飛んでしまいました。これで貴花田も大関取りに集中できることでしょう。また、山花氏の社会党委員長決定も完全にスミに追いやられてしまいました。まあ、元々スミの方に報道されていた程の盛り上がりのなさでしたが。
テレビ局には、新作のドラマを楽しみにしていた視聴者から抗議の電話が殺到したとか。ドラマファンも結構良識があります。職場でも話題にしようとネタを振ったのですが、余り盛り上がらず、皆さんくたびれた様子でした。
がんばれ、久米宏!ところで、筑紫哲也の方はどうだったのでしょうか?。私はチェックを忘れていたのですが、どなたか知っている方、教えてください。
(大阪 A・0)
【出典】 青年の旗 No.183 1993年1月15日