【書評】『地図から消される街──3・11後の「言ってはいけない真実」』

【書評】 『地図から消される街──3・11後の「言ってはいけない真実」』
(青木美希、2018.3.発行、講談社現代新書、920円+税)

福島第一原発事故7年後のレポートである。問題が山積していることは周知の事実であるが、問題それ自体の風化も進んでいる。本書は原発の核心に迫る局面—-核の兵器への転用可能性──にスポットを当てる。
「原発は、核兵器にも転用できるプルトニウムを生み出す。プルトニウムはたまり続け、2016年末時点で、日本の保有量は約47トン。原爆約6000発分に相当する。非核兵器保有国としては最多だ」。
何故こんなことが可能なのか。「日米原子力協定」がその根拠である(2018年7月に自動延長)。これは六ヶ所村や東海村の施設で、原発の使用済み核燃料からプルトニウムを取り出す「再処理」を例外的に日本に認めるもので、六ヶ所村の再処理工場が稼動すれば、毎年最大8トンのプルトニウムが生産される。
これについて自民党の石破茂衆議院議員はこう語っている(『SAPIO』、2011年10月5日号)。「原発を維持するということは、核兵器を作ろうと思えば一定期間のうちに作れるという『核の潜在的抑止力』になっていると思う。逆に言えば、原発をなくすということはその潜在的抑止力をも放棄することになる」。
「潜在的核抑止力」—-これまで原発問題ではあまり表面に出なかった問題である。ここから見える「日本の核武装可能性」について、本書がインタビューする「元原子力村トップクラス」の「その人」は、こう語る。(発言の引用は必ずしも順序通りではない。)
(質問)「どれぐらい核兵器への転用が可能なのでしょうか」
「兵器に使える状態に加工してあるかどうか。どれぐらいのことをやれば元に戻して使えるかということですよね」
「これは書かれたら困るのであなたの胸に収めたほうがいいと思うが、『核武装したい』と国会で決めるなりしたら、そこから延々と時間がかかるわけではありません、ということ」。
(質問)「数ヶ月でしょうか?」
「1年もそこらもかからないということです」
「『日本は原子力発電をやりません』と言った瞬間に、足元がパーッと崩れる。原子力を持っているということと隣り合わせですから、『軍事研究』と『平和利用』とどこかに線引きができるはずがない。隣り合わせのところで、僕はいちばん近いところだったから」
この発言は、原発事故後も政府が頑なに原発再稼動を目指している「国策」の意図しているものを暴きだす。
さらにこの「国策」の下、原発事故によって避難した住民への施策=復興計画、避難指示解除、賠償打ち切りと矢継ぎ早に打ち出される政策が、実は「東電を守る」ためであったと指摘される。その理由が「原子力損害賠償法」であった。
原子力損害賠償法は、原子力事業者が「異常に巨大な天災地変」を除き賠償責任を負う(=「異常に巨大な天災地変」の場合には賠償責任がない)としている。当初東電は、原発事故がこの免責事項に当ると主張していた。しかし後に、自ら賠償するという方針に転換した。この転換の大きな理由となったのが「原子力損害賠償法」に関わる経産省の賠償責任逃れの姿勢である。すなわち東電に免責を使われると賠償問題が国に降りかかる。実際「事故後、東電を破綻処理し、すべてを賠償に充てるべきだとの意見もあった。しかし政府は、賠償させるためとして、東電の存続を決めた。その代わり経産省は、東電がつぶれないようにかばう」という筋書きである。本書は言う。
「その論理であれば、これまでの不可解な一連の動きが腑に落ちる気がした。/東電の賠償金の一部は、全国(沖縄を除く)の電気料金に上乗せして賄われてきた。/さらに2016年に経産省は、賠償金想定額を従来の5.4兆円から7.9兆円に増やした。増加分は、新たに電気代に上乗せされる国民負担2.4兆円を含む。新たな負担は原発と関係のない『新電力』まで含めて送電線の使用料(託送料金)に転嫁し、20年度から約40年間、毎年600億円ずつ集める。しわ寄せはいつも国民に来る」。
これは、原発事故の責任を「うやむや」にし、「復興」の名のもとに避難指示区域の解除を遮二無二推し進める政府の姿勢と重なる。
「賠償は打ち切られる。原発事故避難者用につくられた復興公営住宅に入居した人や多くの自主避難者が避難者数から除外され、数字の上では避難者数そのものが急速に減っている。避難指示区域が解除されると、避難者は『強制避難者』から『自主避難者』へと呼び名が変わり、そればかりか、『帰らないわがままな人たち』とレッテルを貼られるようになる」。かくして「被曝のリスクをどこまで引き受けられるかという判断は、すべて自己責任」として住民に押しつけられ、「復興」が進む。しかし根本的に問題は何一つ解決したわけではない。この現実を本書は、今一度警告する。(R)

【出典】 アサート No.487 2018年6月

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【投稿】開き直り腐臭漂う安倍政権

【投稿】開き直り腐臭漂う安倍政権
―国会逃げ切り~総裁三選を許すな―

傍観者安倍
4月27日、板門店で南北首脳会談が開かれ、朝鮮半島の非核化、朝鮮戦争の年内終戦を目指すことなどを趣旨とする「板門店宣言」が発せられた。
これに対しCVID(完全で検証可能、不可逆的な核兵器廃絶)に固執する安倍政権は、南北融和ムードを歓迎する国際的な潮流に、お得意の「印象操作だ」とも言えず、苦渋の面持ちで「一定の評価」をせざるを得なくなったが、「非核化への具体的な工程が不明確」「拉致問題解決に言及がなかった」など難癖をつけることを忘れなかった。
しかし今回の南北首脳会談は、朝鮮半島の非核化という大目的を達成するための重要なプロセスであることは疑いもない。非核化の具体策は米朝首脳会談で示されるべきものであるし、拉致問題は日朝2国間交渉で協議すべき課題である。
それらを、あげつらうように論難するのは、自らがこの間の動きに関与できていないことを証明するようなものである。事実板門店宣言では、平和構築に向け、米中を交えた多国間の枠組みで協議を進めることとされ、安倍政権は度外視されているも同然となっている。
会談直後の28日には、米韓大統領が電話会談を行い南北会談の報告と、米朝会談に向けた今後の方向性が協議された。安倍に対しては29日に電話があり、文在寅は、「北朝鮮が日本と対話する用意があることを明らかにした」と伝えたと言う。また金正恩が拉致問題について「なぜ日本は直接言ってこない」と発言したと一部では報じられた。
焦りの色を濃くした安倍は、南北会談以降「対話のための対話は無意味」との立場を投げ捨て、日朝首脳会談の開催に言及するようになった。首脳会談前の24日にも外務省幹部が自民党に対し、政府として日朝交渉を模索していることを明らかにし、日韓電話協議の後には安倍自身が、圧力を継続することの確認は無かったことを明らかにした。
安倍政権は、北朝鮮が日本からの経済支援を、喉から手が出るほど欲しがっており、それにより拉致被害者の帰国も不可能ではない、との幻想を国内にふりまいている。しかし、北朝鮮としては非核化の進展により中国、韓国、ロシアひいてはアメリカとの経済協力が実現すれば、さほど日本に期待するものはないだろう。経済支援はカードにはなりえないのである。
またそもそも、拉致問題の解決は朝鮮半島の非核化、緊張緩和の必須条件ではないのだから、北朝鮮としては余裕の対応ができる。また日朝国交正常化交渉が再開されたとしても「植民地支配の補償」を優先するよう北朝鮮は求めてくるだろう。
安倍は「私が司令塔」と大言壮語を吐きながら、自らの政権安定の為に拉致問題を利用しているにすぎない。安倍は4月22日、拉致被害者の救出を求める集会に出席したが「政務のため」途中退席し、「もう帰るのか」とのヤジを背に私邸に戻った。
安倍は菅直人を蛇蝎のごとく嫌っているが同じ目にあったわけである。むしろ菅は東日本大震災被災者=一般市民からの罵声であったが、安倍の場合は支持団体の会合での椿事であっただけに驚きが走った。
もっとも安倍は、熱烈な支持者であった籠池夫妻を国会で詐欺師呼ばわりしたかと思えば、手のひらを返したように「大阪都構想」反対に転じた人間であるから、今回のことぐらいは平気なのであろう。これほど好悪がストレートに行動に現れる総理大臣も珍しいと言えよう。

インド・アフリカで後退
国際社会の耳目が朝鮮半島に集中する中、安倍を外交的敗北が見舞った。南北首脳会談の当日、中国武漢市で中印首脳会談が開かれ、経済協力の推進、安全保障問題などが協議された。この会談は非公式なものであったが、モディ首相はこうした協議が今後継続していくことを希望したという。
安倍は「一帯一路」構想に「自由で開かれたインド太平洋戦略」を対置し、「帯路分離工作」を目論んでおり、インドをその要にしようとしている。しかしインドとしては、日中どちらか一方に肩入れするようなリスクを冒さないことは明らかである。安倍政権は価値観外交を吹聴しており、確かにインドとは女性に対する価値観では共通なのだろうが、日本が望むような同盟国にはならないだろう。
インド洋に於いては、中国が99年間の港湾管理権(事実上の租借地)を獲得しているスリランカに続き、モルディブにもその影響力が拡大している。今年2月モルディブで親中国派の現大統領が反政府勢力を弾圧した際、元大統領はインドに直接介入を求めたが、非難声明以上のものは出なかった。軍事的な制圧は可能であるが、政治判断が行われたと考えられる。
中国の影響力は一路の西端であるアフリカでも拡大している。外務省が昨年3月ケニア、コートジボワール、南アフリカの3か国で実施した世論調査の結果は惨憺たるものであった。
日本を最も信頼できる国としたのが7%であったのに対し、中国は33%と約5倍、現在の重要なパートナー国とされたのは日本28%、中国56%と2倍、さらに今後重要なパートナー国でも日本33%、中国48%という結果であった。
第2次安倍政権では、TICAD(アフリカ開発会議)が2013年(横浜)16年(ケニア・ナイロビ)で開かれ、このほかにも安倍はエチオピア、モザンビーク、コートジボワール、ジブチを訪れ莫大な支援を行ったが、それに見合うような成果は無かったと言えよう。
唯一ジブチには自衛隊初の海外基地が存在しているが、もともとは菅政権時に開設されたものだけに、安倍としては素直に喜べないだろう。
そのジブチでも中国の存在は大きくなっている。昨年設けられた海外初の中国軍基地には装輪戦車など重火器が配備されており、この5月中旬には同国の砂漠地帯で実弾射撃演習が行われた。
中国軍が重装備を配置するのは、2016年7月に南スーダンの首都ジュバで起こった大規模な戦闘の戦訓である。陸自日報問題の原因ともなったこの戦いでは、巻き込まれた中国PKO部隊が戦車の砲撃を受け7名が戦傷死した。こうした事態に対応するための措置ではあるが、不要な緊張を生む可能性もある。
5月初旬には同基地から照射されたとみられるレーザーで、アメリカ軍輸送機の操縦士が負傷する事件が発生するなど、アフリカの角の一角で米中の蝸牛角上が惹起しようとしている。
南スーダンの戦闘で、中国はより積極的にアフリカへ関与する方向に進み、日本は戦闘の隠蔽を続けていたものの、安倍の「南スーダンで犠牲者が出たら辞める」発言で慌てて撤退した。これは為政者の短慮な発言に官僚機構が忖度し、政策、決定が歪められると言う、森友事件の構図と同じである。これは結果(撤退)良ければ全てよしと言うわけにはいかないだろう。
こうしてアフリカにおける日中覇権争いの帰趨は事実上決した。外務省の3か国調査は、陸自が“あとは野となれ山となれ”と言わんばかりに撤退を開始した時期と重なるが、これが回答に影響を及ぼしたかは定かではない。インド洋、アフリカで地歩を後退せざるを得なくなっているなか、「自由で開かれたインド太平洋戦略」は早くも空洞化しつつある。

失政糊塗し逃げ切りへ
イスラエル、パレスチナの和平になんら寄与することのなかった中東歴訪から戻った安倍は、5月4日習近平に頼み込む形で初の日中電話協議を行った。これは孤立感を深める安倍が、朝鮮半島情勢への関与を演出しようとしてのパフォーマンスであるが、ついに習に頭を下げざるを得なくなったのである。
こうしたなか、8日には李克強が、9日には文在寅が初来日し日中韓首脳会談が開かれた。表面上は北朝鮮への対応で歩調を合わせることで一致したが、発表が日付の変わる直前までずれ込んだ共同宣言でのCVIDの表現は見送られた。安倍政権としては、拉致問題の対話による早期解決が盛り込まれたことが唯一の成果となった。
しかし、国際社会はアメリカのイラン核合意からの離脱、ポンペイオ国務長官の再訪朝と拘束された3名の解放、6月12日、シンガポールでの米朝会談の発表等、トランプ政権の動きに注目し、日中韓首脳会談は霞んでしまった。
10,11日安倍は中国側の要請で、李克強をエスコートする形で北海道内視察に同行、最大限の厚遇を示し、9日の日中首脳会談では年内に訪中することで合意するなど低姿勢に終始した。この間トランプから電話があり「日本はビッグプレイヤーだ」と持ち上げたと言うが、意気消沈する安倍への慰めだったのだろう。
このような朝鮮半島の緊張緩和、中国との関係改善の流れの中、本来は見直されるべき軍拡が一層進行している。小野寺は15日の記者会見でイージス・アショアの配備候補地が秋田、山口両県であることを公式に認め、関係自治体への説明を行うことを明らかにした。
また政府が件のジブチ基地の機能強化を計画し、今年末に策定する新防衛大綱に盛り込むことが判明した。日中関係改善とは裏腹の動きであり、悪あがきの様な軍拡競争は日本を疲弊させるだけである。
国際情勢が急展開を見せる中、安倍はそれへの対応と称し、国内課題は終了したかのように、訪露、G7と外遊に勤しみ国会は与党ペースとなっている。森友、加計事件は疑惑を残したまま幕引きが図られ、「働き方改革法案」も採決強行が窺われている。
外交で低姿勢になるほど、内政で高圧的なるのが安倍政権の常であるが、現在は外交での存在感が希薄な分だけ、国会対応は常軌を逸した強引なものとなっている。安倍は支持率が低迷していた4月には「膿を出し切る」などと殊勝な発言をしていたが、今では追及に開き直り膿は溜まり続け腐臭を放つまでになっている。
第2次安倍政権下で開かれた、14回の国会での延長総日数は114日であるが、2015年の戦争法案国会の95日を除けば、延長されたのは2回(それぞれ2日、17日)のみであり、多くは数の力で押し切った形となっている。
15回目となる今国会も、秋の自民党総裁選を見越し6月20日での閉会は当然のように語られている。その意味で6月10日の新潟知事選は益々重要となっており、安倍の逃げ切りを許してはならないのである。(大阪O)

【出典】 アサート No.486 2018年5月

 

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【投稿】「米国第一主義」を掲げる中、世界は基軸通貨ドルからの離脱を目指す

【投稿】「米国第一主義」を掲げる中、世界は基軸通貨ドルからの離脱を目指す
福井 杉本達也

1 第二次ニクソン・ショックが始まった
「米国第一主義」を掲げるトランプ米大統領は3月8日、鉄鋼とアルミニウムの輸入増が安全保障を脅かしているとして、輸入制限を発動する文書に署名した。それぞれ25%と10%の関税を課すが、通商交渉や軍事負担で米国に譲歩した国は適用を除外するとして、安全保障もからめて貿易戦争を宣告した(日経:2018.3.10)。それ以降、韓国と北朝鮮の安全保障対話を条件にして米国生産車輸入を無条件にすることと通貨介入を禁止することとした米韓FTAの見直し、カナダ、メキシコとのNAFTAの再交渉、EUとの貿易協議入り、中国との通商交渉など世界的な貿易戦争が繰り広げられている。こうした中、 米紙ウォルストリート・ジャーナル(WSJ、電子版)は5月13日までに、トランプ米大統領が米国への輸入車に20%の関税を課すことや、米国生産車より厳しい排ガス規制を適用することを提案したと報じた(福井=共同 2018.5.14)。 世界の年間の自動車市場9600万台のうち米市場は1700万台規模で中国に次ぐ市場である。トヨタはカナダとメキシコ、日産はメキシコに米国向け輸出工場を持つ。また、日本からの輸出はトヨタで年間70万台規模、日産も高級車など30万台以上であり、日本の自動車メーカへの影響は極めて大きい(日経:2018.5.15)。

2 米中の貿易摩擦と中国通信大手ZTEへの制裁
5月17日から米国と中国の貿易摩擦を巡る2度目の公式協議が始まった。米国は中国通信大手:中興通訊(ZTE)への制裁もからめて貿易赤字削減の圧力を強めている。ZTEは米国の制裁により、米国企業からの部品の供給が止まり、スマホの販売が事実上停止に追い込まれたと報道されている。
米国は世界の資金の流れや、IT産業の頭脳部分を支配しており、その影響力を活用している。4月以降の標的は、ロシア経済制裁の一環としてのロシアのアルミ大手ルサールと米中貿易摩擦の取引材料としての中国の通信機器大手:ZTEである。米財務省は金融の健全性を脅かす存在であるとみなした外国の銀行に対し、ドル建て決済を禁止できる。国際銀行間の国際決済ネットワークの送信情報を入手して資金の足取りを追えることとなった。多数の銀行は、米国が制裁を科した企業や個人、国家との取引を控えることとなる。通信機器世界4位、時価総額170億ドルのZTEへの制裁理由は米国の制裁対象国イランと北朝鮮と取引していたことであり、同社もそれを認めている。

3 ほころび始めた米国の経済制裁
ところが、伝家の宝刀たる米国の経済制裁が全く機能しなくなっている。ロシア:アルミ大手ルサールに対する制裁を発表した直後の4月23日、米財務省はルサールに対する制裁を5か月間猶予せざるを得ないと発表したのである(日経:2018.4.25)誤算はルサールからのアルミ供給の減少観測が広がり価格が高騰したことにある。ルサールは世界アルミ供給の1割を占め、自動車や航空機産業まで幅広い産業に影響が及ぶ。「グローバル企業は生産拠点の国際分業を進めておりロシアを企業活動から完全排除するのは難しい。」(日経)ロシア経済に打撃を与えようとしたことが米国の経済にすぐさま跳ね返ってきたのである。
そして最も肝心な点をThe Economist紙は「各国はいずれ米国の制裁を逃れる方法を見つけるという点だ。ルサールの現状を見れば、米国のお墨付きが得られなくても生き延びるために何が必要かがよく分かる。つまり、半導体にグローバルな通貨と決済システム、格付け機関、商品取引所、大量の国内投資家、そして海運会社だ。中国は今、これら全てを手に入れようと画策中だ。米国は新型兵器を使うことで、その威力を誇示できても、同時にその相対的な衰退をも加速させることになるだろう」(日経:2018.5.9)と要約している。
さらに極めつけは、「米国がロシアにソユーズ宇宙船を注文!どうしてもロケットエンジンを製造することができず、ボーイングが契約に署名へ」(Sputnik:2018.5.18)という事実である。米国はロシアに対する経済制裁を行っているはずであるが、ミサイルの根本部分であるロケットエンジンをロシアから購入しているのである。ロシアのロケットエンジンを積んだミサイルでロシアを核攻撃するなどという冗談も飛び出すほどに軍事の根本的部分でロシア依存が深まっているのである。「なぜロシアのロケットエンジンを買わないといけないのか!」とジョン・マッケイン上院議員が激怒したが、作れないものは作れないのである。

4 米国のイラン核合意からの離脱の狙い
トランプ大統領は5月8日、英仏独中ロの6か国とイランが2015年に合意したイランの核合意から一方的に離脱し、イランに対する経済制裁を再開する大統領令に署名した。制裁が発動されれば、米国企業ばかりでなく、仏石油大手トタルによるガス田開発など欧州企業へも影響する。既にトタルは「ドル建ての資金調達が失われる事態になれば耐えられない」として、撤退の意向を示している。しかし、その穴埋めを中国最大の石油・ガス会社:中国石油天然ガス集団(CNPC)が引き受けるとしており、もし、欧州企業が制裁で抜けることとなれば、中国企業にその座を奪われてしまう。ロシア上院のマトヴィエンコ議長は「本合意からの離脱はEU経済を自国に従わせようという米国の更なる試みだろう。なぜなら多くの欧州企業がイランで事業を展開しているからだ。」と米国の真の狙いを指摘している。イランと英仏独、EUは15日、ブリュッセルで外相会合を聞き、米国抜きでも核合意の堅持を目指す方針を確認した。欧州連合(EU)は、イランからの石油購入のためにユーロへの支払いに切り換える予定で、米ドル取引を廃止すると外交筋は語っている(Sputnik:2018.5.16)。
2003年、米国がイラク戦争に踏み切った最大の理由は、イラクのフセイン政権が2000年11月に同国の石油取引をドル建てからユーロ建てに変更したことである。また、リビアのカダフィ政権を倒したのも、カダフィが自国の金を裏付けにアフリカの統一通貨構想を練っていたからと言われる。1971年8月15日の金・ドル交換停止のニクソン・ショック以降、金との裏付けがなくなり、単なる紙切れとなった米ドルを世界通貨として支えてきたものは、米国の巨大な軍事力と、ドルによってしか取引できない石油の存在にあった。しかし、その特殊な取引が、2018年3月の中国上海の元建て石油先物市場の開設やロシア=中国のパイプラインによる直接取引によって確実に解体しつつある。米国のイラン核合意からの離脱は、米国の狙いとは裏腹にドル覇権の衰退を益々加速している。

