【投稿】米国の巨大資本権力に支配されるマスコミ

【投稿】米国の巨大資本権力に支配されるマスコミ
福井 杉本達也

1 東南アジアの国々は独裁国家なのか
ニューズウィーク誌は「今や東南アジアの独裁政権はアメリカの介入や制裁を恐れずに、自国民を好きなだけ抑圧できる…アジアの独裁者は『トランプのおかげで大胆になり、やりたい放題、言いたい放題だ』」と書く。「人権派が最も警戒する要注意人物は『アジアのトランプ』とも呼ばれるドゥテルテ」、「カンボジアのフン・セン首相は85年の就任以来、徐々に独裁色を強めてきた」、「タイのプラユット首相はクーデター後何度も総選挙の実施を先送りしてきた」と名指している(ニューズウィーク:2018.8.10)。しかし、これは欧米の立場からの歪んだ批判である。東南アジアへの「米国の介入」は、1945年~1975年のベトナム戦争や、1965年のインドネシアの9.30事件におけるCIA=スハルト政権による華人住民など50万人の虐殺などを引き起こしたことを忘れてはならない。2000年代からの中国の経済発展がこうした米国の東南アジアへの介入を弱めてきた。欧米の価値観に従わなくなった国家に「独裁」のレッテルを張り、政権の転覆を図ることは軍産複合体の常套手段である。米国が「民主化」を口にするのは、グローバルな国際金融資本家・軍産複合体に都合の悪い政権に対してだけである。しかも、グローバル資本・軍産複合体にとっては自国のトランプ政権も煙たい存在であるようだ。

2 カンボジア総選挙を批判する日経と岩波『世界』
カンボジアの下院選挙では、現フン・セン首相の率いる与党:カンボジア人民党が全議席を独占することとなった。日経新聞は「民主化の後退懸念は高まり、欧米や日本が主導してきた人権尊重や法の支配など、国際秩序が揺らぎかねない…最大野党のカンポジア救国党が昨年11月、国家転覆を企てたとして解党処分になったからだ」と書く(日経:2018.7.31)。
また、数少ないリベラルな月刊誌:岩波書店の『世界』2018年8月号においても熊岡路矢・カンボジア市民フォーラム共同代表が「民主主義から遠ざかるカンボジア」として、日本はこれまで、「援助における人権・環境配慮を文言に入れて、外交政策も援助政策も、価値観を共にする国、言い換えれば、複数政党制に基づく民主主義、人権、自由主義などを重視し、促進する立場」からカンボジアに「内政干渉」してきたことを臆面もなく書いている。「ここ数年のカンボジアの現状は、この規範から明らかに逸脱している」として、「なぜカンボジアを批判せず、援助の停止もしくは見直しをしないのか」と外務省の姿勢を追及している(熊岡路矢「カンボジアで何が起きているか」『世界』2018.8)。

3 中国の影響を批判
さらに、熊岡氏は「『内政干渉はしない』という点において、中国は悪い意味で日本より徹底している。被援助国政府が人権や環境を無視しても批判しないし、援助における人権や環境配慮も求めないようである」と中国の「内政干渉」をしない姿勢を批判して、日本政府によるカンボジアへの「内政干渉」を露骨に求め、「カンボジアはもうすでに十分中国寄りであるし、いまさら中国と援助競争をする立場でもなく、できる条件もない」と中国寄りとなったカンボジアへの援助を中止しろと政府に迫っている。「人権や環境」を名目に他国への露骨な「内政干渉」することがどうして「民主主義」なのか。熊岡氏は慎重に過去の傷に触れないが、1975~1978の間に国民の1/3を虐殺したポル・ポト派・ソン・サン派・シアヌーク派の三派連合政府を支援し、1982~1991年のパリ和平協定まで、ベトナムが支援するヘン・サムリン政権との内戦に加担し続けたのは日本であり、米国である。カンボジアがASEANに加盟するのはやっと1999年であり、日本が支持・援助・「内政干渉」をし続けた結果、カンボジアの経済発展は大きく遅れたのであり、その経緯を不問にすることなどできるはずもない。
また、上記日経記事においても、中国は「経済力を背景に投資や援助を気前よくつぎ込み、人権状況には口出ししない」とし、2008年のリーマン・ショック前後から「先進国の支援が細る間隙をつき」存在感を高めてきたと批判する。国別では、中国が最大の援助国となっており、31億ドル、日本は2位の28億ドル、米国は3位の13億ドルとなっている。日本は長い間最大の援助国であったが、2010年に中国と逆転している。また、米国は既に2014年から援助を停止している。
さらに続けて、中国は「『一帯一路』の下で、カンボジアやラオス、ミャンマーなどへの支援を拡大しASEANの分断と自国の影響力浸透を狙う…米国の地盤低下もあり、タイやフィリピンでは政治的自由より経済開発を優先した『開発独裁』に逆戻りする…『中国モデル』が背景にあるのは間違いない」と結んでいるが、そもそも、中国が「開発独裁」の国家であるというのは欧米の価値観の押し付けである。なぜ、日経はイスラエルがガザにおいて非武装のパレスチナ人を何百・何千人と虐殺していることを批判しないのか。サウジアラビアがイエメンを無差別爆撃し、数百万人が飢餓寸前で苦しんでいることを批判しないのか。

4 カンボジアの現状、
カンボジアは1999年のASEAN加盟以降、急速な経済発展をしつつある。むろん現在も内戦の影響は色濃く、35歳~39歳の層が極端に少ないが、カンボジア経済は2010~2016年にかけ平均7%の高成長を維持している。1人当たりのGDPも2013年に1,000ドルを上回った。プノンペン市内中心部は、他の東南アジア諸都市と比較すると乗用車が多く、特にドイツ車を中心とする欧米の高級車が多い。進出したイオンモールは当初予定の駐車場2000台を急遽2800台に増設している。日本の企業ではミネベアなどが進出している。ポル・ポト派の根拠地であったタイ国境沿いのポイペトは経済特区となり多くの企業が進出している。確かに中国企業の進出もすさまじく、プノンペン市内の主な高層ビルの建築主は中国系企業ばかりである。2015年、日本のODAでメコン川に架かる「つばさ橋」が建設されたが、中国はその上流にさらに大規模な橋梁を建設している。しかし、これもカンボジア人の選択である。中国の進出が急速であるから疎ましいというのは外交ではない。まして、外交の主導権を取れないなら援助を止めろというのは「帝国主義的」恫喝以外のなにものでもない。ポル・ポト政権下の大量虐殺で法曹界も大打撃を受け、内戦が終わった時点で、法律の専門家は6名しか生存していなかった。一橋大学法学部を中心に日本の支援でカンボジア民法が作られ、2011年12月から新民法が適用されることとなった。これを熊岡氏は「日本政府の法整備支援を通じて出来上がった法律を、カンボジア政権が自分たちの利益のために利用している」と書いているが、『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』とはこのことである。

5 日本のマスコミはどうなっているのか
英国の国境なき記者団が毎年発表している日本の「報道の自由」は、2013年以降急速に悪化しており、2017年は72位までに後退している。国連人権理事会でさえ、日本の報道の自由に懸念を表明している(福井:2017.11.15)。これは欧米系の価値基準による順位であり、まだ甘い。実態は欧米通信社や米IT企業からの「加工された」一方的情報の垂れ流しである。米軍産複合体の恫喝に屈する国家は「民主国家」であり、屈しない国家は「独裁国家」とされる。その大枠のストーリーに沿わない物語は全て抹殺され、報道されない。報道されなければ我々は知りようがない。8月17日の日経のトップ記事は「トヨタ中国生産2割増」「日本車、対中依存一段と」と書く。「民主化要求を封殺したまま経済大国に上り詰めた」中国(日経:7.31)が危険と思うならば、トヨタは中国に進出しなければよい。リスクが少ないと思うから進出しているのである。日経の報道は一旦日本を離れれば通用しない。マスコミの報道と現実は真逆の方向を向いている。

6 米国のIT大手GAFAは何をしているのか
8月6日前後に米国IT大手企業Facebook、Apple、Google、YouTubeらはプラットフォームの所有者として、“間違った記事”を広めているとして、著名ジャーナリストのアレックス・ジョーンズのウェブサイトを排除した。ジョーンズのウェブサイトは大統領選挙運動中、トランプ大統領を強く支持していた。また、トランプはジョーンズを”素晴らしい”と称賛していた。Facebookは「規約に反する内容を繰り返し投稿した」ことを理由に挙げた。ジョーンズは9・11の同時テロは米政府の「内部者による犯行」といった陰謀論を発信しており、米軍産複合体にとっては邪魔な存在であり、今回の措置はIT大手の市場独占を利用した、少数意見の人々を標的にした政治検閲である(参照:日経:2018.8.8)。
4月にメディア・リサーチ・センター(MRC)が発行した報告書は、IT大手は「公共的議論から保守的な世界観を検閲するための明らかな取り組みで」保守的言説を抑圧していると結論付けている。米国内でのロシア・メディア、RTとスプートニクの締めつけは、この傾向の一環である。中間選挙前に米国では、人々の基本的権利を剥奪するため、「ロシアゲート」と大規模検閲キャンペーンが仕掛けられている(マスコミ載らない海外記事:Peter KORZUN:2018.8.11)。「大統領すらメディアの私権力に屈することは戦前の新聞王ハースト以来何も変わらない。巨大資本私権力の前には自由も人権も民主主義もない・・それがアメリカだ」(衣笠書林:2018.8.15)。その米巨大資本権力の前に屈するどころか、尻尾を振って追従する日本に元々自由も人権も民主主義もあるはずがない。あるのは勘違いだけである。

【出典】 アサート No.489 2018年8月

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【投稿】沖縄県知事選・翁長知事急逝をめぐって 統一戦線論(51)

【投稿】沖縄県知事選・翁長知事急逝をめぐって 統一戦線論(51)

<<急きょ、土砂投入の延期>>
翁長知事の急逝に伴う沖縄県知事選の日程が9/13告示、9/30投開票と決まり、事態があわただしく流動している。辺野古の海の埋め立て・米軍新基地建設承認の撤回に踏み切る決意を翁長知事が明確にした直後の急逝である。沖縄県民の民意を無視した辺野古新基地建設をあくまで強行するという安倍政権あげての翁長知事への圧力、その重圧、ストレスこそが、翁長知事を急逝に追い込んだ、それは誰の目にも明白である。
6/23の沖縄戦の「慰霊の日」には、翁長知事は抗がん剤治療中にもかかわらず、毅然として平和宣言を読み上げ、「辺野古に新基地を造らせないという私の決意は県民とともにあり、これからもみじんも揺らぐことはありません」と明言し、会場は大きな拍手や指笛で応え、7/27には、辺野古埋立の承認撤回の手続開始を表明、その12日後、8/8の急逝である。翁長知事は4年前の知事選で、公約を覆して埋め立て承認をした仲井真・前知事に対し、約10万票の大差をつけて初当選、今回の翁長知事の撤回表明は、その民意を背景にした決断であった。さらに、その撤回のための行政手続として、国から意見を聞く「聴聞手続」があり、その聴聞手続について国から9月への延期の申し立てがあったが、8/6、翁長知事は「延期を認めない」との判断を下したのであった。翁長知事は明らかに、日本政府が土砂搬入を開始するとしている8/17の前に承認を撤回するという意思を示していたのである。
この決断に対して、安倍政権は、11/18に予定されていた知事選を前提に、8/17にも辺野古沿岸への土砂投入を強行し、基地建設を既定の動かしがたい事実として棚上げさせ、その是非を問わない、知事選の争点外しを目論んでいたのである。しかし事態は、9月に前倒しの選挙となり、知事の急逝にあわてた安倍政権は、急きょ土砂投入を延期し、「喪に服す期間への配慮」を理由に、政府が沖縄県側に、辺野古の海の埋め立て承認撤回を知事選後に延期するよう要請していたとまで報道されている。
もちろん、土砂投入延期は、翁長知事死去への「配慮」などといったものではなく、なりふり構わぬ強硬姿勢への県民世論の反発を避け、ただただ一時的な休戦・転換を演出し、知事急逝・弔い選挙として、辺野古基地建設強行の可否が選挙戦の争点として問われることを何としても避けたいという露骨な争点外し、焦りでしかない。この争点外しは、2月の名護市長選、3月の石垣市長選、4月の沖縄市長選でもうまく切り抜けられた、知事選でも、というわけである。
しかし同時に、この土砂投入延期は、公明・創価学会への「配慮」でもある。知事急逝の事態に、公明党も焦りを募らせ、公明・創価学会幹部が菅官房長官に土砂投入をやめるよう伝えたと報じられている。自民にとって、知事選でも公明の選挙協力が必要不可欠であり、その協力がなければ勝てない。しかも、公明党本部は辺野古への普天間移設を認めるが、同沖縄県本部は県外移設を主張し、「ねじれ」は解消されていない。前回2014年の知事選では、仲井真・前知事が公約に反して辺野古移設を容認したため、公明は自主投票に踏み切った経緯がある。ここで土砂投入を強行すれば、公明・創価学会の選挙協力が宙に浮く可能性があり、土砂投入を延期せざるを得なかったのである。

<<「屋台骨を失った」>>
一方、翁長知事を誕生させ、支えてきた辺野古に新基地を造らせない「オール沖縄会議」にとっては、翁長氏の急逝は、一抹の不安を抱えつつも、予期せぬ事態であった。翁長氏の健康回復を前提に、「翁長氏の代わりは翁長氏しかいない」というのが「オール沖縄会議」の一致した見解であり、翁長氏再選を目指すと確認し合ったばかりであった。
この「オール沖縄会議」には、
政党:社民党、共産党、自由党、沖縄社会大衆党、国民民主党沖縄県連、沖縄の風(沖縄県選出の参議院議員2名による院内会派)、うりずんの会(沖縄県選出・出身の野党国会議員による超党派議員連盟)、ニライ(親翁長派の元自民党や社民党・社大党の市議らによる那覇市議会の会派)、おきなわ(翁長県政を支える無所属県議らによる沖縄県議会の会派、旧「県民ネット」)
政治家:城間幹子那覇市長、瑞慶覧長敏南城市長、赤嶺政賢衆議院議員(共産党)、照屋寛徳衆議院議員(社民党)、玉城デニー衆議院議員(自由党)、糸数慶子参議院議員、伊波洋一参議院議員
経済団体:金秀グループ (2018/3 離脱)、かりゆしグループ (2018/4 離脱)、オキハム
労組:連合沖縄、沖縄県労連、自治労、沖縄県教組、全日本港湾労組
市民団体:沖縄「建白書」を実現し未来を拓く島ぐるみ会議、沖縄平和運動センター、SEALDs RYUKYU、安保廃棄・くらしと民主主義を守る沖縄県統一行動連絡会議、ヘリ基地反対協議会、平和市民連絡会
が結集している。
今年の2/4の名護市長選で「オール沖縄」が推す現職の稲嶺進氏が、自公推薦の渡具知武豊氏に敗北し、選挙後の3月、金秀グループの呉屋守将会長は敗北の責任を取るとしてオール沖縄会議の共同代表を辞任。続いて4月には、かりゆしグループは那覇市で記者会見を開き、辺野古移設の賛否を問う県民投票をするようオール沖縄会議内で提案したが、受け入れられなかったことも脱会の理由に挙げ、オール沖縄会議から脱会すると表明。「政党色が強くなりすぎた。独自で翁長氏再選に向けて動きたい」として同会議とは一定の距離を置きつつ支援を継続する意向を示した。
こうした中での翁長氏の急逝である。台風の接近で雨がふりしきる中、8/11、那覇市で開かれた辺野古移設に反対する県民大会には7万人もの人々が結集した。この県民大会には、翁長知事も出席する予定であった。主催するオール沖縄会議の高良鉄美共同代表は「大きなショックで言葉が見つからない。沖縄の市民運動の屋台骨を失った」と絶句している。この想定外の事態にオール沖縄会議どう対応しようとしているのか、多くの人々が注視している。後継候補の人選が遅れれば遅れるほど選挙戦は不利となる。県民大会に集まった人々が確認したのは「知事の遺志を受け継ぐ」ことであった。

<<「今こそ、一つにまとまらないといけない」>>
「オール沖縄」に結集する県政与党や労働組合などでつくる「調整会議」(議長・照屋大河県議)は8/14、那覇市内で6回目の会合を開き、急逝した翁長雄志知事の後継候補を選ぶ作業を開始した。照屋氏は、後継候補の条件を「翁長知事の遺志を受け継ぎ、建白書の実現に全力で取り組むこと」と説明。知事選に向け市町村支部の立ち上げも急ぐことを明らかにし、8/30までの擁立を目指す、同時に知事選に向けた政策検討委員会も立ち上げ、「候補者選考は重要な作業で、早急かつ丁寧に進めたい」、「想定外の事態で候補者選定は暗中模索の状態だ。緊急事態である今こそ、一つにまとまらないといけない」、「超短期決戦という現実がありますので、県民に理解をいただけるような、評価いただけるような人物を選びたいと思っています」と述べている。
ところが、8/18になって、翁長知事が生前、自身の後継候補として、2氏の名前をあげた音声が残されていたことがわかった。これによって「調整会議」が着手した人選作業は白紙に戻り、「知事の遺志は重い」として、候補は知事が音声に残した金秀グループの呉屋守將会長(69)と、自由党の玉城デニー幹事長(58)の2氏から選ばれる公算が大きい、と報道されている。両氏とも報道陣の取材に対して「固辞」を強調している。一体どうなっているのか、混迷につながりかねない複雑な事態の展開である。
いずれにしても翁長氏の急逝によって、局面は大きく変わったのである。事態を生かせれば、「オール沖縄」の結束をさらに強め、広げ、自民公明の争点外しを乗り越えた、巨大なうねりを作り出すことも可能である。逆に内向きになり、候補者の選考が混迷し、政党間のエゴやセクト主義がさらけ出されれば、有権者から見放されてしまうことが目に見えている。「オール沖縄」に結集する政党、団体、個人、支援する多くの人々のそれぞれが問われている。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.489 2018年8月

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【書評】『チェルノブイリという経験──フクシマに何を問うのか』

【書評】 尾松 亮 『チェルノブイリという経験──フクシマに何を問うのか』
(岩波書店、2018年2月発行、1,800円+税)

現在、1986年4月26日のチェルノブイリ原発事故から32年、2011年3月11日の福島第一原発事故から7年。
これら二つの深刻な事故から、われわれは何を学んだのか、あるいは学んでいないのか。本書はチェルノブイリ原発事故から30年以上を経た現地からのレポートである。
「『これが一体何だったのか』『どんな救済が可能なのか』。チェルノブイリ被災地の人々は、言いあぐね、黙殺され、口を封じながらも三〇年のあいだ、語り続けてきた。その言葉は『祈り』であったり、『手記』であったり、『カルテ』であったり、そして『法律』であったりする」。/その『チェルノブイリの言葉』の発信は、やがて三二年を迎えようとする今もなお、続いている」と本書はこのように、チェルノブイリ被災地の人々が未だ厳しい状況に置かれていると述べる。
しかし明らかに福島第一原発事故後とは異なる状況がある、と指摘する。それはいわゆる「チェルノブイリ法」の存在である。
チェルノブイリ法とは、1991年に当時のソ連で成立し、ソ連解体後も、ウクライナ共和国、ベラルーシ共和国、ロシア共和国でほぼ同じ内容の法律が制定され、運用が続けられているチェルノブイリ原発事故被災者保護法のことであり、その特徴は、「『対象の広さ』と『長期的時間軸』『国家責任の明確さ』である」。(『どこが被災地域なのか』を定めた『汚染地域制度法』と、『誰が被災者でどんな補償を受ける権利があるのか』を定めた『被災者ステータス法』を主な内容としている。)
具体的には、①対象の広さ—-「事故処理作業者、汚染地域からの避難者、汚染地域に住み続ける人々、様々な市民が「チェルノブイリ被災者」として保護される。また支援の対象になる地域も、原発周辺地域や立地自治体だけではない。3万七〇〇〇ベクレル/平方メートルの汚染度を超える、幅広い地域を支援の対象に含んでいる」。
②長期的時間軸—-「法律で被災者と認められた市民には、生涯にわたり無料の健康診断が約束される。さらに条件を満たせば、事故の後に生まれた子どもたちも『被災者』と認められる。事故で被曝した親から生まれた子どもに、遺伝的影響が生じる可能性を考慮しているからだ」。
③国家責任の明確さ—-「国家は市民が受けた被害を補償する責任を引き受け、以下に規定する被害を補償しなければならない」(「被災者ステータス法第13条」)である。
この法律については、理想論であり実際には機能していない、あるいは支援策の2割程度しか実現していない等の批判がある。
しかし「九一年に成立したこの法律によって可能になったことは多い。強制避難区域外でも年間一ミリシーベルトを超える追加被曝が推定される地域には、移住権が認められる。移住の際には、住宅の確保や雇用の支援を受けることができる」。ウクライナでは「二〇〇五年までの期間に一万四一七一世帯がこの『移住権』を行使している。これだけの世帯数が『自己責任』ではなく、国の責任によって移住の選択を実現できたことは特筆に価する」。つまり「移住者に『勝手に出て行った』という社会的な批判が向けられることはない。権利が法律に定められたことで、お互いの選択を認め合う社会的な前提ができている」のである。
日本の場合、「福島特措法」、「原子力損害賠償支援機構法」等々原発事故対策に関わる法律は制定された。しかし、「補償の対象となる『原発事故被災地』はどこなのか(認定基準と範囲)、補償されるべき『原発事故被災者』とは誰なのか、明確に定めた法律がまだない。そして、原発事故被害に対して、被災者の生涯、さらに次の世代に続く、国による長期的保護義務を定めた法律がない。広範囲かつ未解明の影響に向き合う、国の法的責任は定められていない」。
そればかりか、福島第一原発事故から5年を待たず、20ミリシーベルトを下回る場合には避難指示区域の解除が進められた。これにより「避難指示が解除された地域からの避難者は、自己責任で避難先での生活を続けるか、避難元に帰るか、二者択一を強いられている。そして、賠償打ち切りまでの期限をきられている」。
日本には「誰が『原発事故被災者』として国に補償を求める権利を持つのか、明確に定めて法律がない」。「見えてくるのは日本の『被災地縮小』政策のテンポの異様な早さ。そして住民や避難者が、権利を求めて抗う際のよりどころとなる法的基盤の、異様な脆弱さである」。
本書はこの視点から、チェルノブイリの事故収束作業員たち、原発事故を次世代に伝える教育の試み、健康被害対策等々をレポートする。
そして本書でもう一つ注目されるのは、われわれが日常、原発事故とその対策について何気なく使っている言葉の問題である。チェルノブイリに近いロシアの被災地を訪問した際の様子は、こう語られる。
「たとえば『風評被害』という『ことば』がない。『風評被害』のような現象がないわけではない。それに近い状況はロシアの被災地でもある。ただそのことをノボズィプコフの人々は『風評被害』とは呼ばない。では、なんと言っているのか。『この地域にはネガティブなイメージがあって、この地域の農作物は、買ってもらいにくくなった』というのだ」。
同じように聞こえるかも知れないが、しかし大きな違いがあると本書は指摘する。
「『風評被害』というときに、『実害はないのに「危険」であるかのように喧伝され、消費者が買い控える』という意味が生じる。/原発事故を起こした電力事業体や政府ではなく、『無理解な消費者』やその無理解を助長するメディアに怒りが向けられる。消費者やメディアが『加害者』であるかのように・・・」。
本書で紹介されているバイリンガルの英語通訳者の言葉を借りれば、「英語には『風評被害』なんて言葉ないですよ。(略)日本には前からあった言葉だけど、福島事故の後、特殊な意味づけで利用されていると思います。この言葉で、言い表した気になって、本当の問題を考えない手段になっている」ということである。
これについて本書は、「風評被害』という単語を使うたびに、外国語にしてみることを思考実験としてお勧めする。インド・ヨーロッパ語族であれば、かならず『誰が、何によって、どんな被害を受けたのか』、定義を明確にすることを余儀なくされるはずだ」とアドバイスする。つまり「それをいちいち、主語S(誰が)、目的語O(誰に)、動詞V(被害を与える)を明確に記述してみると、からくりがよく見えてくる」として、「この言語トリック」からの解放が、社会全体、政策決定の場、教育現場で重要であることを強調する。
最後に本書が危惧する将来的事態を紹介しよう。
「確実に一つだけ、いえることがある。/チェルノブイリにおける先例が、原発事故後の日本の政策に影響を与えたように、いま日本で起きていることはチェルノブイリ被災国に影響を与えている。少なくとも、チェルノブイリ被災国と、日本の原発事故被害対応政策には相互参照性がある。/福島第一原発事故後、日本で行なわれたことは、チェルノブイリ政策の参考にされてきた。そして今後もそれは続く。日本で二〇ミリシーベルトが許容されれば、次の原子力災害においてはそれが先例となる。日本で住民の反対を無視した避難指示解除が順調に進めば、チェルノブイリ被災国政府は『事故六年後で解除してよいのなら、三一年後のわが国ではなおさら』と出る」。
この事態をどう阻止していくのか。本書は、そのキーワードを「抵抗」に見る。
少なくともチェルノブイリ原発事故では、被害者たちには「抵抗(ソプラチプレニエ)の文化」が存在していた。「チェルノブイリ被害者たちは、学者であろうが、ジャーナリストであろうが『私の仕事は提言をまとめるまで』『私の仕事は事実をつたえるだけ』などと言わない。職業生命を懸けて政治運動に参加した。被害者の代表を議会に送り込み、被害者補償法を勝ち取った。法律が改悪されるたびに、陳情やデモが繰り返され、法廷闘争は違憲立法審査や、欧州人権裁判所にまでも展開する」。
対して日本にも、抵抗運動がないわけではない。しかし「政治的でない」ことを良しとし、国民的な「抵抗」運動を構築できないままの「抵抗しない私たち」が存在する。この「『無抵抗』の代償を払うのは、私たちだけではない」と本書は警鐘を鳴らす。(R)

