【投稿】世界の荒波に漂う安倍政権

【投稿】世界の荒波に漂う安倍政権
~米露に行き詰まり中朝に接近~ アサート No.498 2019年5月

相次ぐ外交的敗北
4月22日から29日にかけ、安倍は仏、伊など欧州4か国、および米、加の北米2か国を歴訪した。国会で予算委員会の開催に応じない中、連休にかこつけ、昭恵を連れての不要不急のバカンスに興じたのも同然の外遊である。
しかしこの直前の4月11日、世界貿易機関(WTO)の紛争解決機関(DSB)上級委員会は、韓国による日本産農水産物禁輸を不当だとする日本の訴えを退けた。下級審である同小委員会(パネル)では日本の提訴が認められていたのに対し、今回の判断は「逆転敗訴」の形となり、国際捕鯨委員会(IWC)脱退に次ぎ、日本の国際的孤立を印象付けるものとなった。
安倍外遊に水を差され狼狽した日本政府は、安倍訪米中の26日、DSBの会合で上級委員会の決定は「科学的根拠を欠くもの」などと難癖をつけた。さらに5月になり、この時日本の主張に賛同したのは10以上の国や機関であると、非公開の原則を破り産経新聞にリークさせた。
しかしDSBはWTO全加盟国-164の国と地域-によって構成されるものであるから、「10の国と機関が日本支持」と喧伝するのは逆効果であろう。
安倍は、28日カナダで上級委員会の決定に関して、加盟国から問題視する声が上がっている、として「紛争解決に資さない形で結論が出るという議論があり、改革が不可欠だ」(4月30日「毎日」)と同委員会の「機能不全」をまくしたて「WTO改革を大阪のG20で議論する」と大見得を切ったのである。
確かに同委員会は、定数7名の上級委員が現在3名しか在籍していないなど、困難な運営を迫られている。しかしその要因は、アメリカが委員の再任や指名をボイコットしているからであり、安倍の批判はお門違いと言うものであろう。
今回の件では外務省が「戦犯」扱いされているが、同省のホームページでは現在も「WTO紛争処理制度は…WTO体制の中心的な柱の1つをなしています。‥紛争解決制度は有効に機能し,貿易紛争の多くが迅速かつ公平に解決され,ルWTOルールの明確化を実現してきました。…この紛争解決制度が,加盟国から信頼を得て,効果的に機能していることを示しています」と記され、全面的に評価しているのである。
このように日本政府は、WTOを評価してきたのであり、安倍も自由貿易の推進を言うのであれば、保護主義的立場からWTOを「機能不全」にしたうえ、脱退をも示唆するトランプを諌めるのが順序というものだろう。
しかし、トランプに忖度する安倍はワシントンでは、そうしたことは億尾もださずに、ひたすらご幇間外交に徹したが芳しい反応は得られなかった。

「ストップ、アベ・ウェルカム、スガ」
4月26日、ホワイトハウスで安倍は、10回目の首脳会談を行ったが、各国記者団の前でトランプにレッドカーペットを踏ませてもらえないという椿事が発生し、日米首脳の関係を垣間見せた。
会談では、当然のことながら日米貿易交渉が最大の問題となり、トランプは5月下旬の訪日時に妥結できるよう安倍に要求した。首脳会談に先立ち麻生-ムニューシン財務長官、茂木-ライトハイザー通商代表の「担当者会談」も行われたが、結論はおろか妥協点を探ることもできず、業を煮やしたトランプが直談判に及んだ形となった。
首脳会談では、「貿易交渉を加速化させる」ことでその場をしのいだが、その後も新協定への「為替条項」の導入や、日本からの自動車輸出の数量規制などが取り沙汰されている。
そのたびに茂木などが打ち消しに躍起になっているが、アメリカの苛立ちを現すものであり、トランプも27日の4回目となる安倍とのゴルフを終えた直後は「素晴らしい議論ができた」と「上機嫌」だったが、同日の支持者集会では「日本やあらゆる国が過去数十年間にわたり、我々から巨額をぼったくってきた」(4月29日「毎日」)と本音を剥きだしにしたのである。
そして5月17日には、自動車、部品の輸入がアメリカの安全保障上の問題となっていることを正式に認めた。
トランプの「トリセツ」が世界中を探しても存在しない中、安倍は外遊中フランス、イタリア、およびカナダの首脳との会談でトランプを意識し、盛んに価値観の共有をアピールした。しかしトランプに対し、毅然とした対応をとるこれら各国首脳と、万事腰砕けの安倍とでは価値観は共有できなかっただろう。
日米貿易交渉は、5月下旬のトランプ訪日からG20にかけてのタイトな日程で、安倍政権の意に沿うような形での妥結は困難と考えられる。安倍としては、「令和最初の国賓」として、即位したばかりの新天皇を接待役に、最大限もてなす以外に方策はないだろう。
こうした閉塞状況の中、連休明けの5月9日~11日満を持した様に菅が訪米し、ペンス副大統領やポンペイオ国務長官と一連の会談をこなした。サプライズでトランプとの会話、挨拶もあるのではないかとの観測も流れたが、今回はさすがに遠慮した様である。しかし今回の異例の外遊、厚遇は、ポスト安倍を睨んだアメリカの視線を滲ませるものとなった。
訪米の目的は、菅が拉致問題担当であることから北朝鮮への対応が中心と見られているが、全般的な日米関係の調整が主眼であろう。とりわけ貿易問題に関して、安倍訪米前の「担当者会談」で埒があかず、副総理の麻生に至っては、本来のカウンターパートである副大統領に会えないなかでの、訪米となった。
これを対米外交での多様なパイプ作りと評価する向きもあるが、失態続きの外務省=河野の地位低下と合わせれば、事実上の2重外交の始まりであろう。

「北方領土」も絶望的に
5月10日、菅がワシントンでペンスと和気藹々と会談している一方、河野はモスクワでラブロフ外相と「激しいやりとり」を演じていた。
ラブロフは1月、2月の会談時に述べた「第2次世界大戦の結果を日本が認めることが前提」との立場を繰り返し強調したのに対し、河野は帰国後の11日、札幌市で「かなりヒートアップした」などと述べるなど、平行線どころか、会談を重ねるたびに立場が遠のいていることが明らかになった。
日露平和条約交渉は昨年11月の首脳会談で「1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速することで合意」したものの、以降の交渉は停滞した。そもそも安倍と経済産業省の前のめりで始まった日露交渉の責任を押し付けられた外務省は、困難な交渉を本気でやる気はないだろう。
外務省以外も冷ややかである。防衛省、自衛隊は昨年F-35A戦闘機を三沢基地に配備し、さらに今年3月に就役した護衛艦「しらぬい」(満載排水量6800t)を大湊基地に配備した。対露最前線の海自拠点である大湊に新造艦が配備されるのは、冷戦時代の1984年以来35年ぶりとなる。
しかも84年に配備されたのは、新造艦とはいえ同1700tの小型護衛艦だったのに対し、今回は対潜能力を強化した大型艦であり、ロシアに対するアピール以外の何ものでもない。
これに対しロシアも、昨年就役したフリゲート「アドミラル・ゴルシコフ」(同4500t)を北方艦隊から派遣、5月11日に大湊と目と鼻の先の津軽海峡を、日本海から太平洋に向け通過させた。また北方4島を含むクリル諸島の兵力も増強されており、F-35に対抗する形で昨年択捉島に試験配備された、Su35s戦闘機の本格的配備も進むだろう。
また4月に件のF-35が墜落した際、可能性はないにもかかわらず、ロシアが機体の回収を目論むという憶測が流布されるなど、北方領土を巡る疑心暗鬼と軍事的緊張の度合いは高まっている。
今後秋田県にイージス・アショアが配備されれば一段のエスカレートは免れず、平和条約締結に向けた環境作りとは程遠い現状が浮き彫りとなっている。
今年の「北方領土の日」に開かれた「北方領土返還要求全国大会」のアピールから「不法に占拠され」との文言が消され、2019年度版外交青書からも「北方4島は日本に帰属する」との表現が削除されたが、いくら文言で譲歩しても言行不一致ではロシアの不信は解けないだろう。
経済協力も具体的な進展はなく、5月15日にはロシア極東・北極圏発展省が北方4島で進めている経済特区事業を拡大させると発表した。ロシアは日本との共同事業に優先させる形で、投資と開発を進める構えである。
この様に安倍政権が4島返還を封印し、いくら「協力と妥協」のポーズをとっても、6月の平和条約大筋合意は絶望的となったのである。

2重外交から2重権力へ
米露との関係が隘路に入り込む中、安倍はまたしても中国、北朝鮮に接近しようとしている。4月25日ウラジオストックで露朝首脳会談が開かれ、「六か国協議」当事国の首脳で金正恩と会談できていないのは、安倍一人となった。
焦燥感にかられた安倍は5月6日の日米電話協議後、突如「拉致問題での進展がなければ」との政権の根幹にかかわる原則を投げ捨て、無条件での首脳会談開催を追及することを明らかにした。
安倍は4月の訪米で北朝鮮問題も協議したと説明していたが、トランプとの電話の後で、決定的な方針転換を囲み会見で表明するのは、ワシントンで何も詰め切れていないことの証明であり、軽率さの露呈でもある。
こうした無節操さを嘲笑うかのように、北朝鮮は「飛翔体」=中距離弾道弾を2度にわたり試射をした。これに対し融和姿勢を貫く韓国、3度目の首脳会談を視野に入れるアメリカが静観の態度をとったのは当然と言えるが、安倍政権も「国連安保理決議違反で遺憾」と防衛大臣が表明したのみで、安倍本人は日朝会談への意欲を露わにしている。
また、菅の訪米直前での方針転換は、ニューヨークでの拉致問題シンポに出席予定である「対北強硬派」の菅への牽制でもあり、外交の主導権が誰にあるかを示したかったのだろう。
政権内の権力闘争に起因する2重外交は、国内外に無用の混乱を招くことになる。米中露朝の狭間で右往左往する安倍を後目に菅は、着々と基盤を固めているように見える。5月17日の記者会見で菅は、野党の不信任決議案提出について質問を受け、総理大臣の専権事項である衆議院の解散について言及した。
官邸は2重権力の様相を呈しつつある。ぶれ続ける外交、内政に於いては景気が後退局面に入る中、消費税を巡る混乱が続いている。野党はこうした安倍政権の矛盾を追及し、衆参W選挙を視野に入れ統一名簿の作成と、候補者の一本化を進めなければならない。(大阪O)

【出典】 アサート No.498 2019年5月

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【投稿】ファーウェイを巡る米中貿易戦争と日本への影響

【投稿】ファーウェイを巡る米中貿易戦争と日本への影響
福井 杉本達也 アサート No.498 2019年5月

1 ファーウェイ孟副会長の拘束その後
昨年12月カナダ・バンクーバーにおいて孟晩舟ファーウェイ(華為技術:中国深圳市)副会長兼財務最高責任者(CFO:任正非ファーウェイ会長の娘)が突然拘束され、その後、米国から身柄の引き渡し要求が出されている。現在、米国への引き渡しについてカナダで裁判中であるが、審理はまだ始まってもいない。ロイターによると「結論が出るまでには『何年もかかりそうだ』との見方が強まっている」という(共同:2019.5.10)。ファーウェイは1987年に任正非をはじめ元人民解放軍の技術関係者が集い創業したもので、現在は世界最大の通信機器ベンダーとなっているが、米国などからは中国政府や軍と繋がりが深い企業と見られている。中国はカナダに報復する形で、2人のカナダ人をスパイ行為で拘束し、5月16日には正式逮捕を発表した。また、3月にはカナダ産菜種の全面禁輸を発動したが、天然ガス・鉱物資源を始め中国が取りうる対抗策は多々あり、トルドー首相の無分別な対米追随策により、カナダ側がどんどん追い詰められているのが実情である。

2 5Gを巡る米中の衝突
通信分野の次世代技術5G(第5世代移動通信システム)は現在の4Gの100倍の高速・大容量通信網を目指すもので、各種家電、ウェアラブルデバイス、自動運転、ドローンなど身のまわりのありとあらゆるモノをインターネットに接続するモバイルネットワークの中核インフラであるが、米国は5Gの技術開発で中国に遅れをとっており、5Gの根幹となる基地局市場を奪われることを恐れており、ファーウェイの機器・サービスの利用を禁止する措置を取り、中国を封じ込めようとする思惑がある。
ネットワークの支配=国際通信海底ケーブル敷設し相手国の陸揚げ局や無線局まで支配することは、通信を傍受・盗聴することと同義である。1946年には英米両国はUKUSAという通信傍受協定を結び、その後、カナダ・オーストラリア・ニュージーランドが加わり「ファイブ・アイズ」(Five Eyes)と呼ばれる情報共有体制ができあがっている。米国は1980年代にはハワイとグアムを結ぶ太平洋横断のケーブルとインテルサット衛星通信網を主導することにより、空と海の通信網を支配下に置いた。その後、光海底ケーブルとインターネットの登場により通信の概念は激変した。インターネットは様々なネットワークの回線を選んで通るため、利便性は高いもののサイバー攻撃には弱い=ハッキング可能な仕組みである。1990年代にはUKUSA協定締結5か国で「エシュロン」という通信傍受システムが稼働していることが明らかとなった。2013年にはスノーデンが米NSAが米国発着及び米国経由(協力企業により他国のプロバイダーも含む)の電話や電子メール(国家・企業間ばかりでなく個人を含む)のほとんど全てのメタデータを収集・分析・保存していたことを暴露した。今や潜在的に全世界の全ての個人データが諜報の対象となっている(『通信の世紀ー情報技術と国家戦略の150年史』大野哲弥:2018.11.20)。スノーデンによれば、XKEYSCOREという技術システムにより、ネット上にあるあらゆる人のあらゆる情報が捕捉され、保存され、記録され、政府の検索対象となる。こうしたネットワークの基地局にファーウェイの製品が使われることとなれば、UKUSAの通信傍受システムに風穴があくことは避けられない。