5 『暴論』?「円を捨てて人民元に」
外貨準備の中で、金の保有高を増やす動きが続いている。突出するのがロシアと中国で、2018年3月時点における過去10年間の保有増加量はロシアが1,423トン、中国が1,242トンとなっている。結果、ロシアは1,880トンで世界5位、中国は1,842トンで6位に浮上している。この外、トルコが475トン増やし、591トンで10位などとなっている。エルドアン政権と米国の関係は2016年7月のクーデター未遂事件以降冷え込んでおり、トルコ中央銀行は2017年末には米連邦準備制度から、自行の金準備26トンを回収している(Sputnik:2018.4.20)。また、欧州でも、ドイツ連銀は2013年に米国と仏に保管している保有金674トンを2020年までに連銀金庫に移すと発表した。2008年のリーマン・ショックと、その経済恐慌を抑えるべく、FRBが行った空前の量的緩和政策の結果、ドルの信認は低下し続けている。
ニクソン・ショック以降、ドイツと日本は、常に黒字国として米国から黒字是正を迫られ、脅しに曝されてきた。ドイツは2000年以降、ユーロという護送船団方式に逃げ込んだのに対し、日本は依然、米国の圧力にさらされ続けている。日経のコラム『大機小機』において、ペンネーム(玄波)氏は「暴論 円を捨てて人民元に」と題して、「日本が円高の脅しから逃れるには、円を捨てて、アジアの人民元等の共通通貨に入ることも選択肢だ。もちろん、そんな暴論が実現できる国際環境ではないだろう」がとしつつも、それでも「ドイツのような隠れみのをアジアで構築すべく対応すべきなのか。岐路にさしかかっている。」と書いている(日経:2018.5.10)。
トランプ大統領は3月末、「こんな長い間、米国をだませたとほくそ笑んだ日はもう終わりだ」と安倍首相を名指し、多額の貿易赤字を長年抱える日本を批判した。4月18日に訪米した安倍首相との共同記者会見においてトランプ氏は 、対日貿易赤字の是正のため「一対一の交渉を望む」と表明した。これではまずいと判断したのであろう、5月9日、中国李克強首相が7年ぶりに来日し、ようやく日中首脳会談が実現した。2010年9月、当時の菅直人民主党政権下での前原誠司国交大臣主導の海上保安庁挑発による尖閣諸島での中国漁船衝突事件~2012年9月の野田佳彦内閣での国有化以来ギクシャクした関係にあった日中関係は、防衛当局間の相互通報体制「海空連絡メカニズム」を6月から始動するとして、関係改善ヘ尖閣諸島の問題を再び棚上げして政治決着することとなった。いったいこの8年間は何だったのか。
「米国第一主義」のトランプ政権下で「日米同盟のさらなる強化」を叫ぶことは日本の権益を全て米国に差し出すことである。これ以上の分かりやすい売国スローガンはない。1997年アジア通貨危機直後、「ミスター円」と呼ばれた榊原英資はアジア版IMF(アジア通貨基金)を構想したが米国のサマーズに潰された。あれから20年、中国のGDPは日本を上回った。「暴論 円を捨てて人民元に」というアジア版共同通貨構想を考える時期である。
【出典】 アサート No.486 2018年5月

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【投稿】ボルトン=安倍路線と米朝首脳会談 統一戦線論(48)

【投稿】ボルトン=安倍路線と米朝首脳会談 統一戦線論(48)

<<「金委員長は非常に裕福になるだろう。」>>
6月12日、シンガポールで予定されている米朝首脳会談は、その雲行きが怪しくなってきている。トランプ・金正恩、両首脳、ともに唐突で予測不能な移り気と不安定さが懸念され、駆け引き、つばぜり合いがそのまま緊張激化にもつれ込む現実的な可能性さえ予測されている。緊張緩和ムードから一転、核戦争まで引き起こしかねない武力衝突の危機へと再び後戻りしてしまう可能性である。安倍政権が、9条改憲と政権延命のために米朝首脳会談の決裂を最も期待し、決裂促進に加担している事態の成り行きは、予断を許さない状況である。
しかし、4/27に行われた文在寅・韓国大統領と金正恩・朝鮮労働党委員長が合意した「朝鮮半島の平和と繁栄、統一に向けた板門店宣言」は、歴史を画する平和と緊張緩和・協力と連帯の宣言である。この宣言を踏みにじることは誰にも許されないし、歴史への反動でしかない。
同宣言は、「非正常的な現在の停戦状態を終息させ、確固たる平和体制を樹立することはこれ以上先送りできない歴史的課題」ということを明確にし、「休戦状態の朝鮮戦争の終戦を2018年内に目指して停戦協定を平和協定に転換」することに合意し、両首脳はこのための具体的な方法として「南北交流、往来の活性化」、「鉄道、道路の南北連結事業の推進」、「相手方に対する一切の敵対行為を全面的に中止」すること、そして「南・北・米3者」または「南・北・米・中4者」会談を積極的に推進することにも合意したのである。
この朝鮮半島南北首脳の画期的な宣言をもはや無視することが出来なくなったトランプ政権も、混乱し迷走を深める自己の政権浮揚のためでもあろう、朝鮮戦争の終結を支持し、歓迎の姿勢を明らかにしたのであった。トランプ大統領は、「金委員長は非常に裕福になるだろう。北朝鮮住民らはとても勤勉だ」、「産業の側面からすると、『韓国モデル』になるだろう」とまで述べた。そして、マイク・ポンペオ米国務長官は、再度、平壌を訪問し、北朝鮮が完全な非核化に合意した場合、米国の民間企業の対北朝鮮投資を認め、制裁を緩和すると発表した。5/11には、果敢かつ迅速な非核化の見返りとして、「韓国レベルの繁栄」を約束し、具体的な見返りまで公約した。

<<「悪魔の化身」「人間のくず、吸血動物」>>
しかし、こうした事態の進展を苦々しく思い、軍産複合体の利益を代弁し、軍事緊張の激化を期待する勢力、好戦勢力の巻き返しは、とりわけトランプ政権に顕著である。
この4/9にトランプ政権の国家安全保障補佐官に就任したばかりのジョン・ボルトン氏は、「狂犬」といわれるマティス米国防長官でさえ、「悪魔の化身」と呼ぶほどの好戦派・強行介入路線一辺倒の人物、ネオコン派筆頭格の人物である。
ボルトン氏は、補佐官就任後も、朝鮮半島の非核化について、リビア・モデルを強硬、かたくなに主張している。氏の言うリビア・モデルとは、核兵器開発をまず一方的に放棄させること、そして直ちに核関連装備を米国テネシー州のオークリッジにすべて移送させることが優先事項であり、リビアをモデルにするということは、その後に傭兵を送り込み、アメリカ配下の軍隊が空爆して、政権を崩壊させるというシナリオである。ボルトン氏は、何ら恥じることなく、中東を大混乱に陥れたイラク戦争を正当化し、現在ではイランや北朝鮮への先制攻撃を主張し続けている。そして現実に、トランプ政権はイラン核合意から一方的な離脱を表明し、対イラン制裁を復活させ、イスラエル、サウジアラビアを巻き込んだ対イラン戦争の開始を虎視眈々と狙い、踏み出そうとしている。
5/16、こうしたトランプ政権の「リビア・モデル」路線に対して、北朝鮮側はまず、この日に行う予定だった南北高官協議について、協議の代表団を率いる李善権・祖国平和統一委員長名で無期延期とすると韓国側に通知。朝鮮中央通信は同日、米韓軍の戦闘機100機以上が行っている米韓合同空軍演習「マックスサンダー」は、「良好に発展する朝鮮半島情勢の流れに逆行する意図的な軍事挑発だ」と非難した。同演習に初めて参加するF-22が敵のレーダー網をくぐりぬけて浸透し、核とミサイル基地など核心施設を精密打撃できる能力を持ち、敵の核心指揮部を除去するいわゆる「斬首作戦」の遂行に最も適した機種だとされている。朝鮮中央通信は、このF-22を具体的に挙げたのであった、
続いて、同じ5/16、北朝鮮外務相の金桂冠・第1外務次官が、「トランプ政権が一方的な核放棄だけを強要しようとするなら、近づく朝米首脳会談に応じるかどうか再考慮するほかない」との談話を発表したのである。その際、金第1外務次官は「これは大国に国を丸ごと任せきりにして、崩壊したリビアやイラクの運命を尊厳高い我々の国家に強要しようとする甚だ不純な企ての発現」と述べたのであった。そして、「朝米首脳会談を控えた今、米国で、対話の相手を甚だしく刺激する妄言が次々と飛び出している」と主張し、「ボルトン(補佐官)らホワイトハウスと国務省の高官は『先に核放棄、後で補償』方式に言及し、『リビア核放棄方式』だの、『完全かつ検証可能で不可逆的な非核化』だの、『核、ミサイル、生物・化学兵器の完全廃棄』だのと主張している」と、ボルトン氏を名指しして、不快感を表明したのであった。金第1外務次官はまた、米国の敵対視政策の中断だけが先決条件だと明示しながら「我々は米国に期待をかけて経済建設をしようとしたことはなく、今後もそのような取引は絶対にしない」と明らかにした。
これに対してボルトン氏は「私は連中に人間のくず、吸血動物、醜い男と呼ばれてきた。慣れている」と反撃し、「見返りを期待する北朝鮮との際限ない協議に引きずり込まれるという過去の失敗は繰り返さない」と語り、いつでも交渉を打ち切る用意があると強調したのである。

<<「関係正常化は北朝鮮の利益になるだけだ」>>
米国側の意図を見透かされたトランプ政権は、あわてて事態の収拾に乗り出さざるを得なくなった。米朝首脳会談が始まる前から頓挫してしまったのでは、トランプ政権の意図する方向と相反するからであろう。
5/17、トランプ大統領は、ホワイトハウスで記者団に、「リビアモデルは北朝鮮に対して(適用を)全く考えていない」と明言し、「リビアモデルは完全な除去だった。我々はリビアを焦土化させ、カダフィ大佐を除去した。我々がカダフィ大佐に『あなたを保護する』、『軍事力を与える』と言ったことはない」、「リビアモデルは(北朝鮮とは)全く異なる」と述べ、「金正恩体制の保障」まで明らかにした。トランプ大統領は、「喜んでさまざまなこと(体制保障)をするつもりだ。会って何か結果が出たら、彼は非常に強力な保護を受けることになる」と述べ、「金正恩がその国に留まりながら、その国を運営する方式になる」と具体的に説明し、「合意が実現すれば、彼はとても幸せになるだろう」とバラ色な世界を描いて見せた。今回、「体制安全保障」という原則を初めて明確に公言したのである。トランプ氏にとっては、まずは米朝首脳会談を正常な軌道に戻させることが必要であり、ボルトン氏を当面は黙らせることが必要だと判断したのであろう。
しかし同時に、トランプ大統領は「合意を成し遂げなければ、リビアのようなことが起こるかもしれない」と脅してもいる。背後にボルトン氏の路線が控えていることを、トランプ氏自ら明らかにしたとも言えよう。
ここまできて明らかになっていることは、朝鮮半島が、そして東アジアが、そして中国、ロシアを含めて善隣友好関係が築かれ、平和になっては困る勢力が米支配層の中にはっきりと存在し、戦火の火種が温存され、いつでも再発火される事態を常に作り出そうとしていることである。米朝首脳会談をめぐって、まさに戦争と平和をめぐる激しいつばぜり合いが展開されているのである。その中で、この緊張激化路線を最も熱心に追及しているのが、安倍政権であり、安倍首相の発言は、ボルトン氏の発言とほぼ同一である。
「関係正常化は北朝鮮の利益になるだけだ」、この発言はボルトン氏のものであるが、同時に安倍首相の発言であるとも言えよう。「見返りを期待する北朝鮮との際限ない協議に引きずり込まれるという過去の失敗は繰り返さない」、これも安倍首相の発言とそっくりである。「最大限の圧力」、「対話など無意味」、「話し合いは無駄」、そして「先制攻撃」、いずれもボルトン=安倍路線を象徴するものであり、本質的には米朝首脳会談を壊しにかかっている路線である。

<<安倍政権にとっての悪夢>>
退陣間際に追い込まれている安倍政権にとっては、米朝首脳会談の成功ではなく、決裂こそが最善なのである。成功すれば、それが導き出す朝鮮戦争の終結と平和協定への転換、鉄道、道路の南北連結事業の推進、「南・北・米・中4者」会談の実現、それらを通じた東アジアの平和構築、諸国間の善隣友好関係の実現、軍事的緊張の解消、段階的な軍縮の実現は、これらに敵対し、緊張激化を常に策動し、憲法9条の改悪と軍備拡大路線、辺野古新軍事基地強行を推し進めてきた安倍政権にとっては悪夢なのである。だからこそ、安倍首相はボルトン氏と軌を一にし、響き合っていると言えよう。
逆に言えば、安倍内閣を退陣に追い込むことが、ボルトン=安倍路線を挫折させ、東アジアの緊張緩和と平和の構築にとって最大の貢献をなしうる情勢の到来とも言えよう。野党共闘と統一戦線のより一層の前進が、東アジアのみならず、世界平和に大きく貢献できる好機でもあり、国際主義的な義務でもあるとも言えよう。
新潟県の米山隆一前知事の辞職に伴う5/24告示、6/10投開票の知事選、立候補を表明した池田千賀子県議を支える「オール野党共闘」の枠組みが、立憲民主、民進、共産、自由、社民の各党と、市民団体による「市民の思いをつなぎ、にいがたで女性知事を誕生させる会」、そして今回は連合新潟まで参加して形成された。前回知事選よりも、体制としては大きく前進したと言えよう。
対する争点隠しを公言する自民・公明候補は、二階俊博・自民幹事長が運輸大臣だった時の秘書官であった国交官僚の花角英世・海上保安庁次長である。但し公明は、「国政の代理戦争化を避けるため裏方に徹する」として自主投票とする方針であり、さらに県市長会(会長・久住時男見附市長)は、2000年以降で初めて、特定の候補者への推薦を見送る方針であるという。この花角候補を敗北させることが、「安倍政権を許さない」、安倍政権を退陣に追い込む重要な一歩となろう。安倍政権にとって、新潟知事選の決定的な敗北も、耐えがたき悪夢となろう。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.486 2018年5月

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【書評】『漫画 君たちはどう生きるか』

【書評】『漫画 君たちはどう生きるか』
(吉野源三郎(原作)、羽賀翔一(漫画)、マガジンハウス2017年、1,300円+税)

周知の少年文学の古典といえる書物であるが、2017年に漫画化され、非常な売れ行きを示している。岩波文庫本(1982年)では300ページを越えていて、読むときにそれなりの覚悟と持続力を必要としたが、今回のものは筋が漫画でスムーズに流れていて読みやすいのは事実である。しかも主人公コペル君への「おじさんのノート」の部分は活字のままなので、これもまたじっくり読むには適している。ということで、今なお汲むべき教訓に満ちた書である。
コペル君の呼び名となった経験—-デパートの屋上から街の人々を眺めて、「人間って、分子なのかも」とつぶやく。おじさんはこれを、天動説から地動説への転換を唱えたコペルニクスにたとえる。「君が広い世の中の一分子として自分を見たということは、決して小さな発見ではない」と。
「人間が自分を中心としてものを見たり、考えたりしたがる性質というものは、(略)根深く、頑固なものなのだ。/コペルニクスのように、自分たちの地球が広い宇宙の中の天体の一つとして、その中を動いていると考えるか、それとも、自分たちの地球が宇宙の中心にどっかりと座りこんでいると考えるか、この二つの考え方というものは、実は、天文学ばかりのことではない。世の中とか、人生とかを考えるときにも、やっぱり、ついてまわることなのだ」。
そして大人になれば、大体は地動説のような考え方になっていくが、「いや、君が大人になるとわかるけれど、こういう自分中心の考え方を抜け切っているという人は、広い世の中にも、実にまれなのだ」、特に利害損得にかかわることになると、たいていの人が自分に都合のよいことだけを見て、自分を離れて正しく判断できなくなると鋭く指摘する。この自分が世界とつながっているという認識を絶えず持っていることの重要性が、本書を貫く一つのテーマである。
そしてその世界の仕組みをどのように知っていくか。ここで大事なのは、世界との経験とその中での自律した思想であるとされる。
「君は、水が酸素と水素からできていることは知ってるね。それが一と二との割合になっていることも、もちろん承知だ。こういうことは、言葉でそっくり説明することができるし、教室で実験を見ながら、ははあとうなずくことができる。/ところが、冷たい水の味がどんなものかということになると、もう、君自身が水を飲んでみないかぎり、どうしたって君にわからせることができない。誰がどんなに説明してみたところで、その本当の味は、飲んだことのある人でなければわかりっこないだろう」。
だから人間としてどう生きていくかは、「これは、むずかしい言葉でいいかえると、常に自分の体験から出発して正直に考えてゆけ、ということなんだが、このことは、コペル君! 本当に大切なことなんだよ。ここにゴマ化しがあったら、どんなに偉そうなことを考えたり、言ったりしても、みんな嘘になってしまうんだ」。
この視点を、現在実施されようとしている道徳教育にあてはめると、こうなるであろう。
「君は、小学校以来、学校の修身で、もうたくさんのことを学んできているね。人間としてどういうことを守らねばならないか、ということについてなら、君だって、ずいぶん多くの知識をもっている。/(略)しかし、—-君に考えてもらわなければならない問題は、それから先にあるんだ。/もしも君が、学校でこう教えられ、世間でもそれが立派なこととして通っているからといって、ただそれだけで、いわれたとおりに行動し、教えられたとおりに生きてゆこうとするならば、—-コペル君、いいか、—-それじゃあ、君はいつまでたっても、一人前の人間になれないんだ」。
「肝心なことは、世間の目よりも何よりも、君自身がまず、人間の立派さがどこにあるか、それを本当に君の魂で知ることだ」。
「立派そうに見える人」とほんとうに「立派な人」との区別、「君がいいと判断したことをやってゆくときにも、いつでも、君の胸からわき出てくるいきいきとした感情に貫かれていなくてはいけない」という指摘は、まさしく道徳教育の押し付けの限界を言い当てている。
こうしてコペル君はさまざまな体験から学んでいくが、そのクライマックスは、上級生からの制裁(リンチ、いじめ)に対して、その時には友人みんなで助け合おうと約束しながらも、しかし現実には恐怖のために足がすくんでついに動けなかったことから生まれた、コペル君の「自分が取りかえしのつかない過ちを犯してしまったという意識」である。自分で考え行動することの重要性を自覚していながら、なおも現実にはできない自分をどう扱うか。本書はこう述べる。
「自分の過ちを認めることはつらい。しかし過ちをつらく感じるということの中に、人間の立派さもあるんだ」。
「僕たちが、悔恨の思いに打たれるというのは、自分ではそうでなく行動することもでたのに—-、と考えるからだ。それだけの能力が自分にあったのに—-、と考えるからだ。正しい理性の声に従って行動するだけの力が、もし僕たちにないのだったら、何で悔恨の苦しみなんか味わうことがあろう」。
カントの道徳律に通じる問題である。この事件についてはそれぞれが読んでいただいて判断
される他はないが、まさしく現在的な問題提起でもある。
本書は、時代的な制約──本書の刊行は1937年(昭和17)という言論出版の自由が制限さ
れ、労働運動や社会主義運動が激しい弾圧を受けていた時代—-の中で、「偏狭な国粋主義や反動的な思想を越えた、自由で豊かな文化のあることをなんとかしてつたえておかねばならないし、人類の進歩についての信念をいまのうちに養っておかねばならない」(吉野「作品について」、岩波文庫所収)という思いのもとで書かれたものであるが、いままた本書を読む人々が増えていることは、現代が明暗両方の時代であることを映しているのであろうか。
(なお岩波文庫に付載の「『君たちはどう生きるか』をめぐる回想」で、丸山真男が本書の上級生のリンチ事件に関連して自分の経験を述べているが、これも興味深い文章である。)(R)

【出典】 アサート No.486 2018年5月

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【翻訳】更年期とアルツハイマー病

【翻訳】更年期とアルツハイマー病
(「Japan Times on April 20, 2018  By Lisa Masconi」より)

次の三分間に三人がアルツハイマー病を発症するであろう。そして、内二人が女性であろう。現在、5,700,000のアルツハイマー病患者が米国にいる。 2050年までに、おそらくその数は、14,000,000人になっているだろうし、そのうち男性より二倍が女性であろう。
しかし、未だ「女性の健康」の研究は、子供を生める健康さ(”reproductive fitness”)と乳癌に向かれたままである。 我々は、女性の将来の最も大切な局面に、もっと多く注目する必要がある、即ち、彼女たちの考えたり、思い出したり、想像したりする能力、そして頭脳に。
私が、この分野で最初に研究を始めたとき、アルツハイマー病は、悪い遺伝子や加齢、またはその両方による避けられない結果と考えられていた。今日、我々はアルツハイマー病は、複合原因によると理解している、即ち、年齢、遺伝や高血圧、それに日々の食事や運動を含む生活習慣/様式。今日、科学的に一致した見解として、アルツハイマー病は、必ずしも、年齢に伴う病気ではない、人々が40歳/50歳代になるとき、その頭脳で発病しうる。
我々が、ほんの今、知り始めていることは、何故に女性がより発症しやすいか、ということです。どんな要因が女性と男性では違うのか、とりわけ、我々が中年に達した時。
まずはっきりしていることは、繁殖力(“fertility”)でしょう。 女性は多様である。しかし、我々すべては、繁殖力の衰退と更年期/閉経 (”menopause”)の始まりを経験する。
更年期は、我々の子供を生む能力を遠ざける。寝汗、ほてり/のぼせ、子宮ではなく広く脳に起因する憂鬱/意気消沈の症状。これらはすべてエストロゲンの退潮 (“an ebb in estrogen”) によって引き起こされる。
私自身の労作を含む最近の研究では、エストロゲンは、女性の脳を加齢から守る働きがあることを示している。それは、神経の活動を刺激して、アルツハイマー病の発症に関係する斑点(“plaques”)の生成を防ぐことに役立ちうる。エストロゲンのレベルが下がると、女性の脳はより傷つきやすく、弱くなる。(“becomes vulnerable”)
この事実をはっきりさせるため、私の同僚や私は、健康的な中年の女性にPET**と呼ばれる脳の撮影技術を用いました。これにより我々は、神経の活動とアルツハイマー病の斑点を測定できました。その結果、更年期/閉経した女性は、そうでない女性に比べて、脳の働きは、活発さが低く、アルツハイマー症の斑点も多いことがわかりました。
さらに驚いたことには、このことは、閉経周辺期―更年期の兆しを経験し始めた時期の女性にも見られたことです。そして両グループの脳は、同年齢の健康的男性に比べてはっきりと違っていました。

