【書評】『日本軍兵士──アジア・太平洋戦争の現実』

【書評】『日本軍兵士──アジア・太平洋戦争の現実』
(吉田裕、中公新書2465、2017年12月発行、820円+税)

本書の終章に次のような指摘がある。
1990年前後から「およそ非現実的で戦場の現実とかけ離れた戦争観が台頭してきた」、「もしミッドウェー海戦で日本海軍が勝利していたら」などの「イフ」を設定し、実際の戦局の展開とは異なるアジア・太平洋戦争を描く「仮想戦記」などである。このブームはしばらくして退潮するが、近年また「日本礼賛本」、「日本礼賛番組」が目立ち始めている。軍事の分野では「日本軍礼賛本」—-井上和彦『大東亜戦争秘録 日本軍はこんなにつよかった!』(2016年)などが出ている、と。
本書は、このような風潮に対して、実証的でクールな歴史学の目で、「死の現場」での「兵士の目線」で、「帝国陸海軍の軍事的特性」との関連で、アジア・太平洋戦争における日本軍兵士を分析の対象にする。
まず、開戦後の戦局を、【第一期】(日本軍の戦略的攻勢期)1941年12月~42年5月、【第二期】(戦略的対峙期)42年6月(ミッドウェー海戦直後)~43年2月、【第三期】(米軍の戦略的攻勢期・日本軍の戦略的守勢期)43年3月(ガダルカナル島撤退直後)~44年7月、【第四期】(絶望的抗戦期)44年8月(サイパン島、グアム・テニアン両島全滅直後)~45年8月、に区分し、それぞれの戦局の特徴を述べるが、ほぼ妥当な区分であろう。
さて「日本政府によれば、1941年12月に始まるアジア・太平洋戦争の日本人戦没者数は、日中戦争も含めて、軍人・軍属が約230万人、外地の一般邦人が約30万人、空襲などによる日本国内の戦災死没者が約50万人、合計約310万人である」とされている。
ところがここで本書は、「この310万人の戦没者の大部分がサイパン島陥落後の絶望抗戦期(【第四期】・・・引用者)の戦没者だと考えられる」と意表を突く指摘をする。そしてその根拠は次の通りであるとする。
「実は日本政府は年次別の戦没者数を公表していない」。また新聞社からの問い合わせに対しても、そのようなデータは集計していないと回答しており、各都道府県も、戦死者の年ごとの推移は持っていないということであった。ただ唯一、岩手県のみが年次別の陸海軍の戦死者数を公表していた。そこでこれを参考資料にして、1944年1月1日以降の戦死者のパーセンテージを出すと、87.6%という数字が得られるのである。
「この数字を軍人・軍属の総戦没者数230万人に当てはめてみると、1944年1月1日以降の戦没者は約201万人になる。民間人の戦没者数約80万人の大部分は戦局の推移をみれば絶望的抗戦期のものである。これを加算すると1944年以降の軍人・軍属、一般民間人の戦没者数は281万人であり、全戦没者のなかで1944年以降の戦没者が占める割合は実に91%に達する」。
まさしく驚くべき数字であり、アジア・太平洋戦争での戦没者に対してわれわれが持ってきた記憶を揺るがすほどのものであろう。本書はこれについて、「日本政府、軍部、そして昭和天皇を中心にした宮中グループの戦争終結決意が遅れたため、このような悲劇がもたらされたのである」と厳しく批判する。さらに本書はこの数字のうち、戦病死者の割合が異常に高いという事実が存在し、これと密接な関係がある餓死者も高率であったと推定せざるを得ないとする。
本書は、一方で、このような数字を生み出した帝国陸海軍の軍事思想—-短期決戦、作戦至上主義、極端な精神主義、米英軍への過小評価等を検討するとともに、他方で、前線に送られた兵士たちの戦争栄養失調症、精神神経症、海没死者、自殺と戦場での「処置」という名の殺害、教育としての「刺突」、覚醒剤(ヒロポン)の多用等の問題を解明していく。本書でそれらの詳細と兵士たちの置かれた具体的で凄惨な状況に注視されたい。
この意味で本書は、「日本軍礼賛本」に流れている「日本軍の戦闘力に対する過大評価とある種の思い入れ」—-「日本は戦争に負けても戦艦大和は世界一」的な風潮など—-への反論として、有効で説得的な書であると言えよう。(R)
追記:例えば、「日本軍礼賛本」で米軍に対して勇敢で頑強に戦った例として取り上げられるのがペリリュー島の防衛戦(1944年9月15日~11月24日)である。確かに、ペリリュー島の戦闘ではそれまでの水際撃滅作戦の失敗から学び、堅固な陣地や洞窟に立てこもって粘り強く反撃した結果、2ヶ月間にわたって持ちこたえた。しかしこの戦闘での日本軍の戦死者は、約1万22人、戦傷者は446人(捕虜となった者を含む)であるのに対して、米軍の戦死者は1950人、戦傷8516人であり、しかもその損害の38%は上陸作戦と戦略的目標とされた飛行場制圧作戦期間(上陸後1週間)のものである。さらに日本軍戦没者の中には、545人の朝鮮人軍属が含まれている。これらの客観的事実を踏まえない限り、ペリリュー島の「死の現場」はとらえられないのではないか。
このペリリュー島の戦闘に関しては、米軍との戦闘よりも飢餓と「渇き」という無残な死に直面した日本軍兵士の状況を描いたコミックの作品に、武田一義『ペリリュー 楽園のゲルニカ』(2016年~、現在第5巻まで)がある。こちらにも目を通していただきたい。

【出典】 アサート No.492 2018年11月

カテゴリー: 平和, 政治, 書評, 書評R | コメントする

【投稿】暴投連発の安倍「全員野球」内閣

【投稿】暴投連発の安倍「全員野球」内閣
-総裁選、沖縄知事選で既に1アウト状態-

暑く長い9月終わる
9月20日行われた自民党総裁選は、安倍が3選を果たしたものの、石破の予想外の善戦により圧勝の目論見は崩れた格好となった。
国会議員票は安倍329票、石破73票と圧倒したが、それでも20票程度の「造反」が発生し、党員票に至っては224対181と石破に45%が集中した。
2012年の総裁選では「新人」同志の闘いであったため、党員票は石破が上回ったが、2015年には他者の立候補を許さないまでに、安倍の権力基盤は強固になったかに見えた。
しかし3年の間に森友、加計事件に代表される、腐敗堕落した政権の体質が露わになり支持率は低迷、経済政策でも地方、庶民置き去りのアベノミクスの本質が明らかとなって、党員の不満は鬱積していた。
大阪では安倍11813対石破7620と勝利したものの、地方議員の2連ポスターから、安倍の顔が消えると言う事態が現れている。大阪では安倍支持と維新支持が重なっており、旧来の自民党員は憂いているのが実情である。
沖縄でも安倍1753対石破1086であったが、投票率は38,94%と平均の61,74%を大きく下回り全国最低(全国最高は鳥取の83,38%)となり、故翁長知事を支持した保守層の自民離れと極右・カルト支配が露呈し、10日後に行われた知事選の結果に大きな影響を与えた。
安倍は開票後の記者会見で「党員票は前回の2,5倍だ」と虚勢を張った。しかし現職総裁が、災害対応を始めとする総理としての公務を蔑ろにしながら、恫喝、締め付けをなどなりふり構わない選挙戦を展開したにもかかわらず、圧勝できなかったことは「民意に対する敗北」と言っても過言ではない。
この結果にから目を背けるように、9月23日安倍は訪米の途に就いたが、本来なら総裁選勝利の余勢をかって、沖縄知事選の応援に駆け付けるべきであった。
しかし知事選は菅に丸投げ状態であり、6月23日の沖縄戦戦没者追悼式以降、訪れることはなかった。この時も安倍は県民から怒号を浴びたが、知事選で応援に入ればより厳しい批判を受けることに怖気づいたのだろう。
各種世論調査では「玉城リード」であり「捨てた」との評価もあるが、「僅差」「佐喜真が追い上げ」という状況の中、21日には鈴木宗男や「北海道女将の会」と面談する暇はあったのである。
「汚れ役」を引き受けた形となった菅は再三沖縄入りし、表では「携帯通話料4割値下げ」と低次元の利益誘導を行い、裏では建設業界、各種団体の引き締めに血道をあげた。
9月16日には「総裁選を忘れるぐらい」とアピールし、同行した小泉進次郎を前面に押し出したが、効果は無く来沖するたびに票を減らしたのではないか。同日引退した安室奈美恵の「翁長知事の遺志を受け継ぎ」という言葉の前には、耐えられない軽さとして空虚に響くのみであったと言える。
菅は17日には「沖縄に吹いている(政権からの)大きな追い風を受け止めのるは佐喜真」と石垣島で絶叫したが、相次ぐ大型台風の前ではシャレにもならなかった。
その台風24号の被災が続くなか行われた知事選の投票率は、63,24%と前回比-0,89ポイントの微減にとどまった。災害対応に追われつつ投票所に足を運んだ沖縄県民に敬意を表さなければならない。
台風、地震、厳しい残暑と相次ぐ天変地異に見舞われた今年の9月は、自民党総裁選の辛勝、沖縄知事選の大敗と安倍にとっては、寒風吹きすさび身も凍る最後で終わったのである。

アメリカでも寒風
総裁選の結果に落胆し沖縄知事選の展望も見えないまま、気も漫ろの状況で訪米した安倍を待っていたのは、トランプからの猛吹雪のお見舞いだった。
23日に行われた非公式の夕食会で、トランプはいきなり通商問題を切り出した。日本側は本格議論は26日の首脳会談で行う考えだったが、冒頭からアメリカのペースに乗せられた格好となった。
シナリオが突然変わったため、24日午後に予定されていた日米閣僚級貿易協議は先送りとなり、アメリカ側がより強硬に対日貿易赤字の削減を求めてくることが必至となった。
予想通り25日の茂木-ライトハイザー会談で日本側は、アメリカに2国間通商協議の開始を迫られ拒絶しきれなくなった。窮地に立った日本政府は苦肉の策として「日米物品貿易協定(TAG)」という新なスキームを編み出し、これは関税問題に限定した内容で、包括的なFTAとは違うものとして26日の首脳会談で合意したのである。
首脳会談での日米共同声明について日本側は、農業分野の対米関税はTPPの水準以下に引き下げないとする日本の立場をアメリカは尊重する。協議中は日本車、部品への追加関税措置などは行わない、などと日本の主張が認められたかのような説明を行った。
安倍も現地での記者会見でTAGについて納得のいく説明を避け、話を内閣改造と党役員人事にそらし、翌27日午前、逃げるように政府専用機に乗り込んで帰国した。
訪米中安倍は、9月18~20日に行われた南北首脳会談の成果を踏まえ、韓、米首脳との会談で北朝鮮問題に関する成果を得ようとしたが叶わなかった。文在寅からは「金正恩は適切な時期に日本と対話の用意があると言っていた」と伝えられたが、それが何時なのかなど具体的な提示は無かった。
トランプとの会談でも拉致、ミサイル問題は貿易協議によって、脇に追いやられた形となったのである。今回はさすがにゴルフをする余裕もなかった様だが、コースに出た場合、厳しいアゲインストに見舞われる中、今度は自ら池に落ちるぐらいのパフォーマンスが必要だったであろう。
10月に入り弥縫策ははやくも綻びだした。1日アメリカ政府は、メキシコ、カナダとの北米自由貿易協定(NAFTA)見直しで、新協定に為替条項が導入されたことを明らかにした。
そして13日にはムニューシン財務長官が日本との2国間交渉でも、為替条項の導入を求めていくことを明らかにした。これに対して茂木は14日のNHK「日曜討論」で為替の話は入っていないとしながら、「為替問題は財務大臣同士の話」と、麻生にお鉢を回し逃げをうった。
4日にはパーデュー農務長官が農産物の関税について、日本側にTPPの水準を上回る引き下げを求めていくと表明するなど、日米の認識の違いが次々と明らかになり、TAGの実態が暴かれてきたのである。
国内でも10日には国民民主党の玉木代表が「TAGは政府が意図的に誤訳し捏造した」と指摘、立憲民主党や共産党も追及していく構えを見せており、臨時国会の重要な論点となる。
安倍は常日頃、薩長政権を憧憬しているが、日本政府の対応はアメリカの開国要求に対する徳川幕府の狼狽ぶりと同様である。自民党も「押し付け協定」には断固反対すべきであろう。

スリーアウトを目指して
沖縄知事選敗北の衝撃も冷めやらぬ中、10月2日第4次安倍改造内閣が発足した。麻生、河野、世耕と公明党の石井らを留任させ、後は派閥均衡の結果、74歳の原田環境相など12人が初入閣すると言う、当初から勢いに欠ける布陣となった。
また党人事でも、不祥事で表舞台から消えていた甘利や稲田を復権させるなど、相変わらずの側近政治を性懲りもなく続けている。
組閣直後の報道各社の世論調査では、内閣支持率は上向かず、総裁3選と内閣改造による政権浮揚効果は無かったことが明らかとなった。そればかりか早速、片山さつきが安倍の期待通り、2人分3人分のマイナスパワーを発揮するなど、新任閣僚による問題発言、不祥事が相次ぐ事態となっている。
「在庫一掃内閣」「閉店セール内閣」と揶揄される改造内閣であるが、店先に並べた商品から不良品が続出したのである。
新内閣が出だしから躓く中、安倍は10月15日、来年10月の消費税引き上げを明言した。今回は「リーマンショック並み」云々との前提条件を付けず、自ら退路を断った形となった。
昨年の総選挙における、増税分を教育無償化などの財源とすると言う、その場しのぎの公約のツケが回ってきたのである。安倍は漫然とリフレ政策を続けてきたが一向に効果が表れず、ここに来て白旗を掲げることとなった。
安倍は全世代型の社会保障を充実させると言いながら実際は、年金支給開始年齢の引き上げ、そのための「70歳定年制」導入、医療、介護保険料、負担割合の引き上げなど高齢者の負担を増大し、社会保障政策の破綻を糊塗しようとしているのである。
政府は増税の負担軽減策として、中小小売業でのキャッシュレス決済に限った2%の1年限定のポイント還元などを検討している。しかし個人店舗の経営者や客層を鑑みるなら、このような姑息な手法では焼け石に水となるのは明らかである。
10月24日から始まった臨時国会で野党は、暴投を連発する「全員野球内閣」への追及を強めるとともに、経済、社会保障政策の対案を提示し、安易な消費増税を追及しなければならない。
さらに、外交、安全保障についても日米通商問題を筆頭に、韓国、ロシア、北朝鮮との関係改善が停滞している。安倍は中国との関係改善に活路を見出そうとしているが、対中軍拡、挑発行為は継続しており、26日の首脳会談でも領土、歴史問題の具体的進展は無かった。日本の孤立化を阻止するため、安倍外交の総決算が求められている。
沖縄に対しても12日の玉城新知事との会談から5日後に、県の辺野古埋め立て承認撤回に対する対抗措置を強行するなど、知事選の意趣返しともいうべき対応を進めている。
強硬姿勢を変えない安倍政権であるが、総裁選、沖縄知事選の打撃で既に1アウト状態と言ってもよいだろう。安倍は起死回生策として、三度増税を延期するのではないかとの観測も流れているが、来年の統一自治体選挙で2アウト、そして参議院選挙で3アウトをとり、チェンジさせなければならないのである。

【出典】 アサート No.491 2018年10月

カテゴリー: 政治 | コメントする

【投稿】新たな世界の支配者・軍事―デジタル複合企業と情報操作

【投稿】新たな世界の支配者・軍事―デジタル複合企業と情報操作
福井 杉本達也

1 沖縄県知事選での恐るべき情報操作
9月30日に行われた沖縄知事選挙は玉城デニー氏の圧勝であった。しかし、その裏で政府・与党は“植民地”の知事選に露骨に介入した。『週刊ダイヤモンド』(2018.10.13)は、介入の一端を、創価学会と与党・公明党の沖縄知事選への組織選挙という視点から「全国から5000人もの会員が現地入りしたとされる。期日前投票者数は過去最高の40万人超に上り、全有権者の35%に達した。選挙当日の台風襲来の影響もあるだろうが、前述したように学会の動員力もその押し上げに一役買っているだろう。重要な選挙に選挙区外の会員が動員されるケースは、都議選挙などでもよく見られる光景だ。」としつつ、「公明党はこうした学会員の涙ぐましい努力により支えられているわけだが…総力を挙げた沖縄県知事選でも敗北した。」と書いた。沖縄に居住しない、何のつてもない者が県民に投票を依頼しても聞く耳を持つ者などいない。翁長前知事の死去により若干選挙が早くなったといはいえ、知事選の日程はほぼ決められていた。国政選挙や重要な地方選もない時期は沖縄に集中できる。知事選の前に住民票を移動し選挙人名簿に登録されれば投票できる。5000人は事実上の与党推薦候補への上乗せである。そのため執拗に「期日前投票」が呼びかけられた。それでも、県民を裏切った佐喜真陣営は劣勢であった。
そこで、与党は劣勢を挽回しようと悪あがきでニセの情勢調査をメディアに流し、メディアはそれに忠実に従った。「選挙結果は、事前のメディアの接戦報道とは異なり、玉城氏が圧勝する結果となった。…『中立的なメディアの世論調査では、当初から知名度のある玉城氏がダブルスコアでリードし、その後も常にリードしていました。ですが与党側は、劣勢を少しでもはね返そうと、メディアに対するリークなども見られましたね』…与党側は、与党独自の世論調査の結果として、最初が10ポイント差、1週間前が5ポイント差、5日前が3ポイント差、3日前が1ポイント差と、佐喜真氏が玉城氏を徐々に追い上げつつあるかのような数字を意図的に流布させていた。またそれだけに限らず、『出口調査では玉城氏と回答しつつ、実際には佐喜真氏に投票する隠れ佐喜真支持者が多い』という情報までも流されていたという。現実には、佐喜真氏の追い上げがあったものの、玉城氏は10%前後のリードを最後まで確保していたようだが、メディアのなかには、こうした情報戦の影響を受けて佐喜真氏の勝利を予測していた社すらあった。」(yahoo=「ダイヤモンド・オンライン」2018.10.7)と書いている。つまり、メディアの多くが与党の情報操作に全面的に協力したのである。
出口調査の結果から、朝日系TVでは開票が始まった20時3分には早々と玉城氏の「当確」を出し、田原総一郎が知事選を振り返っての解説を始めた。しかし、NHKは21時30分頃まで「当確」を出さなかった。その間、台風情報のみを放送し、一切沖縄県知事選に触れることはなかった。あたかも、沖縄県知事選はなかったかような報道姿勢であった。「マスコミは出口調査をもとに『公明党支持者の4人に1人(25%)が玉城に投票した』と報道した。だが学会員歴30年を超すベテラン学会員は、『玉城に流れた票は30~40%』と見る。」(田中龍作ジャーナル:2018.10.14)。当選後、TVに大写しされた玉城氏の後ろで学会の三色旗がはためいていた。

2 トランプ大統領とメディアとの大バトル
米ニューヨーク・タイムズ紙電子版は9月5日、 トランプ大統領の振る舞いを「健全な国家にとって有害」と断じる匿名の政府高官による異例の寄稿を掲載した。問題の根源は「大統領の道徳観の欠如」にあるとし、「トランプ氏には意思決定で確固たる信念がない。外交面で米国と価値観を共有する同盟国よりも、ロシアのプーチン大統領や北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長のような『独裁者』を好む傾向がある。…憲法規定に沿い、大統領を強制的に排除する可能性もささやかれたこともある」と書いた(福井=共同:2018.9.7)。これに対し、トランプ氏は6日、政権内部の隠れた「ディープ・ステート(闇の政府)」が自身を倒すためにメディアにリークしているという陰謀論を主張した(東京:2018.9.7)。
ワシントン・ポスト紙もトランプ大統領に批判的だ。同紙を保有するのはアマゾンのCEOであるジェフ・ベゾス氏である。トランプ氏はアマゾンが不当な低料金を強いて米郵政公社の雇用を奪っていると攻撃している。これに対し、ベゾフ氏は「メディアをならず者や国民の敵と呼ぶのは危険だ」(日経:2018.9.15)とトランプ氏批判を強めている。アマゾンの時価総額はアップルに次ぎ2位の1兆ドル、ベゾフ氏の世界長者番付はマイクロソフトのビル・ゲイツ氏を抜きトップに立った。

3 巨大ハイテク企業は新たな世界の支配者
ベゾフ氏のアマゾンを始め、巨大ハイテク企業であるGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)は、新たな世界の支配者である。彼らの富はどこから来たのか。ノム・チョムスキーは「彼らはインターネット、コンピューター、人工衛星などに頼っているが、これらを開発したのは大学の研究所や政府の研究機関だ。これらの技術は30年ほど公共部門で育ててから、民間に公開されていた。…税金を使うなら、ベンタゴン(国防総省)経由が最も簡単な方法だ。…GAFAも他の大企業同様にこのシステムに寄生している。米国は複雑な国家資本主義制度を採用している。」(『週刊ダイヤモンド』2018.9.29)。と述べている。
8月、フェイスブック・アップル・グーグル等はプラットフォームの所有者として“悪意に満ちている”と見なす“間違った記事”を広めているとして、著名ジャーナリストのアレックス・ジョーンズ氏とウェブサイトをサービスから排除した。これらの検索エンジンは公共的議論から保守的な世界観を検閲するための取り組みを始めた。現代版の焚書坑儒である。ジョーンズ氏は2016年の大統領選挙運動では、トランプ氏を強く支持していた。(「アレックス・ジョーンズ粛清:2018年中間選挙に干渉するアメリカ巨大ハイテク企業」『マスコミに載らない海外記事』:2018.8.11)米国を始め欧米諸国では民衆を力づくに制御することは難しい。別の方法が必要である。その中で生まれたのが巨大ハイテク企業である。「その使命は人々の態度や意見を操作すること」(チョムスキー:「『ほんとうの自由』のために闘う」『世界』:2014.6)にある。