3 ベネズエラの電力インフラへの執拗な攻撃
4月30日、ベネズエラの野党指導者グアイドによるクーデターの呼びかけは失敗に終わった。この間、3月から4月にかけて米国からベネズエラの電力インフラへの執拗な停電攻撃が行われ、ベネズエラの社会不安を煽りクーデターの雰囲気を醸成しようと画策した。1回目は3月7日に行われ、グリ・ダム水力発電所がサイバー攻撃されベネズエラの最大80%が影響を受けた。スタクスネットに似た悪性ソフト(マルチウェア)がベネズエラ送電網に使用されたといわれる(マスコミに載らない海外記事:2019.3.14)。4月の攻撃でもカラカスなどでインターネット、電話回線、水道、公共交通機関のサービスが影響を受けた。米国が攻撃を主導したことは、ルビオ米上院議員が、ベネズエラ当局者が情報を入手する前に、工場で「 バックアップ発電機が故障した 」と勇み足のTwitterでの発表で、米国主導のサイバー攻撃であったことがバレバレになってしまった(RT:2019.3.27)。

4 日本のインフラにもマルチウェアが仕込まれていると警告するスノーデン
スノーデンによれば「日本が最良の同盟国であるにもかかわらず、NSAが日本のコンピューターをハッキングし、マルチウエア・ソフトを埋め込み、コントロール権限を奪ってダメージを与えようとしている、というダイナミックな計画に関して言えば、答えはもちろんイエスです。これは本当のことです。」と答えている。万が一にも日本が日米同盟に反することをすれば、米国はマルチウェアを作動させて日本のインフラを大混乱に陥れることが可能である(『スノーデン・監視大国日本を語る』エドワード・スノーデン、国谷裕子:218.8.22)。2009年の鳩山民主党政権のような米国離れの政権が発足する事態となれば、稼働中の原発インフラへのマルチウエア攻撃が無いとは限らない。

5 英は監視網「ファイブ・アイズ」を無視してファーウェイを採用
5月8日、ポンペオ米国務長官は英国がファーフェイ製の通信機器を5Gシステムに採用しないように要請した(共同:2019.5.10)。これは、4月23日の英国家安全保障会議でファーウェイ製品の一部を採用することを決定したからである(共同:2019.4.29)。英国と米国はUKUSA協定を締結しているが、米CIAはの創設は第二次大戦中(前身のOSSとして)であり、第二次大戦時の英国から米国への覇権の移転にともなって、英国情報機関の指導の下に情報機関を米国に作ったのが始まりである。その切っても切れないはずの同盟関係が中国の軍門に下るのであるから、米国が焦るのも無理もない。その英国の安全保障上の重要政策決定情報をウイリアムシソン国防相がマスコミに漏洩したということで、5月1日、メイ首相は即刻国防相を首にしている(日経:2019.5.3)。既に、「ファイブ・アイズ」の一角であるニュージーランドのアーダーン首相は4月1日に中国・習近平主席と会談しており(日経:2019.4.2)、オーストラリアやカナダはまだ米国の意向に従っているものの、事実上包囲網は崩壊しているといえる。

6 米国覇権の終わりの始まり
日経は2019年1月~3月で金需要が7%増加したと報道している。主要な買い手は各国の中央銀行で、最も多く購入したのはロシアの55.3トンであり、その後に中国やインドが続いている(日経:2019.5.9)。各国中央銀行は静かにドル決済からの離脱を伺っているのである。さらに日経5月19日付けのトップ記事は中国人民元の「国際決済システムが存在感を高めている」とし、「独自決済89ケ国・地域の865銀行に」及ぶと報道している。中国は、ロシアやトルコといった米の制裁国や「一帯一路」構想に参画する国々を取り込みながら着実にドル離れの構想を進めている。さらに極めつけは中国の米国債売却の脅しである。中国は1兆1205億ドル(2019.3末現在)にものぼる米国債の保有国であるが、1985年の日米間のプラザ合意を反面教師としてとらえている。もし、大量売却すればドルの大暴落は避けられない。貿易戦争どころの話ではなく、巨大金融最終兵器を保持しているといえる。中国は手持ちのカードを何重にも持っている。5月9日の環球時報は「米国は“鴻門宴”を開こうとしているが、中国に脅しをかけても 無駄だ」という社説を発表した。こうした中、自信の表れであろうか、同じ日経一面にファーウェイトップの任正非会長は「(クアルコムなど米企業が生産に不可欠な)半導体製品を売ってくれなければそれでいい。準備は以前から進めてある」(日経同上)と強気の発言をしている。

7 日本は身ぐるみ剥がされても米国に追従し続けるのか
5月下旬にトランプ大統領が国賓として来日することが決定しているが、共同声明を出さない方向で検討しているというのである。共同声明を出せば、必ず日米貿易交渉に触れざるを得ない。中国との貿易交渉では長期持久戦が避けられず敗北が濃厚になっており、EUとの交渉でも独・仏は聞き耳を持たずで、最も緊密な同盟国である英国からも袖にされ、何の成果も得られないトランプ政権としての最大の「顧客」は日本である。5月17日には「自動車や部品の輸入により米国の安全保障が脅かされている」とし、「車の対米輸出制限を求める大統領令を検討している」(ブルームバーグ)との報道もされている(共同:2019.5.19)。茂木大臣は同報道を口先で否定したが、何の根拠もない。EUのマルムストローム欧州委員は「WTO違反となる管理貿易は対象外だ」と即座に拒否の姿勢を明らかにしている。まともに交渉をするつもりがあるならば、即刻反論すべきである。
こうした動きにトヨタは焦りを強めている。トヨタ米法人は安全保障の脅威としたトランプ声明に対し「米国の消費者と労働者、自動車産業にとって大きな後退だ」と反論した。トヨタとしてはトランプ声明から「トヨタの米国への投資や従業員の貢献が評価されていないというメッセージを受け取った」(日経:2019.5.19)とする。さらに農業関係については、米国は自らで首を絞めて中国から全面的な禁輸措置を受けており、壊滅的な打撃を被りつつあり、「米国の農家は不利な状況に直面している」とし、日本では「公正な扱いを受けたい」(米農務長官:福井:2019.5.14)としており、全面開放必死の状況である。「参議院選挙後に貿易交渉をしたい、選挙後であればどのような要求も受け賜る」と米国にひれ伏す安倍政権であるが、トランプ政権としては、米中交渉が膠着する中、日本との交渉を何か月も先に引き延ばすことはできない。従順な従属国との共同声明など無駄である。相撲観戦とゴルフでお茶を濁す売国政権ここに極まれり。

【出典】 アサート No.498 2019年5月

カテゴリー: 政治, 杉本執筆, 科学技術, 経済 | コメントする

【投稿】「令和」祝賀・衆参同日選挙への目論み 統一戦線論(60)

【投稿】「令和」祝賀・衆参同日選挙への目論み 統一戦線論(60)
アサート No.498 2019年5月

<<「どこまでの減で食い止めるか」>>
衆参同日選挙の可能性が意図的に流されている。安倍首相を先頭に政治家のウソ、暴言、失言が日常茶飯事のごとくまかり通り、責任を取るどころか開き直り、対抗すべき野党はバラバラ、結束して闘う姿がなかなか見えてこない。それに比例して庶民の政治不信は増大する一方である。その最中の政権とNHKや大手メディアが一体となった天皇代替わり・「令和」祝賀ムードの演出に、天皇制に一貫して反対してきたはずの共産党までもが新天皇即位に「祝意」を表明する事態をもたらした。そして内閣支持率も上昇したこの効果冷めやらぬうちに、一気に衆参同日選挙に持ち込もうというわけである。解散風を吹かせ、野党の内閣不信任案提出に乗じて政権の失態・責任を棚上げにした「令和」祝賀・同日選挙を目論んでいるのである。安倍首相はこの際、憲法9条改憲の「早期実現」を自民党の選挙公約に明記する意図をあからさまにしている。そして消費税増税先送りの圧勝シナリオも浮上している。
国民民主党の小沢一郎衆院議員は5/14のBS番組で、今夏に衆参同日選挙が行われた場合、「立憲民主党も壊滅的になる。このままの状況なら野党が立ち直れないくらいの壊滅的敗北になる」との見方を示している。小沢氏は「ここで野党が壊滅的状況になったら、自民党に勝てるのは半永久的にない」と指摘。野党統一名簿の作成を含め、野党結集へ立憲の枝野幸男代表に決断を促したわけである。
しかし事態はそう単純ではない。自民党の甘利明選対委員長は5/16のテレビ番組収録で、前回2016年参院選後に27年ぶりに回復した参院単独過半数を維持することは「不可能だ」と語っている。今夏の参院選は「どこまでの(議席)減で食い止めるかの選挙だ。6年前と状況が違い、あのとき以上の状況は作れない」と述べ、勝敗ラインについては、自民単独過半数の維持・獲得ではなく、「自公で安定多数」と強調したのである。実際、自民の単独過半数維持には67議席以上を獲得するのが条件となる。今年の定数は3増で245となり、単独過半数を維持するには123議席必要。現在の自民党の非改選議員(2016年参院選当選)は56議席。123-56=67なのである。2013年参院選は自民党が民主党から政権を奪還した翌年に行われ、自民党が65議席獲得したが、甘利氏は「これ以上、取れないぐらいの数字だ。安倍内閣ができて半年後の選挙で、民主党政権では日本がどうにもならないと、自民公認というだけで当選した」と指摘し、それを上回る67議席は「不可能」、「不謹慎な言い方だが、どこまでの議席減で食い止めるかだ」と語り、改選される124議席の過半数=63議席の確保も「至難の業」と語っている。
そこで自民党は、直面する参院選に向けて、4月の統一地方選の結果も踏まえ、全国32の改選1人区のうち、苦戦が予想される16選挙区を激戦区に指定し、てこ入れを図っている。選挙資金を優先的に割り振るほか、応援態勢にも力を入れる。

<<野党「一本化」なら勝機>>
この自民党指定の参院1人区16激戦区について、5/15付・東京新聞は「野党『一本化』なら勝機」と題して、直近の国政選挙である2017年衆院選比例代表の得票で、自公両党の合計と、立民、旧希望、共産、社民の四党の合計をそれぞれ比較、分析している。その結果、野党が前回16年参院選のように、すべての一人区で候補者を一本化した場合、自民党が指定した激戦区の結果はどうなるのか。10選挙区で野党の合計が自公を上回り、ほかの5選挙区でも自公に対し9割以上の得票となっている。
野党が上回っているのは、岩手、宮城、山形、福島、山梨、新潟、長野、三重、大分、沖縄 の10選挙区である。野党が9割以上と肉薄しているのは、秋田、滋賀、徳島・高知、愛媛、佐賀 の5選挙区である。
ただ、これまでに野党4党が事実上、一本化で合意したのは愛媛、熊本、沖縄、新潟の4選挙区のみ。いずれもこの激戦区以外である。
5/12、共産党は第6回中央委員会総会を開き、志位和夫委員長は幹部会報告で、夏の参院選改選1人区での野党候補一本化について「互いに譲るべきは譲り、一方的な対応を求めることはしない」と柔軟な姿勢に転換することを明らかにした。これまで共産党が自党の候補者を降ろす条件としていた「相互支援・相互推薦」には言及せず、柔軟な姿勢を示したのである。候補者一本化作業が、3年前の参院選の同時期に比べてさえ大幅に遅れている現実に押された、条件付き共闘路線が破綻したことは明らかである。
共産党が路線を転換せざるを得なかった直近の有権者の手厳しい審判は、4/21投開票の大阪12区補選の結果であったと言えよう。「退路を断って」無所属で立候補し、形式上の「野党統一候補」を目指し、各野党や市民連合幹部の支援も受けたはずであったが、結果は惨憺たるものであった。過去の同選挙区での共産党独自候補の得票数(33263票、得票率18.6%)をさえ大幅に下回り、共産党としては最低票数を記録(14,027票、得票率 8.9%)、最下位で、供託金没収という事態になってしまったのである。そして「退路を断った」はずの宮本氏は、5/8、共産党が発表した次期衆院選の比例代表予定候補者19人の中に何の弁明もなく入っている。さもありなんであるが、退路など断っていなかったのである。有権者は見抜いていたとも言えよう。
付け焼刃的で、自己都合の自党中心主義的な共闘路線では、共産党支持層でさえ突き放してしまうという最悪の事態が明示されたのである。
ところが、先の志位委員長の幹部会報告は「宮本岳志前衆院議員が無所属で立候補し、市民と野党の統一候補として奮闘しました。宮本岳志候補が及ばなかったのは残念ですが、このたたかいは市民と野党の共闘の今後の発展にとって大きな財産をつくりました。自由党、立憲民主党、国民民主党の代表をはじめ、6野党・会派から49人もの国会議員や元議員が応援に入り、大阪と全国から1千人を超えるボランティアのみなさんが肩をならべてたたかいました。」と述べているが、それにもかかわらず大敗した原因については一言も述べることができず、反省の言葉すらない。指導部失格を自ら公言しているようなものである。
こうした事態を招いた自らの責任を問わない共産党指導部、異論や批判が一切表明されないような党内民主主義を喪失した現状が、事態を糊塗し、路線転換に踏み切らざるを得なくさせたとも言えよう。
遅きに失したとはいえ、この路線転換の結果、その後、候補者一本化に大筋合意したのが23選挙区、残る5選挙区の調整が急がれている。1人区に限らず、複数区でも野党統一候補を推進することが強く求められている。とりあえずの前進とも言えよう。