よいニュースもあります。女性が40-50代になれば、PET診断によってアルツハイマー症
の早期のサイン/徴候を見つける機会が来る。そして、そのリスクを減らす対策が取れる。
ホルモン代用療法—女性に主に補足的にエストロゲンを与える—は、もし更年期/閉経前に与えられれば、症状を軽減できるという例証が増えている。我々は、ホルモン療法の効用と安全性を検証する研究をもっと多く必要としている。そしてこの療法は、いくつかの事例では、心臓病、血栓や乳癌のリスクを高めることにつながってきている。
恐らく、続く10年以内には、中年の女性にとっては、今日、乳房X線写真検診を受けているように、予防検診を受けて、アルツハイマー病への対処を行うことが規範となっていることでしょう。 同時に、食事療法が、女性における更年期(月経閉止期)の影響を軽減できることや、アルツハイマー症のリスクを最小限に食い止めうるであろうという研究も示されている。
多くの食物が、自然に体内で女性ホルモン(“Estrogen”)を産生するのに役立っている。即ち大豆、亜麻の種(“flax seeds”)、ヒヨコ豆(“chickpeas”)、ニンニク、杏(“apricots”)のような果物。そして特に女性は、抗酸化の働きがある栄養素を必要とする、即ち、ビタミンCとEでこれらはベリー類(strawberry, blueberry, blackberry, cranberry etc.),柑橘類、アーモンド、加工されていない、生のカカオ(“raw cacao”)、ブラジルナッツ(”Brazil nuts”)や多くの緑色野菜の葉で発見されている。
これらは、女性や医師にとっては第一歩である。しかし、我々は痴呆、認知症(“dementia”)を引き起こして、症状を悪化させるものが何であるかを知れば知るほどに、女性の脳について、関心やよりよい手当てが必要であることがよりはっきりしてくる。 女性の健康への広範囲な評価は、高齢(老齢)化する脳とそれを守ることにおけるエストロゲンの働きの完全なる探求や、特に女性におけるアルツハイマー症状の防止のための手立ての徹底した探求を求めている。

多くのものごと、要因が、一人の女性を比類なき、すばらしいものとしていることは、気付き、思い起こすまでもないことである。 我々(医師や医療研究者)は、アルツハイマー症のリスクがこれら女性を比類なきすばらしさとしているものごと、要因の一つではないということをはっきりさせまたその手助けのために働き日夜研究している。

* Lisa Mosconi :
is the associate director of the Alzheimer’s Prevention Clinic at Weill Cornell Medical Collage, and the author of “ Brain Food :
[訳:芋森]

【出典】 アサート No.486 2018年5月

 

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【投稿】満身創痍の安倍政権

【投稿】満身創痍の安倍政権
―外交ではすでに瀕死状態に―

官邸と官僚の共謀
3月27日、衆参両院予算委員会で、佐川前国税庁長官の証人喚問が行われた。
喚問で改竄の経緯や自身の関与について問われると佐川は「刑事訴追の恐れがある」として、55回にわたり証言を拒否し、真実を語ることはなかった。一方証言で強調したのは、改竄された文書について「首相官邸に報告しなかった」「改竄について首相や昭恵夫人、官房長官等、官邸から指示は無かった」という点である。
しかし、安倍答弁を聞いた佐川を含めた財務官僚が、改竄前の文書に「昭恵夫人」の記載があることを、官邸筋に伝え、「それはまずいよ」などとの意向、意思、あるいは感想を聞いたなら「行政的な指示」を受けなくても改竄するのが、政権に忠実な官僚の作業であろう。
逆に言えば問題がないのに、官僚が決裁済み文書を改竄することは考えられない。証人喚問で改竄の動機については一切明らかにならず、疑念はさらに深まることとなった。
これに対し政権は、喚問終了後菅が記者会見で「官邸は何もしていなかった」と強弁、29日には麻生が参院財政金融委員会で「日本の新聞はTPPについて一行も書かず森友ばかりだ」と暴言を吐くなど開き直りを見せた。
さらに自民党は28日の18年度予算成立を踏まえ、財務省に全責任を負わせる形で問題を公文書管理の在り方に矮小化し、それを改善することで幕引きを図ろうとし、4月に入ってからは安倍や麻生が出席する衆参予算委員会の開催を拒み続けた。
しかし、4月9日参院決算委員会で財務省は、森友学園用地のごみ撤去に関し昨年2月理財局職員が、「大規模な撤去作業が行われた旨の説明をしてほしい」と学園側弁護士に依頼していたことを認めた。これにより改めて8億円の値引きに関し、官邸の関与が濃厚となり政権の目論む早期収束は遠のくこととなった。
さらに翌日には、加計学園獣医学部新設に関し、柳瀬首相秘書官の発言として「本件は首相案件」と書かれた愛媛県作成の備忘録が示され、その後農水省でも同様の文章の存在が判明し、安倍の直接的関与が暴露される事態となった。
このように安倍ファミリーの醜悪な所業が次々と明らかになるなか、4月3日には、これまで存在しないとされてきた、陸上自衛隊がイラク派遣時に作成した大量の日報が見つかった。
2月に発覚した裁量労働制に関わる調査データの恣意的作成も含め、一連の事件で、公文書の取り扱いが不適切とか、個々省庁の管理問題ではなく、安倍政権が公文書を自らの都合に合わせ改竄、偽造、隠蔽させてきたという犯罪的行為が浮き彫りになり、官邸の意向に唯々諾々と従うままの官庁、官僚の実態も暴かれたのである。
この構造はまさに官邸と官僚の共犯関係を如実に表すものであるが、ここにきて官邸にとって不都合な文書が出てきたのは、一方的に罪をなすりつけられた官庁の抵抗であろう。

北からの援護射撃なし
安倍が自らの首を絞め、国会でもがき苦しんでいる中、その姿をあざ笑うかのように国際情勢は急展開を見せた。
3月25~28日金正恩が北京を訪問、習近平と中朝首脳会談を行い、朝鮮半島の非核化で一致するなど、関係修復をアピールした。この電撃的訪中を安倍は28日の参院予算委員会で「報道は承知している。情報収集に努めたい」と述べ、ニュースで知ったことが明らかとなった。アメリカは発表前に中国から報告を受けていたことを明らかにしたが、日本には知らされなかったのである。
日米連携のお粗末な内実がまたしても露呈したが、それにも増して外務省のインテリジェンスのレベルの低さが明らかになった。河野が3月31日「北は核実験の準備を進めている」と発言したのに対し、38Northは核実験場衛星写真を解析し「活動は極端に減少」と評価、河野はこれに異論を唱えたが、まったく説得力を待たかった。
安倍政権が右往左往している間に金正恩は、南北、米朝首脳会談に向け着実に地歩を固めている。3月30日IOCのバッハ会長が北朝鮮を訪問、金正恩と会談し、北朝鮮の東京オリンピック参加意向が確認された。
4月4日になり、電話でバッハから報告を受けた安倍は「拉致問題で国民感情があるので配慮してほしい」と懇願したが、IOCがそのような配慮をするわけがない。可能性として、安倍が開会式に出席できたなら、南北統一選手団により北朝鮮国旗が入場しない光景に安堵する以外は無いだろう。
焦りを濃くした安倍政権は4月11日河野を韓国に派遣、南北首脳会談で安易に妥協せず、日本人拉致問題を取り上げるよう、大統領、外相に注文をつけた。これに対し韓国政府は非核化を最優先とする対話重視の姿勢を示し、拉致問題の取り扱いも明言を避け、河野訪韓は徒労に終わった。
朝鮮半島情勢へのコミットが不発に終わる中、4月13日、米英仏の有志連合が空海から巡航ミサイル105発でシリア攻撃を実施、これも報道で知ったであろう安倍は「決意を評価する」と述べるのが精いっぱいであった。
この攻撃は欧米の喫緊の課題、ひいては国際社会の関心がシリア=中東情勢とロシアへの対応にあることを如実に示したものであり、安倍が吹聴して来た北朝鮮の脅威より、現実の脅威への対処が優先されたのである。
4月15日には中国から王毅外相が来日、河野、安倍と相次いで会談し日中関係の改善をアピールした。安倍は会談の際、王を同じグレードの椅子に座らすなど「厚遇」を見せたが、昨秋の総選挙勝利、トランプ訪日を経て居丈高になり韓国外相を冷遇した昨年末から、昨今の意気消沈さへの転落は滑稽である。安倍は王の前で足を組むことにより、暫しの優越感に浸るしかなかった。
懸案の日中韓首脳会談は5月9日に東京で開かれる見通しとなったが、この段階で李克強、文在寅両氏は金正恩と会っており情報は共有していることから、安倍の存在感稀薄化は免れないだろう。

訪米も成果なし
内閣支持率とアジアでの影響力低下に焦る安倍は、一縷の望みをかけて4月17,18日、日米首脳会談に臨んだが惨憺たる結果に終わった。
北朝鮮に対しては、最大限の圧力をかけ続けること、米朝首脳会談で拉致問題を取り上げることで合意したが、圧力云々は以前からの再確認に過ぎない。
拉致問題は「シンゾーにとって一番大事な問題だと判っている」とのリップサービスがあったが、本番の首脳会談での成果は望めないだろう。これらは本当に信頼関係があれば電話でも確認できることであるが、直接確認しなければ不安だったのだろう。
また安倍訪米中にポンペイオCIA長官が4月上旬に訪朝し金正恩と会談していたことがワシントン・ポストにより報道され、トランプは安倍に手の内を明かす気がないことが判った。
今次会談の最大の焦点は経済問題であったが、鉄鋼、アルミに係る制裁措置が撤回されなかったのは決定的打撃であった。さらにトランプは一時復帰を仄めかしたTTPは歯牙にもかけず、日米二国間交渉を要求、日米で新たな貿易協議の枠組みを設けるとして、文言は入らなかったものの事実上FTAへの突破口が開かれた。
実際の交渉窓口もこれまでの麻生―ペンスという形式的なものから、茂木―ライトハイザーという実務者協議に移行し、日本側は今後よりタフな対応を迫られることになった。
失意のうちに帰国した安倍を待ち受けていたなはさらなる打撃だった。18日には、セクハラ事件で福田財務事務次官が辞任を表明したが、官邸は訪米前に辞任させようとしたものの麻生の抵抗で頓挫、結局麻生がG20に向かう直前に引導を渡すと言う無様な結末となり、統治能力の低下が露わになった。
さらに同日、東方軍管区のロシア軍がクリル諸島の国後、択捉で2500人を動員する大規模な演習を開始、20日には同太平洋艦隊30隻が日本海で対艦、対空ミサイル試射を含む戦術演習を行った。
この間ロシアは日本のミサイル防衛に懸念を表明してきたが、イギリス、シリアでの化学兵器使用疑惑に関し、安倍政権がロシアと距離を置く(欧米に比べれば近いが)動きを見せたことも影響しているだろう。
さらにロシア海軍が演習を繰り広げている最中、人民解放軍の空母部隊が西太平洋に進出、艦載機の飛行訓練などを実施していることが確認された。
安倍は日中関係改善の流れの中、海空連絡メカニズムや佐官クラスの交流を進めているが、一方で「島嶼奪還」のための水陸機動団など中国を睨んだ部隊の新設、硫黄島への対空レーダー設置、新型対艦ミサイルの取得などを進めている。
図らずしも中露に挟撃された形となったが、これらは信義に基づくことなく、政権維持のための外交に終始する安倍自らが招いたものである。
追い打ちをかけるように金正恩は20日の労働党中央委総会で、核、ICBM開発中止と核実験場の放棄を表明、韓中露に加えトランプも「良いニュース」と歓迎、安倍や河野は「前向き」との評価を出さざるを得なかったが、河野の見立ては完全な誤りだったことが証明された。
北朝鮮は、既存の核兵器や短・中距離弾道弾の廃棄について表明していないとされているが、既存の核兵器が戦力化できているかアメリカは懐疑的であるし、スカッド系列のミサイルは韓国への脅威がより大きいわけであり、東アジアの全般的緊張緩和の課題である。米朝会談に向けた米中韓での調整は5月中に進む見通しであり、安倍支持者からも「訪米は焦りすぎた」との酷評も出ている。
こうしたことから政権は「内患外憂」で満身創痍になっており、この間の自治体選挙では自公候補の敗北が相次いでいる。これに焦燥感を抱く一部政治家、官僚、自衛官、さらにはネトウヨ、レイシストなど安倍親衛隊は議会、街頭で手段を選ばない攻撃に出ている。民主、平和勢力は真摯にテロへの警戒を強めなければならない。
そのためにも野党内の主導権争いにエネルギーを浪費することなく、市民運動、労働組合と連携し共同行動を推進しなければならない。そして当面6月10日にも予想される新潟知事選挙に統一候補を擁立し、勝利を目指すことが求められる。(大阪O)

【出典】 アサート No.485 2018年4月

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【投稿】中東からも東アジアからも撤退する「米国第一主義」のトランプ

【投稿】中東からも東アジアからも撤退する「米国第一主義」のトランプ
福井 杉本達也
1 シリア攻撃は失敗
4月14日(日本時間)、米英仏の3か国は国連の決議もなく、各国の議会の承認も得ないままシリアに対し、100発以上の巡航ミサイルによる違法な攻撃を行った。しかし、イランラジオ『Pars Today』は、イスラエルの新聞『イディオト・アハロノト』のインターネットサイトを引用して、「モサドの関係者の一人は西側の3ヶ国による今回のシリア攻撃はプロガンダを目的とした見せ掛けのものであることを認めると共に、『この攻撃におけるアメリカのトランプ大統領の目的は、シリアの化学兵器の面での力を消滅させることではなかった』」(2018.4.18)として、米国の同盟国・イスラエルさえも攻撃が失敗であったと認めたことを報道している。
また、米軍産複合体の雑誌『フォーリン・アフェアーズ』のコメンテーター: ギデオン・ラックマンは『FINANCIAL  TIMES』紙上において、「ロシアがアサド政権の後ろ盾になっていることも、米軍とロシア軍が衝突する危険性を高めている。…米国の介入は核戦争につながりかねない…米仏英による今回のシリア攻撃では、ロシア兵が死亡する可能性を極力抑えるよう慎重に計画された。」とし、「13日のミサイル攻撃でシリア内戦の趨勢がほぼ変わらないことが明らかになるに従い、今回の攻撃の重要性も薄れていくだろう。…中東で米国の覇権が衰えているという印象も変えることはできない。」(日経:2018.4.19)と結んだ。米欧べったり報道を常とする日経新聞でさえ「シリア、アサド政権優位動かず 首都近郊制圧を宣言」(2018.4.15)と報道せざるを得なくなっている。

2 シリア・アサド政権が化学兵器を使用というフェイクニュース
今回の攻撃の大義名分は4月7日にシリア首都ダマスカス近郊の東グータ地区・ドゥーマへのシリア軍の攻撃で猛毒の化学物質が使用され、43人が死亡したというもので(福井=共同:2018.4.12)、被害者とされる住民の映像を米日欧のマスコミは連日報道した。しかし、シリア・ロシアは、こうした報道をフェイクニュースとして否定し、化学兵器禁止機関(OPCW)に調査チームの派遣を要請したが、調査チームが現地入りする直前に米英仏はミサイル攻撃を強行した。
そもそも、アサド政権が化学兵器を使用したという根拠は何もない。陥落寸前の東グータ地区に対し、政権側から化学兵器を使用する動機も利益もない。AFPは「 シリアの首都ダマスカス近郊にある東グータ(Eastern Ghouta)地区で、市民ボランティアでつくる救助隊「ホワイト・ヘルメット(White Helmets)」が化学兵器攻撃を捏造(ねつぞう)したことを示す証拠だとされた一連の写真が、実際には映画の撮影現場を写したものだったことが分かった。AFPの事実検証ブログ「ファクチュエル(Factuel)」が明らかにした。」と報道した(2018.4.18)。また、共同通信は「シリア反体制派の人権団体幹部は12日、共同通信に対し、首都ダマスカス近郊東グータ地区での化学兵器攻撃について『アサド政権に抵抗する反体制派への支持を結集するため、でっち上げられた』と主張し、政権側が使用したとの見方に強い疑念を表明した。」(福井=共同:2018.4.14)と報道している。さらに、戦争プロパガンダ機関として有名なCNNさえもが「米軍などが13日に行ったシリア攻撃について、シリア政権が市民に対して神経剤のサリンを使用したという確証がないまま、米英仏がシリア攻撃に踏み切っていたことが、複数の関係者への取材で明らかになった。」(CNN:2018.4.18)と報道せざるを得なくなっている。

3 中東から撤退する米国
もともと、トランプ大統領はシリアから撤退するとツイートしながらなぜ今回の攻撃に至ったのか。ロシアのラブロフ外相は「ドゥーマ市で演出された化学兵器攻撃には英国が関与していることを示す証拠をロシアは山ほど握っている。「ホワイト・ヘルメット」は英国、米国他一連の諸国から資金を得ている」と指摘した(Sputnik日本:2018.4.20)。東グータ地区で最後まで降伏・撤退に抵抗したのはジャイシュ・アル・イスラムであり、指揮していたのはイギリスの特殊部隊SASやフランスの情報機関DGSEのメンバーで、MSF(国境なき医師団)が隠れ蓑として使われてきたとも報告されている(「櫻井ジャーナル」:2018.4.13)。ようするに東グータ陥落によって英仏の特殊部隊員が拘束されることを恐れて、米国をそそのかして攻撃に及んだといえる。したがって、米国の攻撃も恐る恐る、ロシアの「許す」範囲内に限定されたものとならざるを得なかったのである。20日、ラブロフ外相は「シリア攻撃に関連して米ロの軍当局者間で事前交渉があり、攻撃が及んだ場合に反撃する『レッドライン(越えてはならない一線)』について、ロシアが米側に通知していたことを明らかにした」(福井=共同:2018.4.21)。これが米英仏の巡航ミサイルがロシア対空防衛の守備範囲には1基も入らなかった理由である。しかも、ロシア軍の発表ではシリア軍がS-200などの旧式の防空システムとロシアによるジャミング(jamming)などを駆使して、ミサイル103発のうち、実に2/3にあたる71発を撃墜してしまったのである。米英仏軍の完敗である。シリア軍の防空圏内には米英仏軍機は恐ろしくて飛行できないことが明らかとなった。
「こうした中、ホワイトハウスのサンダース報道官は15日声明を出し、シリアに展開するアメリカ軍について、『トランプ大統領はできるだけ速やかに帰国させたいと明確にしている』として、早期の撤退を目指す方針を改めて示しました。」NHK:2018.4.16)と報道しており、米軍産複合体や旧宗主国である英仏の画策があり、ギクシャクした道をたどるものの、大筋において「米国第一主義」・中東からの撤退の流れは変わらない。

4 朝鮮半島からも撤退する米国
4月21日、朝鮮中央通信は核実験と大陸間弾道弾(ICBM)の発射を中止し、北部の核実験場を廃棄すると伝えた。これを日本の各TV局は朝番組の途中、緊急速報のテロップで流した。この間、安倍政権が「ミサイルが飛んでくる」と煽りに煽ってきた事態とは全く逆の事実ではあるが、まさしく、日本の一大事である。
津田慶治氏は、米朝首脳会談を「北朝鮮が核を放棄して、その代わりに、米軍は核弾頭とともに韓国から引き上げるということである。その裏で、トランプ大統領は、韓国が北朝鮮と対話する条件として米韓FTAの見直しを要求し、そこで米国が有利になる米国生産車輸入を無条件にすることと通貨介入を禁止することになった。韓国との経済交渉を韓国と北朝鮮の安全保障対話を条件にして取ったようなものである。経済と安全保障をリンクして取引化することが鮮明になった。韓国も北朝鮮の安い労働力を使えるので、このような経済取引でも有利になる。今後、朝鮮半島の南北は連邦制などの国家体系に移行することになるかもしれない。その一歩を見ているように感じる。そして、韓国は米国の同盟国から離れることになる。もう1つが、米国の鎖国化の一環と見るべきである。アジアからの米軍撤退をみることになる。大きく、時代が動いている。」(「国際戦略コラム」2018.4.1)といち早く分析したが、「朝鮮戦争の終結宣言」と「朝鮮半島の非核化」とは、まさにこのような状態をいうのである。米軍が朝鮮半島から撤退した場合、日本はどうするのか。

5 孤立を深める日本
元レバノン大使の天木直人氏は「驚いた。ここまで一方的で、不毛な日米首脳会談になるとは思わなかった。どんなに「日米同盟関係の結束」が強調されようとも、今度の安倍訪米は完全な失敗である。なにしろ安倍首相の訪米中に、ポンペイCIA長官が極秘訪朝していた事が明らかになったのだ。もはや圧力一辺倒の安倍首相より、はるか先をトランプ大統領は歩き始めていたということだ。私の予想通り、朝鮮戦争の終結まで視野に入れている。その一方でトランプ大統領は、TPPを否定して日米二国間協定を優先する事を明言した。不公正な日米貿易関係は容認できないと明言した。安倍首相は毎日、トランプ大統領のツイッターを見てから仕事を始めるべきだ。そうすれば、わざわざワシントンまで飛んで恥をかかなくてもよかった。」(天木:2018.4.19)と書いた。
在韓米軍が撤退する場合、日本に米軍が駐留している意味はない。遅かれ早かれ日本からも撤退することになろう。まして、孤島というロジスティックに問題のある沖縄に多数の軍隊を置いておく必然性はない。その肩代わりを自衛隊が担うというのは妄想に過ぎない。河野太郎外相は昨秋以降、「自由で開かれたインド太平洋戦略」と称して、オーストラリアやインド、スリランカなどを相次いで訪問し、中国の「一帯一路」戦略を包囲しようと画策し、カナダのバンクーバーで開催された21か国外相会合では、北朝鮮との国交断絶や北朝鮮人労働者の国外送還を呼びかけるなど極限の妄想外交を繰り広げたが、トランプ政権に鉄鋼の輸入制限の対象国とされるなど袖にされたことで、ようやく8年ぶりに「日中ハイレベル経済対話」を開いた。
軍産複合体の必死の抵抗もあろうが、トランプ政権の筋書きでは、衰退する覇権国家・米国は中東からも東アジアからも撤退していく。これは日本にとって第二の「ニクソンショック」である。しかし、属国の地位になれきった日本人にはその意味さえはっきり捉えられてはいない。白井聡氏はニーチェ・魯迅の言葉を要約して「本物の奴隷とは、奴隷である状態をこの上もなく素晴らしいものと考え、自らが奴隷であることを否認する奴隷である。さらにはこの奴隷が完璧な奴隷である所以は、どれほど否認しようが、奴隷は奴隷にすぎないという不愉快な事実を思い起こさせる自由人を非難し誹謗中傷する点にある。本物の奴隷は、自分自身が哀れな存在にとどまり続けるだけでなく、その惨めな境涯を他者に対しても強要するのである。」(白井『国体論 菊と星条旗』と書いているが、立憲民主党の枝野幸男代表が「シリア攻撃やむなし」(日経:2018.4.15)とインタビューに答えていることを見る限り自覚なき「奴隷」の闇は深いと言わざるを得ない。

【出典】 アサート No.485 2018年4月

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【投稿】東アジアの歴史的な転換点と安倍政権 統一戦線論(47)

【投稿】東アジアの歴史的な転換点と安倍政権 統一戦線論(47)

