『詩』 <気になる男の信条>
大木 透
アレクサンドル・ヤコブレフ氏は経済は手段であって、目的でないと言い、人間の自由と創造性の発展のためには、市場経済の形成が不可欠であると言う。しかし、一方でこの制度が円満に発展するには、社会と人間の相互関係において、倫理的道徳的な一定の成熟がなければならないと言う。この円環の矛盾は歴然としている。これを批判し愚弄するのはたやすい。しかし、これで終わりという訳には行かない。市場経済(等価交換とその実現に介在する人間的営為の尊重を目指す)に分のあることは無視しえない歴史的現実であるし、またそこに倫理性の欠如が存在するという厳然たる事実は放置されたままということになるからだ。彼ほどの人間がこのような矛盾を平気で言えるからにはそれ相応の理由があってのことであろうが、この矛盾の中をじっくりと生きるのが彼の信条なのかも知れない。少しでも、人間や社会のことを考えようとしている人々にとって、これは示唆に富むものであろう。
(『マルクス主義の崩壊』を読んで)
何の因縁もないのに
妙に気にかかる奴がいるものだ
酒好きなのかどうか知らないが
ちょっと赤ら顔で
鼻頭が
がしっとしていて
あまり知的な風貌ではないのだが
何か喋っていると
ちょっと聞き耳を立てたくなる
臆病者だとの噂もあるが
そればかりではあるまい
危うきに近寄らぬ
君子なのかも知れない
心の底に
激しい嵐が吹き荒れていても
じっと耐える
度量を持っているのかも知れない
男は
執拗に
矛盾を生きているが
まるで
それに気づかぬように
さわやかに
どっしりと
ものを言う
(1994.4.7)
【出典】 アサート No.197 1994年4月15日