4 軍事―デジタル複合企業GAFAの役割とスノーデンの警告
エドワード・スノーデン氏の警告によれば、米国では“模範的”“愛国的”市民が集中的な監視対象になり、調査報道ジャーナリストたちが“国家の脅威”としてリストに上がっている。大量監視は国民の安全ではなく、グローバルな支配体制を守るために、すべての個人を“容疑者”として見張ることである。「情報通信産業は利益の追求という『経済的インセンティブ』に突き動かされながら、いまや世界の軍産複合体の中心部で、この広範な戦争と支配の構造を下支えしている」。日本政府は米国の監視システムによって監視されながら、一方では忠実な下僕として、日本人の通信データを米国に横流している。強権発動をするまでもなく、「報道の『不自由』が日本のメディアに蔓延し、日本の報道関係者はネット上の流動的、断片的な情報から内向きに聞こえのよいもの、効率よくニュースにできるものを選択する『不自由』に慣れ、日本人の世界を理解する力を深刻に低下させている。」(小笠原 みどり:スノーデンの警告「僕は日本のみなさんを本気で心配しています」『現代ビジネス』2016.8.22)のである。こうしたメディア支配の下、沖縄知事選での情報操作が行われた。沖縄県民は米国や日本政府にとっては植民地の“土人”(機動隊員の認識)であり、“容疑者”であり、監視の対象であり、情報操作の対象である。本土のメディアのほとんどが県民の意志を無視した。東京の創価学会は5000人もの“にわか有権者”を送り込み、物理的にも県民を屈服させようとした。しかし、選挙の結果、それは全く破綻した。沖縄県民(また沖縄の学会員も)が主権者であることを宣言し、“土人”の立場に甘んずることを拒否したのである。
巨大ハイテク企業は一見、軍事とは無縁な存在に見えるが、「Googleは、米軍のイラクで使用されていた地図作成技術を提供し、中央情報局のデータをホストし、国家安全保障局の膨大な情報データベースを索引付けし、軍用ロボットを建設し、ペンタゴンとスパイ衛星を共同発射し、 AmazonのeBayからFacebookにいたるまで、これらの企業の一部は、アメリカのセキュリティサービスと完全に絡み合っている」(エリオット・ガブリエル:2018.9.4)。我々は、こうした新しい軍事―デジタル複合企業の監視下・支配下にある。
そもそも、我々が、日常的に使用しているインターネットの起源は、1969年に国防総省の高度研究プロジェクト庁(ARPA)の科学者たちによって構想された。「Arpanet」と呼ばれたこの分散型システムは、戦場レベルまでの軍事ノードを接続し、データを素早く無線で共有することを可能にした。核攻撃や大規模な戦争が発生した場合、ネットワークのスワッシュが破壊されても引き続き運用されるものとして構想・設計された。インターネットはこの努力の“成果”である。社会的な混乱を予測し予防する最終目的で、情報を収集して共有し、リアルタイムで世界を監視し、人々や政治運動を研究し分析するコンピュータシステムを構築しようとする試みである。 軍事―デジタル複合企業は、軍事、知能、警察の機能の形で国家の抑圧的な武器と容易に協力し、その結果、政府全体と比較して秘密の国家安全保障国家を劇的に強化している。

【出典】 アサート No.491 2018年10月

カテゴリー: 政治, 杉本執筆 | コメントする

【投稿】デニーさん圧勝が示したもの 統一戦線論(53)

【投稿】デニーさん圧勝が示したもの 統一戦線論(53)

<<自公・「勝利の方程式」、屈辱の敗北>>
安倍政権6年の「成功体験」、常勝戦術であった、そして自信満々であったはずの「勝利の方程式」は、もろくも決定的な敗北を喫した。沖縄県知事選で玉城デニー候補に、終盤数千票差の大接戦どころか、玉城候補39万6632票対佐喜真候補31万6458票、8万票以上の大差、県知事選史上最多得票を許して敗北するという、自公政権にとって屈辱的な大敗であった。
この「勝利の方程式」は、今年2月にあった名護市長選、「辺野古問題は終わった話」と位置づけ、辺野古新基地建設問題の「へ」の一言も言わず、徹底的に争点隠しに徹し、米軍基地の跡地利用や沖縄振興策など「未来の話」を前面に戦う、「自民・公明・下地(維新)で絶対に勝てる。勝利の方程式だ」と豪語していた、自公合同選対を組む“名護市長選方式”であった。続く6月の新潟県知事選でも、この“名護市長選方式”が持ち込まれ、原発再稼働問題の争点化を徹底的に回避し、菅官房長官が公明党の自主投票方針の撤回を要請、創価学会のフル稼働につなげた。安倍政権を批判していたはずの政治評論家の森田実氏までもが、公明・創価学会、二階俊博・自民幹事長べったり路線を臆面もなく露呈させ、自公の花角候補の応援に「自ら志願して2回参上し、講演会や街頭での応援をしました」という事態までもたらした。
この方程式の下、新潟県知事選、直近の名護・石垣・沖縄の3市長選での勝利をそのまま今回の沖縄県知事選につなげるために、安倍政権は自公、創価学会幹部、閣僚、国会議員、地方議員の総動員体制を敷き、組織や運動量で玉城氏を圧倒していたはずであった。
さらにいわゆる「基礎票」でも前回とは違って自公の佐喜真氏が玉城氏を上回っていたはずであった。前回の知事選で当選した翁長氏の獲得票は36万820票。自民の推した仲井真弘多氏は26万1076票。その差、10万。前回は公明党が自主投票、維新の会の下地幹郎氏も出馬、約7万票を獲得。机上の計算では今回、前回の仲井真氏の票+下地氏の7万票+7~8万票の公明票で、玉城デニー候補は前回の翁長得票から6万減、佐喜眞候補は仲井眞票を13万上回り、30万票対39万票で、佐喜真候補は玉城氏より「断然優勢」、「勝ちパターン」の典型、楽勝のはずであった。
その上に「史上最大規模」と言われるほどの自公幹部・議員・秘書が投入され、公明党は5~6000人もの創価学会員を全国から動員し、原田会長の陣頭指揮で期日前投票へ動員。“名護市長選方式”の産みの親の菅官房長官は、危機管理の要職でありながら、官邸不在という異常事態を承知の上で3度も沖縄に入り、石垣市にまで飛び、宮古島にも足を運び、那覇市では街頭演説にまで立ち、携帯料金4割引き下げなどデマ公約まで公言して陣頭指揮。自民党は企業・団体へ「仕事と金」と引き換えにノルマを課して期日前投票に動員、業界団体に「期日前実績調査票」を提出させる、証拠の投票用紙記入のスマホ撮影まで暴露されるほどの、ヒトとカネと物量、そしてデマと恫喝で圧倒する「本土直営選挙」であった。その規模と動員体制、点検、テコ入れは、過去のどの知事選をも上回る「史上最大規模」のものであった。

<<安倍政権の致命的敗北>>
しかしこの「本土直営選挙」が完全に裏目に出たのである。各メディアの出口調査によれば、玉城氏は無党派層の7割から支持を得たことが決定的であり、なおかつ、自民支持層の2割、公明支持層の3割程度も玉城氏に流れたことが確実とみられている。自公の「勝利の方程式」は通用せず、崩壊してしまったのである。
なぜ、安倍政権、自民党と公明党がここまで総力戦を展開し、序盤優勢とみられながらも、ここまで大差の敗北を喫したのか。それは、「対立から対話へ」「沖縄に寄り添う」と言いながら、佐喜真・自公陣営が最後まで最大の争点であった「辺野古新基地建設の是非」について徹底的な争点回避に逃げ込み、逆に露骨な利益誘導の強権的姿勢で沖縄県民を買収しようとする路線に徹したこと、この沖縄県民を愚弄する姿勢が、県民の総意として明確に拒絶されたことにある。沖縄県民が前回の翁長知事誕生に続いて、あらためて「辺野古新基地建設はさせない」とはっきり打ち出した玉城デニー氏を選択し、大差で押し上げた県民の意思、その民意を無視することはもはや不可能な事態をもたらしたのである。権力を総動員し、民意を力ずくで押しつぶそうとした安倍強権政治に対する県民の誇りをかけた怒りの噴出であり、驕れる安倍政権への、そしてこれに追随した公明・創価学会への厳しい審判なのである。
安倍政権にとっては、まさかの大惨敗を喫したこの屈辱、ダメージは計り知れず、改憲戦略への影響は避けられず、致命的敗北となったと言えよう。自民党総裁3選を決めたばかりの安倍首相にとって、最初の一歩でつまずくどころか、いきなりノックダウン、打ち倒されてしまったのである。政権の“終わりの始まり”、事実上のレイムダック(死に体)化の進行である。
与党が全力を注いだ選挙、それも大差での敗北は、安倍政権の求心力を決定的に弱体化させたことは間違いない。それは、沖縄県知事選敗北直後の10/2に発足したばかりの第4次安倍改造内閣の布陣にもあらわれている。「全員野球」と言いながら、実態は各派閥割り当ての投げ出し内閣なのである。その新内閣は、もはや政治的・外交的配慮もかなぐり捨てたかつてないほど右翼的で軽薄な閣僚、従軍慰安婦や南京大虐殺の存在そのものを否定する発言をしてきた歴史修正主義者、教育勅語を賛美する前時代的復古主義者、アジアの近隣諸国との外交において差し障りのある問題閣僚、国民主権、基本的人権、個人の尊厳など憲法の基本的価値をまったく理解していない人物のオンパレードである。こんな閣僚の新内閣で、朝鮮半島や東アジアの緊張緩和、拉致問題の解決などありえないし、むしろ、挑発し、緊張激化をもたらすことこそが目的と言われる布陣である。「ほぼ全員ネトウヨ内閣」「歴代超軽量級内閣」「在庫一掃内閣」「総裁選の論功行賞人事」「安倍ご臨終内閣」などと評され、自民党内部からでさえも「閉店セール内閣」、おまけに安倍政権御用達ジャーナリストと言われるあの田崎史郎氏からも、「これまでの安倍内閣でいちばん出来の悪い内閣」という酷評が出る始末である。
安倍政権の求心力の喪失は、この新内閣への「期待」がたったの8%という世論調査(10/7 毎日新聞)の結果にも表れている。

<<沖縄のチムグクル(真心)>>
こうした事態をもたらしたのは、もちろん、第一に、辺野古基地建設の是非について、「辺野古新基地建設はさせない」と、これを正面から訴えて翁長氏の遺志を引き継ぐことを明確にした玉城陣営の決定的勝利である。しかし選挙戦突入当初は、オール沖縄の分裂の危機、選挙前のデマ攻撃と佐喜真陣営の大量のヒトとカネと物量大作戦を前にして暗雲が漂っていたのも事実と言えよう。それを乗り越え、克服したのは、デニーさん言うところの沖縄のチムグクル(真心)路線の徹底である。玉城デニーさん、曰く「チムグクルとは、私心のない、見返りを求めない心です。」(『週刊金曜日』10/12号、渡瀬夏彦インタビュー)、それは、徹底した無私、献身、政党エゴ・セクト主義の排除の路線なのである。
玉城陣営は中盤のヤマ場となる那覇市での8千人集会でも、駆け付けた名だたる野党の大物政治家を誰ひとり壇上に上げず、“ウチナーンチュの戦い”を強調し、候補者自身も支援政党の幹部と肩を並べることをあえてせず、あくまでも「オール沖縄」の候補の立場を堅持し、一貫させたのである。支援政党の支持者よりもさらに幅広い層の支持、無党派層の獲得にこそ重点を置き、デニーさんは「誰ひとり取り残さない政治」こそ「チムグクル(肝心)」とも表現している。支援する野党各党も、その路線、戦術を受け入れ、「オール沖縄」としての闘いを優先させたからこそ、分裂の危機を乗り越え、真心と肝心を結合させることが出来たとも言えよう。
市民と野党の共闘で、欠けてはならないチムグクル、真心と肝心の結合がここに提起されているとも言えよう。それは、統一戦線の神髄とも言えよう。
共産党が野党統一候補者調整に際して、「相互推薦・相互支援」を条件とするなどというのは、このチムグクル路線に反するものではないだろうか。「安倍政治を許さない」あらゆる勢力を結集できるかどうか、自民・公明支持者からさえ造反や離反を勝ち取れる、無党派層の圧倒的多数を獲得できる統一戦線のあり方が問われているのである。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.491 2018年10月

カテゴリー: 政治, 沖縄, 生駒 敬, 統一戦線論 | コメントする

【書評】「国体論」

【書評】「国体論」 (白井 聡著 集英社新書2018.4.22)

戦前と戦後は如何に区別できるのか。天皇の統治した戦前は、無謀な戦争に突入し破滅的な敗戦を迎え終わった。連合軍に占領された後、連合軍(具体的にはアメリカ軍)による占領政策(軍隊の解体・治安維持法の廃止など)と民主憲法の成立により、日本は民主主義国家となった、という考え方が一般的で教科書にも記されている。
著者白井は、戦前・戦後という区分について、戦前の明治から敗戦まで、そして戦後から現代が「類似した歴史経過」を辿っていると考える。戦前とは、日本を統治した国体=万世一系の天皇が統治した時代が、発展(明治期)停滞(大正期)崩壊・破滅(昭和20年まで)を経てきたこと、統治しない天皇(象徴天皇制)と占領・支配するアメリカを「国体」として再構築された「戦後」は、発展期(1975年前後まで)・停滞期(日米経済摩擦の時期)・破綻期(冷戦終了から現代)に分類し、戦前と戦後が、同様の経過を辿っていると分析する。

「明治維新を始発点として成立した「国体」は、様々な側面で発展を遂げたが、昭和の時代に行き詰まりを迎え、第2次世界大戦での敗北によって崩壊した。そして戦後、「国体」は表向きは否定されたが、日米関係の中に再構築された」
「思えば。占領改革と東西対立は、戦後日本をイデオロギーの次元ではすこぶる奇妙な状況に置いた。その構造においては、アメリカによる支配を受け入れることが、同時に天皇制の維持(独自性の維持)であり、民主主義でもあったのだ。国体の破壊(敗北と被支配)は国体の護持(天皇制の維持)であり、国体の護持(君主制の維持)は国体の破壊(民主制の導入)であった。これらは敗戦に伴う一時的な混乱などでは、さらさらない。この奇妙な矛盾のうちに、戦後日本の腑分けされるべき本質が横たわっているのである。」

本書は、戦前の「国体」が、戦後は新たな「国体」(アメリカによる支配)に変異したとする考え方を示すとともに、戦前と戦後が、発展から破滅という共通の経過を辿っていることを示そうとする。そして、現在の日本の政治や社会が陥っている機能不全や破綻状態の根源を示すことで、そこからの脱却の回路を探ろうとしているのである。

近年の私の関心は敗戦によって何が変わったのか、変わらないものの方が多いのではないかという点である。断絶と連続の歴史ではないか。経済においては、1940年体制が継続していると、経済学者野口は指摘している。1940年代に形成された国家総動員体制は戦後も継続し、高度経済成長が齎されたという。また、政治・軍事の分野では、戦争を遂行した陸海軍の首脳には、極東裁判による有罪・死刑等の審判が下された。しかし、東西冷戦の始まりと共に、アメリカは日本の再軍備を進め「保安隊」「警察予備隊」そして「自衛隊」の設置において、多くの旧陸海軍将校が幹部となっている。また、治安維持法を実際に運用した司法官僚・特高警察幹部・内務省関係者は、罪を問われることなく公職追放となったとしても、まもなく法曹界に復帰している。「警察・司法」関係者も、その後日本国憲法下で、それぞれの分野に復帰している。731部隊で人体実験を繰り返した旧帝大の医学関係者も罪を問われることなく戦後の医学会に君臨した。
戦後民主主義と言われるが、政治・司法・軍事・経済体制のを担ったのは、日本を破滅に導いた戦犯達であり、彼らは一夜にして「反米愛国保守」から「親米愛国保守」に鞍替えしたに過ぎなかった連中である。
本書では、万世一系の天皇統治国家が、敗戦・占領の過程を通じて、如何にして「象徴天皇制」と「アメリカへの従属」を基軸にした国家に変容したかが語られている。

戦後の項では、冷戦がすでに終結し、アメリカへの従属が意味を為さず、新たなアジア秩序が求められる時期になっても、アメリカ・トランプへの従属を一層強め機能不全に陥っている安倍政権・親米保守派への痛烈な批判が展開される。一読を願いたい。(2018-10-21佐野)

【出典】 アサート No.491 2018年10月

カテゴリー: 思想, 政治, 書評 | コメントする

【投稿】支離滅裂、袋小路の安倍外交

【投稿】支離滅裂、袋小路の安倍外交
―大災害をも利用し総裁三選―

やっぱり「西郷どん」
北海道地震の被害が拡大する9月7日、自民党総裁選が告示され安倍、石破の二人が立候補した。これに先立つ8月26日、安倍は鹿児島県垂水市で桜島を背に立候補を表明するという、同夜の大河ドラマ「西郷どん」で「薩長同盟」が描かれることを意識した、安っぽいパフォーマンスを行った。
同日の鹿屋市での講演でも「薩長で力をあわせ、新しい時代を切り開いていきたい」とアピールを行ったが、そもそも維新150年や「西郷どん」が盛り上がりに欠ける中、時代錯誤の訴えは空虚に響くだけである。
「薩長」ご当地はともかく、例えば「賊軍・朝敵」とされた会津では「戊辰150年」であり、若松の鶴ヶ城も「2018年は全館が幕末・戊辰戦争特集」として、白虎隊自刃の刀や降伏式に敷かれた「泣血氈」を展示するなど、明治維新を祝う雰囲気など皆無である。さらに薩摩藩や明治政府の侵略を受けた沖縄は言うまでもないだろう。
こうした地方や少数派の感情を逆なでするようなデリカシーの無さは、安倍の政治姿勢に一貫するものであるが、今般の台風21号、北海道地震での対応にもそれが如実に表れた。
9月4日、関西国際空港は高潮により水没、タンカーの衝突で連絡協も破損し機能を喪失したが、安倍は6日の非常災害対策本部会合で7日中の国内線再開を指示し、国際線の再開も急がせる考えを明らかにした。
これは関西一円で大規模停電が続き、市民生活へのダメージが拡大する中、政府のメンツを優先させる対応であるが、本来災害復旧の先頭に立つべき大阪府知事も、混乱のさなかに沖縄知事選の応援にでかけ、さらには万博誘致活動として渡欧するなど、住民軽視、職務放棄ともいえる動きをしている。
安倍、松井が関空会社の尻を叩いて国際線の再開を急がせたのは、物流、移動の確保より、訪欧パフォーマンスの演出(結局中部国際空港から出国したが)の為と言われても仕方がない。まさに二人の「盟友関係」を示すものと言えよう。
6日に発生した北海道地震では官邸が犠牲者数を次々と公表した。しかし「心肺停止者」を「死者」にカウントするという初歩的ミスのため、地元自治体や警察の公表数との齟齬が生じ、先走った政府は度々、訂正と謝罪をする羽目となった。
さらに安倍は、西日本水害でも問題点が指摘された「プッシュ型支援」を強行したため、被災地のコンビニやスーパーに現地のニーズにそぐわない、偏った商品が並ぶ結果となった。
こうした混乱の要因には、石破の「地方創生」や「防災省」構想を意識するあまり官邸主導を演出しようとした、いわば災害や地方の政治利用がある。こうした「被災者ファースト」の災害対応より、自らの政治的利害を優先させる人間に、国民の安全を語る資格のないことは明らかである。

形骸化した総裁選
しかし自民党総裁選は、告示以前に安倍圧勝=信任投票化が既成事実化した。北海道地震の影響で3日間自粛された論戦は9月10日の所信発表、共同記者会見で再開されたが、会見終了1時間後に安倍は機上の人となった。
8月28日、自民党の総裁選管理委員会はマスコミに対し、総裁選報道について「公平・公正」を求めるとの文書を配布し不当な圧力をかけた。しかし、実質10日間の選挙期間のうち4日間を、重要とは言えない外遊にあてるのは、自ら公平を放棄しているようなものである。
安倍がロシアに居る間、石破は積極的に地方遊説をしているわけであり、これを報じるなとでも言うような対応は、それこそ公正に反するものであろう。
安倍が論争を回避するのは、圧勝予測もさることながらその主張になんの正当性もないからである。
安倍は経済政策として9月10日には相も変わらず「三本の矢でデフレ脱却」としながら、帰国後の14日の討論会(日本記者クラブ主催)では、脱デフレの目途も示さずに「任期中に出口戦略を明らかにする」と日銀の政策修正を追認するだけの表明を行い、地方振興にしても「トリクルダウン」を唱え続けるなど具体性、実現性に欠けるものばかりである。
プーチンはウラジオのフォーラムで「いま思いついた」と煙に巻いたが、安倍は本当に思い付きでしゃべっているのではないか。また石破の指摘に対して「トリクルダウン」とは言っていないと否定しているが「景気回復は地方に波及してきている」とはそういうことであろう。これは「朝ごはん」論法同様の詭弁であり、「地方からの景気回復」という発想そのものがない「プッシュ型」の変形である。
また独占資本、高所得層からのトリクルダウンも破綻している。政府(厚労省)の所得統計が操作され、給与総額が2倍以上水増しされていることが判った。(西日本新聞9月12日朝刊)
外交・安全保障でも破綻しつつある「自由で開かれたインド・太平洋戦略」を主張、対北朝鮮政策では「連絡事務所の設置」を主張する石破に対し、14日の討論会では「金正恩と向き合う」と言いながら「拉致問題を解決できるのは安倍政権だけと言ったことはない」と開き直った。
こうしたなか、安倍が極めて具体的に述べたのが改憲である。9条への自衛隊明記など4項目の改憲案を次期国会に提出するとして、並々ならぬ執着を改めて示し、何のための総裁三選なのかを臆することなく露わにしているのである。

