【投稿】転換を求める意思表示–参院選の結果が示すもの–

【投稿】転換を求める意思表示–参院選の結果が示すもの–

<<前回より1200万人が棄権>>
今回の参院選の投票率は、50.72%で史上最低を記録した。これは何を意味しているのであろうか。89年の前回参院選65.02%から約15%も低下し、単純に考えても、前回投票した人の内実に約1200万人が棄権しているのである。そして今回社会党は、改選議席と同じ22議席を維持したから善戦と評価しているが、比例区の得票では前回の得票を1200万票近く減らしている。この1200万票近くの激減が選挙区の連合候補を直撃し、公認候補全滅となったわけである。
逆に自民党はこの低投票率、棄権に支えられて、獲得票数が減少しているにもかかわらず、1人区で3年前の3勝22敗から様変わりし、25勝1敗、2人区でも4県で独占、大阪、滋賀で議席を獲得、空白区を解消するという大勝を獲得したのであった。
またこの低投票率は、浮動票にあまり期待できず、支持者がある意味で固定し、宗派的な独善色の強い公明、共産両党には有利に作用した。法難来ると奪い立った公明党はこの低投票率にもかかわらず、わずかながらも票数までも増大させた。共産は苦戦し、票、議席とも減らしたとはいえ、社会主義陣営崩壊という不利な状況からすれば激減にまでは至らなかった。

<<様変わりをもたらしたもの>>
何がこのような様変わりをもたらしたのであろうか。3年前は反自民の3点セット=消費税、リクルート、農政不信、それに土井委員長の登場と連動した女性ならびに無党派市民層の大いなる活性化と期待が前面にでた。その結果、たとえ参院とはいえ自民党は過半数割れという大変動をもたらし、自民党長期単独政権は崖っぷちに立たされた。しかしその後の3年間の事態の推移は、たとえ「逆転」しても、政治は活性化されず、期待したほどの成果は上げられず、参議院の存在意義自体に疑問を投げかけるものであった。さらに3点セットそのものが完全にうやむやにされ、リクルート事件以上といわれる佐川急使事件ではすでに野党側の名前が表面化しており、自民党への不信が野党をも含めた政治不信へと拡大した。それはまた中小業者から女性、市民層に至る新しい支持層の結集と拡大もなおざりにさせ、そっぼをむかせる事態をもたらした。
そしてこの間に社会党委員長は、交渉の巧みさと柔軟さが売りもので国対政治のテクニシャンに交替した。それはある意味で自民党政権に取って代る新しい連合政権形成にとって必要な野党連合への期待を込めたものであったが、結集軸なき交渉技術と柔軟さは自らを策に溺れさせ、ついには出口なき袋小路に追詰めることとなった。逆に自民党は、PKO法再修正で公民両党の要求をほとんど受け入れ、社会対民社・公明間の分断を難なくなしとげ、連合型選挙に致命的な打撃を与えることに成功した。もはや最後の抵抗となった徹底牛歩や「議員総辞職戦術」といった強硬戦術は、本音との乖離を見透かされ、かえってしらけ気分を拡大させることとなったといえよう。

<<PKOと国際貢献>>
こうしたことが、各種世論調査で多数を占める自衛隊海外派遣批判派をなぜ結集できなかったかということと密接に関係している。確かに、広島ではPKO反対を掲げた社会党推薦女性候補が連合に競り勝ち、自民と議席を分け合った。しかし得票率は、前回社会党票24.6%の半分以下11.7%であり、また沖縄では、「許すな自衛隊海外派兵」を前面に掲げて革新側が勝利し、自民に空白区をもたらしはしたが、それは辛勝といえるもので、その得票率は83年選挙以来最低であった。
争点なき選挙、争点隠しの選挙といわれたが、PKO問題は厳然として存在しており、環境問題はリオの国連環境開発会議の地球規模の問題からゴミ処理問題に至る生活に密着した重大な開演に浮上してきており、さらにソ連邦崩壊と冷戦終結による世界的規模での軍縮と日本の軍事費の削減問題、その中での国際貢献の有り方、等々は、世界と日本の進路をめぐる大問題として急速に浮上してきている。そこではPKO=戦前への復帰、PKO=徴兵制といった短格的な訴えは、一定の根拠をもちながらも説得力を持たなかったばかりか、時代錯誤的な思考ととらえられたのである。もはやそのような反動的な回帰が不可能なほどの内外の情勢の転換を有権者は冷静に見ていたのである。
問題は与野党ともにこのような世界史的な曲り角に明確な指針を持ち合せていないことである。そうした無方針と怠慢は必然的に旧態依然たる利益誘導型で、争点をあいまいにした連呼中心型の、有権者を単なる1票の投票機械としかみなさない選挙運動を横行させたのであった。いわば有権者はそうしたものの出直しを求めて棄権をしたともいえよう。

<<日本新党が示したもの>>
こうした中で、環境問題と平和、政治改革を前面に掲げ、既成政党の政治の打破を訴えた日本新党が、比例区で民社、共産を上回る360万票、4議席を獲得、8%の支持をえて、健闘したことは注目すべきであろう。たった数ヵ月間で、既成政党の内、共産、民社を一気に乗り趨えて、時代の要請を受け止めようとする有権者の受け皿になったのである。しかしこれとて、善戦したとはいえ広範な政治不信の票を結集することは出来なかった。それは革新の側の連合と同様に、保守の側の連合の限界を示すものでもあろう。にもかかわらず、保守革新を問わず、政治の転換が強く求められていることを明瞭に示したのではないだろうか。
自民党は大勝したというものの改選議席77を維持できず、参院での与野党の勢力差はさらに拡大したのである。このことはすくなくとも3年間は、自民党は公明、民社との協調体制を維持し、公明、民社は自民党へのすりよりにしか活路を見出せないという事態を作り出したといえよう。しかしこうした路線こそが政治を不透明なものにさせ、政治不信を蔓延させ、史上最低の低投票率をもたらしたのであって、こうした路線の継続は彼ら自身の内部に自己崩壊と分裂の危機を育てるものでしかない。
自民党の勝利が大々的に予測されていたにもかかわらず、投票日直前には株価が急落し、政府・自民党はあわてて緊急経済対策を練り直し、総花的な公約をばらまいた。そして予想以上に自民党が勝ち、公定歩合も0.5%引き下げたのに、翌日の株式市場は冷たい反応を示し、自民党の勝利をあざ笑うかのように、株価は年初来の最安値を更新したのである。経済はよりいっそう深刻に政治への不信を表明したともいえよう。
このようにして時代の要請に対応した根本的な政治の転換が求められていることを、今次参院選は浮き彫りにしたのではないだろうか。  (生駒 敬)

【出典】 青年の旗 No.178 1992年8月15日

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