【投稿】国会傍聴初体験

【投稿】国会傍聴初体験

政府は今国会に「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律案」(いわゆるパート労働法案)を提出した。
6月2日(水)から6月10日の採択まで、緊急に国会での審議傍聴行動がコミュニティユニオン首都圏ネットワークでとりくまれ参加した。 2日の国会衆議院労働委員会の審議傍聴について以下紹介します。 この日の審議には多くの傍聴者がかけつけ、傍聴席はいっぱいで立っている人もいるほどで、村上労働大臣もこのような「はじめての出来事」に驚きを隠せず、多少興香している様子でした。
まず、国会審議の傍聴といいましてもわたしも初めて。案内にあった集合場所、衆議院議員面会所へかけつけました。周囲は警察官が巡回しておりそれだけでも物々しいような感じでした。(緊張してしまう) 面会所では数人ごとのグループで椅子に腰掛けており、はて誰がユニオンメンバーなのかと頭を働かせなければなりませんでした。腕章や雰囲気をうかがいながら、なんとなく女性ばかりのグループがユニオンの人たちであろうと名前を出してうかがい、メモ用紙にの名前があるのを確認するとホットしました。
国会傍聴には傍聴券が必要です。これはユニオンの方で紹介議員を通じて前日に準備されておりました。傍聴券には住所と氏名を明記する必要があります。傍聴券を提示して委員会室のある建物へ入ります。エスカレータをおりて傍聴者の受付へ向かいます。委員会室にはメモ用紙程度のもの以外はもって入れません。
ここで簡単な身体検査を受け(ポケットの中身を全部出す)ます。所持品はロッカーがありそこへ入れます。ロッカーの鍵は自分で持てます。
さてこのチェックがすみますと、いよいよ委員会室へと行けます。着いたときにはすでに審議が始まっておりました。委員会室は図のような形式で、傍聴者は一番後ろに並んだ席に案内されます。政府委員、大臣、議長、速記者や事務官など、そして自民党、各野党の席、そして記者席、それから傍聴席です。
委員会室には歴代の労働大臣らしき人物の絵が周囲に飾られていました。
傍聴席は椅子だけで机も何もありません。メモを取るのも容易ならぬことです。それに比べ、各委員の席は机もありますし、喫煙もできるようですし、のどが渇いたら水も用意されております。それに驚いたことに結構人の出入りがあって、そわそわしていることが気になりました。記者席はかろうじて机だけは用意されておりました。最後に、今回傍聴者が多く詰めかけ、立っている人もいたのですが、椅子は数多く空いているのに座らせてくれないことにはいかにも杓子定規な扱いで多少憤慨しました。こうした国会審議の形態もやはり旧態依然たる形式だと感じました。

<パート法案審議で>
今回の法案は、すでに昨年2月に野党が提出したパート法案に対して、政府側がやっと重い腰をあげ政府案として提出してきたものです。審議のなかでもこの提案する立場の違い、何を重視するのかという基本点をめぐって議論が行われました。
私は岡崎トミ子さん(30分)、岡崎宏美さん(90分)の質疑を傍聴することができました。
岡崎トミ子さんはパート労働者の役割を歴史的にひもときながらその社会的役割が今日重要な位置を占めていること、しかしながら女性問題ともいえるこのパートの処遇は一貫して差別されてきていることが指摘されていました。そして今度こそパート労働者がきちんと守られる法案を作りたいと、政府側の姿勢を正しました。対応に当たった政府委員は労働省の松原婦人局長。松原さんはいままでの労働省のさまざまなパート労働に関する調査、指導指針、勧告などだけでなく「労働省の『パートタイム労働指針』に法的根拠が与えられることになる」と政府案の意義を述べるにとどまりました。
続く岡崎宏美さんの質疑はまずこの点から行われました。つまり、この法案がパート労働者に通常の労働者と同様の均等待遇が確保されること、バブル崩壊後の経済状況の悪化の中で違反が横行する事態を見ても、不当な解雇、扱いをさせないような、パート労働者の保護をきちんとするべきで、法案の中身は最低限~してはいけないというようなものの方がわかりやすのではないかと迫りました。そしてユニオンからよせられたアンケートなどを通じてパート労働者の実体を政府側に伝え、いかにこのような不当な事態を改善するのか、政府側を正しました。政府案は「雇用管理の改善」をうたっており、法的に事業主の責任の明確化をはかること、また各地に援助センターを設置することだけにとどまり、違反者への罰則規定などについてはふれられていません。
またこの法案は「短時間労働者・・・」となっていますが、これは質疑の中でいわゆる疑似パート、フルタイムパートなども含む解釈であることが政府側から説明されました。

