【書評】「鎌田浩毅の役に立つ地学」から考える地球温暖化論の虚構

【書評】「鎌田浩毅の役に立つ地学」から考える地球温暖化論の虚構

(『週刊エコノミスト』2020年4月より連載中)

                         福井 杉本達也

7月26日の日経は、温暖化ガス削減「30年度計画案の内訳」:「産業で37%減」、「家庭では66%減」との見出しである。しかし、よく記事を読んでいくと「国際公約の46%削減には6億4800万トン減らす必要がる」が、産業部門は「電力供給に占める再エネの比率を36~38%、原子力発電を20~22%に高めることを前提とする」ものの、原発は「利用拡大の道筋は見通せていない」中で、「全体で46%減らすための辻つまあわせで割り振った印象が強く実効性が課題となる」と、投げやりの書きぶりが目に付く。

近年の地球温暖化は、人為的な気温上昇によるとするとし、IPCCによれば化石燃料の燃焼や土地利用の変化といった人間活動の結果、炭素重量に換算して、大気中に40億トン/年が増加しているという。これを「産業革命前と比べた気温上昇をできだけ1.5度以下に抑える」、「そのためには30年までに世界全体の排出量を10年比で45%削減し、50年までにゼロにする必要がある」というものであるが、人為的温暖化を人為的に抑え込むという発想自体に西欧科学技術の傲慢さがある。いつから「科学技術」は地球を創造する「神」の地位を占めるようになったのか。

「鎌田浩毅の役に立つ地学」は2020年4月から『週刊エコノミスト』誌に連載され、地球温暖化だけを論じているものではないか、地学の観点から地球温暖化に対してもアプローチしている。その中から何点か本質的なものを以下に抜き出してみる。

1地球内部を大循環する炭素

「大気中の二酸化炭素の濃度や量は、地球内部で行われている「炭素循環」と深く関連し、数億年にわたる地球環境をつかさどる動きに大きく左右されている」。「地球環境は「固体地球」「流体地球」という二つの領域に分けられ、炭素循環もその両者にまたがって起きている」。「炭素は固体地球の内部で長い年月をかけて循環し、その主役は地球全体の質量の8割を占めるマントルである」。「 約1億年の周期でマントル対流を起こすことにより、上部にある地殻へ炭素が供給され」、「その際、 炭素はホットプルーム(上昇流)とコールドプルーム(下降流)という二つの巨大な流れに乗って循環する」。(『エコノミスト』2021.6.1)

2 『炭素循環』が決めるCO2濃度

「大気中の二酸化炭素濃度を決めるのは『炭素循環』と呼ばれる現象である。地下深部のマントルに含まれている二酸化炭素は、大洋底の中央海嶺の火山活動によって海中へ放出される。同様に、海洋プレートが大陸プレートの下へ沈み込む地域では、マグマが大陸を貫いて地上に噴出し、二酸化炭素を大気中へ放出する。次に大陸上では、二酸化炭素は雨水や地下水に溶けて炭酸(H2CO3)となる。炭酸は、川を経て海に流れ込み、炭酸カルシウム(CaCO3)などの炭酸塩鉱物として沈殿する。それらが何千万年という時間をかけて海洋プレートとともに移動し、最後にプレートの沈み込みに伴って大陸プレートに付加される。付加されたものの一部は、沈み込みとともに地球深部に運ばれ、火山活動によってマグマとともに再び地表へ放出される。このように、炭素はさまざまなプロセスを通じて循環している。」「大気中の二酸化炭素濃度は、こうした地球スケールの炭素循環によってたえず調整され、現在まで安定した環境が維持されてきたのである。」(『エコノミスト』2020.12.15)

3 炭素の大気と海水の間での大循環

「約1億年前の白亜紀にホットプルム由来の大規模な火山活動が起こり、マグマに含まれる二酸化炭素が大気と海洋に供給された。その後、陸上に繁茂した植物が光合成によって二酸化炭素を吸収し、炭水化物として地表付近に固定された。こうして大量に蓄積された植物の遺骸は、その後に腐食・埋積されて数百万年という長い時間をかけて地中で石炭と石油に化学変化した。すなわち、マントルが媒介して固体地球と流体地球が関わる炭素循環なしには、人類を長年支えてきた化石燃料は誕生しなかったのである。」

