【投稿】米大統領の危険なエスカレート--経済危機論(29)

<<トランプは「政治的ジェノサイドを犯した」>>
この9/15発売予定の新著『Rage』(怒り)で、米紙・ワシントンポストの上級記者・ボブ・ウッドワード氏は、トランプ米大統領が、なんと今年の2月初めには、新型コロナウイルスの危険性について、「ボブ、そいつは空気をすり抜け、接触感染よりも強力なんだ」と、ある意味では正確に認識していたことを暴露している。
2/7、トランプ氏はウッドワード氏に、習近平・中国国家主席から、新型コロナウイルスによるパンデミックの危険性について、明確かつ率直な評価を提供され、話し合ったところだと語っており、録音もされていたのである。

トランプ氏は、「このウイルスは空気を介して感染する。接触感染よりも厄介だ。感染するのに物を触る必要がないんだから。かなり油断ならないウイルスだ。細心の注意がすごく必要だ。これは致命的な問題なんだ。あの致死率1%か1%未満のやっかいなインフルエンザよりも致命的で、…これは5%(致死率)なんだ」と認識していたのである。

このとんでもない事実の暴露(9/9発表)は、トランプ氏のウイルス危険性認識において、これまで流布されていた、まったく楽観視していた、甘く見すぎていた、といった程度の話ではない、深刻なものである。正確に認識していながら、自らの個人的・党派的・政治的利害のために、パンデミックの危険性を徹底的に隠ぺいし、感染拡大を放置して、何万人もの人命を犠牲にしていたのである。今や、全米の死者は20万人にまで達しようとしている。

「トランプは殺人者か?」(9/10, 2020 by Common Dreams)

トランプ氏は、2/26には、アメリカで15人の感染が確認されていた当時、記者会見で「数日以内に感染者数はゼロに近づくだろう。我々はかなりうまく対処している」としらを切り、インフルエンザのほうがはるかに危険であるとまで示唆している。ウイルスは季節性インフルエンザと同等であると約束し、「消える」と約束し、症例は「減少」していると主張し、ウソと隠蔽で押し切ろうとしている。

さらに3/10には、議会で「落ち着いて。新型ウイルスはそのうちなくなるから」と発言している。それからどんどん感染が拡大してきた9日後(ホワイトハウスが国家非常事態を宣言してから数日後)にトランプ氏はウッドワード氏に対し、なんと、「新型ウイルスについて過小評価したかった。今でも過小評価したいと思っている。パニックを起こしたくないからね」と露骨に、あけすけに自らの言葉で告白しているのである。

ウッドワード記者は昨年12月から今年7月までの間にトランプ氏を18回もインタビューしている。ウッドワード氏の反駁しがたい証拠を公開されて、トランプ氏は9/10、「ボブ・ウッドワードは僕の発言を何カ月も報じなかった。僕がすごくひどいことや、危険なことを言ったと思ったのであれば、人の命を救うためにどうしてすぐに報じなかったんだ?」、とツイートして、開き直っている。同じ9/10の記者会見で「うそはつかなかった。我々は落ち着かなければならない、パニックになってはいけないと言ったんだ」と述べたが、発言の核心を否定できず、これは「政治的な攻撃」だと逃げている。これに対してウッドワード氏は、「私が抱えていた最大の問題は、トランプ氏との間では常に問題になることだが、彼の発言が本当かどうかわからなかったことだ」と述べ、大統領選までに取材内容を公表することが重要だったとAP通信に明かし、「自分の本をクリスマスや年末に出版するなんて考えられなかった」と述べている。(9/11 BBC News)
この一連の経過から、アメリカの進歩派・独立情報メディアのコモンドリームズは、「トランプは殺人者か?」(Is Trump a murderer ?)という記事を掲載し、トランプが単なる無能な略奪者ではなかったという反駁できない証拠が提起されており、彼は早い時期からコロナウイルスの危険性を完全に理解していながら、故意にそして繰り返しそれを軽視し、公に嘘をついてきたのである。この振る舞いは、無能さや無謀さを超えて、政治目的でのジェノサイド・大量殺戮の罪を犯したものである、と論じている(9/10)。その通りであると言えよう。