<<「令和」祝賀路線への迎合>>
しかしこの路線転換にはさらに余計な路線転換まで付随していた。安倍政権の「令和」祝賀路線への同調である。
5/1、共産党の志位委員長は、「新天皇の即位に祝意を表します。象徴天皇として、新天皇が日本国憲法の精神を尊重し擁護することを期待します」との談話を発表したのである。さらに5/9の記者会見での一問一答では、「天皇の制度というのは憲法上の制度です。この制度に基づいて新しい方が天皇に即位したのですから、祝意を示すことは当然だと考えています。私も談話で祝意を述べました。国会としても祝意を示すことは当然だと考えます。」
ところが共産党はほんの2か月余り前の今年の2/24に政府主催で行われた「天皇在位30年式典」には欠席しており、その際、欠席の理由として「日本共産党は『式典の儀礼をみると、天皇への過度な祝意と賛美を行うもので、国民主権とは相いれない』として、欠席の態度をとりました」(2/25付「しんぶん赤旗」)と発表された。2/25以降にわざわざ「祝意」を表明しなければならないような、現在の象徴天皇制に何らかの変化があったというのか。今回の新天皇の即位も、その「民主主義および人間の平等の原則と両立するものではない」象徴天皇制の継続にほかならない。それがどうして「祝意」の対象になるのか。憲法の主権在民の原則に反し、人間差別の根源でもある天皇制への迎合路線が明示されたのである。
今回の新天皇の即位にあたって、さらに指摘されなければならないのは、新天皇が就任にあたって、その最初の行事が憲法に従えば「天皇の憲法遵守宣誓式」であるべきはずが、なんと戦前と同様の臣民を見下した「即位後朝見の儀」なる儀式が行われたことである。そこで新天皇は「常に国民を思い,国民に寄り添いながら」と、主権在民の原則と相反する上から目線の「お言葉」を述べ、これに応えて、その「臣民」の代表たる安倍首相が「国民代表の辞」を奉呈し、新天皇の「令和」という新しい「御代」と持ち上げたことである。ただここで失笑を禁じ得ないのは、安倍首相が「国民代表の辞」の末尾で「天皇、皇后両陛下には末永くお健やかであらせられますことを願っていません」と言ってしまった。「願って已まない」の「やむ」をまたもや一瞬戸惑い、「願っていません」と言ってしまったのであろう、右翼団体から抗議されている。これは失言に過ぎないが、さらに重大なのは、前天皇が即位の際明言した「皆さんとともに日本国憲法を守り」という一節が完全に省かれ、「憲法にのっとり」に置き換えられてしまったことである。明らかに安倍首相による新天皇の取り込みと官邸の圧力 が介在したのであろう。
そして問題なのは、こうした安倍政権の対応に同調するかのように、共産党は先の志位委員長談話で、「日本国憲法の厳守を求める」のではなく「日本国憲法の精神を尊重し擁護することを期待します」という表現に後退させたことである。
こうした路線転換は、2016年1月の通常国会で、それまで同調してこなかった天皇の国会開会式出席・「おことば」を容認し、結党以来初めて志位委員長をはじめ共産党議員が出席し、天皇に頭を下げ、2017年4月1日からは機関紙「しんぶん赤旗」に元号表記を復活させた、そして今回「全党一致の代替わり儀式」を進んで提案、5/9には衆議院本会議で、天皇の即位に祝意を示す「賀詞」を全会一致で議決し、共産党も出席して賛成、大政翼賛政治へ賛同するこうした一連の天皇迎合路線に新たな右傾化の一頁を加えたのだと言えよう。
こうした象徴天皇制に迎合するかのような路線転換と、追い込まれたうえでの柔軟な野党共闘路線への転換で、統一戦線の前進がありうるとでも考えているのであろうか。そのような甘い考えでは、野党勢力の地滑り的な敗北を招きかねないのである。統一戦線の前進を支えるのは、付け焼刃的な姑息な柔軟性ではなく、私的党派的利害を超えて、分かりやすい明確な政策、行動綱領を明確に示し、少しでも情勢を前向きに変える人々を献身的に支え、そのために創造的に介入し、より広範な人々を結集させる「知的・道徳的ヘゲモニー」の一貫性こそが求められているのだと言えよう。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.498 2019年5月

 

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【書評】『核兵器はなくせる』

【書評】『核兵器はなくせる
(川崎哲、岩波ジュニア新書,2018年7月発行、820円+税)
アサート No.498 2019年5月

ICAN (International Campaign to Abolish Nuclear Weapons=核兵器廃絶国際キャンペーン)の国際運営委員として活躍している著者が、中高生向けに書いた核兵器問題をテーマにした書である。ICANは現在、世界101ヵ国、468の団体が加盟して活動を続けている。また2017年7月に国連で「核兵器禁止条約」が採択されるまでに大きな役割を果たし、同年12月にノーベル平和賞を受賞したことで、日本でも名前が知られるようになった。しかしその活動や肝心の「核兵器禁止条約」そのものについてはまだまだ理解が深まっているとは言えない。本書はICANの活動に関わってきた体験を通じて、核兵器廃絶運動の現在における問題、疑問、反論を解明する。
その最たるものは「『条約に参加したとしても、守らない国があるかもしれない』というものです。たしかにそのとおりですが、考えてみてください。たとえば、『殺人は罪』とする法律がありますが、守らない人がいます。だからといって、殺人を罪とする法律をつくることに意味がないわけではありません。核兵器はこれまで悪いものだと規定されていませんでした。それを国際ルールで禁じることには大切な意味があります」。
「また『核保有国が参加しない禁止条約には意味がない』という批判もあります。もちろん、この条約が発効しても、それだけで核保有国が核をなくすわけではありません。これまでのNPT体制では、五つの大国が核兵器をもつことを許されていました。国際社会のルールでは、核兵器は『必要悪』のような存在だったのです。核兵器禁止条約はそれを否定して『核兵器はどの国がもっても悪いもの』と定めました。つまり『必要悪』ではなく『絶対悪』ということです」。
つまり核兵器そのものが国際法違反とされ、生物兵器や化学兵器と同じように、「力のシンボル」から「恥のシンボル」に変わったと指摘する。
そして本書は、核兵器禁止に向けた地道ではあるが着実な運動—-なかでもわれわれの視点に上ってこない、ということは日本のマスメディアがあまり伝えない国際的な動きを紹介する。
その一つは、赤十字の「革命的な」声明である。赤十字国際委員会(ICRC)は2010年の国際会議で、これまで政治的な話はしないという方針から、積極的に核の非人道性を取り上げ、特定の国・地域・政治問題・歴史問題から切り離して「核兵器は非人道的で、いかなる場合も認められない」と宣言した。その中で「核戦争が起きたら救援には行けません」、つまり核兵器が使用されればそこが放射能で汚染されていることは明らかなので、救護には行きたくても行けない=「救護を職務とする赤十字が救護に行くこともできなくする兵器の存在を許すことはできない」という主張で、これには強い説得力がある。
またこの流れを引き継いで、2013年~2014年の「核の非人道性」をテーマにした国際会議では、「核兵器が使われた場合にどのような非人道的な影響がもたらされるか」が検討されている。これは、過去に目を向け広島・長崎、世界各地の核実験の被害を取り上げて検証すると同時に、現在・将来にも目を向け、もしいま核兵器が使用されたらどうなるかについて、科学者が詳細なシミュレーションを出して議論するというものである。これについて本書は「日本では、広島と長崎の被害があまりに甚大だったので、原爆が今日またどこかに落とされたらどうなるかについての、研究や議論をすることはタブーになっていた面があると思います」と指摘するが、例えば、2013年、インドとパキスタンの間で全面核戦争になった場合の想定被害が国際的な科学者グループによって発表された。それによれば広島・長崎の死者を一桁上回る数の人びとが亡くなり、放射能汚染の被害も大きく、大量の負傷者や難民が出るとされるが、「その人たちをどう救うのか、というめどは立ちようがありません」。またこれによる気候変動=「核の冬」や通信網の寸断等々世界経済が大きな打撃を受けると予測されたのである。これはこれからさらに検討されるべき真剣な課題となっている。
そして日本ではほとんど報道されていない国際条約に「非核兵器地帯条約」がある。この条約は、核保有国任せでは軍縮が期待できないとして、核を持たない国々が進めた国際条約で、1968年に発効した「トラテロルコ条約=ラテンアメリカ及びカリブ核兵器禁止条約」が最初である。これは核保有5ヵ国に対しても、この条約加盟国への核兵器使用・威嚇を行なわないことを認めさせ、現在ラテンアメリカ~カリブ諸国全33ヵ国が加盟している。この条約には他に、「ラロトンガ条約=南太平洋非核兵器地帯条約」(1986年)、「バンコク条約=東南アジア非核兵器地帯条約」(1997年)、「ペリンダバ条約=アフリカ非核兵器地帯条約」(2009年)、「セメイ条約=中央アジア非核兵器地帯条約」(2009年)があり、特に最後の中央アジアの条約には、旧ソ連時代に核兵器が多数配備されていたカザフスタンやウズベキスタンも参加し、地域から核を完全に排除している。またロシア・中国という核保有国に挟まれたモンゴルは、一国のみの非核兵器地帯を宣言し、国連総会で認定された(1998年)。
このように本書は、核兵器禁止条約をつくり、核兵器をなくす運動の現在を語り、未来への歩みを紹介し、こう呼びかける。「核兵器禁止条約ができたいま『条約なんてできるわけがない』と言っていた人はいなくなりました。でも今度は『条約はできても、核兵器をなくすことはできない』と批判する人がいます。それでも僕たちは言い続けます。『核兵器はなくせる』と」。(R)

【出典】 アサート No.498 2019年5月

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【投稿】大阪ダブル選・維新大勝が突きつけるもの 統一戦線論(59)

【投稿】大阪ダブル選・維新大勝が突きつけるもの 統一戦線論(59)
アサート No.497 2019年4月

<<安倍政治こそが維新の原動力>>
4/7投開票の大阪府知事・大阪市長ダブル・クロス選挙は、維新政治=安倍政治に終焉をもたらすまたとない機会であったが、選挙結果は、逆に安倍=維新政治を正当化し、付け上がらせる結果となってしまった。知事選では約100万票、大阪市長選でも20万票近い大差をつけた維新の圧勝であった。なぜこのような大差がついたのか、野党を含めた反維新陣営は、この敗因をあいまいにしたり、しっかりと受け止めなければ、有権者から見放される事態となろう。
第一は、表面上は安倍政権が維新候補ではなく、自民・反維新候補を支持していたが、実態は安倍政権が維新候補を強力に支援していたことの過小評価である。本来そのことが徹底的に批判され究明さるべきであったが、なおざりにされてきた。その直接的な反映は、朝日新聞の出口調査では、大阪市長選では維新支持層が全投票者の44%を占めたのに対して、自民支持層は21%にとどまり、共同通信社の出口調査では、自民支持層の50%が維新候補に投票したという実態に表れている。それは首相官邸、菅官房長官の、維新、公明幹部との癒着・連携が、自民党大阪府連、公明党大阪府本部の反維新姿勢を曖昧なものにさせ、自民支持層ばかりか公明支持層をまで浮動票化させ、事実上の「自由投票」と化させてしまったことに表れている。4/21投開票の衆院大阪12区の補欠選挙でも、投票日前日にしか自党候補支援に入らず、維新候補を勝たせた安倍首相の姿勢にも鮮明である。自民候補が敗れても、安倍首相や政権中枢が安堵する構図が出来上がっているのである。
第二は、反維新陣営の政策的対決軸が全く後ろ向きであったことである。維新側の、「大阪の経済を停滞させるな」「大阪の成長を止めるな」という実態と乖離したでたらめな政策対決軸に対して、「都構想」反対以外に有権者を引き付ける政策的対決軸を設定できなかったことに象徴的である。敗因の決定的要因ともいえよう。ファッショ的集権主義・自由競争原理主義・賭博的投機主義に対して、反緊縮・分権・自治・所得再分配・成長の戦略、政策こそが問われていたのである。
第三は、そうした事態はほぼ予想されていたにもかかわらず、反維新候補を支援する野党陣営は、政策的にも組織的にもバラバラで、野合した既得権益擁護勢力であるかのようなデマゴギーを許してしまったことにある、と言えよう。
その結果として、本来獲得できるはずの政党支持なしの無党派層において、知事選61.5%、市長選56.5%もの過半数の有権者が維新候補に投票するという事態をもたらしてしまったのである。立憲民主党、共産党支持層でさえ、その実に30%前後が維新候補に投票しているのである(共同通信社の出口調査)。

<<「安倍・菅・松井は盃を交わした義兄弟」>>
維新圧勝で舞い上がった橋下・前維新代表は、「僕は彼ら(松井・吉村)の性格とか、大阪維新の会のメンバーの性格をよくわかってますので、公明党の衆議院選挙の選挙区に大阪維新の会、立てます。で、もう関西は6選挙区あるんです、公明党のね。これが公明党の力の源泉ですよ。この6選挙区全部(に維新候補を)立てて、しかももう、大阪維新の会のエース級のメンバー、もう準備できてます。もう戦闘態勢に入ってます。だから、今はこれ第一幕で、第二幕は公明党を壊滅させる、というところまでやりますから。そうすると、日本の政治構造も大きく変わります。自民党との協力がね、公明党じゃなくてもしかすると維新となって、憲法改正のほうに突入していくと」「安倍さん菅さんと松井さんは盃を交わした義兄弟みたいなもの。松井さんは菅さんのこと大好きだし、菅さんも松井さんのこと大好きだから。本当にファミリーみたいで、すごいよ」「もし安倍さんが任期の最後に憲法改正をどうしても、ということであれば、連絡を取り合って、松井さんが『公明以外から2議席を取りました。オッケーですよ』と。そこで安倍さんが衆議院解散ですよ。維新はすでにエース級が揃っていて、準備体制もできてる。ここで大阪の公明党をすべて落選させて、憲法改正!」とまで放言している(4/8フジテレビ,4/11AbemaTV)。この本音は、安倍首相の本音でもあろう。
吉村洋文大阪府知事も大阪12区補選の応援演説で「自衛隊も(憲法9条に)明記されていない」と嘆き、「(自民党、公明党、維新の会と合わせて)いま衆議院と参議院で3分2以上の改憲勢力がある。なんで本気で憲法改正の議論をしてくれないの」「僕たちは、ダイナマイトみたいにボカンと国会でやりたい。日本を前に進めていくためには今の自公だけじゃだめ。特に公明党と組んでいる限りは、なかなか国のあり方は決められない」と安倍首相の本音を代弁している。
さらにこの大阪12区補選では、維新候補はダブル選では触れようともしなかった消費税増税問題にまで踏み込み、「(補選で)私を押し上げていただいたら『消費税の増税を吹っ飛ばせる』と言われている。(大阪12区の)寝屋川市、大東市の皆さんが維新と藤田文武にもう一回期待をかけてもらったら、消費税の増税までドーンと吹っ飛ばせるかも知れない。吉村さん(府知事)流に言えば、ダイナマイトみたいな戦いをさせて欲しい。もう火の玉になって突っ込んで行きますので是非とも勝たせて下さい」と訴え、続いて松井一郎・維新代表が「増税の前に(政治家の)自分達も身を切る改革をする。ここで増税を許すと、これから高齢者が増える中で、高齢者の社会保障費を掲げられて、どんどん大増税国家になります。増税を凍結するために勝たせて下さい」とまで訴え、当選している。安倍政治のお先棒を担ぎながら、何という欺瞞であろうか、と思われるが、ここでも安倍首相の本音を別の形で代弁しているのである。
これは、安倍首相の最側近と言われる萩生田幹事長代行が、6月の景気指標次第では衆院の早期解散=増税見送りもありうると言及し、さらに「(天皇の)譲位が終わって新しい時代になったら、ワイルドな憲法審査を自民党は進めていかないといけない」と発言したこととぴたり符合するものである。

