【投稿】果てしなき消耗戦「出口戦略」なき緊急事態宣言の延長-新型コロナウイルス対応
福井 杉本達也
1 「出口戦略」なき緊急事態宣言の延長
5月4日、新型コロナウイルスへの対応を協議する政府対策本部が開かれ、緊急事態宣言の対象地域を全都道府県としたまま、医療提供体制の逼迫などを理由に5月31日まで延長すると決定した。安倍首相は同日夕方の会見で、①感染者が減っているのか具体的数字は示せないが、② 引き続き外出を控えろ、③ 経済は大幅に悪化するが、④生活の補償はしない、というのである。全く説得力のない無責任極まりない居直りであり、客観的データが示せず、今後もだらだらと「出口戦略」なき「自粛」要請が続く空恐ろしい会見である。
そもそも、4月7日の宣言以来何をしてきたのか。PCR検査は極端に少なく、感染者がどれだけいるのかも把握できない。医療用防護具も供給できず各地の病院で院内感染が起きている。学校は3月初めから休校で、5月まで休校なら3か月間も休校となる。「小1」の実態は「園児」のままである。どれだけ学力が低下してきているのか想像もできない。アルバイト先のない大学生・専門学校生の2割が学業を継続できず退学せざるを得ないと回答している。サービス・小売業・旅客運送業を始め日本経済は瀕死である。エコノミストは2020年度通期のGDPはマイナス5.9%になると予測している(日経:2020.5.5)。5月末まで現状の「自粛」が続けば過半数の中小零細企業は持たないと回答している。非正規労働者やフリーランスなどは新型コロナウイルスに感染する前に無能の安倍政権に殺される。国民にいい加減な「消耗戦」を強いることは許されない。「食事では料理に集中、おしゃべりは控えめに」・「筋トレやヨガは自宅で動画を活用」などと余計なお世話の「新しい生活様式」を“提言”する専門家会議にはあきれるしかない(『専門家会議の提言』2020.5.4)。仕方なく、各県はバラバラに解除の議論を始めた。全く統治能力を欠く政権である。
2 PCR検査の不備は認めるものの、無責任に居直る専門家会議
『専門家会議の提言』では「新規感染者数は減少傾向に転じる という一定の成果が現れはじめている」としつつ、PCR検査数について「日本の 10 万人あたりの PCR 等検査数は、他国と比較して明らかに少ない状況にある」と渋々認めたものの、「これらの国々と比較して、潜在的な感染者をより捕捉できていないというわけではない」と居直った。
なぜPCR検査能力が拡充されないかについて「PCR 等検査体制は、国立感染症研究 所と地方衛生研究所が中心となって担ってきており、COVID-19 の国内発生に当たっても、既存の機材等を利用した新型コロナウイルス PCR 検査法が導入された」と古色蒼然とした検査体制と、古い機材の30年以上昔の“竹槍戦術”のまま新型コロナウイルスに対応していると認めた。検査待ちが続出したことについては「①入院先を確保す るための仕組みが十分機能していない地域」があったこと=病床確保のために検査数を制限したこと、「②保険適用後、一般の医療機関は都道府県との契約がなければ PCR 等検査を行うことができなかった」=医師の診断ではなく、保険適用後も頑として行政検査を続け、検査の是非の判断をしてきたと認めた。そもそも、公権力を前面に出した保健所を中心とする足で稼ぐ行政検査は20世紀のアナログであり、「21世紀の世界標準から取り残されてしまっている」(「アナログ行政遠のく出口」青木慎一:日経:2020.5.5)。かつて、厚労省はo157(腸管出血性大腸菌)事件(1996年)においても、本来は食中毒事件として扱うべきものを下手に感染症に指定したがために感染経路を調査せざるを得なくなり対応が後手後手になった経過もある。公権力さえ前面に出せば感染症は制圧できるという“古き良き時代”はとっくに終わっている。山梨大学島田学長は「地方衛生研究所・保健所が検査をほぼ独占してきた。行政機関のみに依存する体制はそもそも無理筋」、民間検査会社と大学が大きな役割を担うべきと正論を述べている(朝日:2020.5.6)。