【出典】 アサート No.489 2018年8月

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【投稿】戦後最悪の人災となった安倍政権

【投稿】戦後最悪の人災となった安倍政権
―災害対応放棄し三選工作に奔走―

豪雨をよそに大宴会
7月5日夜、東京赤坂の衆議院議員宿舎では、安倍を筆頭に岸田、竹下、小野寺などが集まり「赤坂自民亭」と銘打った酒宴が開かれていた。
既に近畿地方を豪雨が襲い、15万人に避難指示が出され、地元自治体はもちろん国交省、警察庁、防衛省などが警戒態勢に入るなか、政府、自民党首脳が一堂に会するのは本来、災害対策会議であるべきだが、集まったのは酒の席という前代未聞の愚行を演じていたわけである。
この席で安倍は山口の銘酒「獺祭」岸田は広島の地酒「加茂鶴」を持ち込み、上機嫌で参加議員にふるまったという(しかし7日の豪雨で「獺祭」の蔵元は壊滅的被害を蒙ってしまった)。
また宴会には、オウム7人の死刑執行を翌日に控える上川も「女将」として参加するなど、件の大宴会は緊張感のかけらもないものだった。死刑囚がそのことを知ったなら、死んでも死にきれないと思ったのではないか。
さらに件の集合写真をツイッターに投稿した兵庫選出の西村官房副長官は、秘書の情報として「地元の雨は峠を越えた」などと放言したが、翌日神戸市で大規模な土砂災害が発生し、恥の上塗りともいうべき醜態をさらした。
参加者が帰路につき惰眠を貪るなか、眠れぬ夜を過ごす被災地では、広島、岡山など5府県が自衛隊に災害派遣要請を行い、6日午後に至って首相官邸に官邸連絡室が設置されたが、被害は拡大するばかりであった。
7日午前、ようやく関係閣僚会議が開かれたが、二日酔い然たる面持ちで出席した安倍から具体的指示は出されず、連絡室を対策室、8日午前に災害対策本部へと泥縄式に漸次拡大するのみであった。
対策本部の初会合後、安倍はいけしゃあしゃあと「時間との闘い」などと口にしていたが、失われた66時間は取り返しのつかないものであった。さらに安倍は7,8日に予定していた総裁選対策の鹿児島、宮崎訪問は中止したものの、EUとの経済連携協定署名を理由とした10日からの欧州、中東への外遊に固執し、日程短縮をしてでも出発しようとしていたのである。

露わになる本性
豪雨被害が拡大し、安倍らの動向への批判が拡大しだすと官邸は方針転換し、9日に外遊中止を発表、同日「宿敵」中村愛媛県知事の支援要望を神妙な面持ちで聞かざるを得なかった。
外遊取りやめで日程が空いた安倍は11日に岡山を視察、迅速な激甚災害指定、地方交付税の前倒しなどを明らかにし、対応の遅れを「取り戻す」のに躍起となっていた。
さらに西村、竹下ら「赤坂自民亭」参加者も弁明に追われ、小野寺も11日「会場から防衛省に指示を出していた」と「飲酒運転」ともとれる釈明をしたが、防衛省職員から否定され13日になって誤りを認めた。
同日、公明党の井上幹事長は記者会見で「赤坂自民亭」を「軽率のそしりは免れない」と批判したが、同党の石井国交相は災害対応そっちのけで、カジノ法案成立にしゃかりきになっており、白々しいというものである。
14日になり安倍は翌日予定していた広島視察を「足が痛い」として取りやめた。同日広島を訪れた石井が被災者から批判を浴びたのを見て怖気づいたのではないか。結局、安倍は21日になって広島県内を視察し面目をとり繕った。
こうしたなか「赤坂自民亭」に呼ばれなかった議員も非常識な言動で醜態を晒した。麻生、二階は「飲み会のなにが悪い」と擁護し、麻生に至っては返す刀で自派の研修会を中止した石破らを批判した。安倍に恩を売ろうという魂胆が見え透いているが、内心は嘲笑っているだろう。
安倍の代理としてフランスを訪問した河野は、フランス外務省内に再現されている王族のベッドに、得意げに寝そべる姿をツィッターにアップ、7月14日革命記念日の軍事パレードでも、河野は各国来賓が威儀を正して観閲するなか、写真を撮るためスマホを操作するという軽薄さを披露した。
こうして西日本各地を襲った未曾有の水害は、図らずしも政府・与党重鎮の人間性を露呈させることとなったのである。

「アメリカ包囲網」の脆弱
安倍が自らの保身を最優先させ、お粗末な災害対応を繰り返す中、国際情勢は大きな動きが相次いだ。
トランプ政権は7月6日中国製品340億ドルに対しての追加関税を発動した。アメリカは3月下旬以降、安全保障を口実として中国のみならず、日本、EUなどに対して、鉄鋼、アルミ製品への追加関税を発動してきたが、今回ついに本丸への攻撃を開始したのである。
これに対して中国も同規模の報復関税を発動、事態は世界貿易戦争の様相を呈し、アメリカは第2次世界大戦以降、自らが築いてきた自由貿易体制を崩壊させようとしている。
さらにアメリカ主導の安全保障体制も大きな転換点を迎えている。7月12日ブリュッセルで開かれたNATO首脳会議で、トランプは公然と同盟国を批判、軍事費のGDP比2%達成を強く要求した。直後の7月16日、ヘルシンキで開かれた米露首脳会談でトランプは、緊張緩和に向けた協議の継続で一致、対露軍拡を決定した先日のNATO会議など忘れたかのようであった。さらにロシアの大統領選挙への介入疑惑を否定(帰国後に撤回)するなど、なりふり構わず我が道を進んでいる。
このようにトランプ政権は、将来のビジョンを描かないまま、第2次大戦後の既存システム解体に進んでいる。これに対しては公正貿易、平和、人権の価値観による国際協力体制の構築が不可欠であるが、平和、人権に背を向ける安倍政権は振り回されるのみであり、自由貿易を推進しアメリカを牽制する多国間協力も思うように進んでいない。
7月1日東京で、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)閣僚会合が開かれ、年内の大筋合意を目指すことで一致したと報じられた。アメリカの保護主義に対抗するものとされているが、成果を急ぐ日本と中国、インドとの間では隔たりも大きく、有効性には疑問符がつく。
日欧EPAは安倍の訪欧中止により、EU大統領らが来日し7月17日東京で署名された。(これはもともと外遊が必要でなかったことを物語るものである)これが19年3月に発効すれば、2027年に日本の自動車に対する関税が撤廃される。しかし2020年代には欧州でのガソリン、ディーゼル車の販売は大幅に規制される動きがあり、電気自動車の開発が遅れる日本に対しては非関税障壁となる可能性がある。
今回EUの代表は訪日前に中国を訪れており、反保護主義、WTO改革、投資拡大で合意した。中国は世界の電気自動車販売台数の5割を占め、燃料電池車の開発も進んでいる。現在は国内販売が主流であるが、EUの方向性と合致しており近い将来には、中国製NEV(新エネルギー車)が日本車を押しのけ、ヨーロッパを席巻することになるだろう。

主導権は中国へ
中国はこの間、「一帯一路」構想、上海協力機構、アジアインフラ投資銀行など、中国主導の多国間経済協力を推進している。さらに軍事面でも6月28日中国国防部は、年内にASEAN10か国との合同海上演習を実施することを明らかにした。
現在、ハワイ島と周辺海域ではアメリカが主催するRIMPAC2018(環太平洋合同演習)が行われ日本、韓国、フィリピンなどが参加している。2年ごとに開かれる同演習では、今回中国が招待を取り消されておりネトウヨなどは鬼の首を獲ったかのように喜んでいる。
しかし、中国は自前で中国版RIMPACともいえる演習を準備しようとしており、今秋には青島近海の東シナ海でロシアとの合同演習(海洋協同2018)も予定されている。
これに対して安倍政権は、引き続きイギリス、フランスを「中国包囲網」に巻き込もうと躍起になっている。7月13日には河野が日仏物品役務相互提供協定(ACSA)に署名、翌日の革命記念日のパレードには陸上自衛隊員7人が参加した。
この間英仏両国の艦艇がアジアを歴訪しており、これを中国に対する牽制と安倍政権は評価している。とりわけフランスについては、海外領土の安全保障の観点からまことしやかな中国警戒論が吹聴されている。
しかし、ポリネシアなど仏領の島々は赤道以南の南太平洋に点在しており、中国の「一路」レーンからは遠く離れている。さらにニューカレドニアでは20世紀末の独立闘争からの自治権拡大を経て、11月4日には独立を問う住民投票が行われる。
フランス、イギリスの艦艇派遣はASEAN諸国に対する武器セールスの側面が強く、これとRIMPACへの比、越の本格的参加をもって対中シフトの強化と評価するのは早計であろう。
安倍は保護主義反対、自由貿易推進を言うのであれば中国と協力しなければならないはずであり、表面上は融和を進めている。7月5日の毎日新聞によれば安倍は3選を前提に、10月の訪中を検討しているという。日中首脳会談だけの訪中となれば7年ぶりとなるが、「中国包囲網~帯路分離」に固執している限り、事はそう簡単には運ばないだろう。
RIMPACでは実艦標的の撃沈訓練が実施されるが、今回初めて日米の地対艦ミサイルによる実射が行われた。この陸自ミサイルは宮古、石垣、沖縄本島に配備される方向であり、標的を中国艦に見立てていることは公然の秘密で、あからさまな威嚇である。
朝鮮半島では米朝首脳会談以降、非核化に向けた作業部会の設置、米兵遺骨の返還、8月の米韓演習の中止など、紆余曲折を経ながら緊張緩和が進んでいる。これを踏まえ日本政府も、常時警戒態勢の解除、避難訓練の中止などを実施している。
それにも関わらず、イージス・アショアの配備は進めようとしており、真の狙いが徐々に露わになってきている。安倍らは少し前まで「北朝鮮の微笑みに騙されるな」と罵ってきたが、習近平こそ「安倍の微笑みには騙されない」と考えているだろう。
安倍は外向けの笑みとは違う満面の笑みを「赤坂自民亭」で振り撒きながら、災害対策を追いやり「参院定数6増」「カジノ法案」を矢継ぎ早に強行採決した。このように戦後最悪の災厄となった安倍政権を一刻も早く終わらせ、生活と平和、人権の復興を進めなければならない。(大阪O)

【出典】 アサート No.488 2018年7月

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【投稿】国土を放射能の海にしても原発を再稼働させようとする国家

【投稿】国土を放射能の海にしても原発を再稼働させようとする国家
福井 杉本達也

1 国土の3分の1を放射能で汚染し、0.5%を居住困難な土地にしても何の反省もしない国家
7月3日、福島第一原発事故で全町避難を強いられ、地域を引き裂かれた浪江町長だった馬場有氏の葬儀が営まれた。内堀福島県知事は弔辞で、「町を地凶から消さないとの信念で続けたあなたの挑戦は避難指示解除など復興への光となっている」と悼んだが、町に住む人は5月末でたったの747人。なお2万人が45都道府県に避難し、住民調査では浪江には帰らないという人が半数に上る(日経:2018.7.16)。新しい小中学校を開校したが、誰が通学するのか。浪江町は原発立地町ではなかったが原発災害を受け、町としての機能を喪失してしまった。それを国も県も無理やり1つの地方自治体として存続させておこうとしているのである。地方自治体の名前が消滅することは県の消滅につながり、国家の消滅につながることを恐れているのである。日本の国家を握るエスタブリッシュメント(Establishment)層は国土の3分の1を放射能で汚染し、国土の総面積の0.5%を居住不能の土地にしても何の反省もなく、何の痛みも感じてはいない。ましてや15万人の避難者がどこへ行こうが、どこで死のうが全く関心はない。2011年3月11日は菅直人元首相に言わせれば、首都圏3900万人の避難も考慮しなければならない「国家存亡」の時であったが、今やそのような切迫した危機感はどこにもない。というか、当時、エスタブリッシュメントの多くはそうした知識も危機感も持ち合わせていなかったし、今もないというべきである。
たぶん、日本の支配層は73年前にもそのような危機感など持ったことはなかったのであろう。自らの権益である「国体」を守ることだけに汲々とし、東京大空襲や広島・長崎への原爆投下を受けても、満州にソ連軍が侵攻してきても支配者階級だけが先に逃げればそれでよかったのである。今も昔も常に「国民」などは眼中になく、見捨てられてきたのである。

2 トリチウム汚染水を太平洋に大量廃棄
7月14日の福島民友は「トリチウム水処分へ」という見出しで、政府が福島第一原発敷地内を埋め尽くすタンク内の汚染水を処理した後に残る放射性物質:トリチウムを大量に含んだ水を海洋投棄し、タンクを撤去する方針を打ち出したと伝えた(日経にも同様の記事)。タンクは現在680基、貯蔵量は89万5千tを上回るとし、今後137万tまで増やす計画であるとしているが、事故7年半後の現在、敷地内はタンクで満杯であり、今後は敷地外に建設せざるを得ない事態に追い込まれている。敷地外とは帰還困難区域などの居住困難な土地である。現在、旧避難区域では大量の放射能除染廃棄物の黒い袋が積み上がっている。これは、強制的に避難住民を「帰還」させようとするための「除染」であったが、大量のトリチウムタンクが林立するとなれば、「帰還」政策の失敗は明らかになってしまう。その前に、何としても汚染水を太平洋に流したいという全く持って恐ろしい計画である。
トリチウムは水素の放射性同位体で、普通の水素は1個の電子と1個の陽子でできているが、トリチウムは1個の電子と1個の陽子の他に2個の中性子を持っている。不安定で電子を放出して、ヘリウムに変化していくが、半減期は12年である。β線も弱く体内に留まる期間が短いので危険性は少ないと東電は説明するが、内部被曝が危険である。水素は他の元素と共に人体を構成しているのでトリチウムはDNAに取り込まれると、他の放射性物質より危険である。取り込まれたトリチウムが放射線を出すときにDNAそのものを壊すとされている。通常、「水」として存在しているので、通常の水素とトリチウムを分離することは不可能である(原理的にはできるが膨大な費用がかかる)。海洋放出されれば、三陸沖の千島海流と黒潮がぶつかる日本最大の漁場は完全に放射能に汚染されてしまうであろう。サンマを食べることは永久にできなくなる。もちろん、ここを漁場とするロシア、中国、韓国、台湾や対岸の米国も反対するであろう。膨大な放射能の海洋投棄は重大な国際法の侵犯である。
もちろん、トリチウムの海洋投棄は前哨戦に過ぎない。最終目的は、現在、福島第一原発の地下にあるセシウム137やストロンチウム90などを含む膨大な汚染水である。将来、この汚染水で居住困難区域を含む福島県全体に多数の汚染水タンクが林立することが予想されるが、これを全て太平洋に投棄したいと考えている。そうなれば、汚染規模はチェルノブイリ原発事故の10~20倍の規模となるであろう。そんなことを国際社会は認めるはずはない。

3 強引に進める原発再稼働
7月4日、 関西電力大飯原発3、4号機の運転差し止めを福井県などの住民が求めた訴訟の控訴審判決で名古屋高裁金沢支部の内藤正之裁判長は運転を禁じた一審福井地裁判決を取り消し、住民側の逆転敗訴を言い渡した。控訴審で最大の争点となったのは耐震設計の目安となる揺れ「基準地震動」が妥当かどうかで、元規制委員長代理の島崎邦彦氏が「過小評価になっている」と証言したが、内藤裁判長は、関電は、震源断層の長さ、幅なども保守的に評価しているとして島崎氏の証言を切り捨て、福島原発事故の「深刻な被害の現状」から原発廃止・禁止は可能としながら「もはや司法の役割を超える」と、恥知らずの判決文を読み上げた
大阪北部地震は中央構造線絡みで、その構造線の近辺の「見えない」活断層が起こしたのではないかと島村英紀氏は指摘するが、その断層の一部は琵琶湖の西側の比良山系を抜け若狭湾に至る。大飯原発の下あるいは若狭湾に「見えない」活断層が存在しないとはいえない。「危険性は社会通念上無視しうる程度」と切って捨てた判決は、国土の一部が事実上消滅したにもかかわらず、あたかも何もなかったことにしようとする政府の方針を司法も無責任にも踏襲したのである。

4 支離滅裂な「第5次エネルギー基本計画」
政府は7月3日に「第5次エネルギー基本計画」を閣議決定した。計画では2030年の電源構成にしめる原発比率20~22%を維持するという。これを達成するためには30基の原発稼働が必要だという。つまり、廃炉を予定する原発を除くほとんどの原発が稼働しない限り、目標は達成できない。そのため、なりふり構わず再稼働を進めるというのが現在の政府の方針である。計画は、原発のコストを低廉だとし、いまだに10.82~16.38円/kWhという試算をしているが、とんでもないことである。電力自由化で大手電力は廃炉や福島原発事故の費用を回収できなくなる恐れがあるとして、負担の一部を新電力に負担させることを決めたが、原発の電力が安いなら負担させる理由はない。真っ赤な大嘘である。廃炉費用や放射性廃棄物の処理費用を加えるだけでとんでもない高額の数字となる。計画は、再処理や福島第一の事故処理費用を加えれば無限大となる。
さらに、米国からは朝鮮半島の非核化に関連して、日本が保有するプルトニウムの削減が求められている。日本は46.9トンものプルトニウムを抱えている。IAEAによれば8 kgで核弾頭1つ分という換算方法では、およそ6,000発分に相当する量である。このため、計画ではプルサーマル等を推進するとともに、プルトニウム保有量の削減に取り組むという空念仏を唱えているが、とてもプルサーマルなどで処理できる量ではない。まず、使用済み核燃料の再処理を中止し、核燃料サイクルを止めなければならない。
この計画が閣議決定される前に形式的にパブリック・コメントが募集された(2018.6.17〆切)。コメントには再生エネルギーに対する過大な期待や気候変動抑制の「パリ協定」への無批判さも目立つ(参照:「パブリック・コメント集」原子力市民委員会事務局とりまとめ 2018.6.18)。地球温暖化防止を旗印にして原発が増設されてきたことを忘れてはならない。しかも、その旗振り役が原発大国:フランスである。また、先進国が中国やインドのような発展途上国の経済成長を抑え、自らの既得権益を守ろうとしていることも押さえておかなければならない。変動の多い再生エネルギーを安定的に使おうとすれば蓄電池や水素変換という議論も出てくる。しかし、蓄電池を設置すれば電力単価はさらに膨らむ。水を電気分解し水素をつくればそれだけエネルギーを消費することとなるし、水素は福島第一原発の爆発でも明らかなように、きわめて危険な扱いにくい物質でもある。これではさらに化石燃料を使うことになる。温暖化による「無垢の犠牲者」として、太平洋上のツバルなど島嶼国が海面上昇で最初に被害が予想されるなどとのキャンペーンも行われているが、これは根拠のない議論だとして退けられている(茅根創「ツバル水没の真実」『科学』2016.12)。既に、福島原発事故では国土の0.5%がほぼ永久的に使用不能な土地となってしまった冷厳な事実から目をそらしてはならない。今後、旧式原発の再稼働が進めば福島原発事故のような事故の確率は高まらざるを得ない。事故が起きればこんどこそ日本の国土は消滅する。時間はない。エネルギー政策を無知蒙昧のエスタブリッシュメント層に任せておいてはならない。また、マスメディアにも一切期待してはならない。マスメディアは「問題を単なる情緒の次元に引き下ろして…今回の人災(福島原発事故)を引き起こした企業、官僚、政治家、地方公共団体、技術者などから公衆の関心を逸らすことに成功してきた…感傷的な被害者への共感は、寡占企業と政府の癒着体制を温存させようとするほとんど傲慢ともいえる愚民政策に裏打ちされている…過去の失敗を振り返り、必要な原因究明と責任者の処罰を行う代わりに…慰安観を維持することが全てに優先している」(酒井直樹『ひきこもりの国民主義』2017.12.8)。同様のことは今回の西日本豪雨災害でも行われている。反原発側はまともな議論に戻るべきである。

