【案内】「土門拳のすべて」展へのお誘い

【案内】「土門拳のすべて」展へのお誘い

学生の頃、Aさんから 『筑豊のこどもたち』を見せてもらい、当時、新聞に係わっていた私は「ん-これだ」という感動を得たことを覚えている。『筑豊のこどもたち』(1960年発行)は家出して母親のいない炭坑住宅に住む一家の子供たちを中心に撮った、ザラ紙に印刷した百円の写真集で、10万部を突破するベストセラーとなった。背景に三池闘争の広範な展開があったとは言え、今でこそ写真集はやりであるが、当時のカメラの普及率を考えても大変な数だと思う。
その後、私はキャパの一連の報道写真に触れ、Hさんからユージンスミスの『水俣』を見せてもらい、「写真の任務は社会批判の精神だ」「リアリズム運動だ」と単純に感化されていた。その一方で晩年の土門氏は富士山、焼物、寺に多くの労力を割いており、やはり社会運動の弱まりに規定されるのか、などと不満を泡いていた(私の学生当時には、既に土門氏は病床にあり、レンズを見ることはできなかったが)。
土門氏は 『ヒロシマ』『筑豊のこどもたち』等の社会批判と古寺の記録の矛盾についての批判に対して、「報道写真家としては、今日ただ今の社会的現実に取り組むのも、奈良や京都の古典文化や伝統に取り組むのも、日本民族の怒り、悲しみ、喜び、大きく言えば民族の運命にかかる接点を追求する点で、ぼくは同じことに思える」(朝日新開1968.3.11)、と答えているという。
今回の写真展でも200余点のうち 『古寺巡礼』から50点以上とその多くを占めているが、今ではこの土門氏の言葉にむしろ共感できる視点があるように思える(遅かったかな?)。
昨年9月の土門氏の死を悼むと共に、今後の展の予定は下記の通りであるので顔を出して見てはいかがでしょうか。          (東京C)
(東京) 終ってしまった
(京都)1991年6月13日(木)~18日
会場 京都四条高島屋
(名古屋)1991年7月26日(金)~31日
会場 名鉄百貨店
(横浜)1991年9月12日(木)~17日
会場 横浜高島屋

【出典】 青年の旗 No.163 1991年5月15日

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