尾身氏は首相会見の場で「日本では、肺炎を起こすような人のほとんどがCT検査をやられて、多くがPCR検査をやられて正しい件数がピックアップされていると思う」と嘘八百で、全く他人事で責任意識のかけらもない。押谷東北大教授も「PCRをしないから、上手くいっている」と公言している。「軽症者を検査すると医療崩壊する」という論理で軽症者は検査せず放置してきたのはどこの誰なのか。
3 小池は「ロックダウン」の脅しで責任逃れを続け、都知事選を乗り切るつもりか
小池都知事は「ステイホーム」を声高に叫び、初期には「ライブハウス」、そして「若者」、「夜の街」(歌舞伎町)を、最近は「パチンコ」、「スーパーは3日に一度」、「公園の3密」など、恫喝に抗って出歩く者は「社会の敵」として犯人探しに躍起となっている。その一方で、会見は必ず感染者数の少ない月曜日を選ぶも、都合の悪い院内感染や医療崩壊の課題に触れることは一切ない。日テレは新宿区の「東京新宿メディカルセンター」の患者と看護師など24人が院内感染し、また集団感染が起きた杉並区の「城西病院」の患者ら6人と、江東区にある特別養護老人ホーム「北砂ホーム」の入所者2人の感染も判明、新たに5人の死亡うち2人は、大規模な院内感染が起きた「永寿総合病院」の患者だと報道している(日テレ:2020.5.4)。東京新聞も、5月1日に都内で最多の15人が亡くなったことについて、「そのうち11人は多数の感染者が出ている中野江古田病院(中野区)の入院患者で、他の4人も病院施設の入院患者だった」と報じている(東京:2020.5.3)。また、日経も「練馬光が丘病院」で52人集団感染、5人死亡、隅田区の「山田記念病院」での33人感染2人死亡を報じている(日経:2020.5.2)。特に「永寿総合病院」は感染期初期の屋形船の感染者が入院しており、また「中野江古田病院」は、docomo中野のコールセンターの集団感染をめぐっては、発生から2週間もどこのコールセンターで感染があったかの事実をひたすら隠し、消毒後に公表。感染者を追跡できなくなり、結果、周辺の「中野江古田病院」や「総合東京病院」でも院内感染が発生し被害が拡大した。小池は大企業には優しく、都民には極めて厳しくあたる。「接触機会8割削減」を喧伝しているが、具体的な根拠はない。感染が収束しないのは協力しない都民のせいとするが、院内感染の多発はPCR検査の遅れと医療体制の不備によるもので都の責任は重大である。都民の厳しい目を逸らすため9月入学制を打ち出し,都民に全ての責任を転嫁し自らは責任逃れを続けている。
4 お前だけには言われたくない―ジョンソン英首相と維新の「大阪モデル」?-
ジョンソン首相は新型コロナウイルスで隔離中のビデオメッセージで「我々は打ち勝ちつつある。我々はともに打ち勝ちつつある。コロナウイルス危機がすでに証明した一つのことは、社会なんてものはほんとにあるんだということだ」(Boris Johnson has stressed that “there really is such a thing as society”)と強調し、2万人の全国医療サービス(NHS National Health Service)退職者たちがウイルスとの闘いのために職場に復帰したことに感謝した(2020.3.29)。メッセージは保守党の大先輩・マーガレット・サッチャーが1987年に行った「社会なんてものはない」:(“There is no such thing as society.”)という新自由主義宣言の裏返しである。サッチャーは社会的政策を否定し、民間企業にすべてを委ねる民営化路線をひた走った。米英そして中曽根政権以降の日本の経済・社会政策はこの新自由主義に彩られている(濱野桂一郎:hamachaブログ:2020.3.30)。