【出典】 アサート No.488 2018年7月

カテゴリー: 原発・原子力, 杉本執筆 | コメントする

【投稿】安倍1強政治のおごりと民主主義の危機 統一戦線論(50)

【投稿】安倍1強政治のおごりと民主主義の危機 統一戦線論(50)

<<「憲政史上最悪の国会」>>
7/22に閉会した通常国会、その約半年間にわたった国会論議が事実上幕を閉じる最終日の7/20の衆院本会議で、立憲民主党の枝野氏は「この国会は民主主義と立憲主義の見地から憲政史上最悪の国会になってしまった」と、野党6党・会派で出した安倍内閣不信任決議案の趣旨説明を、不信任の理由は「数え切れないほどある」として2時間43分にわたって行った。そして同じ日、参議院参議院本会議場では、自由党の山本太郎、森祐子、両参議院議員、参院会派「沖縄の風」の糸数慶子氏ら3議員がカジノ実施法の採決の際、揃って「カジノより被災者を助けて」「カジノより学校にエアコンを!」などと書かれた垂れ幕を壇上で掲げて抗議。議事を妨害したわけでもない、有権者に分かりやすいアピールをした、議長自身も下を向いてやり過ごしていた、その行為を、伊達忠一参議院議長は、懲罰に値するとして参院懲罰委員会に付託することを決めたという。「合区」対象選挙区で公認漏れした自民党現職議員の露骨な救済策、党利党略丸出しの参院定数を6増する公職選挙法改正案の強行採決に続く暴挙であった。ろくに審議もしないで採決だけを強行する議長、安倍政権こそが懲罰の対象として糾弾されるべきところである。
数をたのんだ安倍政権の横暴の数々。年初来、学校法人「森友学園」「加計学園」を巡る問題で、公文書のねつ造、改ざん、廃棄、「ない」とされた文書の「発見」、答弁のうそが明らかになっても開き直り、うそにうそを積み重ね、誰も責任を取らない。疑惑がいよいよ動かし難くなってもシラを切る。過労死を招きかねず、大量のデータねつ造で立法根拠まで破たんした「働き方」改悪法も強行採決で突破。「成長戦略のため」などというごまかしが全く成り立たない、そもそも刑法が禁じる賭博を合法化し、ギャンブル依存症患者を増やすカジノ法まで強行採決。道路や鉄道、堤防が決壊した河川を所管する公明党の石井啓一国土交通相がカジノ法案にしがみつく姿は醜悪でさえある。かくして、モリカケ、ねつ造、改ざん、隠ぺいから始まってカジノに賭け、災害対策より賭博を重視する悪法オンパレードのとばく場と化した国会であったとも言えよう。
7/22付朝日新聞・社説は「安倍1強政治の果て 民主主義の根腐れを憂う」と題している。憲法が「国権の最高機関」と定めた言論の府の惨状は、「民主主義の根腐れ」の場と化し、国会のとばく場化が「憲政史上最悪の国会」をもたらしたのである。
もちろん、その間に緊張激化と軍拡のために北朝鮮の「脅威」をあおり、史上最大の5兆円超の軍事予算を計上する一方で、社会保障費を容赦なく削減している。

<<「赤坂自民亭」>>
すべて数で押し切り、安倍政権の横暴がまかり通り、国会が閉幕して、安倍首相はしてやったり、逃げ切れたとほくそ笑んでいることであろう。次は、三選だ、そして何としても改憲発議を可能にさせる、と。7/20の記者会見では、改めて改憲への意欲を強調し、自民党総裁選での争点化にも言及している。しかし、事態はそう甘くはない。
すでにこれまでも、これでいよいよ安倍政権も崩壊か、辞任に追い込まれるかという事態は何度かあった。内閣支持率が30%を切るまでの事態を招いていた。それども何とか持ちこたえ、支持率は下げ止まり、今はやや上昇の傾向さえ見せ、内閣支持率は平均40%以上を維持している。
しかし、今国会が召集された1/22、安倍首相は自民党の両院議員総会で、「結党以来、憲法改正を党是として掲げ、長い間議論を重ねてきた。いよいよ実現する時を迎えている」とその固い決意を披歴し、本来なら、今国会が憲法改正の発議へ踏み出す場になるはずだったのである。改憲派の議席が両院ともに3分の2を超えている千載一遇のチャンスにもかかわらず、その意気込みはとん挫し、会期中の発議を狙った改憲案づくりは宙に浮き、今国会中の憲法審査会の開催は、衆議院ではわずか2回、合計6分弱でしかなかった。今国家最終盤、1か月余の会期を延長してなお、憲法改正原案の発議はできなかったのである。改憲反対の世論の広がりと国会を取り巻く波状的な運動の高まりを前にして、その目論見は阻止されてしまったのである。
安倍政権にとってのもう一つの読み違え、誤算は、朝鮮半島における歴史的な南北首脳会談、そして米朝首脳会談の実現であろう。そのキャンセル、緊張激化をもっとも強く望んでいた安倍政権にとって、意外な展開が次々と生じ、米韓合同軍事演習の中止から、さらには次の緊張緩和の事態が提起されかねないことは、安倍政権の改憲戦略、軍事化路線にとっても重大な阻害要因になりかねない。すでに地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備は、配備が予定された山口県と秋田県で、地方自治体の協調を求めたが、「配備は納得し難い」という冷静な反応に直面し、秋田では「県民感情逆なで」問題として釈明に追われている。安倍政権にとっては予期もしないところから、その路線のほころびと破綻が襲いかかってくるわけである。
気象庁が厳重警戒を呼び掛け、11万人の避難指示が出ていた7/5夜、自民党議員が「赤坂自民亭」と称する宴会を開き、安倍晋三首相や小野寺五典防衛相らが参加してどんちゃん騒ぎを繰り広げ、7/8まで非常災害対策本部の設置もせず放置していた。この「赤坂自民亭」、麻原彰晃・オウム真理教元代表ら一挙7人の死刑執行の前日であり、死刑執行書に署名した上川陽子法相が「女将(おかみ)」、「若女将」を小渕優子元経済産業相らが務めている。日刊ゲンダイは「安倍 批判殺到 死刑に乾杯」と報じている(7/9付)。安倍政権のおごりと傲慢さ、そのあわてぶりが如実に見て取れる。
おごるもの久しからず、で次に何が起こるかは、権力者ほどわからないものである。

<<「いま日本共産党綱領がおもしろい」?>>
問題は、それに対抗する野党の姿勢である。足並みがバラバラで主導権争いやそれぞれの独自党勢拡大に精力を傾けている限り、有権者の飛躍的な支持の拡大など、ありえないことは自明である。世論調査での政党支持率をみても、野党第1党の立憲民主ですらこのところ一ケタ台後半にとどまり、国民民主に至っては0~1%以下という数字である(NHK 7/10:自民党 38.1、公明 2.7、維新 0.8に対し、立憲民主 7.5、国民民主 0.7、共産 3.1、自由党 0.3、社民党 0.4)。自民は、野党合計(12)の3倍以上である。
この事態を打開するカギは、大胆な統一戦線戦略への結集であろう。
自由党の小沢一郎氏は「2009年の民主党(が政権交代を実現した)選挙の時には70%の投票率ですよ。その後はずっと50%。20%の人が棄権している。2千万票だ。このうちの6~7割は野党へ投票する人たちだと見て間違いない。ですから、その票が加われば圧倒的な野党の勝利であり、政権交代になる。安倍内閣と基本の問題で対決していく野党が形成されないと、いつまでもこの安倍政権1強多弱の状況は続く。そういう思いで、何とか野党の結集を図っていきたい。」と述べている。(朝日、7/16付)
一方、共産党の志位委員長の講演(7/11・党創立96周年記念講演)は「いま日本共産党綱領がおもしろい」と題するものである。「私たちの綱領は、共産党だけで社会を変えるといった独善的な考えとは無縁です。社会発展のあらゆる段階で、思想・信条の違いを超えた統一戦線――共同の力で社会を変革することを大戦略にしています。」と、述べる。「共闘にこそ政治を変える唯一の活路がある」。ここまではその通りである。しかし問題は、「それでは、統一戦線を発展させる根本的な条件はどこにあるでしょうか。強く大きな日本共産党をつくることこそ、統一戦線を発展させ、綱領を実現する最大の力であります。」と、論理のすり替えが行われている。統一戦線発展の決定的条件が「強く大きな日本共産党をつくることこそ」に変わり、次の参院選では、「過去2回のような一方的な対応は行わない」「本気の共闘」「あくまで相互推薦・相互支援の共闘をめざす」ことを、党の方針として決めています、と述べる。またもやセクト主義的な独自の党勢拡大運動こそが決定的となる。これではこれまで通り、党勢拡大自体が先細りとなろう。そもそも、共産党に結集したり、支持するのは、すでに過去形となった「党綱領がおもしろい」からではなく、現実の党の政策が時代の要請、人々の要求に明確に応え、政治を変えていく力に展望を見出せる、「民主主義の根腐れ」を許さない、統一戦線を発展させることができる、そのような「おもしろさ」があるかどうか、大胆で現実の政治課題に臨機応変、敏感に対応しているかどうかにかかっている。党内民主主義の不在とともに、共産党にもさらなる猛省が望まれる。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.488 2018年7月

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【書評】『原発棄民—-フクシマ5年後の真実』

【書評】『原発棄民—-フクシマ5年後の真実』
(日野行介、毎日新聞出版、2016年2月、1,400円+税)

様々な大災害が起これば、避難者に対して、取りあえずの住処として仮設住宅等が提供される。そして災害からの復興の度合いに応じて徐々に解消されていく、というのが通常の災害後の過程である。しかし災害処理・復興が長期にわたる場合、避難者は、住宅に関してどのような扱いを受けるのか、とりわけ過去に例を見ない原発事故の場合はどうであったか、というのが本書が検討する問題である。
まず本書は、福島第1原発事故の場合、そもそも避難者の把握が最初から十分でなかったことを指摘する。
「国が『避難』と認める上で根拠が必要なのは当然だろう。しかし現状は国が事故直後に定めた年間20ミリシーベルトが唯一の根拠となっている」。しかしこれはあくまで「緊急時」の線量であったはずで、「福島市南東部のように20ミリを超えても避難指示が出なかったところもあり」、また汚染を恐れて避難指示区域外からも多くの人びとが自主的に避難をしたという事実がある。筋からいえば、まず「避難者」の定義をし、その正確な人数や分布などの基礎データが必要となる。
ところがこの問いかけに、復興庁の元幹部は答える。
「自主避難者は難しい。怖いという気持ちで避難した人はみんな避難者なのか」。「予算もあるし、どこまで支援できるかだ。東電に求償(請求)もできるが、それがどこまで合理的か問われる」。「調査をかけるとなると、今度は調査の範囲が問われる。福島県内なのか、線量で区切るのか。(略)結局のところ自主避難者の定義は難しい」。
さらに「広域、かつ多数の原発避難も手伝い、東日本大震災と福島第1原発事故では過去の災害では見られなかった特異な現象が発生した」。それが「みなし仮設住宅」の大規模な導入である。
つまり災害規模が巨大であったためにプレハブ型の応急仮設住宅の建設が遅れ、しかも避難者が全国各地に広がったため、「公営住宅や民間賃貸住宅の空き部屋を自治体が借り上げて提供する『みなし仮設住宅』(一般には借り上げ住宅と呼ばれることが多い)が大規模に導入された」のである。
(本書であげられているデータではこうである。「2015年3月1日時点での応急仮設住宅戸数(入居数)は8万5235戸。そのうち、みなし仮設は4万7158戸で、なんと約55%を占める。しかも愛媛県を除く全46都道府県にある」。)
しかもこの「みなし仮設」については、普通の住宅であるにも拘わらず、安全性に劣るプレハブなどの仮設建築物と同等の扱いを受け、1年ごとの提供期限の延長を繰り返す仕組みになっている。原発避難者、特に自主避難者の多くが「いつ追い出されるか分らない」という状況に置かれているのである。
自主避難者の実態もきちんと把握しないまま、みなし仮設の問題は状況に押し流されていく。そして「福島県は、2012年11月5日、県外でのみなし仮設住宅の新規提供を12月で止める一方、県内での自主避難者にみなし仮設の提供を開始すると発表した。子どもか妊婦がいる世帯を対象に、福島県内で自主避難して自腹で賃貸住宅を借りている場合や、県外から県内に帰還する場合に、福島県が家賃を負担(その後は国が負担)するというものだ」。
つまり県外での自主避難者の県内への住み替えは認めるが、それ以外は切り捨てるということである。
さらに2015年5月29日、帰還困難区域を除き2017年3月までに避難解除を打ち出す第5次自公提言を受け、6月12日、政府が復興加速化指針の改定を閣議決定。そして2015年6月15日、福島県の内堀知事が2017年3月末で仮設打ち切りを発表した。ここで避難指示区域以外からの避難者への応急仮設住宅供与が打ち切られたのである。これについて福島県と被災自治体幹部の匿名のコメントが新聞に載った。「無償提供を続ける限り帰還が進まない」、「避難生活が長期化することで復興の後れにつながりかねない」と。ここに行政の本音が透けて見える。
こうして自主避難者への住宅支援はもちろんのこと、避難者それ自体が薄められ消されつつあるといえよう。無論現実には避難者の問題は山積したままである。自公提言の締めくくりの次の文では、避難者はまさに消されている。
「われわれは、新しいまちの新しい家で家族そろってオリンピック・パラリンピック東京大会を応援できるよう(中略)被災された方々とともに、今次の災害に対する支援をいただいた世界中の皆さんと増税を引き受けていただいている日本国民の皆さんへのお礼と恩返しを1日も早く『復興』というかたちでお示ししたい」。
なお、みなし仮設住宅の家賃負担については、避難先都道府県が福島県に家賃費用を請求し、福島県が自己負担の分を含めて国に請求する。そして国から福島県に家賃費用の交付が下りて、各都道府県に交付する仕組みになっている。しかしこれは行政による福祉的な負担であって、そもそもの事故の原因者(加害者)=東京電力が存在する以上、その費用は最終的には原因者(加害者)に請求しなければならない。ところがみなし仮設住宅の家賃の請求が一切なされていない。ここにも事故の責任の明確化を避ける国の姿勢がよく現れている。
本書は、みなし仮設住宅という救済対策の問題から原発事故への政府・行政の体質を浮かび上がらせようとする労作である。(R)

【出典】 アサート No.488 2018年7月

カテゴリー: 原発・原子力, 書評, 書評R | コメントする

【投稿】国際的孤立深まる安倍政権

【投稿】国際的孤立深まる安倍政権
―3選阻止に向け共闘体制の再構築を―

米朝会談の地平
6月12日、紆余曲折の末シンガポールで史上初の米朝首脳会談が開かれた。会談後両首脳は共同声明に署名、トランプは単独で記者会見に臨み、その後両首脳は帰国の途に就き「一番長い日」は終わった。
共同声明では、金正恩が朝鮮半島の完全非核化を約束、トランプは北朝鮮の安全保障を約束し、さらに朝鮮半島の平和体制の構築、米朝交渉の継続そして朝鮮戦争時の行方不明者、捕虜の遺骨返還などが合意された。
これに対し関係国内からは、非核化の具体策や工程表が明らかではない、とりわけ「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)が欠落している、などとの批判が提起され、声明には注目された朝鮮戦争の終戦宣言も盛り込まれなかった。
確かに共同声明の内容は極めて簡素であり、4月27日の南北首脳会談で確認された板門店宣言を大きく超えるものではなかったが、今回の米朝会談―共同声明の意義は、両首脳が直接会談し、朝鮮半島和平のゴールが確認されたことであろう。すなわち近い将来、非核化された朝鮮半島に於いて、大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国が平和共存するというかたちが示されたのである。
共同声明で触れられなかった点についても、爾後にフォローが行われている。朝鮮戦争について記者会見でトランプは「戦争はまもなく終わる」と述べており、先に板門店で確認されたように、年内に終戦確認が行われると考えられる。
非核化のスケジュールについても、13日に訪韓したポンペイオが、トランプの第1期目である「あと2年半の間に主要な非核化が達成できる」との見通しを示した。
従前言われていた即時の非核化は非現実的なため除外され、段階的な核廃棄を進め、CVID状態を達成するという方向性が明らかとなった。
残された問題の一つに北朝鮮が主張する、核廃棄と制裁緩和の「段階別、同時行動」履行がある。14日の日米韓外相会談では「完全な非核化なしに制裁は解除されない」ことが確認されたが、次の米中外相会談では「適切な時期に制裁を解除する」との認識で一致した。
これは、中国が先行する形で経済支援を進めると言うことであり、これにロシアも加わり、国連決議の見直しが今後加速され、早ければ9月の国連総会で論議されるだろう。

日本以外が関与
今後はこれらを具体化していく慎重かつ着実なプロセスが米朝に求められるが、その際周辺国の関与も重要になってくる。中国は米朝会談を前に2度の中朝首脳会談を行い、シンガポール行きの専用機も提供した。すでに経済協力の動きも準備されつつあり、中朝国境付近の土地価格も上昇しているという。
韓国は、文政権が緊張緩和、南北融和に向けたイニシアを発揮し、今日の環境を醸成した。6月13日施行の統一地方選挙では首脳会談の成功を追い風に「共に民主党」が圧勝し、南北融和は国論を2分する問題ではなくなった。
文政権の支持率も7割台であり、アメリカの求める米韓軍事演習の中断、非核化経費負担など、政権的には重い課題も受容する余裕ができたと言える。
この間朝鮮半島問題への関与に後れを取っていたロシアも、巻き返しに懸命となっている。5月31日にはラブロフ外相が9年ぶりに訪朝、6月14日プーチンはワールドカップ開会式に合わせ訪露した金永南と会談した。ここでプーチンは、9月ウラジオストックで開催される「東方経済フォーラム」に金正恩を招くことも、個別にロシアで会うことも可能だと表明した。
習近平は昨年秋の共産党大会で権力基盤を確立し、プーチンも3月の大統領選挙で圧勝している。これにより関係国の権力者の当面の任期はトランプ2021年、プーチン2024年、文在寅2022年、習、金は∞となっており、中露韓は北朝鮮と国境を接している分、緊張が緩和されれば積極的な関与が可能である。

無駄な抵抗
こうした動きに焦りの色を濃くしているのが、唯一続投が不明確な安倍政権である。安倍は朝鮮半島の緊張状態が永続化することを望み、北朝鮮への憎悪と緊張を煽り立て自らの政権延命に利用してきた。昨年末までは総選挙の「圧勝」など、それが功を奏してきたが、2018年になり局面が大転換して以降、そうした姿勢が仇となり枷となって、情勢の変化に対応しきれなくなっている。
安倍の言う通りであれば、今頃朝鮮半島はおろか、日本も無事では済んでいないはずであるが、北朝鮮のミサイルによる被害はなく、国民に被害を及ぼしているのは米軍、自衛隊機の墜落という有様である。
こうしたなか安倍は「対話のための対話は無意味」「微笑みに騙されてはならない」「最大限の圧力」と威勢の良い啖呵を切ってきたが、現在それらはすっかり影をひそめてしまった。
5月24日、トランプが交渉戦術として会談中止を表明した時は、いち早く理解と支持を示し、欣喜雀躍したのもつかの間、26日の南北首脳再会談を経て再び軌道に乗るに至っては、その早計さが世界中に露呈してしまった。
6月8日、安倍は一縷の望みを託して日米首脳会談を行った。しかしトランプの融和姿勢を変えることはできず、米朝会談での拉致問題の提起を確認することが精いっぱいであり、「拉致問題解決のため」として日朝首脳会談の追及を公言せざるを得なくなった。
観念した安倍は、11日に開かれた国際交流会議「アジアの未来」(日経新聞主催)の晩餐会で、拉致問題などの解決を前提としながら「北朝鮮には手つかずの資源がある。(北朝鮮国民は)勤勉に違いない、豊富な労働力がある。(北朝鮮の非核化は)アジアを超えた世界規模の経済への影響力がある」とまるで従前からの友好国であるかのような美辞麗句を並べた。