<<朝鮮半島「終戦宣言を経て平和協定の締結へ」>>
世界の、とりわけ東アジアの、戦争と平和をめぐる歴史を画することが期待される交渉、会談、駆け引き、つばぜり合いが朝鮮半島の非核化をめぐって展開されている。事態は、歴史的な転換点にさしかかっているとも言えよう。
4/20、朝鮮労働党の中央委員会総会が開かれ、金正恩委員長は、21日から核実験と大陸間弾道ミサイルの発射実験を行わないことを宣言、「我々にはいかなる核実験、中・長距離ミサイル、ICBM発射も必要なくなった」述べたと報道されている。
4/19、韓国の文在寅大統領は「北朝鮮は完全な非核化への意思を表明している」と述べ、南北首脳会談や米朝首脳会談を通じて南北や米朝との関係正常化に向けた合意の成立も難しくない、との認識を明らかにしている。4/20には、文在寅大統領と金正恩委員長、両者間のホットライン(直通電話)も開通している。
さらに、米中央情報局(CIA)のポンペオ長官が北朝鮮を極秘に訪れ、金正恩委員長がポンペオ長官に「完全な非核化」の意思を伝えていたとも報じられている。
4/27に行われる38度線の非武装地帯・板門店での南北首脳会談で、朝鮮戦争(1950年~53年休戦)の終結、終戦宣言・平和協定締結が一気に達成される可能性さえ現実化しつつある。文大統領も19日、「終戦宣言を経て平和協定の締結へと進まねばならない」と言明、「北朝鮮は国際社会に完全な非核化の意志を表明している」とし、南北・朝米首脳会談を通じて「65年間続いてきた休戦体制を終わらせ、終戦宣言を経て平和協定の締結に進まなければならない」と述べる事態の急速な進展である。韓国政府は「朝鮮半島の非核化と恒久的な平和定着への道しるべとなるよう」南北首脳会談の準備を進めている。
トランプ米大統領はこうした事態の進展に対して、「北朝鮮と世界にとって、とても素晴らしいニュースだ。大きな前進だ。我々の米朝首脳会談を楽しみにしている」、「朝鮮戦争はまだ終わっておらず今も続いている。南北は終戦に向けて協議する予定で、私も賛成している」「韓国は北朝鮮と会談し、朝鮮戦争を終わらせようとしている。私はそれに賛同している」「人々は朝鮮戦争が終わるとは思っていなかったが、今、それが進行している」と応じている。そして、すでに米朝首脳会談は「5月末か6月初め」に行われることが合意されている。
4/20、中国も外交部の華春瑩報道官が「中国は朝鮮半島が戦争状態を早く終息し、各国が朝鮮半島の平和体制を構築することを支持する」と明らかにしている。これによって、朝鮮戦争停戦協定の当事国である米・中が平和協定への転換などに対して公式に支持する意思が明らかにされたことになる。きわめて重要な前進であり、環境は整いつつあると言えよう。
しかし、文大統領は同時に「冷静に言えば、私たちは対話の敷居を越えているだけ」だとし、「南北だけでなく、史上初めて開かれる朝米首脳会談まで成功してこそ、対話の成功を語ることができるだろう」と述べ、「南北首脳会談ではまずは良いスタートを切り、朝米首脳会談の成果を見ながら、引き続き対話できる動力を見出さなければならない」と述べている。とりわけトランプ・金正恩、この両氏、ともに独裁者的な個人プレイに偏し、唐突で予測不能な移り気と不安定さが懸念される。その懸念をプラスに転じ、決裂と緊張激化を回避し、挑発と激高、罵り合いを避けさせ、対話を成功させ、逆行を許さず、着実、堅固に平和体制を構築するうえで、文大統領が述べるこの冷静さが最も必要とされよう。

<<「お前は国民の敵だ」>>
この重要な歴史的転換点に遭遇しながら、何の積極的な役割も貢献もせず、取り残されてきたのが安倍政権である。安倍首相は、むしろ逆に「北朝鮮との対話は意味を持たない」と何度も公言して水を差し、対話の努力を一切放棄し、緊張緩和の流れに掉さし、平和の構築ではなく、対話が挫折し、緊張が激化する方向へと事態を引き戻そうと必死にあがき、孤立してきたのである。
今年の2/8に行われた文大統領と安倍首相の非公開の日韓首脳会談の中で、安倍首相が「韓米軍事演習を延期する段階ではない。韓米合同軍事演習は予定通りに進めることが重要だ」と発言したことに対して、「この問題は私たちの主権の問題で、内政に関する問題だ。首相がこの問題を直接論じてもらっては困る」と、文大統領から内政干渉に類する発言に強い遺憾を表明されていたことが韓国政府側から明らかにされている(2/9)。
この安倍首相の内政干渉発言を、小西洋之参院議員(民進)が取り上げ、「文氏『内政問題』と不快感=安倍首相の米韓演習要請に日本国憲法下で他国に威嚇のための軍事演習を主張した総理は初めてだろう。また、北朝鮮からは長距離砲でソウルが攻撃可能であり、韓国が直面する脅威は日本の比ではない。まさに内政干渉そのものだ。」とツィートしていた(小西ひろゆき (参議院議員)@konishihiroyuki 21:33 – 2018年2月10日)。
4/16、その小西議員が参院会館前を歩いていたところ、ジョギング中の男が、現職自衛官であることを名乗った上で「小西か? お前は国民の敵だ。お前は気持ち悪い」などと執拗にののしり、同議員が「ここがどういう場所だか分かっているのか?」と問うと、自衛官は「何が悪いんだ。市民が国会議員に文句を言って何が悪いんだ?」と居直ったという。暴言の主は、統合幕僚監部指揮通信システム部所属のエリート将校、30代の3等空佐であった。統合幕僚監部は陸・海・空の3自衛隊を束ね指揮する中枢組織であり、しかも今回の日報隠しでは中心的な役割を担っている。この中枢組織に属する現職幹部自衛官の危険極まりない意識が、この暴言に直接反映されていると言えよう。そしてまた安倍首相の焦りが、この自衛官の暴言を引き出したとも言えよう。
問題はさらに、小野寺五典防衛相が4/17、一方で謝罪しながら、同時に「若い隊員でさまざまな思いもあり、国民の一人であるので当然思うことはある」とこの暴言を擁護したことである。現職の自衛官が、政権を批判する議員を「国民の敵」だと恫喝したこの問題の深刻さをまったく理解していないのである。気持ちは分かる、とでも言いたかったのであろう。「国民の一人であるので当然思うことはある」などと間の抜けたことを平然と言える小野寺氏は、シビリアンコントロール下の防衛大臣としては完全に失格である。期せずして表面化したこの問題は、「政権を批判する国民の敵に銃口を向けて何が悪い」という、戦前の軍事ファシズム体制下で首相や大臣を襲撃した二・二六事件、五・一五事件の青年将校と同じ意識、メンタリティが、安倍政権下の自衛隊で確実に醸成されている証左とも言えよう。決して、うやむやにさせてはならないし、小野寺大臣と河野統合幕僚長を即刻辞職させない限り、危険なテロとクーデターの芽は温存され、拡大さえしかねないであろう。その小野寺大臣は国会審議での追及を逃れるように日米防衛大臣会合出席で訪米。モリ・カケ疑惑、セクハラ擁護で窮地に立たされた麻生副総理・財務大臣もG20財務相会議でやはり逃げるように訪米。どちらも野党6党の徹底審議の要求を無視し、国会の承認も得ずに、まさに遁走である。

<<「立憲民主党の失格幹事長、福山哲郎へ」>>
そして、トランプ大統領に色目を使い、その戦争・軍拡政策と緊張激化政策に同調、いやむしろ煽ってきたつもりが、はしごを外され、対話路線で先を越され、あわてて泣きつくように訪米した安倍首相。4/17からの日米首脳会談で「拉致問題」を「なによりも重要」と再確認を要請、何とか受け入れられたが、さらなる武器購入と通商問題を二国間で協議する新たな枠組みを設置することを約束させられ、会談の成果を引っ提げて政権再浮揚というシナリオはもはや期待できないじり貧状態に安倍政権は突入したと言えよう。
4月15・16日におこなわれたNNN(日本テレビ)世論調査で、内閣支持率が26.7%を記録、前回調査で第二次安倍政権発足後最低となる30.3%をさらに3.6ポイントも下げて最低を更新。政権維持の危険水域と呼ばれる30%をついに切る事態となった。隠蔽・圧力・権力乱用をほしいままにしてきた安倍政権の崩壊・退陣のカウントダウンがいよいよ始まったのである。
しかしそれでもなお安倍政権が持ちこたえ、政権維持が可能だとすれば、それは対決すべき野党のふがいなさにあると言えよう。
『週刊金曜日』編集委員の佐高信氏が、同誌2018/3/30号で「立憲民主党の失格幹事長、福山哲郎へ」と題して、「4月8日に投開票される京都府知事選挙に自民党と公明党が推薦する前復興庁事務次官の西脇隆俊が立候補しました。それに民進党、希望の党、そして立憲民主党が相乗りしたと知って、開いた口がふさがりません。この間の立憲民主党のキャッチコピーは、福山が提案した『まっとうな政治』でした。それに共鳴して多くの人が票を投じ、立憲民主党は躍進したわけですが、京都府知事選で自民党と組むのは『まっとうな政治』ですか?最終的には代表の枝野幸男も了承したのでしょう。希望ならぬ絶望の党の前原誠司は、もう『終わった人』だからともかく、同じ京都育ちのあなたまで、それに乗っかるとはどういうことですか。いま、安倍(晋三)政治を倒そうと国会で対決しているのに、京都でその安倍と手を組む政治センスのなさは、上げ潮ムードの立憲民主党の幹事長として失格でしょう。自由党と社民党は自主投票だとか。せめて、そうすることはできなかったのですか。」と鋭く指摘されている。こうした政治センスのなさこそが安倍政権を延命させてきたのである。
同じことは共産党についても言えよう。2018/4/10付しんぶん赤旗は、「京都府知事選 福山氏得票44% 大健闘」と題して、「京都府知事選が8日投開票され、日本共産党も加わる『民主府政の会』と幅広い市民で結成した『つなぐ京都』の弁護士、福山和人氏(57)は、前回知事選で『民主府政の会』などが推した候補から約10万票増やし、31万7617票を獲得して大健闘しました。」、「蜷川民主府政が終わって以降で最高」「京都府政のあり方に新しい一ページを開いた」と絶賛しているが、そこまで肉薄し得たのであれば、なぜ野党共同統一候補の実現が出来なかったのか、またその実現への真摯な努力がなされたのかどうかが問われなければならないであろう。政治センスのなさは、統一戦線についてもいえることである。肉薄したとはいえ、その差は8万5千票以上ある。自民党関係者が「仮に京都で野党が共闘していたら、負けていたかもしれない」と深刻な受け止めを漏らしているとすればなおさら、それぞれの党のセクト主義や縄張り意識が払しょくされなければ、統一戦線は成果を上げられないのである。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.485 2018年4月

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【書評】 津島裕子『半減期を祝って』

【書評】 津島裕子『半減期を祝って』(2016年、講談社、1,300円+税)

「三十年後の世界を想像せよ、と言われると、それじゃ三十年前はどうだったのか、と反射的に考えたくなる」という文章で始まる短編である。
さて三十年前を思い起こすと、パソコンもファックスもなかった時代であった。それから三十年というとかなり長いが、しかし「生活の実感としては、本質的な変化があるように感じられない」。ということは「たとえばある日とつぜん、三十年後の世界に放り込まれても、さほど困惑せず、案外すぐに適応できるのではないか、と考えてしまう」ので、その三十年後の世界での話。
「三十年後の世界で、人口の多い某国がますます力をつけて、極東のニホンという国は競争力を失い、鎖国に近い状態に陥っているのかもしれない。国際的に孤立した軍事独裁国になっていて、国営テレビのニュースは毎回、必ず首相と国防軍の昨日一日の動静を長々と伝えてから、交通事故などのニュースをちょっとだけ流す。それでもひとびとの生活そのものは表面上、いつもと変わらない。だから一般的には、さしたる不満もない」。
主人公は三十四年前の原子力発電所の事故から逃れてきて、避難者用の超高層住宅で独り暮らしをしている老女であるが、ある日、閑散とした「超高層住宅のまわりで、ひとけのない商店街で、利用客が少なくなったので間引き運転されている山手線の駅前で」女性の声でアナウンスが流れる。
「みなさま、おなじみのセシウム137は無事、半減期を迎えました。正確にはすでに四年前、半減期を迎えていたのですが、今年は戦後百年という区切りの年です。(略)つぎの半減期はさらに三十年後です。しかし、それを待つまでもなく、さしものセシウムも137も当初の半分の量になってしまえば、もうこわがることはありません。(略)専門家の先生方によれば、実際に私たちが心配すべきなのは、このセシウム137だけなのそうです。(略)先般も、現場で大きな事故が起り、新しい放射性物質がばらまかれました。まだまだこのようなことは起りつづけるのです。とはいえ、半減期は確実に訪れます。せめて、今のうちにお祝いをしておきましょう」とお祝いの行事が知らされる。
老女は、この三十四年間時おり事故現場に近い家に戻っているが、「最初の三年間は戻れなかった。戻るな、と政府のひとたちに言われたので戻らなかった。そのあとは、どうか戻ってください、と言われた。でも戻らなかった」。それでもこのアナウンスの翌日、トウキョウから北の方角に向かう車の列が見られた。「春の行楽シーズンのはじまりでもあった」。
という状況で、事故現場に近い村には研究者や観光客が各国から訪れるようになった。平和な美しい風景が広がり、しゃれた高級ホテルや別荘やゴルフ場ができ、「毎日放射線量の計測を続けているのでかえって安心です、と売り込みをする」。そしてセシウムよりももっと半減期の長いプルトニウムのような危険な放射性物質が同時にばらまかれていることには、「楽観的な業界の人たちや観光客、そして政府も忘れたふりをつづけようとする」。
さて超高層住宅に流れるアナウンスは、毎日住民にさまざまなお知らせをしているが、ある日中学校の運動会の開催されることが知らされる。これを聞いて老女は顔をしかめる。
というのも、14歳から18歳の子どもたちを対象に、「四、五年前に、独裁政権が熱心に後押しをして、『愛国少年(少女)団』と称する組織、略して『ASD』ができ、それが熱狂的にもてはやされるようになった」という状況が出現しているからである。「子どもたちがむやみに入団したがるので、順番待ちの状態になっている。『ASD』をモデルにした漫画がこのブームを作り出したという話だった」。「『ASD』に熱中する子どもたちは、『神国ニホン、バンザイ!』とか、『われら神の子に栄光あれ』とか極端に神がかった、しかも、いかにも漫画的なことばを本気で口にしはじめる」。これに眉をひそめる親たちは引き留めようとするが、しかし18歳を過ぎれば今度は、男女を問わず国防軍に入らねばならないが、『ASD』出身者は優先的に幹部候補として扱われる。というわけでますます人気があおられる。
ところが「なんでも『ASD』にはきびしい人種規定があって、純粋なヤマト人種だけが入団を許されているというのだ。アイヌ人もオキナワ人も、そして当然、チョウセン系の子どもも入団を許されてはいないのだけれど、いちばん評価が低いのはトウホク人で、高貴なヤマト人種をかれらは穢し、ニホン社会に害毒を及ぼしているという。(略)つまり、トウホク人はいちばん危険な人種として、このニホンに存在しつづけてきたのだった。(略)学校でも、トウホク人の陰険邪悪な性格とその歴史を子どもたちに教えている。そして、トウホク人を放置しておけば、ヤマトを中心に栄えてきたニホンは必ず滅びてしまいます」と教師たちはくり返し主張するらしい。
このような『ASD』の子どもたちに課せられている役目というのは実は、反社会的人間—-その規準はよくわからないが—-を駆り出すことらしく、噂ではそのような人びとは、「病院」や「シャワー室」送りになるらしい。特に『ASD』の美少女たちはとても冷酷、残酷で、トウホク人の経営する商店を襲って、たった一晩で三千人ものトウホク人を「病院」に送り込んだ夜は、ガラスの破片がきらきらと光っていたということで、後に「翡翠の夜」と呼ばれるようになったが、襲撃はその後も続いた。
こうして「事故現場に近い村では、都会からなんとか逃げのびたトウホク人が住みつきはじめていた。政府の新しい方針で、事故現場に近い村では、例外的に、アイヌ人、オキナワ人、そしてトウホク人の定住を許すことになったらしい。そこに住んでいれば、事故現場の作業をさせてもらえる。けれど、医療上の支援は一切なく、さまざまな医学的検査だけが行われる。それでもかまわなければ、という条件付きの定住だという」。そしてトウホク人たちは、「シャワー室」の悪夢からは逃れられ、「なにかよくわからない希望を取り戻す」。が、「ある日、予想されていたことではるけれど、倒れてしまう。病院に運ばれ、隔離病棟でさまざまな検査を受ける。決して治療を受けさせてはもらえない」。
「この三十年、長かったのか、短かったのか。なにも変わってはいない、そんな気がする。けれど、なにもかも変わってしまった、とも老女は思う」。というのも、「今まで、なにも気がつかないふりをしてきた。気がつきたくない。なにかに気がついたところで、どうすることもできないのだから」。
近未来にしてはリアルすぎる短編は、こうしてわれわれに問題を百花繚乱的に突きつけて終る。作家津島佑子最後のメッセージである。(R)

【出典】 アサート No.485 2018年4月

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【投稿】八方塞となった安倍政権

【投稿】八方塞となった安倍政権  アサート No.484 2018年3月
―内政、外交で負のスパイラルに転落―

崖っぷちの安倍
2月28日、安倍は今国会での裁量労働制の適応職種拡大に関して、「働き方改革法案」から切り離すことを明らかにし、今国会での成立は断念に追い込まれた。
さらに3月2日には、朝日新聞の報道で財務省が森友学園に関わる決裁文書を改竄した疑いが浮上した。
6日には官邸が国交省から、2種類の書類が存在するとの報告を受けていたにもかかわらず、安倍は当初白を切りとおそうとした。しかし12日に至り財務省が改竄の事実を認めざるを得なくなり、安倍ファミリーによるマフィアまがいのスキャンダルが再燃した。昨年、辞任を明言していた安倍は第2次政権発足以来最大の危機に立たされている。
安倍は何事もなければ3月25日の自民党大会で改憲案を決定し、総裁3選に向けた党内体制確立を目論んでいたが、自民党重鎮も徐々に距離を置き始めており状況は流動的になっている。
こうしたなか、国際情勢は日本を置き去りに進んでいるが、政権運営能力を喪失しつつある安倍内閣は、まともな対応をなしえていない。トランプの核軍拡に対抗する形でプーチンも3月1日の一般教書演説で、新型の核ミサイルや巡航ミサイルなど、「アメリカのミサイル防衛網を突破できる」新兵器の開発をアピールするなど、米露の対立は先鋭化しつつある。
その一方、南北首脳会談、米朝首脳会談の開催が矢継ぎ早に決まり、安倍政権は唖然とこれを見つめるばかりの状況となっている。安倍は2月14日にトランプとの電話協議で、米朝対話ムードに不安を表明したが完全に無視された形となり、3月9日再度の電話協議で4月上旬の訪米を取り付けるのが精いっぱいであった。
12日には韓国特使として金正恩と会談した徐薫国家情報院長が来日し、安倍と河野に南北協議の内容を説明した。昨年末安倍は訪日した康外相を低い椅子に座らせ批判を浴びたが、今回は外相より格下の徐院長を自分と同じグレードの椅子で接遇した。
この会談では南北協議で拉致問題は議題にならなかったことが明らかにされ、焦燥する安倍は16日に文大統領に電話をかけ、首脳会談で拉致問題を取り上げてほしいと要望し、自分も金正恩と話がしたい旨を伝えたと言う。
もはや「最大限の圧力」「対話のための対話は無意味」などは空虚なスローガンと化した。内外情勢に押され崖っぷちに立たされた安倍は、これまでの原則を投げ捨て保身に走ろうとしているのである。とりわけ朝鮮半島情勢で譲歩を余儀なくされている安倍は、中国に対する立場を強化し、劣勢の挽回に躍起になっている。

「帯路分離」目論む
中国全人代は3月17日、「一帯一路」構想の推進のため「国家国際発展協力署」の設置も決定、習長期独裁体制の下「社会主義の現代化強国」路線が推し進められようとしている。
こうした動きに対し安倍政権は「一帯一路」への協力姿勢を示しながら、「自由で開かれたインド太平洋戦略」を対置し、対抗心をむき出しにしている。ここから読み取れるのは、陸路の「一帯」と海路の「一路」を分断する「帯路分離」策動である。
遙かユーラシア大陸深部を横断する「一帯」には、日本は逆立ちをしても手は出せないでいる。安倍は2015年、自らが唱える「価値観外交」を投げ捨て、ウズベキスタンなど独裁国家を含む中央アジア5カ国とモンゴルを訪問し、経済協力をもって抱き込もうとしたが芳しい成果は得られなかった。
そこで安倍は内陸部への影響拡大をあきらめ、海路へのプレゼンス拡大をねらっているのである。東シナ海に於いてはアメリカ、南シナ海に於いてはアメリカ、およびフィリピン、ベトナム、インド洋に於いてはインド、スリランカと地域ごとに連携国を設定し、装備品の供与、訓練など軍事協力を含めたイニシア拡大を進めようとしている。
安倍政権は3月4~10日に自衛隊統幕議長をインド、スリランカに派遣、14日には、森友事件に対する抗議の声が轟く総理官邸に、スリランカ大統領を招き106億円の円借款を約束、晩餐会で歓待するなど必死になっている。
もっともこのスリランカやフィリピン、ベトナムは軍事力に於いて脆弱なので、ここにイギリス、オーストリラアさらにはフランスまでもを巻き込もうと躍起になっているのである。安倍は昨年8月来日したメイ首相を厚遇し、「準同盟国」として日英地位協定の締結、ミサイル等兵器の共同開発、合同軍事演習などを検討している。

「連合艦隊」で対抗
現時点で空母を持たない日本単独では、中国の圧倒的な軍事力には対抗できない。そこで空母を持つ米、英、仏、印、そしてF35Bを運用可能な強襲揚陸艦を持つ豪との「多国籍連合艦隊」で臨もうと言う構想であろう。
しかし、そもそもアメリカにしても各国艦艇の参加は「航行の自由作戦」の負担軽減という点で歓迎するだろうが、遠大な「自由で開かれたインド太平洋戦略」をトランプ政権が理解しているかは疑わしいし、英、仏などはなおさらであろう。
こうした動きの背景として、イギリスにおいては持て余す軍事力の用途を指摘したが、さらにはこの地域の旧宗主国としての意味合いなど、様々な要因があると考えられる。
これまでは北朝鮮への連携も加えることで、対中国色を薄めてきたが北朝鮮問題の進展により、本質が露わとなってきたのは安倍にとって誤算の一つである。このところ関係改善の動きを見せている日中関係であるが、安倍の狡猾な動きは中国の警戒感を高めることになる。
しかしいずれにせよ、21世紀初頭における対中国での連携が、対ロシア帝国を利害とした20世紀初頭の日英同盟以上の重要性を持つとは言えない。イギリスの有権者は、英政府が極東で日本とともに中国と軍事的に対峙することに賛同はしないだろう。
オーストラリアはこの地域の利害は大きいが、喫緊の問題は東ティモールをめぐるインドネシアとの関係であり、中国の影響力が赤道を越えなければ決定的な動きは行わないだろう。さらにフランスはベトナムの旧宗主国ではあり、無関心ではないだろうが、軍事力の投入はアフリカ大陸の旧植民地に限られている。インドは地域大国として、日本の意図とは関係なく独自の動きをすると考えられる。

