【投稿】非常に危険な道を歩む岸田新政権の対中外交

【投稿】非常に危険な道を歩む岸田新政権の対中外交

                          福井 杉本達也

1 ネオコン(ジャパンハンドラー)の影響下にある岸田新政権

元外務省国際情報局長の孫崎亨氏は『日刊ゲンダイ』紙において、1991年の「旧ソ連の崩壊後、米国の対日政策の主眼は、自衛隊を海外に展開させる体制をつくることにあった。その圧力をかけたのが、アーミテージ元国務副長官、ナイ・ハーバード大学教授、キャンベル元国務次官補、ヘイムリ戦略国際問題研究所CEO、グリーン同日本部長、カーティス・コロンビア大学教授らで、「ジャパン・ハンドラー」と呼ばれてきた。彼らの意向に反した細川、鳩山両首相や、小沢民主党代表は次々と退陣に追い込まれた。…2008年7月に開催された洞爺湖サミットで、ブッシュ大統領は福田首相に自衛隊をアフガニスタンに派遣するよう激しく求めた。福田首相は自ら辞任をすることで、この要求の実現を止めた」。そして米国がアフガン戦争で大敗北・撤退したいま、日本に、ジャパン・ハンドラーの次の目標である「対中包囲網の中核になるよう圧力が始まった」と書き、その手始めが親中的な「二階はずし」であるとする(『日刊ゲンダイ』2021.9.17)。

中国『環球時報』によれば、総裁選出馬にあたって、岸田文雄氏はブルームバーグとの9月3日のインタビュー”Key Contender to Lead Japan Warns Taiwan Is ‘Next Big Problem'”の中で、「○岸田文雄は「香港及び新疆ウイグル族の状況に鑑み、台湾は次の巨大な課題になるだろう」と公言し、中国の「権威主義的な態度」に関心を表明し、『現実的な目で中国との距離を考慮していく』とした。○岸田文雄は、日本が『中米対決』の最前線に位置し、『民主主義、法の支配、人権等の基本的価値』を遵守する覚悟を明らかにする必要があり、『基本的価値観』を共有するアメリカ等の国々と協力するとともに、『台湾との持続的協力を実施していかなければならない』と公言した。」(『環球時報』浅井基文:「岸田文雄氏と石破茂氏の『台湾有事』発言」より:2021.9.4)。

この岸田発言に対し、『環球時報』社説はすばやく反応した。「中日間の経済貿易協力のボリュームは極めて大きい。このことを中日関係におけるもっとも実質的な中身と捉えるべきである。…したがって、日本の次の首相が対中強硬面で惰性的に走って行くか否かにかかわらず、中国としてはそれがもたらす挑戦に対応する能力がある。中国は今後ますます日本よりも強大になるだろうから、中日関係の悪化によって損害を受けるのがより大きいのは間違いなく日本、ということになるだろう。」(浅井:上記)と警告した。岸田発言は日本の国民的利益を全く度外視した、対米従属・売国外交以外のなにものでもない。

2 アメリカは中国に負ける

岸田首相が初めて電話協議を行ったのが10月4日のバイデン米大統領であるが、バイデン氏は「米国の対日防衛義務を定めた日米安保条約第5条に関して『沖縄県・尖閣諸島に適用する』と明言した」(日経:2021.10.6)といって喜んでいるが、米が尖閣といった小さな岩島防衛のために米兵の血を流すとは思えない。全くの幼稚な妄想である。米国にとっての国益がなければ、20年間介入したアフガンからも撤退するのである。マッカーサーは日本占領から帰米直後の米上院公聴会で「日本人は12歳」(like a boy of twelve)と証言したが、岸田氏を筆頭に対米従属者の幼稚さは変わっていない。

孫崎氏は『アメリカは中国に負ける』(河出文庫:2021.9.20)において、「『ニューヨーク・タイムズ』紙はクリストフによる記事『どのようにして中国との戦争が始まるか』で、『最近、台湾海峡を舞台での、中国を対象とする18のウォ―ゲーム中、18で米国が破れたと知らされた』と報じた」とし、また「ランド研究所が台湾正面の戦いでは中国が優位」との報告書も紹介している。中国の保有するミサイルの命中精度は向上しており、2010年には米中ほぼ互角だったものが、2017年段階の台湾周辺では中国優位に傾いたと冷徹な分析を行っている。ましてや、自衛隊が尖閣周辺において単独で中国軍と戦うなどというのは無謀である。沖縄・嘉手納基地よりも中国本土に近い尖閣周辺は完全な中国軍機の制空権に入る。