<<「れいわ新選組」>>
この大阪12区補選では、共産党が急遽、現職議員の宮本岳志氏を辞職させて無所属で擁立するという「奇策」に打って出て、野党統一候補を目指し、野党支持層や無党派層の支持拡大を狙ったが、敗れた旧民主党の樽床伸二氏の得票にも及ばず、得票率は2割にも届かなかったのである。付け焼刃的で、自党中心主義的な「奇策」では事態が打開できないことが明示されたと言えよう。
一方同じ補選でも、米軍基地・辺野古移設の是非が争点となった沖縄3区では、「オール沖縄」の屋良朝博氏が勝利した。候補擁立に曲折があったにもかかわらず、幅広い勢力を結集し、大衆運動を背景に粘り強く築き上げられてきた統一戦線形成の努力の成果と言えよう。
しかし沖縄以外では、参院選を目前に控えていても、いまだにオール野党共闘の姿が見えてこないばかりか、停滞さえしている。このままでは32の1人区で、きわになって形ばかりの「野党共闘」がたとえ組まれたとしても、とても有権者の共感を勝ち取れず、まともに選挙を戦える態勢も作れず、その多くが敗北する怖れさえある。。
しびれをきらした山本太郎参議院議員が4/10、自由党からの離党と、新党「れいわ新選組」の結成を発表。「8つの緊急政策『政権とったらすぐやります!』」として「①消費税廃止 ②全国一律! 最低賃金1500円『政府が補償』 ③奨学金徳政令 ④公務員増やします ⑤第一次産業戸別所得補償 ⑥『トンデモ法』の一括見直し・廃止 ⑦辺野古新基地建設中止 ⑧原発即時禁止・被曝させない」という政策を明らかにした。同時に「日本国憲法改正なんて、当面は全く必要ないから、野党は憲法改正の検討や議論などしなくていい」とも述べている。大胆な財政出動を前面に掲げたことは、「何よりも、人びとのための経済政策を!」という薔薇マークキャンペーンと連動しており、評価できよう。選挙戦術では、支持者から募った寄付額に応じて、参議院選での擁立する候補者数を決める、まずは5月末までに1億円を集め、「10億円集まれば、比例区で25人、選挙区では2人区以上に立てたい」という。元号改定に迎合したような名称はいただけるものではないが、「野党が結集できたときには、(新党の)旗を下ろそうと思います」とも述べている。明らかに混迷する野党の結集に一石を投げかけているのである。
安倍政権や維新がほくそ笑んでいる現実を、しっかりととらえなおす闘いのあり方、野党共闘、統一戦線のあり方が厳しく問われているのである。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.497 2019年4月

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【投稿】WTOが韓国の福島など水産物禁輸を容認-原発事故に「収束」はない

【投稿】WTOが韓国の福島など水産物禁輸を容認-原発事故に「収束」はない
福井 杉本達也 アサート No.497 2019年4月

1 WTOで日本の逆転敗訴:韓国の福島など8県の水産物禁輸を容認
韓国による東京電力福島第1原発事故の被災地などからの水産物の全面禁輸について,世界貿易機関(WTO)の上級委員会が11日,日本の逆転敗訴の判決を出した。原発事故を理由とする日本産食品の輸入規制はいまも23ヶ国・地域で続く(農水省のHPでは50ヶ国)。勝訴を追い風にほかの国にも輸入規制の緩和を求める予定だった日本の戦略が大きく狂った(朝日夕刊:2019.4.12)。
韓国は2011年3月の東京電力福島第1原発事故後、福島や岩手など8県産の水産物輸入を禁止。 日本は「科学的根拠がない」として、2015年にWTOに提訴していた。審理は2審制で、「一審」の紛争処理小委員会は2018年2月22日に韓国の禁輸措置が協定違反に当たるとし、一旦、是正を勧告する報告書を発表したが、韓国が上訴し4月11日に上級委員会は、「一審」の判断を破棄した。危機感を募らせた日本政府は韓国の禁輸措置を撤廃するよう再要請するというが(福井:2019.4.21)、韓国は応ずるつもりはない。

2 なぜ韓国だけをWTOに提訴したのか
日本の食品について、米国・中国・EU・ロシアなど世界50ヶ国もが何らかの禁輸を行っている(諸外国・地域の規制措置(2019年4月15日現在)農林水産省HP)。例えば、EUは福島、岩手、茨城、栃木、群馬、千葉の6県の水産物や山菜に対し政府作成の放射性物質検査証明書を要求している。日本としては中国やEUに対しては高飛車な外交ができるような立場にはない。先んず、日本がWTO提訴を試みたのが台湾である。台湾では2015年3月に福島県産の産地偽造が発覚した。これに台湾の消費者が激怒したことで日本食品の輸入規制強化された。そこで日本はWTOに提訴すると台湾を恐喝して禁輸措置を緩和しようとしたものの、住民投票による反対によってひっくり返されてしまった(日経:2018.11.26)。台湾の対応は主権国家として当然のことで、WTOに提訴するとの脅しを繰り広げた日本政府の行為は帝国主義的発想丸出しの露骨な内政干渉である。次に「弱そう」で無理難題押し付けても「外交的損失が少ない国」と考えたのが韓国である。文政権以前においても、韓国とは竹島問題や慰安婦像問題などでギクシャクしていたこともあり、外交的後先を考えずWTO提訴し、一点突破することによって、他の禁輸国に緩和を迫る圧力とする作戦であった。今回の敗訴は外交儀礼の片鱗もないプチ帝国主義的外交の完全な破綻を示している。

3 禁輸措置は「風評被害」か
日経新聞は社説で「韓国の禁輸措置は継続され、他国に残る輸入規制にも影響しかねない。判決を受けて被災地や日本の食品に対する風評被害が再び強まるおそれもある」(2019.4.13)と書く。あたかも、風評被害はWTO判決や韓国にあるというような書き方であるが、繰り返しになるが提訴したのは日本である。放射能をばら撒いた加害者は事故を起こした東電であり、共同正犯の日本政府である。その事故原因者は被害者にまともな補償をせず逃げ回る責任を回避し続けている。「風評」ではなく「実害」である。

4 日本産食品を科学的に安全だと他国に強制する傲慢
日本政府は敗訴の判決を受けても、従う気は全くなく、菅官房長官は「日本産食品は科学的に安全で、韓国の安全基準を十分クリアするとの1審の事実認定は維持されている」との傲慢な姿勢を維持している。毎日新聞の社説は輪をかけて「懸念されるのは、敗訴によって、日本の水産物は不安だという誤解が海外で 広がってしまうことだ。だが安全性まで否定されたわけではない。」「『日本の水産物は科学的に安全』という1審の事実認定は上級委員会も変えていない。日本の検査は国際基準より厳しく、基準値以上の放射性物質は検出 されていない。」(2019.4.13)と日本政府を擁護する。しかし「日本の水産物は科学的に安全」と誰が言ったのか。「日本の検査は国際基準より厳しい」と誰が判断したのか。日本による一方的な主張に過ぎない。国際的に通用するものではない。そもそも、わずか数年で放射性物質が消えることはない。セシウム134の半減期は2.1年、セシウム137の半減期は約30年であり、2018年には事故直後の2011年の25%にまで減少しているが、これは主に半減期の短いセシウム134の減少によるもので、物理的量どおりに減少しているだけである。半減期の長いセシウム137は今後それほど減少してはいかない。「『基準値以下だから大丈夫です』といういい方が多いが,いまは米も野菜もND(不検出)で,そもそも放射能がいっさい検出されていない。100ベクレル以下ですから安全ですと いうのではなく,NDなのである」(関谷直也)などという言い方をする向きもあるが、ND=0ではない。物理的観点からは放射線量は当初の1/4になっただけであり、今後も数十年この状況が続くということである。国際的には1/4になったから食物を食べて下さいと言えるかどうかである。食べるかどうかは相手国の内政の問題である。大手を振って押し付けられる立場にはない。
しかも、日本政府は汚染水の海洋投棄や 汚染土の再利用などを推し進めようとしており、また、住民の年間被ばく線量の許容量は事故前は1ミリシーベルトであったものを勝手に20ミリシーベルトへと無理やり引き上げている。災害直後であれば、緊急避難として、やむを得ない面もあるが、これほど高い被ばく線量を、これほど長く容認している国はない。これでは日本政府がどんなに「安全な食品だ」と訴えたところで、国際的に信頼されないのは当然である。

5 敗訴で汚染水の海洋投棄計画は完全に破綻
朝日新聞は「今回の日本の敗訴は福島第一構内のタンクに約100万トンある放射性トリチウムを含む汚染水の処分にも影響しかねない。現在の技術では処理が難しく…経済産業省は薄めて海に流すことが最も合理的として…議論している」と書くが(2019.3.13)、今回の敗訴により完全に論理的にも破綻した。「最も合理的」かどうかは、これまで国内(原発ムラ内で)で議論されてきただけである。国際的に議論されたことはない、勝手な・かつ横柄な日本政府の主観である。日本政府はわざわざ国内だけで議論していたことを、韓国をWTOに訴えることによって国際問題化し、自らの首を絞めてしまったのである。国際社会は日本の放射能汚染の管理について極めて厳しい意見を持っていることが「判決」という正式の手続きをもって示されてしまった。出口を自ら塞いでしまったのである。汚染水は毎日150トン・今後100年どんどんたまり続ける。保管場所は福島の陸地以外にはない。

6 桜田大臣発言の背景にあるもの
3月、日本経済研究センターは福島第一原発事故の国民負担は総額で81兆円になるという試算を発表した。この負担は必ず電気料金に跳ね返る。現在、発電の運転や燃料にかかる直接コストを除く電力料金の約15%:原発関連では電源開発促進税が3,200億円(2016年)、千キロワット時につき375円で、家族4人の標準家庭では年1,400円程度を負担している計算となる。この他、バックエンド費用は19兆円(2004年)と見積もられており、使用済燃料再処理費等で0.51円/kWh、1世帯・1月当たりの 負担額は240円(2007年)となる。また、2020年度から福島第一事故の賠償費用に対する積み立て不足を回収する新しい制度として、過去の積み立て不足を総額で約2.4兆円と見積もり、全国の電気料金に上乗せして回収する方針であり、電力1kWhあたり0.07円になる見込みで、標準的な家庭で年間に252円と計算されている(大島堅一氏の試算では:0.5 円/kWhにもなる)。さらに輪をかけて、六ケ所村の使用済み核燃料の第2再処理工場を巡る総事業費(過去の試算では12兆円)を電力料金に上乗せする関電などの企ても進んでいる。現状、列挙しただけでも上記の負担が本来の運転費・燃料費の外に電気料金に上乗せされている。
福島原発の事故処理費用は青天井であり、特に汚染水の海洋廃棄が出来なければ膨大な額となる。今後、国民は電気料金を通じて賠償を支払い,また税負担を通じて支払うこととなる。電気料金が2倍・3倍となることは避けられない。そうなれば「電気料金への上乗せは認めない」、「賠償を払いたくない」、「早く帰還させ,賠償を打ち切れ」という声が大きくなる可能性が高い。政府の早期帰還、被災者切り捨て政策はこうした声を先取りしているとみることもできる。「復興以上に大事」という桜田大臣の発言はこうした「空気」を代弁している。
我々は、こうした「空気」に対案を出す必要がある。それは既に電気料金の10%も占めるfit(「再生エネルギーの固定価格買取制度」)に頼ることではない。無駄な核燃料再処理事業や高速炉などの計画は即時中止すべきであるが、原子力から撤退しても福島原発の事故処理費用・廃炉費用が減少することはない。これは確実に電気料金(又は税金)から支払われることとなる。我々の対案は、ドイツがバルト海で進める「ノルド・ストリート2」のように、ロシアから天然ガスをパイプラインで輸入することである。LNGで輸入すれば冷却費・輸送費が嵩むが、パイプラインなら1/2になり、格段に電力の燃料費を下げることが可能となる。また、シベリアから電力を直接購入することを検討しても良い。そのためには朝鮮半島の安定は是非とも必要である。米国の属国としてのプチ帝国主義国として「イージス・アショア」やF35Aなどで近隣の諸国を脅しながら、放射能汚染水の大海で溺れて行くのか、近隣諸国と連携しながら現状の危機的状況を乗り切る努力を行っていくのか。いま日本は重大な岐路に差し掛かっている。

【出典】 アサート No.497 2019年4月

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【書評】「アナログの逆襲 THE REVENGE OF ANALOG 」

【書評】「アナログの逆襲 THE REVENGE OF ANALOG 」
(デビッド・サックス 発行:インターシフト 2018.12.20 2100円+税)
アサート No.497 2019年4月

刺激的な書名である。時代はデジタル全盛であり、近い将来「AI(人工知能)」が発達すると、事務仕事の7割以上がコンピューターによって処理され大量の失業が発生するとの予測もある昨今である。車には「自動運転」技術が搭載され、ハンドルを握ることなく目的地まで運んでくれるとか。買い物もパソコンで、行政手続きもオンラインでなど。果たしてそんな社会が「幸せな社会」なのかどうかは、甚だ疑問ではある。
私の場合、ほとんどの買い物はインターネット。銀行振込も然り。メールでほとんどの情報交換が足りており、スケジュールもグーグルのカレンダー機能で管理している。
しかしである。私は手帳が手放せない。毎年買い求め日程管理も金銭管理も手帳に書いておく。パソコンなるものと付き合い初めて早30年を越えるが、何だか妙でもある。
そんな中で、本書に出会った。刺激的である。以下に「アナログの逆襲」を紹介していきたい。書かれているのは、アメリカ・カナダ・ヨーロッパエリアの有り様だが、日本においても同様の流れがあると考えられる。
「デジタルに囲まれる現代社会で、私たちはもっとモノに触れる経験、人間が主体となる経験を渇望している。商品やサービスに直接触れたいと望み、多くの人々がそのためなら余分な出費もいとわない。たとえ同じ事をデジタルでするよりも、手間がかかっても高額でも。」