日露関係も不安定に
一方日本がこうした国々を対中国の動きに巻き込むほど、逆にこれらの国々からの要請に苦慮することになるだろう。
イギリス・ソールズベリーでロシア人元スパイと娘が意識不明の重体に陥った事件に関し、イギリス政府はロシアが関与したとして露外交官23名を追放した。3月15日には米英独仏4か国首脳はロシアを非難する共同声明を発表し、資料提出を要求した。
声明では、ロシア(ソ連)によって開発された軍用神経剤が、第2次大戦後初めてヨーロッパで使用された事例として、強い口調で非難している。今後、事態の推移によっては欧米各国が、ロシアに対し新たな制裁を科すことを検討するだろう。
こうした動きに対しロシアは英外交官の追放を決定、圧倒的支持で大統領再選を果たしたプーチンは、一層反発を強め、更なる報復措置に出る可能性がある。プーチンの新兵器はアメリカに対するものであるが、欧州の同盟国にとっても充分脅威になるものである。
2016年秋にはシリアでの軍事作戦に向かうロシア空母部隊を、NATOの艦船約60隻が北海、英仏海峡、地中海でリレー式に追尾、監視、さらに英軍戦闘機も艦隊に近距離まで接近した。
これらは日本と中国の緊張関係とはレベルの違うものであり、今後欧州での緊張が高まれば、イギリスもフランスも東アジアに派兵する余力はなくなる。日本がイギリスから、軍事面ではなくてもロシアに対する圧力強化への協力を求められた場合、反対にロシアから欧州の動きに与しないよう要請された場合、安倍はどうするつもりなのか。
ウクライナ問題に関しては、国際社会からの動きをのらりくらりとかわしたが、「準同盟国」からの要請があれば、窮地に陥ることは明らかである。
ロシアはロシアで日本を疑念の目で見ている。イージス・アショアの導入に関してロシアは警戒感を露わにしてきた。ラブロフ外相は訪日を控えた3月15日、時事通信社などのインタビューで、日米の弾道ミサイル防衛での協力は、日露関係に悪影響を及ぼすと改めて懸念を示した。河野は「ロシアはミサイル防衛を理解している」と強弁しているが、この先の不安定化は免れない。

安倍退陣に全力を
安倍政権が周辺国から信用されていないのは、朝鮮半島情勢への対応でも明らかなような無定見な外交、軍事政策の為である。
安倍は「「自由で開かれたインド太平洋戦略」「積極的平和主義」などと大言壮語を吐きながら、結局は対北朝鮮、対中国、対○○というその場その場の対抗主義的な危機扇動政策=ショックドクトリンで、保身を図ることしか考えていない。
そのため4月の日米首脳会談では、米朝首脳会談での拉致問題議題化、鉄鋼・アルミ輸入制裁対象からの日本除外を演出するのだろう。3月17日、朝鮮中央通信は「日本が制裁を続けるならば、永遠に平壌行きの切符を手にすることはできないだろう」と牽制した。
このように外交での弥縫策でこの間の窮地を脱するのは容易ではない。国内では森友事件に関し、連日のように政権に不都合な新事実が出てきているが、これらの情報源は関係する公的セクターであることは明らかである。
このように安倍政権は八方塞の状況に陥いり、支持率も急落しているが、3月末の来年度予算成立までは膠着状態が続くと考えられる。野党、民主勢力は森友事件に加え、「高プロ」撤回、軍拡阻止等、あらゆる声を突き付け、安倍を退陣に追い込んでいかなければならない。(大阪O)

【出典】 アサート No.484 2018年3月

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【投稿】安倍政権の危機とリベラルの転倒 統一戦線論(46)

【投稿】安倍政権の危機とリベラルの転倒 統一戦線論(46)
アサート No.484 2018年3月

<<「安倍首相夫妻の犯罪」>>
まさに「おごれる者久しからず」である。安倍一強といわれ、権力を笠に着た開き直り、傲慢とウソとデタラメ、ゴマカシの政治がいよいよ通用しなくなってきたのである。安倍首相が先頭に立ってウソつき呼ばわりして排撃してきた朝日新聞から、3/2、公文書書き換え・改ざん疑惑が指摘・報道されるや、事態は一挙に局面転換、強権的な安倍政権の弱点ともろさが噴き出し、安倍三選どころか、その前に安倍政権退陣・崩壊の危機に直面する事態の進展である。
自らが招いた最後のあがきか、理財局長だった佐川宣寿氏を「極めて有能」と持ち上げていたのが一転して、「佐川が、佐川が、佐川が」と責任を下に、官僚に押し付ける安倍・麻生の姿勢は、誰の目にももはや見過ごしえぬ醜態と化してしまったのである。
『週刊文春』2018/3/22号は、総力取材「森友ゲート」これが真相だ!、と題して
▼近畿財務局職員自殺 警察は「遺族は政権が持っていった」
▼自殺職員親族の告白「『自分の常識が壊れていく』と…」
▼安倍は「森友もスパコンも全部麻生さん」と責任転嫁
▼麻生「佐川と心中」は虚言? 傲慢会見では痛恨の鼻毛
▼辞めたがっていた佐川長官 周囲は「心が折れている」
▼昭恵夫人は朝日スクープ翌日に極秘スキー旅行
■森友より深刻 加計問題でも公文書書き換え疑惑
と見出しが並ぶ。電車の中吊り広告のトップは「安倍夫妻の犯罪」の特大文字である。普通なら、「安倍夫妻の犯罪」と書き立てられれば、即刻、名誉棄損で訴える筋書きであろうが、否定しがたい事実の前になすすべなくうろたえ、おびえているのが現実の安倍政権である。抗議デモのプラカードには「アベを監獄へ」まで掲げられている。
3/16(金)夜の国会周辺は、冷えた小雨降る天候にもかかわらず、緊急抗議行動で久しぶりに一万人以上の人々の怒りと熱気が渦巻き、首相官邸、議員会館、国会前の歩道は、3/12から連日展開されてきた「総がかり行動」の「森友学園疑惑徹底追及!連続行動」が行われ、人々でぎっしりと埋め尽くされた。国を私物化するな、権力私物化に終止符を!、公文書を改ざんするな、証人喚問・昭恵は出てこい、佐川よりも麻生が辞めろ、アベが辞めろ、退陣せよ、総辞職せよ!、…と抗議の声が何度も何度も上げられ、コールが響き渡る事態である。

<<「首相就任以来最悪の危機」>>
モリ・カケ疑惑報道で安倍政権を徹頭徹尾「忖度」してきたNHKでさえ、決裁文書の改ざんをめぐり自死した財務省近畿財務局の男性職員が、「上からの指示で書き換えさせられた」という内容のメモを残していたことを報じ、しかもその職員が 「自分1人の責任にされてしまう」というメモを残していたこと(NHK NEWS WEB、2018/3/15)も判明している。そして一貫して安倍首相を持ち上げてきた読売新聞でさえ、さらに、この男性職員に先立って財務省・理財局の30代の国有財産係長も今年1月にやはり自死していたと報じている(読売、2018/3/16)。さらに犠牲者「3人」目として、財務省・管理課の女性職員が自殺未遂か、と報じられている(日刊ゲンダイ、2018/3/16)。「自分が去ったら内閣が持たない」と豪語していた麻生財務相について、徹底擁護していたはずのフジ・サンケイグループの夕刊フジまでが「自民総スカン 麻生4月辞任決断」と報じている。安倍政権にとっては先が見通せない「底なしの闇」である。3/16の東京発ロイター電は、「首相就任以来最悪の危機となっている」と報じている。
こうした安倍政権批判報道に激怒した安倍首相は、放送事業の見直しを目論み、放送法4条などの規制の撤廃に動き出し、3/16付読売は、放送業界は「民放解体を狙うだけでなく、首相を応援してくれる番組を期待しているのでは。政権のおごりだ」と警戒を強めている、と報じている。
すでに時事通信が3月9~12日に実施した3月の世論調査で、安倍内閣の支持率は前月比9.4ポイント減の39.3%へと急落。3/17~18の朝日新聞世論調査では13%減の31%への急落である。これは、第2次安倍内閣の発足以降で最低であり、この週末の相次ぐ他の大手メディアの世論調査でも、内閣支持率がさらに落ち込むことは必至である。
3/19以降、国会で偽証罪が適用される「佐川喚問」が進めば、野党の追及は一段と厳しくなり、事態はさらに混迷の度を深めるのは必至である。
「私や妻が関係していれば総理大臣も国会議員も辞める」とした昨年2/17の首相自身の答弁が現実味をもち、追い込まれる事態の到来である。
その帰趨を決める決定的な鍵は、安倍政権を十重二十重に包囲する、政権の居直りを許さない、圧倒的な声の結集であり、野党共闘と統一戦線の前進である。

<<転倒する保守とリベラル>>
その野党共闘と統一戦線の前進にとって、見過ごされてはならないのは、保守とリベラルの転倒である。
曲がりなりにもこれまで安倍政権が「一強」と言われるまで、長期にわたって権力を維持し得たのは、ウソとゴマカシ、傲慢な政治の対極で、いかにもリベラルであるかのような政治姿勢を振りまいてきたこと、それに対して野党が有効・適切な政策を対置できず、安倍政権のウソとゴマカシを見過ごしてきたことが指摘されなければならない。
本質的には、極右で自由競争原理主義の新自由主義者(ネオリベラリスト)の安倍首相が、平気で「私はリベラル」発言をいけしゃあしゃあと行っている。「私がやっていることは、かなりリベラルなんだよ。国際標準でいけば」「衆院を解散し、総選挙を控えた10月。安倍晋三首相は、自らが打ち出した経済政策について周辺にこんな表現を使って解説をした。」(朝日、2017/12/30付)
ここで言う「リベラル」な政策とは、子育て支援や非正規労働者の待遇改善を掲げた「1億総活躍社会」、女性活躍、働き方改革、企業への賃上げ要請、同一労働同一賃金、全世代型福祉、等々、一見、政府の役割や規模を拡大する「大きな政府」を志向するような政策を掲げていることである。しかしそれらはすべて言葉の上のことだけである。実際にやっていること、そして目論んでいることは、真逆な新自由主義政策であり、自由競争原理主義の規制緩和であり、掲げた政策はことごとく後退さえさせている。それがアベノミクスなのである。安倍政権下で、子育て支援は後退し、女性活躍どころか先進国最低水準にまで落ち込ませ、非正規労働者をますます増大させ、実質賃金は年々低下し、格差を拡大させ、社会保障費や年金、生活保護費を年々削減し続けているのである。
そもそも「リベラル」自体があいまいであり、融通無碍、自称「リベラリスト」ほどいいかげんなものはない。その象徴が、「寛容な改革保守」と言いながら「排除」の論理を振りかざした人々、小池百合子・希望の党前共同代表や前原誠司・前民主党党首も「リベラル」であり、「排除」された側の枝野幸男・立憲民主党代表も、自らを「リベラル保守」と宣言している。そしてついに共産党までが、「共産党は、最も個人の自由、基本的人権を主張している政党」「筋金入りの『リベラル政党』です」と宣言している(『週刊金曜日』1/12,19日号、共産党・小池晃書記局長へのインタビュー)。あきれたものである。対抗軸はあいまいで実生活とかけ離れた「リベラル」の競い合いではなく、自由競争原理主義の新自由主義(ネオリベラリズム)の徹底批判に設定されなければならないのである。

<<改憲、核武装、リベラルをめぐって>>
安倍首相は「リベラル」を演じながら、同時に、トランプ政権の登場に便乗して緊張激化政策を煽りに煽り、憲法9条の改悪と軍備拡大、出来れば独自核武装をまでみずからの政策課題として一貫して追及してきたのは周知の事実である。
その改憲・核武装をめぐっても、保守とリベラルの転倒が露わになっている。
真正保守思想を標榜する言論月刊誌『発言者』を刊行し、その後継誌『表現者』の顧問として毎号発言をし、歴史修正主義の「新しい歴史教科書をつくる会」に理事として参加し(2002年脱退)、2013年4月には、首相公邸で安倍首相と会食をしてきた西部邁氏が今年の1/21、多摩川で「自裁死」したと報道された。その西部氏は、『表現者』2018/1/1号・特集「世界大分裂の中の日本 改憲から核武装まで」の中で、西部邁氏を先頭に多くの論者が改憲・核武装をめぐって、次のような共通の発言をしている。
●西部邁 「これは世界の七不思議のひとつなんです。日本は核武装する技術も金もそして必要もありながら、どうして日本人は核武装しないんだ、そもそもする気すらない。いつのまにかそんな変な国になってしまったんです。立憲民主党は憲法九条を守れと言っているんです。あの憲法はアメリカが作ったものなんです。トランプは、選挙中のみとはいえ、『日本よ、核武装でもして、自分の国は自分で守れ』と言ってくれただけで僕は大満足なんです。」
●富田幸一郎(編集長) 「日本国民は核武装に耐え得るのか」「核武装の可能性について真剣な議論をすべきときがきているのはいうまでもないが、その当たり前の議論ができないのは、核兵器に対するアレルギーという自己欺瞞の故である。…広島、長崎を体験した被爆国であるといういい方はまやかしである。今こそ日本人は、日米同盟の中での米国の核兵器の「持ち込み」にとどまらず、むしろ独立した自衛核の防衛論を展開すべきときがきている。…福島の原発事故以来広がっている脱原発・反原発論は、放射能パニックの短絡的反応である。」「福島第一原発の事故以降に広がった反核イデオロギーこそ日本を滅亡の淵へと追いやるものである。いま毅然として「非核三原則」の見直しだけでなく、自衛隊の議論を推し進めるべきである。」「核武装の準備としての長期的目標があったことも忘れるべきではない。今再び日本は自立した国家の防衛戦略として、核武装の可能性を議論の俎上にのせるべきであろう。日本の長きにわたる「非核」イデオロギーとその政策は、ついにその終わりを遂げたのである。」
●藤井聡(2018/3/1号より、西部邁の指名を受けて新編集長) 「馬鹿と奴隷の国の中で」「左翼の連中は、自主防衛のための(核をも含めた)軍事力を日本が持っていなかったからなのだという真実についての洞察が完全に欠如している。多くの日本人たちは「核攻撃され、何十万人も死んでしまうかもしれない」ということをうすうす理解しながら、その危機に対して何もせず、「しょうがない」とあきらめてしまっていたのである。保守や左翼など、自分たちが置かれた状況を理解せず、危機感を持ち損ねた輩が多数に上る、これはもう「奴隷」というほかない。つまりわが国には馬鹿と奴隷しかいないのである。
●佐伯啓思 「核の脅威に対しては核による抑止しかない。「保守思想」からすれば、独自核武装がより「正しい」選択であろう。しかし現実にはそれは難しい。より現実的なのは、アメリカの核の傘である。しかし、それは保守思想の敗北ではないのか。」
●榊原英資 「独立国として明確な防衛戦略を」「現在の北朝鮮の状況を見ると、日本の独自に核武装する必要も高まっているのではないだろうか。そろそろ核武装を本格的に考えるべき時期だと思うのだが、…」
ほとんどトランプや安倍と同一の単純な論理である。核武装を急げと吠えるこれらそうそうたる筆者の思い上がったエリート意識、知的頽廃、劣化は目を覆うばかりである。
ところが問題は、改憲・核武装に反対の論陣を張っているはずの『週刊金曜日』2018年2月23日号が【中島岳志責任編集 <追悼特集> 西部邁とリベラル・マインド】を特集し、●追悼座談会|寺脇研×佐高信×中島岳志●「評論家」を演じ続けて|長崎 浩●学生運動のリーダーだった西部邁|森田 実●最後のリクエスト曲|青山 恵子●「大衆への反抗」を貫く|北村肇●中島岳志セレクト「西部邁この10冊」|中島岳志、を掲載しているのだが、この特集に登場した誰一人としてこの西部邁氏らの改憲・核武装論を取り上げ、批判さえしていないのである。西部氏を高く持ち上げこそすれ、その改憲・核武装論には黙して語らずなのである。中島氏は「西部邁という稀代の思想家に師事できたことを誇りに思っている。優しい人だった。」と述べているが、改憲・核武装を主張する人間のどこに「優しさ」を見出すのであろうか。
責任編集をした中島氏は、「なぜ西部邁先生の追悼特集なのかということですが、お亡くなりになって、いわゆる左派の人たちが非常に好意的なコメントをたくさんお寄せになっていたことにも関係しています。」と語っている。「好意的な左派」の人たちの矜持はいったいどこに行ってしまったのであろうか。改憲・核武装批判を表明できないような「好意的な左派」の人たちの存在意義はどこにあるのであろうか。
この改憲・核武装を肯定・無視する、あるいは問題にしないなどという姿勢が、「リベラル・マインド」と共存しているのである。これは、知性、人間性、ヒューマニティに根差した、統一戦線に不可欠な知的道徳的ヘゲモニーの喪失状態とも言えよう。改憲・核武装を阻止するための統一戦線であれば、こうした事態を明確に批判し、乗り越えられなければ、日本の統一戦線の前進はありえないと言えよう。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.484 2018年3月

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【投稿】米朝首脳会談の発表と孤立を深める「属国日本」

【投稿】米朝首脳会談の発表と孤立を深める「属国日本」アサート No.484 2018年3月
福井 杉本達也

1 梯子を外された日本
3月9日(米時間で8日)は日本にとって「第二のニクソン・ショック」(ニクソン訪中宣言:1971年7月15日及びドル・ショック:1971年8月15日)のような日となった。トランプ米大統領は、鉄鋼とアルミニウムの輸入制限を正式決定した。輸入増加から米メーカーを守ることが安全保障上の利益になるとして、鉄鋼に25%、アルミに10%の関税を23日から課すこととなる。中国は報復措置を警告、EUなども反発しており、深刻な貿易摩擦に発展する恐れがある。日本では中国を輸入制限の標的とするものだとの報道だが、米の鉄鋼輸入は日本は中国の倍以上あり、影響は日本の方が大きい。交渉力も中国が圧倒的に強力である。これで米国のTPP復帰などという寝言は完全になくなった。
また、韓国特使として訪米中の鄭義溶大統領府国家安全保障室長は、トランプ米大統領が北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長と5月までに会談する意向を示したこと明らかにした。また、金氏は今後、核・ミサイル実験を控えると表明した。平昌五輪の日本のTV局の報道中にも南北合同選手団を揶揄する場面が何度もあったが、孤立しているのは北朝鮮ではなく日本である。日本はトランプ政権に完全に梯子を外されたといえる。

2 ティラーソン国務長官解任の理由は
田中宇氏によると、米朝会談設定にまで持ち込んだ真の黒幕はトランプ大統領だという分析である。「軍産に介入されぬようトランプは米国務省を外して韓国政府を事務方として使い、国務長官も入れ替えた」。「米政府で外交を担当するのは国務省だが、国務省は軍産複合体の一部だ。トランプが米朝首脳会談を行うに際しての事務方を国務省に任せていると、国務省はトランプにわからないように妨害工作を行い、会談が行われないという結末になりかねない。そのためトランプは、米朝会談に至る事務方の仕事を、米政府の国務省でなく、文在寅の韓国政府にやらせてきた。」(田中宇「米朝会談の謎解き」2017.3.14)というのが田中氏の見立てである。結果、「トランプ米大統領が8日に韓国の鄭義溶国家安保室長と会談し、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長からの会談要請を受け入れた際、同席したマティス国防長官らが「(首脳会談の)危険性とマイナス面」への懸念を訴えたが、トランプ氏は取り合わずに決断した」(NYT:2018.3.10電子版=時事ドットコム:3.11)。しかし、鄭氏に記者会見を行わせるという全く異例の決断をしたため、「トランプ氏の側近らは外国政府当局者が記者会見場を使うことに反対。鄭氏はホワイトハウス西棟の車寄せで会見を行う」という前代未聞の展開になった。「トランプ氏の即断は側近だけでなく同盟国の不意を突き、『安倍氏は蚊帳の外に置かれた』」(時事:同上)。この間、あまりにも素早かったため、軍産複合体(国務省)の介入する隙を全く与えなかったということである。
軍産複合体としては、これまで、北朝鮮を利用して朝鮮戦争を「休戦」という不安定な状態のまま放置しておくことで、韓国や日本を占領下におき、極東における膨大な軍備を維持し続ける理由としてきたが、あまりにも費用がかかり維持できなくなりつつある。「米国第一主義」を掲げるトランプ大統領としては、こうした米国が主導する面倒な関与から抜けたいのである。

3 属国日本
米軍が介入した1950~53年の朝鮮戦争では、韓国と北朝鮮でざっと250万人が死亡したと言われる。「3年程の間に、米軍は朝鮮の人口の20%を戦争や飢餓などで殺した。」(元米空軍大将カーチス・ルメイ Newsweek2017.9.28:「米朝戦争が起きたら犠牲者は何人になるのか」ジョン・ハルティワンガー)という。人口が集積し産業が発達した今日ではこの比でではない。朝鮮半島の人口密度を考慮するならば、「軍事紛争は停戦ライン沿いで2500万以上もの人口に影響を与える可能性がある」と米議会調査報告書には記載されている。また、トランプ大統領の顧問を務めていたスティーブ・バノンは、2017年8月にアメリカン・プロスペクト誌とのインタビューで,アメリカの先制攻撃に関して「最初の30分の間に通常兵器による攻撃で1000万人が死亡するという予測」をたてている。もちろん日本も無傷でいられるはずはない。仮に核戦争が避けられたとしても、3月14日に再稼働した大飯原発にミサイルが着弾しただけで核暴走で日本は壊滅である。
金正恩氏が「新年の辞」で、平昌五輪に代表団を派遣すると述べ、トランプ氏もこれを評価した直後の1月7日のNHK日曜討論で安倍首相は「北朝鮮に政策を変えさせるために、あらゆる手段を使って、最大限、圧力を高めています」、「対話のための対話では意味がない」とまくしたてた。北の脅威をあおり、Jアラートやミサイル訓練で危機を強調することで、軍拡を進め、憲法改正にも利用する。安倍首相にとって、北の脅威は存在しなければ困る。それは米軍産複合体の利益と合致する。というよりも、日本国民の生命・財産を犠牲にして、日本の国家としての存続さえも危うくして、米軍産複合体の利益の代弁者して振る舞っている。

