【投稿】地球環境問題をめぐって1

【投稿】地球環境問題をめぐって
                                                       その1 地球環境サミットを前に

はじめに
宇宙の片隅に地球が誕生してから、46億年。その地球上で人間が文化、文明を持ち始めてから、1万年の歳月が流れているに過ぎない。宇宙の悠久な時空の中で考えると、人間の人間らしい歩みは一瞬の出来事でしかないのに、人間はその一瞬の営みの中で46億歳の地球をむしばみ続けているのである。
地球環境保全と開発の両立を目指し、新たな地球規模の協調体制を確立する「国連環境開発会議(地球サミット)」が、6月3日から14日までブラジル・リオデジャネイロで国連史上初めて開催される。百カ国以上の固から政府首脳や環境保護で活動する非政府組織(NGO)が集まり、環境保全と開発を調和させる基本原則を定めた「リオ宣言」や行動計画である「アジェンダ21」、地球温暖化防止条約、地球の生態系を守る「生物学的多様性保護条約」などの調印を予定している。
今回の地球サミットは、環境優先か開発が重要かをめぐって南北対立が予想されるが、東西冷戦終えん後の社会体制の枠組みを転換させ、地球環境の保全あるいは環境に優しい社会経済構造を具体的に実現するための制度的、資金的、組織的なルールを敷く歴史的出発点になるであろう。
この地球サミットを契横に、今回から数回にわたって地球環境問題に取り組んでみたい。横兵器が人類史に与えた衝撃以上に地球環境問題は人類の未来に大きく立ちふさがっていると考えるからである。

<地球サミットヘの経過>
地球サミットは、1972年6月ストックホルムで開催された国連人間環境会議の20周年を記念して開かれる会議で、テーマは「持続可能な開発」である。経済最優先の開発は物質的な豊かさをもたらすものの、いつかは資源を開発し尽くし、破綻を招くことを世界が認識したうえで、今後は子孫にわたって成長できる経済社会を目指そうという考えに基づいている。
ストックホルム会議では世界各国が環境問題の重要性を認識し、改善していくことで合意した。しかし、それから20年たっても環境の状況は悪化する一方である。80年代の中ごろ、初めて南極に於て発見されたオゾンホールは、全世界に大きな衛撃を与えた。さらに地球温暖化や酸性雨など、国境を超えて広がる新しい環境問題への関心の高まりを受けて、国連のブルントラント委員会が、87年初めて「持続可能な開発」という表現を使って環境破壊の深刻さを問題提起し、国連は地球サミットを開催することを決定した。
会議には100カ国にも及ぶ各国の首脳の参加が予定されており、今世紀最大の首脳会議となる。また地球サミットでは、国連主催の会議としてはめずらしく民間人の参加も認められている。環境保護団体や科学者らによるイベント「92グローバルフォーラム」も同じリオデジャネイロを舞台に企画されている。総参加者は3万人とも言われている。

<地球サミットの背景>
地球環境の汚染・破壊はいまや、複雑、多岐にわたっている。地球の温暖化をはじめ、オゾン層の破壊、酸性雨、熱帯林の減少、砂漠化、海洋・湖沼河川の汚染、有害廃棄物の越境移動などはいずれも相互に複合、連鎖しているため、その因果関係の解明が不確定で、解決への糸口を不透明にしてきている。
しかし、地球環境問題に共通している最大の悩みは、人類の営みが地球をむしばんできた点にある。人の営みが天与の自然浄化作用の限界を超えて、地球に過剰な負荷を与え、自然の生態系を乱しているためである。
その元凶は、資源、エネルギーを大量に開発、生産、流通、消費することを可能にした近代科学技術とその所産である物質文明そのものにある。このため、問題の解決をなおさら難しくしているといえよう。その発端は18世紀中葉の産業革命で、まだ200年余の経験である。

<地球サミットの方向性>
地球サミットでは、①環境と開発に関する「リオ宣言」②行動計画「アジェンダ21」の策定③地球温暖化防止条約・生物学的多様性保護条約への署名④財源問題・技術移転・国際組織の検討—等が予定されている。
「環境と開発に関するリオ宣言」は、地球サミットでストックホルム宣言を再確認し、地球規模の新しい協調体制を作り上げることを目的としている.。この為、発展途上国グループが要求した「開発の権利」を認め、貧困の撲滅への協力を求める一方で他国の環境破壊につながらないようにする責任と、将来の世代に開発だけでなく環境に対する要求にもこたえられるべきだと加えている。
「持続可能な開発」を目指す行動計画(アジェンダ21)の骨格は、①大気保全のため国別にエネルギー需要目標を設定し、石油などの消費を抑制する②森林再生などに必要なコストを、石油課税などいわゆる環境税を通じて石油、電力といったエネルギー価格に反映させ、省エネを促す③発展途上国への援助資金を確保するため防衛費の削減や世界銀行の地球環境基金の拡充を検討する—などの内容になっている。

条約とは異なり法的な拘束力はないが、地球環境保全のためには欠かせない行動計画である。

地球サミットの最大の目玉である「地球温暖化防止条約(気候変動枠組み条約)」は、各国の利害の調整が難航していたが、「温室効果ガスの排出量を90年代終わりまでに90年水準に戻すことを目指し、各国が努力する」という内容で妥協した。当初、日本と欧州共同体は、「2000年時点で90年レベルに排出量を安定化させることを誓約する」という強い拘束力を持つ案を主張していたが、米国の強い反対で努力目標になった。
もう一つの条約「生物学的多様性保護条約」は、地球上にすむ生物未確認のものを含めれば数千万種にも達するとされている生態系の保護と生物の産業利用の調和を図る内容となっている。
財源・技術移転・国際組織問題は、先進国と発展途上国とのあいだで最も対立している問題である。特に、地球環境対策の財源開港に関しては、事務局が2000年までの環境と開発の両立のための資金需要を年間1250億ドル(約16兆円)と見込み、先進各国による政府開発援助(ODA)で賄われる550億ドル以外の残り700億の新規財源の出資問題が絡み激しい意見対立が予想される。

<地球サミットの意義>
少し古いが、地球環境問題の本質を語っていると考えるので引用したい。「環境破壊の危機の前では、二極化したイデオロギー的世界という対立図式は却下される。経済圏や軍事同盟の体制の差によって、生命圏を分割することはできない。全ての国が一つの気候体系を共有しており、一国たりとも自国だけを隔絶する独自の環境防衛上の国境を設けるわけにはいかない。」(シュワルナゼ外相88年国連演説) 地球サミットは、環境保全に取り組む各国の「基本的合意と政治的意思の表明」の場ではあるが、環境問題を決着させるまで期待することはできないだろう。しかし、各国の理解や行動を改善する大きなステップになる。持続可能な開発及び地球環境の改善という原則で合意し、これを受けて継続的に環境問題に取り組む体制の出発点になればサミット最大の成果になるであろう。 (名古屋 Y)

【出典】 青年の旗 No.176 1992年6月15日

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