プーチンの奇襲に動揺
安倍が総裁選を蔑ろにして臨んだ、ウラジオストックでの「東方経済フォーラム」や一連の首脳会談も散々なものとなった。9月10日、安倍は2時間半待たされて臨んだ日露首脳会談で、北方領土での共同経済活動の推進で合意した。
これは本来8月中に行われる予定だった現地調査の結果を踏まえ合意されるものであった。しかし調査は「天候のため」延期となり、結局未実施のまま首脳会談が持たれたため、事実上昨年9月の合意5項目を再確認するに終わっている。
さらに現地での活動を保証する「特別な制度」についても進展はなかった。当然、領土問題も進展はなく、またしても会うだけに終わった。憔悴する安倍にプーチンは容赦なく追い打ちをかけた。12日、習近平ら各国首脳が居並ぶフォーラムで突然、「年内にあらゆる前提条件抜きでの日露平和条約締結」を提案したのである。
衆人環視のもと平場での奇襲攻撃を受けた安倍は、何のリアクションも無しに笑っているだけであった。欧州の首脳なら「それは大統領からのクリスマスプレゼントを期待してよいのか」ぐらいの返しをしただろうが、安倍には無理だった。
プーチン発言については「領土問題交渉」の良くて「棚上げ」悪くて「打ち切り」以外の何ものでもないが、日本政府筋は「経済協力」を引き出すための方便、「プーチンは焦っている」との都合の良い解釈がなされている。北朝鮮と同じく「制裁に苦しむロシアは喉から手が出るほど日本の支援を欲しがっている」との思い込みがあるのである。
しかし、ウラジオで11日に開かれた中露首脳会談では、ロシアのガス田開発など大型プロジェクトで合意、両国の貿易額もこの上半期は前年比3割増という高い伸びを示しており、日本の存在感は低下している。
軍事面での中露連携も進んでいる。クリミア併合による制裁でロシアはドイツからディーゼルエンジンが購入できなくなり、これを搭載予定だった海軍新鋭艦艇の建造が一時ストップした。しかしロシアは中国から同エンジンのライセンス生産品を入手し建造を再開し、就役した艦は9月上旬に地中海で行われた大規模演習に参加している。
極東地域では、約30万人が動員される大規模軍事演習「ヴォストーク2018」が9月11日から開始された。この演習には初めて中国人民解放軍約3000名が参加しており、これまで「対日米」・「対中」だった同演習の想定が「対日米」に絞られたと考えられ、「親日国」のモンゴルも参加している。
「歴史上最良の時期」(習近平)にある中露首脳は、フォーラムのイベントでも二人で酒のつまみを作るなど親密さを示した。

安倍三選を超えて
こうしたなか12日に行われたに日中首脳会談で安倍は、約40分の会談で10月23日の訪中を取り付けたものの、来年の習訪日の確約は取れなかった。
中国が関係改善に意欲を見せているのは、背景に米中貿易紛争があり日本を味方につけたがっているとの、都合の良い解釈がまたしてもなされている。そうだとしたら日中関係の改善を進めることは、日米分断工作に嵌ると言うことになる。
安倍政権としては、アメリカと連携して中国を追い詰めるのが本来の姿であろう。しかし実際は、この間トランプが安倍を見限りそうな兆候が散見されており、8月15日の閣僚による靖国参拝を止めさせるなど、安倍が支持基盤の意向に背き、領土、歴史問題を棚上げしてすり寄っていっているのが実情であろう。
ところが今年の「防衛白書」では、先月号で指摘した「自民政調会提言」と同様に中国への危機感を露わにしており、安倍の言う「新しい段階の日中関係」の具体像は不透明なままである。
この様な対露、対中のみならず、対北朝鮮そして対米まで、支離滅裂で袋小路にはまり込んだ外交が、安倍が総裁選で主張する「戦後外交の総決算」の中身である。
総裁選は形式的な論戦が消化される一方で、マスコミだけでなく石破陣営への圧力も明らかになっている。さらに一部報道では下村博文、西村康稔、萩生田光一の「三悪人」の暗躍も暴露されており、安倍政権の陰湿さが凝縮された選挙戦の様相を呈している。
安倍三選の先には、経済の停滞、国民生活の窮乏、社会の分断、国際緊張の激化が待ち構えていることは明らかとなっている。
こうしたなか闘われている沖縄県知事選の意義は、ますます重要になってきており、玉城候補の勝利をなんとしても勝ちとらなければならないのである。(大阪O)

【出典】 アサート No.490 2018年9月

カテゴリー: 政治, 災害 | コメントする

【投稿】北海道胆振東部地震による「ブラックアウト」と泊原発外部電源喪失事故の恐怖

【投稿】北海道胆振東部地震による「ブラックアウト」と泊原発外部電源喪失事故の恐怖
福井 杉本達也
1 北海道全域が停電という「ブラックアウト」
9月6日、北海道胆振地方で大地震が発生し、震度7が観測された。各地で土砂崩れや家屋倒壊が起き、多数の死傷者が出た。札幌市でも液状化で埋立地の上に建設された多くの住宅が倒壊した。地震の影響で、北海道全域の295万戸が停電する異常事態(「ブラックアウト」)となった。停電は、電力の約半分を賄っていた苫東厚真火力が、地震で緊急停止したことが発端となった。他の火力も連鎖的に発電量と使用量のバランスを取る必要がある。バランスが崩れると電気の品質が保てなくなる。今回は、苫東厚真火力の停止で管内の発電量が急減し、需給バランスが大きく崩れた。そのままでは発電機や機器類に負荷がかかって故障するため、稼働中だった他の火力も自動的に停止した。「発電機を自転車のペダルと考えてみよう。どんなときも必ず1分間に50回転(50サイクル)させなければならない。坂道でこぐ力が減ってきたら、荷物を捨てていくしかない(札幌を全停電させるとか)。その荷物を捨てるのを惜しんだから、自転車がとまってしまった。」(小野俊一:2018.9.6)。

2 泊原発は外部電源喪失
泊原発は今回の地震で、9時間半にもわたり外部電源を失った。震源から100キロ以上も離れ、震度2であったにもかかわらず、非常用ディーゼル発電機を使わざるを得ないという危機的状況に陥ってしまったのである。安定した送電と外部電源という多重位防護の第1層が破綻したのであり、ことは重大である。幸い泊原発は長期間停止中であり、原子炉内に核燃料はなく、燃料貯蔵プールに1527体の核燃料を保管していたものの、十分に冷えていたので福島第一原発のようにはならなかった。福島第一原発1号機は、全電源喪失3時間半後には燃料は蒸発による水位低下で全露出して炉心溶融が始まったといわれる。「非常用ディーゼル発電機があるから、外部電源喪失しても良い」という考えは全くでたらめな議論である。全国の消防団の訓練に『消防操法大会』というのがある。エンジン付きの稼働式ポンプからホースを伸ばして消化するという訓練で、大会に出場する前に2か月間も毎日訓練して消化のタイムを競うが、本番で毎日使っていたエンジンがかからない。残念ながら「失格」である。非常用ディーゼル発電機をいくら毎日点検し、使用していても機械は必ず故障することがあるものである。今回は運が良かったのである。

3 ブラックアウトの原因不明と全く当事者能力のない北海道電力
9月12日の北海道新聞は「胆振東部地震の発生以降、停電状況や苫東厚真火力発電所(胆振管内厚真町)の復旧見通しなど電力に関わる重要情報は、当事者の北電ではなく、監督官庁の経済産業省や道の主導で発信されている。…当事者意識を欠いた北電の姿勢に不信感が募っている。…停電して以降、復旧情報などは国や道が先行し、北電はその内容を『後追い』。計画停電実施の有無も、本来は真っ先にアナウンスすべき北電ではなく、すべて世耕弘成経産相が東京で発表していった。」と北海道電力の当事者能力のなさを批判した。現状はまるで“国営”北海道電力である。
ブラックアウトの詳細について北海道新聞は、地震直後の「午前3時8分厚真町内にある道内最大の火力発電所、苫東厚真火力発電所(3基=3号機は廃止)の2号機と4号機(合計出力130万キロワット)では、高温の水蒸気を運ぶ細長いボイラー管が縦揺れに耐えきれず損傷。直後に停止し、北電は全道の電源の4割を一瞬にして失った。ブラックアウトを防ぐため、手動でなく自動的に二つの作業が進んだ。一つが「負荷遮断」。ブラックアウトで道内の電源がゼロになると、発電機を動かすのに必要な電気もなくなり、復旧に時間がかかる。停止した電源に見合うだけの需要を一時的に切り離し、停電から回復しやすくしようとした。一瞬にして、道北、函館などの地域の多くで停電。残されたのは札幌など道央が中心だった。午前3時11分二つ目の自動システム「北本連系線」がフル稼働。北海道と本州を結ぶ送電線で、どちらかの地域で需給バランスが崩れると、自動的に電気が送られる仕組みになっている。最大量である60万キロワットが本州から北海道に向けて送られ始めた。この時点で、道内の需給バランスは不安定ながらも、保つことができていた。」ところが、「午前3時25分苫東厚真火発で唯一運転を続けていた1号機(出力35万キロワット)のボイラー管損傷が深刻化。1号機停止で、道内の他の発電所が連鎖的に停止。道内で電源が失われたため、本州からの送電もできなくなった。」しかし、それでも北海道電力は泊原発への電力供給をしようと試みたようで、「午前3時28分北電の発表とは異なり、後志管内倶知安町と岩内町の病院ではこの時刻まで送電が続いた。送電線の先には、泊原子力発電所(同管内泊村)があり、常に冷却が必要な使用済み核燃料が大量に置かれている。北電は冷却を維持するため、あらゆる手段で、電力供給を維持しようとしたようだ。」(北海道新聞:2018.9.13)と書いている。どうも泊原発への電力供給と北海道の政治経済の中心である札幌を守ろうとしたことが逆にブラックアウトを招いたようである。

4 苫東厚真発電所は震度7で全損したか
北海道電力によると、地震動で4号機はタービンが発火したとのことであるが、振動でタービンの軸受が破損したのか、発電機に封入されている水素に引火したのか、タービンが破損していれば11月までの修復は不可能であろう。また、2号機、1号機は石炭の火力を熱交換して蒸気を発生させる水を通す配管が破損している。配管などは地震動に弱く、他にも破損個所は多々あるのではないか。また、ボイラーの耐熱壁に損傷はないのか。
1週間以上もたった現在でも事故の詳細な状況は発表されていない。原発とは異なり、放射線の脅威はないので人はボイラーにもタービン建屋にも近づけるはずであるが。いずれにしても、震度7に耐えうるような発電所は存在しない。当然原発も含めてである。

5 泊原発を動かせというホリエモン・読売・産経
ホリエモンこと堀江貴文氏は「これはひどい。。そして停電がやばい。泊原発再稼働させんと。。。」「原発再稼働してなかったのは痛い」などとツイートしている。また、読売新聞社説は「問題は、道内の電力を苫東厚真火力に頼り過ぎていたことだ。東日本大震災後に停止された泊原子力発電所の3基が稼働すれば、供給力は200万キロ・ワットを超える。原発が稼働していないことで、電力の安定供給が疎(おろそ)かになっている現状を直視すべきだ。」(2108.9.7)と書き、産経も同様の主張をしている。日商の三村明夫会頭も泊原発再稼働の発言を行っている。
しかし、これは倒錯した主張である。原子力発電所は負荷追従運転ができない。100%の定格出力運転のみである。 結果、電力需要の少ない夜間に発電容量の大きな発電所が急に脱落すると出力調整余力がなく連鎖的に送電網が破綻してしまうという弱点がある。今回仮に泊発電所が動いていた場合、定格出力運転中の原子炉は苫小牧での送電網破綻の影響で緊急停止することになり、その上ブラックアウトの為に外部電源を喪失。もしも非常用ディーゼル発電機の起動に失敗すれば最終的に原子炉が爆発する可能性がある(牧野寛「ハーバード・ビジネス・オンライン」2018.9.10)。外部電源を喪失しないようにするには、原発から一定の離れた場所に、原発専用の火力発電所を複数設置し、商用電力から切り離しておく必要がある。これはパラドックスである。

6 直下型地震はどこで起こってもおかしくない
日本列島はプレート同士のぶつかり合う場所で、絶えず地下に力が加わっているが、この力が断層をずらす内陸型地震であり、マグニチュード6.7程度の地震はいつ、どこででも起こりうる。通常の地震は深さ5キロ~15キロで起こるが、今回の震源は深さ37キロもあり、「石刈低地東縁断層帯」という活断層ではなく、これまで地下で見つかっていない新たな断層が動いたと見られる(日経:2018.9.7)。6月18日に起こった大阪北部地震も「有馬―高槻断層帯」や「生駒断層帯」などがあるが、どの断層帯が動いたとは特定できていない。日本には地表に表れない断層は多数ある。
雑誌『世界』2018年10月号において島崎邦彦元原子力規制委員会委員長代理は、3.11では津波被害などで2万人弱の人が死亡又は行方不明となった。また福島第一原発事故によって、15万人もの人が避難せざるを得なかった。島崎氏は甚大な被害が発生した背景には中央防災会議が作為的に「備えていなかったから」だと指摘し、「中央防災会議などの関係機関が、地震や津波の予測という、本来は科学的検討によって議論されるべきテーマを、別の何らかの理由によって歪めた点に求められるべき」(つまり、原発の稼働を優先し、対策を怠った)とし、「電力会社をはじめ、あの規模の津波の発生は『想定外』であったとする議論があります。しかし、実際には、『想定外』ではなく、『想定しないようにした』のであり、不作為ではなく作為によって、想定しないことを選択したのです」と述べている。約260人が死亡した2016年4月の熊本地震でも揺れの予測に過小評価が見られたという。西日本は垂直に立つ断層が多く、面積が小さいことから、面積で地震の大きさを推定する予測式「入倉・三宅式」が採用されて揺れが小さく見積もられた。関西電力は大飯原発の再稼働審査にあたり、島崎氏らの忠告を全く意に介さず、「入倉・三宅式」を採用したという。わが国では大災害が起きると政府も関係者も「想定外」を繰り返すが、その実、情報を隠蔽し、「想定内」を「想定外」とする無責任がはびこっている。「中央防災会議が人を殺したのだということを、たくさんの人に知ってもらいたい」と締めくくっている。
今回程度の地震は、日本全国どこで起こってもおかしくはない。しかも、地表に活断層が見えなくても地下深くに活断層がある。泊原発直下・地下深くに活断層があっても不思議ではない。事実、原子力規制委からも原発のある半島の海底に「活断層の存在を否定できない」と指摘されている。そのような場所で地震が起こったどうするのか。泊原発に一極集中し、新規の設備投資を怠ってきた北海道電力は今回のブラックアウトで、全く主体性のない、危機管理能力のない企業であることを露呈した。そのような企業に泊原発を再稼働させてはならない。

【出典】 アサート No.490 2018年9月

カテゴリー: 原発・原子力, 政治, 杉本執筆, 災害 | コメントする

【投稿】自民総裁選と沖縄知事選をめぐって 統一戦線論(52)

【投稿】自民総裁選と沖縄知事選をめぐって 統一戦線論(52)

<<どちらも、逃げる>>
自民党総裁選をめぐる安倍首相と石破茂・元幹事長、沖縄知事選をめぐる佐喜眞淳前宜野湾市長と玉城デニー前衆議院議員、それぞれの候補者討論会、いずれも安倍首相、佐喜眞氏、両氏は、本質的な最大の争点を明らかにする政策討論から逃げまくる姑息な実態が浮かび上がった。
安倍首相は、石破氏の政策テーマごとの2、3時間の討論会の開催要求を拒否し、総花的な上っ面の討論会に3回だけ応じた。
佐喜眞氏も、当初自己の支持団体主催の討論会にだけ出席し、沖縄県政記者クラブ主催の立候補予定者討論会にはそっぽを向いて出席を断っていたが、批判の高まりに、「不参加は事務方の不手際によるもの」と釈明してやむなく応じた。
いざ開いてみると、安倍首相、佐喜眞氏、どちらも本質的な議論を避け、話をはぐらかし、論点のすり替えに徹した。安倍首相に至っては、「正直」と「ウソ」が問われた森友・加計学園をめぐる公文書の改ざん問題では、昨年の総選挙で「国民の審判を仰いだ」とすでに決着済みであるかのような開き直りである。公文書改ざんが明るみに出たのは今年に入ってからのことである。ウソを平気で平然と日常茶飯事のように垂れ流す安倍首相のファシスト的体質がここでも露呈されている。
佐喜眞氏も安倍首相とそっくり、瓜二つである。ウソとごまかし、すり替えである。佐喜真氏は、辺野古基地についての態度表明を徹底的に避け、あたかも「中立」でもあるかのように装い、逆に辺野古反対の主張を「県民を分断する」と批判。佐喜真氏は、玉城デニー氏から、佐喜真氏を含む県内全41市町村長が署名した、普天間基地の即時閉鎖・撤去、「(辺野古を含む)県内移設断念」を求めた「建白書」の精神を堅持するのか、放棄したのかと問われたのに対し、「その精神は十分理解している」としながら、しかし政府の方針に異を唱えたら「(普天間の)固定化を目指しているのかと言われかねない。われわれには限界がある」、「安全保障、基地は国が決める。われわれには限界がある」とついに新基地建設容認の本音を吐露してしまっている。地方自治そのものを自ら否定する、立候補資格すら疑われる論法である。沖縄県民を分断しようとしているのは、安倍政権なのであり、その手下、手先となることを宣言しているようなものである。
佐喜眞氏は、知事選の事務所びらきが那覇市で行われた8/24、記者団の囲み取材で「私はメンバーでもないし、現在でもメンバーでない」と、過去を含め改憲右翼団体の日本会議に所属した事実はないと強調している。ところが、宜野湾市長時代には「私も加盟している一人」と議会で明言しており、2014/5/10、日本会議沖縄県本部をはじめとする実行委員会が呼びかけた集会では、教育勅語を保育園児に唱和させ、佐喜真氏は「このような式典を行われたことを心よりお祝い申し上げる」と「閉会の辞」まで述べている。まさにこの右翼歴史修正主義の政治姿勢においても、安倍首相の森友学園・教育勅語唱和路線と瓜二つである。過去の自らの行動・発言を平然と否定し、ウソを垂れ流す点においても両者はまったく瓜二つなのである。

<<マヨネーズ並みの地盤に軍事基地?>>
この公開討論の中で、佐喜眞氏の地方自治権まで否定しかねないごまかしとすり替えに対して、玉城デニー氏は、沖縄県が行った辺野古埋め立て承認撤回について、建設予定地の超軟弱地盤の問題などを明確にし、「公有水面埋立法に基づき適正に判断して行われた。県の判断に国が従うのは至極当然のことだ」と主張。この沖縄県の埋め立て承認撤回に対し国が法的対抗策に出た場合、「あらゆる手段を講じて、新基地建設阻止に向けて断固たる対応をしていきたい」と表明し、その法的根拠を示し、「沖縄県の権限によって公有水面埋め立て法に基づき、法律に基づいた地方自治体がとったきちんとした手続き」であることを明らかにしている。
さらに玉城氏は、撤回以外に移設を止める方策についても「岩礁破砕の許可など様々な知事の許可がある。司法で解決させるという国の姿勢は本当に正しいのか、知事として明らかにしていきたい。米国民にも不条理を訴えていきたい」と述べ、「軟弱地盤や活断層の存在を鑑みると、現実的に辺野古移設は無謀であり、その事実を突き付ける」と、その主張は明確である。
そして決定的なのは、辺野古基地建設は無謀であるばかりか、そもそも不可能であるという厳然たる事実が浮かび上がってきていることである。北上田毅氏らが、沖縄防衛局が2014年から毎年実施している海上ボーリング調査の資料公開請求を拒否し続けてきたが、今年3月初め、初公開せざるを得なくなった。それによると、大浦湾埋め立て現場、水深30mの海底が厚さ40mにわたってマヨネーズ並みの超軟弱地盤であることが明らかにされている(岩波書店『世界』2018年10月号、北上田毅氏「マヨネーズ並みの地盤に軍事基地?」)。北上田氏は「たとえ政府の言いなりになる知事が誕生しても、この軟弱地盤問題を解決することは極めて困難であろう」と指摘している。しゃにむに基地建設に突き進む安倍政権の無謀な姿勢は、いかに虚勢を張ったとしても、いずれ遠からず破綻せざるを得ないのである。
9/10に発表された玉城デニー氏の政策(「誇りある豊かな沖縄。新時代沖縄」)は、主要政策として、○「万国津梁(しんりょう)会議」(仮称)を設置、○「国際災害救援センター」(仮称)を設置、○「観光・環境協力税」(仮称)を導入、○「琉球歴史文化の日」を制定、○日米地位協定の抜本改定、主権の行使を求める、○「やんばるの森・いのちの水基金」(仮称)を創設、○中学生・高校生のバス通学無料化をすすめる、○公的施設への「放課後児童クラブ」設置を推進、○子育て世代包括支援センターを全市町村に設置、を掲げ、「県民の覚悟とともに貫く三つのNO」として、
1、辺野古新基地建設・オスプレイ配備 NO
2、不当な格差 NO
3、原発建設 NO
を明らかにしている。論点、政策に関する限り、明らかに玉城デニー氏が佐喜眞氏を大きく引き離している。佐喜眞陣営は、沖縄知事選の最大の争点である辺野古米軍基地建設問題には徹底した争点隠しで乗り切り、ウソとごまかし、デマ、自民・公明・維新の利益誘導・組織選挙にすべてをかけている。玉城・佐喜眞、両陣営の激しいつば競り合いが続いている。