4 付き従う「主人」を間違った犬
米軍産複合体の代弁者であり、日本を裏で操るジャパン・ハンドラーの一角でもある 米戦略国際問題研究所(CSIS)は、「北朝鮮は最重要の地域課題だ。北朝鮮による核開発の放棄はありえず、北朝鮮の危険は核だけではない」、「米国と同盟国は、国土を守るため、専守防衛にとどまらず、攻撃の予兆があれば必要な措置をとる用意があることを知らしめるべきだ」(ゲイリー・ラフヘッド元米海軍作戦部長:日経・CSISフォーラム 2017.10.28)と述べている。また、エドワード・ルトワックCSISシニア・アドバイザーも南北会談で油断するな「アメリカは手遅れになる前に北を空爆せよ」(ニューズウィーク:2018.1.9)と戦争を煽っている。さらに、同様な軍産複合体の代弁者であるヘリテージ財団の ブルース・クリンナ一氏はトランプ氏の米朝会談の受け入れは「性急だ」と批判し、「日米韓で『完全かつ検証可能で不可逆的な非核化』という最終目標を確認して…これに同意することを首脳会談実施の条件とすればよい」(福井:2018.3.16)と会談を始める前から「条件」を付けてぶち壊すことを画策している。
ルトワック氏は「北朝鮮を攻撃すれば、報復として韓国の首都ソウルとその周辺に向けてロケット弾を撃ち込む可能性はある。南北の軍事境界線からわずか30キロしか離れていないソウルの人口は1000万人にのぼる。米軍当局は、そのソウルが『火の海』になりかねないと言う。だがソウルの無防備さはアメリカが攻撃しない理由にはならない。ソウルが無防備なのは韓国の自業自得である」(同上)と切り捨てる。しかし、韓国:文在寅大統領はルトワック氏のようには言っておれない。「火の海」で死ぬのは韓国国民自身である。オバマ=ヒラリー・クリント=民主党全国委員会=軍産複合体=国務省から一定の距離を取っているトランプ大統領との共同歩調をとり始めたのである。
トランプ大統領は昨年11月のアジア訪問において、日本への入出国には横田基地を使用し、韓国では烏山米空軍基地を利用した。「主人」は属国の正面玄関から入らない。というか占領軍の玄関は米軍基地である。しかし、同じ属国でも文政権は国民の生命や財産までも宗主国に売り渡すつもりはないようである。ソウルが「火の海」のにならないよう、いかに生き延びるか必死考えている。もう一方の属国日本は宗主国の中の「主人」を間違えて、国民の生命・財産を軍産複合体に売り渡すことに躊躇いもせず、自らの属国の代官としての地位保全に汲々としている。

5 リベラルの劣化
訪米中の河野外務大臣は3月16日、マティス国防長官と会談し「核、ミサイル、拉致問題を包括的に解決すべきだ」と訴えた。また、安倍首相が文大統領と電話会談し、4月末に予定する南北の首脳会談で「日本人拉致問題を取りあげてもらいたい」と求めた。そもそも拉致問題は日朝二国間の問題であり、米国や韓国に頼む筋合いの問題ではない。過去の日本の朝鮮支配の誠実な清算と同時に進めればよい。南北会談・米朝会談に拉致問題を含めよというのは会談を失敗させよということと同じである。
3月13日の朝鮮中央通信は『論評』で「無分別な属国の妄動」と題して、「サムライの後えいは自分らが崇める米国から政治的排斥とのけ者扱い、経済的収奪を受けるなど、その蔑視と虐待は数え切れないほどである。」とし、「2013年に日本のある政治学者は自分の『永続敗戦論』で、日本が『敗戦の否認』と『対米従属』という二つの要素から脱することができなければ永遠に敗戦状態にあるようになるだろうと主張したことがある。」と書いた。北朝鮮に指摘されるまでもなく、日本は独立した国家でも、民主主義でも、日本の政治家が日本の政治を動かしているわけではない。安保条約と日米地位協定の下、主権者は、米軍と、その意向を忖度する売国奴官僚による共同統治である。11月のトランプ大統領の横田基地からの入国では護憲・リベラルを自任する野党は一切抗議しなかった。そもそも、首都の上空を広大な横田空域に占領させておいて「独立国」だというのはおこがましい。占領という現実を踏まえた上で、文大統領のように国民の生命と財産を守るための真剣な努力をするのか、国民の生命・財産をも差し出して、占領軍の統治に甘んじるのか「第二のニクソン・ショック」から問われ始めている。

【出典】 アサート No.484 2018年3月

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【書評】『核惨事!──東京電力福島第一原子力発電所過酷事故被災事業者からの訴え』

【書評】渡辺瑞也
  『核惨事!──東京電力福島第一原子力発電所過酷事故被災事業者からの訴え』
(批評社、2017年2月、2,500円+税)  アサート No.484 2018年3月

本書は、福島第一原発から北北西に18kmに位置していた南相馬市小高赤坂病院院長の「原発過酷事故被災事業者」からの訴えである。著者が院長を勤めていた病院は、地震と原発事故直後の3月12日(土)午後に避難指示の対象となった。この後の患者全員の避難転院、避難生活、そして損害賠償と救済と問題が山積している中での被災者/被害者としての立場からの問題の分析と批判の書である。
とりわけ本書で問題にされるのは、「原発事故による放射線障害をめぐる問題」(第2章)、「いわゆる“年間20ミリシーベルト問題”」である。これについて本書は次のように指摘する。
この数値は、ICRP(国際放射線防護委員会—-世界の原子力産業界が基金を拠出して設立した民間団体)がひとつの参考として2007年勧告で提示したものであるに過ぎない。この時点では文科省の放射線審議会での検討はまだ出ていなかったし、各国に強制するものではないとされていた。しかし「そうした中で福島原発過酷事故が起きてしまったために、原子力安全委員会がいわば独走する形で、しかも内部には異論はなかったかのように誤魔化しICRP2007年勧告を『国際基準であるかの如く』装って導入した、というのが真相のようである。いわば、年間20ミリシーベルト問題の源泉は原子力安全委員会の政治的決定にある、と言うべき経緯があったのである」。
しかもこのICRP勧告は、「緊急時被ばく状況」と「現存被ばく状況」という概念を提唱し、この境界値を20ミリシーベルトと設定していて、「20ミリシーベルト以下の現存被ばく状況は安全な環境などとは言っておらず、『20ミリシーベルトよりもさらに放射線量を低減させる努力が必要』と述べている」。「従って国が避難指示に関する行政権の執行に際して、この数値をあたかも安全基準であるかのように喧伝して被災者の生活圏域を一方的に決定して行くやり方は、政治的な意図に裏打ちされた行政権の過剰適用ないし乱用ではないかと思われる」。
ましてや文科省が出した通知(平成23年4月19日)「20ミリシーベルト/年に到達する空間線量率は、屋外3.8マイクロシーベルト/時間(略)である。したがって、これを下回る学校では、児童生徒が平常どおりの活動によって受ける線量が20ミリシーベルト/年を超えることはないと考えられる。さらに、(略)3.8マイクロシーベルト/時間以上を示した場合においても、校舎・園舎内での活動を中心とする生活を確保することにより、児童生徒の受ける線量が20ミリシーベルトを超えることはないと考えられる」としているのは論外である。
本書はこれを、「文科省が発出したこの衝撃的通知は、日本の将来を担う宝である子ども達を育てる責務を負う官庁が、驚くべきことに、空間線量率が3.8マイクロシーベルト/時もの高線量の環境下で、洗顔や手洗い、うがいや靴の泥を払いながら学校生活を送れと指示しているのである」と厳しく批判する。
またあまり世間では注目されてはいないが、IAEA(国際原子力機関—-これを管理しているのは国連常任理事国=核保有国)を頂点とする支配体制が放射線による健康被害を隠蔽している国際的なあり方も批判される。その中軸的協定(WHA12-40協定)は「WHO(世界保健機構)はIAEAの許可なしに放射線に関する事項を公表してはならない」とされている。同様の協定が、IAEAと福島、福井両県や福島医大との間に結ばれており、その「実施取り決め」文書には、「他方の当事者によって秘密として指定された情報の秘密性を確保する」という条項が含まれていた。そして「チェルノブイリ原発事故の放射線による健康障害は小児甲状腺がんと白血病だけであると断定したのもこのIAEA体制であるということもまた、よくよく知っておく必要がある」。
本書ではこの他、損害賠償金問題に関して、加害責任者である国が「税の公平性を守る」という屁理屈で被災者/被害者に「支払われた補償金に対しては課税」するという杓子定規で頑なな姿勢をとり続けていることも批判もされ、まさに「蛮行」がまかり通っているとされる。
さらに、原発事故時のみではなく、通常運転時にも常に放射能は漏洩していて人々の健康を害している—-トリチウムや放射性希カスの廃棄等の危険性についての指摘もなされる。
このように重大な諸問題が何ら解決されないまま、今また原発の再稼動が進められようとし、被災者/被害者が置き去られようとしている。本書はこう警告する。
「原発に絶対安全はない。これは紛う方なき真実である。問題は重大事故は『起きるか否か?』ではなく、『今度はいつどこで起きるか?』という問題なのである。/これは原発のプラントは未来永劫絶対に安全であるか?という問いと、住民はひとたび環境中に放出された放射性物質から安全に逃げきれるか?という問いと、人類は産業廃棄物たる使用済み核燃料を永久に、そして完全に安全に管理しきれるか?という三つの問いに対して、いずれも『否』であることを意味している」と。(R)

【出典】 アサート No.484 2018年3月

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【投稿】平和と生活破壊進める安倍政権

【投稿】平和と生活破壊進める安倍政権        アサート No.483 2018年2月
―外交の鬱憤を内政で晴らす安倍―

長州だけど気分は「西郷どん」
2月9日から開催された平昌オリンピックは韓国、北朝鮮の融和が前面に押し出されたものとなった。韓国、北朝鮮の当局は昨秋から協議を重ねており、今回の融和は綿密に準備されたものであることが明らかになっている。
その意味で近年ではとりわけ政治性を帯びた大会になったことは事実である。しかし、これを「オリンピックの政治利用」「微笑み外交」として安倍政権が韓国、北朝鮮政府を非難するのはお門違いというものであろう。
1980年、時の大平内閣はJOCに圧力をかけ、参加を切望するアスリートの声を圧殺しモスクワオリンピックをボイコットさせた。過去こうした愚行を行い、2020東京大会を政権浮揚に利用している自民党政権がオリンピックの政治利用を非難する資格はない。
あまつさえ、韓国文政権による従軍慰安婦問題日韓合意の見直しを理由として、開会式出席を拒否しようとした安倍こそ、平昌オリンピックに政治を持ち込んだうちの一人と言えよう。
安倍の出席を巡っては、欠席の腹積もりであったのがアメリカの説得で出席を決断したなどと取り沙汰されているが、当初より韓国政府から「是非とも」と指名されている以上、最終的には拒否しようが無かったのである。
つまり退路を断たれているわけであり、訪韓を乞うたうえで慰安婦合意見直しを持ち出した文在寅の方が、政治的に一枚上手であったと言えよう。
名指しの招待さえなければ、アメリカはペンス副大統領、北朝鮮は表と裏のNo2=金永南、金与正、中国は閉会式に劉延東副首相と、結果的にはこぞって序列2位を派遣しているのだから、元オリンピック選手の麻生太郎が適任だっただろう。
欠席という選択肢がない以上、純粋にオリンピック開催を祝うと言うのがマナーと言うものであるが、安倍は「慰安婦合意の履行を求める」「対北融和姿勢に釘をさす」などという、極めてネガティブな政治問題を訪韓の理由としたのである。
本人は1873(明治6)年、「決死の覚悟で朝鮮開国を求めるため」渡海せんとした西郷隆盛に擬えていたのだろう。それならいっそのことリオオリンピック閉会式にマリオの扮装で登場したように、着流しに犬を連れた西郷のコスプレで臨めばよかったのでなないか。
安倍は開会式前日に行われた日韓首脳会談では、慰安婦問題は言うに及ばず、オリンピック、パラリンピック後の米韓合同軍事演習の実施まで求めた。当事者のペンスさえそうした発言はしていないにもかかわらず、内政干渉ともいえる高圧的な姿勢はまさに現代の「征韓論」ともいうべきものであり、オリンピックの祝祭ムードに水を差す行為であると言える。
さらに開会レセプションの席では金永南に対し、会話の中で拉致問題、核開発問題を持ち出すと言う、これも極めて政治的な立ち振る舞いを見せた。徹頭徹尾、北朝鮮側との接触を拒否したペンスに比べ、日頃批判する融和的姿勢ではないかとの強硬派からの指摘に、安倍は北朝鮮との接触は必要だったと弁明した。それなら中途半端なパフォーマンスはせずに、あいさつ程度の文字通りの外交辞令で良かったのではないか。

緊張緩和の流れに不安
平昌オリンピックを政治利用せんとした安倍の行動は、肩をいからしながらも浮ついたものであり、「氷の王女」金与正の存在感を前に完全に霞んでしまったのであった。
会場を支配したのは南北融和の流れであった。訪朝要請に文在寅は前向きの姿勢を示し、金正恩も妹からの報告を受け韓国との関係改善を進めることを明らかにした。現地では無視を貫いたペンスも離韓後には北朝鮮との対話に含みを持たせるなど、日米韓の連携は揺らいでいる。
文在寅は2月17日記者会見で日米の懸念を念頭に「南北会談を急ぎ過ぎない」旨の発言を行ったが、年内実施という基本的な流れは変わらないだろう。
さらに中露もこの動きは大いに歓迎するところである。文在寅はペンスとの会談に先立ち中国共産党幹部と会談し、米朝対話へ向けて努力することで一致している。今後、中露韓3国が北朝鮮を包摂する朝鮮半島トライアングルを形成し、緊張緩和を主導する可能性もある。
今後の最大の焦点は延期されている米韓合同軍事演習が、4月に実施されるかどうかである。昨年12月まではオリンピック前の実施で運んでいたが、1月に韓国政府の要請で延期となり、パラリンピック終了後に開始されるとの了解が支配的であった。しかし、この間の緊張緩和の動きの中で韓国政府は、時期はもちろん実施されるかどうかについても明確な説明を避けている。
2月8日には北朝鮮で軍事パレードが行われ、ICBM「火星15」も登場したが、規模は昨年の半分であり対外アピールも控えめであった。これについては経済制裁で燃料が不足しているためとの見方も示されているが、米韓への配慮と受け取るならば米韓演習の再延期、もしくは大規模な縮小という方向に韓国が動き出しても不思議ではない。安倍の差し出がましい発言に文が不快感を示したのも当然である。
こうした動きに不安を覚えた安倍は14日遅くトランプに長電話をかけ、北朝鮮に対しアメリカが融和姿勢に転じないよう懇願した。安倍は終了後記者団に対し「最大限の圧力をかけることを確認した」と述べたが、何度も同じことを繰り返し説明することにこそ、連携の不安定さが表れている。
また河野太郎は2月16日からの「ミュンヘン安全保障会議」で北朝鮮への圧力強化を訴え「対話のための対話は無意味」との見解を繰り返す一方、「接触」はありうるとの見方を示し、微妙な軌道修正を行った。安倍が平昌で金永南と会話を交わしたことの後追いであるが、日本が孤立しつつあることを認識しての発言であろう。

トランプ軍拡に追随
この一方でなんとかアメリカを繋ぎ止めるため、トランプ政権への追従はますます露骨になっている。
トランプは1月30日、一般教書演説で「強いアメリカを作る」と宣言、安全保障政策では改めて「力による平和」を強い調子で主張し「核兵器の近代化」に踏み込んだ。
これを踏まえ2月2日には「核態勢見直し(NPR)」を発表、核巡航ミサイルなど新型戦術核兵器の開発を進めることを明らかにした。さらに先制核攻撃の可能性にも言及するなど、核兵器を特別な存在とせず使用していくことを示唆した。さらに12日には軍事費を78兆円とする2019会計年度予算教書を発表し、通常兵器、兵員の大幅増強をも進めることを明らかにした。
この大軍拡、とりわけNPRに世界中でいち早く賛同の意を表明したのが安倍政権である。3日河野太郎は外務相談話を発表しNPRを「高く評価」した。これに対し野党は5日の衆院予算委員会で追及したが河野は、北朝鮮の核に対抗するもので高く評価しない理由はない、などと再度NPRを持ち上げた。8日には同委員会の質疑で「世界を不安定にしているのは核開発を進めているロシアだ」と責任を転嫁し開き直った。
NPRに対してロシア、中国は直ちに反発を示したが、ロシアを名指しした河野発言に対しロシア外務省は8日「平和条約締結問題を含む外交関係に影響が出る」と懸念を示した。16日のミュンヘンでの日露外相会談で河野は発言を弁明するどころか、北方領土での軍事演習、イトゥルップ空港の軍民共用化を非難するなど強硬な姿勢を示した。これらは安倍が言えないことを代弁しているのであろうが、イージス・アショア配備問題に続きロシアの警戒感を高めたことは間違いない。
中国に対しても河野はミュンヘンで名指しは避けたものの、「力による現状変更」を非難、さらに新興国へのインフラ投資についても「透明性がない」と難癖をつけた。

国民生活は置き去り
このように敵を作ることに余念がない安倍政権は、孤立化を恐れながら自ら孤立の道を進んでいる。安倍政権は今後アメリカの軍拡に追随する形で自衛隊の増強を進める目論見であり、2018年度予算案の軍事費は新規装備の調達で過去最大となっている。しかしこうした矢先、2月5日佐賀県で陸自の攻撃ヘリが民家に墜落し、乗員2名が死亡、住民1名が負傷した。さらに先日、海自のイージス艦「きりしま」(横須賀配備)のマストが突然折れる事故が発生した。
このほかにもヘリからの部品落下などがこの間頻発しており、これらは部品の欠陥か整備不良、構造上の問題と考えられるが、装備の調達が目的化し、米軍と同様メンテナンス部門にしわ寄せがきていることが要因の一つだ。
この様な状況を放置するなら、今後も重大事故が発生するだろう。北朝鮮のミサイルより、自衛隊や米軍機の方が危険という本末転倒の事態となっているのである。
市民を危険に晒しながら軍拡を進める安倍政権は、さらなる生活破壊を進めようとしている。安倍は今国会を「働き方改革国会」として、低賃金、長時間労働を強いる働き方改革法案の成立を目論んでいる。
安倍は1月29日衆院予算委で、捏造されたデータをもとに「裁量労働の方が一般より労働時間が短い」と答弁した。野党から問題点を指摘されても誤りを認めなかったが、2月14日に自民党議員の指摘でようやく答弁を撤回し陳謝した。
貧困世帯の子どもの大学、専門学校進学に4月から給付金を出すとしているが、それ以前の高校中退や、義務教育段階での事実上のドロップアウト対策、さらには奨学金返済問題の解決が先決であろう。それには保護者の経済的安定が不可欠であるが、生活保護費は引き下げされようとしている。
また「人生100年時代」などと称し、長寿幻想をふりまいているが要は死ぬまで働けと言うことである。安倍政権は韓国に対し「ゴールを動かす」と非難しているが、今後出てくるであろう年金受給開始年齢の引き上げは、まさにゴールの移動である。生涯現役などと言いながら、高齢者に運転免許の返納を推奨するのは矛盾しているではないか。
正規、非正規の賃金格差是正も働き方改革法案に依拠するだけでは進まないだろう。今こそ野党、労働組合が国会、春闘を結合して取り組みを進めることが必要とされている。(大阪O)

【出典】 アサート No.483 2018年2月

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【投稿】「仮想通貨」バブルの崩壊とドル覇権終焉の足音

【投稿】「仮想通貨」バブルの崩壊とドル覇権終焉の足音
福井 杉本達也    アサート No.483 2018年2月

1 「仮想通貨」バブル
1月26日深夜、仮想通貨取引所大手のコインチェックが約580億円の仮想通貨が外部からの不正アクセスで流出したと発表した。仮想通貨を巡っては、約470惜円分が消えた2014年の「マウントゴックス事件」を超える過去最大の流出となる。しかし、東証の記者会見に臨んだ若干27歳の社長、和田晃一良氏は、まさに「仮想」の宙を見ているようで、巨額の損失を出した責任者としての感情は全く見られなかった。
日経によると18年初めの仮想通貨の総額は100兆円と1年前の40倍になった。けん引役はビットコインで、あふれるマネーを飲み込みながら急成長してきた。しかし、今年1月、2万ドル近くまで上昇したビットコインが5割以上急落した。仮想通貨は法定通貨のように国家が保証するような裏付けは何もない(日経:2018.2.16)。まさに「仮想」そのものである。その様な得体の知れないものにマネーが流れ込み、破綻したのである。『週刊東洋経済』2017年11月4日号では「あなたもできる!ビットコイン投資」などと仮想通貨への投資を煽りに煽ってきた。経済学者の野口悠紀雄氏などもビットコイン技術を評価してきた。おかげで、世界におけるビットコイン取引のうち約半分を日本円建てが占め、日本は「仮想通貨大国」となったが、日本のあふれるマネーをかすめ取る動きの一環といえる。
1630年代のオランダで起きたチューリップバブルについて、日経は「高騰にはこれといった根拠がなかった。値上がりへの期待だけが膨らみ続け、ありふれた品種に年収数年分の値がついた。そしてある日、突然買い手が消えた。」(日経:同上)と書いたが、「仮想通貨」こそ「電子・金融空間」を舞台とした現代版の「チューリップ球根」である。

2 「尻尾」が「本体」を振り回す
2月2日のニューヨーク市場で長期金利の指標となる10年物国債利回りが一時、2.85%と約4年ぶりの水準に上昇したことに嫌気した投資家が米国株に売り出し、ダウ平均が665ドル安と9年ぶりの下げ幅となった。その後も投資マネーはリスク回避に走り、5日にはダウは1175ドル安と最大の下げ幅を記録し、日経平均も6日には1071円安となった。世界株の時価総額は5日~9日の1週間で5兆ドル(540兆円)も減少した(日経:2018.2.11)。
リーマン・ショック後に米国中央銀行であるFRBは、短期金利を上げたり下げたりする従来型の金融政策ではなく、米国債や住宅ローン担保債権などを直接買い上げ、金融市場にマネーを直接供給する「量的緩和策」(Quantitative easing、QE)を始めた。量的緩和を始めた2008年以降の債券の増加ぶりはすさまじい。世界の債券の17年末の時価総額は推計で169兆ドル(1京8400兆円)。金利低下で債券価格が上昇し、08年から50兆ドル(4割)膨らんだ。世界の国内総生産(GDP)の6割強にあたる。マネーの規模がかつてないほど膨らんだ分、揺らぎの余波は大きい。適温相場は中銀がマネーを大量に供給し続けた非常事態の上で成り立ってきた。市場はすっかり中銀頼みとなっている。今後「尻尾(金融)が本体(経済)を振り回す」ことになると予測される(独保険大手アリアンツのモハメド・エラリアン首席経済顧問)(日経:2018,2,10)。