主要国のはざまに埋没
12日夕刻、安倍は囲み取材で、米朝会談への支持とトランプへの謝意を述べるのが精いっぱいな状況であった。安倍は日米首脳会談の前後に、21回目となる日露首脳会談とG7サミットへの出席を行ったが、どちらも成果を上げることができなかった。
5月26日の日露会談では7月に北方領土に調査団を送ることでは合意したが、共同経済活動を進める担保である「日露双方の法的立場に考慮した制度」は暗礁に乗り上げている。さすがにW杯を口実とした訪露はかなわず、次回の首脳会談は先に述べた9月の「東方経済フォーラム」となるが、領土問題の進展は望むべくもない。
6月8,9日のカナダG7に至ってはさらに悲惨であった。トランプ政権は、鉄鋼・アルミの追加関税に加え自動車、部品も制裁品目に追加する構えを見せており、会議は通商問題で冒頭から紛糾した。一時は危ぶまれた首脳宣言はまとまったものの、閉会直後にトランプが拒否宣言を行い、橋渡し役を自負していた安倍の面目は潰された。
追加関税では日本も大きな打撃を受け、自由貿易やTPP推進を公言しているのであるから、安倍は立場を鮮明にしなければならなかったのであるが、拉致問題でトランプに懇願した直後のため、移民問題で暴言を浴びせられても中途半端な立ち位置に終始した。 今回のG7はG6VS1などと評されているが、「海洋プラスチック憲章」への対応からも明らかなように、実際はG5 VS1(+1)というべきものであろう。
外交の場で存在感を示したい安倍は、先の「アジアの未来」でインド・太平洋地域のインフラ整備に今後3年間で、約500億ドルの投資を表明した。これは前日、中国の青島で開かれた上海協力機構(SCO)首脳会議を意識してのものである。
G7の混乱を後目に開催されたSCOには、中露の他、対立国であるインド、パキスタンが初の公式参加、ホスト役の習近平は貿易戦争を仕掛けるアメリカを念頭に「開かれた世界経済体制を構築する必要がある」と訴え、G7のお株を奪う形となり、影響力を拡大した。

保身の為の日朝会談 
この様にこの間国際情勢は、米朝会談を基軸にG5、中露がダイナミズムな動きでイニシアティブを発揮した。こうしたなかに埋没してしまった安倍は「苦しい時の北朝鮮頼み」に回帰しようとしているのである。
6月16日朝「ウェーク」(読売テレビ)に出演した安倍は、改めて日朝首脳会談の実現に意欲を示し、アメリカの求める非核化経費の負担も検討する考えを明らかにした。さらに、米韓合同軍事演習の中止にも理解を示し、あくまでもアメリカ追随と自己保身を最優先させる姿勢を示した。
米朝会談が成功した以上、安倍はスピードを上げるバスにしがみ付くので必死なのである。しかし西村副官房長官は17日の「報道プライムサンデー」(フジテレビ)で「8月9月は難しい」と述べるなど、自ら北朝鮮とのパイプをつぶしてきたことが災いし、交渉は難航するだろう。
こうした安倍の前のめりの姿勢に対して、6月15日の自民党、国防、外交、拉致問題の各部会の合同会合では、右派系議員から批判が相次いだと言う。さらに支持基盤であるネトウヨ、レイシスト、カルトからも「裏切り」の声が上がっている。こうした声も手のひら返しがお手の物の安倍は、自らの総裁3選のためにはあっさりと切り捨てるだろう。
10日の新潟知事選挙で与党は辛勝したものの、同日の東京都中野区長、同区議補選では野党の足並みの乱れ、右派の分裂という状況の中で与党系候補が敗北した。15日の時事通信の世論調査でも内閣支持率は続落し、次期首相についても小泉、石破に続く3位に甘んじる結果となった。この様に政権基盤は決して盤石ではないことからも、安倍は成果を求めて必死になっているのである。
この状況を野党は突き崩せていない。新潟知事選は疑似国政選挙の限界が露呈したともいえるが、総括を巡って「内ゲバ」をしている場合ではないだろう。
今から考えれば、知事選と参議院補選のW選挙に持ち込めれば、より国政、政権の是非を問う構図に引き寄せることができ、前回参議院選(2016年)時の内閣支持率(50%前後)を勘案すれば、今回の1戦1敗ではなく悪くても2戦1勝1敗にできたかもしれない。
残された期間は少ないが、野党は外交失策を暴くとともに、「高プロ」「カジノ」法案の強行採決、森友、加計事件の隠蔽を最後まで追求し、安倍3選に抗していくべきであろう。(大阪O)

【出典】 アサート No.487 2018年6月

カテゴリー: 平和, 政治 | コメントする

【投稿】日本へのプルトニウム削減要求と東アジアの非核化

【投稿】日本へのプルトニウム削減要求と東アジアの非核化
福井 杉本達也
1 米が日本にプルトニウム削減を強固に要求
「米、日本にプルトニウム削減要求」というトップ記事を6月10日の日経新聞が掲載した。記事で「核兵器への転用リスクがあるプルトニウムを日本がためこむことは、中国などから『不要の疑念を呼ぶ』とかねて批判されてきた。 米国は12日の米朝首脳会談で、北朝鮮に完全な非核化を迫る。国際社会は核不拡散へ断固とした姿勢をみせており、日本を特別扱いできないと判断した可能性もある。このため、米国家安全保障会議 (NSC)など は日本政府にプルトニウムの適切な利用・管理を要求した。」と書いている。
12日にシンガポールで米・トランプ大統領と北朝鮮・金正恩委員長による歴史的な会談を行われ、両首脳は朝鮮半島の「完全な非核化」に取り組み、米国は体制保証を約束することを柱とした共同声明に署名した。朝鮮戦争の終結にまでは言及していないが、プロセスとしては、朝鮮戦争の終結は「国連軍」としての在韓米軍の駐留根拠をなくすものであり、在韓米軍の撤退、在日米軍の縮小から撤退へとつながるものである。その相互信頼関係の前提として、まず、米韓軍事演習の中止が行われることとなった。この期に及んでも「小野寺五典防衛相は13日、トランプ米大統領が米朝首脳会談後に米韓合同軍事演習中止の意向を示したことについて『米韓演習や在韓米軍は東アジアの安全保障に重要な役割を持っている』と述べ、懸念を示した。北朝鮮対応では『今の圧力を続けていく姿勢に変わりはない』との考えを示した。」と報道されているが、全く東アジア情勢の大転換を理解しない発言である(ロイター:2018.6.13)。朝鮮半島の「非核化」は当然ながら、東アジアに展開する米軍の「非核化」、日本の「非核化」も含むものである。それが、相互確証である。日本が核兵器の材料であるプルトニウムを大量にため込むことは許されない。朝鮮半島の「非核化」において、あたかも日本が局外の第三者のように振る舞うことなど許されるはずもない。

2 47トンものプルトニウムを保有する日本
プルトニウムの製造は、核兵器への転用を防ぐため原則禁止だが、日本は再処理して原発で再利用することを日米原子力協定で認められてきた。非核保有国で再処理を認められている国は日本だけだ。日本は高速増殖炉もんじゅの燃料として消費するというストーリー(ウソ)でプルトニウムをため込んでいく手はずだったが、もんじゅは度重なる事故により2016年12月に正式に廃炉が決定してしまった。通常の原発から出た使用済み核燃料を再処理して、プルトニウムを取り出し、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX燃料)として高速増殖炉で使用し、そこで得た核燃料から再びプルトニウムを取り出すという核燃料サイクルは完全に破綻した。高速増殖炉計画が行き詰ったため、ため込んだプルトニウムを言い訳的に消費するために考え出されたもう一つのストーリー(ウソ)がプルサーマル計画である。プルトニウムをMOX燃料に加工し、通常の原発の燃料として消費して少しでも恰好をつけようというのである。しかし、これも2011年の福島第一原発事故で全ての原発が停止し、その後も再稼働が遅々として進まないため、プルトニウムはたまり続け、約47トンに達している。プルトニウムを増やさないためには、まず再処理をやめるしかない。

3 高速増殖炉もんじゅは核兵器を作る目的であったが破綻した
もんじゅは軍事用プルトニウムを生産する目的で作られた軍事目的の原子炉である。もんじゅは建前ではウランの有効利用を謳っているが、高速増殖炉はプルトニウムを2倍にするのに理論上で90年かかる。また、使用済みの燃料に残るプルトニウムの90%は炉心にあるが、炉心のプルトニウムを完全に再処理する技術は世界になく、さらには高速増殖炉の燃焼の激しさから、さまざまな貴金属ができてしまい、再処理は不可能である。もんじゅの真の目的は、高速増殖炉を使うことで、炉心を包むブランケットにできる純度が高く(98%)再処理が簡単な軍事用のプルトニウム(兵器級プルトニウム)をつくることである。このプルトニウムを使えば小型軽量の高性能核兵器を製造可能である。巡航ミサイルに積み込み、ピンポイントで敵地空港や艦船などに攻撃可能である。ICBMなどの大型核戦力は、大都市攻撃用であるが、大規模報復を招く恐れがある。日本のような狭隘な国土では甚大な損害を被る恐れが高い。日本が高性能の核兵器を自力で作る場合、1発や2発では兵器としての価値はない。イスラエルのように100発~200発の核兵器が必要となる。そのためには純度が100%に近い軍事用プルトニウムが200キロ程度は必要である。現在、日本は36キロの軍事用プルトニウムを所有している。なぜ、米国の軍産複合体が日本に核燃料の再処理を許したかといえば、これを対中戦略で、万が一、南シナ海で事が起きた場合に米国が直接中国と衝突することは全面核戦争の危険があるため、これを避け、日本に戦術核兵器で核武装させ、中国と対峙させる戦略だったのである。高速増殖炉の「増殖」というのはウソである。最高の核兵器の材料である軍事用プルトニウムを作ることを隠蔽するための言葉であった。

4 青森県六ヶ所村の再処理工場を即時廃止すべき
青森県六ヶ所村には民間資金で日本原燃㈱を設立しこれまでに約14兆円を投じた使用済み核燃料の再処理工場がある。もんじゅを廃止しても、この工場を閉鎖しはないと政府は判断した。再処理工場の所有を国際的に認められた外交上の地位や技術的継承のためにも核燃料サイクルを堅持するというのである。稼働したら最大で年間8トンものプルトニウムを取り出すことが可能である。しかし、この工場の建設は遅れに遅れている。当初、1997年完成を目指したが、その後、延期を繰り返している。2017年12月には再度3年延期して21年度上半期とすると明らかにした。施設の老朽化などによるトラブルが続き原子力規制委員会による審査は中断している。今回で延期は23回目となる。国が掲げる「核燃料サイクル政策」の先行きは見えない。
一方、 国内初の再処理工場「東海再処理施設」(茨城県東海村)はようやく2014年に廃止が決まった。 廃止費用は作業終了までの70年間で約8千億円に上るとみられる。多分廃止は放射能で困難であろう。

5 政府は 電力会社の問でプルトニウムを譲渡させて消費を促す計画だが?
日経の6月16日の記事によると、政府は6月下旬にも日本のプルトニウム保有量に上限制を設ける新指針をまとめIAEAに報告するというが、その場合、電力会社の間でプルトニウムを譲渡させてプルサーマルで消費を促すという計画である。しかし、現在、再稼働している原発は、九電・四電・関電であり、東電などは膨大なプルトニウムを保有しながら柏崎刈羽原発の再稼働は困難な状況にある。トランプ政権は日本への削減の要求を強めている。「12日の米朝首脳会談を踏まえた北朝鮮との本格的な非核化協議を控え、日本だけを特別扱いできないからだ。同筋は『核不拡散への懸念はトランプ政権の方がオパマ前政権より強い』と」日米関係筋は明かす。

6 いやでも朝鮮半島の非核化に協力させられる日本
16日、安倍首相は読売テレビの番組に出演し、朝鮮半島の非核化の費用の負担を検討すると明らかにした。首相は「核の脅威がなくなることによって平和の恩恵を被る日本などが、費用を負担するのは当然」と語った。トランプ大統領は米朝首脳会談後の記者会見で、記者からの「北の非核化の費用は誰が払うのか?」という質問に対して、大統領は「それは韓国と日本が払うだろう。アメリカはそれを払う必要がない、それなりの代償をすでに負っているからだ」と述べ、日本や韓国に費用の負担を促す発言をした。むしろ、日本は既に準備しているだろうという内容の表現であった。「非核化」の請求書はいやでも日本に回ってくる。2002年の日朝平壌宣言において「国交正常化後に①無償資金協力②低金利の長期借款③国際機関を通じた人道支援④国際協力銀行などによる融資、信用供与を実施」することを約束している。一方、拉致問題については「日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題が再び生じないよう適切に措置」をとると表現しているに過ぎない。北朝鮮が再調査しても「なかった」とすれば終わりである。日本は拉致問題を提起し続けることによって、経済協力の請求書が回ってくることを拒否し続けてきたのであるが、さすがにここに来てそのような無責任な芸当が国際的には通用しないことが明らかとなりつつある。拉致問題を解決しないなら日本は非核化に協力しないとは言えないのである。なぜなら、トランプ氏から既に安倍首相に対し請求書を回されているからである。これを拒否すれば、政治的・軍事的圧力や経済的制裁を受けることを覚悟しなければならない。それは東アジアで外交的に完全に孤立し、トランプ大統領に「お願い詣で」をして深入りしてしまった属国の立場としては不可能である。「非核化」負担どころか、総額2兆ドル?の北朝鮮経済復興費の請求書も回すと言っている。
日本は原発の再稼働を中止し、再処理工場を閉鎖し、プルトニウムを破棄し、核兵器開発を完全に諦め、北朝鮮と共に東アジアの非核化に取り組むと宣言する以外に、この孤立状況を抜け出す道はない。

【出典】 アサート No.487 2018年6月

カテゴリー: 原発・原子力, 平和, 杉本執筆 | コメントする

【投稿】米朝会談・安倍外交破綻をめぐって 統一戦線論(49)

【投稿】米朝会談・安倍外交破綻をめぐって 統一戦線論(49)

<<朝日と産経、瓜二つ>>
6/12のシンガポールでの米朝首脳会談の共同声明で確認された4項目とは、
1.朝鮮民主主義人民共和国とアメリカ合衆国は平和と繁栄を願う両国人民の念願に基づいて新たな朝米関係を樹立していくことにした。
2.朝鮮民主主義人民共和国とアメリカ合衆国は朝鮮半島で恒久的で強固な平和体制を構築するために共に努力する。
3.朝鮮民主主義人民共和国は2018年4月27日に採択された板門店(パンムンジョム)宣言を再確認し、朝鮮半島の完全な非核化に向けて努力することを確約した。
4.朝鮮民主主義人民共和国とアメリカ合衆国は、戦争捕虜および行方不明者の遺骨発掘を行い、すでに発掘確認された遺骨を即時送還することを確約した。
以上である。共同声明は、「金正恩委員長とトランプ大統領は、史上初めてとなる朝米首脳会談が両国間に数十年間持続してきた緊張状態と敵対関係を解消し、新しい未来を開いていくうえで大きな意義を持つ画期的な出来事であるということについて認め、共同声明の条項を完全かつ迅速に履行することにした。」で締めくくられている。(以上、平壌6月13日発・朝鮮中央通信による)
ところが、この米朝会談の結果をめぐっては、アメリカでも日本でも大手マスコミ、主流メディアの否定的な評価が横行している。
翌6/13の朝日新聞の社説は「その歴史的な進展に世界が注目したのは当然だったが、2人が交わした合意は画期的と言うには程遠い薄弱な内容だった。最大の焦点である非核化問題について、具体的な範囲も、工程も、時期もない。一方の北朝鮮は、体制の保証という念願の一筆を米大統領から得た。(「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」について)トランプ氏は記者会見で、それを文書に落とすには『時間がなかった』と認めた。その上で金氏は速やかに動くだろうとの期待を口にした。その軽々しさには驚かされるとともに深い不安を覚える。」と、全く冷笑的な姿勢である。
そして同じ6/13の産経新聞の社説(「主張」)は「米朝首脳会談 不完全な合意を危惧する 真の核放棄につながるのか」と題して、「世界の注目を集めたシンガポールでの歴史的会談は、大きな成果を得られないまま終わった。…それなのに、トランプ氏が共同声明で北朝鮮の体制保証を約束し、会見で国交正常化への意欲も示したのは前のめりだ。金委員長に最低限約束させるべきは、北朝鮮が持つ核兵器などすべての大量破壊兵器と弾道ミサイルについて『完全かつ検証可能で不可逆的な廃棄(CVID)』であるのに、できなかった。トランプ氏は『時間がなかった』と言い訳した。交渉能力を疑われよう。」と述べる。
朝日と産経が奇しくも全く横一線、瓜二つ、同じ主張を繰り返している。一度ですべて片が付くとでも考えていたのであろうか。それこそおめでたいというものであろう。
確かに具体的な内容は不十分であるとも言えよう。しかし、段階的、持続的な交渉の出発点として、今回の首脳会談の意義を認識し、評価することが重要である。何よりも、68年にも及ぶ、38度線で対峙する戦争状態を最終的に終結させる重要な第一歩として、板門店宣言を再確認し、東アジアの平和への重要な一歩が踏み出された意義は正しく評価されなければならない。それは、世論調査で、この米朝首脳会談を、韓国人81%、米国人70%が支持(KBSニュース 2018-06-12)しているという結果にも表わされている。この首脳会談に粘り強く導いた韓国の文在寅大統領の支持率は、79%にも達している(6/15 ロイター/イプソス調査)。

<<米韓軍事演習「大嫌い」>>
さらに問題なのは、こうした世論に逆らうかのように、米韓合同軍事演習中止についてまでも、6/17付・朝日社説は、「在韓米軍は北朝鮮と向き合う最前線であり、対中国でも重要な役割を担う。練度を高め、有事の即応力を維持するために演習は重要だ。東アジアの安全保障に影響を与える方針転換を一方的に打ち出すのは、『同盟軽視』と言わざるを得ない。」とイチャモンを付け、まるで安倍政権の本音の代弁人を買って出ていることである。
この米韓合同軍事演習について、平壌6月14日発の朝鮮中央通信は、「最高指導者(金正恩委員長)は、朝鮮半島における恒久的で強固な平和体制を構築するのが地域と世界の平和と安全保障に重大な意義を持つと述べ、差し当たり相手を刺激して敵視する軍事行動を中止する勇断から下すべきだと語った。アメリカ合衆国の大統領はこれに理解を表し、朝米間に善意の対話が行われる間、朝鮮側が挑発と見なす米国・南朝鮮合同軍事演習を中止し、朝鮮民主主義人民共和国に対する安全保証を提供し、対話と協商を通じた関係改善が進むことに合わせて対朝鮮制裁を解除することができるとの意向を表明した。朝米両首脳は、朝鮮半島の平和と安定、朝鮮半島の非核化を進める過程で段階別、同時行動原則を順守するのが重要であることについて認識を共にした。」と発表している。
一方、トランプ大統領は6/15、「中止」を表明した米韓合同軍事演習に関しては、大統領に就任したときから「大嫌いだった」と述べ、米朝の交渉に支障となり、巨額の経費がかかることから中止するつもりだ、「戦争ゲームをやめる。膨大な量の金を節約できる」と説明し、さらにこの中止はトランプ氏の側から金氏に提案したことも明らかにした、と産経新聞が報じている(米韓軍事演習「大嫌い」 トランプ氏、中止を自ら提案 6/17 産経)。
さらに、トランプ米大統領は6/15、ビデオメッセージを公表し、「平和のチャンス、恐ろしい核戦争の脅威を終わらせるチャンスがあるなら、すべてを犠牲にしてでも追求しなければならない」と訴えている(6/16 時事通信)。
この「すべてを犠牲」の中には、膨大な費用のかかるこの軍事演習も入っているであろう。中止されては困る軍産複合体の利益も、当然含まれよう。
こうした動きは、敏感に経済にもすぐさま反映されている。米朝共同声明が発表されるや、「少なくともトランプとキムの間の合意は、しばらくの間、軍事紛争をテーブルから取り除く」との見通しから、米軍需産業株(パトリオットとトマホークのミサイルを作るレイセオン、ペンタゴンに空中ミサイル防衛システムとF-35ステルス戦闘機を供給しているロッキード・マーチン、サイバー戦争やミサイル防衛のノースロップ・グラマン、Apacheヘリコプターと空中給油機製造のボーイング、海軍造船のジェネラル・ダイナミックス)が軒並み下落し(0.2%~2.6%)、対照的に、ダウ工業株平均は20ポイント上昇している(6/12,米・非営利独立メディア・Common Dreamsによる)。軍産複合体にとっては、平和と緊張緩和は歓迎されざる、不都合な真実なのである。
どちらから提起したにせよ、「戦争ゲーム」の中止は、大いに歓迎すべきであるし、しっかりと定着させることこそが望まれる。これを不当に貶めることは、好戦勢力を喜ばせるものでしかない。「戦争ゲーム」や軍事力の誇示、緊張の激化ではなく、対話と外交こそが、平和を築く唯一の道なのである。

<<北の「力」が米国に「平和」を強いたのか>>
6/15、トランプ氏はホワイトハウスでの記者会見で、史上初の米朝首脳会談を振り返り、正恩氏について「非常に気が合う。とてもいいことだ」と評価し、「今、北朝鮮と非常にいい関係にある。私が就任した時は戦争状態のようだった」とし、核問題を「私が解決した」「誰もが予想していた以上に素晴らしい会談だった」と自賛し、さらに「プーチン氏は数年前まで主要8カ国(G8)の一員だった」と指摘、「北朝鮮もそうだが、仲良くする方がそうでないよりずっといい」と述べ、先進7カ国(G7)の枠組みにロシアを改めて加えるべきだとも主張したのである。おまけに、トランプ氏お気に入りの米FOXテレビのインタビューでは「彼(正恩氏)は強い指導者だ。彼が話す時、国民は直立して聞く。米国民にも同じようにしてほしい」などと、独裁者特有の本音まで漏らしている。
自ら相手を「小さなロケットマン」と罵り、核攻撃も辞さないと戦争熱を煽っていたことなど、忘れたかのような発言である。自信過剰で、気まぐれ、欺瞞、いじめ、差別的で侮辱的な発言、突然の方向転換など、トランプ氏を特徴づける不安定な性格は、今後とも事態を流動化させる危険性として大いに警戒されなければならない。しかし、首脳会談後の記者会見でトランプ氏が述べた「選挙中にも私は言及した。よくおわかりの通り、米軍を撤収したいのが私の全般的な目標だ。私は多くの損失を持ってくるウォーゲーム(war-game)はしたくない。戦争介入はやらなくてもいい。費用も節減されるだろう。そうなったらとても多くの費用が節減されるだろう」という発言は確かに一貫したものである。しかしトランプ氏の予測しがたい逆戻りを許さない環境づくりをしたのが、韓国の文在寅政権であった。その文在寅政権を登場させた、「ろうそく革命」に象徴される韓国の民衆運動の力が、この新しい歴史的な事態をもたらしたのである。
同じことは、北朝鮮についても言えよう。ジャーナリストの李東埼氏は、北朝鮮の「力」が米国に「平和」を強いる、という主張を展開されているが(週刊金曜日6/8号・論争欄)、それはある一側面ではあったとしても、もはや「先軍政治」と核開発で疲弊してしまった北朝鮮の経済的苦境と決定的な立ち遅れを打開するためには、大胆な政策転換が不可欠であり、韓国の文在寅政権の登場がそれを力強く後押しをした結果が、4・27板門店宣言に結実し、米朝会談に結び付いた、というのが真実であり、実態であろう。

