【投稿】新型コロナウイルスは「空気感染」

【投稿】新型コロナウイルスは「空気感染」

                             福井 杉本達也

1 新型コロナウイルスは「空気感染」

米CDCのワレンスキ所長はコロナのデルタ株は感染力が大幅に強いと指摘し、感染者1人が他の8~9人程度に広める恐れがあるとした。水痘(水疱瘡)に匹敵するくらいの感染力があるとの見方を示した(福井:2021.8.2)。水痘は結核と同じく「空気感染」する。水痘の説明では「水痘の感染力は極めて強く、空気(飛沫核)感染、飛沫感染、接触感染によってウイルスは上気道から侵入し、ウイルス血症を経て、通常は2週間前後(10~21日)の潜伏期間を経て発病すると言われています。水痘を発病している者と同じ空間を共有(同じ部屋、同じ飛行機の中等)した場合、その時間がどんなに短くても水痘に感染している可能性があります。この場合水痘の空気感染を防ぐことのできる物理的手段(N95等のろ過マスクの装着や空気清浄機の運転)として効果的なものは残念ながらありません。水痘の感染発病を防ぐことのできる唯一の予防手段はワクチンの接種のみです。」(感染症・予防接種ナビ)とある。水痘並みの感染力なら新型コロナウイルスは「空気感染」そのものである。

2 あくまで「空気感染」を否定する尾身会長

尾身茂新型コロナウイルス対策分科会会長(当時の役職名)は記者会見でコロナの感染経路に触れ、「新型コロナウイルスの主要な感染経路は(1)飛沫感染(2)接触感染であることが知られているが、7月に入り、世界保健機関(WHO)がエアロゾル(マイクロ飛沫と同義)と感染との関連性について見解を示したほか、海外メディアが米大学の研究者らによる論文について報じている。」が、新型コロナウイルスは空気感染ではないとし、「マイクロ飛沫感染が『空気感染と誤解されると困る』(尾身氏)ためだといい、『普通に野外を歩いたり、感染対策が取られている店舗での買い物や食事、十分に換気されている電車での通勤・通学では、マイクロ飛沫感染の可能性は限定的と考えられている』と説明し、過剰な心配は必要ないとの見方を示した。」(Yahooニュース:2020.7.31)。その後も、尾身氏は「空気感染に関しては『起きていれば、東京が上げ止まりなんてことは絶対ない。それは起きていない』と改めて否定。」(Yahooニュース2021.5.21)と重ねて空気感染を否定している。そもそも「マイクロ飛沫感染」などという造語まで駆使してなぜ「空気感染」を否定する必要があるのか。

3 世界32カ国の科学者239人が「空気感染」と緊急声明

かつての国民病・「空気感染」の代表ともいえる結核の場合、「結核と診断されているか、疑いのある患者の病室に入る時は、N95微粒子用マスクまたはそれ以上の高レベル呼吸器防護用具を着用する。」病室は「独立空調で陰圧管理の個室が原則」「空気を外部へ排出する前や再循環前にHEPAフィルタを通す」「入退室時以外は扉は閉めておく」(日本環境感染学会)などが求められる。

7月6日、世界32カ国の科学者239人が、「世界保健機関(WHO)や各国はコロナが空気感染で拡大することを認識すべき」との論考を、米国の『臨床感染症学誌』に発表した。アメリカ・テキサスA&M大学の研究者らが、米国の『科学アカデミー紀要』に「空気感染こそ、コロナ感染拡大の主要なルート」という論文を掲載するなど、「空気感染」がコロナ感染拡大の大きな要因であることが、世界の医学界のコンセンサスとなった(上昌弘:『東洋経済』2021.9.19)。科学者が「エアロゾル」の緊急声明を出したことに対し、渋谷健司元WHO事務局長上級顧問は『ようやく、こういう提言が出たなと思う。世界的にも、2020年度から空気感染が主なルートだと言われている。3密よりもやはり換気、そしてマスクも不織布で、できれば二重にするのが非常に大事。日本ではまだマイクロ飛沫だとか言っていますけど、基本的にはエアロゾルの空気感染が非常に大事な感染ルートだと思います。』と答えている(2021.8.31)。しかし、病室空調の陰圧管理などをしたくない厚労省は絶対に「空気感染」を認めないであろう。