 <第1章 レコードの逆襲>
1980年代後半にレコードは徐々に姿を消し、音楽はCD(コンパクトディスク)が主流となった。そしてインターネットの普及とともに、サーバーからダウンロードする手法に移っていった。スマホやデジタル機器で再生する音楽が主流となった現在、レコードの逆襲が始まっていると著者は語る。
2012年カナダのトロント、著者が住む家の近くに「レコード店」が開店する。以来著者は、レコード店に通い詰めることとなる。そして、市内に次々とレコード専門店が生まれていったという。これらは中古レコード店だったが、新たにレコードの新盤も発売されるようになった。アーティストも、アナログ録音に流れていった。
「レコード店の消滅を書き立てる記事は、・・・レコード店の新規出店のニュースに取って代わり、しまいにはレコード店が復活しただけでなく、大繁盛であると高らかに宣言した。」
デジタルで楽曲作りは、パーツの組み合わせで行われる。パソコンを使えば素人でも楽曲が作れる。正確なリズムや音質も確保できる。しかし、臨場感はない。そこにアーティストが居て、その息遣いも伝わる臨場感はデジタル編集された音楽にはない。
CD再生の場合は、生音源から低域と高域の音が削除され、デジタル処理されて(0・1信号化)いる。今から5年ほど前、私もパソコンでのハイレゾ音源化について真剣になった時があった。高品位なデジタル音源化が流行っていたが、どうも最近聞かなくなった。日本でもアナログレコードの方に関心が進んでいる。
本書では、アメリカ・ナッシュビルのレコード製造会社復活について、レポートされている。
第2章紙の逆襲では、デジタル保存でペーパーレス化などと言われていたが、大ヒット商品となった手帳メーカー・イタリアのモレスキン社が取り上げられている。

<第3章 フィルムの逆襲>
私のパソコンに保存されているデジタル写真の一番古いものは、1998年の日付けである。約20年前である。2000年11月に行った「故小野義彦先生の墓参会」の風景もデジタルだった。この頃からフィルムカメラの衰退が始まった。以来、私もデジタルカメラを買い続けてきた。フィルムカメラの衰退は、フィルム製造業を直撃する。「2002年ポラロイド社倒産、2003年イタリアのフェッラーニア、2005年イギリスのインフィールド倒産、2012年コダック破産申請・・・」
本書で取り上げられているイタリアのフィルム工場も、往時は4000人が働いていいたが、2011年工場機械の処分を待つばかりだった。たまたま二人の青年が、フィルムの必要性から機械の一部を譲り受け、フィルム生産を継続。一方、ソ連製の粗雑な造りのフィルムカメラ(LC-A)が、若者たちから支持され、フィルム需要が増えていった。ウイーンの2人の学生が立ち上げたフィルム会社「ロモグラフィー」がその中心で、以降フィルムカメラの逆襲が始まったという。ポラロイド社の倒産後、その技術を受け継いだ富士フィルムは、その場で現像できるインスタントカメラが若者を中心に販売を伸ばしている。映画業界でも、デジタル撮影と共にフィルムによる撮影を好む監督が増えているという。
画質と精度ではデジタルには敵わないが、デジタルではフィルム写真の雰囲気をだすことはできない。筆者も語っているが、デジタル写真はパソコンの中にしかないが、現像されたフィルム写真は、パソコンが替わっても、アルバムに残っている。
第4章は、ボードゲームの逆襲、そして第5章は、プリントの逆襲である。

<プリントの逆襲、リアル店舗の逆襲>
デジタルの影響をもっとも受けているのは、印刷・出版の世界であろう。ニュース報道や報道写真では、朝夕の新聞より素早い情報提供ができる。
筆者は言う。「活字メディアで働くことは、ラストベルトの都市で暮らしているようなものだ。・・・年を経るごとに、寄稿してきた出版物が次々に廃刊になり、紙面を縮小する雑誌や新聞、首を切られる編集者が増えるばかりで、執筆料は減る一方だ。印刷出版物は、情け容赦ないデジタル重力の法則に抗えず、下降の一途をたどっているように見えた。」と。
しかし、出版印刷は、特定の分野でしっかり生き続けていると著者は言う。欧米では、高品質の雑誌出版では、小部数ながら読者を増やしている。そこでは、大手出版社に特化した配送ルートに頼らない配布システムも模索されている。
そして何よりも決定的なのは、デジタル配信では儲けが出ないという現実があるという。アメリカの新聞業界でも大半の利益をだしているのは、印刷物の分野であり、デジタルだけでは経営がなり立たないという。
そして、リアル店舗の逆襲である。アマゾンやネットでの書籍購入は簡単で検索も容易である。しかし、欧米では逆に書店が増えているという。ゆっくりと本を探す楽しさや、特定分野に特化した書店、そして読書家の店員との会話を楽しむというメリット。アマゾンにはない世界がそこにはある。
残念ながら、私の住む大阪では、書店の閉店が相次いでいる。倒産した大型書店もある。この点については、私の現実とは少々違ってはいるのだが。
また、ネットで売れているのに、わざわざ実店舗を出すという戦略をブランド企業が増えている。アップルストアがそうだ。ブランド企業ほどその傾向があるらしい。

<仕事の逆襲、教育の逆襲>
仕事の逆襲で取り上げているのは、デトロイトの時計会社の話。メイド・イン・デトロイトの手造り時計の話である。スイスも、クオーツ時計・デジタル時計の登場で販売は大きく落ち込んだ後、ハンドメイドを明確にして復活している。高級腕時計分野ではあるが、手作り、職人の技術、そして持つ喜びを演出して、生き延びている。
教育の逆襲では、生徒にipadを配るなどのデジタル教育が、学力の向上には繋がらなかったというアメリカの経験が語られる。生徒間のコミュニケーションや実物教育の方が生徒の力を伸ばすのだそうだ。低年齢からパソコンに慣れさせた方がいいという話しは過去の話になりつつあるという。

<デジタルの先端にあるアナログ>
「ビジネスの世界でデジタル重視が強まるに連れて、新しい斬新な方法でアナログを活用できる企業や個人がますます突出し、成功を収めるだろう。手間をかけることがこれまで以上に重んじられアナログなツールと慣習を導入した主要企業が頭角を現すことになる。それは、アナログが生産性の高いツールであり、しばしば最良のツールであるからに他ならない。」
一見してビジネス書のようにも思える本書だが、企業の話だけに留まらないように思える。かなりのデジタル人間であろうと考えている私だが、思いついたテーマは万年筆で、手帳に書いておく。また、読み返して反芻する。そして、企画書はパソコンの出番である。
デジタルとアナログの共存、そしてデジタルの先端、基礎こそアナログに他ならない。
デジタルを駆使できる人間こそ、アナログを愛すべき、これが結論のようである。(2019-04-22佐野)

【出典】 アサート No.497 2019年4月

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【コラム】児童虐待根絶には母子世帯・若者の貧困問題解決が必要だ

【コラム】児童虐待根絶には母子世帯・若者の貧困問題解決が必要だ
アサート No.497 2019年4月

○近年児童虐待の件数が増え続けている。児童が死亡に至る悲惨なケースもあり、マスコミは児童相談所や教育委員会、警察などの行政機関の取り組み不備を指摘するのに躍起だ。特に、虐待ケースとして把握していた世帯が転居していた場合、学校・教育委員会・警察などで十分にケースの引継ぎが行われたのか?一時保護を解除した後のフォローは適切だったか、などをテーマに記事が組まれている場合が多い。○こうした指摘は具体的な措置や指導、見守り対応についてのみ焦点を当てる。その指摘に行政機関や担当者は、しっかりと対応すべきであることは当然の事と言える。○しかしである。こうした虐待案件の陰にある「母子世帯の貧困」や「非正規労働者の増加と貧困」という背景にまで、踏み込んだ記事を見たことがない。○児童虐待とは言え、傷害罪や殺人罪として刑法上の対応となる。「児童虐待罪」という規定はないので、傷害罪・殺人罪として裁かれる。○よくあるケースが、母子世帯に別の若い男性が同居し、男性が児童虐待を繰り返したという事件であろうか。○この場合、男性は無職で住所不定とされている場合が多い。定職に就かず(就かれず)、居候状態で泣く子を虐待したなどのケースが多い。○確かに具体的な犯罪行為は、その行為をなした加害者が裁かれるべきだ。しかし、母子世帯や若者の貧困状態が広がる現代では、虐待に至るケースが今後も増えていくと考えるしかない。○橋本健二早稲田大学教授の著書「アンダークラス」によると、現在928万人の労働者が、年収200万円以下の非正規労働者であると指摘されている。(就業者の14.9%、平均年収は186万円)氏の提唱する「新しい階級(アンダークラス)」である。○定職がなく・住所も不定という場合、アンダークラスより、さらに下層ということか。地域社会との繋がりが乏しい場合も虐待発見が遅れることになる。○貧困が蔓延して犯罪が増加する、との社会的要因説に立てば、今後も「貧困」を背景に生活の苦しさ、生き辛さ故の虐待案件が減ることはない。児童福祉士を増やそうが、児童相談所を増やそうが、根本となる「低賃金」や「貧困」に対する社会施策の充実を行わなければ、児童虐待や高齢者虐待事件が増え続け、社会不安が強まっていく。○「貧困は自己責任」という新自由主義的発想では何の解決にもならない。(佐野)

【出典】 アサート No.497 2019年4月

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民学同第2次分裂(A)分裂12回大会(70.3)まで

(A) 同盟11回大会から、分裂12回大会(70.3)まで

 第2次分裂は、第11回大会当時の全国委員多数(4/7)を占めていた現代政治研究会G(以下現政研)が1970年3月「第12回大会」を強行したことに始まる。組織内に亀裂が発生し、意見の違いを「分裂主義者・脱落分子」のレッテル貼りによって封殺。

 プロ学同との分裂過程の中、すでに第11回大会前後から、京大グループを核にして、現政研は準備されていたのだろう。11回大会後、様々な組織問題が発生、現政研による出版物の持ち込みもあった。「第12回大会」は、当初69年9月に予定されていたが、大阪市大の上申書に見られる「組織問題」等により延期となった経過がある。以下に、「分裂第12回大会」までの経過・文書類を整理してみる。

【経過】

1969年3月    民学同第11回大会(民旗58号) 記事全文のPDF

1969年3月 民学同第11回大会(民旗58号)

民主主義の旗 58号  19669年4月11日

同盟11回大会成功  四月闘争方針を決定

 民主主義学生同盟の第十一回全国大会が、三月二十二、二十三日の両日大阪において、全国各地からの代議員評議員の出席のもとに開かれた。激動する、国際国内情勢を反映した大学の民主的改革闘争の高揚の中で行われ、次の三つの任務を持っていた。 第一は政府独占の反動的大学再編成に対決し大学の民主的改革で闘うことの意志統一を行うこと。
 第二は、安保条約破棄、沖縄基地撤去、則時返還還闘争の方針を決定すること。
 第三は、中教審答申、新大管法阻止、大学の民主的改革闘争勝利、安保条約破棄を担う強固な学生同盟を築き上げること。
 二日間にわたる白熱した議論は大学の民主的改革闘争に集中した。神奈川大学、京大、阪大、神大、大阪市大などから、それぞれ闘いの総括を踏まえて積極的な意見が展開された。
 集中した討論の中で、政府独占の大学政策は、本格的「重化学工業段階」と規定される最近の日本帝国主義の再生産の構造に照応した労働力の質(専門技術労働者及び管理労働者)と量を、大学教育をとおして貫徹しようとする労働力養成政策として特徴づけられることが明らかにされた。
 独占資本の要請に沿った中央集権体制の整備(副学長制、執行部体制の確立、文相の人事権の掌握)
 中教審答三月答申において政府文部省は学生運動自治会活動の破壊を意図し、四月における答申では管理運営の反動的再編を予定しており、それに対して、大学の全構成員が、強固な統一戦線を形成し民主勢力と連帯して闘うことが確認された。
 阪大支部からは、政府文部省と一体となった大学当局の反動グループの機動隊導入、欺瞞的民主化の策動、それも民青全闘委を利用して行われんとしていたことが報告された。
 また京大、神戸大からは、入試中止を口実とした官憲の露骨な大学に対する攻撃が報告され、政府文部省に対決する意志が表明された。
 以上の討論をふえ、全国委員長からまとめが行われ、圧倒的多数で草案を可決した。つづいて、全国委員長から「「四一五月において、日数組を中心とする労働者階級とともに中教審答申粉砕一新大管法阻止一大学の民主的改革闘争勝利の統一行動を勝ち取り、政府独占の反動的大学再編成を粉砕しよう」の決意表明が力強くなされた。
 インターナショナル斉唱後、明日からの闘いの決意は固く二十三日午後散会した。

1969年4月   京大:「平和と民主主義をめざす学生共闘会議」結成(4/11)
(民旗59号)記事全文のPDF

以下の「民主主義の旗」記事は、1969年4月に京大で「学生共闘」が結成されたとの内容である。すでに、現政研指導のもと、なしくずしに「学生共闘」方式が適用されている。大学民主化闘争も安保も沖縄も、関連しているとして「学生共闘」に流し込んでいる。「民学同」の言うことを聞く「大衆団体」ということ。

 

民主主義の旗 59号 1969年4月25日

 学生共闘 結成 4.28へ向け全力 京大
 
<京大支部発>京大支部では、今年一月以降京大における民主的改革闘争を最も先進的に担い、中心的役割を果たしてきた京大民主化闘争委員会に結集する学友や、学生平和委員会の学友を中心として去る四月十一日″平和と民主主義をめざす学生共闘会議(略称’学生共闘)を結成した。
 学生共闘の結成は、まず第1に京大における民主的改革斗争が、単に個別一京大における民主的改革闘争であるのみならず、まさしく昨年来全国において昂揚している全国の大学民主的改革斗争全体の部分を構成するものであること、従ってこの民主的改革斗争は政府独占の大学支配策動(中教審答申)に全面対決する反独占民主主義斗争の性格を持つものであること、第2に、来年に安保条約改訂期を控えて、政府独占は大学のみならずあらゆる方面に攻撃を加えておりとりわけ4.28沖縄デーにおける、斗いを第一波として、沖縄基地徹去・即時返還一安保条約破棄のスローガンを高く招げた斗いが学生戦線においても要請されていることから、これらの、斗いを明確な指導方針の下に総括的に斗う大衆組織が必要となってきたという実践的要請に応えて結成されたものである。
学生共闘の旗の下、京大支部は四・一八闘争に全京大80の隊列で大阪の地に結集し″中教審答申粉砕・ 大学民主的改革闘争勝利〟の固い意志統一を勝ち取った。
 我々は現在、四・ 二八沖縄闘争に全力を注いで暴進しており、四・二八当日には教養部・理学部・法学部等においてストライキで闘い技く決意である。