<<「オール沖縄」の真価>>
一方、自民党総裁選は、すでに論戦に入る前から、ハト派を任じる岸田派が安倍首相に屈服した時点で、改憲・核武装という共通の主張からして、似た者同士のすれ違いの感が否めない。それにもかかわらず、石破氏の「正直、公正」というごく当たり前の主張に対して、自民党内から「安倍首相への個人攻撃だ!」と騒ぎまわる異常さは、噴飯ものと言えよう。
論点の一つである憲法9条改定に関しては、安倍首相の性急な9条改定論に対して、石破氏は「国民に理解してもらう努力が足りない」と、9条の早期改正に慎重な姿勢を示してはいる。
しかし同時に、石破氏は「必要なもの、急ぐものから憲法改正すべき」と主張し、具体的な改憲項目として参院選挙区の合区解消や緊急事態条項の創設を挙げている。問題は、この石破氏が「憲法に加える必要性がある」、「優先度が高い」とする緊急事態条項は、きわめて危険なものである、という認識の欠如である。自民党改憲草案の緊急事態条項は、国民の基本的人権を停止させ、権力を時の政府に一元化する全権委任条項が入っているのである。1933年、ナチス・ドイツのヒトラー政権の独裁体制の確立に道を開いた、あの全権委任法と本質的に変わらないものである。当然、安倍首相もこの緊急事態条項を憲法改定に押し込もうとしている。この際、災害に乗じて憲法改定を強行しようという意図も見え透いている。
『週刊金曜日』の編集委員である中島岳志氏は「将来の首相候補と目されている石破氏が、日米安保や歴史認識問題で首相に正面から異を唱える姿を見たい」と自民総裁選の論点に期待を表明されている(同誌 2018/8/31号)。しかし、たしかに無視できない両者の違いはあれども、あくまでも相対的であり、憲法改定に関しては戦術的、スケジュール的相違の範囲を出ていない。むしろ両者に危険な共通点をあぶりだし、問題点を明らかにすることがより重要であろう。
ただし、石破氏が、災害の大規模化、多発化に直面して「防災省の創設」を提唱し始め、菅官房長官らが直ちに否定的な姿勢を示していることからすれば、自衛隊をそっくりこの防災省に根本的に作り替えることこそが提起されるべきであろう。災害支援と平和に最も貢献するものとして、野党側からこそ提起されてしかるべきであろう。
いずれにしても自民総裁選は、事実上、今やいかなる「安倍圧勝」かに絞られてしまっている。
しかし、沖縄知事選は必死のつばぜり合いである。
沖縄県選出の参議院議員・会派「沖縄の風」幹事長の伊波洋一氏は、「玉城デニー候補には厳しい選挙だ。前回のオナガ候補は、なかいま候補に約10万票差だったが、下地みきお候補も約7万票獲得した。今回、下地みきお氏は相手側を応援するので3万票差になる。前回中立の公明も今回は相手側を応援する。昨年衆院比例で公明10万票以上、必死に取り組まなければ勝てない。」と訴えている(2018/9/14 ツィート)。
自公維側の有無を言わさぬ組織戦に対抗して闘うには、一丸となって闘う、そして草の根から統一戦線を構築する、そのような「オール沖縄」の真価をなんとしても発揮しなければならない。各党党首勢揃いによる街頭演説の順番問題でもめあったり、地道で冷静な集票活動、地域分担、各層対策、宣伝活動、その責任分担、集約等々について全く不明確なままでは、各党、組織バラバラの選挙戦に終始してしまい、本来有利な情勢を生かせないことは自明である。「オール沖縄」を支援する全国の「市民と野党の共闘」、統一戦線の真価が問われている。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.490 2018年9月

カテゴリー: 平和, 政治, 沖縄, 生駒 敬, 統一戦線論 | コメントする

【書評】『「復興」が奪う地域の未来──東日本大震災・原発事故の検証と提言』

【書評】『「復興」が奪う地域の未来──東日本大震災・原発事故の検証と提言』
(山下祐介、岩波書店、2017年2月発行、2,600円+税)

本書は、東日本大震災・福島第一原発事故とその後の復興政策に対して、「この災害復興は失敗である」、そして「この復興が失敗だというのは、私が言うまでもなく、多くの人がわかっていることでもあるはずだ」と断罪する。
「福島第一原発事故では、警戒区域を設定した四町で当自治体に居住する住民・法人のすべてが長期強制避難を余儀なくされた。さらには計画的避難区域、緊急時避難準備区域に指定された市町村も実質的に全自治体ないしは全コミュニティ避難を経験している」。つまり「各コミュニティは、自らを成り立たせるために必要なもののすべてを一度に失ってしまっており、(略)」という状況が生じている。このためこれらにおいては「自然環境」「インフラ環境」「経済環境」「社会環境」「文化環境」という五重の生活環境被害が生じている。
津波被災地でも同様の生活環境被害が発生しており、「住宅被害は広域にわたり、避難はしばしば地域コミュニティ成員の全員に及ぶ」。
本書は、このような現実を踏まえれば「本震災・原発事故では、社会の一部が壊れたというのにとどまらず、コミュニティそのものが、あるいはソサエティそのものが壊滅的な打撃を被った、そういった被害が生じている」として、これを「コミュニティ災害」、「ソサエティ災害」と呼ぶ。
とするならば、原発事故の場合、「本事故からの生活再建・地域再生はこの被害の重さを認識し、これらを回復するものとして出発しなければならない」のが当然であり、津波被災地でもこのような復興政策が構築されるべきであるのは自明の理である。
ところが現実に実行されている政策は、原発事故では「除染とインフラ整備(加えて新産業による雇用の創出)を進めて帰還を促すだけで、コミュニティの再生は無策のままにある」。
また「津波被災地では、今、高さ一〇メートル前後となるような巨大な防潮堤が順に建設されている。津波の経験が、コンクリートの巨大な壁で人の住む世界と自然とを分断するという結果を生みつつある。しかも復興がこうした大規模防災土木事業の完成を前提にしているため、防潮堤ができなければ復興を進めることができず、(略)いまだに土木事業以外の進展が見られないという地域がある」。
この結果、原発事故の「避難者たちには、『被曝を覚悟で帰還するか』『自力で移住するか』の二者択一しかなく、このままで行けば、自力で生活できない人々だけが帰還を選択し、多くの人々は本来『償い』であるはずの賠償を手がかりに、避難先で自らの生活再建を試みるしかなくなっていく。この政策はこうして、帰還するもののみを選別して事業の対象としながら、帰還できないものを復興政策から排除することによって、被災者支援策としての意味をなさない政策になっている」。
また津波被災地の巨大防潮堤についても、地権者の合意、資材・人材の占有、予算の財源、時間的制約、環境問題等々の問題が立ちはだかっており、「復興事業を進めるほど地域社会は破壊され、人間の暮らしの復興を阻んでいるという悪循環のプロセスに陥りつつある」。
これら二つの事例を検討すれば、「復興をめぐって、ある方向のみが過度に強調され、そのことを軸に政策が偏向して構築されることによって、現実の復興そのものに障害を来すようなプロセスが生まれている」のである。本書はこれらを「防災至上主義」と「復興至上主義」と特徴づける。
かくして「被災者には、政府が示す巨大公共事業にのるかのらないかの選択しかない。津波被災地では巨大防潮堤や高台移転、原発事故被害地域では帰還政策(除染とインフラ再建)—-被災者・被害者はこれらの政策にのって不本意ながらもその地に身を置くか、それが嫌ならその地を去るしかない」という「選択の強要」が押し付けられる。「要するに、いったんあるところで決まってしまった政策が、既成事実化して路線変更できないような構造」を作り出してしまったという事態なのである。
つまりここでの決定的な問題点は、「政策フィードバック機構の欠如」であり、本書はこれを東日本大震災の復興政策に限らず、こう批判する。
「今の私たちが日々進めている政策形成過程(略)には何か大きな欠陥がある。この欠陥を変えることこそが、私たちに課せられた大きな宿題なのだ。そしてそのためには、国民の国策への参与・共同がまずは不可欠であり、いまや国民の参画が次々と封じられつつある以上、このことは絶対的な条件というべきかもしれない」と。
そして日本学術会議による提言(「東日本大震災からの復興政策の改善についての提言」、2014年)、すなわち「第一の道(政策にのる)、第二の道(政策にのらない)に対し、当事者にとって受け入れ可能な第三の道(オルタナティブな道)」を紹介する。
それによれば、原発被害地域の第三の道は、「長期待避・将来帰還(順次帰還)」であり、廃炉の行程が三〇年以上かかる見通しから、少なくとも三〇年は避難する権利が保証されなければならないとして、「政策パッケージ(具体的には、二重住民登録、被災者手帳、セカンドタウンなど)を示している。
また津波被災地における第三の道は、「『減災』による現地復興の道を探ること(第三の道)」=「各地域で減災を実現できる程度にあわせて防潮堤の高さや災害危険区域の再設定を行い、住民たちが暮らしの再建と防災を両立できるプロセスを確立していくこと」とされる。
このように本書は、「この復興政策は失敗だ」という現実を謙虚に見つめなおし、そこから可能な復興のあり方を再構築することを強調する。(R)

【出典】 アサート No.490 2018年9月

 

カテゴリー: 原発・原子力, 書評, 書評R, 災害 | コメントする

【投稿】消費期限偽装の安倍三選を許すな

【投稿】消費期限偽装の安倍三選を許すな
―沖縄県知事選勝利に全力を―

総裁選へ地方巡業
7月上旬の西日本大水害以降、異常な猛暑が続くなか、安部が汗を流すのは、国内外の課題解決ではなく、己の自民党総裁三選に向けての工作のみという、より異常な状態が続いている。
7月24日、安倍の対抗馬とみなされていた岸田文雄が、不出馬と安倍支持を表明した。岸田の「撤退」は、2021年での禅譲を期待してとの観測もあるが、菅は同日「将来の総裁候補」として、河野太郎、小泉進次郎の名をあげ、岸田など眼中にないと言わんばかりであった。
また岸田は前日に安倍と談判して決めたと強気の姿勢を見せたが、官邸は即座にこれを否定、「無条件降伏」であった可能性が高まった。
さらに7月下旬野田聖子に、朝日新聞の情報公開請求内容を金融庁から漏洩させた事件が発覚した。野田は出馬に意欲を見せているものの、このスキャンダルで事実上総裁選から脱落した。
一挙に2名の有力候補が消える中、8月10日に石破茂が正式に出馬の意向を明らかにした。しかし現職総理相手に勝利はもちろん、党員票では安倍を倍近く上回った2012年総裁選の再現は望むべくもない状況となっている。
一方安倍は国会議員の7割を固めつつ、党員票でも雪辱を果たし、石破を完膚無きまでに圧倒する「完全勝利」をめざしている。
そのため安倍は「陣笠」「どぶ板」さながらに地方行脚や地方議員との懇談を繰り返し、その合間に被災地訪問などの日程を消化すると言う、一国の宰相とは思えない動きを見せている。「赤坂自民亭」問題への反省など微塵もなく、赤提灯をぶら下げた屋台で全国を商っていると言ってもよいだろう。
それ端的に表れたのが8月6日であった。平和祈念式典後、被爆者代表の要望を聞く会に出席した安倍は、面倒くさそうに被爆者の話を聞いた後、核兵器禁止条約への不参加を明言、参加者の怒りを買った。
そそくさと会場を後にした安倍は、被爆者擁護施設に立ち寄ったあと、午後2時には帰京、埼玉の地方議員との懇談を行い、夜はアベトモとの会食と、眼中にあるのは総裁選のみであることを憚らなかった。
さらに親しい俳優の死去には心から哀悼の意を表し、「サマータイム導入」や「新天皇即位後の新元号公表」など市民生活に混乱をもたらす、常軌を逸した議員の要望にも、「三選の為なら何でもあり」と言わんばかりの対応を、恥じることなく繰り返している。
そもそも三選を可能にした党の規約改定など、食品の消費期限のラベルを張り替えるに等しい行為である。一部には安倍四選を期待する向きもあるが、今後も国民を欺き続けることを公言しているようなものであろう。

「護憲天皇」VS「改憲安倍」
広島、長崎で改めて核軍縮に消極的な姿勢を見せた安倍であるが、改憲への積極姿勢はますます露骨になっている。
8月12日、下関市で開かれた「正論懇話会」で安倍は「自民党の改憲案を次の国会に提出する」と明言、森友、加計事件で窮地に立たされていた時期の慎重姿勢を覆し、スケジュールありきの姿勢を露わにした。
自民党は3月に、9条への自衛隊の明記、緊急事態条項の創設、参院の合区解消、教育の拡充という4項目の改憲案をまとめているが、国会はおろか党内の論議も深まっていない。
それどころか西日本大水害では緊急事態条項以前の醜態を晒し、合区解消を待たずして参議院定数増を党利党略で成立させるなど、自ら改憲の根拠を崩壊させているのが実態である。
さらに国民投票法の改正も見通しが立たない中での強硬姿勢には、与党である公明、準与党の維新はおろか、自民党内でも疑問の声が上がっている。
こうしたなかでも、安倍の現憲法軽視は止まらない。8月15日、全国戦没者追悼式で安倍は、アジアへの加害責任や謝罪については今回も言及せず、不戦を誓うこともなかった。改憲と次なる戦争へのフリーハンドを確保しようとする魂胆が透かし見えている。
これに対して天皇は挨拶で、「深い反省」に加え今回初めて「戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ」との文言を加えた。「長きにわたる平和な歳月」を支えたバックボーンは憲法9条に他ならず、それを踏まえ「今後、戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い」とすれば、安倍も天皇が何を言わんとしたか分かったであろう。
この様な天皇の姿勢が新天皇に引き継がれれば、安部としてもやりにくいであろうし、常識的には来年11月の大嘗祭までは「世情を静謐に保つ必要」があり、国会の条件が整ったとしても改憲案の発議は難しいだろう。
これを無視して改憲を強引に進めようとすれば、安倍の「尊皇」など明治の元勲や昭和の軍部と同様の、方便に過ぎないことが明らかとなるだろう。
安倍の暴走の背景にはこうした状況への焦りと、経済政策の行き詰まりがある。8月1日、日銀は2%の物価上昇目標の達成は困難としながら、長期金利の上昇を容認するという金融緩和政策の修正を行わざるを得なくなった。
8月10日には4~6月期のGDPが年率1,9%増(速報値)となり、NHKはニュース速報を流す等、政権浮揚を図ったが、同日以降トルコリラの暴落が引き金となり、日経平均株価は乱高下を繰り返した。2四半期ぶりのプラスと言っても、個人消費の伸びも賃上げによるものではない以上、再びマイナスに転じる可能性も高い。
さらに10、11日ワシントンで行われた日米新貿易協議(FFR)は、具体的な合意なく終了した。貿易「世界大戦」を進めるトランプにとって、日本も2国間の自由貿易協定(FTA)の対象であり、早期の妥結は難しくなっている。
さらに様々な人材活用や技術開発構想も頓挫し、活路をカジノに見出そうとするなど、まともな経済政策が打ち出せない中、今後安倍政権が改憲に純化していく危険性はますます大きくなっている。

軍拡に抗する沖縄知事選
とりわけ改憲を前提としたかのような、自衛隊の任務拡大の既成事実化が進められている。去る5月下旬自民党は政調会名で、新防衛大綱と中期防衛力整備計画策定に向けた提言を行った。
この内容は軍事費の対GDP比2%への拡大を視野に入れた、通常兵力および、宇宙、サイバー空間の軍事化も含めた全般的軍拡を提言するものとなっている。GDP比2%など、現下、中長期の財政状況では荒唐無稽もいいところであるが、この中でも提言されているイージス・アショアについては経費を度外視した形で配備計画が進められている。
これに厳しい懸念を示しているのがロシアである。7月31日モスクワで開かれた日露外務、国防相協議(2+2)でロシア側は、日本が導入予定のイージス・アショアはアメリカのミサイルシステムの一部と批判した。これに対して日本側は、純粋な防衛システムだと反論し平行線に終わったが、ロシアの懸念を払拭することは難しいだろう。
一方ロシアも7月以降軍事的緊張を高めており、択捉島にスホイ35戦闘機、スホイ25攻撃機を配備した。8月上旬現在、衛星写真で確認されているのは戦闘機3、攻撃機2のみであるが、今後増強されていくものと考えられ、2016年の択捉、国後両島への新型対艦ミサイル配備に続き、北方領土の軍事化が進行している。
さらに9月には極東地域で4年ぶりとなる大規模演習「ヴォストーク2018」が予定されており、先の「2+2」では日本側は一連の動きに対し「冷静な対応」を求め、8月3日には在露大使館経由でロシア外務省に抗議を行った。
しかし9日、ロシア外務省は「(戦闘機配備について)ロ日関係を悪化させる意図はない」との極めて形式的なアナウンスを行っただけで、撤収の考えはないことを明らかにした。
8月18日には、北方領土での日露合同経済活動に向けた現地調査が「悪天候」のため中止となり、国後島沖で待機していた日本側調査団は虚しく根室港に引き返した。
こうしたなか9月中旬には、ウラジオストックで日露首脳会談が予定されているが、形式的なもので終わるだろう。日露関係の停滞―悪化は、安倍の無定見な軍拡の帰結であり、自業自得というものである。
日露関係に展望が見いだせない中、安倍は対中関係改善にシフトをし、10月に単独訪中を計画し、来年はG20での習近平訪日を望んでいると言う。この間米中貿易紛争が激化する中、安倍は「一帯一路」構想への協力を匂わせるなど、盛んに中国に秋波を送り、関係改善を進めようとしているかに見える。
しかし、実際は着々と対中軍拡を進めており先の「自民政調会提言」でも、中国を事実上「仮想敵筆頭」にあげ、「島嶼防衛」を重要項目としている。この間陸自は沖縄県内への補給拠点設置と輸送艦の新造、さらには水陸機動団の配備計画が明らかになるなど、南西諸島の軍事化が進められている。
また海自は沖縄補給拠点強化のためタンカー取得を計画し、9月には昨年の「いずも」に続き、「かが」を南シナ海方面に派遣する計画であり、この地域での軍事的プレゼンスを強化しようとしている。
このため海自は6月、シンガポールでの艦船整備体制構築に向け、同国の造船所を調査する企業の募集を開始した。太平洋戦争で日本はシンガポールを占領し海軍の拠点としたが、アジアへの加害に対する「反省」など眼中にないこととの証左であろう。
対露、対中の軍拡は、まさに笑中に刃を研ぐ行為で、両国のみならず近隣諸国との緊張関係を増大させる以外の何ものでもない。
こうしたなか「最前線」となる沖縄では、翁長知事の急逝に伴い9月30日に知事選が行われることとなった。安倍は「総裁選圧勝」の勢いをもって県知事奪還を目論んでおり、辺野古基地建設のみならず、南西諸島要塞化をも合理化しようとしている。
政府は新基地予定地への土砂投入を「悪天候」を理由に延期するなど慎重姿勢を見せているが、野党、平和勢力は警戒を緩めることなく「オール沖縄」体制を強化し、知事選勝利に全力を傾注しなければならない。(大阪O)

【出典】 アサート No.489 2018年8月

カテゴリー: 政治 | コメントする

【投稿】米国の巨大資本権力に支配されるマスコミ

【投稿】米国の巨大資本権力に支配されるマスコミ
福井 杉本達也

1 東南アジアの国々は独裁国家なのか
ニューズウィーク誌は「今や東南アジアの独裁政権はアメリカの介入や制裁を恐れずに、自国民を好きなだけ抑圧できる…アジアの独裁者は『トランプのおかげで大胆になり、やりたい放題、言いたい放題だ』」と書く。「人権派が最も警戒する要注意人物は『アジアのトランプ』とも呼ばれるドゥテルテ」、「カンボジアのフン・セン首相は85年の就任以来、徐々に独裁色を強めてきた」、「タイのプラユット首相はクーデター後何度も総選挙の実施を先送りしてきた」と名指している(ニューズウィーク:2018.8.10)。しかし、これは欧米の立場からの歪んだ批判である。東南アジアへの「米国の介入」は、1945年~1975年のベトナム戦争や、1965年のインドネシアの9.30事件におけるCIA=スハルト政権による華人住民など50万人の虐殺などを引き起こしたことを忘れてはならない。2000年代からの中国の経済発展がこうした米国の東南アジアへの介入を弱めてきた。欧米の価値観に従わなくなった国家に「独裁」のレッテルを張り、政権の転覆を図ることは軍産複合体の常套手段である。米国が「民主化」を口にするのは、グローバルな国際金融資本家・軍産複合体に都合の悪い政権に対してだけである。しかも、グローバル資本・軍産複合体にとっては自国のトランプ政権も煙たい存在であるようだ。

2 カンボジア総選挙を批判する日経と岩波『世界』
カンボジアの下院選挙では、現フン・セン首相の率いる与党:カンボジア人民党が全議席を独占することとなった。日経新聞は「民主化の後退懸念は高まり、欧米や日本が主導してきた人権尊重や法の支配など、国際秩序が揺らぎかねない…最大野党のカンポジア救国党が昨年11月、国家転覆を企てたとして解党処分になったからだ」と書く(日経:2018.7.31)。
また、数少ないリベラルな月刊誌:岩波書店の『世界』2018年8月号においても熊岡路矢・カンボジア市民フォーラム共同代表が「民主主義から遠ざかるカンボジア」として、日本はこれまで、「援助における人権・環境配慮を文言に入れて、外交政策も援助政策も、価値観を共にする国、言い換えれば、複数政党制に基づく民主主義、人権、自由主義などを重視し、促進する立場」からカンボジアに「内政干渉」してきたことを臆面もなく書いている。「ここ数年のカンボジアの現状は、この規範から明らかに逸脱している」として、「なぜカンボジアを批判せず、援助の停止もしくは見直しをしないのか」と外務省の姿勢を追及している(熊岡路矢「カンボジアで何が起きているか」『世界』2018.8)。

3 中国の影響を批判
さらに、熊岡氏は「『内政干渉はしない』という点において、中国は悪い意味で日本より徹底している。被援助国政府が人権や環境を無視しても批判しないし、援助における人権や環境配慮も求めないようである」と中国の「内政干渉」をしない姿勢を批判して、日本政府によるカンボジアへの「内政干渉」を露骨に求め、「カンボジアはもうすでに十分中国寄りであるし、いまさら中国と援助競争をする立場でもなく、できる条件もない」と中国寄りとなったカンボジアへの援助を中止しろと政府に迫っている。「人権や環境」を名目に他国への露骨な「内政干渉」することがどうして「民主主義」なのか。熊岡氏は慎重に過去の傷に触れないが、1975~1978の間に国民の1/3を虐殺したポル・ポト派・ソン・サン派・シアヌーク派の三派連合政府を支援し、1982~1991年のパリ和平協定まで、ベトナムが支援するヘン・サムリン政権との内戦に加担し続けたのは日本であり、米国である。カンボジアがASEANに加盟するのはやっと1999年であり、日本が支持・援助・「内政干渉」をし続けた結果、カンボジアの経済発展は大きく遅れたのであり、その経緯を不問にすることなどできるはずもない。
また、上記日経記事においても、中国は「経済力を背景に投資や援助を気前よくつぎ込み、人権状況には口出ししない」とし、2008年のリーマン・ショック前後から「先進国の支援が細る間隙をつき」存在感を高めてきたと批判する。国別では、中国が最大の援助国となっており、31億ドル、日本は2位の28億ドル、米国は3位の13億ドルとなっている。日本は長い間最大の援助国であったが、2010年に中国と逆転している。また、米国は既に2014年から援助を停止している。
さらに続けて、中国は「『一帯一路』の下で、カンボジアやラオス、ミャンマーなどへの支援を拡大しASEANの分断と自国の影響力浸透を狙う…米国の地盤低下もあり、タイやフィリピンでは政治的自由より経済開発を優先した『開発独裁』に逆戻りする…『中国モデル』が背景にあるのは間違いない」と結んでいるが、そもそも、中国が「開発独裁」の国家であるというのは欧米の価値観の押し付けである。なぜ、日経はイスラエルがガザにおいて非武装のパレスチナ人を何百・何千人と虐殺していることを批判しないのか。サウジアラビアがイエメンを無差別爆撃し、数百万人が飢餓寸前で苦しんでいることを批判しないのか。

