【映画紹介】「病院で死ぬということ」
出演:岸部一徳・塩野谷正幸・石井育代・七尾伶子・山内 明
原作:山崎章郎(主婦の友社・刊) 監督:市川 準
インデイージョーンズのようなハラハラドキドキはない、すてきな恋愛模様もないし、ジュラシック・パークやREXにような恐竜も登場しない。とかく娯楽性を追求した映画が多い中で、この映画はとにかくまじめであるし、映画のもう一つの楽しみを、見て良かったと本当にあとで考えさせる映画である。
映画は淡々としていて、死ぬということは「こうだ」というようなおしきせ、医療体勢の告発的なトゲトゲしいものではない。しかしこの映画全体をとおして、ベッドで闘病する人、それを取り囲む家族や医師、看護婦などの様子が、まるで一つのドアを開けて見ているかのように描写される。これは考えてみると、私たちの一般的な「死」というものへの壊し方のょうな気もする。身近な家族に「死」をひかえた人がいれば、また違うかも知れないが、あえて「死」を考えたりはしていないのが日常だ。自分は「まだちがう」、おやじやおふくろも「ちかいけれど、まだまだ」と、かやの外で考えようとはしない。
そして「病院で死ぬということ」については、またほとんど予想だにしていないのではないだろうか?だが映画は私を含めて自分の両親、またその親の「死と生」についての近いあり様をそのまま写しているようだ。
原作は60万部のベストセラー「病院で死ぬということ」(主婦の友社刊)、著者は現役の医師、山崎章郎。出演者もほとんど本職の方であるから、病院で「死んでいく」毎日を本当に実写しているような映画監督・脚本の市川純は映画「BU・SU」「つぐみ」を手がけているといえば、若い人には知っている人もいるだろう。
この映画のもっとも変わっているところは[製作]に中高年雇用福祉事業団の名があることだろうか。現在、一般劇場作品としても公開されているが、これに成立って自主上映会が各地で行われたこともお伝えしておこう。事業団としても医療や福祉現場にかかわりをもっているだけに、まじめなこの映画も生きているょうである。劇場公開だけでなく上映運動として生き長くつづいってほしい。
【出典】 青年の旗 No.190 1993年9月15日