※ 以後、「4.28沖縄闘争全関西学生共闘」が結成されている。
(校正:京大学生共闘会議・阪市大学生共闘会議・阪大学生共闘会議・神戸大反安保学生共闘会議)

1969年5月   市大全共闘「文闘委」によるテロ事件・・・対応に分岐   
       民学同市大支部執行部は、「分派行動」と批判
(同年8月30日付上申書の項、参照)

1969年6月?  「大学の民主的変革のために」(現政研発行)

1969年8月   「民学同の統一と発展のために ――現代政治研究会批判
 (ガリ版パンフ:民学同東京都委員会)
       「現政研文書」の民学同東京都委委員会持ち込みに抗議・批判

【同盟内討議資料】 民学同の統一と発展のために ――現代政治研究会批判
「(はじめに)・・しかも、以下に問題にするごとく、この本の内容は民学同が一貫して掲げ闘ってきた基本方針、現に闘おうとしている基本方針と全くあいいれない主張が随所に述べられているのである。我が民学同都委員会として付け加えておかなければならないことは、大阪のある大学院生が「民学同都委員会各支部として売って欲しい」として300冊持ち込んできたことである。都委員会書記長が「これは全国委員会の承認の下にあるものか」とただしたのに対して、同氏は「民学同全国委員会とは関係がない」と答えた。都委員会書記長は同氏の完全なる了解のもとに「全国委員会との関係が明らかになるまで、都委員会書記局で責任をもって保管する。」ことにした。ところが、現代政治研究会のメンバーに頼まれたと称する一部民学同同盟員が“政治生命をかけて取り返す”と暴言をはき、サーカスまがいに3階外壁の窓をこじ開け、ロープを使い、窃盗同然の形でこの本を持ち去ったのである。・・・・・我が同盟の主張と全く相反する主張に対して、民学同東京都委員会はその見解をとり急ぎ明らかにしておきたい・・・」

1、 現代政治研究会の基本的誤謬
2、 -(1)「層としての学生運動」の無理解と歪曲
  -(2)「層としての学生運動」の歪曲がもたらすもの
3、現代政治研究会の政治的思想的本質


1969年8月 市大支部同盟員有志 「全国委員会」に上申書 新規同盟加入拒否問題等

69年5月、市大全共闘「文闘委」によるテロ事件が発生し、同盟員T氏を含む3名が重傷を負った。「学園からの暴力を追放しT君を激励する会」の活動を巡り、市大支部内で組織問題が発生する。「組織分裂」の前哨戦ともいえるが、支部委員会多数を占めていた、後の「学生共闘派」は、新規同盟加入希望者の加入を認めない挙に出る。「支部委員会」多数であったが、支部同盟員数では拮抗状態であったことが背景と思われる。

               上申書

 大学臨時措置法施行後の新しい情勢の下、大学の民主的改革闘争を、市大の具体的条件を考慮しつついかに進めるか、および70年安保を前に日本帝国主義との闘争がさし迫ったものとなってきている。
 こうした中で我が市大支部内部に発生した諸困難は運動にとって大きなマイナス要因であろう。我々は組織の一員として極めて遺憾に思うと同時に、その解決に全力を傾ける決意である。
 我々は、問題処理の経過に現れた当市大支部委員会多数の支部運営その他に関する重大な誤りについて、規約第6条にもとづき、その指導に責任を持たれる貴機関の適切な処置を強く要請します。
 
               記
 
1、a、7月16日。同盟加入希望者4名の加入申込書が支部委員会に提出された。しかるに〇〇LC(※支部委員)を除く支部委員多数は、推薦者〇同志が、「反同盟活動」を行ったときめつけ、従って、それの推薦による4名の加入希望者を同盟員として認めないという暴挙に出た。
又、8月26日に〇LCより、2名の加盟書が提出されたが、これも認められていない。
 以上、申請後、1ヵ月以上にもなる4名を始めとして、計6名が不当にも同盟の隊列から排除されているのである。他方LC多数メンバー推薦のによる加入希望者数名はどいうわけか、その場で加入を許され、同盟員になっている。
 b、我々は、同盟員となる条件は、規約第2章第3条に述べられていると考える。即ち「同盟の趣意規約を認め、同盟費を納め、同盟の一定の組織にはいって活動しようとするすべての学生は同盟員となることができる」と。そして、加盟希望者が弾圧機関と結びついていないかどうか、LCは、審議し、この事実がないか、又はその理由が見つからない場合は、同盟員として認めなければならない。上記6名の加入希望者が「趣意・規約」の原則を、とりわけ第3条の条件を満たしている限り、6名を排除する理由は何ら存しない。
 c、LC多数は、上記6名が”学園からの暴力を追放しT君を激励する会”で大衆運動を行っていた事をもって「反同盟行為」の唯一の理由としている。しかし、この大衆運動の”訴え”文の中で示されているのは、、民主主義破壊に対する怒り、改革闘争を実質上阻止する暴力行為に対する糾弾の声、被害者に対する補償要求、加害者に対する謝罪要求、大学当局の責任追及、これを口実として官憲の介入反対等、当時大衆が強く要求した事を率先して取り上げ、暴力行為の横行する中で」闘った事は先進的であり民主主義的な闘いであった。これこそ、大衆自身が民学同の趣意につらぬかれる精神を実践する姿である。
 ところが、支部委員会の取った態度は、この運動のスローガンに「欠陥」があるという「主張」によって、実質上、この大衆運動を抑えにかかったのである。こういうやり方こそ、大衆運動の発展を保障する規約第5条の2や24条の2に反する行為といわねばならないだろう。
 d、同時に支部委員会の「多数」は、7月16日の支部総会で「学園からの暴力を追放しT君を激励する会」に参加した、〇同志、〇同志等5名に対する自己批判要求決議の動議を出したが成立しなかった。この点においても、我々は、6名の加盟希望者を排除すべき、正当な理由は少しも見当たらないし、支部委員会多数の処置が間違っていること、彼らを「趣意・規約」にてらして、緊急加入させるべきと主張するものである。
 
2、7月16日に開かれた支部総会で、支部委員会の多数は、〇同志、〇同志等5名に対して自己批判要求の動議を出した。
 しかし、その動議の内容を十分討議しないまま採決に持ち込んだ。その結果自己批判要求決議に賛成19、反対0、保留0、棄権19で未成立だった。(当時の同盟員数42)(規約)8章第25条第3項にあるごとく「慎重な討議により、」3分の2以上の賛成によって可決され」るのであって、明らかに自己批判要求決議は成立していない。ところが支部委員会の多数は、〇同志同志をオブザーバー出席とし、総会の事実結果をねじ曲げて、賛成19、反対0、保留0、棄権18と勝手に発表し(LC通信)、自己批判要求決議が成立したとでっち上げている。もはや「規約」は支部委員会多数にとって関係ないというわけか?

3、〇同志に対して、いついかなるところでオブザーバーにするという権利制限が規約に基づいて行われたのか?否である。このことに対して支部委員会の多数は重大な規約蹂躙を行っている。
 我々は、かかる支部委員会多数の規約をふみにじる様な官僚主義、分派主義的行為を許してよいのだろうか。
 
4、こういう状態の下で、8月29日支部委員会の多数より、「総会」が開かれようとした。」総会の開催条件である構成メンバーに対する支部委員会の「処置は「規約」から見て原則的逸脱である以上、このような「総会」は認められない。
 したがって、支部委員会はただちに趣意規約にもとづく(6名の新同盟員、〇同志の権利を認めること)総会を開くべきである。
 
5、①新規加盟問題、②7/16総会での自己批判要求問題、③〇同志に対するLCの処置、④8/29総会招集問題、以上の事実で判明したように、現市大支部支部委員会多数は、重大な規約違反を繰り返しているし、同盟員に対して官僚主義的・分派的対応をとっている。
 我々は、ここに、支部委員会多数に重大な疑問を生じざるをえないし、また真剣な反省を求めたいと考える。
 
 昭和44年8月30日 民主主義学生同盟全国代表委員会 殿
 
 (以下、同盟員21名の署名)
 
 文学部3回生A、文学部2回生B,法学部1回生C、文学部1回生D、理学部3回生E、文学部4回生F、工学部3回生G、文学部4回生H、法学部4回生I、法学部3回生J、医学部3回生K、文学部4回生L、経済学部3回生M、商学部2回生N、文学部3回生O、文学部3回生P、法学部4回生Q、文学部3回生R、医学部6回生S、工学部3回生T、医学部1回生U,文学部3回生V

1969年9月   第12回大会を延期(9/1・2)

1969年9月   大阪市大(統一会議派)支部総会開催 委員長選出
(内部文書に記載がある)

1970年1月   全国代表者会議(民旗66号)「阪大支部代議員:動議提出」
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民旗 66号 1970年2月4日

全国代表委員会開く  70年春期闘争方針を確定

 去る一月十五、大阪において同盟全国委員会は、全国代表委員会を拡大規模で開催した。 この代表委員会は①70年をめぐる内外情勢の諸特徴を明らかにすること.②昨秋の、佐藤訪米阻止を中心とする關いの総括③今春の闘争、とりわけ全軍労の闘いと連帯した闘争の学生戦線におくる構築④同盟の組織問題を解決方向性を与え、同盟の戦闘的統一を強化すること一などの任務をもつものであった。
 会議は午前九時より始まり、佐藤全国委員長の一括報告が行なわれた。
 次に討論に入ったが、それに先だち阪大の一代表委員より、「同盟の統一保持のため今代表委では採決一決定を行わない」とする動議が出されたが、「今春闘争の闘争方針の確定こそ今代表委の任務である」とする反対対意見が多数を占め却下された。
 討論に入って、情勢・総括・任務方針の全般にわたって活発な発言が続いた。 とりわけ、情勢の項では日帝の近畿ミサイル吉設置計画・中教審特別委報告等の反動性が明らかにされ、更に任務方針では、全軍労のスト闘争に連帯した闘いこそ急務であることを発言者すべてが強調した。
 支部報告終了後、全国委員長が十二時間にわたる討論のまとめを行い、更に全国委の報告とまとめを一括して採決に付し出席代表委の賛成多数をもって採択ー決定された。午後九時すぎ、すべての日程を終えて会議は終了した。

1970年2月   「層としての学生運動論—その戦闘的再生のために」
       (現政研 「層としての学生運動論」編集委員会)

 

内容は、
第1章 層としての学生運動の成立過程と八中委ー九大会
第2章 六〇年代の学生戦線
第3章 層としての学生運動とは何か
   -その課題と展望ー

 

 


1970年3月 学生共闘派第12回大会(3/1・2)(民旗67号)

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 民旗67号では「過半数を圧倒的に越える代議員の出席」と記している。内部文書によれば、大会代議員数は、199 出席代議員数105(委任状2含む)で、実態は過半数近い代議員がボイコットしている。阪大・明大、東京都委員会多数が欠席をし開催強行に抗議の意を表した。全国委員選出では、5名を選出(欠員2)、全国代表委員は29名を選出(欠員14)として、「大会欠席の同志に配慮し・・」との説明がある。
 同1面下段に「70年代と階級闘争」「大学の民主的変革改革のために」の広告が、民旗紙上に初めて、堂々と登場してくる。まさに異様である。民学同とは、何の関係もない組織だからである。

民旗 67号 1970年4月15日

民学同12大会圧倒的成功 70年闘争方針と新指導部確立 –

 さる三月十三、十四の両日、全国各地からの代議員・ 評議員の出席のもと、民学同第十二回全国大会が圧倒的に開催された。

 大会第一日目の十三日には、昨秋の学園闘争および10.21国際連帯闘争から十一月佐藤訪米阻止闘争に到る<安保一沖縄一大学>闘争の総括を、全国、全関西学生共聞の大衆的決起をふまえて討議し、あわせて七0年蘭争をめぐる情勢討論が行われた。 翌十四日は、同盟内に存在した一部日和見主義分子の大会般壊策動があったが、全国委員会、全国代表委員会の諸決定に基づき全国の諸同志はこれに断固たる批判を加えて同盟の戰闘的統一を守り抜き、大会討議を続行した。 この日は四月以降の70年蘭争方針、組織方針をめぐる討議が行われ、更に特別報告として沖縄現地報告があり、聞う意志統一を深めた。 次に、新たに結成された支部から決意表明がなされた。
 白熱したすべての討議が終了したのち、過半数を圧倒的に越える代議員の出席のもと、大会草案および委員長のまとめを一括して全会一致で採択し同時に70年を担う新指導部の選出が行なわれた。
 70年闘争の更なる激動を前にした今十二回大会の成果は、第一に70年を闘い抜く戰闘的闘争方針を全同盟員の手にかちとったこと、第二に、民主集中性の原則を堅持し、同盟の戦闘的統一をかちとったこと、第三に、70年を担う新指導部を確立したことである。
 なお、大会は一部分子の策動に対し、次のような決議を特別に採択した。
 
 決議 
 同盟第12回大会に結集された全国の同志諸君!
 我々はこの間の種々の困難な情況を同志的な連帯と科字的な党派性の貫徹によって克服し、全国代表委員会の全会一致の決定にもとずき、ここに同盟12回大会を圧倒的に成功させたことを高らかに宣言する。
 同盟全国委員会は70年代反独占闘争を闘い抜くために今大会の意義を重視し、大会成功のために最大限の努力をはらい、種々の理論的、組織的間題の解決に全力をあげてきた。 しかるに阪大、明大等の一部諸君は全国代表委員会の決定をふみにじり、全国大会に応じようとせず大会をボイコットしたのみならず、大会を暴力的に破壊せんとする破廉恥な行為をとるにいたった。われわれは彼らのかかる行為を大会の名において怒りをもって糾弾する。
 このような同盟破壊策動は、われわれの共通の散、真の敵である日本帝国主義を喜ばせる以外に何らの実りある成果をもたらすことはありえない。
 我々は、今大会で意志統一された安保一沖縄一大学闘争の闘争方針にもとづき、四月以降の大衆運動を大衆的・戦闘的に闘い抜くなかで光輝ある民主主義学生同盟の伝統を守り抜き全国250万学友の期待にこたえなければならない歴史的任務をもっている。
 かかる任務達成のうえで同盟の戰關的統一の意味するものはあまりにも重要である。
 我々は、大会ボイコットと大会の暴力的破壊活動に狂奔した一部諸君の行為を弾劾し、かれらに対して厳しい自己批判を断乎として要求する。
 我々は、かれらが全国学友の期特にこたえ率直に自らの非をあらため、わが同盟の戦列に一日も早く復帰することを切に要望する。
 