4 カンボジアの現状、
カンボジアは1999年のASEAN加盟以降、急速な経済発展をしつつある。むろん現在も内戦の影響は色濃く、35歳~39歳の層が極端に少ないが、カンボジア経済は2010~2016年にかけ平均7%の高成長を維持している。1人当たりのGDPも2013年に1,000ドルを上回った。プノンペン市内中心部は、他の東南アジア諸都市と比較すると乗用車が多く、特にドイツ車を中心とする欧米の高級車が多い。進出したイオンモールは当初予定の駐車場2000台を急遽2800台に増設している。日本の企業ではミネベアなどが進出している。ポル・ポト派の根拠地であったタイ国境沿いのポイペトは経済特区となり多くの企業が進出している。確かに中国企業の進出もすさまじく、プノンペン市内の主な高層ビルの建築主は中国系企業ばかりである。2015年、日本のODAでメコン川に架かる「つばさ橋」が建設されたが、中国はその上流にさらに大規模な橋梁を建設している。しかし、これもカンボジア人の選択である。中国の進出が急速であるから疎ましいというのは外交ではない。まして、外交の主導権を取れないなら援助を止めろというのは「帝国主義的」恫喝以外のなにものでもない。ポル・ポト政権下の大量虐殺で法曹界も大打撃を受け、内戦が終わった時点で、法律の専門家は6名しか生存していなかった。一橋大学法学部を中心に日本の支援でカンボジア民法が作られ、2011年12月から新民法が適用されることとなった。これを熊岡氏は「日本政府の法整備支援を通じて出来上がった法律を、カンボジア政権が自分たちの利益のために利用している」と書いているが、『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』とはこのことである。

5 日本のマスコミはどうなっているのか
英国の国境なき記者団が毎年発表している日本の「報道の自由」は、2013年以降急速に悪化しており、2017年は72位までに後退している。国連人権理事会でさえ、日本の報道の自由に懸念を表明している(福井:2017.11.15)。これは欧米系の価値基準による順位であり、まだ甘い。実態は欧米通信社や米IT企業からの「加工された」一方的情報の垂れ流しである。米軍産複合体の恫喝に屈する国家は「民主国家」であり、屈しない国家は「独裁国家」とされる。その大枠のストーリーに沿わない物語は全て抹殺され、報道されない。報道されなければ我々は知りようがない。8月17日の日経のトップ記事は「トヨタ中国生産2割増」「日本車、対中依存一段と」と書く。「民主化要求を封殺したまま経済大国に上り詰めた」中国(日経:7.31)が危険と思うならば、トヨタは中国に進出しなければよい。リスクが少ないと思うから進出しているのである。日経の報道は一旦日本を離れれば通用しない。マスコミの報道と現実は真逆の方向を向いている。

6 米国のIT大手GAFAは何をしているのか
8月6日前後に米国IT大手企業Facebook、Apple、Google、YouTubeらはプラットフォームの所有者として、“間違った記事”を広めているとして、著名ジャーナリストのアレックス・ジョーンズのウェブサイトを排除した。ジョーンズのウェブサイトは大統領選挙運動中、トランプ大統領を強く支持していた。また、トランプはジョーンズを”素晴らしい”と称賛していた。Facebookは「規約に反する内容を繰り返し投稿した」ことを理由に挙げた。ジョーンズは9・11の同時テロは米政府の「内部者による犯行」といった陰謀論を発信しており、米軍産複合体にとっては邪魔な存在であり、今回の措置はIT大手の市場独占を利用した、少数意見の人々を標的にした政治検閲である(参照:日経:2018.8.8)。
4月にメディア・リサーチ・センター(MRC)が発行した報告書は、IT大手は「公共的議論から保守的な世界観を検閲するための明らかな取り組みで」保守的言説を抑圧していると結論付けている。米国内でのロシア・メディア、RTとスプートニクの締めつけは、この傾向の一環である。中間選挙前に米国では、人々の基本的権利を剥奪するため、「ロシアゲート」と大規模検閲キャンペーンが仕掛けられている(マスコミ載らない海外記事:Peter KORZUN:2018.8.11)。「大統領すらメディアの私権力に屈することは戦前の新聞王ハースト以来何も変わらない。巨大資本私権力の前には自由も人権も民主主義もない・・それがアメリカだ」(衣笠書林:2018.8.15)。その米巨大資本権力の前に屈するどころか、尻尾を振って追従する日本に元々自由も人権も民主主義もあるはずがない。あるのは勘違いだけである。

【出典】 アサート No.489 2018年8月

カテゴリー: 平和, 政治, 杉本執筆 | コメントする

【投稿】沖縄県知事選・翁長知事急逝をめぐって 統一戦線論(51)

【投稿】沖縄県知事選・翁長知事急逝をめぐって 統一戦線論(51)

<<急きょ、土砂投入の延期>>
翁長知事の急逝に伴う沖縄県知事選の日程が9/13告示、9/30投開票と決まり、事態があわただしく流動している。辺野古の海の埋め立て・米軍新基地建設承認の撤回に踏み切る決意を翁長知事が明確にした直後の急逝である。沖縄県民の民意を無視した辺野古新基地建設をあくまで強行するという安倍政権あげての翁長知事への圧力、その重圧、ストレスこそが、翁長知事を急逝に追い込んだ、それは誰の目にも明白である。
6/23の沖縄戦の「慰霊の日」には、翁長知事は抗がん剤治療中にもかかわらず、毅然として平和宣言を読み上げ、「辺野古に新基地を造らせないという私の決意は県民とともにあり、これからもみじんも揺らぐことはありません」と明言し、会場は大きな拍手や指笛で応え、7/27には、辺野古埋立の承認撤回の手続開始を表明、その12日後、8/8の急逝である。翁長知事は4年前の知事選で、公約を覆して埋め立て承認をした仲井真・前知事に対し、約10万票の大差をつけて初当選、今回の翁長知事の撤回表明は、その民意を背景にした決断であった。さらに、その撤回のための行政手続として、国から意見を聞く「聴聞手続」があり、その聴聞手続について国から9月への延期の申し立てがあったが、8/6、翁長知事は「延期を認めない」との判断を下したのであった。翁長知事は明らかに、日本政府が土砂搬入を開始するとしている8/17の前に承認を撤回するという意思を示していたのである。
この決断に対して、安倍政権は、11/18に予定されていた知事選を前提に、8/17にも辺野古沿岸への土砂投入を強行し、基地建設を既定の動かしがたい事実として棚上げさせ、その是非を問わない、知事選の争点外しを目論んでいたのである。しかし事態は、9月に前倒しの選挙となり、知事の急逝にあわてた安倍政権は、急きょ土砂投入を延期し、「喪に服す期間への配慮」を理由に、政府が沖縄県側に、辺野古の海の埋め立て承認撤回を知事選後に延期するよう要請していたとまで報道されている。
もちろん、土砂投入延期は、翁長知事死去への「配慮」などといったものではなく、なりふり構わぬ強硬姿勢への県民世論の反発を避け、ただただ一時的な休戦・転換を演出し、知事急逝・弔い選挙として、辺野古基地建設強行の可否が選挙戦の争点として問われることを何としても避けたいという露骨な争点外し、焦りでしかない。この争点外しは、2月の名護市長選、3月の石垣市長選、4月の沖縄市長選でもうまく切り抜けられた、知事選でも、というわけである。
しかし同時に、この土砂投入延期は、公明・創価学会への「配慮」でもある。知事急逝の事態に、公明党も焦りを募らせ、公明・創価学会幹部が菅官房長官に土砂投入をやめるよう伝えたと報じられている。自民にとって、知事選でも公明の選挙協力が必要不可欠であり、その協力がなければ勝てない。しかも、公明党本部は辺野古への普天間移設を認めるが、同沖縄県本部は県外移設を主張し、「ねじれ」は解消されていない。前回2014年の知事選では、仲井真・前知事が公約に反して辺野古移設を容認したため、公明は自主投票に踏み切った経緯がある。ここで土砂投入を強行すれば、公明・創価学会の選挙協力が宙に浮く可能性があり、土砂投入を延期せざるを得なかったのである。

<<「屋台骨を失った」>>
一方、翁長知事を誕生させ、支えてきた辺野古に新基地を造らせない「オール沖縄会議」にとっては、翁長氏の急逝は、一抹の不安を抱えつつも、予期せぬ事態であった。翁長氏の健康回復を前提に、「翁長氏の代わりは翁長氏しかいない」というのが「オール沖縄会議」の一致した見解であり、翁長氏再選を目指すと確認し合ったばかりであった。
この「オール沖縄会議」には、
政党:社民党、共産党、自由党、沖縄社会大衆党、国民民主党沖縄県連、沖縄の風(沖縄県選出の参議院議員2名による院内会派)、うりずんの会(沖縄県選出・出身の野党国会議員による超党派議員連盟)、ニライ(親翁長派の元自民党や社民党・社大党の市議らによる那覇市議会の会派)、おきなわ(翁長県政を支える無所属県議らによる沖縄県議会の会派、旧「県民ネット」)
政治家:城間幹子那覇市長、瑞慶覧長敏南城市長、赤嶺政賢衆議院議員(共産党)、照屋寛徳衆議院議員(社民党)、玉城デニー衆議院議員(自由党)、糸数慶子参議院議員、伊波洋一参議院議員
経済団体:金秀グループ (2018/3 離脱)、かりゆしグループ (2018/4 離脱)、オキハム
労組:連合沖縄、沖縄県労連、自治労、沖縄県教組、全日本港湾労組
市民団体:沖縄「建白書」を実現し未来を拓く島ぐるみ会議、沖縄平和運動センター、SEALDs RYUKYU、安保廃棄・くらしと民主主義を守る沖縄県統一行動連絡会議、ヘリ基地反対協議会、平和市民連絡会
が結集している。
今年の2/4の名護市長選で「オール沖縄」が推す現職の稲嶺進氏が、自公推薦の渡具知武豊氏に敗北し、選挙後の3月、金秀グループの呉屋守将会長は敗北の責任を取るとしてオール沖縄会議の共同代表を辞任。続いて4月には、かりゆしグループは那覇市で記者会見を開き、辺野古移設の賛否を問う県民投票をするようオール沖縄会議内で提案したが、受け入れられなかったことも脱会の理由に挙げ、オール沖縄会議から脱会すると表明。「政党色が強くなりすぎた。独自で翁長氏再選に向けて動きたい」として同会議とは一定の距離を置きつつ支援を継続する意向を示した。
こうした中での翁長氏の急逝である。台風の接近で雨がふりしきる中、8/11、那覇市で開かれた辺野古移設に反対する県民大会には7万人もの人々が結集した。この県民大会には、翁長知事も出席する予定であった。主催するオール沖縄会議の高良鉄美共同代表は「大きなショックで言葉が見つからない。沖縄の市民運動の屋台骨を失った」と絶句している。この想定外の事態にオール沖縄会議どう対応しようとしているのか、多くの人々が注視している。後継候補の人選が遅れれば遅れるほど選挙戦は不利となる。県民大会に集まった人々が確認したのは「知事の遺志を受け継ぐ」ことであった。

<<「今こそ、一つにまとまらないといけない」>>
「オール沖縄」に結集する県政与党や労働組合などでつくる「調整会議」(議長・照屋大河県議)は8/14、那覇市内で6回目の会合を開き、急逝した翁長雄志知事の後継候補を選ぶ作業を開始した。照屋氏は、後継候補の条件を「翁長知事の遺志を受け継ぎ、建白書の実現に全力で取り組むこと」と説明。知事選に向け市町村支部の立ち上げも急ぐことを明らかにし、8/30までの擁立を目指す、同時に知事選に向けた政策検討委員会も立ち上げ、「候補者選考は重要な作業で、早急かつ丁寧に進めたい」、「想定外の事態で候補者選定は暗中模索の状態だ。緊急事態である今こそ、一つにまとまらないといけない」、「超短期決戦という現実がありますので、県民に理解をいただけるような、評価いただけるような人物を選びたいと思っています」と述べている。
ところが、8/18になって、翁長知事が生前、自身の後継候補として、2氏の名前をあげた音声が残されていたことがわかった。これによって「調整会議」が着手した人選作業は白紙に戻り、「知事の遺志は重い」として、候補は知事が音声に残した金秀グループの呉屋守將会長(69)と、自由党の玉城デニー幹事長(58)の2氏から選ばれる公算が大きい、と報道されている。両氏とも報道陣の取材に対して「固辞」を強調している。一体どうなっているのか、混迷につながりかねない複雑な事態の展開である。
いずれにしても翁長氏の急逝によって、局面は大きく変わったのである。事態を生かせれば、「オール沖縄」の結束をさらに強め、広げ、自民公明の争点外しを乗り越えた、巨大なうねりを作り出すことも可能である。逆に内向きになり、候補者の選考が混迷し、政党間のエゴやセクト主義がさらけ出されれば、有権者から見放されてしまうことが目に見えている。「オール沖縄」に結集する政党、団体、個人、支援する多くの人々のそれぞれが問われている。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.489 2018年8月

カテゴリー: 平和, 政治, 沖縄, 生駒 敬, 統一戦線論 | コメントする

【書評】『チェルノブイリという経験──フクシマに何を問うのか』

【書評】 尾松 亮 『チェルノブイリという経験──フクシマに何を問うのか』
(岩波書店、2018年2月発行、1,800円+税)

現在、1986年4月26日のチェルノブイリ原発事故から32年、2011年3月11日の福島第一原発事故から7年。
これら二つの深刻な事故から、われわれは何を学んだのか、あるいは学んでいないのか。本書はチェルノブイリ原発事故から30年以上を経た現地からのレポートである。
「『これが一体何だったのか』『どんな救済が可能なのか』。チェルノブイリ被災地の人々は、言いあぐね、黙殺され、口を封じながらも三〇年のあいだ、語り続けてきた。その言葉は『祈り』であったり、『手記』であったり、『カルテ』であったり、そして『法律』であったりする」。/その『チェルノブイリの言葉』の発信は、やがて三二年を迎えようとする今もなお、続いている」と本書はこのように、チェルノブイリ被災地の人々が未だ厳しい状況に置かれていると述べる。
しかし明らかに福島第一原発事故後とは異なる状況がある、と指摘する。それはいわゆる「チェルノブイリ法」の存在である。
チェルノブイリ法とは、1991年に当時のソ連で成立し、ソ連解体後も、ウクライナ共和国、ベラルーシ共和国、ロシア共和国でほぼ同じ内容の法律が制定され、運用が続けられているチェルノブイリ原発事故被災者保護法のことであり、その特徴は、「『対象の広さ』と『長期的時間軸』『国家責任の明確さ』である」。(『どこが被災地域なのか』を定めた『汚染地域制度法』と、『誰が被災者でどんな補償を受ける権利があるのか』を定めた『被災者ステータス法』を主な内容としている。)
具体的には、①対象の広さ—-「事故処理作業者、汚染地域からの避難者、汚染地域に住み続ける人々、様々な市民が「チェルノブイリ被災者」として保護される。また支援の対象になる地域も、原発周辺地域や立地自治体だけではない。3万七〇〇〇ベクレル/平方メートルの汚染度を超える、幅広い地域を支援の対象に含んでいる」。
②長期的時間軸—-「法律で被災者と認められた市民には、生涯にわたり無料の健康診断が約束される。さらに条件を満たせば、事故の後に生まれた子どもたちも『被災者』と認められる。事故で被曝した親から生まれた子どもに、遺伝的影響が生じる可能性を考慮しているからだ」。
③国家責任の明確さ—-「国家は市民が受けた被害を補償する責任を引き受け、以下に規定する被害を補償しなければならない」(「被災者ステータス法第13条」)である。
この法律については、理想論であり実際には機能していない、あるいは支援策の2割程度しか実現していない等の批判がある。
しかし「九一年に成立したこの法律によって可能になったことは多い。強制避難区域外でも年間一ミリシーベルトを超える追加被曝が推定される地域には、移住権が認められる。移住の際には、住宅の確保や雇用の支援を受けることができる」。ウクライナでは「二〇〇五年までの期間に一万四一七一世帯がこの『移住権』を行使している。これだけの世帯数が『自己責任』ではなく、国の責任によって移住の選択を実現できたことは特筆に価する」。つまり「移住者に『勝手に出て行った』という社会的な批判が向けられることはない。権利が法律に定められたことで、お互いの選択を認め合う社会的な前提ができている」のである。
日本の場合、「福島特措法」、「原子力損害賠償支援機構法」等々原発事故対策に関わる法律は制定された。しかし、「補償の対象となる『原発事故被災地』はどこなのか(認定基準と範囲)、補償されるべき『原発事故被災者』とは誰なのか、明確に定めた法律がまだない。そして、原発事故被害に対して、被災者の生涯、さらに次の世代に続く、国による長期的保護義務を定めた法律がない。広範囲かつ未解明の影響に向き合う、国の法的責任は定められていない」。
そればかりか、福島第一原発事故から5年を待たず、20ミリシーベルトを下回る場合には避難指示区域の解除が進められた。これにより「避難指示が解除された地域からの避難者は、自己責任で避難先での生活を続けるか、避難元に帰るか、二者択一を強いられている。そして、賠償打ち切りまでの期限をきられている」。
日本には「誰が『原発事故被災者』として国に補償を求める権利を持つのか、明確に定めて法律がない」。「見えてくるのは日本の『被災地縮小』政策のテンポの異様な早さ。そして住民や避難者が、権利を求めて抗う際のよりどころとなる法的基盤の、異様な脆弱さである」。
本書はこの視点から、チェルノブイリの事故収束作業員たち、原発事故を次世代に伝える教育の試み、健康被害対策等々をレポートする。
そして本書でもう一つ注目されるのは、われわれが日常、原発事故とその対策について何気なく使っている言葉の問題である。チェルノブイリに近いロシアの被災地を訪問した際の様子は、こう語られる。
「たとえば『風評被害』という『ことば』がない。『風評被害』のような現象がないわけではない。それに近い状況はロシアの被災地でもある。ただそのことをノボズィプコフの人々は『風評被害』とは呼ばない。では、なんと言っているのか。『この地域にはネガティブなイメージがあって、この地域の農作物は、買ってもらいにくくなった』というのだ」。
同じように聞こえるかも知れないが、しかし大きな違いがあると本書は指摘する。
「『風評被害』というときに、『実害はないのに「危険」であるかのように喧伝され、消費者が買い控える』という意味が生じる。/原発事故を起こした電力事業体や政府ではなく、『無理解な消費者』やその無理解を助長するメディアに怒りが向けられる。消費者やメディアが『加害者』であるかのように・・・」。
本書で紹介されているバイリンガルの英語通訳者の言葉を借りれば、「英語には『風評被害』なんて言葉ないですよ。(略)日本には前からあった言葉だけど、福島事故の後、特殊な意味づけで利用されていると思います。この言葉で、言い表した気になって、本当の問題を考えない手段になっている」ということである。
これについて本書は、「風評被害』という単語を使うたびに、外国語にしてみることを思考実験としてお勧めする。インド・ヨーロッパ語族であれば、かならず『誰が、何によって、どんな被害を受けたのか』、定義を明確にすることを余儀なくされるはずだ」とアドバイスする。つまり「それをいちいち、主語S(誰が)、目的語O(誰に)、動詞V(被害を与える)を明確に記述してみると、からくりがよく見えてくる」として、「この言語トリック」からの解放が、社会全体、政策決定の場、教育現場で重要であることを強調する。
最後に本書が危惧する将来的事態を紹介しよう。
「確実に一つだけ、いえることがある。/チェルノブイリにおける先例が、原発事故後の日本の政策に影響を与えたように、いま日本で起きていることはチェルノブイリ被災国に影響を与えている。少なくとも、チェルノブイリ被災国と、日本の原発事故被害対応政策には相互参照性がある。/福島第一原発事故後、日本で行なわれたことは、チェルノブイリ政策の参考にされてきた。そして今後もそれは続く。日本で二〇ミリシーベルトが許容されれば、次の原子力災害においてはそれが先例となる。日本で住民の反対を無視した避難指示解除が順調に進めば、チェルノブイリ被災国政府は『事故六年後で解除してよいのなら、三一年後のわが国ではなおさら』と出る」。
この事態をどう阻止していくのか。本書は、そのキーワードを「抵抗」に見る。
少なくともチェルノブイリ原発事故では、被害者たちには「抵抗(ソプラチプレニエ)の文化」が存在していた。「チェルノブイリ被害者たちは、学者であろうが、ジャーナリストであろうが『私の仕事は提言をまとめるまで』『私の仕事は事実をつたえるだけ』などと言わない。職業生命を懸けて政治運動に参加した。被害者の代表を議会に送り込み、被害者補償法を勝ち取った。法律が改悪されるたびに、陳情やデモが繰り返され、法廷闘争は違憲立法審査や、欧州人権裁判所にまでも展開する」。
対して日本にも、抵抗運動がないわけではない。しかし「政治的でない」ことを良しとし、国民的な「抵抗」運動を構築できないままの「抵抗しない私たち」が存在する。この「『無抵抗』の代償を払うのは、私たちだけではない」と本書は警鐘を鳴らす。(R)