<<「イチャモンばかり」>>
元「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」(家族会)副代表・蓮池透氏は、今回の米朝首脳会談について、「マスコミは揚げ足とりばかりしていますが、平和を望んでいないんですか、と言いたくなってしまう。だいたい、昨年まで戦争が勃発するとまで言われたんですよ。それなのにわずか1年足らずで、両国トップが握手をして、これから平和を目指そうという、そうした外交的にもダイナミックな合意のはずなのに、まったく評価しないなんてどうかしています。とくに驚いたのが、米朝会談の後、NHKで過去の核合意破綻の歴史をVTRで繰り返し流していたこと。結局、あなたがたは、また破綻させたいのか。いや、本当に破綻を望んでいるとしか思えない。合意についても『譲歩しすぎだ』とかのイチャモンばかりです。」「拉致問題をアメリカに頼むなんて筋違いだし、ありえない話で、大変恥ずかしいことです。そういう意味では、米朝会談は『安倍外交』の敗北なのだと思います。しかも、安倍さんや政府は、ただのアメリカ頼みなのに、家族や国民に過大な期待を与えている。ほんとうに罪作りだと思います。」「だいたい今頃になって『北朝鮮と向き合い』って、臆面もなく言っているのか、という話でしょう。だったら、最初からなぜ向き合わないのか。小泉訪朝から16年も経って、ようやく北朝鮮と向き合うってどういうことですか、この態度の豹変は。だったら最初から向き合ってください、としか言いようがない。」と、ずばり問題の本質を突いている(リテラ 2018.06.15 蓮池透が怒りの告白)。
このような安倍政権の豹変を、日本の野党共闘・統一戦線がただ見過ごしていては、安倍政権の退陣はますます遠のいてしまうであろう。
さきの6/10・投開票の新潟県知事選挙の結果は、そのことを暗示しているのではないだろうか。「与党の争点隠しが功を奏した」「メディアもまた争点隠しに寄与した」「池田候補の主張を丸呑みした抱き着き選挙に成功」「旧態依然の土建選挙」等々、これら与党側の選挙戦略は今回初めてのことではない。彼らの豹変は重々承知のはずである。それらを敗因にして、ここまでよく頑張った、善戦した、野党共闘も前進した、では、何の教訓も得られないし、今後に生かされはしない。
まず、野党統一候補を擁立するにあたって、前知事が不徳の致すところ、不祥事で辞任に追い込まれた、そのことをまずもって真摯に有権者に謝罪・反省する言葉がなぜ発せられなかったのであろうか。次は、この候補です、よろしく、では済まないはずである。誠実さが疑われたとも言えよう。信頼度が低下したままでは、人々の底力をくみ取ることも、幅広い人々の結集を図ることもできないし、既得票だけでは勝利し得ないのである。
第二に、安倍政権は、成長政策を掲げながら、実は徹底した弱肉強食の規制緩和、緊縮政策、社会保障破壊政策を推進していることは、誰もが肌身で実感していることである。この実感を無視した選挙戦はありえないし、反原発だけでは、肩透かしに追い込まれることが自明であった。反原発政策を丸呑みにされたのであれば、その嘘を暴くと同時に、相手候補の弱点をさらけ出させ、彼らを上回る、有権者の切実な要求に根差した、地元に密着した大胆な反緊縮政策を提起すべきであった。
まだまだいくつもの教訓があるであろうが、少なくともこの二点は、厳しく反省される必要があるのではないだろうか。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.487 2018年6月

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【書評】『地図から消される街──3・11後の「言ってはいけない真実」』

【書評】 『地図から消される街──3・11後の「言ってはいけない真実」』
(青木美希、2018.3.発行、講談社現代新書、920円+税)

福島第一原発事故7年後のレポートである。問題が山積していることは周知の事実であるが、問題それ自体の風化も進んでいる。本書は原発の核心に迫る局面—-核の兵器への転用可能性──にスポットを当てる。
「原発は、核兵器にも転用できるプルトニウムを生み出す。プルトニウムはたまり続け、2016年末時点で、日本の保有量は約47トン。原爆約6000発分に相当する。非核兵器保有国としては最多だ」。
何故こんなことが可能なのか。「日米原子力協定」がその根拠である(2018年7月に自動延長)。これは六ヶ所村や東海村の施設で、原発の使用済み核燃料からプルトニウムを取り出す「再処理」を例外的に日本に認めるもので、六ヶ所村の再処理工場が稼動すれば、毎年最大8トンのプルトニウムが生産される。
これについて自民党の石破茂衆議院議員はこう語っている(『SAPIO』、2011年10月5日号)。「原発を維持するということは、核兵器を作ろうと思えば一定期間のうちに作れるという『核の潜在的抑止力』になっていると思う。逆に言えば、原発をなくすということはその潜在的抑止力をも放棄することになる」。
「潜在的核抑止力」—-これまで原発問題ではあまり表面に出なかった問題である。ここから見える「日本の核武装可能性」について、本書がインタビューする「元原子力村トップクラス」の「その人」は、こう語る。(発言の引用は必ずしも順序通りではない。)
(質問)「どれぐらい核兵器への転用が可能なのでしょうか」
「兵器に使える状態に加工してあるかどうか。どれぐらいのことをやれば元に戻して使えるかということですよね」
「これは書かれたら困るのであなたの胸に収めたほうがいいと思うが、『核武装したい』と国会で決めるなりしたら、そこから延々と時間がかかるわけではありません、ということ」。
(質問)「数ヶ月でしょうか?」
「1年もそこらもかからないということです」
「『日本は原子力発電をやりません』と言った瞬間に、足元がパーッと崩れる。原子力を持っているということと隣り合わせですから、『軍事研究』と『平和利用』とどこかに線引きができるはずがない。隣り合わせのところで、僕はいちばん近いところだったから」
この発言は、原発事故後も政府が頑なに原発再稼動を目指している「国策」の意図しているものを暴きだす。
さらにこの「国策」の下、原発事故によって避難した住民への施策=復興計画、避難指示解除、賠償打ち切りと矢継ぎ早に打ち出される政策が、実は「東電を守る」ためであったと指摘される。その理由が「原子力損害賠償法」であった。
原子力損害賠償法は、原子力事業者が「異常に巨大な天災地変」を除き賠償責任を負う(=「異常に巨大な天災地変」の場合には賠償責任がない)としている。当初東電は、原発事故がこの免責事項に当ると主張していた。しかし後に、自ら賠償するという方針に転換した。この転換の大きな理由となったのが「原子力損害賠償法」に関わる経産省の賠償責任逃れの姿勢である。すなわち東電に免責を使われると賠償問題が国に降りかかる。実際「事故後、東電を破綻処理し、すべてを賠償に充てるべきだとの意見もあった。しかし政府は、賠償させるためとして、東電の存続を決めた。その代わり経産省は、東電がつぶれないようにかばう」という筋書きである。本書は言う。
「その論理であれば、これまでの不可解な一連の動きが腑に落ちる気がした。/東電の賠償金の一部は、全国(沖縄を除く)の電気料金に上乗せして賄われてきた。/さらに2016年に経産省は、賠償金想定額を従来の5.4兆円から7.9兆円に増やした。増加分は、新たに電気代に上乗せされる国民負担2.4兆円を含む。新たな負担は原発と関係のない『新電力』まで含めて送電線の使用料(託送料金)に転嫁し、20年度から約40年間、毎年600億円ずつ集める。しわ寄せはいつも国民に来る」。
これは、原発事故の責任を「うやむや」にし、「復興」の名のもとに避難指示区域の解除を遮二無二推し進める政府の姿勢と重なる。
「賠償は打ち切られる。原発事故避難者用につくられた復興公営住宅に入居した人や多くの自主避難者が避難者数から除外され、数字の上では避難者数そのものが急速に減っている。避難指示区域が解除されると、避難者は『強制避難者』から『自主避難者』へと呼び名が変わり、そればかりか、『帰らないわがままな人たち』とレッテルを貼られるようになる」。かくして「被曝のリスクをどこまで引き受けられるかという判断は、すべて自己責任」として住民に押しつけられ、「復興」が進む。しかし根本的に問題は何一つ解決したわけではない。この現実を本書は、今一度警告する。(R)

【出典】 アサート No.487 2018年6月

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【投稿】開き直り腐臭漂う安倍政権

【投稿】開き直り腐臭漂う安倍政権
―国会逃げ切り~総裁三選を許すな―

傍観者安倍
4月27日、板門店で南北首脳会談が開かれ、朝鮮半島の非核化、朝鮮戦争の年内終戦を目指すことなどを趣旨とする「板門店宣言」が発せられた。
これに対しCVID(完全で検証可能、不可逆的な核兵器廃絶)に固執する安倍政権は、南北融和ムードを歓迎する国際的な潮流に、お得意の「印象操作だ」とも言えず、苦渋の面持ちで「一定の評価」をせざるを得なくなったが、「非核化への具体的な工程が不明確」「拉致問題解決に言及がなかった」など難癖をつけることを忘れなかった。
しかし今回の南北首脳会談は、朝鮮半島の非核化という大目的を達成するための重要なプロセスであることは疑いもない。非核化の具体策は米朝首脳会談で示されるべきものであるし、拉致問題は日朝2国間交渉で協議すべき課題である。
それらを、あげつらうように論難するのは、自らがこの間の動きに関与できていないことを証明するようなものである。事実板門店宣言では、平和構築に向け、米中を交えた多国間の枠組みで協議を進めることとされ、安倍政権は度外視されているも同然となっている。
会談直後の28日には、米韓大統領が電話会談を行い南北会談の報告と、米朝会談に向けた今後の方向性が協議された。安倍に対しては29日に電話があり、文在寅は、「北朝鮮が日本と対話する用意があることを明らかにした」と伝えたと言う。また金正恩が拉致問題について「なぜ日本は直接言ってこない」と発言したと一部では報じられた。
焦りの色を濃くした安倍は、南北会談以降「対話のための対話は無意味」との立場を投げ捨て、日朝首脳会談の開催に言及するようになった。首脳会談前の24日にも外務省幹部が自民党に対し、政府として日朝交渉を模索していることを明らかにし、日韓電話協議の後には安倍自身が、圧力を継続することの確認は無かったことを明らかにした。
安倍政権は、北朝鮮が日本からの経済支援を、喉から手が出るほど欲しがっており、それにより拉致被害者の帰国も不可能ではない、との幻想を国内にふりまいている。しかし、北朝鮮としては非核化の進展により中国、韓国、ロシアひいてはアメリカとの経済協力が実現すれば、さほど日本に期待するものはないだろう。経済支援はカードにはなりえないのである。
またそもそも、拉致問題の解決は朝鮮半島の非核化、緊張緩和の必須条件ではないのだから、北朝鮮としては余裕の対応ができる。また日朝国交正常化交渉が再開されたとしても「植民地支配の補償」を優先するよう北朝鮮は求めてくるだろう。
安倍は「私が司令塔」と大言壮語を吐きながら、自らの政権安定の為に拉致問題を利用しているにすぎない。安倍は4月22日、拉致被害者の救出を求める集会に出席したが「政務のため」途中退席し、「もう帰るのか」とのヤジを背に私邸に戻った。
安倍は菅直人を蛇蝎のごとく嫌っているが同じ目にあったわけである。むしろ菅は東日本大震災被災者=一般市民からの罵声であったが、安倍の場合は支持団体の会合での椿事であっただけに驚きが走った。
もっとも安倍は、熱烈な支持者であった籠池夫妻を国会で詐欺師呼ばわりしたかと思えば、手のひらを返したように「大阪都構想」反対に転じた人間であるから、今回のことぐらいは平気なのであろう。これほど好悪がストレートに行動に現れる総理大臣も珍しいと言えよう。

インド・アフリカで後退
国際社会の耳目が朝鮮半島に集中する中、安倍を外交的敗北が見舞った。南北首脳会談の当日、中国武漢市で中印首脳会談が開かれ、経済協力の推進、安全保障問題などが協議された。この会談は非公式なものであったが、モディ首相はこうした協議が今後継続していくことを希望したという。
安倍は「一帯一路」構想に「自由で開かれたインド太平洋戦略」を対置し、「帯路分離工作」を目論んでおり、インドをその要にしようとしている。しかしインドとしては、日中どちらか一方に肩入れするようなリスクを冒さないことは明らかである。安倍政権は価値観外交を吹聴しており、確かにインドとは女性に対する価値観では共通なのだろうが、日本が望むような同盟国にはならないだろう。
インド洋に於いては、中国が99年間の港湾管理権(事実上の租借地)を獲得しているスリランカに続き、モルディブにもその影響力が拡大している。今年2月モルディブで親中国派の現大統領が反政府勢力を弾圧した際、元大統領はインドに直接介入を求めたが、非難声明以上のものは出なかった。軍事的な制圧は可能であるが、政治判断が行われたと考えられる。
中国の影響力は一路の西端であるアフリカでも拡大している。外務省が昨年3月ケニア、コートジボワール、南アフリカの3か国で実施した世論調査の結果は惨憺たるものであった。
日本を最も信頼できる国としたのが7%であったのに対し、中国は33%と約5倍、現在の重要なパートナー国とされたのは日本28%、中国56%と2倍、さらに今後重要なパートナー国でも日本33%、中国48%という結果であった。
第2次安倍政権では、TICAD(アフリカ開発会議)が2013年(横浜)16年(ケニア・ナイロビ)で開かれ、このほかにも安倍はエチオピア、モザンビーク、コートジボワール、ジブチを訪れ莫大な支援を行ったが、それに見合うような成果は無かったと言えよう。
唯一ジブチには自衛隊初の海外基地が存在しているが、もともとは菅政権時に開設されたものだけに、安倍としては素直に喜べないだろう。
そのジブチでも中国の存在は大きくなっている。昨年設けられた海外初の中国軍基地には装輪戦車など重火器が配備されており、この5月中旬には同国の砂漠地帯で実弾射撃演習が行われた。
中国軍が重装備を配置するのは、2016年7月に南スーダンの首都ジュバで起こった大規模な戦闘の戦訓である。陸自日報問題の原因ともなったこの戦いでは、巻き込まれた中国PKO部隊が戦車の砲撃を受け7名が戦傷死した。こうした事態に対応するための措置ではあるが、不要な緊張を生む可能性もある。
5月初旬には同基地から照射されたとみられるレーザーで、アメリカ軍輸送機の操縦士が負傷する事件が発生するなど、アフリカの角の一角で米中の蝸牛角上が惹起しようとしている。
南スーダンの戦闘で、中国はより積極的にアフリカへ関与する方向に進み、日本は戦闘の隠蔽を続けていたものの、安倍の「南スーダンで犠牲者が出たら辞める」発言で慌てて撤退した。これは為政者の短慮な発言に官僚機構が忖度し、政策、決定が歪められると言う、森友事件の構図と同じである。これは結果(撤退)良ければ全てよしと言うわけにはいかないだろう。
こうしてアフリカにおける日中覇権争いの帰趨は事実上決した。外務省の3か国調査は、陸自が“あとは野となれ山となれ”と言わんばかりに撤退を開始した時期と重なるが、これが回答に影響を及ぼしたかは定かではない。インド洋、アフリカで地歩を後退せざるを得なくなっているなか、「自由で開かれたインド太平洋戦略」は早くも空洞化しつつある。

失政糊塗し逃げ切りへ
イスラエル、パレスチナの和平になんら寄与することのなかった中東歴訪から戻った安倍は、5月4日習近平に頼み込む形で初の日中電話協議を行った。これは孤立感を深める安倍が、朝鮮半島情勢への関与を演出しようとしてのパフォーマンスであるが、ついに習に頭を下げざるを得なくなったのである。
こうしたなか、8日には李克強が、9日には文在寅が初来日し日中韓首脳会談が開かれた。表面上は北朝鮮への対応で歩調を合わせることで一致したが、発表が日付の変わる直前までずれ込んだ共同宣言でのCVIDの表現は見送られた。安倍政権としては、拉致問題の対話による早期解決が盛り込まれたことが唯一の成果となった。
しかし、国際社会はアメリカのイラン核合意からの離脱、ポンペイオ国務長官の再訪朝と拘束された3名の解放、6月12日、シンガポールでの米朝会談の発表等、トランプ政権の動きに注目し、日中韓首脳会談は霞んでしまった。
10,11日安倍は中国側の要請で、李克強をエスコートする形で北海道内視察に同行、最大限の厚遇を示し、9日の日中首脳会談では年内に訪中することで合意するなど低姿勢に終始した。この間トランプから電話があり「日本はビッグプレイヤーだ」と持ち上げたと言うが、意気消沈する安倍への慰めだったのだろう。
このような朝鮮半島の緊張緩和、中国との関係改善の流れの中、本来は見直されるべき軍拡が一層進行している。小野寺は15日の記者会見でイージス・アショアの配備候補地が秋田、山口両県であることを公式に認め、関係自治体への説明を行うことを明らかにした。
また政府が件のジブチ基地の機能強化を計画し、今年末に策定する新防衛大綱に盛り込むことが判明した。日中関係改善とは裏腹の動きであり、悪あがきの様な軍拡競争は日本を疲弊させるだけである。
国際情勢が急展開を見せる中、安倍はそれへの対応と称し、国内課題は終了したかのように、訪露、G7と外遊に勤しみ国会は与党ペースとなっている。森友、加計事件は疑惑を残したまま幕引きが図られ、「働き方改革法案」も採決強行が窺われている。
外交で低姿勢になるほど、内政で高圧的なるのが安倍政権の常であるが、現在は外交での存在感が希薄な分だけ、国会対応は常軌を逸した強引なものとなっている。安倍は支持率が低迷していた4月には「膿を出し切る」などと殊勝な発言をしていたが、今では追及に開き直り膿は溜まり続け腐臭を放つまでになっている。
第2次安倍政権下で開かれた、14回の国会での延長総日数は114日であるが、2015年の戦争法案国会の95日を除けば、延長されたのは2回(それぞれ2日、17日)のみであり、多くは数の力で押し切った形となっている。
15回目となる今国会も、秋の自民党総裁選を見越し6月20日での閉会は当然のように語られている。その意味で6月10日の新潟知事選は益々重要となっており、安倍の逃げ切りを許してはならないのである。(大阪O)

【出典】 アサート No.486 2018年5月

 

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【投稿】「米国第一主義」を掲げる中、世界は基軸通貨ドルからの離脱を目指す

【投稿】「米国第一主義」を掲げる中、世界は基軸通貨ドルからの離脱を目指す
福井 杉本達也

1 第二次ニクソン・ショックが始まった
「米国第一主義」を掲げるトランプ米大統領は3月8日、鉄鋼とアルミニウムの輸入増が安全保障を脅かしているとして、輸入制限を発動する文書に署名した。それぞれ25%と10%の関税を課すが、通商交渉や軍事負担で米国に譲歩した国は適用を除外するとして、安全保障もからめて貿易戦争を宣告した(日経:2018.3.10)。それ以降、韓国と北朝鮮の安全保障対話を条件にして米国生産車輸入を無条件にすることと通貨介入を禁止することとした米韓FTAの見直し、カナダ、メキシコとのNAFTAの再交渉、EUとの貿易協議入り、中国との通商交渉など世界的な貿易戦争が繰り広げられている。こうした中、 米紙ウォルストリート・ジャーナル(WSJ、電子版)は5月13日までに、トランプ米大統領が米国への輸入車に20%の関税を課すことや、米国生産車より厳しい排ガス規制を適用することを提案したと報じた(福井=共同 2018.5.14)。 世界の年間の自動車市場9600万台のうち米市場は1700万台規模で中国に次ぐ市場である。トヨタはカナダとメキシコ、日産はメキシコに米国向け輸出工場を持つ。また、日本からの輸出はトヨタで年間70万台規模、日産も高級車など30万台以上であり、日本の自動車メーカへの影響は極めて大きい(日経:2018.5.15)。

2 米中の貿易摩擦と中国通信大手ZTEへの制裁
5月17日から米国と中国の貿易摩擦を巡る2度目の公式協議が始まった。米国は中国通信大手:中興通訊(ZTE)への制裁もからめて貿易赤字削減の圧力を強めている。ZTEは米国の制裁により、米国企業からの部品の供給が止まり、スマホの販売が事実上停止に追い込まれたと報道されている。
米国は世界の資金の流れや、IT産業の頭脳部分を支配しており、その影響力を活用している。4月以降の標的は、ロシア経済制裁の一環としてのロシアのアルミ大手ルサールと米中貿易摩擦の取引材料としての中国の通信機器大手:ZTEである。米財務省は金融の健全性を脅かす存在であるとみなした外国の銀行に対し、ドル建て決済を禁止できる。国際銀行間の国際決済ネットワークの送信情報を入手して資金の足取りを追えることとなった。多数の銀行は、米国が制裁を科した企業や個人、国家との取引を控えることとなる。通信機器世界4位、時価総額170億ドルのZTEへの制裁理由は米国の制裁対象国イランと北朝鮮と取引していたことであり、同社もそれを認めている。