 全国の同志諸君、ならびに学友諸君!
 我々は、大会の成功を基礎に、光輝ある民主主義学生同盟の伝統を守り抜き70年代闘争を全国学友の先頭にたって闘い抜くことを全国学友の前にはっきりと宣言する。
 
 民主主義学生同盟第12回全国大会  昭和45年3月14日 (全員一致で採択)

1970年3月 「70年代と階級闘争」(現政研が出版 初版70/3/25)

1970年3月 「阪大支部」再建宣言」(民旗68号)  記事全文のPDF

民旗 68号 1970年4月15日   阪大支部 再建宣言

 四月闘争を闘い抜く過程で新たに再建された阪大支部より全国の諸同志学友に連帯の挨拶と四月闘争総括を送る。
 昨年九月以降、同盟の統一破壊にのみ狂奔し、第12回全国大会を官憲のまえにさらすという暴挙にまでおよんだ旧阪大支部委員会諸君は、大衆追随主義の泥沼の中にますます身を沈め、回復しがいたい日和見主義に陥った。
 我々は、四月-六月闘争を目前にひかえ、中心環である4.28沖縄闘争を阪大において大衆的に展開するため四月はじめ阪大支部を再建に全国委員会の指導のもと、4.28闘争の組織を開始した。
 
 わが同盟の4 ・ 28闘争の位置づけは青年労働者とりわけ市職・市従・全逓・全電通四単産青年部部との共闘体制で、六月安保ゼネストを職場一学園において貫徹し、安保破棄、沖縄基地撤去全面返還、佐藤内閣打倒をめざす闘争であった。この闘いの前進の中でインドシナにおける米帝侵略策動を阻止し、五月十四日の愛知外相のアジ阪ア会議参加=日米共同声明の実質化を阻止する闘いの高揚をもたらしえたのである。

阪大脱落分子の4月.28闘争の「安保沖縄では学生をまとめられないからカンボジア反戦平和の課題で」の主張は彼ら自身が頼りにするべ平連、「ノンセクト・ ラジカル」の部分からも乗り越えられ「日米共同声明粉砕、沖縄闘争勝利」に応ぜざるをえなくなっている。
  4 ・ 28闘争組織過程は昨秋期闘争で結成された阪大学生共闘による圧倒的宣伝活動と、新入生を中心にしたクラス組織によって進められた。三度にわたる学内集会-デモの貫徹は他党派が沈黙をまもり続けるなかで唯一阪大における行動提起として存在し、4.28に阪大100名の隊列に結集していった。
  多数の新入生の闘争参加によって、五月愛知アジア会議出席阻止-インドシナ戦争反対に向け新入生のクラス討論も組織されている。
 
 我が同盟は四月闘争の過程で強化され、飛躍的拡大強化が可能な段階に達している。大阪の地における原則的な運動と民学同結成以降の輝かしき伝統を断乎まもりぬき、科学的的方針の提起と大胆な組織活動を通して真の大衆同盟として発展していく決意である。
 六月安保ゼネストを学園において貫徹するため新たに再建された阪大支部委員会は先頭にたって闘い抜く決意であることを明らかにして、支部再建宣言にかえたい。

【文書リスト】
☆全国委員会への上申書 大阪市大支部21名連名「市大支部執行部の規約違反について」
☆ 現代政治研究会批判(ガリ版パンフ:民学同東京都委員会1969・8)
☆ 第12回大会(延期)草案(ガリ版 1969・9/1・2予定)
☆ 「層としての学生運動論—その戦闘的再生のために」 (現政研 70年2月)
☆ 学生共闘派「第12回大会」草案(ガリ版 1970・3/1・2)
☆ 学生共闘派「第12回大会」関係内部文書類
☆ 「民主主義の旗」(各号)

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【投稿】大阪府知事・大阪市長 ダブル・クロス選挙

【投稿】大阪府知事・大阪市長 ダブル・クロス選挙
大阪都構想・維新政治に終止符を打とう!

統一地方選挙前半戦まで1ヵ月を切った。3月8日、松井大阪府知事・吉村大阪市長は、揃ってそれぞれの議会宛てに辞書願を提出した。維新の会が主張する「大阪都構想」のスケジュール案が法定協議会で否決されたというのが理由だ。
昨年末以来、維新と公明の間で罵倒合戦が繰り広げられてきた。所謂密約問題である。維新・公明間で、本年11月までの知事・市長任期の間に、再度「大阪都構想」の住民投票を行うとの「密約」(2017年4月17日付文書)があったという。その内容は、法定協設置の合意、「慎重かつ丁寧な議論を尽くすことを前提に、今任期中で住民投票を実施する」という内容であった。この事実は、何ら府民に知らされてこなかった。すでに2015年の住民投票で否決され、橋下市長を辞任に追い込んだ経過があるにも関わらず。この密約を公明が破ったとして、維新は任期を半年以上残してダブル選挙に出たのである。

<密室合意、批判は公明にも>
維新は特別区、公明は総合区との主張に違いを前提に法定協議会は再び設置された。維新案は住民投票で否決された大阪市解体案とほぼ同じであり、再びの住民投票はそもそも必要がない。しかし、維新は「大阪都構想」の看板は下ろせない。公明に対しては衆議院の大阪小選挙区で対立候補を立てるぞ、という脅しを続けてきた。この密約もそれが背景にある。大阪市民の利害には何ら関係がない。
具体的経過では、昨年12月21日維新・公明の協議が決裂、12月26日知事定例記者会見で、松井が密約文書を暴露。そして最終的に3月7日の法定協議会でも、決裂してダブル選挙表明、3月8日知事・市長辞表提出となった。
維新と公明は、参議院選挙と住民投票を同時に行うかどうかで、決裂した。背景には、公明の読みとして、維新の退潮という状況の変化があるのだろう。橋下が政治の舞台から去って4年、維新のカリスマが消え、その「残存現象」として維新の党勢は大阪府内では続いている。しかし、全国的には1%の支持率政党で、大阪以外ではすでに過去の政党であり、安倍改憲政権を補完するだけの役割を演じているにすぎない。
そして、密約合意に対する批判は、維新のみならず公明にも向けられている。それを払うためにも維新と決別する必要があったのではないか。

<維新政治に終止符を打つチャンス>
反維新知事候補として元大阪府副知事の小西さん、大阪市長候補には、前回のダブル選挙に立候補した柳本前大阪市議が立候補を表明した。自民・公明はそれぞれ推薦を行った。参議院選挙・統一地方選挙を前にした時節、立憲民主党や共産党は、推薦等は行わず勝手連として、応援に回ることになる。大阪における維新勢力のに終止符を打つことができるチャンスである。
一方、維新にはさらに4年維新体制を維持したいと知事と市長をクロスするという。ダブル選挙は、民意を問う必要があるのなら、有り得るかもしれない。しかしそれぞれ任期を全うすることなく、さらに「どちらがやっても変わらない」と強弁してのクロス選挙。知事・市長が入れ替われば、任期を4年引き延ばせることができる、との姑息さ。松井の品格のなさも彼らのとっても不安材料だろう。
今回のダブル選挙は、低迷する維新支持率を前にして、総力戦なら何とか維持できるのでは、との打算も働いているのが見え見えである。こうして姑息で、府民・市民無視の政治手法に対しては維新支持層からも賛否両論が出ている。反維新に中間層も加えて、根こそぎ反維新に回る可能性も高いと予想される。参議院選挙の前哨戦としての統一地方選挙だが、大阪では、維新勢力への鉄槌選挙としたいと思う。(2019-03-17佐野)

【出典】 アサート No.496 2019年3月

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【投稿】福島原発事故後8年・処理費用81兆円…日本は少しは現実に向き合えるのか

【投稿】福島原発事故後8年・処理費用81兆円…日本は少しは現実に向き合えるのか
福井 杉本達也

1 事故処理費用81兆円(日本経済研究センターの試算)
3月7日、日本経済研究センター(岩田一政理事長)は「続・福島第1原発事故の国民負担」と題して、総額で81兆円になるという試算を発表した。親会社の日経新聞ばかりでなく、他の新聞でも取り上げられ、かなりの反響を呼んでいる。81兆円の内訳は、「廃炉・汚染水処理」で51兆円、「賠償」が10兆円、「除染」を20兆円で計算している。ここで、「汚染水処理」については、現在120万トン、今後発生分80万トンの計200万トンとして、「トリチウム水の処理費(2000 万円/㌧、総量の 200 万トン)を含む。」としている。これを希釈して海洋放出した場合には11兆円という試算も同時に出している。試算では原発の「石棺」化や「水棺」化などの永久管理費用35兆円を含むとしているが、少なくとも数百年管理するには極めて過小な数字である。また、汚染水の海洋放出などもっての外であるが、政府の22兆円(2016年12月)という数字よりは現実的である。

2 8年間、何事もなかったかのように思考停止中の原発推進派
3月11日放送のAbemaTV『AbemaPrime』に出演した東京工業大学の澤田哲生助教(原子核工学)は「日本の場合は再処理をし、使えるプルトニウムやウランを取り除いてリサイクル、そこで残ったゴミだけを捨てる」、「もんじゅのような高速増殖炉を使い、そこに閉じ込められないカスだけにする」、「青森県六ヶ所の再処理施設…が、あと数年以内には動く」、「冷静な判断力を持っていくことが必要…感情論に陥らない」と述べている。また、作家の乙武洋匡氏は「3.11から8年も経つのだから、そろそろ原発が是か否かという問いの立て方は止めよう」、「メリット・デメリットを勘案しながら…トータルで考える議論に行かなければいけない」などとし、ジャーナリストの佐々木俊尚氏も「テクノロジーは進化するもの」、「現状では10万年かかったとしても、100年後には10年でできるようになっているかもしれない」「0か100かという議論はすべきではない」と答えている。
物理学の法則にしたがう放射性物質の半減期が数万年から10年になることなど未来永劫ない。澤田助教はもんじゅが廃炉になったことを知らないとでもいうのであろうか。この8年、政府(経産省・環境省などを含め)を含め、原発事故への対応は思考停止の状態にある。

3 完全に行き詰った放射性汚染水の「海洋放出」
上記、日本経済研究センターでも51兆円かかると試算されている高濃度の放射性物質を含む汚染水を、東電はALPS(アルプス)という放射能除去装置でろ過し、トリチウム以外の放射性物質は、ほぼ除去できていると主張してきた。しかし、処理水のうち、84%が基準を超えるトリチウム以外の放射性物質が含まれていた。このうち6万5000トンは、法令の100倍を超える放射性物質が含まれていた。また、一部のタンクでは、特に有害なストロンチウム90などが、基準の2万倍に当たる1リットル当たり60万ベクレル検出されている。流入する地下水を遮蔽する目的で凍土壁を設置したものの、汚染水は毎日130トンずつ増えている。政府・東電は浄化と防水のすべてに失敗したのである。原発敷地内は汚染水タンクで一杯であり、保管する場所がなくなってきている。田中俊一前規制委員長は、早い段階から、『薄めて海に流せば問題ない』と発言していた。しかし、全漁連は「海洋放出には反対、地上に保管すべき」と反対姿勢を明確にした(福井:2018.12.28)。もちろん、このような高濃度汚染水を太平洋に放出しようとすれば、西太平洋を漁場とする、韓国や台湾、ロシア、中国はもちろん米国も反対するであろう。いくら付け焼刃とはいえボルト締めの汚染水タンクを設置したり、現実的な矢板工法ではなく、効果も定かでない凍土壁で遮蔽しようとするなど、現実を直視せず、夢想しかしないツケが回ってきている。

4 高放射能汚染地域への帰還政策ー南相馬市で死亡率が増加
南相馬市の人口は2010年までは7万人を超えていたものが、2011年の事故で一旦1万人にまで減少し、その後、6万5千人に回復したものの、2017年には5万5千人にまで減少してきている。しかし、死亡者は2010年:819人だったものが、人口が1.5万人も減った2017年には逆に837人に増加している(住民票ベース:市外への避難者を含む)。南相馬市の10万人当たり死亡率は、2014年までは福島県の死亡率とほぼ同じだが、2015年で急増している。2014年から福島県の帰還政策が始まり、避難者が一斉に帰り始めた結果、死亡率の増加がもたらされたと解釈される。いったん避難した人が高放射能汚染地域に帰還する。そうすると死亡率が増加する。南相馬の場合だけでなく、他の市町村でもいったん避難した後に帰還した者にも同じような危険が迫っているのではないかと、矢ケ崎克馬琉球大学名誉教授は危惧する(矢ケ崎克馬:「南相馬市の死亡率増加は「帰還」の危険性を物語るのか︖」2019.1.20)。

5 一般公衆に年間線量限度20mSvという非常識な被曝線量を強いている日本政府
現在、政府は一般公衆に対して、年間線量限度20mSvという非常識な被曝線量を強いているが、ICRPの一般公衆への人工放射線の年間線量限度の変遷では、1953年勧告:15mSv/年 、1956年勧告:5mSv/年、1985年勧告:1mSv/年(例外は認める)、1986年のチェルノブイリ原発事故を経験後の1990年勧告:1mSv/年(例外は認めない)と、健康被害の現実を踏まえて減少させている。日本の対応は異常である。政府はこうした高汚染地域に住民を帰還させようとしている。今年4月にも原発所在町である大熊町の一部の避難指示を解除するという。東京大学大学院教授の小佐古敏荘氏が、2011年4月30日、涙ながらに内閣官房参与を辞任したが、その辞任理由は「法と正義」の原則に則しておらず、「国際常識とヒューマニズム」にも反しているという抗議であった。政府の行為は多数の国民を危険な汚染地区に閉じ込め放射線被爆させようという壮大な人体実験場であり、基本的人権の無視である。