第二次世界大戦中の1942年の「ベヴァリッジ報告」に基づきNHSを導入したのは、1945年に成立した労働党政権である。保険料ではなく税金を財源として、国民全員に無料の医療を提供する「ゆりかごから墓場まで」の「福祉国家」英国の象徴的な制度でもあった。しかし、サッチャーは、NHSの制度をずたずたに切り刻み、無料の医療の対象を狭めてしまった。結果、受診待ちの患者が急増した(参照:文春オンライン:河野真太郎 2020.4.26)。今回、保守党の政治家であるジョンソン首相自らが、サッチャー路線を否定する言葉を述べたことは歴史の皮肉であるが、「我々」“We are going to do it, we are going to do it together.“とは言って欲しくはないものである。
一方、大阪では維新の元大阪市長・府知事の橋下徹や吉村知事をフジテレビ系などが盛んに持ち上げている。橋下は3月まではPCR検査不要論を唱えていた張本人でもある。橋下市長・知事時代には千里救命救急センターへの補助金3億5千万円削減、大阪赤十字病院の補助金廃止、府立健康科学センターの廃止、吉村大阪市長時代には住吉市民病院潰しなど、医療費適正化計画による医療費削減と病床削減が行われた(橋下徹twitter 2020.4.3)。
感染者の4割が集中する大阪市では4月中旬、相談から検査までに最長10 日間かかっていた。府内では、大阪健康安全基盤研究所(大阪市)や医療機関などで1日当たり計約 420件の検査能力しかない(時事:2020.5.4)。1台で20件/8H×3回転=60件/日とするとたった7台の検査機器しかないことになる。ちなみに、人口76万人しかいない福井県でも3台の機器を所有し、1日最大196件の検査が可能であり、明らかに大阪府の検査能力は不足している。大阪市消防局の30代男性救助隊員が新型コロナウイルスに感染したが、府内の保健所ではPCR検査の必要はないと断られ、兵庫県内の保健所へ相談し検査した結果、陽性が確認され、同僚16人も自宅待機となった(毎日:2020.4.29)。それもこれも、これまでの維新による大阪府・市の「二重行政」“解消”という名の下の新自由主義による医療合理化政策の影響である。松井一郎現大阪市長は知事時代「僕と橋下市長でも解消できない二重行政があります。港の維持管理運営、大学、研究所、3次医療を受け持つ病院等々です」(2015.5.2松井twitter)と発言し、大規模な災害・事故の時には負傷者治療の重要拠点になり、住民の命に直結する最も重要な3次救急医療体制潰しに狂奔していた。
5日、吉村知事は出口戦略として「陽性率」や「重症患者用の病床使用率」などを基準とする「大阪モデル」?を打ち出した。しかし、大阪市内では、「なみはやリハビリテーション病院」(生野区)での130人感染、「大阪府済生会泉尾(いずお)病院」(大正区)での14人の感染(産経:2020.5.3)、天王寺区の「第二大阪警察病院」など、府内でも吹田市の「大和病院」、「市立ひらかた病院」、「明治橋病院」(松原市)など院内感染が多発している。さらに、「なみはや病院」では50人の看護師のうち20人程度しか出勤せずに人手不足で代わりが見つからないとして感染した看護師を無理やり夜勤勤務させ、また別の看護師には32時間連続勤務なども命じていた(日経:2020.4.25)。院内感染を防ぐには、入院患者と外来患者、医療従事者の全員を検査する必要がある。対策が「雨がっぱ」の寄付要請ではあまりにもみじめでである。「大阪モデル」?はやってる感だけ。市役所に山と積まれた「雨がっぱ」の後追い詳細報道もない。橋下は貧弱な大阪の医療体制について「お手数をおかけしますが見直しをよろしくお願いします。」とツイートしているが(橋下:同上)、「ポリ袋で医療用ガウン作製 市職員、目標2万着―大阪・豊中 」(時事:2020.4.27)と報道されるる「市立豊中病院」の状況下で、PCR検査に10日もかかっていていながら正確な陽性率を算出しての宣言解除はできるのか。