「海水に溶け込んだ二酸化炭素は各種の陽イオンと化学反応を起こし、大量の炭素化合物を海底に沈殿させた。こうしたプロセスを経て大気と海水の間で平衡状態が作り出され、大気中の二酸化炭素濃度がコントロールされてきた。」「二酸化炭素は流体地球を構成する海水と大気の間で絶えず大規模に循環しながら、長い間に平衡を保ってきた」のである。(『エコノミスト』2021.6.8)

4 太陽との距離も気温に影響

「過去40万年間の地球と太陽の距離と、平均気温の変化との関係を見ると、両者に関係があることが分かる。すなわち、地球と太陽の距離が大きい時には、地上に届く太陽エネルギーが減少するため、平均気温が低下する。反対に距離が小さい時には太陽エネルギーが増加するため平均気温が上昇する。こうした変動によって氷期と間氷期の繰り返しが生じた」とセルビアの地球物理学者: ミランコピッチの説を紹介している。

「近年の地球温暖化は、人為的な気温上昇によるとする見方が多いが、実は気温変化には太陽の距離などはるかに大きな要素が大きく作用している。」(『エコノミスト』2021.6.15)

5 大気中の二酸化炭素濃度は3億年前の氷河期時代と現在は同じ

「地球の長い時間軸の中では、大気中や海水中の二酸化炭素が炭酸カルシウム(CaCO3)として固定される速度と、火山活動により二酸化炭素が大気中に放出される速度とが、ほほ等しくなっている」「短期的な二酸化炭素濃度の揺らぎは、長期的には平衡状態へ戻っていく。例えば、マントルの対流が活発化して地上に大量のマグマが噴出すると、二酸化炭素の供給量が増えて長期的な温暖化に向かう。その結果、大気中の二酸化炭素の海水に溶ける量が増え、次第に大気中の二酸化炭素濃度が低下する。」「現在の大気中の二酸化炭素濃度は、寒冷期に当たる非常に低い水準と言えよう。したがって、いま世界中で問題にされている地球温暖化も、こうした『長尺の目』で見ると再び氷期に向かう途上での一時的な温暖化とも解釈できる。」「大気中の二酸化炭素濃度は、こうした地球スケールの炭素循環によってたえず調整され、現在まで安定した環境が維持」されているのである。(『エコノミスト』2020.12.22)

ニュートンに「私は仮説をつくらない」という科学的認識の有名な言葉がある。ニュートンは、具体的な現象から導き出せないものはどんなものでも「仮説」に過ぎないと考えた。根拠のない前提や規則を「仮説」と呼び、現象や経験から導き出せないものを排除しようとした。「人間は自分が立てた仮説や規則に弱い」という洞察がある。いつのまにか仮説が先入観となり、虚心坦懐に物事を正しくとらえられない場合がある。(鎌田浩毅「理系の教養ニュートンの大古典に挑む」:2019.9.27)。

地球温暖化論は「仮説」である。地球物理学のこれまでの知見を無視して「仮説」を「科学的」だと大上段に構えてはならない。「仮説」というしっぽが「世界」という胴体を振り回している。二酸化炭素はわれわれの生活になくてはならない「空気」の一部である。水や空気という地球生命にとって最も重要な『社会的共通資本』に対し、排出権取引や炭素税として価格をつけるものであり、温暖化対策を主導する欧米の金融資本が儲け、経済的弱者や発展途上国は重い負担にあえぐこととなる(日経:「カーボンゼロ CO2値付け世界で拡大」2021.7.27)。「カーボンプライシングの導入にあたっては企業の負担軽減策がつくられ、企業は製品やサービスに価格転嫁する見込みだ」(日経:同上)。市場原理主義はあらゆるものをカネに変えようとする。二酸化炭素を含む空気は地球の生命にとって最も大切なものである。カーボンプライシングほど反生命的・非倫理的なものはない。

カテゴリー: 書評, 杉本執筆, 環境, 科学技術 パーマリンク