【投稿】危うし・米中対立激化に逃げ込む米政権--経済危機論(23)

<<焦りから、責任転嫁へ>>
4/30、米トランプ大統領が会見で、「(新型コロナウィルスの)感染拡大は、中国の責任だ」と声を高らめ、「中国はウイルスを封じ込めることができたはずだ。能力の問題でできなかったのか、あえてしなかったのか、そのどちらかで、世界が非常に苦しんでいる」と語り、中国武漢の研究所が新型コロナウイルスの発生源となった可能性を確信していると述べ、ウィルス流出が故意であった可能性をほのめかし、賠償請求を示唆し、報復として、「より直接的な方法もある」と述べるに至った。危険な事態の到来である。
これは、明らかな責任転嫁である。今年の1月から2月、まだパンデミック危機の早い段階で、トランプ氏は中国の習近平国家主席と彼の政府がウイルスの取り扱いについてわざわざ取り上げ、しかも繰り返し褒め称える発言をしてきたことは周知の事実である。2/25には、トランプ氏はツイッターで、「米国では新型コロナウイルスはかなりコントロールできており、各方面や関係国とも連絡を取っている。米疾病予防管理センター(CDC)とWHOは非常に努力しており、非常に賢明だ。自分の目には、株式市場も好調に推移し始めていると映っている」とまで述べていたのである。
それが豹変である。氏の移り気、精神的・情緒的不安定さは今に始まったことではないが、自らのパンデミック対策を真剣に取り組まなかった犯罪的な不作為、油断と怠慢の結果として、新型コロナウイルス感染者は累計100万人を超え、アメリカが最大の感染国となり、死者数は米軍のベトナム戦争中の戦死者数を上回る事態を招いてしまった。11月の米大統領選を控え、トランプ氏の支持率はどんどん低下しだし、焦りだしたのである。挙句の果てにトランプ氏は、4/23の会見では、「体に紫外線や、とても強い光を当てたらどうなるか。あるいは光を体内に持ち込めないか」「消毒薬は1分で(ウイルスを)やっつける。体内に注入して同じことはできないか」などと致命的ともいえる無責任で恥知らずで愚かな発言、グロテスクな提案をまでしでかし、消毒薬メーカーが急遽「どんな状況でも飲んだり注入したりしないように」と声明を発表せざるを得ない事態に追い込まれ、あれは「皮肉のつもりであった」と弁解に追われる始末である。
2019年12月、350人のアメリカのメンタルヘルス専門家が、トランプ大統領の「悪化するメンタルヘルス」が「私たちの国の安全への脅威」を構成すると述べた議会への手紙に共同で署名した、その危険で憂慮すべき事態への警告が現実化しているのである。
ここまで追い込まれたトランプ政権にとって、反撃に必要不可欠となったのが、WHO(世界保健機関)と中国であり、彼らをスケープゴートとして非難と制裁の対象としたわけである。まずはWHOへの拠出金をストップさせた。

<<中国人民元、劇的な下落>>
次いで、トランプ氏を支える共和党主流派は、中国への責任転嫁で結束し始め、すでに4/21にはミズーリ州のシュミット州司法長官が中国に対する数十億ドルにおよぶ損害賠償の提訴を発表、テキサス州では20兆ドル、フロリダ州では6兆ドル、カリフォルニア州では8兆ドルなどの集団訴訟が提起されている。

トランプ政権はこうした動きに便乗して、より一層強硬な姿勢を示すべく、先の4/30の大統領自身の会見となったわけである。中国との対立・緊張激化への道にトランプ再選の道、展望を見出そうとしていると言えよう。現時点では国務省やホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)、財務省、国防総省など複数機関の当局者が非公式にさまざまな選択肢を議論しており、「中国にどの程度強硬な措置を講じ、どのように適度に調整するか議論が交わされている」と報道されている。
5/1、こうした報道の最中、トランプ大統領が中国の株式への投資から政府の退職基金をブロックし、コロナウイルスの危機に対して中国に新しい関税を課す、「COVID賠償」を求める計画、という報道が追加され、米株式市場は一気に下落、米中貿易戦争の再燃・再開・激化・新展開が現実化するものとして予測され、中国人民元は、劇的に下落する事態となった。(上図)
このところ、米軍艦が南シナ海で挑発的作戦をしきりに増大させているのも偶然の一致とは言えないであろう。
明らかにトランプ政権は、反中国感情を大統領選の最大の柱にし、パンデミック危機と経済恐慌は、自らの政権の責任ではないという責任転嫁路線にかじを切ったのであろう。
トランプ氏に典型的な新自由主義路線、市場原理主義、社会的セイフティネットの破壊、格差拡大路線こそが、経済恐慌を招き、パンデミック危機に際して全く無力な事態を形成してきたのである。それがゆえにこそ、マスクから人工呼吸器の備蓄さえできていない、生産もできない、国民健康皆保険まで拒否してきたツケが一気に現れ、逃げ場を失って、危険な路線にかじを切ろうとしているのである。
これは単純な責任転嫁ではない。コミカルで一過性のようにも見せているが、悪意ある危険極まりない路線であり、人びとに害と苦しみを与えるものである。その根本に横たわる、こうした事態を招いた新自由主義路線からの根本的転換こそが、いよいよ差し迫った課題となっていると言えよう。
(生駒 敬)

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