「知識と労働」第3号 1971年12月
【特集2】森信成追悼
遺志継ぎ前進しよう
民主主義学生同盟統一会議
一つの欠くるところなき世界観であるマルクス主義の哲学たる弁証法的唯物論の、わが国における最も優れた哲学者にして革命的実践家である森信成先生が、去る七月ニ十五日未明、突然死去された。
先生は、わが同盟の生みの親であり、その哲学理論は、わが同盟をささえる背骨であった。その名と人柄は、常にわが同盟の最も近しく、親しきもののーつであった。
「富と権力を持たない人民の現在におけるただーつの思想であるマルクス主義の力、その力の唯一の源泉は何であろうか。それは思想の力であり、理論の力である。もしもマルクス主義が思想においてあいまいであり、理論において不確かであるとするならば、それはマルクス主義と人民にとって何を意味するであろうか。」 この『史的唯物論の根本問題』冒頭の言葉にはじまり、最近の、雑誌『知識と労働』における労作にいたるまで、先生は、その革命的情熱と透徹した唯物論思想(科学と民主主義)で、うむことなくわれわれを指導し、励ましてきた。
意識現象をふくめて、いっさいの現象を、非合理的なものの一分子も含めず物質的必然性にもとづけて科学的に説明しようとするのが唯物論の見地である。この見地は、現存する矛盾解決の、手段と目的を、現実のなかにのみ求める。この見地は、われわれが発展する現実(新しい革命的必然性)の意識的推進カとなること、すなわち、具体的な、科学的な、革命的な政策やスローガンをうちだし、これにもとづいて行動することを命じる。この見地を貫徹するためには、われわれは、常に、いわゆる 「経験主義」 や 「革命的空文句」にもとづく「急進主義」と明確に一線を画さなくてはならない。
森先生は,戦後一貫して、マルクス主義の歪曲と硬化に対して闘った数少ない理論家の一人であった。この歪曲と硬化の原因は、理論的には唯物論の見地の無視と放棄であった。これに対する先生の闘いは、決して平坦なものではなかった。先生の生涯は、論戦の歴史でもあった。日本の前衛党が、唯物論の原則を逸脱し、実感主義—合法則的な土台の科学的分析にもとづかない、上部構造決定論—政治主義 にはまりこんでいるなかでは、一時的孤立を余儀なくされてもきた。しかし先生の理論と実践の正しさは、マルクス主義の停滞と歪曲をもたらしたものに対する最大の敵であった。従来日本唯物論哲学の代表者と自他ともに許していた古在由重の理論も先生の批判の前にさらされたとき、それがマルクス主義とは異形の造物であることを隠しおおせなかった。
先生は、その仕事を「季刊理論派」(主体的唯物論)批判から始めた。この仕事は日本のマルクス主義哲学の一大画期であった。また先生は、戦後日本唯研の創立者の一人であった。最近は、大阪唯研編集の雑誌『知識と労働』に熱筆をふるい、大阪労働講座で若い労働者にマルクス主義哲学思想を熱心に教育していた。特に若い労働者、学生は、先生の理論をむさぼるように学び、講演に耳をかたむけた。労働運動、学生運動に対する先生の献身的努力は、大阪の地を中心に全国各地に強固な根を張り、今や大きな幹として成長しつつある運動に、すばらしい結実を約東する不可欠の推進力であった。
森先生の天折は、日本の革命運動、とりわけ唯物論思想界に一大打撃をもたらした。わが同盟にとっても消し難い痛苦である。われわれは偉大な先生の遺志を継ぐことが簡単であるなどとは思わない。これの至難なのは、われわれにとってのみでないことも知っている。しかし、われわれは、この継承、発展が無条件にわれわれの任務であることを認める。
わが同盟は、先生の科学と民主主義の理論を指針として、学生運動を指導してきた。わが同盟は、全国学生運動の統一をはかり、世界と日本の平和勢力、特に巨大な労働運動と結合して、反独占民主主義運動の一翼を担うべく努力してきた。しかし、現実が要求する巨大な大衆運動の展開の重大条件である統一した運動を、恒常的に保証する組織的統一に対し、わが同盟自身、かならずしも十分ではなかった。現実の要求するところは、また先生の要求でもあった。
先生は、死の直前まで、運動の発展のため、分裂に終止符を打つことを強調し、そのために助力をおしまなかった。わが同盟は、先生の助言に耳をかたむけ、率直かつ公正に組織統一の回復のため全力をあげなければならない。
先生の死による今日の深い悲しみをわれわれは直視する。同時に、先生の理論と実践を指針とする、明日の運動の巨大な発展を、われわれは確信する。最後に、われわれは、先生の実践とその全著作に、時をうつさず、全面的に学ぶ作業を開始することを誓い、追悼の辞の結びとする。
一九七一年八月五日
(付記)これは民主主義学生同盟統一会議機関紙『デモクラート』昭和四六年八月四日号より諒解を得て、転載したものである。 (「知識と労働」編集部)