【出典】 アサート No.489 2018年8月

カテゴリー: 原発・原子力, 書評, 書評R | コメントする

【投稿】戦後最悪の人災となった安倍政権

【投稿】戦後最悪の人災となった安倍政権
―災害対応放棄し三選工作に奔走―

豪雨をよそに大宴会
7月5日夜、東京赤坂の衆議院議員宿舎では、安倍を筆頭に岸田、竹下、小野寺などが集まり「赤坂自民亭」と銘打った酒宴が開かれていた。
既に近畿地方を豪雨が襲い、15万人に避難指示が出され、地元自治体はもちろん国交省、警察庁、防衛省などが警戒態勢に入るなか、政府、自民党首脳が一堂に会するのは本来、災害対策会議であるべきだが、集まったのは酒の席という前代未聞の愚行を演じていたわけである。
この席で安倍は山口の銘酒「獺祭」岸田は広島の地酒「加茂鶴」を持ち込み、上機嫌で参加議員にふるまったという(しかし7日の豪雨で「獺祭」の蔵元は壊滅的被害を蒙ってしまった)。
また宴会には、オウム7人の死刑執行を翌日に控える上川も「女将」として参加するなど、件の大宴会は緊張感のかけらもないものだった。死刑囚がそのことを知ったなら、死んでも死にきれないと思ったのではないか。
さらに件の集合写真をツイッターに投稿した兵庫選出の西村官房副長官は、秘書の情報として「地元の雨は峠を越えた」などと放言したが、翌日神戸市で大規模な土砂災害が発生し、恥の上塗りともいうべき醜態をさらした。
参加者が帰路につき惰眠を貪るなか、眠れぬ夜を過ごす被災地では、広島、岡山など5府県が自衛隊に災害派遣要請を行い、6日午後に至って首相官邸に官邸連絡室が設置されたが、被害は拡大するばかりであった。
7日午前、ようやく関係閣僚会議が開かれたが、二日酔い然たる面持ちで出席した安倍から具体的指示は出されず、連絡室を対策室、8日午前に災害対策本部へと泥縄式に漸次拡大するのみであった。
対策本部の初会合後、安倍はいけしゃあしゃあと「時間との闘い」などと口にしていたが、失われた66時間は取り返しのつかないものであった。さらに安倍は7,8日に予定していた総裁選対策の鹿児島、宮崎訪問は中止したものの、EUとの経済連携協定署名を理由とした10日からの欧州、中東への外遊に固執し、日程短縮をしてでも出発しようとしていたのである。

露わになる本性
豪雨被害が拡大し、安倍らの動向への批判が拡大しだすと官邸は方針転換し、9日に外遊中止を発表、同日「宿敵」中村愛媛県知事の支援要望を神妙な面持ちで聞かざるを得なかった。
外遊取りやめで日程が空いた安倍は11日に岡山を視察、迅速な激甚災害指定、地方交付税の前倒しなどを明らかにし、対応の遅れを「取り戻す」のに躍起となっていた。
さらに西村、竹下ら「赤坂自民亭」参加者も弁明に追われ、小野寺も11日「会場から防衛省に指示を出していた」と「飲酒運転」ともとれる釈明をしたが、防衛省職員から否定され13日になって誤りを認めた。
同日、公明党の井上幹事長は記者会見で「赤坂自民亭」を「軽率のそしりは免れない」と批判したが、同党の石井国交相は災害対応そっちのけで、カジノ法案成立にしゃかりきになっており、白々しいというものである。
14日になり安倍は翌日予定していた広島視察を「足が痛い」として取りやめた。同日広島を訪れた石井が被災者から批判を浴びたのを見て怖気づいたのではないか。結局、安倍は21日になって広島県内を視察し面目をとり繕った。
こうしたなか「赤坂自民亭」に呼ばれなかった議員も非常識な言動で醜態を晒した。麻生、二階は「飲み会のなにが悪い」と擁護し、麻生に至っては返す刀で自派の研修会を中止した石破らを批判した。安倍に恩を売ろうという魂胆が見え透いているが、内心は嘲笑っているだろう。
安倍の代理としてフランスを訪問した河野は、フランス外務省内に再現されている王族のベッドに、得意げに寝そべる姿をツィッターにアップ、7月14日革命記念日の軍事パレードでも、河野は各国来賓が威儀を正して観閲するなか、写真を撮るためスマホを操作するという軽薄さを披露した。
こうして西日本各地を襲った未曾有の水害は、図らずしも政府・与党重鎮の人間性を露呈させることとなったのである。

「アメリカ包囲網」の脆弱
安倍が自らの保身を最優先させ、お粗末な災害対応を繰り返す中、国際情勢は大きな動きが相次いだ。
トランプ政権は7月6日中国製品340億ドルに対しての追加関税を発動した。アメリカは3月下旬以降、安全保障を口実として中国のみならず、日本、EUなどに対して、鉄鋼、アルミ製品への追加関税を発動してきたが、今回ついに本丸への攻撃を開始したのである。
これに対して中国も同規模の報復関税を発動、事態は世界貿易戦争の様相を呈し、アメリカは第2次世界大戦以降、自らが築いてきた自由貿易体制を崩壊させようとしている。
さらにアメリカ主導の安全保障体制も大きな転換点を迎えている。7月12日ブリュッセルで開かれたNATO首脳会議で、トランプは公然と同盟国を批判、軍事費のGDP比2%達成を強く要求した。直後の7月16日、ヘルシンキで開かれた米露首脳会談でトランプは、緊張緩和に向けた協議の継続で一致、対露軍拡を決定した先日のNATO会議など忘れたかのようであった。さらにロシアの大統領選挙への介入疑惑を否定(帰国後に撤回)するなど、なりふり構わず我が道を進んでいる。
このようにトランプ政権は、将来のビジョンを描かないまま、第2次大戦後の既存システム解体に進んでいる。これに対しては公正貿易、平和、人権の価値観による国際協力体制の構築が不可欠であるが、平和、人権に背を向ける安倍政権は振り回されるのみであり、自由貿易を推進しアメリカを牽制する多国間協力も思うように進んでいない。
7月1日東京で、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)閣僚会合が開かれ、年内の大筋合意を目指すことで一致したと報じられた。アメリカの保護主義に対抗するものとされているが、成果を急ぐ日本と中国、インドとの間では隔たりも大きく、有効性には疑問符がつく。
日欧EPAは安倍の訪欧中止により、EU大統領らが来日し7月17日東京で署名された。(これはもともと外遊が必要でなかったことを物語るものである)これが19年3月に発効すれば、2027年に日本の自動車に対する関税が撤廃される。しかし2020年代には欧州でのガソリン、ディーゼル車の販売は大幅に規制される動きがあり、電気自動車の開発が遅れる日本に対しては非関税障壁となる可能性がある。
今回EUの代表は訪日前に中国を訪れており、反保護主義、WTO改革、投資拡大で合意した。中国は世界の電気自動車販売台数の5割を占め、燃料電池車の開発も進んでいる。現在は国内販売が主流であるが、EUの方向性と合致しており近い将来には、中国製NEV(新エネルギー車)が日本車を押しのけ、ヨーロッパを席巻することになるだろう。

主導権は中国へ
中国はこの間、「一帯一路」構想、上海協力機構、アジアインフラ投資銀行など、中国主導の多国間経済協力を推進している。さらに軍事面でも6月28日中国国防部は、年内にASEAN10か国との合同海上演習を実施することを明らかにした。
現在、ハワイ島と周辺海域ではアメリカが主催するRIMPAC2018(環太平洋合同演習)が行われ日本、韓国、フィリピンなどが参加している。2年ごとに開かれる同演習では、今回中国が招待を取り消されておりネトウヨなどは鬼の首を獲ったかのように喜んでいる。
しかし、中国は自前で中国版RIMPACともいえる演習を準備しようとしており、今秋には青島近海の東シナ海でロシアとの合同演習(海洋協同2018)も予定されている。
これに対して安倍政権は、引き続きイギリス、フランスを「中国包囲網」に巻き込もうと躍起になっている。7月13日には河野が日仏物品役務相互提供協定(ACSA)に署名、翌日の革命記念日のパレードには陸上自衛隊員7人が参加した。
この間英仏両国の艦艇がアジアを歴訪しており、これを中国に対する牽制と安倍政権は評価している。とりわけフランスについては、海外領土の安全保障の観点からまことしやかな中国警戒論が吹聴されている。
しかし、ポリネシアなど仏領の島々は赤道以南の南太平洋に点在しており、中国の「一路」レーンからは遠く離れている。さらにニューカレドニアでは20世紀末の独立闘争からの自治権拡大を経て、11月4日には独立を問う住民投票が行われる。
フランス、イギリスの艦艇派遣はASEAN諸国に対する武器セールスの側面が強く、これとRIMPACへの比、越の本格的参加をもって対中シフトの強化と評価するのは早計であろう。
安倍は保護主義反対、自由貿易推進を言うのであれば中国と協力しなければならないはずであり、表面上は融和を進めている。7月5日の毎日新聞によれば安倍は3選を前提に、10月の訪中を検討しているという。日中首脳会談だけの訪中となれば7年ぶりとなるが、「中国包囲網~帯路分離」に固執している限り、事はそう簡単には運ばないだろう。
RIMPACでは実艦標的の撃沈訓練が実施されるが、今回初めて日米の地対艦ミサイルによる実射が行われた。この陸自ミサイルは宮古、石垣、沖縄本島に配備される方向であり、標的を中国艦に見立てていることは公然の秘密で、あからさまな威嚇である。
朝鮮半島では米朝首脳会談以降、非核化に向けた作業部会の設置、米兵遺骨の返還、8月の米韓演習の中止など、紆余曲折を経ながら緊張緩和が進んでいる。これを踏まえ日本政府も、常時警戒態勢の解除、避難訓練の中止などを実施している。
それにも関わらず、イージス・アショアの配備は進めようとしており、真の狙いが徐々に露わになってきている。安倍らは少し前まで「北朝鮮の微笑みに騙されるな」と罵ってきたが、習近平こそ「安倍の微笑みには騙されない」と考えているだろう。
安倍は外向けの笑みとは違う満面の笑みを「赤坂自民亭」で振り撒きながら、災害対策を追いやり「参院定数6増」「カジノ法案」を矢継ぎ早に強行採決した。このように戦後最悪の災厄となった安倍政権を一刻も早く終わらせ、生活と平和、人権の復興を進めなければならない。(大阪O)

【出典】 アサート No.488 2018年7月

カテゴリー: 政治 | コメントする

【投稿】国土を放射能の海にしても原発を再稼働させようとする国家

【投稿】国土を放射能の海にしても原発を再稼働させようとする国家
福井 杉本達也

1 国土の3分の1を放射能で汚染し、0.5%を居住困難な土地にしても何の反省もしない国家
7月3日、福島第一原発事故で全町避難を強いられ、地域を引き裂かれた浪江町長だった馬場有氏の葬儀が営まれた。内堀福島県知事は弔辞で、「町を地凶から消さないとの信念で続けたあなたの挑戦は避難指示解除など復興への光となっている」と悼んだが、町に住む人は5月末でたったの747人。なお2万人が45都道府県に避難し、住民調査では浪江には帰らないという人が半数に上る(日経:2018.7.16)。新しい小中学校を開校したが、誰が通学するのか。浪江町は原発立地町ではなかったが原発災害を受け、町としての機能を喪失してしまった。それを国も県も無理やり1つの地方自治体として存続させておこうとしているのである。地方自治体の名前が消滅することは県の消滅につながり、国家の消滅につながることを恐れているのである。日本の国家を握るエスタブリッシュメント(Establishment)層は国土の3分の1を放射能で汚染し、国土の総面積の0.5%を居住不能の土地にしても何の反省もなく、何の痛みも感じてはいない。ましてや15万人の避難者がどこへ行こうが、どこで死のうが全く関心はない。2011年3月11日は菅直人元首相に言わせれば、首都圏3900万人の避難も考慮しなければならない「国家存亡」の時であったが、今やそのような切迫した危機感はどこにもない。というか、当時、エスタブリッシュメントの多くはそうした知識も危機感も持ち合わせていなかったし、今もないというべきである。
たぶん、日本の支配層は73年前にもそのような危機感など持ったことはなかったのであろう。自らの権益である「国体」を守ることだけに汲々とし、東京大空襲や広島・長崎への原爆投下を受けても、満州にソ連軍が侵攻してきても支配者階級だけが先に逃げればそれでよかったのである。今も昔も常に「国民」などは眼中になく、見捨てられてきたのである。

2 トリチウム汚染水を太平洋に大量廃棄
7月14日の福島民友は「トリチウム水処分へ」という見出しで、政府が福島第一原発敷地内を埋め尽くすタンク内の汚染水を処理した後に残る放射性物質:トリチウムを大量に含んだ水を海洋投棄し、タンクを撤去する方針を打ち出したと伝えた(日経にも同様の記事)。タンクは現在680基、貯蔵量は89万5千tを上回るとし、今後137万tまで増やす計画であるとしているが、事故7年半後の現在、敷地内はタンクで満杯であり、今後は敷地外に建設せざるを得ない事態に追い込まれている。敷地外とは帰還困難区域などの居住困難な土地である。現在、旧避難区域では大量の放射能除染廃棄物の黒い袋が積み上がっている。これは、強制的に避難住民を「帰還」させようとするための「除染」であったが、大量のトリチウムタンクが林立するとなれば、「帰還」政策の失敗は明らかになってしまう。その前に、何としても汚染水を太平洋に流したいという全く持って恐ろしい計画である。
トリチウムは水素の放射性同位体で、普通の水素は1個の電子と1個の陽子でできているが、トリチウムは1個の電子と1個の陽子の他に2個の中性子を持っている。不安定で電子を放出して、ヘリウムに変化していくが、半減期は12年である。β線も弱く体内に留まる期間が短いので危険性は少ないと東電は説明するが、内部被曝が危険である。水素は他の元素と共に人体を構成しているのでトリチウムはDNAに取り込まれると、他の放射性物質より危険である。取り込まれたトリチウムが放射線を出すときにDNAそのものを壊すとされている。通常、「水」として存在しているので、通常の水素とトリチウムを分離することは不可能である(原理的にはできるが膨大な費用がかかる)。海洋放出されれば、三陸沖の千島海流と黒潮がぶつかる日本最大の漁場は完全に放射能に汚染されてしまうであろう。サンマを食べることは永久にできなくなる。もちろん、ここを漁場とするロシア、中国、韓国、台湾や対岸の米国も反対するであろう。膨大な放射能の海洋投棄は重大な国際法の侵犯である。
もちろん、トリチウムの海洋投棄は前哨戦に過ぎない。最終目的は、現在、福島第一原発の地下にあるセシウム137やストロンチウム90などを含む膨大な汚染水である。将来、この汚染水で居住困難区域を含む福島県全体に多数の汚染水タンクが林立することが予想されるが、これを全て太平洋に投棄したいと考えている。そうなれば、汚染規模はチェルノブイリ原発事故の10~20倍の規模となるであろう。そんなことを国際社会は認めるはずはない。

3 強引に進める原発再稼働
7月4日、 関西電力大飯原発3、4号機の運転差し止めを福井県などの住民が求めた訴訟の控訴審判決で名古屋高裁金沢支部の内藤正之裁判長は運転を禁じた一審福井地裁判決を取り消し、住民側の逆転敗訴を言い渡した。控訴審で最大の争点となったのは耐震設計の目安となる揺れ「基準地震動」が妥当かどうかで、元規制委員長代理の島崎邦彦氏が「過小評価になっている」と証言したが、内藤裁判長は、関電は、震源断層の長さ、幅なども保守的に評価しているとして島崎氏の証言を切り捨て、福島原発事故の「深刻な被害の現状」から原発廃止・禁止は可能としながら「もはや司法の役割を超える」と、恥知らずの判決文を読み上げた
大阪北部地震は中央構造線絡みで、その構造線の近辺の「見えない」活断層が起こしたのではないかと島村英紀氏は指摘するが、その断層の一部は琵琶湖の西側の比良山系を抜け若狭湾に至る。大飯原発の下あるいは若狭湾に「見えない」活断層が存在しないとはいえない。「危険性は社会通念上無視しうる程度」と切って捨てた判決は、国土の一部が事実上消滅したにもかかわらず、あたかも何もなかったことにしようとする政府の方針を司法も無責任にも踏襲したのである。

4 支離滅裂な「第5次エネルギー基本計画」
政府は7月3日に「第5次エネルギー基本計画」を閣議決定した。計画では2030年の電源構成にしめる原発比率20~22%を維持するという。これを達成するためには30基の原発稼働が必要だという。つまり、廃炉を予定する原発を除くほとんどの原発が稼働しない限り、目標は達成できない。そのため、なりふり構わず再稼働を進めるというのが現在の政府の方針である。計画は、原発のコストを低廉だとし、いまだに10.82~16.38円/kWhという試算をしているが、とんでもないことである。電力自由化で大手電力は廃炉や福島原発事故の費用を回収できなくなる恐れがあるとして、負担の一部を新電力に負担させることを決めたが、原発の電力が安いなら負担させる理由はない。真っ赤な大嘘である。廃炉費用や放射性廃棄物の処理費用を加えるだけでとんでもない高額の数字となる。計画は、再処理や福島第一の事故処理費用を加えれば無限大となる。
さらに、米国からは朝鮮半島の非核化に関連して、日本が保有するプルトニウムの削減が求められている。日本は46.9トンものプルトニウムを抱えている。IAEAによれば8 kgで核弾頭1つ分という換算方法では、およそ6,000発分に相当する量である。このため、計画ではプルサーマル等を推進するとともに、プルトニウム保有量の削減に取り組むという空念仏を唱えているが、とてもプルサーマルなどで処理できる量ではない。まず、使用済み核燃料の再処理を中止し、核燃料サイクルを止めなければならない。
この計画が閣議決定される前に形式的にパブリック・コメントが募集された(2018.6.17〆切)。コメントには再生エネルギーに対する過大な期待や気候変動抑制の「パリ協定」への無批判さも目立つ(参照:「パブリック・コメント集」原子力市民委員会事務局とりまとめ 2018.6.18)。地球温暖化防止を旗印にして原発が増設されてきたことを忘れてはならない。しかも、その旗振り役が原発大国:フランスである。また、先進国が中国やインドのような発展途上国の経済成長を抑え、自らの既得権益を守ろうとしていることも押さえておかなければならない。変動の多い再生エネルギーを安定的に使おうとすれば蓄電池や水素変換という議論も出てくる。しかし、蓄電池を設置すれば電力単価はさらに膨らむ。水を電気分解し水素をつくればそれだけエネルギーを消費することとなるし、水素は福島第一原発の爆発でも明らかなように、きわめて危険な扱いにくい物質でもある。これではさらに化石燃料を使うことになる。温暖化による「無垢の犠牲者」として、太平洋上のツバルなど島嶼国が海面上昇で最初に被害が予想されるなどとのキャンペーンも行われているが、これは根拠のない議論だとして退けられている(茅根創「ツバル水没の真実」『科学』2016.12)。既に、福島原発事故では国土の0.5%がほぼ永久的に使用不能な土地となってしまった冷厳な事実から目をそらしてはならない。今後、旧式原発の再稼働が進めば福島原発事故のような事故の確率は高まらざるを得ない。事故が起きればこんどこそ日本の国土は消滅する。時間はない。エネルギー政策を無知蒙昧のエスタブリッシュメント層に任せておいてはならない。また、マスメディアにも一切期待してはならない。マスメディアは「問題を単なる情緒の次元に引き下ろして…今回の人災(福島原発事故)を引き起こした企業、官僚、政治家、地方公共団体、技術者などから公衆の関心を逸らすことに成功してきた…感傷的な被害者への共感は、寡占企業と政府の癒着体制を温存させようとするほとんど傲慢ともいえる愚民政策に裏打ちされている…過去の失敗を振り返り、必要な原因究明と責任者の処罰を行う代わりに…慰安観を維持することが全てに優先している」(酒井直樹『ひきこもりの国民主義』2017.12.8)。同様のことは今回の西日本豪雨災害でも行われている。反原発側はまともな議論に戻るべきである。

【出典】 アサート No.488 2018年7月

カテゴリー: 原発・原子力, 杉本執筆 | コメントする

【投稿】安倍1強政治のおごりと民主主義の危機 統一戦線論(50)

【投稿】安倍1強政治のおごりと民主主義の危機 統一戦線論(50)

<<「憲政史上最悪の国会」>>
7/22に閉会した通常国会、その約半年間にわたった国会論議が事実上幕を閉じる最終日の7/20の衆院本会議で、立憲民主党の枝野氏は「この国会は民主主義と立憲主義の見地から憲政史上最悪の国会になってしまった」と、野党6党・会派で出した安倍内閣不信任決議案の趣旨説明を、不信任の理由は「数え切れないほどある」として2時間43分にわたって行った。そして同じ日、参議院参議院本会議場では、自由党の山本太郎、森祐子、両参議院議員、参院会派「沖縄の風」の糸数慶子氏ら3議員がカジノ実施法の採決の際、揃って「カジノより被災者を助けて」「カジノより学校にエアコンを!」などと書かれた垂れ幕を壇上で掲げて抗議。議事を妨害したわけでもない、有権者に分かりやすいアピールをした、議長自身も下を向いてやり過ごしていた、その行為を、伊達忠一参議院議長は、懲罰に値するとして参院懲罰委員会に付託することを決めたという。「合区」対象選挙区で公認漏れした自民党現職議員の露骨な救済策、党利党略丸出しの参院定数を6増する公職選挙法改正案の強行採決に続く暴挙であった。ろくに審議もしないで採決だけを強行する議長、安倍政権こそが懲罰の対象として糾弾されるべきところである。
数をたのんだ安倍政権の横暴の数々。年初来、学校法人「森友学園」「加計学園」を巡る問題で、公文書のねつ造、改ざん、廃棄、「ない」とされた文書の「発見」、答弁のうそが明らかになっても開き直り、うそにうそを積み重ね、誰も責任を取らない。疑惑がいよいよ動かし難くなってもシラを切る。過労死を招きかねず、大量のデータねつ造で立法根拠まで破たんした「働き方」改悪法も強行採決で突破。「成長戦略のため」などというごまかしが全く成り立たない、そもそも刑法が禁じる賭博を合法化し、ギャンブル依存症患者を増やすカジノ法まで強行採決。道路や鉄道、堤防が決壊した河川を所管する公明党の石井啓一国土交通相がカジノ法案にしがみつく姿は醜悪でさえある。かくして、モリカケ、ねつ造、改ざん、隠ぺいから始まってカジノに賭け、災害対策より賭博を重視する悪法オンパレードのとばく場と化した国会であったとも言えよう。
7/22付朝日新聞・社説は「安倍1強政治の果て 民主主義の根腐れを憂う」と題している。憲法が「国権の最高機関」と定めた言論の府の惨状は、「民主主義の根腐れ」の場と化し、国会のとばく場化が「憲政史上最悪の国会」をもたらしたのである。
もちろん、その間に緊張激化と軍拡のために北朝鮮の「脅威」をあおり、史上最大の5兆円超の軍事予算を計上する一方で、社会保障費を容赦なく削減している。