3 「台湾防空識別圏へ大量の中国軍機」というマスコミ報道の欺瞞

 10月6日の福井新聞(共同通信)によると「中国軍、台湾防空圏に56機」という見出しで、習近平指導部は「台湾南西域で台湾への軍事的な圧力を強化」したと報じている。記事の中段以降を見ると、「中国に近い西太平洋での空母3隻の同時展開は『1996年の台湾海峡危機のときに米軍が派遣した空母2隻を上回る歴史的な事態』と受け止めている」とある。当該記事の横には「護衛艦で米戦闘機発着…いずも空母化へ試験」という見出しもある。海上自衛隊の10月4日付けの「日米英蘭加新共同訓練について」(10月2・3日)のプレスリリースでは、参加空母は米海軍の「ロナルド・レーガン」、「カール・ヴィンソン」2隻と英海軍の「クイーン・エリザベス」そして、海上自衛隊の準空母「いせ」で、空母は4隻であり、海自のプレスリリ-スでも写真を公開している。産経10月9日付けの記事では防衛省提供の同4隻の共同訓練の写真が掲載されている。また、クリミア半島のロシア領海を侵犯しし、艦先に警告の爆弾を投下された札付きの英海軍・駆逐艦「ディフェンダー」も空母に随行している。こうした日米英蘭加による中国本土近海での挑発行為に対し中国軍機が反応することは当然といえる。上記、福井新聞(共同通信)の記事に見出しは、ことさらに中国の脅威を煽るものであり、挑発しているのは日米英蘭加軍の方である。

4 「台湾防空識別圏」とはなにか・沖縄県・与那国島も「台湾の圏内」

そもそも「台湾防空識別圏」とは何か。産経の上記記事では「台湾防空識別圏」は中国本土の奥深くまでがその範囲になっており、当然、中国は「台湾防空識別圏」などという存在を認めてはいないが、抑制した中国軍機の活動範囲内においても、東シナ海や南シナ海の一部は重複し「中国の防空識別圏内」に入りこんでおり、そこで堂々と訓練と称して中国を挑発する米英日等軍に中国軍機が反応するのは当然のことである。米国は一つの中国原則と中米3共同声明に著しく違反している。

防空識別圏とは、各国空軍が、領空侵犯を 警戒するために、領空の更に外側に設定する警戒空域である。飛行計画を提出しないで防空識別圏に入ると、国籍不明機としてスクラ ンブル(迎撃戦闘機の緊急発進)を受けてしまう可能性があり、軍事的緊張が高まった場合は撃墜される恐れもある。ところが、東経123度線上の沖縄県与那国島の上空2 /3が「台湾の防空識別圏」に組み込まれている。台湾側は与那国島上空を実質的に防空識別圏から外す運用をしていたため、2010年に日本側が防空識別圏に組み込んだ。しかし、台湾はこの日本の決定を受け入れていないので、名目上は日本と台湾の防空識別圏は東経123度線上で重複した状態になっている(上記産経記事図表参照:図表の東側東経123度の防空識別圏は南北にまっすぐであり、この線の下に与那国島がかかるので、本来ならば日本の防空識別圏として与那国島上空から西に小さな円弧が書かれるべきだが)。図表を含め台湾側の発表をそのまま報道するマスコミの属国姿勢にはあきれ返る。中国軍機よりも台湾軍機の民間航空機へのスクランブルを心配すべきである。

5 最終的に日本は米国にはしごを外される恐れ

9月25日夜、3年間カナダに拘束され米国に引き渡されようとしていた孟晩舟ファーウェイ副会長が解放され、深圳空港に下り立った。孟副会長は赤いワンピース姿でタラップを下り、赤い絨毯が敷き詰められた誘導路を歩き帰国を熱烈に歓迎された。9月27日の『環球時報』社説は「中国の国家の力量がこの勝利をもたらしたことは争いがない」と主張した(日経:2021.9.28)。最終的に米国は中国の力に負けたのである。これを契機に、米中間では貿易協議が進みだしている。米通商代表部タイ代表と中国劉鶴副首相との電話会談も行われており(福井:2021.10.10)、対立した両国関係は接点を模索し始めている。こうした中で、岸田首相が台湾問題を前面に出して中国を挑発すれば、米中が手打ちをし、はしごを外されて痛い目に合うのは日本である。米国は「米国第一」で動く。もはや「ニクソン・ショック」を忘れたのか。幼稚な外交とも呼べない“外交”は即刻中止すべきである。

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