3 ほころび始めた米国の経済制裁
ところが、伝家の宝刀たる米国の経済制裁が全く機能しなくなっている。ロシア:アルミ大手ルサールに対する制裁を発表した直後の4月23日、米財務省はルサールに対する制裁を5か月間猶予せざるを得ないと発表したのである(日経:2018.4.25)誤算はルサールからのアルミ供給の減少観測が広がり価格が高騰したことにある。ルサールは世界アルミ供給の1割を占め、自動車や航空機産業まで幅広い産業に影響が及ぶ。「グローバル企業は生産拠点の国際分業を進めておりロシアを企業活動から完全排除するのは難しい。」(日経)ロシア経済に打撃を与えようとしたことが米国の経済にすぐさま跳ね返ってきたのである。
そして最も肝心な点をThe Economist紙は「各国はいずれ米国の制裁を逃れる方法を見つけるという点だ。ルサールの現状を見れば、米国のお墨付きが得られなくても生き延びるために何が必要かがよく分かる。つまり、半導体にグローバルな通貨と決済システム、格付け機関、商品取引所、大量の国内投資家、そして海運会社だ。中国は今、これら全てを手に入れようと画策中だ。米国は新型兵器を使うことで、その威力を誇示できても、同時にその相対的な衰退をも加速させることになるだろう」(日経:2018.5.9)と要約している。
さらに極めつけは、「米国がロシアにソユーズ宇宙船を注文!どうしてもロケットエンジンを製造することができず、ボーイングが契約に署名へ」(Sputnik:2018.5.18)という事実である。米国はロシアに対する経済制裁を行っているはずであるが、ミサイルの根本部分であるロケットエンジンをロシアから購入しているのである。ロシアのロケットエンジンを積んだミサイルでロシアを核攻撃するなどという冗談も飛び出すほどに軍事の根本的部分でロシア依存が深まっているのである。「なぜロシアのロケットエンジンを買わないといけないのか!」とジョン・マッケイン上院議員が激怒したが、作れないものは作れないのである。

4 米国のイラン核合意からの離脱の狙い
トランプ大統領は5月8日、英仏独中ロの6か国とイランが2015年に合意したイランの核合意から一方的に離脱し、イランに対する経済制裁を再開する大統領令に署名した。制裁が発動されれば、米国企業ばかりでなく、仏石油大手トタルによるガス田開発など欧州企業へも影響する。既にトタルは「ドル建ての資金調達が失われる事態になれば耐えられない」として、撤退の意向を示している。しかし、その穴埋めを中国最大の石油・ガス会社:中国石油天然ガス集団(CNPC)が引き受けるとしており、もし、欧州企業が制裁で抜けることとなれば、中国企業にその座を奪われてしまう。ロシア上院のマトヴィエンコ議長は「本合意からの離脱はEU経済を自国に従わせようという米国の更なる試みだろう。なぜなら多くの欧州企業がイランで事業を展開しているからだ。」と米国の真の狙いを指摘している。イランと英仏独、EUは15日、ブリュッセルで外相会合を聞き、米国抜きでも核合意の堅持を目指す方針を確認した。欧州連合(EU)は、イランからの石油購入のためにユーロへの支払いに切り換える予定で、米ドル取引を廃止すると外交筋は語っている(Sputnik:2018.5.16)。
2003年、米国がイラク戦争に踏み切った最大の理由は、イラクのフセイン政権が2000年11月に同国の石油取引をドル建てからユーロ建てに変更したことである。また、リビアのカダフィ政権を倒したのも、カダフィが自国の金を裏付けにアフリカの統一通貨構想を練っていたからと言われる。1971年8月15日の金・ドル交換停止のニクソン・ショック以降、金との裏付けがなくなり、単なる紙切れとなった米ドルを世界通貨として支えてきたものは、米国の巨大な軍事力と、ドルによってしか取引できない石油の存在にあった。しかし、その特殊な取引が、2018年3月の中国上海の元建て石油先物市場の開設やロシア=中国のパイプラインによる直接取引によって確実に解体しつつある。米国のイラン核合意からの離脱は、米国の狙いとは裏腹にドル覇権の衰退を益々加速している。

5 『暴論』?「円を捨てて人民元に」
外貨準備の中で、金の保有高を増やす動きが続いている。突出するのがロシアと中国で、2018年3月時点における過去10年間の保有増加量はロシアが1,423トン、中国が1,242トンとなっている。結果、ロシアは1,880トンで世界5位、中国は1,842トンで6位に浮上している。この外、トルコが475トン増やし、591トンで10位などとなっている。エルドアン政権と米国の関係は2016年7月のクーデター未遂事件以降冷え込んでおり、トルコ中央銀行は2017年末には米連邦準備制度から、自行の金準備26トンを回収している(Sputnik:2018.4.20)。また、欧州でも、ドイツ連銀は2013年に米国と仏に保管している保有金674トンを2020年までに連銀金庫に移すと発表した。2008年のリーマン・ショックと、その経済恐慌を抑えるべく、FRBが行った空前の量的緩和政策の結果、ドルの信認は低下し続けている。
ニクソン・ショック以降、ドイツと日本は、常に黒字国として米国から黒字是正を迫られ、脅しに曝されてきた。ドイツは2000年以降、ユーロという護送船団方式に逃げ込んだのに対し、日本は依然、米国の圧力にさらされ続けている。日経のコラム『大機小機』において、ペンネーム(玄波)氏は「暴論 円を捨てて人民元に」と題して、「日本が円高の脅しから逃れるには、円を捨てて、アジアの人民元等の共通通貨に入ることも選択肢だ。もちろん、そんな暴論が実現できる国際環境ではないだろう」がとしつつも、それでも「ドイツのような隠れみのをアジアで構築すべく対応すべきなのか。岐路にさしかかっている。」と書いている(日経:2018.5.10)。
トランプ大統領は3月末、「こんな長い間、米国をだませたとほくそ笑んだ日はもう終わりだ」と安倍首相を名指し、多額の貿易赤字を長年抱える日本を批判した。4月18日に訪米した安倍首相との共同記者会見においてトランプ氏は 、対日貿易赤字の是正のため「一対一の交渉を望む」と表明した。これではまずいと判断したのであろう、5月9日、中国李克強首相が7年ぶりに来日し、ようやく日中首脳会談が実現した。2010年9月、当時の菅直人民主党政権下での前原誠司国交大臣主導の海上保安庁挑発による尖閣諸島での中国漁船衝突事件~2012年9月の野田佳彦内閣での国有化以来ギクシャクした関係にあった日中関係は、防衛当局間の相互通報体制「海空連絡メカニズム」を6月から始動するとして、関係改善ヘ尖閣諸島の問題を再び棚上げして政治決着することとなった。いったいこの8年間は何だったのか。
「米国第一主義」のトランプ政権下で「日米同盟のさらなる強化」を叫ぶことは日本の権益を全て米国に差し出すことである。これ以上の分かりやすい売国スローガンはない。1997年アジア通貨危機直後、「ミスター円」と呼ばれた榊原英資はアジア版IMF(アジア通貨基金)を構想したが米国のサマーズに潰された。あれから20年、中国のGDPは日本を上回った。「暴論 円を捨てて人民元に」というアジア版共同通貨構想を考える時期である。
【出典】 アサート No.486 2018年5月

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【投稿】ボルトン=安倍路線と米朝首脳会談 統一戦線論(48)

【投稿】ボルトン=安倍路線と米朝首脳会談 統一戦線論(48)

<<「金委員長は非常に裕福になるだろう。」>>
6月12日、シンガポールで予定されている米朝首脳会談は、その雲行きが怪しくなってきている。トランプ・金正恩、両首脳、ともに唐突で予測不能な移り気と不安定さが懸念され、駆け引き、つばぜり合いがそのまま緊張激化にもつれ込む現実的な可能性さえ予測されている。緊張緩和ムードから一転、核戦争まで引き起こしかねない武力衝突の危機へと再び後戻りしてしまう可能性である。安倍政権が、9条改憲と政権延命のために米朝首脳会談の決裂を最も期待し、決裂促進に加担している事態の成り行きは、予断を許さない状況である。
しかし、4/27に行われた文在寅・韓国大統領と金正恩・朝鮮労働党委員長が合意した「朝鮮半島の平和と繁栄、統一に向けた板門店宣言」は、歴史を画する平和と緊張緩和・協力と連帯の宣言である。この宣言を踏みにじることは誰にも許されないし、歴史への反動でしかない。
同宣言は、「非正常的な現在の停戦状態を終息させ、確固たる平和体制を樹立することはこれ以上先送りできない歴史的課題」ということを明確にし、「休戦状態の朝鮮戦争の終戦を2018年内に目指して停戦協定を平和協定に転換」することに合意し、両首脳はこのための具体的な方法として「南北交流、往来の活性化」、「鉄道、道路の南北連結事業の推進」、「相手方に対する一切の敵対行為を全面的に中止」すること、そして「南・北・米3者」または「南・北・米・中4者」会談を積極的に推進することにも合意したのである。
この朝鮮半島南北首脳の画期的な宣言をもはや無視することが出来なくなったトランプ政権も、混乱し迷走を深める自己の政権浮揚のためでもあろう、朝鮮戦争の終結を支持し、歓迎の姿勢を明らかにしたのであった。トランプ大統領は、「金委員長は非常に裕福になるだろう。北朝鮮住民らはとても勤勉だ」、「産業の側面からすると、『韓国モデル』になるだろう」とまで述べた。そして、マイク・ポンペオ米国務長官は、再度、平壌を訪問し、北朝鮮が完全な非核化に合意した場合、米国の民間企業の対北朝鮮投資を認め、制裁を緩和すると発表した。5/11には、果敢かつ迅速な非核化の見返りとして、「韓国レベルの繁栄」を約束し、具体的な見返りまで公約した。

<<「悪魔の化身」「人間のくず、吸血動物」>>
しかし、こうした事態の進展を苦々しく思い、軍産複合体の利益を代弁し、軍事緊張の激化を期待する勢力、好戦勢力の巻き返しは、とりわけトランプ政権に顕著である。
この4/9にトランプ政権の国家安全保障補佐官に就任したばかりのジョン・ボルトン氏は、「狂犬」といわれるマティス米国防長官でさえ、「悪魔の化身」と呼ぶほどの好戦派・強行介入路線一辺倒の人物、ネオコン派筆頭格の人物である。
ボルトン氏は、補佐官就任後も、朝鮮半島の非核化について、リビア・モデルを強硬、かたくなに主張している。氏の言うリビア・モデルとは、核兵器開発をまず一方的に放棄させること、そして直ちに核関連装備を米国テネシー州のオークリッジにすべて移送させることが優先事項であり、リビアをモデルにするということは、その後に傭兵を送り込み、アメリカ配下の軍隊が空爆して、政権を崩壊させるというシナリオである。ボルトン氏は、何ら恥じることなく、中東を大混乱に陥れたイラク戦争を正当化し、現在ではイランや北朝鮮への先制攻撃を主張し続けている。そして現実に、トランプ政権はイラン核合意から一方的な離脱を表明し、対イラン制裁を復活させ、イスラエル、サウジアラビアを巻き込んだ対イラン戦争の開始を虎視眈々と狙い、踏み出そうとしている。
5/16、こうしたトランプ政権の「リビア・モデル」路線に対して、北朝鮮側はまず、この日に行う予定だった南北高官協議について、協議の代表団を率いる李善権・祖国平和統一委員長名で無期延期とすると韓国側に通知。朝鮮中央通信は同日、米韓軍の戦闘機100機以上が行っている米韓合同空軍演習「マックスサンダー」は、「良好に発展する朝鮮半島情勢の流れに逆行する意図的な軍事挑発だ」と非難した。同演習に初めて参加するF-22が敵のレーダー網をくぐりぬけて浸透し、核とミサイル基地など核心施設を精密打撃できる能力を持ち、敵の核心指揮部を除去するいわゆる「斬首作戦」の遂行に最も適した機種だとされている。朝鮮中央通信は、このF-22を具体的に挙げたのであった、
続いて、同じ5/16、北朝鮮外務相の金桂冠・第1外務次官が、「トランプ政権が一方的な核放棄だけを強要しようとするなら、近づく朝米首脳会談に応じるかどうか再考慮するほかない」との談話を発表したのである。その際、金第1外務次官は「これは大国に国を丸ごと任せきりにして、崩壊したリビアやイラクの運命を尊厳高い我々の国家に強要しようとする甚だ不純な企ての発現」と述べたのであった。そして、「朝米首脳会談を控えた今、米国で、対話の相手を甚だしく刺激する妄言が次々と飛び出している」と主張し、「ボルトン(補佐官)らホワイトハウスと国務省の高官は『先に核放棄、後で補償』方式に言及し、『リビア核放棄方式』だの、『完全かつ検証可能で不可逆的な非核化』だの、『核、ミサイル、生物・化学兵器の完全廃棄』だのと主張している」と、ボルトン氏を名指しして、不快感を表明したのであった。金第1外務次官はまた、米国の敵対視政策の中断だけが先決条件だと明示しながら「我々は米国に期待をかけて経済建設をしようとしたことはなく、今後もそのような取引は絶対にしない」と明らかにした。
これに対してボルトン氏は「私は連中に人間のくず、吸血動物、醜い男と呼ばれてきた。慣れている」と反撃し、「見返りを期待する北朝鮮との際限ない協議に引きずり込まれるという過去の失敗は繰り返さない」と語り、いつでも交渉を打ち切る用意があると強調したのである。

<<「関係正常化は北朝鮮の利益になるだけだ」>>
米国側の意図を見透かされたトランプ政権は、あわてて事態の収拾に乗り出さざるを得なくなった。米朝首脳会談が始まる前から頓挫してしまったのでは、トランプ政権の意図する方向と相反するからであろう。
5/17、トランプ大統領は、ホワイトハウスで記者団に、「リビアモデルは北朝鮮に対して(適用を)全く考えていない」と明言し、「リビアモデルは完全な除去だった。我々はリビアを焦土化させ、カダフィ大佐を除去した。我々がカダフィ大佐に『あなたを保護する』、『軍事力を与える』と言ったことはない」、「リビアモデルは(北朝鮮とは)全く異なる」と述べ、「金正恩体制の保障」まで明らかにした。トランプ大統領は、「喜んでさまざまなこと(体制保障)をするつもりだ。会って何か結果が出たら、彼は非常に強力な保護を受けることになる」と述べ、「金正恩がその国に留まりながら、その国を運営する方式になる」と具体的に説明し、「合意が実現すれば、彼はとても幸せになるだろう」とバラ色な世界を描いて見せた。今回、「体制安全保障」という原則を初めて明確に公言したのである。トランプ氏にとっては、まずは米朝首脳会談を正常な軌道に戻させることが必要であり、ボルトン氏を当面は黙らせることが必要だと判断したのであろう。
しかし同時に、トランプ大統領は「合意を成し遂げなければ、リビアのようなことが起こるかもしれない」と脅してもいる。背後にボルトン氏の路線が控えていることを、トランプ氏自ら明らかにしたとも言えよう。
ここまできて明らかになっていることは、朝鮮半島が、そして東アジアが、そして中国、ロシアを含めて善隣友好関係が築かれ、平和になっては困る勢力が米支配層の中にはっきりと存在し、戦火の火種が温存され、いつでも再発火される事態を常に作り出そうとしていることである。米朝首脳会談をめぐって、まさに戦争と平和をめぐる激しいつばぜり合いが展開されているのである。その中で、この緊張激化路線を最も熱心に追及しているのが、安倍政権であり、安倍首相の発言は、ボルトン氏の発言とほぼ同一である。
「関係正常化は北朝鮮の利益になるだけだ」、この発言はボルトン氏のものであるが、同時に安倍首相の発言であるとも言えよう。「見返りを期待する北朝鮮との際限ない協議に引きずり込まれるという過去の失敗は繰り返さない」、これも安倍首相の発言とそっくりである。「最大限の圧力」、「対話など無意味」、「話し合いは無駄」、そして「先制攻撃」、いずれもボルトン=安倍路線を象徴するものであり、本質的には米朝首脳会談を壊しにかかっている路線である。

<<安倍政権にとっての悪夢>>
退陣間際に追い込まれている安倍政権にとっては、米朝首脳会談の成功ではなく、決裂こそが最善なのである。成功すれば、それが導き出す朝鮮戦争の終結と平和協定への転換、鉄道、道路の南北連結事業の推進、「南・北・米・中4者」会談の実現、それらを通じた東アジアの平和構築、諸国間の善隣友好関係の実現、軍事的緊張の解消、段階的な軍縮の実現は、これらに敵対し、緊張激化を常に策動し、憲法9条の改悪と軍備拡大路線、辺野古新軍事基地強行を推し進めてきた安倍政権にとっては悪夢なのである。だからこそ、安倍首相はボルトン氏と軌を一にし、響き合っていると言えよう。
逆に言えば、安倍内閣を退陣に追い込むことが、ボルトン=安倍路線を挫折させ、東アジアの緊張緩和と平和の構築にとって最大の貢献をなしうる情勢の到来とも言えよう。野党共闘と統一戦線のより一層の前進が、東アジアのみならず、世界平和に大きく貢献できる好機でもあり、国際主義的な義務でもあるとも言えよう。
新潟県の米山隆一前知事の辞職に伴う5/24告示、6/10投開票の知事選、立候補を表明した池田千賀子県議を支える「オール野党共闘」の枠組みが、立憲民主、民進、共産、自由、社民の各党と、市民団体による「市民の思いをつなぎ、にいがたで女性知事を誕生させる会」、そして今回は連合新潟まで参加して形成された。前回知事選よりも、体制としては大きく前進したと言えよう。
対する争点隠しを公言する自民・公明候補は、二階俊博・自民幹事長が運輸大臣だった時の秘書官であった国交官僚の花角英世・海上保安庁次長である。但し公明は、「国政の代理戦争化を避けるため裏方に徹する」として自主投票とする方針であり、さらに県市長会(会長・久住時男見附市長)は、2000年以降で初めて、特定の候補者への推薦を見送る方針であるという。この花角候補を敗北させることが、「安倍政権を許さない」、安倍政権を退陣に追い込む重要な一歩となろう。安倍政権にとって、新潟知事選の決定的な敗北も、耐えがたき悪夢となろう。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.486 2018年5月

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【書評】『漫画 君たちはどう生きるか』

【書評】『漫画 君たちはどう生きるか』
(吉野源三郎(原作)、羽賀翔一(漫画)、マガジンハウス2017年、1,300円+税)

周知の少年文学の古典といえる書物であるが、2017年に漫画化され、非常な売れ行きを示している。岩波文庫本(1982年)では300ページを越えていて、読むときにそれなりの覚悟と持続力を必要としたが、今回のものは筋が漫画でスムーズに流れていて読みやすいのは事実である。しかも主人公コペル君への「おじさんのノート」の部分は活字のままなので、これもまたじっくり読むには適している。ということで、今なお汲むべき教訓に満ちた書である。
コペル君の呼び名となった経験—-デパートの屋上から街の人々を眺めて、「人間って、分子なのかも」とつぶやく。おじさんはこれを、天動説から地動説への転換を唱えたコペルニクスにたとえる。「君が広い世の中の一分子として自分を見たということは、決して小さな発見ではない」と。
「人間が自分を中心としてものを見たり、考えたりしたがる性質というものは、(略)根深く、頑固なものなのだ。/コペルニクスのように、自分たちの地球が広い宇宙の中の天体の一つとして、その中を動いていると考えるか、それとも、自分たちの地球が宇宙の中心にどっかりと座りこんでいると考えるか、この二つの考え方というものは、実は、天文学ばかりのことではない。世の中とか、人生とかを考えるときにも、やっぱり、ついてまわることなのだ」。
そして大人になれば、大体は地動説のような考え方になっていくが、「いや、君が大人になるとわかるけれど、こういう自分中心の考え方を抜け切っているという人は、広い世の中にも、実にまれなのだ」、特に利害損得にかかわることになると、たいていの人が自分に都合のよいことだけを見て、自分を離れて正しく判断できなくなると鋭く指摘する。この自分が世界とつながっているという認識を絶えず持っていることの重要性が、本書を貫く一つのテーマである。
そしてその世界の仕組みをどのように知っていくか。ここで大事なのは、世界との経験とその中での自律した思想であるとされる。
「君は、水が酸素と水素からできていることは知ってるね。それが一と二との割合になっていることも、もちろん承知だ。こういうことは、言葉でそっくり説明することができるし、教室で実験を見ながら、ははあとうなずくことができる。/ところが、冷たい水の味がどんなものかということになると、もう、君自身が水を飲んでみないかぎり、どうしたって君にわからせることができない。誰がどんなに説明してみたところで、その本当の味は、飲んだことのある人でなければわかりっこないだろう」。
だから人間としてどう生きていくかは、「これは、むずかしい言葉でいいかえると、常に自分の体験から出発して正直に考えてゆけ、ということなんだが、このことは、コペル君! 本当に大切なことなんだよ。ここにゴマ化しがあったら、どんなに偉そうなことを考えたり、言ったりしても、みんな嘘になってしまうんだ」。
この視点を、現在実施されようとしている道徳教育にあてはめると、こうなるであろう。
「君は、小学校以来、学校の修身で、もうたくさんのことを学んできているね。人間としてどういうことを守らねばならないか、ということについてなら、君だって、ずいぶん多くの知識をもっている。/(略)しかし、—-君に考えてもらわなければならない問題は、それから先にあるんだ。/もしも君が、学校でこう教えられ、世間でもそれが立派なこととして通っているからといって、ただそれだけで、いわれたとおりに行動し、教えられたとおりに生きてゆこうとするならば、—-コペル君、いいか、—-それじゃあ、君はいつまでたっても、一人前の人間になれないんだ」。
「肝心なことは、世間の目よりも何よりも、君自身がまず、人間の立派さがどこにあるか、それを本当に君の魂で知ることだ」。
「立派そうに見える人」とほんとうに「立派な人」との区別、「君がいいと判断したことをやってゆくときにも、いつでも、君の胸からわき出てくるいきいきとした感情に貫かれていなくてはいけない」という指摘は、まさしく道徳教育の押し付けの限界を言い当てている。
こうしてコペル君はさまざまな体験から学んでいくが、そのクライマックスは、上級生からの制裁(リンチ、いじめ)に対して、その時には友人みんなで助け合おうと約束しながらも、しかし現実には恐怖のために足がすくんでついに動けなかったことから生まれた、コペル君の「自分が取りかえしのつかない過ちを犯してしまったという意識」である。自分で考え行動することの重要性を自覚していながら、なおも現実にはできない自分をどう扱うか。本書はこう述べる。
「自分の過ちを認めることはつらい。しかし過ちをつらく感じるということの中に、人間の立派さもあるんだ」。
「僕たちが、悔恨の思いに打たれるというのは、自分ではそうでなく行動することもでたのに—-、と考えるからだ。それだけの能力が自分にあったのに—-、と考えるからだ。正しい理性の声に従って行動するだけの力が、もし僕たちにないのだったら、何で悔恨の苦しみなんか味わうことがあろう」。
カントの道徳律に通じる問題である。この事件についてはそれぞれが読んでいただいて判断
される他はないが、まさしく現在的な問題提起でもある。
本書は、時代的な制約──本書の刊行は1937年(昭和17)という言論出版の自由が制限さ
れ、労働運動や社会主義運動が激しい弾圧を受けていた時代—-の中で、「偏狭な国粋主義や反動的な思想を越えた、自由で豊かな文化のあることをなんとかしてつたえておかねばならないし、人類の進歩についての信念をいまのうちに養っておかねばならない」(吉野「作品について」、岩波文庫所収)という思いのもとで書かれたものであるが、いままた本書を読む人々が増えていることは、現代が明暗両方の時代であることを映しているのであろうか。
(なお岩波文庫に付載の「『君たちはどう生きるか』をめぐる回想」で、丸山真男が本書の上級生のリンチ事件に関連して自分の経験を述べているが、これも興味深い文章である。)(R)

