【投稿】旧植民地出身者の戦後補償運動
昨年は真珠湾攻撃50周年であり、「太平洋戦争」に関する特集、評論がマスコミを賑わした。その多くは、現在の日米関係と50周年前、開戦前夜のそれを対比させ、国際社会での日本のスタンスを論じるものであった。
しかし、日米開戦に至る要因となった、日本のアジア諸国に対する侵略に関する議論は現在のアジアに対する関係も含めてパールハーバーに隠れた感があった。
それでも朝鮮、台湾など旧植民地出身者の蒙った惨禍に対する、補債を求める声は押しとどめることができないものがあり、市民レベルでは重要な問題としてクローズアップされた。
なかでも日本の戦争に動員された朝鮮人一戦傷病者、B、C級戦争犯罪者、従軍慰安婦-が戦中、戦後になめた辛酸は、計り知れないものがあった。
こうした人々に対し、日本政府は「日本国籍を離脱」したからとして、一切の補償を行わず放置してきた。
さらに労働力として日本国内に移送され、各地の炭鉱や、軍需工場、軍事施設で非人道的な扱いを受けた人、また広島、長崎での被爆者、サハリンに置き去りにされた人に対しても、日本政府は責任を認めていない。
これらの人々に対する補償については、昨年1月の日韓会談における「日韓覚書」でも具体的な施策はこうじられなかった。
また現在日朝国交正常化交渉が進められており、共和国側は「戦前、戦後の補償」を要求しているが、これも最終的には取引材料となる可能性が強い。
こうした厳しい情勢のもと、在韓、在日の当事者自らが補償を求めて行動を起こし始めている。昨年は川崎市と東大阪市の在日韓国人の男性が「戦争病者戦没者遺族等援護法」の適用を求めて行動を起こした。ふたりは戦時中日本軍の軍属として行動中に太平洋戦線で負傷した人である。
また韓国では「太平洋戦争犠牲者遺族会」が、日本政府相手の公式謝罪と賠償を求める訴訟を起こしている。これに対して日本政府は天皇、首相が口頭での簡単、もしくは曖昧な謝罪を行ったものの、具体的責任や補償については、一貫として誠実な動きは見せていない。
このような姿勢は、国際的に見てどうなのか。同じ敗戦国ドイツは政府はもとより、戦時中ユダヤ人を強制労働に従事させたベンツ社が謝罪と四億四千万円の賠償金支払いを行った。
また戦勝国アメリカ、カナダも日系人の強制収容に対し賠償を行っている。
さらに少し内容は違うが、旧ソ連もスターリン粛正の犠牲者に対して名誉回復を行ったのは記憶に新しいことである。
このような各国の動きと照らし合わせてみると日本の姿勢がいかに問題であるかがよくわかる。少し古い話であるが、残留日本兵の横井さん、小野田さんが見つかった時代、地名は忘れたが旧南方戦線で「中村さん」という日本兵が発見され話題になった。マスコミは大報道を行い、家族も「本人確認」をした直後、その人は台湾先住民族出身の旧日本兵であるとわかった。その時実は日本兵が発見されるよりも重大な問題であったにもかかわらず、報道はプッツリと途絶えてしまった。
今、国際貢献はその方法を巡っては、是々非々はあるものの、それ自体は「国是」となっている感がある。
しかし、日本が国際協調の必要性を学んだ原点であるはずの戦争に対する、清算を行わないでは、真の国際貢献などはとてもおほつかないのである。
(大阪 0)
【出典】 青年の旗 No.172 1992年1月15日