【投稿】エイズ問題を自分たちの課題に
現在子供たちの間で病気の子や障害者に対して、またイジメをするのに「お前、エイズだろう」と言ったりすることが増えている。これは大変問題だが、大人も会社や家庭などで同様の発言をしており、社会ではエイズ(以下HIV)感染者が医療や就職・教育面など社会生活全般で深刻な差別に脅かされている現実からすれば、それはまさに現在の日本社会の反映である。あるHIV感染者の言葉だが、まさに「感染者は病気で死ぬ前に、差別で殺されるのだ」。
日本がHIV受容に失敗した最大の原因は国内2千名ともいわれる輸入血液製剤による血友病患者のHIV感染者の処遇をないがしろにしたところにあり、現在もそれは変わっていない。国・製薬会社はその感染責任を一切とらず、のみならず国は88年に感染者に対する「隔離・管理・排外思想」に貫かれたエイズ予防法を成立させた。マスコミは血友病HIV感染者の抱える問題を無視する一方で、HIVの恐怖だけを煽り、感染者に対する差別報道を繰り返した。人権意識の低い社会は感染者に対する排外思想をあっと言う間に受入れ、それは医療・行政・教育関係者も例外ではなかった。このように新たに生み出されていった差別と人権侵害に対して野党や労働運動、その他市民運動や諸党派も無関心であった。ちなみに国と製薬会社の輸入血液製剤によるHIV感染責任を問う裁判は、現在尚東京と大阪で原告92名(既に22名が死亡)により関われている。
国際的な経験でも感染者の増大を防止するためには、感染者に対する差別と偏見をなくし医療・生活・人権保障をベースに「感染者とともに生きる社会」をつくることが決定的に重要だと言うことが明らかになっている。「正しい知識」だけでは不十分なのである。なぜなら、感染者が感染を自覚するのは検査しかないのであって、感染者が差別の対象である限り「検査を受けようと思っても怖くて受けられず、その結果新たな感染者を生んでしまう」という循環を断ち切れないからである。感染に対する自己防衛は大切だが、それだけでは「自分以外の誰かにHIVを追いやる」だけである。それが「他人ごと」である限りHIV問題の解決はない。
昨年末、感染を理由に一方的に解雇された技師が会社を相手に解雇不当の訴訟を起こした。また一方、感染者に対する医療現場での診療拒否や就職差別、通学拒否は後を絶たない状況にある。HIVは確かに現在抵抗薬がないウイルスだが、それは特定の感染経路でしか感染できない弱いウイルスである。その病態は慢性疾患の一種といってよく、感染者の日常生活はまったく変わらない。
現在私たちに必要なのは、血友病HIV感染者はじめ感染者のおかれている実態を直視しその差別撤廃と医療・生活・人権保障に向けて努力することである。
啓発や予防教育はその一環である。企業・自治体や教育現場でのとりくみが望まれる。 (大阪 Ⅹ)
【出典】 青年の旗 No.184 1993年2月15日