<参院では>
6月10日の衆院通過の後、参院の労働委員会で各党から法案についての質問があった。
大脇議員は、「現在ILOで議論が始ったばかりのパートタイマーの問題を条約にするか勧告にするかについて、日本政府が勧告でよいという意見をだしているのはどういうことか」と質問。婦人少年局長は「各国はそれぞれ多様な実態にあるから一律な条約として規制すべきではない」と回答。また、ILOから各国への質問の中で「パートの労働雇用を改善すべきか」との問いに、日本政府は「フルタイムがパートより不利になるべきではない」というナンセンスな答えをしている。「国際的なコンセンサスを労働大臣は共有しているのか」と聞くと村上労働大臣は「もちろん」と答えた。
焦点の疑似パートについては、現行のパート指針で「ふさわしい処遇」をうたっているが、その線に沿うと答えた。フルタイム以上に働いている労働者については、短時間労働者ではないので非正社員として別の臨時雇用問題として考えると回答。今回の法案はあくまでも通常の労働者より短時間の労働者を対象とし、均衡待遇(量だけでなく質も違うのでそれに見合った待遇)をするという。ファーストフード店など店長以外はみんなパートという場合、通常勤務者とは誰を指すのかとの質問には、店長であると回答した。
正社員からパートタイマーへの移行についての質問には、待遇が著しく異なる場合は問題があると回答。有期間雇用については、今後労働基準法の「改正」で期限延長も含めた労働契約法制の問題であると回答。 援助センターを民間委託にするのは問題という問いには、行政指導機関ではなくバックアップ機関であるが、労働省の責任範囲であると回答。 非課税限度額100万円の問題は、労働省の管轄外だが大事な問題なので関係省庁とも話し合いたいと思うと回答。
ILO165号条約を日本政府が批准しないのは何故かとの問いには、均等法の再就職援助が女性に限られていること、公務員の育児休業法が女性だけの通用になっていることが、ⅠLOの家庭責任は男女ともという規定に合わないためであると回答した。

<法案をつくる国会の現実>
総じて、国会傍聴をつうじて感じたのは、これまで野党が提出してきた法案とずいぶんと違う内容である政府案が、このようなたった数日の討議で通過するということに驚かざるを得ない。それを目の前で見たので、憤慨もひとしおである。
テレビで見たPKO法案もすごかったが、国会という立法府の実態がなんとも頼りない感じがした。というのも、もちろん質疑をする議員、政府委員の対応はそれぞれに、それとなりに話の筋は通っているのであり、立場や考えの違いもあるわけで、当然答弁の内容にはそれらが反映されている。だが、討議の内容でふかまった認識や法案制定の背景的なものは、やはり国会を傍聴したものにしか分らないということである。
また今回ユニオン側で様々な要請をして、そのことで質問やら答弁の内容が大きく変っていったということも、大きな成果であるが、その半面、議員は意外と知らないゾという認識も深まった。ある意味では「法案内容を専門としない人々が、実態とかけはなれたところで、勝手(もちろん選挙で選ばれた人ではある)に法律を作っている」ともいえる。せめて実効力ある法律にするならば、経営者、パート労働者を招いた公聴会などを開催し、内容をつめた法を策定してほしいものである。
全国ユニオンネットワークでは9月の交流集会(東京)にあわせ、ふたたび国会要請をおこない、パート指針の内容、援助センターとの連携なども交渉していく予定である。         (東京・R)

【出典】 青年の旗 No.188 1993年6月15日

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