4 ダイヤモンド・プリンセス号でも指摘されていた「空気感染」

昨年1~2月・コロナの大規模感染を引き起こしたダイヤモンド・プリンセス号の空調システムの設計条件について「客船は新鮮空気量(100%)を設計条件とすることが多いが、本船に代表されるメガ客船おいては省エネ対策として新鮮空気を一部取り入れて還流させることが一般的になっている。本船の新鮮空気量はキャビン(30%)、公室・階段(50%)そして病院・ギャレイについては衛生と臭気対策のため100%の条件である。(「大型客船の空調システム設計につい ての紹介」:2005.4『冷凍』)と三菱重工設計者の小佐古修士・椎山邦昭氏は述べている。

建築基準法上は、基本的に在室者1⼈あたり20[m3/h]以上の換気量が必要とされている。また、2003 年7⽉以降に建てられた住宅では通常0.5[回/h]以上となる機械換気設備の設置(いわゆる24 時間換気設備)が義務づけられている。建築物衛生法の適用を受ける3000m2以上のオフィスビルなどにおいて人員密度を適切に管理した上で,換気回数2回/h以上を確保し,中性能フィルタが備えられている空調・換気システムでは,1~2mを超える範囲で新型コロナウイルスが飛散したとしても,その濃度は低く制御されるため,感染リスクは小さいと考えられる(日本建築学会:2020.3.30)。しかし、現実には設計基準が守られない例が多々ある。省エネ対策として新鮮空気が30%しか供給されなければ「空気感染」もありうる。残念ながら米CDCも当初は、ダイヤモンド・プリンセス号での「空気感染」を否定していた。

5 「空気感染」を認めるなら、建物の空調・換気とフィルターが重要

これまで、コロナは、接触を介した感染と吸入性エアロゾルを介した感染により広がるとされ、握手やハグなどの直接接触、ドアノブなどを触れることによる間接接触によるものがある。吸入性エアロゾルを介した感染は、咳やくしゃみや発声に伴って排出される飛沫で約2 mのソーシャルディスタスを取ればよいこととなっている。いわゆる3密を回避すれば感染は防げるはずであった。

しかし、コロナが「空気感染」するなら、これまでの厚労省のクラスター対策一本槍の感染対策では不十分だ。「空気感染」を防ぐには、換気するしかないが、昨年からほとんど議論は進んでいない。建築学会の声明や資料も古いままである。いまだに緊急事態宣言による「人流抑制」や「3密対策」だけではあまりにもお粗末である。個人へのサージカルマスク着用を推奨するとしても、「マスク着用・手洗い・『密』の回避」といった個人に責任を押し付ける対策は対策とは言えない。デパ地下対策についても、換気の計測などはできるはずである。昨年、大阪府の吉村知事に魔女狩りにあったパチンコ店であるが、名古屋市内のホール・設置台数 700台規模の大型店で実験がなされ。客室に充満していたスモークはおよそ 10 分でほぼ消えた。実験の監修をした愛知医科大学の三鴨廣繁教授は「換気対策はこれ以上のものはなかなか難しいんじゃないかと思います。換気に関して、密閉は少なくとも否定できるであろう」と評している。女性客も多いパチンコ店はかつてのたばこの煙でもこもこということは全くない。外見的印象だけでコロナ対策を進めるものではない。この1年8か月何をしてきたのか。JR東日本が列車内の換気対策を調べる過程で三菱電機の空調装置の検査不正も明らかとなったが(日経:2021.7.1)、瓢箪から駒といったところである。建築物や交通は国土交通省の所管である。医系技官の職務権限がなくなることを極度に警戒しているのではないか。マスコミもいたずらに「デルタ株の脅威」を煽るのではなく、地に足のついた情報の発信に努めるべきである。

カテゴリー: 新型コロナ関連, 杉本執筆 パーマリンク