3 原因は資本が過剰なまでに積み上がっていることにある
日銀がマイナス金利政策を導入して以来、銀行の貸出金利は下がり続け、2017年末の貸出金残高のうち金利0%台の融資は全体の62%に拡大している。マイナス金利政策は民間の銀行が集めた預金を日銀に預けると、義務として預けなくてはならない法定準備預金額を超えた分の一部に0・1%の利息を日銀に払わなければならない制度である(日経:2018.2.16)。1215年ローマ教会が利子を公認して以来利回りは資本増殖の効率性を図る尺度であった。それ以前は、借り手はお金を借りても利子を付けて返す必要はなかった。「時間は神の独占物」だったからである。ところが、マイナス金利は貨幣が利子を生む「種子」から何も物も生まない「石」への再転換を意味する。「資本主義の終焉」を意味している(水野和夫・福井:2016.3.20)。
「資本はモノではなく、貨幣がより多くの貨幣を求めて永続的に循環する一個の過程である」(マルクス)。資本主義とは資本が永続的に自己増殖する過程であるが、積み上がった過剰な資本を投資する先がなくなったのである。耐久消費財が行き渡った日本では、自動車生産台数を始め全ての消費財は右肩下がりとなっている。下手に巨大投資すれば、シャープの液晶パネルのように巨大な負債を抱えて、台湾資本の傘下に入らざるを得なくなる。利潤を追求することは「安く仕入れて、高く売る」必要があり、そのためのフロンティア(未開拓地)を求めて国外に経済活動を拡大したのがグローバリゼーションである。しかし、中国も東南アジアなどの新興国もグローバリゼーションの恩恵を受け、もはやフロンティアは残されていない。

4 グローバリゼーションからの撤退するトランプ政権の「米国第一主義」
トランプ政権は、「米国第一主義」を掲げ、グロバリゼー ションからの撤退を表明した。通商政策ではTPPからの離脱、NAFTAの再交渉、気候変動抑制に関する多国間の国際的な協定(パリ協定)からの離脱など保護主義色を強めている。また、安全保障政策でも「世界の警察官」の看板を取り下げつつある。トランプ氏が掲げる「米国ファースト」は、内向き政策の裏返しである。1990年代半ば以降、IT革命とグローバル化によって米国の雇用は、海外生産や経理事務などのアウトソーシングなどが進み、高卒以下の人たちの仕事が奪われてきた。トランプ氏を支持する「忘れられた人々」は働き始めた時よりも現在が貧しく生活が良くならない人々であり、多くは学歴が高卒以下、地域的には白人の比率が高いラストベルトなどの内陸部の人々である(参照:水野和夫・福井:2017.5.7)。
失業している白人に職を与えるために政府としてできることはインフラ投資だが、財政赤字は拡大する。財政赤字を補てんするには国債の増発しかない。しかし、米国債の多くは中国をはじめとする外国勢が買っているが、米国の経済が良くならないと判断すれば米国債を買いにはいかない。そのブレが2月の長期金利の指標となる10年物国債利回りの上昇である。

5 最大の不安定要因は国際基軸通貨「ドル」
世界経済の最大の不安定要因は米国の「ドル」にある。ドルは米国の経済力と軍事力を背景として国際的に基軸通貨として流通しているが、1971年8月に当時のニクソン大統領が金との兌換を停止し、変動相場制に移行したことにより(ニクソン・ショック)、それまでのブレトン・ウッズ体制は崩壊した。金と交換できる唯一の通貨がドルであり(金1オンス=35ドルの固定相場=金本位制:当時、日本円は1ドル=360円の固定相場)、金という本来の貨幣がドルの裏付けとなることによって、ドルが基軸通貨としてIMFを支えてきたのがブレトン・ウッズ体制であったが、ドルの金交換に応じられないほど米国の金保有量が減ったことにより、戦後の金とドルを中心とした通貨体制を維持することが困難になったためである。その後ドルは大幅に切り下げられ、ドルは金の裏付けもなく、事実上強制的に国際的に流通する基軸通貨としての機能を果たしてきた。強制的にというのは特に主要エネルギー資源である原油の取引においてはドル以外での通貨による取引がほとんど認められていないからである。
この強制的原油取引を支えているのがイスラエルであり、サウジアラビアである。またイスラム国(ISIL)やアルカイダなどの米CIAの傭兵による脅しである。もし、自国の原油をドル以外の通貨で取り引きしようとした場合には米国の直接的な軍事力の行使によって、あるいはクーデターによって潰されてきた。2003年のイラクのフセイン政権であり、2011年のリビアのカダフィ政権である。一大産油国で唯一潰すことができなかったのは1979年のイラン・イスラム革命で成立したイランであるが、その後、イラン核開発問題を巡り様々な国際制裁を受けてきた。欧米6カ国は2015年に制裁解除で合意したが、トランプ政権は制裁再開の脅しをかけ続けている。
こうした中東での力関係を変えたのが、2015年9月からのロシアによるシリア・アサド政権への直接的軍事支援であり、結果、イスラム国などのCIA傭兵組織は壊滅状態となり、傭兵を支えてきたサウジ―カタール連合は分裂し、同じく傭兵を支えてきたトルコはロシア側に半分寝返り、イランの中東での存在は大きくなっている。制裁解除後、イランはユーロでの原油取引や中国との元建て取引を行うとしている。中国は、世界最大の石油輸入国であるが(2016年の国の消費量に占める輸入量の割合は65.5%まで上昇した)、人民元建ての原油先物を3月26日に上場すると発表した(日経:2018.2.10)。上海先物取引所での取引開始を呼びかけて主要な石油供給国へ圧力をかけることができる。これはすでに市場で取引されているWTI原油やブレント原油に加えて新たなベンチマーク契約が生まれることにつながる。人民元建て先物取引の誕生により、ロシアやイランなどの石油輸出国は制裁を回避する必要がある場合にドルの使用を避けることが可能となる(umuu’s blog:2018.1.4)。
貨幣の貨幣としての金の裏付けもなく、原油というモノの裏付けも、米国の経済力という背景も、軍事力という強制も失ったドルは益々紙屑への道を進まざるを得ない。「仮想通貨」は「電子・金融空間」という技術を背景とした金融覇権の試みの1つであるが、ドルの覇権を維持するにはチャチな舞台装置に過ぎない。覇権を維持するために、今後さらに経済的大変動や軍事的緊張が高まるのか、覇権通貨間の妥協による何らかの軟着陸着地点を見出すことが出来るのか、新自由主義的イデオロギーや情報操作に誤魔化されない眼が必要とされる。経済学者ケインズは、ゼロ金利は「利子生活者の安楽死」をもたらすとしたが、「安楽死」するか過剰資本もろとも人類を滅亡させる「最後のあがき」を試みるのか危機的状況はなお続く。

【出典】 アサート No.483 2018年2月

 

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【投稿】名護市長選が明らかにしたもの 統一戦線論(45)

【投稿】名護市長選が明らかにしたもの 統一戦線論(45)
アサート No.483 2018年2月

<<「あきらめ」を助長させたものは何か>>
沖縄・名護市長選の結果は、周知のとおり、当選した渡具知武豊氏(56歳、無所属。自民、公明推薦)が20,389票に対し、現職で2期連続当選してきた稲嶺進氏(72歳、社民、共産、社大、自由、民進推薦、立憲民主支持)は16,931票、その差3,458票という予想外の大差であった。同時に行われた名護市議補欠選においても、当選した仲尾ちあき氏19,782票に対し、ヘリ基地反対協議会共同代表の安次富浩氏は15,927票、3,855票差であった。同市・辺野古への米軍新基地建設を許さないオール沖縄の共同・統一候補として闘った稲嶺、安次富両氏の敗北は、負けても接戦、僅差とみられていたことからすれば、この数字以上のものがあると言えよう。しっかりとかつ冷静にこの選挙戦を振り返り、安倍政権が今年最大の山場と設定している11月の県知事選に備えることが求められている。
第一は、翁長知事を先頭とするオール沖縄の現職という強みが、不変のものではなく、常に掘り崩され、浸食されているという現実である。攻防のただなかで、あいまいさや動揺、優柔不断は有権者の意識に直ちに敏感に反映されるということであろう。
その最大の問題は、辺野古基地建設の強行を絶対に許さないのであれば、なぜ、沖縄防衛局が次から次へと繰り出してくる「岩礁破砕」や「サンゴ移植」「石材運搬の港使用」(奥港、本部港)などを、「法的には認めざるをえない」(翁長知事)として許可を先行させているのであろうか。許可しておいてから、奥港住民の石材運搬阻止の必死の闘いに再検討を約したが、実態は、工事阻止どころか進捗させているのである。そして実際には、辺野古・大浦湾の埋め立てを「許可」しているのが実態である。
当然のこととして「市民の間には『知事は(基地建設工事のための)本部港の使用も認めた。工事阻止どころか進めている』との不満も根強い」(2/9日付琉球新報)、「『反対しても工事は止められない』とのあきらめムードが広がっている」(2/4日付沖縄タイムス)のが現実であった。
「オール沖縄」は「市長と県知事が許可しなければ新基地は止められる。」と市民に訴えながら、仲井真弘多前知事が行った「埋立承認」を撤回せず、事実上「承認(許可)」した状態で放置しているのである。ここに、市民の「あきらめ」を助長させた最大のものがあると言えよう。仲宗根勇・うるま市島ぐるみ会議共同代表が「『工事が進んでいる』ことが投票判断の決定的要因」であり、「稲嶺氏陣営は、工事の進行が翁長知事の承認取り消しの取り消しに発するとの根本的な矛盾の認識を欠落」(2/8日付琉球新報)させていたと指摘する通りである。
安倍政権、沖縄防衛局、自民・公明が名護市政奪還を目指して、ヒト、モノ、カネ、デマを最大限動員し、市民の「あきらめ」ムードを煽ったのは事実であるが、それを助長させたものをしっかりと見つめなおすことが求められている。

<<辺野古の「へ」の字も言わない>>
しかし、その「あきらめ」にもかかわらず、市長選直前の1/30に公表された琉球新報社・沖縄タイムス社・共同通信社の3社合同・名護市の世論調査では、普天間基地の辺野古移設について「反対」「どちらかといえば反対」と回答したのは66%、「賛成」「どちらかといえば賛成」は28.3%にとどまり、さらに名護市長選結果に関係なく辺野古移設を進める考えの政府姿勢を支持するかについては「支持しない」「どちらかといえば支持しない」が67.2%、過半数以上の市民が辺野古移設に反対の立場であり、「市民の理解」など到底得られてはいないのが現実である。さらに、投票日当日の <出口調査結果>でさえ、共同通信、琉球新報、沖縄タイムス3社共同調査では、辺野古移設に反対=49・4%、どちらかといえば反対=15・2%、合計64・6%であり、NHK調査では反対=52%、どちらかといえば反対=23%、合計75%にも及んでいる。辺野古基地ノー!の民意は強まりこそすれ、弱まってはいないのである。
にもかかわらず、稲嶺陣営は敗北したのである。稲嶺氏は「残念ながら、辺野古移設の問題がなかなか争点となりえなかった」と語られているが、選挙戦期間中でさえ、翁長知事の応援演説には、「埋め立て承認の撤回」はおろか、「あらゆる権限を行使して新基地は造らせない」というこれまでの決意表明さえ表明されなかったのである。違法ダンプや県道封鎖、デモ規制、不法逮捕、サンゴ礁破壊、等々、もろもろの違法な辺野古の基地建設工事をすべてストップさせる、それらの問題点をこそ広く訴えるという、本来の争点がなぜかうやむやにされ、回避されてしまったのである。そのうえ、若さを前面に押し出す渡具知陣営の争点外しに対応し、押され気味の選挙戦を挽回するためでもあろうか、パンダの誘致などという陣営関係者でさえ首をかしげるような政策を打ち出すなど、迷走まで表面化させてしまった。
こうした事態に付け入るように、渡具知陣営は「基地問題にこだわり過ぎ、経済を停滞させた」と稲嶺市政を批判、学校給食費の無償化や観光振興などを争点の中心に据えた。さらに渡具知陣営は、前回自主投票だった公明党を選挙戦に本格的に参入させるために、渡具知氏が公明党沖縄県本部と交わした政策協定の中に「米海兵隊の県外、国外移転」まで盛り込まれた。これによって公明党沖縄県本部は辺野古に反対の立場を取りつつ、「市長に工事を止める権限はない」として渡具知氏推薦を合理化し、創価学会員をしゃにむに反稲嶺に突っ走っらせることとなった。もう一つ、学会員を突き動かしたのが「共産党主導」批判キャンペーン。「『稲嶺の選挙は共産党が主導している。共産党主導と聞いただけで敵対心を燃やす学会員さんが多いんだ。とてもうまくいった」(渡具知選対幹部、2/5 現代ビジネス)という。その意味では、立憲民主党が稲嶺支持を打ち出した1/23、すぐさま共産党書記長の小池氏が、まるでオール沖縄を代表し、選挙を取り仕切っているかのように「歓迎したい」と表明したことは、火に油を注いだとも言えよう。相手に付け入らせず、セクト主義を排していかにともに闘うかという姿勢こそが問われている。
さらに、自民党が選挙戦で作成した「内部文書」は「応援メモ」というタイトルで、応援に入る国会議員などへの指示として、〈NGワード…辺野古移設(辺野古の『へ』の字も言わない)〈オール沖縄側は辺野古移設を争点に掲げているが、同じ土俵に決して乗らない!〉(2/1付しんぶん赤旗)が徹底された。
当選した渡具知氏自ら「辺野古容認の民意ではない」(2/5の記者会見)ことを認めている。明らかに、与党の自民・公明連合には、避けがたい矛盾が内包されており、辺野古の「へ」の字も言わざるをえなくさせる、これを破綻させるオール沖縄、稲嶺陣営側の戦術・戦略が欠落していたのである。

<<「あきらめる必要は絶対ない」>>
過去5回の名護市長選では新基地建設の是非が焦点となり、1998年は、新基地建設容認・推進派の岸本健男氏が得票数16,253票を得て初当選。2002年は、同じく岸本氏が得票数20,356票を得て再選。2006年は、容認・推進派の島袋吉和氏が得票数16,764票を得て初当選。2010年の同選挙では、新基地建設反対派の稲嶺進氏が得票数17,950票を得て初当選。前回2014年は、同じく稲嶺氏が得票数19,839票を得て再選。
今回、稲嶺氏は、前回2014年の選挙時に得た票より約3,000票減らしての敗戦である。 同市の有権者は前回より約2,000人増えており、移設容認派が前回より5,000票増やしたことからすると、稲嶺陣営の落ち込みは、表面的な数字以上のものがある、と言えよう。
また、表面的には、名護市内の公明票は2000~2500票。下地幹郎衆議院議員(維新)の票が約1500票。前回約4000票の差は、この「公明票」と「下地票」によって埋められた、とも言えよう。
しかし、前回より有権者が増えているのは、2016年の選挙権年齢が18歳に引き下げられたことが大きく反映している。しかも、出口調査によると、渡具知氏候補支援=10代が65,4%、20代は61,6%という若い世代の支持の高さが注目される。玉城デニー氏(衆・自由党・党幹事長)は「とぐち候補を支援した若者は選挙戦略の一つである会員制交流サイト(SNS)をフルに活用した、とぐちさんの政策と若い世代がマッチした」(2018/2/11)と述べておられる。辺野古新基地を作らせない闘いこそが、沖縄の経済、若者の生活と密接に結びついていることを明らかに明示すると同時に、それと密接不可分なものとしての希望の持てるニューディール政策が要請されていたことを、今回の選挙は明らかにしたとも言えよう。
沖縄の作家・目取真俊さんは、「沖縄防衛局は6月にも護岸による囲い込みを終え、埋め立て用土砂を投入すると打ち出している。台風シーズンを迎える前に護岸工事を進め、もう後戻りできない、という印象操作を行うことで、県知事選挙を勝利しようという魂胆だ。すでに名護市長選挙でその手法は成功している。それを許さないために、翁長知事は埋め立て承認の撤回に踏み切って、工事が進行している流れをいったん断ち切るべきだ。そうやって自らへの信頼を回復しなければ、県知事選挙での再選もおぼつかなくなる。撤回による裁判以前に、翁長知事が自滅しては話にならない。」(2018-02-07)と強調されている。
稲嶺さんは、市長選から一夜が明けた2/5、米海兵隊キャンプ・シュワブの工事用ゲート前に立ち、この間の闘いの結果、辺野古新基地建設は1%もすすんでいないことを強調し、「あきらめる必要は絶対ない」と発言され、闘いを激励されている。辺野古の基地はこの現地での闘いがある限り、そしてこの闘いと連帯する巨大な統一戦線がある限り、建設完工など不可能なのである。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.483 2018年2月

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【書評】「治安維持法と共謀罪」(内田博文著)

【書評】「治安維持法と共謀罪」(内田 博文著 岩波新書 2017・12・20)
—復活する平時の「治安維持法」は、戦時体制への準備—
アサート No.483 2018年2月

昨年6月、参議院委員会審議を中断の上自民・公明と維新の会の多数による強行採決によって共謀罪法案(テロ等準備罪法案)は成立した。

本書は、まず戦前の治安維持法の成立からその運用の歴史を概観する。治安維持法の法案審議の中では、法律の対象は「共産主義運動であり、一般市民には適用されない」と説明されたというのは意味深い。共産党を壊滅させた後も、国体護持や戦争遂行に異を唱えているとして、労働組合や法曹界、宗教団体や学術研究者をも対象とし、検察主導の「裁判」は有罪前提で進められ多くの人々を獄に繋いだ。その手法は、思想検察がその裁量により「犯罪」を作り出し、法手続きを簡素化し、人権よりも「公共(戦争遂行)の利益を優先」して、「法律を運用」するというものであり、著者は、「大日本帝国憲法」下においても、憲法違反のやり方であったと指摘する。

「(戦後)治安維持法下の諸制度は、「戦時の衣」を「平時の衣」に着替えることによって例外の制度が原則の制度に逆転し、むしろ拡大されることになった。大日本帝国憲法にさえ違反していたこれらの諸制度はもちろん日本国憲法に違反していた。しかし、国はその合法化を図った。戦前同様、裁判所がこの合法化に大きな役割を果たした。これには、治安維持法の逸脱適用を実際に差配した思想検事が裁判官と同じく公職追放されることなく、名称を公安検事と変えて法曹界の中枢に居座り続け、なかには最高裁判所判事となって司法政策を牽引した者も出たことが大きかった。」

私は法律に詳しくはなかったが、敗戦まで治安維持法による適用を行い続けた裁判所関係者・司法検察関係者に戦犯追及が及ばず、日本国憲法施行後も「思想検察」は「公安検察」に名を変え、戦後の混乱期に乗じて、労働運動や民主主義運動弾圧の先兵となったという歴史的事実について、この本により知ることとなった。
戦争犯罪者達が罪を問われることなく、敗戦以後、そして日本国憲法成立以降復活していった経過と重なる。旧陸海軍の将校達は、朝鮮戦争の勃発・駐留米軍の朝鮮半島への出兵と共に、「警察予備隊」の幹部として雇用され、「保安隊」そして「自衛隊」幹部として、戦前の反省も無きまま復活した。医学会では、731細菌戦遂行を行った旧帝大医学部の教授たちも、アメリカに研究成果を引き渡すことで免罪され、戦後の医学会に君臨し続けた。同じ事が、思想検察関係者・法曹界にもあったと言う事である。

日本国憲法は、国民主権・平和主義・基本的人権の尊重という基本理念の下、1947年5月に施行された。治安維持法は1945年10月にその効力を失い廃止された。しかし、治安維持法の乱用を許した刑事訴訟法関連の非民主的な諸制度はどうなったのか。政府は「日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律」(昭和22年法律76号)を定めたが、この過程でも、むしろ焼け太り的に、検察司法の強化が進んだと著者は指摘する。
捜査機関の強制捜査権については、令状主義とされた。しかし「死刑・または無期懲役、3年以上の罪に相当する疑いのある事案」については、強制捜査・逮捕を認める例外を定めて、被疑者を令状なしに逮捕できるとした。
「・・しかし、令状主義という枠がはめられたものの、検察はこの応急措置法第8条により検査官の強制捜査権を刑事手続一般に拡大することに成功した。・・・戦時刑事訴訟法でも認められなかった司法警察官に対する強制捜査権の付与も実現された。」
起訴陪審制度とは、起訴を行うかどうかを、一般人による陪審により決める制度であるが、GHQは司法検察が裁量的に起訴を行ってきたことを改めるため、起訴陪審制度を導入することを求めたが実現していない。日本政府は導入必要性を認めつつ、頑なに拒否し、現在に至っている。時々耳にする「検察審査会制度」は、そのアリバイ的な制度である。検察が基礎を行わなかった事案について、申し出により再審査を行うというもので、起訴陪審とは似ても似つかないものである。

著者は、こうした戦後司法が治安維持法の濫用により国民の人権と自由を奪ってきたという反省もなきまま、戦後団体規制法や破壊活動防止法、公安条例など、基本的人権より「公共の福祉、安全」を優先する考えを基礎にしていると指摘し、戦前・戦後と続く日本の刑事訴訟法等に係る法律・制度の流れを本書にて概説されている。その延長線上に「共謀罪法案」の制定が目指されてきたわけである。

