【投稿】富裕層は「不作為」・「無責任」で“引きこもり”、低所得層は防備手段なしで最前線に―新型コロナウイルス「緊急事態宣言」

【投稿】富裕層は「不作為」・「無責任」で“引きこもり”、低所得層は防備手段なしで最前線に―新型コロナウイルス「緊急事態宣言」
                            福井 杉本達也

1 新型コロナウイルス「緊急事態宣言」の意味
 政府は、4月7日には国から東京・大阪など7都府県に『緊急事態宣言』を出し、さらに16日にはこれを全国に拡大した。15日、クラスター対策班メンバーの西浦博北海道大学教授は「対策なしなら日本でも死者42万人、接触8割減を」という試算・提言するとともに、「7割減」ではなく「8割減」に拘った。しかし、17日の安倍首相は会見の冒頭は「最低7割、極力8割の接触削減」と控えめだった。最初から8割減などというのは無理筋中の無理と匙を投げている。「クラスター」という“仮想現実”論をお経のように唱えてきた西浦氏は自らに責任が及ばないように早くこの「泥船」から逃げ出したいので“言い訳”を考えたのであろう。接触削減率に対し、ノーベル賞受賞者の本庶佑特別教授は「数字自身にはあまり意味がないと思う。だいたいこういう推計というのは経済の予測でも当たった試しがない。」と切り捨てた(羽鳥モーニングショー:4月16日)。
 院内感染が東京を始め全国で多発し、感染がどこまで広がっているか分からない危機的状況にもかかわらず、いま、専門家会議委員・クラスター対策班は自らの経歴に傷がつかないよう「逃げ」にかかっている。その「総無責任体制」の頂点に立つのが(“立つ”のではなく、振り回され、孤立している)安倍首相である。児玉龍彦東大先端研先端科学技術研究センター教授は4月2日の「デモクラシータイムス」の金子勝立教大特任教授との対話において、現在の状況を「不作為」・「逃げ、逃げ、逃げ」の姿勢であり「誰も責任を問われない」とし、「いまの専門家会議委員は社会的責任はゼロです」と述べた。政府は「外出自粛」を呼びかけるものの、医療や経済補償など社会全体のシステムが守ってくれなければ、「手洗い」や「マスク」などの新自由主義的「自己責任」で自身を守れるはずはない。まして、検査もできず熱があっても家族と「自宅待機」などはもっての外である。
 児玉教授(上記対話:4月13日)によると、文科省は配下の先端のPCR検査機器なども持つ大学や研究所に対し「何もするな」と号令をかけている。理由は今回の新型コロナウイルス感染の案件は厚労省案件であり、「厚労省の表に立つな」、「責任を取るな」、新型コロナウイルス関連では「犠牲者を1人も出さない」ということである。そのため、東大では4月8日にレベル3が発令され、全学閉鎖・緊急以外の研究室への立ち入り制限、新型コロナウイルスに関する必要な研究もできない。5月以降の授業はオンラインでも出来るかもしれないが、基礎研究はオフライン作業でしかできない。レベル4が発動されれば「新型コロナの研究もやめろ」となる。「いままでと異なることをやって非難されるよりも“引きこもり”が安全だ」というのである。こうした、省庁間の「無責任体制」は原発でも見られる。1995年12月の「もんじゅナトリウム漏れ事故」では、当時の旧通産省資源エネルギー庁は「あれは科学技術庁(現文科省)の案件であり、実験炉が事故を起こすのは当たり前だ」とした。
 要するに、富裕層(政府・官僚・大企業・大学)はテレワークや自宅などの安全圏に“引きこもる”ので、食料の供給や社会的インフラを維持するために中小企業やサービス産業・運送業など・その雇用者・非正規職員・貧困層は防備手段なしに「闇雲に」感染の最前線に立って社会サービスを行えということである。

