【投稿】低税率に屈した国際最低法人税--経済危機論(62)

<<オックスファム「公平性を嘲笑うものだ」>>
 10/8、OECD(経済協力開発機構)は、「本日、OECDで最終合意された国際税制の大改革により、多国籍企業(MNE)は2023年から最低15%の税率が適用されることになります。世界のGDPの90%以上を占める136の国と地域が合意したこの画期的な協定は、世界最大かつ最も収益性の高い多国籍企業約100社の1,250億米ドル以上の利益を世界各国に再配分し、これらの企業が事業を展開して利益を生み出した場所で公平に税金を支払うことを保証します。」との声明を発表、OECDのマティアス・コーマン事務局長は、この協定は、「大きな 外交的勝利である」と評価した。
 イエレン米財務長官は、「今朝の時点で、事実上、世界経済全体が法人税の底辺への競争に終止符を打つことを決定した」と声明の中で述べている。
 この協定は、10月12~13日、ワシントンD.C.で開催されるG20財務大臣会合、10月30~31日にイタリアのベニスで予定されているG20首脳会議に提示される予定である。
 このOECDの新協定は、いわゆる「2本柱」のアプローチで、世界の法人税率を最低15%に設定すること、そして同時にアマゾンやフェイスブックのような多国籍企業に対して、その企業が物理的な拠点を持っているかどうかにかかわらず、商品やサービスが販売されている国で課税する権限を各国政府に与えることを柱としている。

OECDの租税協定は実現しない(税の正義ネットワーク)

 同じ10/8、世界的な租税回避問題に取り組んできたNGO・オックスファム・インターナショナルの税金政策のリーダーであるスサナ・ルイズ氏は、プレスへの声明を発表し(Oxfam Published: 8th October 2021 )、「この協定は、アイルランドのような国の低税率モデルに屈した、恥ずべき危険なものです。パンデミックに見舞われた発展途上国から、病院や教師、より良い仕事のために必要な収入を奪う、公平性を冒涜したものです。世界では、過去数十年で最大の貧困の増加と不平等の大爆発が起こっていますが、この協定はそのどちらにもほとんど何の影響も与えません。それどころか、すでに一部の富裕国では、国内の法人税率を引き下げるための口実として捉えられており、…この協定を『歴史的』と呼ぶのは偽善的であり、些細な検証にも耐えられません。税制の悪魔は細部に宿っており、アマゾンのような大企業を逃がすような複雑な免除措置も含まれています。世界の法人税は15%ですが、土壇場で10年間の猶予期間が設けられ、さらに抜け穴があるため、実質的には歯が立ちません。この協定は受け入れがたい不公平なものです。完全に見直す必要があります。」と、手厳しく問題点を指摘している。「バーが低すぎて、どんな企業でも乗り越える。いま世界は高まる不平等と気候変動とたたかうために、公正な税の交渉を求めている。しかし交渉の結果は主要7力国(G7)によるマネーの横取りに他ならない」と手厳しい。

<<「詐欺のライセンスを公認するようなもの」>>
 まず、この15%という税率は、世界の法人税を20~30%にするよう求めて、今年初めに発表された国連のFACTI(Financial Accountability, Transparency and Integrity )国際金融の説明責任、透明性および完全性に関する国連ハイレベルパネルの提言を大きく下回っており、国連機関の提言を全く無視している。
 また、ジョセブ・スティグリッツ氏らが参加する国際法人税改革独立委員会(ICRICT)は、これまで25%のグローバルミニマムタックスの適用を求めてきており、「15%の最低税率はあまりにも低い。それはアイルランドやシンガポールなどの最悪の行動を正当化するものである。底辺への競争を加速し、15%の税率をニューノーマル(新しい常態)にするリスクがある」と指摘する。
 トマ・ピケティも「15%の税率は、最も強力なプレーヤーに詐欺のライセンスを公認するようなものだ」と述べている。
 さらに、「抜け穴」として指摘されているのは、OECDの税制案では、世界の最低法人税率として提案されていた「最低15%」から「最低」が削除され、さらにその完全実施が従来予定されていた5年から10年に延期されたことである。アイルランドが英紙フィナンシャルタイムズに語ったところによると、アイルランドはOECDの税制計画に署名し、最低法人税率を12.5%から15%に引き上げることに同意したのはこのためであり、なおかつ、年間売上高が7億5,000万ユーロ以下の中小企業には新たな増税を課さないという約束を取り付け、現行の低税率のままでよいという条件付きであったからであるという。
 オックスファムの試算によると、現在のOECDの提案では、対象は69社の多国籍企業、10%以上の「超利益」にのみ限定されることになり、抜け穴を利用すれば、アマゾンやロンドンのシティのような「オンショア」の秘密法域も逃れることができ、金融サービスはこの協定から除外されることとなる。結果として、G7と欧州連合(EU)、先進国は15%の最低税率が生み出す収入の3分の2を手に入れる一方、世界の人口の3分の1以上を占める貧困国に入るのは3%以下にしかすぎないものである。これが、25%のグローバル・ミニマム法人税を適用すれば世界の人口の38.6%が暮らす最貧国38カ国は、15%の税率に比べて170億ドル近く多くの税収が得られることことからすれば、今回のOECDの先進国と多国籍大資本を利する税制優遇措置は、まさに税の公平性を嘲笑うものである、ということなのである。
 税の正義ネットワーク(Tax Justice Network)の最高責任者であるA・コブハム(Alex Cobham)氏は、OECDの今回の協定について、「世界的な最低税率を設定していますが、15%と非常に低いため、利益を移転するインセンティブは依然として大きく、収益の大部分は米国と他のわずかな国が独占することになります。アイルランドをはじめとする租税回避地が、特にさまざまな譲歩を得た後に、この協定を受け入れたのは不思議ではありません。現状では、利益移転を効果的に抑制することはできませんし、一握りのOECD加盟国以上に多額の収益をもたらすこともありません。特に、法人税の不正受給によって税収の大半を失っている低所得国は、他の国から取り残されています。」と、指摘する通りなのである。(Tax Justice Network 8 October 2021

法人税が減り、賃金への課税が増えた(国民所得に占める割合)            給与所得税(緑)・法人所得税(黄) (『つくられた格差 不公平税制が生んだ所得の不平等』E・サエズ/G・ズックマン著、2020/9月発行、光文社 から)経済危機論(46)


新自由主義経済政策の下で、法人税が一貫して減り続け、逆に賃金への課税が増え続けてきたこと、それが経済危機の進行と密接不可分であることから、打開策が至上命題となり、トランプ政権からバイデン政権への移行の最大の象徴が、新自由主義政策からの転換、法人税引き下げ競争からの脱却政策への転換であった。しかし、ここでもまたしてもバイデン政権の不徹底さ、いやむしろ新しい底辺への競争を加速するような悪質さを際立たせているのである。
(生駒 敬)
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