<<「赤坂自民亭」>>
すべて数で押し切り、安倍政権の横暴がまかり通り、国会が閉幕して、安倍首相はしてやったり、逃げ切れたとほくそ笑んでいることであろう。次は、三選だ、そして何としても改憲発議を可能にさせる、と。7/20の記者会見では、改めて改憲への意欲を強調し、自民党総裁選での争点化にも言及している。しかし、事態はそう甘くはない。
すでにこれまでも、これでいよいよ安倍政権も崩壊か、辞任に追い込まれるかという事態は何度かあった。内閣支持率が30%を切るまでの事態を招いていた。それども何とか持ちこたえ、支持率は下げ止まり、今はやや上昇の傾向さえ見せ、内閣支持率は平均40%以上を維持している。
しかし、今国会が召集された1/22、安倍首相は自民党の両院議員総会で、「結党以来、憲法改正を党是として掲げ、長い間議論を重ねてきた。いよいよ実現する時を迎えている」とその固い決意を披歴し、本来なら、今国会が憲法改正の発議へ踏み出す場になるはずだったのである。改憲派の議席が両院ともに3分の2を超えている千載一遇のチャンスにもかかわらず、その意気込みはとん挫し、会期中の発議を狙った改憲案づくりは宙に浮き、今国会中の憲法審査会の開催は、衆議院ではわずか2回、合計6分弱でしかなかった。今国家最終盤、1か月余の会期を延長してなお、憲法改正原案の発議はできなかったのである。改憲反対の世論の広がりと国会を取り巻く波状的な運動の高まりを前にして、その目論見は阻止されてしまったのである。
安倍政権にとってのもう一つの読み違え、誤算は、朝鮮半島における歴史的な南北首脳会談、そして米朝首脳会談の実現であろう。そのキャンセル、緊張激化をもっとも強く望んでいた安倍政権にとって、意外な展開が次々と生じ、米韓合同軍事演習の中止から、さらには次の緊張緩和の事態が提起されかねないことは、安倍政権の改憲戦略、軍事化路線にとっても重大な阻害要因になりかねない。すでに地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備は、配備が予定された山口県と秋田県で、地方自治体の協調を求めたが、「配備は納得し難い」という冷静な反応に直面し、秋田では「県民感情逆なで」問題として釈明に追われている。安倍政権にとっては予期もしないところから、その路線のほころびと破綻が襲いかかってくるわけである。
気象庁が厳重警戒を呼び掛け、11万人の避難指示が出ていた7/5夜、自民党議員が「赤坂自民亭」と称する宴会を開き、安倍晋三首相や小野寺五典防衛相らが参加してどんちゃん騒ぎを繰り広げ、7/8まで非常災害対策本部の設置もせず放置していた。この「赤坂自民亭」、麻原彰晃・オウム真理教元代表ら一挙7人の死刑執行の前日であり、死刑執行書に署名した上川陽子法相が「女将(おかみ)」、「若女将」を小渕優子元経済産業相らが務めている。日刊ゲンダイは「安倍 批判殺到 死刑に乾杯」と報じている(7/9付)。安倍政権のおごりと傲慢さ、そのあわてぶりが如実に見て取れる。
おごるもの久しからず、で次に何が起こるかは、権力者ほどわからないものである。

<<「いま日本共産党綱領がおもしろい」?>>
問題は、それに対抗する野党の姿勢である。足並みがバラバラで主導権争いやそれぞれの独自党勢拡大に精力を傾けている限り、有権者の飛躍的な支持の拡大など、ありえないことは自明である。世論調査での政党支持率をみても、野党第1党の立憲民主ですらこのところ一ケタ台後半にとどまり、国民民主に至っては0~1%以下という数字である(NHK 7/10:自民党 38.1、公明 2.7、維新 0.8に対し、立憲民主 7.5、国民民主 0.7、共産 3.1、自由党 0.3、社民党 0.4)。自民は、野党合計(12)の3倍以上である。
この事態を打開するカギは、大胆な統一戦線戦略への結集であろう。
自由党の小沢一郎氏は「2009年の民主党(が政権交代を実現した)選挙の時には70%の投票率ですよ。その後はずっと50%。20%の人が棄権している。2千万票だ。このうちの6~7割は野党へ投票する人たちだと見て間違いない。ですから、その票が加われば圧倒的な野党の勝利であり、政権交代になる。安倍内閣と基本の問題で対決していく野党が形成されないと、いつまでもこの安倍政権1強多弱の状況は続く。そういう思いで、何とか野党の結集を図っていきたい。」と述べている。(朝日、7/16付)
一方、共産党の志位委員長の講演(7/11・党創立96周年記念講演)は「いま日本共産党綱領がおもしろい」と題するものである。「私たちの綱領は、共産党だけで社会を変えるといった独善的な考えとは無縁です。社会発展のあらゆる段階で、思想・信条の違いを超えた統一戦線――共同の力で社会を変革することを大戦略にしています。」と、述べる。「共闘にこそ政治を変える唯一の活路がある」。ここまではその通りである。しかし問題は、「それでは、統一戦線を発展させる根本的な条件はどこにあるでしょうか。強く大きな日本共産党をつくることこそ、統一戦線を発展させ、綱領を実現する最大の力であります。」と、論理のすり替えが行われている。統一戦線発展の決定的条件が「強く大きな日本共産党をつくることこそ」に変わり、次の参院選では、「過去2回のような一方的な対応は行わない」「本気の共闘」「あくまで相互推薦・相互支援の共闘をめざす」ことを、党の方針として決めています、と述べる。またもやセクト主義的な独自の党勢拡大運動こそが決定的となる。これではこれまで通り、党勢拡大自体が先細りとなろう。そもそも、共産党に結集したり、支持するのは、すでに過去形となった「党綱領がおもしろい」からではなく、現実の党の政策が時代の要請、人々の要求に明確に応え、政治を変えていく力に展望を見出せる、「民主主義の根腐れ」を許さない、統一戦線を発展させることができる、そのような「おもしろさ」があるかどうか、大胆で現実の政治課題に臨機応変、敏感に対応しているかどうかにかかっている。党内民主主義の不在とともに、共産党にもさらなる猛省が望まれる。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.488 2018年7月

カテゴリー: 平和, 政治, 生駒 敬, 統一戦線論 | コメントする

【書評】『原発棄民—-フクシマ5年後の真実』

【書評】『原発棄民—-フクシマ5年後の真実』
(日野行介、毎日新聞出版、2016年2月、1,400円+税)

様々な大災害が起これば、避難者に対して、取りあえずの住処として仮設住宅等が提供される。そして災害からの復興の度合いに応じて徐々に解消されていく、というのが通常の災害後の過程である。しかし災害処理・復興が長期にわたる場合、避難者は、住宅に関してどのような扱いを受けるのか、とりわけ過去に例を見ない原発事故の場合はどうであったか、というのが本書が検討する問題である。
まず本書は、福島第1原発事故の場合、そもそも避難者の把握が最初から十分でなかったことを指摘する。
「国が『避難』と認める上で根拠が必要なのは当然だろう。しかし現状は国が事故直後に定めた年間20ミリシーベルトが唯一の根拠となっている」。しかしこれはあくまで「緊急時」の線量であったはずで、「福島市南東部のように20ミリを超えても避難指示が出なかったところもあり」、また汚染を恐れて避難指示区域外からも多くの人びとが自主的に避難をしたという事実がある。筋からいえば、まず「避難者」の定義をし、その正確な人数や分布などの基礎データが必要となる。
ところがこの問いかけに、復興庁の元幹部は答える。
「自主避難者は難しい。怖いという気持ちで避難した人はみんな避難者なのか」。「予算もあるし、どこまで支援できるかだ。東電に求償(請求)もできるが、それがどこまで合理的か問われる」。「調査をかけるとなると、今度は調査の範囲が問われる。福島県内なのか、線量で区切るのか。(略)結局のところ自主避難者の定義は難しい」。
さらに「広域、かつ多数の原発避難も手伝い、東日本大震災と福島第1原発事故では過去の災害では見られなかった特異な現象が発生した」。それが「みなし仮設住宅」の大規模な導入である。
つまり災害規模が巨大であったためにプレハブ型の応急仮設住宅の建設が遅れ、しかも避難者が全国各地に広がったため、「公営住宅や民間賃貸住宅の空き部屋を自治体が借り上げて提供する『みなし仮設住宅』(一般には借り上げ住宅と呼ばれることが多い)が大規模に導入された」のである。
(本書であげられているデータではこうである。「2015年3月1日時点での応急仮設住宅戸数(入居数)は8万5235戸。そのうち、みなし仮設は4万7158戸で、なんと約55%を占める。しかも愛媛県を除く全46都道府県にある」。)
しかもこの「みなし仮設」については、普通の住宅であるにも拘わらず、安全性に劣るプレハブなどの仮設建築物と同等の扱いを受け、1年ごとの提供期限の延長を繰り返す仕組みになっている。原発避難者、特に自主避難者の多くが「いつ追い出されるか分らない」という状況に置かれているのである。
自主避難者の実態もきちんと把握しないまま、みなし仮設の問題は状況に押し流されていく。そして「福島県は、2012年11月5日、県外でのみなし仮設住宅の新規提供を12月で止める一方、県内での自主避難者にみなし仮設の提供を開始すると発表した。子どもか妊婦がいる世帯を対象に、福島県内で自主避難して自腹で賃貸住宅を借りている場合や、県外から県内に帰還する場合に、福島県が家賃を負担(その後は国が負担)するというものだ」。
つまり県外での自主避難者の県内への住み替えは認めるが、それ以外は切り捨てるということである。
さらに2015年5月29日、帰還困難区域を除き2017年3月までに避難解除を打ち出す第5次自公提言を受け、6月12日、政府が復興加速化指針の改定を閣議決定。そして2015年6月15日、福島県の内堀知事が2017年3月末で仮設打ち切りを発表した。ここで避難指示区域以外からの避難者への応急仮設住宅供与が打ち切られたのである。これについて福島県と被災自治体幹部の匿名のコメントが新聞に載った。「無償提供を続ける限り帰還が進まない」、「避難生活が長期化することで復興の後れにつながりかねない」と。ここに行政の本音が透けて見える。
こうして自主避難者への住宅支援はもちろんのこと、避難者それ自体が薄められ消されつつあるといえよう。無論現実には避難者の問題は山積したままである。自公提言の締めくくりの次の文では、避難者はまさに消されている。
「われわれは、新しいまちの新しい家で家族そろってオリンピック・パラリンピック東京大会を応援できるよう(中略)被災された方々とともに、今次の災害に対する支援をいただいた世界中の皆さんと増税を引き受けていただいている日本国民の皆さんへのお礼と恩返しを1日も早く『復興』というかたちでお示ししたい」。
なお、みなし仮設住宅の家賃負担については、避難先都道府県が福島県に家賃費用を請求し、福島県が自己負担の分を含めて国に請求する。そして国から福島県に家賃費用の交付が下りて、各都道府県に交付する仕組みになっている。しかしこれは行政による福祉的な負担であって、そもそもの事故の原因者(加害者)=東京電力が存在する以上、その費用は最終的には原因者(加害者)に請求しなければならない。ところがみなし仮設住宅の家賃の請求が一切なされていない。ここにも事故の責任の明確化を避ける国の姿勢がよく現れている。
本書は、みなし仮設住宅という救済対策の問題から原発事故への政府・行政の体質を浮かび上がらせようとする労作である。(R)

【出典】 アサート No.488 2018年7月

カテゴリー: 原発・原子力, 書評, 書評R | コメントする

【投稿】国際的孤立深まる安倍政権

【投稿】国際的孤立深まる安倍政権
―3選阻止に向け共闘体制の再構築を―

米朝会談の地平
6月12日、紆余曲折の末シンガポールで史上初の米朝首脳会談が開かれた。会談後両首脳は共同声明に署名、トランプは単独で記者会見に臨み、その後両首脳は帰国の途に就き「一番長い日」は終わった。
共同声明では、金正恩が朝鮮半島の完全非核化を約束、トランプは北朝鮮の安全保障を約束し、さらに朝鮮半島の平和体制の構築、米朝交渉の継続そして朝鮮戦争時の行方不明者、捕虜の遺骨返還などが合意された。
これに対し関係国内からは、非核化の具体策や工程表が明らかではない、とりわけ「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)が欠落している、などとの批判が提起され、声明には注目された朝鮮戦争の終戦宣言も盛り込まれなかった。
確かに共同声明の内容は極めて簡素であり、4月27日の南北首脳会談で確認された板門店宣言を大きく超えるものではなかったが、今回の米朝会談―共同声明の意義は、両首脳が直接会談し、朝鮮半島和平のゴールが確認されたことであろう。すなわち近い将来、非核化された朝鮮半島に於いて、大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国が平和共存するというかたちが示されたのである。
共同声明で触れられなかった点についても、爾後にフォローが行われている。朝鮮戦争について記者会見でトランプは「戦争はまもなく終わる」と述べており、先に板門店で確認されたように、年内に終戦確認が行われると考えられる。
非核化のスケジュールについても、13日に訪韓したポンペイオが、トランプの第1期目である「あと2年半の間に主要な非核化が達成できる」との見通しを示した。
従前言われていた即時の非核化は非現実的なため除外され、段階的な核廃棄を進め、CVID状態を達成するという方向性が明らかとなった。
残された問題の一つに北朝鮮が主張する、核廃棄と制裁緩和の「段階別、同時行動」履行がある。14日の日米韓外相会談では「完全な非核化なしに制裁は解除されない」ことが確認されたが、次の米中外相会談では「適切な時期に制裁を解除する」との認識で一致した。
これは、中国が先行する形で経済支援を進めると言うことであり、これにロシアも加わり、国連決議の見直しが今後加速され、早ければ9月の国連総会で論議されるだろう。

日本以外が関与
今後はこれらを具体化していく慎重かつ着実なプロセスが米朝に求められるが、その際周辺国の関与も重要になってくる。中国は米朝会談を前に2度の中朝首脳会談を行い、シンガポール行きの専用機も提供した。すでに経済協力の動きも準備されつつあり、中朝国境付近の土地価格も上昇しているという。
韓国は、文政権が緊張緩和、南北融和に向けたイニシアを発揮し、今日の環境を醸成した。6月13日施行の統一地方選挙では首脳会談の成功を追い風に「共に民主党」が圧勝し、南北融和は国論を2分する問題ではなくなった。
文政権の支持率も7割台であり、アメリカの求める米韓軍事演習の中断、非核化経費負担など、政権的には重い課題も受容する余裕ができたと言える。
この間朝鮮半島問題への関与に後れを取っていたロシアも、巻き返しに懸命となっている。5月31日にはラブロフ外相が9年ぶりに訪朝、6月14日プーチンはワールドカップ開会式に合わせ訪露した金永南と会談した。ここでプーチンは、9月ウラジオストックで開催される「東方経済フォーラム」に金正恩を招くことも、個別にロシアで会うことも可能だと表明した。
習近平は昨年秋の共産党大会で権力基盤を確立し、プーチンも3月の大統領選挙で圧勝している。これにより関係国の権力者の当面の任期はトランプ2021年、プーチン2024年、文在寅2022年、習、金は∞となっており、中露韓は北朝鮮と国境を接している分、緊張が緩和されれば積極的な関与が可能である。

無駄な抵抗
こうした動きに焦りの色を濃くしているのが、唯一続投が不明確な安倍政権である。安倍は朝鮮半島の緊張状態が永続化することを望み、北朝鮮への憎悪と緊張を煽り立て自らの政権延命に利用してきた。昨年末までは総選挙の「圧勝」など、それが功を奏してきたが、2018年になり局面が大転換して以降、そうした姿勢が仇となり枷となって、情勢の変化に対応しきれなくなっている。
安倍の言う通りであれば、今頃朝鮮半島はおろか、日本も無事では済んでいないはずであるが、北朝鮮のミサイルによる被害はなく、国民に被害を及ぼしているのは米軍、自衛隊機の墜落という有様である。
こうしたなか安倍は「対話のための対話は無意味」「微笑みに騙されてはならない」「最大限の圧力」と威勢の良い啖呵を切ってきたが、現在それらはすっかり影をひそめてしまった。
5月24日、トランプが交渉戦術として会談中止を表明した時は、いち早く理解と支持を示し、欣喜雀躍したのもつかの間、26日の南北首脳再会談を経て再び軌道に乗るに至っては、その早計さが世界中に露呈してしまった。
6月8日、安倍は一縷の望みを託して日米首脳会談を行った。しかしトランプの融和姿勢を変えることはできず、米朝会談での拉致問題の提起を確認することが精いっぱいであり、「拉致問題解決のため」として日朝首脳会談の追及を公言せざるを得なくなった。
観念した安倍は、11日に開かれた国際交流会議「アジアの未来」(日経新聞主催)の晩餐会で、拉致問題などの解決を前提としながら「北朝鮮には手つかずの資源がある。(北朝鮮国民は)勤勉に違いない、豊富な労働力がある。(北朝鮮の非核化は)アジアを超えた世界規模の経済への影響力がある」とまるで従前からの友好国であるかのような美辞麗句を並べた。

主要国のはざまに埋没
12日夕刻、安倍は囲み取材で、米朝会談への支持とトランプへの謝意を述べるのが精いっぱいな状況であった。安倍は日米首脳会談の前後に、21回目となる日露首脳会談とG7サミットへの出席を行ったが、どちらも成果を上げることができなかった。
5月26日の日露会談では7月に北方領土に調査団を送ることでは合意したが、共同経済活動を進める担保である「日露双方の法的立場に考慮した制度」は暗礁に乗り上げている。さすがにW杯を口実とした訪露はかなわず、次回の首脳会談は先に述べた9月の「東方経済フォーラム」となるが、領土問題の進展は望むべくもない。
6月8,9日のカナダG7に至ってはさらに悲惨であった。トランプ政権は、鉄鋼・アルミの追加関税に加え自動車、部品も制裁品目に追加する構えを見せており、会議は通商問題で冒頭から紛糾した。一時は危ぶまれた首脳宣言はまとまったものの、閉会直後にトランプが拒否宣言を行い、橋渡し役を自負していた安倍の面目は潰された。
追加関税では日本も大きな打撃を受け、自由貿易やTPP推進を公言しているのであるから、安倍は立場を鮮明にしなければならなかったのであるが、拉致問題でトランプに懇願した直後のため、移民問題で暴言を浴びせられても中途半端な立ち位置に終始した。 今回のG7はG6VS1などと評されているが、「海洋プラスチック憲章」への対応からも明らかなように、実際はG5 VS1(+1)というべきものであろう。
外交の場で存在感を示したい安倍は、先の「アジアの未来」でインド・太平洋地域のインフラ整備に今後3年間で、約500億ドルの投資を表明した。これは前日、中国の青島で開かれた上海協力機構(SCO)首脳会議を意識してのものである。
G7の混乱を後目に開催されたSCOには、中露の他、対立国であるインド、パキスタンが初の公式参加、ホスト役の習近平は貿易戦争を仕掛けるアメリカを念頭に「開かれた世界経済体制を構築する必要がある」と訴え、G7のお株を奪う形となり、影響力を拡大した。

保身の為の日朝会談 
この様にこの間国際情勢は、米朝会談を基軸にG5、中露がダイナミズムな動きでイニシアティブを発揮した。こうしたなかに埋没してしまった安倍は「苦しい時の北朝鮮頼み」に回帰しようとしているのである。
6月16日朝「ウェーク」(読売テレビ)に出演した安倍は、改めて日朝首脳会談の実現に意欲を示し、アメリカの求める非核化経費の負担も検討する考えを明らかにした。さらに、米韓合同軍事演習の中止にも理解を示し、あくまでもアメリカ追随と自己保身を最優先させる姿勢を示した。
米朝会談が成功した以上、安倍はスピードを上げるバスにしがみ付くので必死なのである。しかし西村副官房長官は17日の「報道プライムサンデー」(フジテレビ)で「8月9月は難しい」と述べるなど、自ら北朝鮮とのパイプをつぶしてきたことが災いし、交渉は難航するだろう。
こうした安倍の前のめりの姿勢に対して、6月15日の自民党、国防、外交、拉致問題の各部会の合同会合では、右派系議員から批判が相次いだと言う。さらに支持基盤であるネトウヨ、レイシスト、カルトからも「裏切り」の声が上がっている。こうした声も手のひら返しがお手の物の安倍は、自らの総裁3選のためにはあっさりと切り捨てるだろう。
10日の新潟知事選挙で与党は辛勝したものの、同日の東京都中野区長、同区議補選では野党の足並みの乱れ、右派の分裂という状況の中で与党系候補が敗北した。15日の時事通信の世論調査でも内閣支持率は続落し、次期首相についても小泉、石破に続く3位に甘んじる結果となった。この様に政権基盤は決して盤石ではないことからも、安倍は成果を求めて必死になっているのである。
この状況を野党は突き崩せていない。新潟知事選は疑似国政選挙の限界が露呈したともいえるが、総括を巡って「内ゲバ」をしている場合ではないだろう。
今から考えれば、知事選と参議院補選のW選挙に持ち込めれば、より国政、政権の是非を問う構図に引き寄せることができ、前回参議院選(2016年)時の内閣支持率(50%前後)を勘案すれば、今回の1戦1敗ではなく悪くても2戦1勝1敗にできたかもしれない。
残された期間は少ないが、野党は外交失策を暴くとともに、「高プロ」「カジノ」法案の強行採決、森友、加計事件の隠蔽を最後まで追求し、安倍3選に抗していくべきであろう。(大阪O)

