【投稿】私的権力が「スイッチを切るように」表現の自由を剥奪するクーデター
福井 杉本達也
1 SNSの遮断はプラットフォーマーによる公然たるテロリズム独裁
1月6日の連邦議会乱入事件を巡ってのトランプ氏のSNS停止について、日経さえ、「暴力扇動の危険があると8日、ツイッターはトランプ米大統領のアカウントを停止した。ほかの2社も対応は似る。…暴力を避ける緊急措置だったかもしれないが、まるでスイッチを切るように個人や組織SNSから排除できるテック企業の力が明白になった。表現の自由のあり方を企業が決めていいのかとメルケル首相がツイッターの対応を問題にするなど批判の声が上がる。」(村山恵一・日経:2021.1.20)と書かざるを得なかった。より正確にはメルケル首相は「永久停止を表現の自由を侵害する『問題ある行為』と指摘、大手IT(情報技術)企業の決定ではなく法整備を通じて発言を縛るべきだ」(日経:2021.1.13)とプラットフォーマーの独善的行為を非難したのである。
かつて、コミンテルン書記長のディミトロフは「ファシズムは、金融資本の最も反動的な最も排外主義的な最も帝国主義的な分子による公然たるテロリズム独裁」であると定義した。全くの私的権力であり、金融資本の代弁者であるGAFAなどのプラットフォーマーが、法の縛りも何もなく、辞任間近とはいえ米国の現職大統領のSNS発言を、「まるでスイッチを切るように」いとも簡単に排除するのは、公然たるテロリズム独裁以外の何ものでもない。米国では堂々と軍産複合体・金融資本とその代理人が言論を統制する時代に入ったと言わざるを得ない。法的権限を有しないということは、私的権力が国を介さずに直接統治する体制を築こうとするものである。これは、ファシズム体制を目指すクーデターである。
バイデンはネオコンと関係が深く、軍産複合体・金融資本をバックにしている。既にプラットフォーマーは各国政府を検閲の対象にしている。周知のように、検索サイトでは軍産複合体・金融資本に都合の悪い情報は検索結果の上位に来ることはない。まずい情報は検閲で「非表示」となる。スノーデンが指摘したように、メール、チャット、ビデオ通話、ネット検索履歴、携帯電話での通話など、世界中のあらゆる通信経路を通過する情報のすべては検閲されており、NSAやCIAの手元に入る。「情報通信産業は利益の追求という『経済的インセンティブ』に突き動かされながら、いまや世界の軍産複合体の中心部で、この広範な戦争と支配の構造を下支えしている」とスノーデンは早くから指摘していた(小笠原みどり:「スノーデンの警告」:2016.8.2)。
米大統領選中の10月18日、ボリビアでは米主導のクーデターで倒されたモラレス前大統領派のアルセ元経済・財務相が当選したが、SNS上でも、西側のメディアでもほとんど無視された。2019年4月フェイスブックはコレア・エクアドル前大統領のページを閉鎖した。ベネズエラでは2020年5月CIAによるクーデター計画が失敗したが、ほとんどSNS上では話題にもならない。反対に大統領を僭称するグアイドのフェイクニュースがSNSを飛び交う。米軍にとって都合の悪いアフガンでの情報はSNS上に載ることはない。米軍と同盟しアフガンを侵略する豪軍が39名もの民間人を虐殺したと豪国防軍が調査結果を発表したが(日経:2020.11.20)、中国がこの事実をSNS上に掲載すると豪はこれを削除するように要求した。日経社説はこの豪の不当極まりない要求を「中国は豪への威圧を止めよ」と擁護した(2020.12.16)。
2 SNSが軍産複合体・金融資本のプロパガンダの道具であることを明らかにした「アラブの春」
ツイッターは、2007年の全世界の1日ツイート数は約5,000回ほどであったが、イラン大統領選に介入しようとした2009年には1日のツイート数が250万回を超える(Wikipedia)。いわゆる「アラブの春」から今年で10年になるが、その頃から、SNSが盛んに大衆の扇動目的に利用されるようになった。2011年1月にチュニジアから始まり、「体制転換を求めるうねりは…当局が言論統制を試みても、衛星放送やSNSで情報は瞬く間に伝わった」。その後、エジプト・リビア・イエメンでは政権が崩壊したと書いている(朝日社説:2021.1.14)。シリアでは「Amazon.com、Facebook、ウィキペディア、YouTubeのようなウェブサイトへの接続を制限していたが、2011年1月1日以降は全ての国民がブロードバンドインターネット接続を許され、これらのウェブサイトに接続」(Wikipedia)できるようになり、反政府派の武力闘争が強まった。