2 低所得・貧困層の感染が富裕層よりも格段に高い(米国の統計から)
 日本よりは少し感染状況が明らかな米国では「新型コロナウイルスの健康への影響が、アメリカでは特に黒人に偏って多いことが統計から明らかになった。ウイルスのパンデミック(世界的流行)によって、人種間の経済格差が浮き 彫りになっているという指摘が相次いでいる」。「米中西部イリノイ州シカゴでは、人口に占める黒人の割合は約30%だが、新型ウイルスによる 死者では70%超にもなっている」。「同市の4月5日時点のCOVID-19患者は4680人 で、うち1824人が黒人だった。一方、白人は847人、ヒスパニックは478人、アジア系は126人だった。同日までの死者は98人で、その72%が黒人だった」。「アダムス長官はさらに、アメリカの有色人種は新型コロナウイルスを浴びる機会も白人より多 く、COVID-19の症状が悪化するおそれも高いと指摘」している(BBC:2020.4.11)。NY市が作成した「感染マップ」。市内全域を細かく区切り、3月31日時点の感染者数を4段階に色分け。色の濃いのが感染者数の多い地域、色の薄いのが少ない地域となっている。感染者数の多い地域は住民の平均年収が低く、感染者数の少ない地域は、住民の平均年収が高い。マンハッタン地区に近い色の薄い一帯がパークスロープと呼ばれるエリアで、世帯収入は約1450万円と高く、真っ先に自宅にこもった高所得層が多い。一方、低所得層や貧困層の多くはテレワークが困難なサービス業に従事し、仕事を休むと即、解雇されるリスクも大きい。密閉・密集・密接の危険を承知で、今も地下鉄を使い通勤し続けている(猪瀬聖:Yahooニュース2020.4.4)。東京や大阪でも、いま徹底したPCR検査を行えばこうした感染実態が浮かび上がるはずである。そこに、どう人的・物的医療資源を投入できるかが勝負の分かれ目である。http://www1.nyc.gov/assets/doh/downloads/pdf/imm/covid-19-cases-by-zip-04202020-1.pdf

3 地方の状況はどうなっているか―福井県の場合
 福井県の感染者数は4月21日時点で118人となり、人口10万人あたりの感染者数では、東京・石川について3番目に多いことになっている(東京、大阪などの感染者数の信頼性は全くないが)。福井の特徴は人口が76万人で、まだ1990年代までの“古き良き”公衆衛生行政という保健所を中心とする感染経路を足で追う調査形態が可能だということがある。福井では、3月下旬に「片町」という歓楽街のラウンジから大量に感染者が発生し、複数の地元企業の経営者層だったことから、福井県経営者協会は「会社役員自らが感染拡大を招くという恥ずべき事例も報告されています…この危機に打ち勝つためには、一人一人の行動が今後の福井の行く末を決めることを強く自覚することが必要です」という声明まで出す事態となった(4月9日)。ラウンジの経営者は個々の顧客について秘密を貫いたことから感染経路の調査は困難だったが、個々の経営者の特定から2次感染した子供の学校まで特定できるという狭い地域性もあり、保健所としては感染経路の9割は把握しているとしている。
 しかし、3次救急を受け持つ県内の最重点病院である福井県立病院における看護師の院内感染は事態を震撼させた。看護師は感染症病棟と一般病棟を兼務しており、患者が急速に増えた時期に感染症病棟を移動する作業に携わり感染したと思われる。そのため、一般病棟の患者45名と職員54人のPCR検査を2日に分けて行った。退院した患者を追うことは少し遅れたが、幸いにして現在2次感染者は出でていない(福井:2020.4.14)。感染の原因は一般病棟との兼務というルートがクロスする初歩的管理ミスと感染防護対策の甘さがあったといえる。感染症対応に近い訓練として、福井県では原子力防災訓練を毎年行っており、放射能の防護や除染の訓練も行っていたが、一部の関係者に限られていたのであろう。
 一方、福井県では独自にマスクを手配し、4月24日から全世帯にドラッグストアーを通じて100枚を販売する取り組みを始めた。政府・富裕層の「不作為」を無視して、命を守るための地方の具体的な取り組みが始まってきた(日経:2020.4.20)。

4 トランプのWTOと中国叩きは選挙対策と中国に負けたことを認めたくない「嫉妬」
 4月18日にトランプ大統領は「中国がさっきコロナの死亡者数を2倍に修正すると発表した。実際はそれどころではない、アメリカよりよほど多い まるっきりかけ離れているのだ!」とTweetで中国の対応を罵った。CNNによると「米国内の症例数は75万5533例を超え、死者は 4万461人」(2020.4.20)と、世界最大の感染者数・死者数となってしまった。さらに、大統領選のため、ロックダウンからの “出口戦略”で「抗体検査」を始めたところ、「米シリコンバレー、実際のコロナ感染者数は公式発表の50倍超 」という研究結果が出ている(AFP:2020.4.18)。これでは大統領選挙は闘えない。そのため、“敵”を中国や中国を擁護するWTOに向けている。
 中国・深圳にある。BGI(華大基因)は、これまで大小さまざまな動植物のDNA配列を解読してきた。シークエンス能力(遺伝情報の解析で基本的な作業となる塩基配列の読み取りを高速に行う)は現在、世界一である。BGIは世界の遺伝子検査市場でシェア60%を占める。ウイルスなどの病原体の対策をするには、まず病原体がなんであるかを同定しなければならない。BGI は最新のシークエンサーを駆使して最速で新型コロナウイルスの遺伝子配列を確定した。このBGIとスイス製薬大手ロシュが組み、簡易な検査キットを開発した。この検査キットを韓国や欧州、そして米国も採用さざるを得なかった。米国は独自のものをやろうとしたが、ともかく検査数が優先されたので、できなかった。中国に遺伝子工学や情報科学で完全に敗北したのである。世界の科学技術の構造変革についていけなくなっている。トランプのWTOへの拠出金の停止という“いじめ”はこうした科学技術覇権敗北への「嫉妬」以外の何ものでもない(児玉:上記 2020.4.13)。日本も専門家会議の尾身茂氏などはかつてはWTOでポリオ感染防止の指導的な立場にあった。しかし、こうした遺伝子工学・情報科学の進展に全くついていけない状況となっている。

