【投稿】福井県知事40年超原発の再稼働同意-50億円で福井県民の命を売る
福井 杉本達也
1 福井県知事の危険極まりない40年超原発の再稼働への同意
4月28日、杉本達治福井県知事は、40年超の原発の再稼働に同意することを表明した。これに先立ち、知事は、4月6日畑孝幸県会議長と面談し、「運転開始から幼年を超えた原発を対象に1発電所につき最大25億円を立地県に交付する国の方針を明らかにし」(福井:2021.4.7)、40年超原発の再稼働への県議会の同意を求めて、23日には事実上の同意を行っている。関電が、福井県における40年超原発の再稼働を計画しているのは、美浜3号機と高浜1,2号機の3機であり、1発電所に25億円の立地交付金を交付するとすれば50億円となる。カネに目がくらんで県民の命を売るとしかいいようがない。
2 40年超原発圧力容器の脆性破壊
鉄などの金属は粘り強さがあるが、温度が低下するとガラスのように脆くなる。この温度を脆性遷移温度と言う。通常、この遷移温度は零下数十度だが、強い中性子線にさらされると劣化が進み、上昇していく。中性子は高いエネルギーを持っており、原子炉容器の鋼材に衝突すると、原子炉の配列に乱れが生じ、鋼材の粘り強さが低下し、高い温度でも脆く割れる可能性が出てくる。特に、1970年代に運転を開始した原発は、銅などの不純物を多く含み、高浜1号では0.16%と1990年代に建設された原発の16倍もの不純物を含み、鋼材がより脆くなる(京都新聞:2012.3.14)。恐れられるのが、何らかのトラブルでECCS(強制冷却水注入装置)が作動し、大量の冷水を原子炉に注入した場合である。300℃付近で運転していた原子炉が→いきなり100℃付近にまで下げられる。高浜1号の脆性遷移温度は99℃といわれ、圧力容器は熱衝撃に耐えられず、一気に破壊するのではないかと懸念される(井野博満「老朽化原発は稼働延長に耐えられるか?」2015.4.9)。もちろん、そうなれば原子炉内の大量の放射能が環境中に放出されることになる。
3 特重施設も完成しないにもかかわらず再稼働するのか
マスコミはほとんど触れようとしないが、40年超の再稼働を目指す3基の原発のいずれも、設置が義務付けられているテロ対策施設「特重施設」が完成していない。高浜1・2号機は6月9日が完成の期限となっているが、完成時期は未定としている。また、美浜3号機は4月6日に規制委から工事計画が認可された段階であり、10月の期限までに工事が完了するなどありえない。原発に甘い規制委は完成していなくても期限までは稼働できるとしているが、短期間でも稼働するならば犯罪行為に等しい。
「特重施設」とは、新規制基準の中の「原子炉建屋への故意による大型航空機の衝突その他のテロリズムに対して対処する施設」、「原子炉格納容器の破損を防止するための必要な 設備」と規定されており、具体的には①既設制御室が使えなくなった時の第二制御室 ・②予備電源設備 ・③予備注水設備 ・④PWRのフィルターベントなどが想定されている。したがって、原子炉を冷却する機能が喪失し炉心が著しく損傷した場合に備えて、原子炉補助建屋等との離隔距離をもつ(100m以上)、又は頑健な建屋を設け、その建屋の中に原子炉格納容器の破損を防止するための上記機能を有する施設を収納できなければならない、とされている。しかし、ただでさえ狭い原発の敷地内にそのような施設が設置できるのか、設置できたとしても機能するのかはなはだ疑問である。特に、美浜原発では、小島のような狭い敷地に廃炉予定の1・2号機と40年超の再稼働を目指す3号機が所狭しと林立しており、敷地内は輻輳する工事で足の踏み場もない状態である。2004年には3号機の二次系の大口径の復水系配管のギロチン破断による蒸気噴出事故が起き、5人が死亡6人が重軽傷を負う大事故となったが、その事故の慰霊碑さえもが、工事用の資材置き場や現場事務所に囲まれ、空いた空間は無きに等しい。原発構内に入るには、地元丹生集落からの丹生大橋のみであり、大規模な事故があった場合には、構内に接近することさえ不可能である。そのような狭小な敷地内に、本体に影響の出ないような場所で基準地震動に対応した大規模施設を作ろうというのであるから、工事の完了はいつになるかも不明とならざるを得ない。