しかし、シリアではアサド政権は持ちこたえた。そこで、2014年6月に突如シリア領内のラッカを「首都」とする「イスラム国」(IS)が発足したとし、2014年8月12日のベイルート発信のロイターは「イラクで国土の約3分の1を制圧するまで勢力を拡大したスンニ派原理主義組織『イスラ ム国』(IS)。当初は国際社会から軽視される存在だったが、2011年にイラクを撤退した米軍に再び軍事介入を余儀なくさせるなど、中東で強力かつ永続的な勢力になろうとしている。」と全世界に配信した。米人惨殺シーンのネットへの画像アップは米国民がイスラム過激派ISを敵視するように仕向けるプロパガンダであった。米人惨殺をIS制圧の口実にし、オバマ政権のイラク・シリア空爆が正当化され、ISは全世界から、残虐なイスラム過激派として宣伝された。当時のSNSにはトヨタ車のピックアップトラックで隊列を組むISの画像が何回も投稿され、それがTVで放送されている。
ところが、2015年9月にロシア軍がシリアの防衛戦に介入することによって、こうしたSNSを利用した大衆扇動とISの正体が暴露されてしまう。2015年12月2日のロシアのテレビ『RT』の動画報道を見て物理学者の藤永茂アルバータ大学理学部名誉教授はこう書いている。「大空の下、ISの大型石油輸送トラックの大集団がシリアの油田とイラクの油田から盗みとった石油をトルコ内へ運び込む有様が詳細明瞭な動画像、静止画像で示され、画面上を動くポインターで適切な説明が行われます。具体的な数字としては、32の精油コンビナート、11の精油工場、23の石油輸送基地、1080台の石油タンカートラックがロシア空軍機によって破壊されたと報告されています。巨大な石油タンカートラックの大集団が蝟集し、蠢き、長蛇の列をなして、シリア、イラクからトルコ国内に流れ込み、逆方向に、武器や物資を運ぶと思われるトラックの大行列を見るのは、誠にショッキングな経験で、どうしようもない虚脱感に見舞われます。一つの映像は、蝟集した3000台のタンカートラックを示します。ISのこの石油輸送に8500台のタンカートラックが動員されているのだそうです。WHAT? WHAT IS THIS!! –– 正気な米国人というものがいるのなら、こう叫ぶに違いありません。」(藤永茂「私の闇の奥」2015.12.9)
3 バイデンは「注釈付きの第46代米大統領」
米ユーラシア・グループ社長のイアン・ブレマーは「米国民の半数近くは勝者であるバイデン氏が正当に大統領の座を勝ち取ったとは認めていない。…バイデン氏は『注釈付き』の第46代米大統領だ。この注釈はバイデン氏が多くの国民から正当性に欠けるとみられていること意味する。しかも、これが米政治のニューノーマル(新常態)になりつつあることはあらゆる兆候から明らかだ。『注釈付き大統領』の時代が始まるのだ。広がる不平等により米政治は今や、主に大卒の都市住民層と地方の有権者に分断されている。…トランプ氏は米政界で反エスタ ブリッシュメント(支配層)を代表する存在になった。」(イアン・ブレマー米ユーラシア・グループ社長:日経:2021.1.21)とバイデン“大統領”は「注釈付き」だと書いた。
また、ケイトリン・ジョンストンは「アメリカ帝国には、二つの顔があり、一つは西海岸に、もう一つは東海岸に根ざしている。一つ目の、ハリウッドから発生する顔は、アメリカが、どれだけ面白く、素晴らしく、公正で、その全てのシステムが、どのように完全にうまく機能しているかを描き出し、世界ににっこりと、作り笑いをする。二つ目の、DCやアーリントンやラングレーから発生する顔は、目には狂気が漂い、血まみれだ。二つの顔を持つ他の怪物と同様、人が見る顔は、その人がどこに立っているか次第だ。裕福な西欧の国やアメリカ自体に住んでいれば、人は主に、一つ目の顔を見せられる…中東、アジア、あるいは南の発展途上国に住んでいれば、二つ目の顔に遭遇する可能性が遥かに高い。血が飛び散った顔。人殺しの顔。圧制的権力行使の顔」にであるという(「アメリカ帝国・二つの顔」:『マスコミ載らない海外記事』訳:2021.1.20)と書く。
トランプは最後に軍産複合体・金融資本の脅しに屈服してしまったようだ。恩赦すべきはバノンではなく、ウィキリークス創設者・アサンジではなかったのか。2016年の大統領選では、ウィキリークスにより、ヒラリー・クリントンのメールでリビアでの蛮行の一部始終を暴露されたからこそトランプの当選があったのではなかったのか(BBC:2016.11.17)。