【映画紹介】ベトナム参戦の真実
–韓国映画「ホワイトバッジ」日本公開に向けての鄭智泳監督のメッセージ
<タフーから再点検へ>
韓国はアメリカとの協定により1964年から75年まで、実に延ベ31万2853名の兵士を派遣し、4687名の戦死者を出している。しかしこの数字は、昨年2月になって初めて国防部から発表されたものである。参戦当時すでに泥沼に入り、抜き差しならない状態に陥っていたアメリカのベトナム侵略戦争は、米国内はもちろん全世界で激しい批判にさらされていた。しかし当時韓国は朴正熙軍事政権のもとで、ベトナム参戦は対米関係、軍事政権強化、ベトナム特需と外貨稼ぎ、経済力強化の重要なカードであった。参戦は客観的理由も、何の正当性も持たない、ただただ反共軍事政権を支えるための不道徳きわまりない戦争であったといえよう。したがってベトナム戦争の真実は全面的な言論・報道統制により隠ペいされ、批判はもちろん、このテーマを取り上げること自体がタブーであった。
しかし周知のように80年代後半より民主化の汲はもはや抑えきれないものとなり、90年代に入ってようやくベトナム参戦、帰還兵問題が社会的に取り上げられるようになってきた。昨年9月26日にはベトナム戦争の後遺症に苦しむ400人余りの帰還兵とその家族が、京釜高速道路の占拠籠城に決起し、韓国社会に大きな衝撃を与えている。
<ベトナム現地で撮ったベトナム戦争映画>
そしてここに紹介する「ホワイトバッジ」は、このところ鋭いテーマを提起し続け、躍進めざましい韓国映画界が初めてベトナム戦争をテーマとした見事な作品であると同時に、実に衝撃的な作品である。米国人の同じテーマを扱った「プラトーン」をしのぐ作品ではないだろうか。内容の紹介はいっさい省くが、ベトナム兵や農民を「敵」として制圧した証拠に耳を切り落として持ち帰り、誇示しようとする場面は、思わず秀書の朝鮮出兵軍が耳を塩漬けにして持ち帰った事実を想起させるものであった。
この映画の日本公開に向けてチョン・ジョン監督は以下のようなメッセージを寄せている。
「ベトナム戦争ははっきり言って韓国現代史における恥部です。しかしそういった過去の問題を隠ペいしたままでは韓国の明るい未来は考えられません。遅すぎた感じがしないわけではありませんでしたが、歴史に対する客観的な再点検という意味をももってこの映画に取り組んだのです。撮影はベトナム現地で行いました。ベトナム人の手による作品を別としたならば、この映画は世界で初めてベトナム現地で繰ったベトナム戦争映画なのです。・・・‥・・・・この映画をご覧になるやはり同じアジア人である日本の皆さんに、この映画を通して戦争というものがいかに人間の魂を無惨に破壊していくものかということを感じ取って頂きたい。現在日本では、PKO等、自衛隊の海外派遣が大きな社会問題になっていると聞きます。そういったことを踏まえたうえで、軍隊を海外に派兵する意味をあらためて問いなおしてみてはいかがでしょうか。そして日本と韓国の過去の歴史を振り返っても、問題を隠ペいしてしまうことはその国の未来の発展を妨げるだけです。
むしろ問題を掘り起こし、再点検することが明るい日本の未来への大きな一歩になるはずです。」 9月4日封切り、2時間5分
(生駒 敬)
【出典】 青年の旗 No.190 1993年9月15日