<<世界大恐慌2.0>>
パンデミック危機と結合した経済危機は、今や世界大恐慌として全世界を巻き込み、経済的・社会的危機が史上例を見ない空前のものとなろうとしている。
進行している危機の特徴は、パンデミック危機と結合したことによって、金融危機・経済危機にとどまらず、全世界住民を巻き込んだ社会的危機へと拡大している。なおかつ、その危機の進行は、これまでの経済危機の進行に比べて急速であること、影響範囲が広大であること、しかもその影響が社会生活の根底にまで及んでいること、以上がこれまでの経済恐慌とは異なった最大の特徴であると言えよう。
4/14、国際通貨基金(IMF)は最新の世界経済見通しを発表し、2020年の世界全体の成長率を、1月の予測では前年比3・3%増であったものから、3・0%減へと大幅に引き下げる異例のマイナス予測を公表、新型コロナウイルスの感染拡大で世界経済が縮小の危機にあり、世界経済は1930年代の大恐慌以来最悪の同時不況に直面している、と認めざるを得なくなった。
新型コロナウイルスと経済危機への影響により、世界で新たに5億人近くが新たな貧困状態に陥り、世界の人口78億人の半数以上が貧困に落ち込む恐れがあると、貧困問題に取り組む国際団体オックスファムが警告している(Oxfam 4/9公表)。
4/7に発表された国際労働機関・ILOのレポート「ILO Monitor 2nd edition:COVID-19 and the world of work」によると、新型コロナウイルスのパンデミックによって、世界中で労働時間と収入に壊滅的な影響を及ぼしており、現在、世界全体の33億人の労働力のうち、5人のうち4人以上(81%)が完全または部分的な職場閉鎖の影響を受けている。特に中高所得国(7.0%、1億人のフルタイム労働者)では、さまざまな所得グループ全体で莫大な損失が予測され、先進国と発展途上国の両方で大災害に直面しており、2020年の世界的な失業率の最終的な増加は、「最初のILOの予測である2,500万よりも大幅に高くなるリスクが高い」と報告書は述べる事態である。
今回の経済恐慌は、世界大恐慌2.0(the Great Depression 2.0 )と言われ出し、これまでの経済恐慌で最大のものであった1930年代恐慌(1929/10/24、ニューヨーク証券取引所の株価大暴落をきっかけとして始まった)よりもさらに深刻な事態、最速かつ最も深刻な経済危機に突入しているとも言えよう。
<<何がこのような事態をもたらしたのか>>
何がこのような事態をもたらしたのであろうか。端的に言って、それは、数十年にわたる規制緩和と弱肉強食・格差拡大の市場原理主義、マネーゲームに狂奔する金融資本主義、惨事便乗型資本主義、すなわち総体としての新自由主義が生み出したものである。
この新自由主義の全世界的な横行によって、新自由主義に反するあらゆる社会的セーフティネットが、その社会的基礎資本・インフラが切り縮められ、民営化され、破壊され、安全と福祉、社会保障政策が、環境保護政策が次々と犠牲にされ、汚染と自然破壊が推し進められてきたのである。こうした政策が実に数十年、全世界で大手をふるってきた結果として、医療システムの公共性が失われ、パンデミックへの備えが弱体化され、その反撃を受けたのだと言えよう。
パンデミックは、貧困諸国ばかりか、先進国において社会保障政策を犠牲にする緊縮政策がまかり通ってきた国々にとりわけ深刻な事態をもたらしている。アメリカ、イギリス、イタリア、スペインはその象徴に過ぎない。日本も同列であると言えよう。中国をも含めた各国の新型コロナウィルス発生に対する初期対応の決定的失敗は、こうした社会的セーフティネットを軽視してきた積年の必然的結果でもある。
この点では、中国が独自の異なった形態と対応をしてきたとはいえ、中国の政権自ら、新自由主義の教祖であるミルトン・フリードマンの教えを受けてきたことも忘れられてはならないであろう。
新型コロナウィルスによるパンデミックの危機は、こうした新自由主義の横暴と悪影響が続く限り、パンデミックの反撃はいつでも起こりえるものであることが、あらためて実証されたのだと言えよう。
今回、昨年来明瞭になってきていた新自由主義がもたらしてきた金融独占資本主義主導による経済危機の進行が、パンデミック危機と不可避的に結合したことによって、1930年代大恐慌をも超える、最悪の世界同時不況を招いてしまったのだと言えよう。
<<ウォール街へのヘリコプターマネー>>
こうした危機的な事態の進行を食い止めるためには、新自由主義政策からの根本的転換こそが追求されなければならない。
ところが、この新自由主義をけん引してきたアメリカをはじめ、先進各国の政権はなべて、新自由主義にすがりながら、新自由主義の指針に従って、つまりは圧倒的被害を受けている99%の人々ではなく、1%の金融独占資本・独占的大企業・超富裕層の救済をすべての政策の根本に置きながら事態を乗り切ろうとしているのである。ウォール街への、1%へのヘリコプターマネー、大量の現金バラマキである。決して99%の人々にばらまかれるものではない。99%の人々にははほんの少しばかり、一時的で制限付きでしかない。現代金融理論・MMTを否定しながら、平然と1%の金融独占資本・独占的大企業・超富裕層にはMMTを実践しているのである。
この3月以降だけでも、超低金利・超金融緩和政策の下でFRB(米連邦準備制度)=米中央銀行は1兆7,700億ドルもの資金を提供して、ウォール街金融資本の救済に乗り出している。しかもその手口は、これまでの制限をもかなぐり捨てて、取引不可能とまで言われる企業債務の50%以上がBBBに格付けされた「非投資適格」の「ジャンク債」まで買い上げて、金融資本にくれてやる汚さである。モラルハザードまで犯す典型は、その金融バブル破綻が目いっぱい詰まったジャンク債購入の選択を、今回、世界最大の資産マネージャーである民間の請負業者であるブラックロックに外部委託したことである。ブラックロックは、170を超える年金基金、銀行、財団、保険会社の資産を管理しており、ジャンク債および投資適格社債取引所上場投資信託(ETF)の最大の発行体の1つなのである。好き勝手に利益をウォール街に分配する、完全な利益相反と言えよう。彼らのなすがままにさせるのである。
このパンデミックの最中に、FRBは4/9、さらに最大2兆3,000億ドルのローンを提供する新しいMain Street Lending Programを発表し、資本のニーズを最優先することをあきらかにし、パウエル議長は「これらの力を、力強く、積極的に、回復への道が確実にあると確信するまで引き続き使用する」と開き直っている。
欧州中央銀行が発表したパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)も、7,500億ユーロの大部分が金融バブル破綻に瀕する金融資本や大企業債券を購入するために使用されることが明らかにされている。
1930年代大恐慌に際して、当時のルーズベルト米大統領は、「巨大な企業家や資本家の活動を何でも容認してきた時代は去った。…富と生産物を一層均等に分配し、…投機家、相場師、さらには金融業者の活動を制限しなければならない」と明示して、ニューディール政策の基本を明らかにした。
奇しくもその基本は一致しているが、今回の世界大恐慌2.0に対応する、新たなニューディール政策こそが問われている。
(生駒 敬)