【投稿】PKO法と日本の「国際貢献」
PKO法に対する国民の支持率は50%を超えたといって良いであろう。自公民の議席は改選議席の50%を超えた。
一方でまた、唯一反PKO法を掲げて関った広島栗原君子さん、沖縄鳥袋宗康さんが当選した。社会党候補は、各地で連合との選挙協力の為、鮮明な反PKOの主張で闘えなかった中にあって、被爆地広島と唯一の地上戦の地沖縄の市民の選択は自衛隊海外派兵の本質を見抜いたと言えるだろう。
全国的にPKO法の本質が国民に広く理解されいるとは言えない。公明党が「平和貢献」をスローガンに支持者を組織化し、選挙戦を有利に関った。反戦平和の公明党の支持者は昨年の国連平和協力法案の強行採決に強く反発したが、今回のPKO法の強行採決には理解を示した。なぜであろうか。PKOは戦争のために軍隊を送るのではない、平和のために軍隊を送るのだ、という主張が浸透したからであろう。また、現地を代表するシアヌークSNC議長、フンセン首相、ソン・サンが皆こぞって自衛隊の派遣を希望したことがあげられよう。現地が望んでいるのなら、と肯定派にかわった人も多いはずだ。
PKO法に対する見解を巡る議論がしばしば平行線になってしまうのは、別の問題がごちゃごちゃに議論されているからであろう。
第一に、PKOの活動に対する評価の問題がある。
第二に、PKOとは無関係に存在する日本国憲法の規定の問題がある。平和憲法は他国に例を見ない戦争放棄の親定を持つ。それは国の交戦権の否定と戦力の不保持を唱っている。自民があれまでこだわった自衛隊の部隊としての派遣はその双方に反する。国内的には「国家の自衛権」と解釈して合理化しているが、国際的には通用しないであろう。
第三に、カンボジア情勢の評価の問題がある。 この三つが別にして論議された上で、日本のなすべき選択が検討されなければならないのに、自公民はきわめて情緒的議論に流されているきらいがある。「日本は国際貢献しなくては世界の中で孤立する。社会党、共産党はこれに反対する。」とか、「PKOは戦争に行くんじゃじゃない。平和のためにいくのだ」とか「カンボジアの人々も自衛隊の派遣を望んでいるから」とか。
国際貢献に、社会党共産党は反対しているのではない。賛成している。国際貢献だからと言って、日本の憲法親定をじゅうりんしてよいという話にはならない。津田塾大学のダグラス・ラミス教授は、PKO法に基づいて自衛隊のPKO参加が国際法違反になるのではないかと、国連事務総長宛に公開質問状を出した。ジュネーブ条約は戦争における捕虜の取扱い等について規定しているが、日本からPKOに派遣された自衛官の身分があいまいだと指摘している。もし、自衛官が軍人として取り扱われるなら、明確に日本国憲法日本の憲法に反する事になる。もし、民間人として扱われる事になるなら、民間人に武器をもたせることは犯罪になる。どちらにしても、PKOへの自衛隊の参加は国際法上許される事ではないので、国連事務総長は受け入れるべきではない、というのがその公開質問状の趣旨だ(公開質問状全文参照)。
PKOを平和のための活動、戦わない軍隊として宣伝する向きがある。果してそうであろうか。活動は停戦状態から始まる。停戦は戦崗行為一時停止にすぎない。カンボジアPKOの場合、ポルポトは停戦とその後の選挙までの活動を定めたパリ和平協定に調印したものの、この停戦の取り決めを公然と破っている。停戦状態は既に崩れている。戦闘がカンボジアに未だ続いているのである。ここに自衛隊を送ることは戦争状態の中に軍を送ること以外の何ものをも意味しない。
ただし、通常の戦崗行為と違う点は、自衛隊の参加するPKO部隊の側に戦闘意志がなく、相対するポルポト派にはあるということだけである。決して戦闘行為(防衛という形にしても)が予想されない状態ではない。
カンボジアを代表するSNC議長、プノンペン政権、ソンサン派がなぜ自衛隊の派遣を望んでいるかは、ひとえにポルポト派の軍事的脅威ゆえであろう。あくまでも武装闘争をめざすポルポト派にわかる言葉は「強大な軍」だけであろうと各派は身にしみているのだ。カンボジア当局者にとってはどこの国の軍でもいい。一つでも一つでも多くの国が、一人でも多くの兵員を派遣してくれることを望んでいるのだ。彼らにとっての和平への期待がそこにしかない。彼らにとって日本の平和憲法は視野の外にあるだろう。
カンボジア4派のうち、ポルポト派以外の3派が望んでいるのは、日本の平和的貢献ではなく軍事的貢献である。
日本は国際貢献をしたいと言って、PKOに自衛隊を参加させることで、ジュネーブ協定他の国際法に抵触し、平和的貢献のはずが軍事的貢献をカンボジアで期待され、停戦合意が崩れた下で、自衛官はポルポト派の標的にされかねない。ポルポト派はあくまでも和平のプロセスを妨害し、自派に有利な情勢(現状ではシアヌークの大統領選出はほほ確定的で、ポルポト派が選挙で多数派を占めることはあり得ないだろう)を期待している。そのためには、日本の自衛官を殺傷し、日本がPKOから撤退する情勢を作り出すこともまた、ひとつの選択肢かもしれないからである。
PKO法は成立したが、自衛隊の海外派兵はこれからである。アンゴラの停戦監視団への自衛隊派遣はPKO法通用の第1号である。万が一、カンボジアに自衛隊が派遣できなくなった際の、PKO法下における実施の実績作りであろう。狙いはカンボジアPKOであろう。その規模も500~600人と期待されている(明石国連特別代表)。目標は10月中である、と新聞は伝えている。
決着はまだついていない。未だに国論は二分されたままである。PKO法実施に伴う数々の問題を民衆の間に広げ、自衛隊の派遣をSTOPさせよう。
(8月4日 東京 S)
【出典】 青年の旗 No.178 1992年8月15日