4月30日付けの福井新聞によれば、高浜1号機は特重施設の工事が完了しておらず、期限の6月9日までに間に合わないため、わずか1~2週間という短期間の運転再開は見送るようであるが、美浜3号機は特重施設の設置期限である10月25日までは運転できるとして、5月上旬に燃料を装荷、下旬には運転再開するとの情報である。日経新聞の計算では、高浜1、2号機の合計出力は165万キロワットであり、再稼働すれば営業利益ベースで月90億円の収支改善が見込まれるとの計算があり(日経:2016.6.21)、美浜3号も同規模であることから月45億円の営業利益が見込まれる。カネの亡者の関電と、何としても40年超原発の再稼働にこぎつけ、エネルギー基本計画:2030年目標の電源構成比に「原発20%」を書き込みたい経産省の思惑で、国民の命無視の再稼働が強引に進められようとしている。
4 原発立地市町村の範囲を頑として広げない関電・福井県
2018年に日本原電東海第二原発の再稼働をめぐり、茨城県や立地自治体の東海村に加え、水戸市など周辺5市の事前了解も必要とする安全協定が、原電との間で結ばれたが、関電や福井県はこうした茨城県方式を頑として認めない。福島第一原発事故では原発から30キロ圏の田村市や南相馬市でも大きな被害が出ており、事故のリスクや避難対策の負担だけを引き受けさせられる周辺自治体が、再稼働手続きに関与したいと考えるのは、当然のことである。今回の高浜1・2号機の再稼働同意については地元高浜町のみ、また、美浜3号機の同意については美浜町の同意のみで再稼働をするというが、県も国も、全く責任逃れも甚だしいといわねばならない。
5 深層防護概念としてのレベル5の住民避難計画を全く考慮しない福井県知事の“同意”
IAEAは事故時に適用される深層防護概念として、通常運転の故障から、過酷事故による放射性物質の大量放出までを5段階に分けている。3.11まで日本では事故が起きても設計基準内に抑え込むレベル3までの対応しかとっておらず、炉心溶融など過酷事故を意味するレベル4や、住民を放射性物質から守るため、避難させるレベル5の事故は、全く想定していなかった。今回のレベル5の住民避難計画を全くおざなりにしたままで強引に40年超原発の再稼働に同意するというもので、住民の安全は完全に無視されている。
2021年3月18日の水戸地裁判決(前田英子裁判長)では、「重大事故が起きた場合に数万から数十万人が一定時間内に避難することは困難で、約94万人が住む原発から半径30キロ圏内の県内14市町村のうち、広域避難計画を策定済みなのは5市町にとどまると指摘。県の広域避難計画や5市町が策定した計画にも第2の避難先や代替避難経路の確保といった検討課題があり、原告のうち30キロ圏内に住む79人については、放射性物質による被ばくで生命や身体を害される恐れから『人格権が侵害される具体的危険がある』と認定した。」(福井:2021.3.19)。第5層の避難計画は規制委の審査対象ではないが、原発の安全対策とは「車の両輪」(田中俊一前規制委員長)で、事実上、再稼働の前提条件となっているとしているが(福井:同上)、福井県知事の再稼働同意はこうした避難計画を全く考慮も作成もしておらず完全な違法状態にあるといわねばならない。避難計画の作成という自らの職務を放棄しての無責任かつ無謀な”同意“である。(4月30日追加)