【出典】 アサート No.487 2018年6月

カテゴリー: 平和, 政治 | コメントする

【投稿】日本へのプルトニウム削減要求と東アジアの非核化

【投稿】日本へのプルトニウム削減要求と東アジアの非核化
福井 杉本達也
1 米が日本にプルトニウム削減を強固に要求
「米、日本にプルトニウム削減要求」というトップ記事を6月10日の日経新聞が掲載した。記事で「核兵器への転用リスクがあるプルトニウムを日本がためこむことは、中国などから『不要の疑念を呼ぶ』とかねて批判されてきた。 米国は12日の米朝首脳会談で、北朝鮮に完全な非核化を迫る。国際社会は核不拡散へ断固とした姿勢をみせており、日本を特別扱いできないと判断した可能性もある。このため、米国家安全保障会議 (NSC)など は日本政府にプルトニウムの適切な利用・管理を要求した。」と書いている。
12日にシンガポールで米・トランプ大統領と北朝鮮・金正恩委員長による歴史的な会談を行われ、両首脳は朝鮮半島の「完全な非核化」に取り組み、米国は体制保証を約束することを柱とした共同声明に署名した。朝鮮戦争の終結にまでは言及していないが、プロセスとしては、朝鮮戦争の終結は「国連軍」としての在韓米軍の駐留根拠をなくすものであり、在韓米軍の撤退、在日米軍の縮小から撤退へとつながるものである。その相互信頼関係の前提として、まず、米韓軍事演習の中止が行われることとなった。この期に及んでも「小野寺五典防衛相は13日、トランプ米大統領が米朝首脳会談後に米韓合同軍事演習中止の意向を示したことについて『米韓演習や在韓米軍は東アジアの安全保障に重要な役割を持っている』と述べ、懸念を示した。北朝鮮対応では『今の圧力を続けていく姿勢に変わりはない』との考えを示した。」と報道されているが、全く東アジア情勢の大転換を理解しない発言である(ロイター:2018.6.13)。朝鮮半島の「非核化」は当然ながら、東アジアに展開する米軍の「非核化」、日本の「非核化」も含むものである。それが、相互確証である。日本が核兵器の材料であるプルトニウムを大量にため込むことは許されない。朝鮮半島の「非核化」において、あたかも日本が局外の第三者のように振る舞うことなど許されるはずもない。

2 47トンものプルトニウムを保有する日本
プルトニウムの製造は、核兵器への転用を防ぐため原則禁止だが、日本は再処理して原発で再利用することを日米原子力協定で認められてきた。非核保有国で再処理を認められている国は日本だけだ。日本は高速増殖炉もんじゅの燃料として消費するというストーリー(ウソ)でプルトニウムをため込んでいく手はずだったが、もんじゅは度重なる事故により2016年12月に正式に廃炉が決定してしまった。通常の原発から出た使用済み核燃料を再処理して、プルトニウムを取り出し、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX燃料)として高速増殖炉で使用し、そこで得た核燃料から再びプルトニウムを取り出すという核燃料サイクルは完全に破綻した。高速増殖炉計画が行き詰ったため、ため込んだプルトニウムを言い訳的に消費するために考え出されたもう一つのストーリー(ウソ)がプルサーマル計画である。プルトニウムをMOX燃料に加工し、通常の原発の燃料として消費して少しでも恰好をつけようというのである。しかし、これも2011年の福島第一原発事故で全ての原発が停止し、その後も再稼働が遅々として進まないため、プルトニウムはたまり続け、約47トンに達している。プルトニウムを増やさないためには、まず再処理をやめるしかない。

3 高速増殖炉もんじゅは核兵器を作る目的であったが破綻した
もんじゅは軍事用プルトニウムを生産する目的で作られた軍事目的の原子炉である。もんじゅは建前ではウランの有効利用を謳っているが、高速増殖炉はプルトニウムを2倍にするのに理論上で90年かかる。また、使用済みの燃料に残るプルトニウムの90%は炉心にあるが、炉心のプルトニウムを完全に再処理する技術は世界になく、さらには高速増殖炉の燃焼の激しさから、さまざまな貴金属ができてしまい、再処理は不可能である。もんじゅの真の目的は、高速増殖炉を使うことで、炉心を包むブランケットにできる純度が高く(98%)再処理が簡単な軍事用のプルトニウム(兵器級プルトニウム)をつくることである。このプルトニウムを使えば小型軽量の高性能核兵器を製造可能である。巡航ミサイルに積み込み、ピンポイントで敵地空港や艦船などに攻撃可能である。ICBMなどの大型核戦力は、大都市攻撃用であるが、大規模報復を招く恐れがある。日本のような狭隘な国土では甚大な損害を被る恐れが高い。日本が高性能の核兵器を自力で作る場合、1発や2発では兵器としての価値はない。イスラエルのように100発~200発の核兵器が必要となる。そのためには純度が100%に近い軍事用プルトニウムが200キロ程度は必要である。現在、日本は36キロの軍事用プルトニウムを所有している。なぜ、米国の軍産複合体が日本に核燃料の再処理を許したかといえば、これを対中戦略で、万が一、南シナ海で事が起きた場合に米国が直接中国と衝突することは全面核戦争の危険があるため、これを避け、日本に戦術核兵器で核武装させ、中国と対峙させる戦略だったのである。高速増殖炉の「増殖」というのはウソである。最高の核兵器の材料である軍事用プルトニウムを作ることを隠蔽するための言葉であった。

4 青森県六ヶ所村の再処理工場を即時廃止すべき
青森県六ヶ所村には民間資金で日本原燃㈱を設立しこれまでに約14兆円を投じた使用済み核燃料の再処理工場がある。もんじゅを廃止しても、この工場を閉鎖しはないと政府は判断した。再処理工場の所有を国際的に認められた外交上の地位や技術的継承のためにも核燃料サイクルを堅持するというのである。稼働したら最大で年間8トンものプルトニウムを取り出すことが可能である。しかし、この工場の建設は遅れに遅れている。当初、1997年完成を目指したが、その後、延期を繰り返している。2017年12月には再度3年延期して21年度上半期とすると明らかにした。施設の老朽化などによるトラブルが続き原子力規制委員会による審査は中断している。今回で延期は23回目となる。国が掲げる「核燃料サイクル政策」の先行きは見えない。
一方、 国内初の再処理工場「東海再処理施設」(茨城県東海村)はようやく2014年に廃止が決まった。 廃止費用は作業終了までの70年間で約8千億円に上るとみられる。多分廃止は放射能で困難であろう。

5 政府は 電力会社の問でプルトニウムを譲渡させて消費を促す計画だが?
日経の6月16日の記事によると、政府は6月下旬にも日本のプルトニウム保有量に上限制を設ける新指針をまとめIAEAに報告するというが、その場合、電力会社の間でプルトニウムを譲渡させてプルサーマルで消費を促すという計画である。しかし、現在、再稼働している原発は、九電・四電・関電であり、東電などは膨大なプルトニウムを保有しながら柏崎刈羽原発の再稼働は困難な状況にある。トランプ政権は日本への削減の要求を強めている。「12日の米朝首脳会談を踏まえた北朝鮮との本格的な非核化協議を控え、日本だけを特別扱いできないからだ。同筋は『核不拡散への懸念はトランプ政権の方がオパマ前政権より強い』と」日米関係筋は明かす。

6 いやでも朝鮮半島の非核化に協力させられる日本
16日、安倍首相は読売テレビの番組に出演し、朝鮮半島の非核化の費用の負担を検討すると明らかにした。首相は「核の脅威がなくなることによって平和の恩恵を被る日本などが、費用を負担するのは当然」と語った。トランプ大統領は米朝首脳会談後の記者会見で、記者からの「北の非核化の費用は誰が払うのか?」という質問に対して、大統領は「それは韓国と日本が払うだろう。アメリカはそれを払う必要がない、それなりの代償をすでに負っているからだ」と述べ、日本や韓国に費用の負担を促す発言をした。むしろ、日本は既に準備しているだろうという内容の表現であった。「非核化」の請求書はいやでも日本に回ってくる。2002年の日朝平壌宣言において「国交正常化後に①無償資金協力②低金利の長期借款③国際機関を通じた人道支援④国際協力銀行などによる融資、信用供与を実施」することを約束している。一方、拉致問題については「日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題が再び生じないよう適切に措置」をとると表現しているに過ぎない。北朝鮮が再調査しても「なかった」とすれば終わりである。日本は拉致問題を提起し続けることによって、経済協力の請求書が回ってくることを拒否し続けてきたのであるが、さすがにここに来てそのような無責任な芸当が国際的には通用しないことが明らかとなりつつある。拉致問題を解決しないなら日本は非核化に協力しないとは言えないのである。なぜなら、トランプ氏から既に安倍首相に対し請求書を回されているからである。これを拒否すれば、政治的・軍事的圧力や経済的制裁を受けることを覚悟しなければならない。それは東アジアで外交的に完全に孤立し、トランプ大統領に「お願い詣で」をして深入りしてしまった属国の立場としては不可能である。「非核化」負担どころか、総額2兆ドル?の北朝鮮経済復興費の請求書も回すと言っている。
日本は原発の再稼働を中止し、再処理工場を閉鎖し、プルトニウムを破棄し、核兵器開発を完全に諦め、北朝鮮と共に東アジアの非核化に取り組むと宣言する以外に、この孤立状況を抜け出す道はない。

【出典】 アサート No.487 2018年6月

カテゴリー: 原発・原子力, 平和, 杉本執筆 | コメントする

【投稿】米朝会談・安倍外交破綻をめぐって 統一戦線論(49)

【投稿】米朝会談・安倍外交破綻をめぐって 統一戦線論(49)

<<朝日と産経、瓜二つ>>
6/12のシンガポールでの米朝首脳会談の共同声明で確認された4項目とは、
1.朝鮮民主主義人民共和国とアメリカ合衆国は平和と繁栄を願う両国人民の念願に基づいて新たな朝米関係を樹立していくことにした。
2.朝鮮民主主義人民共和国とアメリカ合衆国は朝鮮半島で恒久的で強固な平和体制を構築するために共に努力する。
3.朝鮮民主主義人民共和国は2018年4月27日に採択された板門店(パンムンジョム)宣言を再確認し、朝鮮半島の完全な非核化に向けて努力することを確約した。
4.朝鮮民主主義人民共和国とアメリカ合衆国は、戦争捕虜および行方不明者の遺骨発掘を行い、すでに発掘確認された遺骨を即時送還することを確約した。
以上である。共同声明は、「金正恩委員長とトランプ大統領は、史上初めてとなる朝米首脳会談が両国間に数十年間持続してきた緊張状態と敵対関係を解消し、新しい未来を開いていくうえで大きな意義を持つ画期的な出来事であるということについて認め、共同声明の条項を完全かつ迅速に履行することにした。」で締めくくられている。(以上、平壌6月13日発・朝鮮中央通信による)
ところが、この米朝会談の結果をめぐっては、アメリカでも日本でも大手マスコミ、主流メディアの否定的な評価が横行している。
翌6/13の朝日新聞の社説は「その歴史的な進展に世界が注目したのは当然だったが、2人が交わした合意は画期的と言うには程遠い薄弱な内容だった。最大の焦点である非核化問題について、具体的な範囲も、工程も、時期もない。一方の北朝鮮は、体制の保証という念願の一筆を米大統領から得た。(「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」について)トランプ氏は記者会見で、それを文書に落とすには『時間がなかった』と認めた。その上で金氏は速やかに動くだろうとの期待を口にした。その軽々しさには驚かされるとともに深い不安を覚える。」と、全く冷笑的な姿勢である。
そして同じ6/13の産経新聞の社説(「主張」)は「米朝首脳会談 不完全な合意を危惧する 真の核放棄につながるのか」と題して、「世界の注目を集めたシンガポールでの歴史的会談は、大きな成果を得られないまま終わった。…それなのに、トランプ氏が共同声明で北朝鮮の体制保証を約束し、会見で国交正常化への意欲も示したのは前のめりだ。金委員長に最低限約束させるべきは、北朝鮮が持つ核兵器などすべての大量破壊兵器と弾道ミサイルについて『完全かつ検証可能で不可逆的な廃棄(CVID)』であるのに、できなかった。トランプ氏は『時間がなかった』と言い訳した。交渉能力を疑われよう。」と述べる。
朝日と産経が奇しくも全く横一線、瓜二つ、同じ主張を繰り返している。一度ですべて片が付くとでも考えていたのであろうか。それこそおめでたいというものであろう。
確かに具体的な内容は不十分であるとも言えよう。しかし、段階的、持続的な交渉の出発点として、今回の首脳会談の意義を認識し、評価することが重要である。何よりも、68年にも及ぶ、38度線で対峙する戦争状態を最終的に終結させる重要な第一歩として、板門店宣言を再確認し、東アジアの平和への重要な一歩が踏み出された意義は正しく評価されなければならない。それは、世論調査で、この米朝首脳会談を、韓国人81%、米国人70%が支持(KBSニュース 2018-06-12)しているという結果にも表わされている。この首脳会談に粘り強く導いた韓国の文在寅大統領の支持率は、79%にも達している(6/15 ロイター/イプソス調査)。

<<米韓軍事演習「大嫌い」>>
さらに問題なのは、こうした世論に逆らうかのように、米韓合同軍事演習中止についてまでも、6/17付・朝日社説は、「在韓米軍は北朝鮮と向き合う最前線であり、対中国でも重要な役割を担う。練度を高め、有事の即応力を維持するために演習は重要だ。東アジアの安全保障に影響を与える方針転換を一方的に打ち出すのは、『同盟軽視』と言わざるを得ない。」とイチャモンを付け、まるで安倍政権の本音の代弁人を買って出ていることである。
この米韓合同軍事演習について、平壌6月14日発の朝鮮中央通信は、「最高指導者(金正恩委員長)は、朝鮮半島における恒久的で強固な平和体制を構築するのが地域と世界の平和と安全保障に重大な意義を持つと述べ、差し当たり相手を刺激して敵視する軍事行動を中止する勇断から下すべきだと語った。アメリカ合衆国の大統領はこれに理解を表し、朝米間に善意の対話が行われる間、朝鮮側が挑発と見なす米国・南朝鮮合同軍事演習を中止し、朝鮮民主主義人民共和国に対する安全保証を提供し、対話と協商を通じた関係改善が進むことに合わせて対朝鮮制裁を解除することができるとの意向を表明した。朝米両首脳は、朝鮮半島の平和と安定、朝鮮半島の非核化を進める過程で段階別、同時行動原則を順守するのが重要であることについて認識を共にした。」と発表している。
一方、トランプ大統領は6/15、「中止」を表明した米韓合同軍事演習に関しては、大統領に就任したときから「大嫌いだった」と述べ、米朝の交渉に支障となり、巨額の経費がかかることから中止するつもりだ、「戦争ゲームをやめる。膨大な量の金を節約できる」と説明し、さらにこの中止はトランプ氏の側から金氏に提案したことも明らかにした、と産経新聞が報じている(米韓軍事演習「大嫌い」 トランプ氏、中止を自ら提案 6/17 産経)。
さらに、トランプ米大統領は6/15、ビデオメッセージを公表し、「平和のチャンス、恐ろしい核戦争の脅威を終わらせるチャンスがあるなら、すべてを犠牲にしてでも追求しなければならない」と訴えている(6/16 時事通信)。
この「すべてを犠牲」の中には、膨大な費用のかかるこの軍事演習も入っているであろう。中止されては困る軍産複合体の利益も、当然含まれよう。
こうした動きは、敏感に経済にもすぐさま反映されている。米朝共同声明が発表されるや、「少なくともトランプとキムの間の合意は、しばらくの間、軍事紛争をテーブルから取り除く」との見通しから、米軍需産業株(パトリオットとトマホークのミサイルを作るレイセオン、ペンタゴンに空中ミサイル防衛システムとF-35ステルス戦闘機を供給しているロッキード・マーチン、サイバー戦争やミサイル防衛のノースロップ・グラマン、Apacheヘリコプターと空中給油機製造のボーイング、海軍造船のジェネラル・ダイナミックス)が軒並み下落し(0.2%~2.6%)、対照的に、ダウ工業株平均は20ポイント上昇している(6/12,米・非営利独立メディア・Common Dreamsによる)。軍産複合体にとっては、平和と緊張緩和は歓迎されざる、不都合な真実なのである。
どちらから提起したにせよ、「戦争ゲーム」の中止は、大いに歓迎すべきであるし、しっかりと定着させることこそが望まれる。これを不当に貶めることは、好戦勢力を喜ばせるものでしかない。「戦争ゲーム」や軍事力の誇示、緊張の激化ではなく、対話と外交こそが、平和を築く唯一の道なのである。

<<北の「力」が米国に「平和」を強いたのか>>
6/15、トランプ氏はホワイトハウスでの記者会見で、史上初の米朝首脳会談を振り返り、正恩氏について「非常に気が合う。とてもいいことだ」と評価し、「今、北朝鮮と非常にいい関係にある。私が就任した時は戦争状態のようだった」とし、核問題を「私が解決した」「誰もが予想していた以上に素晴らしい会談だった」と自賛し、さらに「プーチン氏は数年前まで主要8カ国(G8)の一員だった」と指摘、「北朝鮮もそうだが、仲良くする方がそうでないよりずっといい」と述べ、先進7カ国(G7)の枠組みにロシアを改めて加えるべきだとも主張したのである。おまけに、トランプ氏お気に入りの米FOXテレビのインタビューでは「彼(正恩氏)は強い指導者だ。彼が話す時、国民は直立して聞く。米国民にも同じようにしてほしい」などと、独裁者特有の本音まで漏らしている。
自ら相手を「小さなロケットマン」と罵り、核攻撃も辞さないと戦争熱を煽っていたことなど、忘れたかのような発言である。自信過剰で、気まぐれ、欺瞞、いじめ、差別的で侮辱的な発言、突然の方向転換など、トランプ氏を特徴づける不安定な性格は、今後とも事態を流動化させる危険性として大いに警戒されなければならない。しかし、首脳会談後の記者会見でトランプ氏が述べた「選挙中にも私は言及した。よくおわかりの通り、米軍を撤収したいのが私の全般的な目標だ。私は多くの損失を持ってくるウォーゲーム(war-game)はしたくない。戦争介入はやらなくてもいい。費用も節減されるだろう。そうなったらとても多くの費用が節減されるだろう」という発言は確かに一貫したものである。しかしトランプ氏の予測しがたい逆戻りを許さない環境づくりをしたのが、韓国の文在寅政権であった。その文在寅政権を登場させた、「ろうそく革命」に象徴される韓国の民衆運動の力が、この新しい歴史的な事態をもたらしたのである。
同じことは、北朝鮮についても言えよう。ジャーナリストの李東埼氏は、北朝鮮の「力」が米国に「平和」を強いる、という主張を展開されているが(週刊金曜日6/8号・論争欄)、それはある一側面ではあったとしても、もはや「先軍政治」と核開発で疲弊してしまった北朝鮮の経済的苦境と決定的な立ち遅れを打開するためには、大胆な政策転換が不可欠であり、韓国の文在寅政権の登場がそれを力強く後押しをした結果が、4・27板門店宣言に結実し、米朝会談に結び付いた、というのが真実であり、実態であろう。

<<「イチャモンばかり」>>
元「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」(家族会)副代表・蓮池透氏は、今回の米朝首脳会談について、「マスコミは揚げ足とりばかりしていますが、平和を望んでいないんですか、と言いたくなってしまう。だいたい、昨年まで戦争が勃発するとまで言われたんですよ。それなのにわずか1年足らずで、両国トップが握手をして、これから平和を目指そうという、そうした外交的にもダイナミックな合意のはずなのに、まったく評価しないなんてどうかしています。とくに驚いたのが、米朝会談の後、NHKで過去の核合意破綻の歴史をVTRで繰り返し流していたこと。結局、あなたがたは、また破綻させたいのか。いや、本当に破綻を望んでいるとしか思えない。合意についても『譲歩しすぎだ』とかのイチャモンばかりです。」「拉致問題をアメリカに頼むなんて筋違いだし、ありえない話で、大変恥ずかしいことです。そういう意味では、米朝会談は『安倍外交』の敗北なのだと思います。しかも、安倍さんや政府は、ただのアメリカ頼みなのに、家族や国民に過大な期待を与えている。ほんとうに罪作りだと思います。」「だいたい今頃になって『北朝鮮と向き合い』って、臆面もなく言っているのか、という話でしょう。だったら、最初からなぜ向き合わないのか。小泉訪朝から16年も経って、ようやく北朝鮮と向き合うってどういうことですか、この態度の豹変は。だったら最初から向き合ってください、としか言いようがない。」と、ずばり問題の本質を突いている(リテラ 2018.06.15 蓮池透が怒りの告白)。
このような安倍政権の豹変を、日本の野党共闘・統一戦線がただ見過ごしていては、安倍政権の退陣はますます遠のいてしまうであろう。
さきの6/10・投開票の新潟県知事選挙の結果は、そのことを暗示しているのではないだろうか。「与党の争点隠しが功を奏した」「メディアもまた争点隠しに寄与した」「池田候補の主張を丸呑みした抱き着き選挙に成功」「旧態依然の土建選挙」等々、これら与党側の選挙戦略は今回初めてのことではない。彼らの豹変は重々承知のはずである。それらを敗因にして、ここまでよく頑張った、善戦した、野党共闘も前進した、では、何の教訓も得られないし、今後に生かされはしない。
まず、野党統一候補を擁立するにあたって、前知事が不徳の致すところ、不祥事で辞任に追い込まれた、そのことをまずもって真摯に有権者に謝罪・反省する言葉がなぜ発せられなかったのであろうか。次は、この候補です、よろしく、では済まないはずである。誠実さが疑われたとも言えよう。信頼度が低下したままでは、人々の底力をくみ取ることも、幅広い人々の結集を図ることもできないし、既得票だけでは勝利し得ないのである。
第二に、安倍政権は、成長政策を掲げながら、実は徹底した弱肉強食の規制緩和、緊縮政策、社会保障破壊政策を推進していることは、誰もが肌身で実感していることである。この実感を無視した選挙戦はありえないし、反原発だけでは、肩透かしに追い込まれることが自明であった。反原発政策を丸呑みにされたのであれば、その嘘を暴くと同時に、相手候補の弱点をさらけ出させ、彼らを上回る、有権者の切実な要求に根差した、地元に密着した大胆な反緊縮政策を提起すべきであった。
まだまだいくつもの教訓があるであろうが、少なくともこの二点は、厳しく反省される必要があるのではないだろうか。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.487 2018年6月

カテゴリー: 平和, 政治, 生駒 敬, 統一戦線論 | コメントする