<<「戦争を開始する」危険性>>
9/8発売の『Disloyal: A Memoir』(不忠:回顧録)で、トランプ氏の元腹心であり、元弁護士であったマイケル・コーエン氏は、トランプ氏が大統領選後の11月以降も、大統領職にとどまれるように「戦争を開始する」危険性をまで警告している。「私には、投票用紙の操作も含まれていると思いますが、彼が自分自身が職から解任されるのを防ぐために、戦争を始めることさえあると思います。私の最大の懸念は、2020年に平和的な権力の移行がないことです。」とまで述べている。この本の序文で「『勝つ』ためなら何でもする、本当にどんなことでもする、というのが常に彼のビジネスモデルであり、彼の生き方となってきたからだ」と記し、トランプ氏は「ずるいうそつき、偽物、他人をいじめる横暴な人種差別主義者、獲物を狙う常習者、詐欺師」だと書き、「マフィアのボス」のような発想をする人間だと非難している。いまさらながら、よくもこんな人物が、と慨嘆せざるを得ないが、もちろん、トランプ氏はコーエン氏のことを、「チクリ」の裏切り者で、うそつきだと罵倒している。
いずれにしても、たとえバイデン氏が勝利宣言しても、トランプ氏が敗北を認めようとしない事態、居座りを策し、混乱とカオスが持ち込まれる危険性が指摘され出しているのが現実である。中国やイランに対する意図的で挑発的な対決姿勢は、一触即発の戦争の危険性をさえ示しており、その可能性は否定しきれないものでもある。
しかし大統領選で勝利するためには、トランプ氏は何よりも国内で自らの方が優勢であることを明示しなければならない。どの世論調査でもトランプ劣勢と出ている事態を巻き返す、最大の政策的対決点は、トランプ氏にとって経済・景気回復であったが、自らのパンデミック放置政策によって、経済危機とパンデミック危機が結合してしまい、経済危機はこれからいよいよさらに厳しくなる事態が目前に迫っている。これまでトランプ氏は、史上最高値の株高を誇示してきたが、その株高も乱高下を繰り返し、不安定極まりなく、格差拡大が極限にまで推し進められ、実体経済の衰退・後退がより一層鮮明となってきている。

<<分断、差別、暴力を煽るトランプ>>
トランプ氏がこのところ声高に前面に押し出している「法と秩序」路線は、その行き詰った挙句の果ての唯一残された打開策だとも言えよう。トランプ氏は、先に開かれた共和党の全国大会で、ブラックライブズマター運動の参加者を「アナキスト、扇動者、犯罪者」と決めつけ、これに対抗する人種差別主義を擁護し、暴力的対決路線を前面に押し出し始めたのである。危険なエスカレートである。
その典型となったのが、8/25、ウィスコンシン州ケノーシャで起きた17歳の少年による抗議運動参加者銃撃事件であった。犯人のカイル・リッテンハウスは、警備する警官の前で公然とアサルトライフル銃を引っ提げ、この他の市から乗り込んできた自称民兵の活動に対して、警察幹部から「感謝」の言葉さえもらい、ボトル入りの水を提供してもらい、その上で抗議運動参加者3人を銃撃し、2人を殺害、1人に重傷を負わせ、逃げ道まで用意されていたのである。
8/31、このリッテンハウスの行動についてコメントを求められたとき、トランプ氏は、彼の行動を非難することを拒否したばかりか、自衛行為だったと強弁し、「彼は彼らから逃げようとしていたのだと思う。でなければ、彼はおそらく殺されていただろう」と述べて、殺人犯を擁護したのである。(以上、USA TODAY 8/31 より)
9/7の記者会見でトランプ氏は、「誰かが法を犯しているなら、報復の形態がなければならない」とまで述べている。ここまでくれば、もはやファシストであろう。
9/4付けワシントンポスト紙は、「危機に瀕するアメリカ 追跡レポート:夏の抗議運動は極めて非暴力的であった」という記事を掲載している。この記事によると、この夏に米国を席巻した人種正義の抗議行動の約93%は平和的で非破壊的であり、5月26日から8月22日まで行われた2,400か所での抗議行動の内、「暴力的」になった約220の場所を特定したが、その大部分が極めて限定されたものであった、とレポートしている。
トランプ氏は、こうした毅然とした非暴力的抗議運動の拡大を最も恐れており、逆にトランプサポーターによる暴力的な自称民兵活動に期待を寄せ、結果として「内戦」を煽っているのだと言えよう。しかし、そこには展望は一切存在しないし、一刻も早く、事態を打開できる、抗議運動が要求する、ニューディル政策への転換こそが要請されている。
(生駒 敬)

 

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