【出典】 アサート No.486 2018年5月

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【翻訳】更年期とアルツハイマー病

【翻訳】更年期とアルツハイマー病
(「Japan Times on April 20, 2018  By Lisa Masconi」より)

次の三分間に三人がアルツハイマー病を発症するであろう。そして、内二人が女性であろう。現在、5,700,000のアルツハイマー病患者が米国にいる。 2050年までに、おそらくその数は、14,000,000人になっているだろうし、そのうち男性より二倍が女性であろう。
しかし、未だ「女性の健康」の研究は、子供を生める健康さ(”reproductive fitness”)と乳癌に向かれたままである。 我々は、女性の将来の最も大切な局面に、もっと多く注目する必要がある、即ち、彼女たちの考えたり、思い出したり、想像したりする能力、そして頭脳に。
私が、この分野で最初に研究を始めたとき、アルツハイマー病は、悪い遺伝子や加齢、またはその両方による避けられない結果と考えられていた。今日、我々はアルツハイマー病は、複合原因によると理解している、即ち、年齢、遺伝や高血圧、それに日々の食事や運動を含む生活習慣/様式。今日、科学的に一致した見解として、アルツハイマー病は、必ずしも、年齢に伴う病気ではない、人々が40歳/50歳代になるとき、その頭脳で発病しうる。
我々が、ほんの今、知り始めていることは、何故に女性がより発症しやすいか、ということです。どんな要因が女性と男性では違うのか、とりわけ、我々が中年に達した時。
まずはっきりしていることは、繁殖力(“fertility”)でしょう。 女性は多様である。しかし、我々すべては、繁殖力の衰退と更年期/閉経 (”menopause”)の始まりを経験する。
更年期は、我々の子供を生む能力を遠ざける。寝汗、ほてり/のぼせ、子宮ではなく広く脳に起因する憂鬱/意気消沈の症状。これらはすべてエストロゲンの退潮 (“an ebb in estrogen”) によって引き起こされる。
私自身の労作を含む最近の研究では、エストロゲンは、女性の脳を加齢から守る働きがあることを示している。それは、神経の活動を刺激して、アルツハイマー病の発症に関係する斑点(“plaques”)の生成を防ぐことに役立ちうる。エストロゲンのレベルが下がると、女性の脳はより傷つきやすく、弱くなる。(“becomes vulnerable”)
この事実をはっきりさせるため、私の同僚や私は、健康的な中年の女性にPET**と呼ばれる脳の撮影技術を用いました。これにより我々は、神経の活動とアルツハイマー病の斑点を測定できました。その結果、更年期/閉経した女性は、そうでない女性に比べて、脳の働きは、活発さが低く、アルツハイマー症の斑点も多いことがわかりました。
さらに驚いたことには、このことは、閉経周辺期―更年期の兆しを経験し始めた時期の女性にも見られたことです。そして両グループの脳は、同年齢の健康的男性に比べてはっきりと違っていました。

よいニュースもあります。女性が40-50代になれば、PET診断によってアルツハイマー症
の早期のサイン/徴候を見つける機会が来る。そして、そのリスクを減らす対策が取れる。
ホルモン代用療法—女性に主に補足的にエストロゲンを与える—は、もし更年期/閉経前に与えられれば、症状を軽減できるという例証が増えている。我々は、ホルモン療法の効用と安全性を検証する研究をもっと多く必要としている。そしてこの療法は、いくつかの事例では、心臓病、血栓や乳癌のリスクを高めることにつながってきている。
恐らく、続く10年以内には、中年の女性にとっては、今日、乳房X線写真検診を受けているように、予防検診を受けて、アルツハイマー病への対処を行うことが規範となっていることでしょう。 同時に、食事療法が、女性における更年期(月経閉止期)の影響を軽減できることや、アルツハイマー症のリスクを最小限に食い止めうるであろうという研究も示されている。
多くの食物が、自然に体内で女性ホルモン(“Estrogen”)を産生するのに役立っている。即ち大豆、亜麻の種(“flax seeds”)、ヒヨコ豆(“chickpeas”)、ニンニク、杏(“apricots”)のような果物。そして特に女性は、抗酸化の働きがある栄養素を必要とする、即ち、ビタミンCとEでこれらはベリー類(strawberry, blueberry, blackberry, cranberry etc.),柑橘類、アーモンド、加工されていない、生のカカオ(“raw cacao”)、ブラジルナッツ(”Brazil nuts”)や多くの緑色野菜の葉で発見されている。
これらは、女性や医師にとっては第一歩である。しかし、我々は痴呆、認知症(“dementia”)を引き起こして、症状を悪化させるものが何であるかを知れば知るほどに、女性の脳について、関心やよりよい手当てが必要であることがよりはっきりしてくる。 女性の健康への広範囲な評価は、高齢(老齢)化する脳とそれを守ることにおけるエストロゲンの働きの完全なる探求や、特に女性におけるアルツハイマー症状の防止のための手立ての徹底した探求を求めている。

多くのものごと、要因が、一人の女性を比類なき、すばらしいものとしていることは、気付き、思い起こすまでもないことである。 我々(医師や医療研究者)は、アルツハイマー症のリスクがこれら女性を比類なきすばらしさとしているものごと、要因の一つではないということをはっきりさせまたその手助けのために働き日夜研究している。

* Lisa Mosconi :
is the associate director of the Alzheimer’s Prevention Clinic at Weill Cornell Medical Collage, and the author of “ Brain Food :
[訳:芋森]

【出典】 アサート No.486 2018年5月

 

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【投稿】満身創痍の安倍政権

【投稿】満身創痍の安倍政権
―外交ではすでに瀕死状態に―

官邸と官僚の共謀
3月27日、衆参両院予算委員会で、佐川前国税庁長官の証人喚問が行われた。
喚問で改竄の経緯や自身の関与について問われると佐川は「刑事訴追の恐れがある」として、55回にわたり証言を拒否し、真実を語ることはなかった。一方証言で強調したのは、改竄された文書について「首相官邸に報告しなかった」「改竄について首相や昭恵夫人、官房長官等、官邸から指示は無かった」という点である。
しかし、安倍答弁を聞いた佐川を含めた財務官僚が、改竄前の文書に「昭恵夫人」の記載があることを、官邸筋に伝え、「それはまずいよ」などとの意向、意思、あるいは感想を聞いたなら「行政的な指示」を受けなくても改竄するのが、政権に忠実な官僚の作業であろう。
逆に言えば問題がないのに、官僚が決裁済み文書を改竄することは考えられない。証人喚問で改竄の動機については一切明らかにならず、疑念はさらに深まることとなった。
これに対し政権は、喚問終了後菅が記者会見で「官邸は何もしていなかった」と強弁、29日には麻生が参院財政金融委員会で「日本の新聞はTPPについて一行も書かず森友ばかりだ」と暴言を吐くなど開き直りを見せた。
さらに自民党は28日の18年度予算成立を踏まえ、財務省に全責任を負わせる形で問題を公文書管理の在り方に矮小化し、それを改善することで幕引きを図ろうとし、4月に入ってからは安倍や麻生が出席する衆参予算委員会の開催を拒み続けた。
しかし、4月9日参院決算委員会で財務省は、森友学園用地のごみ撤去に関し昨年2月理財局職員が、「大規模な撤去作業が行われた旨の説明をしてほしい」と学園側弁護士に依頼していたことを認めた。これにより改めて8億円の値引きに関し、官邸の関与が濃厚となり政権の目論む早期収束は遠のくこととなった。
さらに翌日には、加計学園獣医学部新設に関し、柳瀬首相秘書官の発言として「本件は首相案件」と書かれた愛媛県作成の備忘録が示され、その後農水省でも同様の文章の存在が判明し、安倍の直接的関与が暴露される事態となった。
このように安倍ファミリーの醜悪な所業が次々と明らかになるなか、4月3日には、これまで存在しないとされてきた、陸上自衛隊がイラク派遣時に作成した大量の日報が見つかった。
2月に発覚した裁量労働制に関わる調査データの恣意的作成も含め、一連の事件で、公文書の取り扱いが不適切とか、個々省庁の管理問題ではなく、安倍政権が公文書を自らの都合に合わせ改竄、偽造、隠蔽させてきたという犯罪的行為が浮き彫りになり、官邸の意向に唯々諾々と従うままの官庁、官僚の実態も暴かれたのである。
この構造はまさに官邸と官僚の共犯関係を如実に表すものであるが、ここにきて官邸にとって不都合な文書が出てきたのは、一方的に罪をなすりつけられた官庁の抵抗であろう。

北からの援護射撃なし
安倍が自らの首を絞め、国会でもがき苦しんでいる中、その姿をあざ笑うかのように国際情勢は急展開を見せた。
3月25~28日金正恩が北京を訪問、習近平と中朝首脳会談を行い、朝鮮半島の非核化で一致するなど、関係修復をアピールした。この電撃的訪中を安倍は28日の参院予算委員会で「報道は承知している。情報収集に努めたい」と述べ、ニュースで知ったことが明らかとなった。アメリカは発表前に中国から報告を受けていたことを明らかにしたが、日本には知らされなかったのである。
日米連携のお粗末な内実がまたしても露呈したが、それにも増して外務省のインテリジェンスのレベルの低さが明らかになった。河野が3月31日「北は核実験の準備を進めている」と発言したのに対し、38Northは核実験場衛星写真を解析し「活動は極端に減少」と評価、河野はこれに異論を唱えたが、まったく説得力を待たかった。
安倍政権が右往左往している間に金正恩は、南北、米朝首脳会談に向け着実に地歩を固めている。3月30日IOCのバッハ会長が北朝鮮を訪問、金正恩と会談し、北朝鮮の東京オリンピック参加意向が確認された。
4月4日になり、電話でバッハから報告を受けた安倍は「拉致問題で国民感情があるので配慮してほしい」と懇願したが、IOCがそのような配慮をするわけがない。可能性として、安倍が開会式に出席できたなら、南北統一選手団により北朝鮮国旗が入場しない光景に安堵する以外は無いだろう。
焦りを濃くした安倍政権は4月11日河野を韓国に派遣、南北首脳会談で安易に妥協せず、日本人拉致問題を取り上げるよう、大統領、外相に注文をつけた。これに対し韓国政府は非核化を最優先とする対話重視の姿勢を示し、拉致問題の取り扱いも明言を避け、河野訪韓は徒労に終わった。
朝鮮半島情勢へのコミットが不発に終わる中、4月13日、米英仏の有志連合が空海から巡航ミサイル105発でシリア攻撃を実施、これも報道で知ったであろう安倍は「決意を評価する」と述べるのが精いっぱいであった。
この攻撃は欧米の喫緊の課題、ひいては国際社会の関心がシリア=中東情勢とロシアへの対応にあることを如実に示したものであり、安倍が吹聴して来た北朝鮮の脅威より、現実の脅威への対処が優先されたのである。
4月15日には中国から王毅外相が来日、河野、安倍と相次いで会談し日中関係の改善をアピールした。安倍は会談の際、王を同じグレードの椅子に座らすなど「厚遇」を見せたが、昨秋の総選挙勝利、トランプ訪日を経て居丈高になり韓国外相を冷遇した昨年末から、昨今の意気消沈さへの転落は滑稽である。安倍は王の前で足を組むことにより、暫しの優越感に浸るしかなかった。
懸案の日中韓首脳会談は5月9日に東京で開かれる見通しとなったが、この段階で李克強、文在寅両氏は金正恩と会っており情報は共有していることから、安倍の存在感稀薄化は免れないだろう。

訪米も成果なし
内閣支持率とアジアでの影響力低下に焦る安倍は、一縷の望みをかけて4月17,18日、日米首脳会談に臨んだが惨憺たる結果に終わった。
北朝鮮に対しては、最大限の圧力をかけ続けること、米朝首脳会談で拉致問題を取り上げることで合意したが、圧力云々は以前からの再確認に過ぎない。
拉致問題は「シンゾーにとって一番大事な問題だと判っている」とのリップサービスがあったが、本番の首脳会談での成果は望めないだろう。これらは本当に信頼関係があれば電話でも確認できることであるが、直接確認しなければ不安だったのだろう。
また安倍訪米中にポンペイオCIA長官が4月上旬に訪朝し金正恩と会談していたことがワシントン・ポストにより報道され、トランプは安倍に手の内を明かす気がないことが判った。
今次会談の最大の焦点は経済問題であったが、鉄鋼、アルミに係る制裁措置が撤回されなかったのは決定的打撃であった。さらにトランプは一時復帰を仄めかしたTTPは歯牙にもかけず、日米二国間交渉を要求、日米で新たな貿易協議の枠組みを設けるとして、文言は入らなかったものの事実上FTAへの突破口が開かれた。
実際の交渉窓口もこれまでの麻生―ペンスという形式的なものから、茂木―ライトハイザーという実務者協議に移行し、日本側は今後よりタフな対応を迫られることになった。
失意のうちに帰国した安倍を待ち受けていたなはさらなる打撃だった。18日には、セクハラ事件で福田財務事務次官が辞任を表明したが、官邸は訪米前に辞任させようとしたものの麻生の抵抗で頓挫、結局麻生がG20に向かう直前に引導を渡すと言う無様な結末となり、統治能力の低下が露わになった。
さらに同日、東方軍管区のロシア軍がクリル諸島の国後、択捉で2500人を動員する大規模な演習を開始、20日には同太平洋艦隊30隻が日本海で対艦、対空ミサイル試射を含む戦術演習を行った。
この間ロシアは日本のミサイル防衛に懸念を表明してきたが、イギリス、シリアでの化学兵器使用疑惑に関し、安倍政権がロシアと距離を置く(欧米に比べれば近いが)動きを見せたことも影響しているだろう。
さらにロシア海軍が演習を繰り広げている最中、人民解放軍の空母部隊が西太平洋に進出、艦載機の飛行訓練などを実施していることが確認された。
安倍は日中関係改善の流れの中、海空連絡メカニズムや佐官クラスの交流を進めているが、一方で「島嶼奪還」のための水陸機動団など中国を睨んだ部隊の新設、硫黄島への対空レーダー設置、新型対艦ミサイルの取得などを進めている。
図らずしも中露に挟撃された形となったが、これらは信義に基づくことなく、政権維持のための外交に終始する安倍自らが招いたものである。
追い打ちをかけるように金正恩は20日の労働党中央委総会で、核、ICBM開発中止と核実験場の放棄を表明、韓中露に加えトランプも「良いニュース」と歓迎、安倍や河野は「前向き」との評価を出さざるを得なかったが、河野の見立ては完全な誤りだったことが証明された。
北朝鮮は、既存の核兵器や短・中距離弾道弾の廃棄について表明していないとされているが、既存の核兵器が戦力化できているかアメリカは懐疑的であるし、スカッド系列のミサイルは韓国への脅威がより大きいわけであり、東アジアの全般的緊張緩和の課題である。米朝会談に向けた米中韓での調整は5月中に進む見通しであり、安倍支持者からも「訪米は焦りすぎた」との酷評も出ている。
こうしたことから政権は「内患外憂」で満身創痍になっており、この間の自治体選挙では自公候補の敗北が相次いでいる。これに焦燥感を抱く一部政治家、官僚、自衛官、さらにはネトウヨ、レイシストなど安倍親衛隊は議会、街頭で手段を選ばない攻撃に出ている。民主、平和勢力は真摯にテロへの警戒を強めなければならない。
そのためにも野党内の主導権争いにエネルギーを浪費することなく、市民運動、労働組合と連携し共同行動を推進しなければならない。そして当面6月10日にも予想される新潟知事選挙に統一候補を擁立し、勝利を目指すことが求められる。(大阪O)

【出典】 アサート No.485 2018年4月

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【投稿】中東からも東アジアからも撤退する「米国第一主義」のトランプ

【投稿】中東からも東アジアからも撤退する「米国第一主義」のトランプ
福井 杉本達也
1 シリア攻撃は失敗
4月14日(日本時間)、米英仏の3か国は国連の決議もなく、各国の議会の承認も得ないままシリアに対し、100発以上の巡航ミサイルによる違法な攻撃を行った。しかし、イランラジオ『Pars Today』は、イスラエルの新聞『イディオト・アハロノト』のインターネットサイトを引用して、「モサドの関係者の一人は西側の3ヶ国による今回のシリア攻撃はプロガンダを目的とした見せ掛けのものであることを認めると共に、『この攻撃におけるアメリカのトランプ大統領の目的は、シリアの化学兵器の面での力を消滅させることではなかった』」(2018.4.18)として、米国の同盟国・イスラエルさえも攻撃が失敗であったと認めたことを報道している。
また、米軍産複合体の雑誌『フォーリン・アフェアーズ』のコメンテーター: ギデオン・ラックマンは『FINANCIAL  TIMES』紙上において、「ロシアがアサド政権の後ろ盾になっていることも、米軍とロシア軍が衝突する危険性を高めている。…米国の介入は核戦争につながりかねない…米仏英による今回のシリア攻撃では、ロシア兵が死亡する可能性を極力抑えるよう慎重に計画された。」とし、「13日のミサイル攻撃でシリア内戦の趨勢がほぼ変わらないことが明らかになるに従い、今回の攻撃の重要性も薄れていくだろう。…中東で米国の覇権が衰えているという印象も変えることはできない。」(日経:2018.4.19)と結んだ。米欧べったり報道を常とする日経新聞でさえ「シリア、アサド政権優位動かず 首都近郊制圧を宣言」(2018.4.15)と報道せざるを得なくなっている。

2 シリア・アサド政権が化学兵器を使用というフェイクニュース
今回の攻撃の大義名分は4月7日にシリア首都ダマスカス近郊の東グータ地区・ドゥーマへのシリア軍の攻撃で猛毒の化学物質が使用され、43人が死亡したというもので(福井=共同:2018.4.12)、被害者とされる住民の映像を米日欧のマスコミは連日報道した。しかし、シリア・ロシアは、こうした報道をフェイクニュースとして否定し、化学兵器禁止機関(OPCW)に調査チームの派遣を要請したが、調査チームが現地入りする直前に米英仏はミサイル攻撃を強行した。
そもそも、アサド政権が化学兵器を使用したという根拠は何もない。陥落寸前の東グータ地区に対し、政権側から化学兵器を使用する動機も利益もない。AFPは「 シリアの首都ダマスカス近郊にある東グータ(Eastern Ghouta)地区で、市民ボランティアでつくる救助隊「ホワイト・ヘルメット(White Helmets)」が化学兵器攻撃を捏造(ねつぞう)したことを示す証拠だとされた一連の写真が、実際には映画の撮影現場を写したものだったことが分かった。AFPの事実検証ブログ「ファクチュエル(Factuel)」が明らかにした。」と報道した(2018.4.18)。また、共同通信は「シリア反体制派の人権団体幹部は12日、共同通信に対し、首都ダマスカス近郊東グータ地区での化学兵器攻撃について『アサド政権に抵抗する反体制派への支持を結集するため、でっち上げられた』と主張し、政権側が使用したとの見方に強い疑念を表明した。」(福井=共同:2018.4.14)と報道している。さらに、戦争プロパガンダ機関として有名なCNNさえもが「米軍などが13日に行ったシリア攻撃について、シリア政権が市民に対して神経剤のサリンを使用したという確証がないまま、米英仏がシリア攻撃に踏み切っていたことが、複数の関係者への取材で明らかになった。」(CNN:2018.4.18)と報道せざるを得なくなっている。

3 中東から撤退する米国
もともと、トランプ大統領はシリアから撤退するとツイートしながらなぜ今回の攻撃に至ったのか。ロシアのラブロフ外相は「ドゥーマ市で演出された化学兵器攻撃には英国が関与していることを示す証拠をロシアは山ほど握っている。「ホワイト・ヘルメット」は英国、米国他一連の諸国から資金を得ている」と指摘した(Sputnik日本:2018.4.20)。東グータ地区で最後まで降伏・撤退に抵抗したのはジャイシュ・アル・イスラムであり、指揮していたのはイギリスの特殊部隊SASやフランスの情報機関DGSEのメンバーで、MSF(国境なき医師団)が隠れ蓑として使われてきたとも報告されている(「櫻井ジャーナル」:2018.4.13)。ようするに東グータ陥落によって英仏の特殊部隊員が拘束されることを恐れて、米国をそそのかして攻撃に及んだといえる。したがって、米国の攻撃も恐る恐る、ロシアの「許す」範囲内に限定されたものとならざるを得なかったのである。20日、ラブロフ外相は「シリア攻撃に関連して米ロの軍当局者間で事前交渉があり、攻撃が及んだ場合に反撃する『レッドライン(越えてはならない一線)』について、ロシアが米側に通知していたことを明らかにした」(福井=共同:2018.4.21)。これが米英仏の巡航ミサイルがロシア対空防衛の守備範囲には1基も入らなかった理由である。しかも、ロシア軍の発表ではシリア軍がS-200などの旧式の防空システムとロシアによるジャミング(jamming)などを駆使して、ミサイル103発のうち、実に2/3にあたる71発を撃墜してしまったのである。米英仏軍の完敗である。シリア軍の防空圏内には米英仏軍機は恐ろしくて飛行できないことが明らかとなった。
「こうした中、ホワイトハウスのサンダース報道官は15日声明を出し、シリアに展開するアメリカ軍について、『トランプ大統領はできるだけ速やかに帰国させたいと明確にしている』として、早期の撤退を目指す方針を改めて示しました。」NHK:2018.4.16)と報道しており、米軍産複合体や旧宗主国である英仏の画策があり、ギクシャクした道をたどるものの、大筋において「米国第一主義」・中東からの撤退の流れは変わらない。