5 ガラパゴス的PCR検査に拘泥する日本
 金子勝教授は「国立感染症研究所や厚労省などが出席した先月8日の拡大対策会議の議事録によると、感染研は古いLAMP方式での独自開発を検討し、ガラパゴス的な手法で検査を独占する愚かな考えにとらわれていたようだ。その結果、検査実施に制限がかかった。こうした犯罪的行為を誰も追及しない」(日刊ゲンダイ:2020.3.18)と指摘した。日経も「感染研は必要な試薬や装置を組み合わせて自前で確立した検査手法にこだわった。中国・武漢をはじめ世界に供給していた製薬世界大手ロシュの検査キットを使って国内の民間会社が検査をし出すと、検査の性能のばらつきで疫学調査にとって最も大切なデータの収集が難しくなる。これが検査能力を拡大するボトルネックとなった」(日経:2020.3.11)と批判したが、危機的状況となっている現在も体質は変わっていない。東京の小池知事と大曲貴夫国際感染症センター長は今も「外来に患者がいっぱい来たら困る」と検査制限を行っている。大阪の吉村知事も同様である。松井大阪市長の医療用ガウンの代わりとしての「雨カッパ」寄付要請は「不作為」・「無能」の象徴であり、世界からバカにされている(BBC:2020.4.19)。木村祐輔シカゴ大学教授はブログで「軽症者が行動制限を受けないままに、感染が広がり、感染経路不明の感染者が増えている状況をどのように捉えているのか?そもそも、『PCR検査を広げれば、医療崩壊が起こるので、検査をしない』という『おまじない』のような言葉で、この感染症を乗り切れると考える非科学的な妄言は、この人たちの世界の常識であるかもしれないが、明らかに世界の非常識、まさにガラパゴス島の発想だ」(2020.4.20)と述べている。ロシュ社製の最新式PCR検査用自動測定装置COBAS8800Systemは1台9000万円で1日4000件の検査が可能である。国内では数台が入っている。少し旧式だが6800Systemは20台近く入っている。これらを動かせば1日数万件の検査は可能である。各地の保健所(実際の検査業務は衛生研究所)に入っているような米アプライドバイオシステム社製QSで1回20件(8時間)×3回で1日最大60件・寝ずにやっているようなチマチマした検査とはわけが違う(福井県では3台で最大198件/日、ところが石川は87件、富山はわずか50件しかできず、検査が間に合わず医療崩壊状態に向かいつつある:日経2020.4.21)。ところが文科省はレベル3だとして各大学・理研などに入っているこうした機器を使わせない。もともと、こうした装置はP2レベル、P3レベルといった拡散防止措置をとる実験室に置かれている。衛研で検査するより、よほど安全である。
 児玉教授は、まず①膨大なPCR検査、②ドライブスルー検査、③プレシジョン・メディシン(Precision Medicine:精密医療:患者の個人レベルで最適な治療方法を分析・選択する)新型コロナウイルスという感染症に適用すれば、「感染者のGPS追跡」であり、陽性者にパンデミック番号を付与・また、感染した店や学校・会社にも匿名化した番号を付与し、そのカルテを責任ある立場のリーダーがプライバシーを保護して追跡調査を行う、新しい情報人権論、④社会的インフラを支える人の全面支援 であり、病院、介護、交通、食品、電気ガス、警察、物流などを支えることであり、ここでは「抗体検査」を行い知らずに感染して既にIgG抗体が出来て回復している人に「免疫パスポート」を与え社会的インフラを支える、そして⑤武漢のような感染症集積地への全力をあげての非感染地区からの医療資源の投入(武漢では感染症対策のプロ:鐘南山氏がリーダーとなり、人民解放軍医療部隊が中心となり5万4千人投入と1000床規模の病院2つを2週間で建設)―ことを提唱している。(児玉:上記2020.4.13)。

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