【映画紹介】映画「学校」を観て
先日、「学校」を観た。特別試写会の券を手に入れた知人が行けなくなって、代わりに私が行くことになったのだ。先月の朝日新開でも紹介されていて、「学校」現場で働いている者として、観る必要性を感じていたので、良い機会であった。
監督は、「寅さんシリーズ」で有名な山田洋次で、主演は西田敏行。その他の出演者は、「寅さん」の渥美清(特別出演)を始め、山田監督好みの俳優がズラリと名を連ねている。その割には、胸にズキンとこなかった。泣ける場面はいくつかあったが、感動するまでには至らなかった。それはなぜだろうか?試写会場を出た後、地下鉄の駅まで歩きながら、場面を思い起こしながらいろいろ考えてみた。
「夜間中学を描いた」点は、高く評価したいし、すばらしいことだ。周知の通り、行政側は夜間学級・夜間学校の数を減らそうとしている。「生徒の減少」を主な理由に挙げているが、それは若年の生徒のことであって、中高年齢唇の間では希望者は増えているそうだ。若い時に、勉強したくても、諸々の事情で学校に通えなかった人々が、生活も一応落ち着き、もう一度学枚に行きたいと願っている。そういう人々の中には在日韓国・朝鮮の人も多く含まれている。映画では、その役を、「ひとり芝居」の新屋英子さん(関西芸術座)が演じている。つっぱり、登校拒否、中国からの帰還者、障害者等、西田演じる「黒ちゃん」の学級には、様々な課題を抱えながら生きている「生徒」が通って来る。夜間中学生の厳しい現実を伝えようという、監督の熱意は感じたが、やはり問題の羅列という気がしてならない。
一人一人の生徒が体現している「重い」現実によって、映画全体が「暗く」ならないように、山田監督は努力している。西田敏行のキャラクターを生かし、萩原聖人演じる若者に時々「軽さ」を出させている。ほんの一瞬、渥美を登場させたり、観客へのサービスも忘れていない。しかし、私には、どれも消化不良で素直に笑えなかった。もっとも、この映画で、夜間中学の問題を決るのではなく、夜間中学の紹介と「こんなに楽しい所ですよ。」というアピールを主要な目的にして製作されていたならば、目的は達成されていた。また、「学ぶ」という事の本来的意味が失われつつある現在、心から学びたいと夜間中学に辿り就いた人々を軸に据えて、映画を作った意味は大きいし、15年間も脚本をあたためていた監督ならではと思う。
山田監督の視点と手法は、「寅さん」映画に象徴されており、それによって、氏は名監督になった。ただ、今回のようなテーマの場合、同様の描き方では、「名作」になりにくいと、私は思う。夜間中学生を演じる人々に、もっと「生活」を感じさせるものが欲しかった。出演者の中で、50歳にしてやっと文字を獲得した「イノさん」を演じる田中邦衛は、さすがの好演であった。
この映画が問いかけるものは、「学校」現場にとどまらない全社会的な課題でもある。多くの方々が是非この映画をみられて、新しい対話や討論の場ができればと、思う。(松竹系、12/24迄上映中)
(大阪・田中 雅恵)
【出典】 青年の旗 No.192 1993年11月15日