4 朝鮮半島からも撤退する米国
4月21日、朝鮮中央通信は核実験と大陸間弾道弾(ICBM)の発射を中止し、北部の核実験場を廃棄すると伝えた。これを日本の各TV局は朝番組の途中、緊急速報のテロップで流した。この間、安倍政権が「ミサイルが飛んでくる」と煽りに煽ってきた事態とは全く逆の事実ではあるが、まさしく、日本の一大事である。
津田慶治氏は、米朝首脳会談を「北朝鮮が核を放棄して、その代わりに、米軍は核弾頭とともに韓国から引き上げるということである。その裏で、トランプ大統領は、韓国が北朝鮮と対話する条件として米韓FTAの見直しを要求し、そこで米国が有利になる米国生産車輸入を無条件にすることと通貨介入を禁止することになった。韓国との経済交渉を韓国と北朝鮮の安全保障対話を条件にして取ったようなものである。経済と安全保障をリンクして取引化することが鮮明になった。韓国も北朝鮮の安い労働力を使えるので、このような経済取引でも有利になる。今後、朝鮮半島の南北は連邦制などの国家体系に移行することになるかもしれない。その一歩を見ているように感じる。そして、韓国は米国の同盟国から離れることになる。もう1つが、米国の鎖国化の一環と見るべきである。アジアからの米軍撤退をみることになる。大きく、時代が動いている。」(「国際戦略コラム」2018.4.1)といち早く分析したが、「朝鮮戦争の終結宣言」と「朝鮮半島の非核化」とは、まさにこのような状態をいうのである。米軍が朝鮮半島から撤退した場合、日本はどうするのか。

5 孤立を深める日本
元レバノン大使の天木直人氏は「驚いた。ここまで一方的で、不毛な日米首脳会談になるとは思わなかった。どんなに「日米同盟関係の結束」が強調されようとも、今度の安倍訪米は完全な失敗である。なにしろ安倍首相の訪米中に、ポンペイCIA長官が極秘訪朝していた事が明らかになったのだ。もはや圧力一辺倒の安倍首相より、はるか先をトランプ大統領は歩き始めていたということだ。私の予想通り、朝鮮戦争の終結まで視野に入れている。その一方でトランプ大統領は、TPPを否定して日米二国間協定を優先する事を明言した。不公正な日米貿易関係は容認できないと明言した。安倍首相は毎日、トランプ大統領のツイッターを見てから仕事を始めるべきだ。そうすれば、わざわざワシントンまで飛んで恥をかかなくてもよかった。」(天木:2018.4.19)と書いた。
在韓米軍が撤退する場合、日本に米軍が駐留している意味はない。遅かれ早かれ日本からも撤退することになろう。まして、孤島というロジスティックに問題のある沖縄に多数の軍隊を置いておく必然性はない。その肩代わりを自衛隊が担うというのは妄想に過ぎない。河野太郎外相は昨秋以降、「自由で開かれたインド太平洋戦略」と称して、オーストラリアやインド、スリランカなどを相次いで訪問し、中国の「一帯一路」戦略を包囲しようと画策し、カナダのバンクーバーで開催された21か国外相会合では、北朝鮮との国交断絶や北朝鮮人労働者の国外送還を呼びかけるなど極限の妄想外交を繰り広げたが、トランプ政権に鉄鋼の輸入制限の対象国とされるなど袖にされたことで、ようやく8年ぶりに「日中ハイレベル経済対話」を開いた。
軍産複合体の必死の抵抗もあろうが、トランプ政権の筋書きでは、衰退する覇権国家・米国は中東からも東アジアからも撤退していく。これは日本にとって第二の「ニクソンショック」である。しかし、属国の地位になれきった日本人にはその意味さえはっきり捉えられてはいない。白井聡氏はニーチェ・魯迅の言葉を要約して「本物の奴隷とは、奴隷である状態をこの上もなく素晴らしいものと考え、自らが奴隷であることを否認する奴隷である。さらにはこの奴隷が完璧な奴隷である所以は、どれほど否認しようが、奴隷は奴隷にすぎないという不愉快な事実を思い起こさせる自由人を非難し誹謗中傷する点にある。本物の奴隷は、自分自身が哀れな存在にとどまり続けるだけでなく、その惨めな境涯を他者に対しても強要するのである。」(白井『国体論 菊と星条旗』と書いているが、立憲民主党の枝野幸男代表が「シリア攻撃やむなし」(日経:2018.4.15)とインタビューに答えていることを見る限り自覚なき「奴隷」の闇は深いと言わざるを得ない。

【出典】 アサート No.485 2018年4月

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【投稿】東アジアの歴史的な転換点と安倍政権 統一戦線論(47)

【投稿】東アジアの歴史的な転換点と安倍政権 統一戦線論(47)

<<朝鮮半島「終戦宣言を経て平和協定の締結へ」>>
世界の、とりわけ東アジアの、戦争と平和をめぐる歴史を画することが期待される交渉、会談、駆け引き、つばぜり合いが朝鮮半島の非核化をめぐって展開されている。事態は、歴史的な転換点にさしかかっているとも言えよう。
4/20、朝鮮労働党の中央委員会総会が開かれ、金正恩委員長は、21日から核実験と大陸間弾道ミサイルの発射実験を行わないことを宣言、「我々にはいかなる核実験、中・長距離ミサイル、ICBM発射も必要なくなった」述べたと報道されている。
4/19、韓国の文在寅大統領は「北朝鮮は完全な非核化への意思を表明している」と述べ、南北首脳会談や米朝首脳会談を通じて南北や米朝との関係正常化に向けた合意の成立も難しくない、との認識を明らかにしている。4/20には、文在寅大統領と金正恩委員長、両者間のホットライン(直通電話)も開通している。
さらに、米中央情報局(CIA)のポンペオ長官が北朝鮮を極秘に訪れ、金正恩委員長がポンペオ長官に「完全な非核化」の意思を伝えていたとも報じられている。
4/27に行われる38度線の非武装地帯・板門店での南北首脳会談で、朝鮮戦争(1950年~53年休戦)の終結、終戦宣言・平和協定締結が一気に達成される可能性さえ現実化しつつある。文大統領も19日、「終戦宣言を経て平和協定の締結へと進まねばならない」と言明、「北朝鮮は国際社会に完全な非核化の意志を表明している」とし、南北・朝米首脳会談を通じて「65年間続いてきた休戦体制を終わらせ、終戦宣言を経て平和協定の締結に進まなければならない」と述べる事態の急速な進展である。韓国政府は「朝鮮半島の非核化と恒久的な平和定着への道しるべとなるよう」南北首脳会談の準備を進めている。
トランプ米大統領はこうした事態の進展に対して、「北朝鮮と世界にとって、とても素晴らしいニュースだ。大きな前進だ。我々の米朝首脳会談を楽しみにしている」、「朝鮮戦争はまだ終わっておらず今も続いている。南北は終戦に向けて協議する予定で、私も賛成している」「韓国は北朝鮮と会談し、朝鮮戦争を終わらせようとしている。私はそれに賛同している」「人々は朝鮮戦争が終わるとは思っていなかったが、今、それが進行している」と応じている。そして、すでに米朝首脳会談は「5月末か6月初め」に行われることが合意されている。
4/20、中国も外交部の華春瑩報道官が「中国は朝鮮半島が戦争状態を早く終息し、各国が朝鮮半島の平和体制を構築することを支持する」と明らかにしている。これによって、朝鮮戦争停戦協定の当事国である米・中が平和協定への転換などに対して公式に支持する意思が明らかにされたことになる。きわめて重要な前進であり、環境は整いつつあると言えよう。
しかし、文大統領は同時に「冷静に言えば、私たちは対話の敷居を越えているだけ」だとし、「南北だけでなく、史上初めて開かれる朝米首脳会談まで成功してこそ、対話の成功を語ることができるだろう」と述べ、「南北首脳会談ではまずは良いスタートを切り、朝米首脳会談の成果を見ながら、引き続き対話できる動力を見出さなければならない」と述べている。とりわけトランプ・金正恩、この両氏、ともに独裁者的な個人プレイに偏し、唐突で予測不能な移り気と不安定さが懸念される。その懸念をプラスに転じ、決裂と緊張激化を回避し、挑発と激高、罵り合いを避けさせ、対話を成功させ、逆行を許さず、着実、堅固に平和体制を構築するうえで、文大統領が述べるこの冷静さが最も必要とされよう。

<<「お前は国民の敵だ」>>
この重要な歴史的転換点に遭遇しながら、何の積極的な役割も貢献もせず、取り残されてきたのが安倍政権である。安倍首相は、むしろ逆に「北朝鮮との対話は意味を持たない」と何度も公言して水を差し、対話の努力を一切放棄し、緊張緩和の流れに掉さし、平和の構築ではなく、対話が挫折し、緊張が激化する方向へと事態を引き戻そうと必死にあがき、孤立してきたのである。
今年の2/8に行われた文大統領と安倍首相の非公開の日韓首脳会談の中で、安倍首相が「韓米軍事演習を延期する段階ではない。韓米合同軍事演習は予定通りに進めることが重要だ」と発言したことに対して、「この問題は私たちの主権の問題で、内政に関する問題だ。首相がこの問題を直接論じてもらっては困る」と、文大統領から内政干渉に類する発言に強い遺憾を表明されていたことが韓国政府側から明らかにされている(2/9)。
この安倍首相の内政干渉発言を、小西洋之参院議員(民進)が取り上げ、「文氏『内政問題』と不快感=安倍首相の米韓演習要請に日本国憲法下で他国に威嚇のための軍事演習を主張した総理は初めてだろう。また、北朝鮮からは長距離砲でソウルが攻撃可能であり、韓国が直面する脅威は日本の比ではない。まさに内政干渉そのものだ。」とツィートしていた(小西ひろゆき (参議院議員)@konishihiroyuki 21:33 – 2018年2月10日)。
4/16、その小西議員が参院会館前を歩いていたところ、ジョギング中の男が、現職自衛官であることを名乗った上で「小西か? お前は国民の敵だ。お前は気持ち悪い」などと執拗にののしり、同議員が「ここがどういう場所だか分かっているのか?」と問うと、自衛官は「何が悪いんだ。市民が国会議員に文句を言って何が悪いんだ?」と居直ったという。暴言の主は、統合幕僚監部指揮通信システム部所属のエリート将校、30代の3等空佐であった。統合幕僚監部は陸・海・空の3自衛隊を束ね指揮する中枢組織であり、しかも今回の日報隠しでは中心的な役割を担っている。この中枢組織に属する現職幹部自衛官の危険極まりない意識が、この暴言に直接反映されていると言えよう。そしてまた安倍首相の焦りが、この自衛官の暴言を引き出したとも言えよう。
問題はさらに、小野寺五典防衛相が4/17、一方で謝罪しながら、同時に「若い隊員でさまざまな思いもあり、国民の一人であるので当然思うことはある」とこの暴言を擁護したことである。現職の自衛官が、政権を批判する議員を「国民の敵」だと恫喝したこの問題の深刻さをまったく理解していないのである。気持ちは分かる、とでも言いたかったのであろう。「国民の一人であるので当然思うことはある」などと間の抜けたことを平然と言える小野寺氏は、シビリアンコントロール下の防衛大臣としては完全に失格である。期せずして表面化したこの問題は、「政権を批判する国民の敵に銃口を向けて何が悪い」という、戦前の軍事ファシズム体制下で首相や大臣を襲撃した二・二六事件、五・一五事件の青年将校と同じ意識、メンタリティが、安倍政権下の自衛隊で確実に醸成されている証左とも言えよう。決して、うやむやにさせてはならないし、小野寺大臣と河野統合幕僚長を即刻辞職させない限り、危険なテロとクーデターの芽は温存され、拡大さえしかねないであろう。その小野寺大臣は国会審議での追及を逃れるように日米防衛大臣会合出席で訪米。モリ・カケ疑惑、セクハラ擁護で窮地に立たされた麻生副総理・財務大臣もG20財務相会議でやはり逃げるように訪米。どちらも野党6党の徹底審議の要求を無視し、国会の承認も得ずに、まさに遁走である。

<<「立憲民主党の失格幹事長、福山哲郎へ」>>
そして、トランプ大統領に色目を使い、その戦争・軍拡政策と緊張激化政策に同調、いやむしろ煽ってきたつもりが、はしごを外され、対話路線で先を越され、あわてて泣きつくように訪米した安倍首相。4/17からの日米首脳会談で「拉致問題」を「なによりも重要」と再確認を要請、何とか受け入れられたが、さらなる武器購入と通商問題を二国間で協議する新たな枠組みを設置することを約束させられ、会談の成果を引っ提げて政権再浮揚というシナリオはもはや期待できないじり貧状態に安倍政権は突入したと言えよう。
4月15・16日におこなわれたNNN(日本テレビ)世論調査で、内閣支持率が26.7%を記録、前回調査で第二次安倍政権発足後最低となる30.3%をさらに3.6ポイントも下げて最低を更新。政権維持の危険水域と呼ばれる30%をついに切る事態となった。隠蔽・圧力・権力乱用をほしいままにしてきた安倍政権の崩壊・退陣のカウントダウンがいよいよ始まったのである。
しかしそれでもなお安倍政権が持ちこたえ、政権維持が可能だとすれば、それは対決すべき野党のふがいなさにあると言えよう。
『週刊金曜日』編集委員の佐高信氏が、同誌2018/3/30号で「立憲民主党の失格幹事長、福山哲郎へ」と題して、「4月8日に投開票される京都府知事選挙に自民党と公明党が推薦する前復興庁事務次官の西脇隆俊が立候補しました。それに民進党、希望の党、そして立憲民主党が相乗りしたと知って、開いた口がふさがりません。この間の立憲民主党のキャッチコピーは、福山が提案した『まっとうな政治』でした。それに共鳴して多くの人が票を投じ、立憲民主党は躍進したわけですが、京都府知事選で自民党と組むのは『まっとうな政治』ですか?最終的には代表の枝野幸男も了承したのでしょう。希望ならぬ絶望の党の前原誠司は、もう『終わった人』だからともかく、同じ京都育ちのあなたまで、それに乗っかるとはどういうことですか。いま、安倍(晋三)政治を倒そうと国会で対決しているのに、京都でその安倍と手を組む政治センスのなさは、上げ潮ムードの立憲民主党の幹事長として失格でしょう。自由党と社民党は自主投票だとか。せめて、そうすることはできなかったのですか。」と鋭く指摘されている。こうした政治センスのなさこそが安倍政権を延命させてきたのである。
同じことは共産党についても言えよう。2018/4/10付しんぶん赤旗は、「京都府知事選 福山氏得票44% 大健闘」と題して、「京都府知事選が8日投開票され、日本共産党も加わる『民主府政の会』と幅広い市民で結成した『つなぐ京都』の弁護士、福山和人氏(57)は、前回知事選で『民主府政の会』などが推した候補から約10万票増やし、31万7617票を獲得して大健闘しました。」、「蜷川民主府政が終わって以降で最高」「京都府政のあり方に新しい一ページを開いた」と絶賛しているが、そこまで肉薄し得たのであれば、なぜ野党共同統一候補の実現が出来なかったのか、またその実現への真摯な努力がなされたのかどうかが問われなければならないであろう。政治センスのなさは、統一戦線についてもいえることである。肉薄したとはいえ、その差は8万5千票以上ある。自民党関係者が「仮に京都で野党が共闘していたら、負けていたかもしれない」と深刻な受け止めを漏らしているとすればなおさら、それぞれの党のセクト主義や縄張り意識が払しょくされなければ、統一戦線は成果を上げられないのである。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.485 2018年4月

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【書評】 津島裕子『半減期を祝って』

【書評】 津島裕子『半減期を祝って』(2016年、講談社、1,300円+税)

「三十年後の世界を想像せよ、と言われると、それじゃ三十年前はどうだったのか、と反射的に考えたくなる」という文章で始まる短編である。
さて三十年前を思い起こすと、パソコンもファックスもなかった時代であった。それから三十年というとかなり長いが、しかし「生活の実感としては、本質的な変化があるように感じられない」。ということは「たとえばある日とつぜん、三十年後の世界に放り込まれても、さほど困惑せず、案外すぐに適応できるのではないか、と考えてしまう」ので、その三十年後の世界での話。
「三十年後の世界で、人口の多い某国がますます力をつけて、極東のニホンという国は競争力を失い、鎖国に近い状態に陥っているのかもしれない。国際的に孤立した軍事独裁国になっていて、国営テレビのニュースは毎回、必ず首相と国防軍の昨日一日の動静を長々と伝えてから、交通事故などのニュースをちょっとだけ流す。それでもひとびとの生活そのものは表面上、いつもと変わらない。だから一般的には、さしたる不満もない」。
主人公は三十四年前の原子力発電所の事故から逃れてきて、避難者用の超高層住宅で独り暮らしをしている老女であるが、ある日、閑散とした「超高層住宅のまわりで、ひとけのない商店街で、利用客が少なくなったので間引き運転されている山手線の駅前で」女性の声でアナウンスが流れる。
「みなさま、おなじみのセシウム137は無事、半減期を迎えました。正確にはすでに四年前、半減期を迎えていたのですが、今年は戦後百年という区切りの年です。(略)つぎの半減期はさらに三十年後です。しかし、それを待つまでもなく、さしものセシウムも137も当初の半分の量になってしまえば、もうこわがることはありません。(略)専門家の先生方によれば、実際に私たちが心配すべきなのは、このセシウム137だけなのそうです。(略)先般も、現場で大きな事故が起り、新しい放射性物質がばらまかれました。まだまだこのようなことは起りつづけるのです。とはいえ、半減期は確実に訪れます。せめて、今のうちにお祝いをしておきましょう」とお祝いの行事が知らされる。
老女は、この三十四年間時おり事故現場に近い家に戻っているが、「最初の三年間は戻れなかった。戻るな、と政府のひとたちに言われたので戻らなかった。そのあとは、どうか戻ってください、と言われた。でも戻らなかった」。それでもこのアナウンスの翌日、トウキョウから北の方角に向かう車の列が見られた。「春の行楽シーズンのはじまりでもあった」。
という状況で、事故現場に近い村には研究者や観光客が各国から訪れるようになった。平和な美しい風景が広がり、しゃれた高級ホテルや別荘やゴルフ場ができ、「毎日放射線量の計測を続けているのでかえって安心です、と売り込みをする」。そしてセシウムよりももっと半減期の長いプルトニウムのような危険な放射性物質が同時にばらまかれていることには、「楽観的な業界の人たちや観光客、そして政府も忘れたふりをつづけようとする」。
さて超高層住宅に流れるアナウンスは、毎日住民にさまざまなお知らせをしているが、ある日中学校の運動会の開催されることが知らされる。これを聞いて老女は顔をしかめる。
というのも、14歳から18歳の子どもたちを対象に、「四、五年前に、独裁政権が熱心に後押しをして、『愛国少年(少女)団』と称する組織、略して『ASD』ができ、それが熱狂的にもてはやされるようになった」という状況が出現しているからである。「子どもたちがむやみに入団したがるので、順番待ちの状態になっている。『ASD』をモデルにした漫画がこのブームを作り出したという話だった」。「『ASD』に熱中する子どもたちは、『神国ニホン、バンザイ!』とか、『われら神の子に栄光あれ』とか極端に神がかった、しかも、いかにも漫画的なことばを本気で口にしはじめる」。これに眉をひそめる親たちは引き留めようとするが、しかし18歳を過ぎれば今度は、男女を問わず国防軍に入らねばならないが、『ASD』出身者は優先的に幹部候補として扱われる。というわけでますます人気があおられる。
ところが「なんでも『ASD』にはきびしい人種規定があって、純粋なヤマト人種だけが入団を許されているというのだ。アイヌ人もオキナワ人も、そして当然、チョウセン系の子どもも入団を許されてはいないのだけれど、いちばん評価が低いのはトウホク人で、高貴なヤマト人種をかれらは穢し、ニホン社会に害毒を及ぼしているという。(略)つまり、トウホク人はいちばん危険な人種として、このニホンに存在しつづけてきたのだった。(略)学校でも、トウホク人の陰険邪悪な性格とその歴史を子どもたちに教えている。そして、トウホク人を放置しておけば、ヤマトを中心に栄えてきたニホンは必ず滅びてしまいます」と教師たちはくり返し主張するらしい。
このような『ASD』の子どもたちに課せられている役目というのは実は、反社会的人間—-その規準はよくわからないが—-を駆り出すことらしく、噂ではそのような人びとは、「病院」や「シャワー室」送りになるらしい。特に『ASD』の美少女たちはとても冷酷、残酷で、トウホク人の経営する商店を襲って、たった一晩で三千人ものトウホク人を「病院」に送り込んだ夜は、ガラスの破片がきらきらと光っていたということで、後に「翡翠の夜」と呼ばれるようになったが、襲撃はその後も続いた。
こうして「事故現場に近い村では、都会からなんとか逃げのびたトウホク人が住みつきはじめていた。政府の新しい方針で、事故現場に近い村では、例外的に、アイヌ人、オキナワ人、そしてトウホク人の定住を許すことになったらしい。そこに住んでいれば、事故現場の作業をさせてもらえる。けれど、医療上の支援は一切なく、さまざまな医学的検査だけが行われる。それでもかまわなければ、という条件付きの定住だという」。そしてトウホク人たちは、「シャワー室」の悪夢からは逃れられ、「なにかよくわからない希望を取り戻す」。が、「ある日、予想されていたことではるけれど、倒れてしまう。病院に運ばれ、隔離病棟でさまざまな検査を受ける。決して治療を受けさせてはもらえない」。
「この三十年、長かったのか、短かったのか。なにも変わってはいない、そんな気がする。けれど、なにもかも変わってしまった、とも老女は思う」。というのも、「今まで、なにも気がつかないふりをしてきた。気がつきたくない。なにかに気がついたところで、どうすることもできないのだから」。
近未来にしてはリアルすぎる短編は、こうしてわれわれに問題を百花繚乱的に突きつけて終る。作家津島佑子最後のメッセージである。(R)

【出典】 アサート No.485 2018年4月

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