「・・凡例の共謀共同正犯によっても、いまだ実行行為に出ていない段階では、予備罪や準備罪、あるいは陰謀罪や共謀罪では、共謀自体について刑事責任を問うことはできなかった。」そこで、治安当局は予備罪や共謀罪の創設をめざすと共に、処罰規定を設けてきた。それでは不十分だとして、政府はこれまで3回に渡り、包括的な共謀罪の創設を試みてきた。2003年、2004年、2005年に国会に提案されたが、いずれも反対を受けて廃案となった。
そして2016年の参議院選挙で勝利した自公政権は、「テロ等準備罪」法として共謀罪法案を国会に提出した。奇妙なのは、法案名にも関わらず、条文にはテロの規定も、文字も出てこないという、意図を隠した法案提出であったと指摘されている。
「組織的な犯罪に係る共謀罪」が追加されているが、審議の中では、政府答弁は二転三転する。政府は、衆議院審議では、通常の活動を行う市民団体や労働組合は共謀罪法の対象ではないと答弁していたが、参議院では「対象犯罪を謀議・準備したと思われる段階では、一般の団体も対象となる」と修正。また、「共謀に係る犯罪の実行に必要な準備行為」という規定明確化もできず、検察警察による裁量の余地を残し、恣意的解釈の疑いは払しょくすることができなかった。そして、政府の提案説明では、国際的なテロ対策法の批准の必要法だとした。しかしパレルモ条約は、薬物や金融面で経済的な組織犯罪を対象とした国際条約であり、「テロ等準備罪法」の制定は批准の必要条件ではない。国際機関もそれを認めている事実がありながら、審議中断、強行採決という手法で成立させたのであった。
準備罪として成立させるには、膨大な個人情報の事前収集が必要となるが、それはまさに「監視社会の到来」であろう。テロと北朝鮮の脅威で国民に不安を煽り、基本的人権の尊重よりも、「公共の安全」を優先しようというのが、自民党であり、その憲法改正草案には、その意図がはっきりと示されている。国民主権・平和主義・基本的人権を否定するために、憲法改正が準備されているのである。

「恐ろしいのは国家と国民の関係が逆転することである。国民のための国家から国家のための国民に逆転することが予想される」とし、今の私たちに一番必要なのは、「民主主義を担う意欲と能力、勇気である。」と著者は結ぶ。共謀罪法の背景と本質を理解するために、貴重な1冊であろう。是非一読されたい。(2018-02-19佐野)

【出典】 アサート No.483 2018年2月

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【投稿】置き去りにされる安倍政権

【投稿】置き去りにされる安倍政権     アサート No.482 2018年1月
~日本抜きに進む東アジアの緊張緩和~

緊張激化と民主主義否定の5年間 
昨年12月26日、政権発足5年を迎えた安倍は経団連の会合で「本年は私にとって騒がしい1年だった」と述べ、自らに対する批判をあたかも騒音であったかのように切り捨てた。森友、加計事件で窮地にたたされ、衆議院選挙の勝利も敵失の賜物であったことを忘れたかのような物言いである。
また安倍は12月に韓国の野党党首、外相が相次いで訪日した際、会談の場に於いて来客を低い椅子に座らせ優越感を示した。これはチャップリンの名作「独裁者」で「ヒンケル」が相手を低い椅子に座らせ見下すシーンそのものである。(外国では例えばプーチンが、クレムリンを訪れた仏国民戦線のルペンと会談した時は同じ椅子で対応した)
こうした傲岸不遜な対応は、御用芸人との会食は寸暇を惜しんでセットするにも関わらず、ICAN事務局長の表敬要請を拒絶するなど、この間益々増長している。
韓国からの平昌オリンピックの開会式への出席要請も、文政権による慰安婦問題日韓合意の見直しに立腹し、1月中旬現在で「国会日程」を理由に拒否しようとしており、山口や二階など与党幹部をも困惑させている。一方で自らの国会出席、答弁時間については党首討論と引き換えに大幅削減を目論んでおり、子供じみた対応と言うほかない。
年明けの1月4日には、伊勢神宮での年頭記者会見で「今年こそ憲法改正に向けた議論を深めていく」と表明、スケジュールありきではない、自民党内の議論に委ねると言いつつ、あくまでも改憲を目指す姿勢を示した。
今年9月の自民党総裁選への立候補については明言しなかったが、3選を既定方針として、2021年9月の総裁任期までの「改正憲法」施行を念頭に置いているのは明らかである。
安倍はこの5年の間に、経済優先と言いながら実際は日銀に丸投げし、断固実行したのは国民の反対を封じ込め、憲法の平和主義、民主主義を否定する戦争法や共謀罪を強引に成立させるという実質改憲である。この一環として12月15日には防衛大綱について、抜本的な見直しを進める考えを示した。

空洞化する「専守防衛」
防衛政策転換の先取りとして、19日の閣議でイージス・アショア2基の導入を決定、さらに22日に決定された2018年度予算案には、空中発射型巡航ミサイル導入に向け22億円の関連予算が計上された。これらを含む来年度軍事費全体は5兆2千億円と過去最高となり、ミサイル防衛関連費も累計2兆円を突破する。
巡航ミサイルはあたかも「北朝鮮のミサイル基地攻撃」に使われるような説明がなされているが、北朝鮮のミサイルはICBMも含めて移動式が主であり、いわゆる「ミサイル基地」は存在しない。
これまでのアメリカ、ロシアによる巡航ミサイル実戦使用例からすれば、標的は航空基地、兵站施設そして軍事中枢(首都)という固定目標である。湾岸戦争では約300発の巡航ミサイルが使用されたが、イラクの移動式弾道ミサイルを発見、破壊したのは特殊部隊、航空機であった。
また、再来年度からの超音速空対艦ミサイルの配備が決定し、F35戦闘機の追加取得の検討、さらには「いずも型護衛艦」の空母への改装案も飛び出した。
安倍は専守防衛については維持するとしているが、これまでは射程や航続距離などの兵器の性能でそれを担保していたのを、今後の導入予定の装備品ではそうした制約は撤廃されることになる。

「北朝鮮の脅威」は限界
安倍政権は、こうした軍拡を正当化するために「北朝鮮の脅威」を持ち出してきているが、そうした理由では説明がつかないところまで来ている。
イージス・アショアについては弾道弾防衛との弁明が国内的には通じるかもしれないが、ロシアはこれをアメリカのミサイル防衛システムに連動するものと見なしている。12月29日にはロシア外務省情報局長が懸念を表明、1月15日にはラブロフ外相が重ねて憂慮を示し、日露関係への悪影響を指摘した。中国は公式な反応を見せていないが同様の見解であろう。
1月10日ハワイのイージス・アショア訓練施設を視察した小野寺は、日本に導入した場合、今後巡航ミサイルへの対処も考えていく旨の発言を行った。これは最新型の弾道弾専用のミサイル「SM3」シリーズに加え、巡航ミサイルにも対応できる次世代型の「SM6」の配備を示唆したものである。
このミサイルは、アメリカで開発中の「海軍統合対空火器管制(NIFC-CAニフカ)システム」でも運用可能で、はるか遠方を飛ぶ早期警戒機の情報をもとに、イージスシステムのSPYレーダーの探査圏外の標的も迎撃が可能となる。
ところが、肝心の北朝鮮は巡航ミサイルを保有しておらず、その対象は必然的に中国、ロシアということになる。空中発射型巡航ミサイル、超音速対艦ミサイルも主要な攻撃対象は空母などの大型水上戦闘艦であり、(SM6も対艦攻撃が可能)これも中露を対象としたものに他ならない。ラブロフ外相が「イージス・アショアは攻撃も可能だ」と非難したのはこのためである。

「島嶼防衛」の本質
安倍政権はこれらを「島嶼防衛」の為と合理化しようとしているが、巡航ミサイルについては、過度な中国への刺激になりかねないと公明党が難色を示した。これに対し防衛省は巡航ミサイルの導入は「北朝鮮の脅威からイージス艦を守るもの」と説得したという(12/22毎日)。
しかしすでに海自は「イージス艦防御用」として「あきづき型護衛艦」4隻を約3千億円かけて配備しており、屋上屋を重ねるものであろう。
そして、そもそも北朝鮮は先述の巡航ミサイルはもちろん、日本海上のイージス艦を攻撃できる有効な装備を保有していないのであるから、防衛省の説明は詭弁である。今後これらの装備が取得されれば、東シナ海や南シナ海に於いて早期警戒機を運用し、F35Bからの巡航ミサイル、イージス艦からのSM6をもって遠距離から中国艦隊を攻撃するという構想が浮かびあがる。
「島嶼防衛」としては、超音速空対艦ミサイル、新型地対艦ミサイルの配備、開発が進められているが、これらを上回る遠距離交戦能力獲得の意図するものは明らかであろう。
中国海軍の増強は著しいものがあり、2020年代前半には空母2、駆逐艦約40の他、フリゲートなど水上戦闘艦約90隻を保有すると見積もられ、海自の護衛艦約50隻(「空母2」を含むとして)とは圧倒的戦力差となる。
安倍政権はアメリカに加え、英、豪を軍事同盟に巻き込もうとしているが、見通しは立っていない。そこでこの劣勢を各種ミサイル増強でカバーすることを目論み、南西諸島を含む「第1列島線」を槍衾とし、さらに海自艦隊の機動運用で実現しようとしているのである。

「黄海海戦」?
実際の部隊運用でも安倍は任務拡大を進めている。これまでは南シナ海を囲むフィリピンやベトナムに艦艇や航空機を派遣してきたが、昨年末からは「北朝鮮の密輸監視」をするとして、黄海に護衛艦や哨戒機を派遣していることが明らかになった。
日本政府はこの行動は国連決議に基づく措置であり、臨検などの実力行使はしないとしているが、この海域での監視は本来中国、韓国の役割であり、両国は信用できないと言っているのと同じである。さらに密輸船を発見した場合、米軍に連絡するとしているが、これは米海軍の露払い、呼び水であり一層中国を刺激するものとなる。
もっとも中国は同国船籍の商船が、北朝鮮船と禁輸製品の受け渡しを行ったことが明らかになっており苦しいものがあるが、海自としては黄海での活動を既成事実化することが狙いであろう。
安倍政権はこの間、「一帯一路」構想に賛同を示し、中国指導部の訪日を要請するなど表では友好ムードの演出に腐心してきたが、裏では耽々と刃を研いでいることが明らかとなり「偽装降伏」の化けの皮がはがれてきたのである。
こうしたなか1月11日、尖閣諸島の接続水域に中国海軍のフリゲート艦と原子力潜水艦が入った。安倍政権はこれを中国の一方的な挑発行為として大々的な批判を繰り広げたが、実は海自の黄海進出に対応した行動であった可能性が強くなった。
安倍の軽挙妄動で中国、韓国との関係が再び緊張し、日本での日中韓首脳会談、日中首脳の相互往来の実現は再び遠のいた。当の本人は東アジアの緊張緩和を脇に置き、1月12日からバルト3国および東欧3カ国の歴訪に出発した。

安倍は置き去り
安倍は先々で北朝鮮の脅威を吹聴したが、本当の理解は得られなかったであろう。バルト3国では「北朝鮮の脅威は、皆さんにとってのロシア以上です」と言えば分ってもらえたかも知れないが。
安倍が留守の間に、朝鮮半島をめぐる情勢は急展開を見せた。南北会談で北朝鮮の平昌オリンピック参加が決定し、米韓軍事演習も延期されることとなった。オリンピック開催まで予断を許さないが、こうした動きに安倍政権は蚊帳の外であるばかりか、国際社会が歓迎する中で一人不満を露わにしている。
カナダでの20か国外相会議で河野は「北朝鮮の微笑みに騙されてはいけない」と敵意をあらわにし、安倍は「対話のための対話は意味がない」と一つ覚えの様に繰り返すのみである。過日中国に対し「前提条件なしでの対話を」と「対話のための対話」を呼びかけていたのは誰であったのか。
安倍は核放棄まで圧力を高めると言っているが、肝心のアメリカ軍の練度は低下が著しい。昨年民間船との衝突事故を起こしたイージス駆逐艦艦長2人は、軍法会議にかけられることとなった。沖縄では米軍ヘリの事故が相次いでおり、日本政府も苦言を呈せざるを得なくなっている。
トランプ政権は国家防衛戦略でロシア、中国を現状変更を試みる修正主義と非難、イラン、北朝鮮は「ならずもの国家」とし軍拡を表明しているが、これらとの軍事的対峙、多方面作戦は不可能であり、個々への対応は中途半端なものになるだろう。
安倍政権としては対中東、ロシア政策では微妙な立ち位置で動くに動けない中、東アジアでは完全に置き去りにされている。通常国会で野党6党は可能な限り協調し、新たに浮上した「スパコン疑惑」を含め、安倍政権の矛盾を追及すべきであろう。(大阪O)

【出典】 アサート No.482 2018年1月

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【投稿】内部抗争の続く米国と完全に行き詰った日本売国外交

【投稿】内部抗争の続く米国と完全に行き詰った日本売国外交
福井 杉本達也 アサート No.482 2018年1月

1・米国第一主義で漂流する日本
日経は「漂流する世界秩序」と題した社説を、1月3日・4日と掲げた。 「超大国の米国は自国第一主義を一段と鮮明にしており、盟主なき世界は求心力を失ったままだ」と評しながら、「日本は防衛の多くを在日米軍に依存するだけに、外交の軸足を日米同盟に置くしかないが、いざ有事のときに、気まぐれなトランプ氏がどこまで日本を守ろうとするのかはよくわからない。」と、日米同盟への不安を口にしつつ、「台頭する中国の勢いをそぐには、中国とロシアの聞にくさびを打ち込むなどして、新興国が日米欧に一枚岩で立ち向かってこないようにする必要がある」と東アジアで緊張状態を継続させロ中の分断を図ると宣言し、「 開放的な世界の経済秩序が崩れていくのか。それを防ぎ、秩序を再構築していく力がまさるのか。今年はその正念場になるだろう。」と結んでいるが、希望的観測と実際に日本の立ち位置で何が出来るかをごちゃまぜにし、いったいどこへ向かおうとするのか意味不明の、まさに「漂流する」日本の外交を表すものとなっている。

2 激しい内部抗争が続く米国
トランプ政権発足後1年がたつにもかかわらず、米国の内部抗争が収まる気配はない。NYTなど米マスコミは「ロシア疑惑」というありもしない「フェイクニュース」を延々と1年間も垂れ流し続けている。ロシアに亡命した元CIA職員のスノーデン氏が明らかにしたように、NSAは米国を含む全世界のありとあらゆる電子メールを傍受・記録している。ロシアがハッキングしたなら、証拠をNSAは握っているはずだが、その証拠は出されていない。ないものは出せるはずがない。
米軍産複合体・金融資本は2016年のアメリカ大統領選挙でヒラリー・クリントンを勝たせることに内定していたが、WikiLeaks(ウィキリークス)によるクリントンメールの暴露により形勢が逆転し、トランプ氏が当選してしまった。ウィキリークスの創始者アサンジ氏による膨大なメールの要約は①クリントン氏は支配層エリートのネットワークのなかで、歯車を動かす重要な歯の役割を果たしている。クリントン氏はゴードマン・サックスのような巨大銀行、ウォール街、エリート層、国務省、サウジアラビアなどを繋ぐさまざまな歯車を動かす役割にある。そうして、このネットワークに加わっている人たちがアメリカの支配層の代表である。②米国の同盟国である中東湾岸諸国は、主にサウジアラビアとカタール政府はテロ組織イスラム国を支援してきた。2014年のメールによると、この同じ2カ国はクリントン財団に献金の名目で資金を提供している。③リビアはヒラリー・クリントン氏の戦争であった。クリントンメールの33,000通のうち1,700通以上はリビアに関するものである。カダフィー政権とリビアの転覆を国務長官の成果として、大統領選に優勢に立つことが目的であった。④トランプ氏の当選は許されない。トランプ氏は支配層エリート体制のメンバーではない。(アサンジ氏インタビュー:ウイキリークスが伝えるクリントン氏の実像~「支配層体制を動かす歯車の歯」・2016.11.7)。
このことはトランプ氏陣営も重々分かっている事であり、米政権の内紛はトランプ氏が①軍産複合体の軍門に下るか、②弾劾により大統領職を追放されるか、③暗殺されるか しないかぎり延々と続くと予想される。

3 「世界秩序」から撤退する米国
「米国第一主義」を掲げるトランプ政権は「世界秩序」という美名の下の世界支配から徐々に撤退しつつある。1991年12月にソ連が消滅したため、米軍産複合体はアメリカが唯一の超大国になったと誤認して、ウォルフォウィッツ国防次官を中心にウォルフォウィッツ・ドクトリンがつくられた。米英の支配層は民主主義を装うことなく、侵略戦争を公然とはじめた。西側の支配層を束ね、ロシアや中国にも大きな影響力を及ぼしていた。1995年2月にジョセフ・ナイ国防次官補は「ナイ・レポート」を作成、日本をアメリカの戦争へ体系に組み込む作業が本格化した。プランに基づいてユーゴスラビアを解体し東欧圏を支配し、イラク、アフガン、シリア、リビアなどを侵略し、破壊と殺戮を繰り広げたが、シリアでの戦争に失敗したことでアメリカの支配層内での対立が深刻化している。日本のマスコミは「米国第一主義」により、「世界秩序」が失われ、紛争が拡大すると騒ぐが、事実は逆である。「世界秩序」の維持という名目で、巨大な武力を背景に各国の内政に干渉してきた米国が独善主義から撤退することは紛争の種がなくなることである。

4 「一帯一路」の大胆な世界戦略を打ち出した中国
米国が「世界秩序」から撤退する中、大胆な世界戦略を打ち出したのが中国である。陸路、特に鉄道で、中国・天津から内モンゴルを経由して、モンゴルに出て、シベリア鉄道でヨーロッパに出るルート。連雲港から西安・新疆ウイグルを経てカザフスタン、モスクワ・ヨーロッパへ至るルートや昆明からラオス(ビエンチャン)を経由してバンコク・シンガポールに抜ける東南アジア回廊など何本ものルートがある。日通は既に上海などからドイツ・ハンブルクなどへの自動車部品や電機部品などの鉄道輸送を計画している(日経・2018,1.10)。また、海上ルートとしてはマラッカ海峡を経由して、スリランカ(ハンバントタ)、パキスタン(グワダル)から紅海・地中海に入るルートなどがあげられる。これにロシアから中国への原油パイプライン・カザフスタンから新疆ウイグルへのガスパイプラインなどが含まれる。市場規模は45億人・全世界の6割を占める巨大経済圏が出現する。米ユーラシア・グループのイアン・ブレマは「他国への不干渉という原則だ。経済援助と引き換えに政治・経済改革を要求する欧米に慣れている他国の政府にとっては、魅力的だ。欧州の首脳が多くの問題を抱え、トランプ氏が「米国第一」主義の外交政策を掲げる中、欧米的な価値観に基づかない中国の経済や外交へのアプローチに対抗するものは何もない。」(日経・2018.1.19)と書く。

5 中国の「一帯一路」構想を阻止したい米軍産複合体
マッキンダーは1900年代初頭、鉄道の整備などにより大陸国家の移動や物資の輸送などが容易となったことで、世界地図をユーラシア内陸部を中軸地帯(ハートランド) 、内側の三日月地帯 、外側の三日月地帯 に分け、「東ヨーロッパを支配するものがハートランドを支配し、ハートランドを支配するものが世界島(ワールド・アイランド)を支配し、世界島を支配するものが世界を支配する」と説いた。海洋国家が主導する欧米にとっては中国の提唱する「一帯一路」は悪夢の「ハートランド」の再現である。イランやイラクの原油がペルシャ湾を通過せずに、直接パイプラインで中国やインド・東南アジアに供給される。ロシアの原油が北朝鮮・韓国をパイプラインで通過して日本にもたらされる。あるいはシリア・トルコを経由してギリシャから直接ドイツ・フランスに供給される。
これは、軍産複合体・金融資本にとっては「世界秩序」を揺るがすものであり、何としても阻止しなければならないことである。
そのため、極東においては北朝鮮の核問題で緊張を煽り、南シナ海では「自由の航行作戦」を行い、アフガン作戦に協力しないとパキスタンを恫喝し、インドを中国の構想から離脱させようと中印国境での緊張状態を画策し、新疆ウイグルでの民族紛争を煽り、中東では「イスラム国」・「アルカイダ」などの傭兵勢力による攪乱を行い、ウクライナなどで極右勢力による騒乱を企画してきたが、あまりにも費用がかかり過ぎるため、その限界が見え始めた。その象徴がシリア・イラクでの「イスラム国」というCIA傭兵勢力の壊滅的打撃である。

6 平昌五輪で孤立する安倍政権
1月9日の南北会談で、北朝鮮は平昌五輪への参加を表明し、マティス米国防長官は、オリンピックが行われる間は米韓年次合同軍事演習を延期するとし、トランプ氏は「私は、金正恩と良好な関係になれるだろう」とツイートした。この緊張緩和の動きに対し米軍産複合体は怒り心頭である。エドワード・ルトワック米CSIS戦略国際問題研究所シニア・アドバイザーはニューズウィーク日本版誌上で、「南北会談で油断するな『アメリカは手遅れになる前に北を空爆せよ』」とし、「ソウルの人口は1000万人にのぼる。米軍当局は、そのソウルが『火の海』になりかねないと言う。だがソウルの無防備さはアメリカが攻撃しない理由にはならない。ソウルが無防備なのは韓国の自業自得である」とまで言い切った。
この軍産複合体の意向にべったりなのが安倍政権である。1月16日にカナダ・バンク―で開催された北朝鮮をめぐる20ヶ国外相会合において、河野外相は、「日本としては、他国にも北朝鮮との外交破棄に踏み切ることを期待する」と述べ、第三国の内政に露骨に干渉することを宣言した。いつから帝国主義国家になったのか。しかも、船舶検査=「臨検」に自衛隊も参加するとしたが、「臨検」とは戦争行為そのものである。
同じ9日、韓国文政権は慰安婦問題に関する新方針を発表したが、安倍政権は、これは日韓合意に反するとして、平昌五輪に出席しない意向を示したが、ペンス米副大統領やマクロン仏大統領など各国首脳が集う中、東京五輪を控える隣国の首相が出席しないというのは外交的にあまりにも稚拙な行為であり、さすがに自民・公明の与党は国会日程を野党と調整してでも首相が出席すべきだとの意向を示している。上げた手さえ下せない、世界から完全に孤立した無様な姿勢だけが浮かび上がる。
これに輪をかけたのが、安倍首相の東欧6ヶ国訪問である。訪問先のルーマニアには既に対ロシアに向けたイージス・アショアが配備されている。日本が配備しようとするイージス・アショアが北朝鮮ではなくどこに向けられているかは明らかである。ロシアのラブロフ外相は「米国が自国の兵器をどこかに配備した時に、その兵器の管理を配備された国に委ねたケースを我々は一つも知らない。」(Suptnik 2018.1.17)として、ロシアを攻撃の対象としているとの見解を示した。日本がミサイル防衛システムを稼働させれば、ロシアの核攻撃の対象となるということである。トランプ氏に梯子を外され、文大統領からは袖にされ、習近平氏には無視され、プーチン氏に脅され、完全に外交的に孤立した日本に出口はない。安倍政権の米軍産複合体一辺倒の売国政策も最終的な行き詰まりを迎えている。

【出典】 アサート No.482 2018年1月

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