【投稿】「日本環境会議四日市」 現地報告1
わが国の公害裁判史上画期的な判決とされる四日市公害判決から2周年を迎えた7月24日から2日間、三重県四日市で、環境問題専門研究者ら約500人で組織する日本環境会議(JEC)がシンポジウム「第12回日本環境会議四日市」を開催した。シンポジウムは、非政府組織(NGO)の立場から、日本の環境破壊の原点・四日市の経験を再認識するとともに、日本とアジアを結ぶ課題、6月にブラジル・リオデジャネイロで開かれた国連環境開発会議(地球サミット)の成果、課題を生かす道を模索していくことを主題にして、約500人の参加で熱心に論議された。
そして、環境保全を国家の最優先政策として、公正で客観的な環境アセスメント制度を立法化するなどを骨子とした「四日市宣言」を採択した。又、宣言とは別に、「長良川河口ぜきの公正で客観的なアセスメントの実施と事業の総合的、抜本的な見直しを要求する特別決議」も採択した。しかし、この秋にも政府が準備している環境基本法」への取り組みが、準備不足もあって十分討議できず、今後、早急に政策を提案し、論議していくことにした。
会議の性格・内容は当日採択された「四日市宣言」によく表れているため原文をそのまま掲載して報告としたい。(詳細報告は次号)(名古屋Y)
■ 日本環境会議四日市宣言
国連・環境と開発に関するリオ会議から1か月余り、四日市判決から20年を経た今日、NGOの立場から環境政策の提言をめざすわれわれ研究者、弁護士、市民は、戦後日本の開発のあり方を鋭く批判した四日市判決からの20年を検証し、リオ会議では十分に成功しなかった環境と開発との関係にかかわる基本政策を日本とアジアを結ぶ視点から検討するため、ここ四日市に参集し、1992年7月24日及び25日の2日間にわたって、議論を重ねた結果、次のような認識を共有した。
1・国連・リオ会議は、現在及び将来世代の権利と福祉のために環境保全の枠内での地域の発展を可能とする国際的及び国内的社会システムづくりの合意に達しなかっただけでなく、そのモデルを示せなかったと言う意味で、成功しなかった。経済優先の国内政策を 環境保全型に転換できなかった先進諸国のリーダーシップの不足及び先進国と途上国との対立が解けな かったことが、その主要な原因と考えられる。しかし、現在の世代のみならず、将来世代の権利と福祉の追求が人類共通の課題である以上、われわれは、環境保全の枠内での地域の発展をめざす社会システムづくりに全力を傾ける責任がある。
2・環境保全の枠内の地域の発展をめざす新たな社会システムづくりのためには、開発は環境と鋭く対立した過去の事例をどう克服したかの反省が重要である。四日市判決からの20年の検証はこの意味で極めて意義深いものと考えられる。それは–四日市開発の検証にとどまるだけでなく、環境と開発にかかわる日本社会のあり方の検証ともなるからである。検証の結果、四日市コンビナートが公害対策を通して一定の転換をとげたことが明らかとなった。また、四日市が公害防止技術の移転という形でアジアと結ぶ志向を持っていることも明かとなった。しかしなお、被害者の全面救済や都市構造上の歪みを是正し、住民参加のもとに豊かな住みよい都市環境の再生をすすめるべき課題を残している。しかも、いま新たに内陸部で再び「外来型開発」を推進しようとしていることも明かとなった。四日市開発の検証はまた、アジアへの展開をめざした日本経済の一つの問題性をも明らかにした。四日市および日本経済のアジアへの展開は、アジア現地において新たな環境問題を引き起こしつつあるからである。先頃、マレーシアのイポー高等裁判所から差し止めの判決が言い渡されたARE事件は、四日市判決によって立地上・操業上の過失を厳しく問われた日本企業が多国籍企業化し、アジアの地域で再度環境問題を引き起こしたと言う意味で、われわれに大きな衝撃を与えた。しかし、それが国際化した日本経済のあり方に対する厳しい批判でもある以上、われわれは、日本とアジアを結ぶ視点から環境と開発のあり方を再度問い直す必要がある。
3.環境保全の枠内での地域の発展をめざす新たな社会システムづくりのためには、また、足元の環境問題を検証し、新たな地域づくりを考える必要がある。中部地域で開かれた今回の環境会議を機会に、われわれは、中部地域で展開されているいくつかの地域づくりの例を議論し、ともに考えることによって、地域からの内発的発展をめざすことが環境と開発との関係を解く一つの重要な鍵であることを確認し、そのためにも地域住民主体の行動性の重要性を再確認した。われわれは、また、中部地域で行われた今回の環境会議を機会に、長良川河口ぜき建設問題を取り上げ、いったん決定された公共事業がいかにして転換され得るかの道を探ったが、その結果、住民参加を前提とした社会的、経済的評価を含む公正で客観的な環境アセスメント制度の必要性と、いったん決定された公共事業を見直し、必要な場合にはそれを修正し、撤回する行政手続きの明確化が不可欠との認識に到達した。
以上の認識に基づいて、日本環境会議四日市シンポジウムに参加したわれわれは次のような環境と開発にかかわる政策を提言する。
1.環境の保全を国家の最優先的の政策として宣言すること。今後制定される可能性のある「環境基本法」には、このような宣言が含まれるものであること。
2.国家および公共団体の環境保全の責任を宣言するとともに、現在および将来世代の権利を代表するものとしての国民ないし市民の環境権を宣言すること。
「環境基本法」はこのような宣言をも含むものであること。
3.環境保全の枠内での地域も発展を可能とする行政手続きとして、社会・経済的評価を含む公正で客観的な環境アセスメント制度を立法化すること。同制度を立法化するにあたっては、住民の参加の権利と情報を受ける権利とを十分に保証すること。
4.環境アセスメントは、国内の開発行為に通用されるのみならず、日本企業ないし日系資本の海外進出やODAに対しても通用できるよう制度的に考案されるべきこと。また、既に海外に進出している企業は、進出先地域の住民の生命・健康と人権を尊重するよう自ら措置すること。
5.環境と開発にかかわる国内の環境問題を見直し、公共事業については、必要な場合には計画の修正と撤回ができるような行政手続きを明確にすること。長良川河口ぜき建設問題はこのような制度がつくられ、公正で客観的なアセスメントを踏まえて見直されるまで工事を中止すること。
われわれは、今後とも、アジアへの視点をもちつつ、国内環境政策の前進と国内外における環境問題の解決に向けて一層の努力を傾ける覚悟である。
1992年7月25日 日本環境会議四日市
【出典】 青年の旗 No.178 1992年8月15日