6 増える小児甲状腺がん:214人(あるいは更に多く273人にも)
2018年12月27日、第33回福島県「県民健康調査」検討委員会が開かれ、甲状腺検査3順目の結果が発表された。悪性または悪性の疑いが前回から3人増えたとし、避難区域等が設定された13市町村 は罹患率が0.064%(検査 34,558人21中人) 避難区域外の中通り 0.031%(検査152,697人45中人)で、13市町村は2倍の罹患率となった。当初、小児甲状腺がんは非常に稀な病気であり、人口100万人当たり2,3人と見積もられていたが、結果は1万人当たり7人と非常に高い罹患率となっている。しかし、委員会の見解は「事故当時5歳以下からの発見はないこと、地域別の発見率に大きな差がないことから、総合的に判断 して、放射線の影響とは考えにくいと評価する。」というものであり、あくまでも放射線の影響を認めない犯罪的な姿勢を貫いている(参照「めげ猫「タマ」の日記」2018.12.27)。
これとは別に2015年7月にスタートした「甲状腺サポート事業」で県の甲状腺検査を受け、2次検査で結節性病変などが見つかり、保険診療となった患者に対して医療費を支給する制度があるが、今年3月までに医療費を受給した患者233人のうち、手術後に甲状腺がんではなかった5人を除くすべてが甲状腺がん患者であることが福島県議会の答弁で判明した。検討委員会のデータと合算すると273人となり、これまで公表されていた人数を大幅に上回ることとなる(OurPlanetTV:2018,12,14)。小児甲状腺がんの主要な原因は ヨウ素131 による内部被曝であり、外部被曝の寄与は小さい。ヨウ素131は半減期が8日であり、事故直後、政府は事故を小さく見せようと調査を意識的に行わなかったため、ヨウ素131の被曝線量を確認できない。確認できないことを“奇貨”として甲状腺がんとの因果関係を否定しようとしているのである。犯罪国家そのものである。

7 溶融した核燃料(デブリ)を取り出しできるかのように情報操作する政府・東電
東電は2月13日、福島第一2号機の溶融した核燃料(デブリ)をつかみ持ち上げることに成功したと発表したが、東電の廃炉責任者の小野明氏は「デブリを全て取り出すことはかなり難しい」と日経のインタビューに正直に答えている(日経:2019.3.5)。作業員に膨大な被曝をさせて、極一部のデブリを取り出すことは可能かもしれないが、そのような行為は大量虐殺行為である。出来もしないことを工程計画とし,あたかも出来るかのような幻想を振りまいているに過ぎない。犯罪のアリバイ工作である。

8 露骨な世論操作-インターネット上のダウンロード規制法の頓挫
インターネット上の違法ダウンロード規制を強化する著作権法改正案が市民の猛反発を受け、今国会への提出見送りに追い込まれた。改正案は、音楽と映像に限っていた違法ダウンロードの対象を漫画や論文、写真などあらゆるコンテンツに拡大。個人ブログ、SNSからのダウンロードや画像保存なども規制対象とし、悪質なケースは刑事罰を課すことが柱となっていた。これまで原発関係においても、過去の専門家や政治家の論文や発言・マスコミの写真などが繰り返しネット上で取り上げられ、真偽が確認されていた。福島第一原発事故の3号機の核爆発の写真や御用学者の山下俊一福島県立医科大学副学長の発言、安倍首相の「アンダーコントロール」発言の録画などもその一例である。こうした行為を違法だとして全てを規制されると、まともな議論は封殺されてしまう。完全なる秘密国家・犯罪国家の完成となる。事故後8年、被害が大きすぎて隠そうにも隠し切れない世界最悪の原発事故を必死で隠し通そうとする政府を野放しにするのか、国民の真価が国際的にも問われている。「都合悪きことのなければ詳細に報じられゆく隣国の事故」(歌人:俵万智「海と船」)。

【出典】 アサート No.496 2019年3月

カテゴリー: 原発・原子力, 杉本執筆 | コメントする

【投稿】維新=安倍政治終焉のチャンス 統一戦線論(58)

【投稿】維新=安倍政治終焉のチャンス 統一戦線論(58)
アサート No.496 2019年3月

<<「投げ出し交換選挙」>>
3/21に大阪府知事選、3/24に大阪市長選が告示され、4/7に投開票されることとなった大阪のダブル・クロス選挙の帰趨は、安倍政権の命運をも左右すると言えよう。
松井一郎・大阪府知事と吉村洋文・大阪市長は、2人がそれぞれの立場を入れ替えて立候補する。まったく党派的思惑、私的政治的な打算だけで、任期途中に、ともに経験も職責もない、市と府の役割の違いも無視して、互いのポストを交換しようというのである。立場を入れ替わることで、半年後の任期満了を待たずに、それぞれの任期を丸々4年間引き延ばし、居座ろうという、これほどあからさまな、住民不在の党利党略、有権者を置き去り、無視した、脱法的行為はないと言えよう。
「どの面下げて選挙」「投げ出し交換選挙」と言われるようなこんな奇策に追い込まれた経緯が明らかにしていることは、維新政治が瀬戸際に追い込まれている現実の反映でもある。それを巻き返す最後の手段としてこんな投機的な賭けに打って出たのであろう。カジノを誘致せんとする維新は、まさにこのダブル・クロス選挙をカジノの賭場と見立てているのである。
維新が掲げる「都」構想は、「二度と住民投票を行わない」という前提(2015維新の会HP掲載「今回が大阪の問題を解決する「最後のチャンス」です。二度目の住民投票の予定はありませ。」)で2015年5月17日に実施され、反対(得票率50.4%)、賛成(得票率49.6%)でたとえ僅差といえ明確に否決されている。決着済みなのである。
その後の現実は、維新以外に「都」構想などという怪しげな集権主義に賛成・支持する政党や政治勢力はは存在していないし、広がりや支持の拡大さえ見込めていない。維新の前代表である橋下徹氏からさえ「今の状況で、都構想の必要性が(市民に)うまく伝わっていない」、「無理してやらない方がいい」と突き放されていたものである(2018/1/25朝日新聞インタビュー)。その「都」構想を再び住民投票に持ち込むためには、府・市両議会の過半数超えの支持を取り付け、議決しなければならない。しかし両議会で維新は過半数に及んでいないどころか、肝心の大阪市議選で過半数を制することはほぼ絶望的である。維新は、都構想が争点になった堺市長選でも敗北し、2017年の衆院選でも議席を減らしている。
そこで登場したのが、2015年大阪都構想住民投票では自主投票の立場をとっていた公明党との「密約」の存在を暴露する脅しであった。公明党と維新は、2017年4月17日付で「特別区設置協議会において、慎重かつ丁寧な議論を尽くすことを前提に、今任期中で住民投票を実施する」との密約を交わしていたのである。この時点で公明は、維新との密約を維持することで、国政選挙での「選挙区棲み分け」を継続することを優先させていたのである。しかし、松井知事は昨年末12/26、密約していたこの住民投票の実施に煮え切らない公明に業を煮やし、「もういい、全部ばらす」として記者会見でこの「密約」を暴露、「責任ある政党なら合意書に基づいた対応をしていただきたい」と開き直ったのである。表向きは都構想を批判しながら、こうした裏取引に応じていた公明の責任も重大である。公明という名とは裏腹な、維新・公明の陰湿な関係を表面化させ、有権者をあきれさせてしまったことには多少の意義はあるかもしれないが、政治不信をさらに増大させてしまったことは確実である。

<<“親維新”安倍首相の孤立化>>
しかし、こうした事態に最も困惑しているのは安倍政権、とりわけ安倍首相本人と菅官房長官であろう。松井維新代表があくまでもこうした強硬・強気姿勢を崩さない、崩せないのはなぜか。それは第一には、統一地方選とのダブル・同時選挙に持ち込まなければ、埋没しかねない維新の統一地方選候補を押し上げられないという切羽詰まった状況に追い込まれてしまっていることにあろう。
しかしそれにもまして維新を最も公然・隠然、支持し支え続けてきた安倍政権の存在こそが維新を暴走させていると言えよう。首相と官房長官は、維新代表の松井氏、前代表の橋下徹氏と、頻繁かつ定期的に食事を共にし、意見を交換する密接な関係で結ばれていることは周知の事実である。安倍首相が悲願とする憲法改正では、維新の協力が不可欠であり、維新は公明よりも公然と改憲を主張し、安倍政権を叱咤激励している。維新政治と安倍政権は一体なのである。互いに気脈を通じ、公明への対処も話し合ったであろう。松井氏らが誘致を進めた2025年の国際博覧会(万博)の大阪開催も、安倍政権の肩入れで実現にこぎつけた経緯もある。
こうした蜜月関係の中で、維新が敗北するようなことになれば、それは安倍政権への直接の打撃となり、改憲戦略は一気に崩れ、政権崩壊の引き金になりかねないのである。その及ぼす影響は単なる一地方首長選挙の域にはとどまらないことは、歴然としている。
しかも今回の場合、府知事、市長とも敗北すればもちろんのことであるが、府知事、市長いずれかだけで敗北しても、都構想は断念せざるを得ず、維新としては致命的な敗北であり、起死回生は望めないと言えよう。
安倍首相は、3/14、自民党大阪府連の要請に応じて小西禎一・府知事候補と一応会見して「必ず勝利しよう」と激励の言葉をかけたが、菅官房長官は同席しなかったという。安倍首相の真意は維新の側にあったとしても、表向きは自民党総裁としての対応せざるを得ず、昨年の総裁選では大阪府連に支援してもらった借りがあり、維新を「思いあがっている」と批判し、安倍総裁四選まで支持する二階幹事長を配慮せざるを得なかった、というところであろう。首相サイドは今回のダブル選を「あちらを立てればこちらが立たず」(側近)と述懐しているが、一種の孤立化である。

<<想定外の事態>>
時事通信が3/8-11に実施した3月の世論調査で、安倍内閣の支持率は前月比3.4ポイント減の39.0%、不支持率は1.9ポイント増の36.4%となり、支持率下落傾向が明らかになりつつある。厚生労働省による毎月勤労統計の不正調査問題や、沖縄県の県民投票で反対が多数を占めた名護市辺野古移設をめぐる政府対応が影響したとみられる、と報じている。潮の変わり目ともいえよう。
安倍一強支配に胡坐をかき、野党分断と改憲への補完勢力として維新を手なづけ、着々と9条改憲を準備していたはずの安倍政権にとって、支持率低下に追い打ちをかけるような今回の事態の進展は、安倍首相にとっては想定外のことであろう。
そして安倍首相の意に反して、“反維新”で自民、公明、立憲、国民、共産の主要政党が結集し、包囲網が形成されれば、いくら“親維新”の安倍政権であっても、それを押しとどめることはできない段階に入ってしまったと言えよう。
これを決定的なものにし、今回のダブル・クロス選を維新の自滅選挙とさせる絶好の機会到来として、安倍政治終焉のチャンスとさせるのは、“反維新”の共闘であり、広範な草の根の市民・府民の力を結集した多種多様な統一戦線の形成である。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.496 2019年3月

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【書評】 『米軍が恐れた「卑怯な日本軍」─帝国陸軍戦法マニュアルのすべて』

【書評】 『米軍が恐れた「卑怯な日本軍」──帝国陸軍戦法マニュアルのすべて』
(一ノ瀬俊也、文春文庫、2015年、730円+税)

本書が取り上げる主な米陸軍の兵士向け対日戦マニュアルの原題は、“The Punch below the Belt”(1945年8月)である。直訳すれば、「ボクシングで相手のベルトの下を狙う(卑怯な)一発」ということになるが、本書ではわかりやすく、これを『卑怯な日本軍』として紹介する。
さてその出だしは次のようである。(以下、『・・』はそれぞれの原著からの引用である。)
『日本軍は卑怯な手を好む。戦争の歴史上、背信とずる賢さにおいて日本軍にかなう軍隊は存在しない。真珠湾のだまし討ち以来、アジアや太平洋の島での作戦を通じて、日本軍はあらゆるトリック、優勢を獲得するためのまやかしを使った。今や彼らはどんどん追い詰められて劣勢を強いられ、自殺的な戦いをしていることを自覚している。(略)日本兵と戦う将兵がまず学ぶべきことは、どんな状況でも奴らを信用してはならないということだ』。
前線の将兵向けということもあり、その基調は日本軍への差別や憎悪に満ちていることを念頭に置いておかなければならないが、 日本軍の繰り出す「策略」は、四つのパターンに分類されるとする。
「①降伏するふりをする、②傷を負ったり死んでいるふりをする、③我が軍の一員のふりをする、④友好的な民間人のふりをする、である。『すべては我々を油断させて殺したり、捕虜にしたり、混乱させたり、資材や設備を破壊するため』であり、これまで戦場から報告されている策略のうち少なくとも九〇%は、それら四つのトリックのうちの一つであるとされる」。
例えば「②死んだふり」についての報告では、『クェゼリンでは、日本兵が戦友たちの死体の中に、目標がすべて現れるまで、完全に身をさらして寝そべっていた。米軍の下級将校が、これらの生きている死体のすぐ横に長い間立って、完璧な目標を提供した。けれども日本兵はあえて彼を撃とうとせず、他の数人がやって来るまで、死んだままでいた』。
この他、欺騙(ぎへん)戦術(軍の強さや意図について誤った印象を与える戦術)、忍び込み、通信に介入、待ち伏せ、狙撃兵、偽装とダミーの兵器や陣地の設置、地雷、仕掛け爆弾が、ガダルカナル、ニューギニア、ペリリュー、ソロモン、ビルマ、セブ等の諸戦線での事例で詳細に説明されている。
なかでも地雷と仕掛け爆弾が、米軍の機械化戦法に追い詰められた日本軍の「対米戦法」の中心的兵器として活用されたという事実が指摘される。
すなわち、「日本軍が米軍陣地に突撃すると『主抵抗線の前面に全火力を集中するを主義とするが、後方にも多数の機関銃、迫撃砲を排列し、砲兵火力とあいまって陣内における強靭な抵抗を企図す』(『米英軍常識』、教育総監部、1943年)るのが米軍のやりかた」であり、日本軍の白兵攻撃を猛烈な火力で破砕する(阻止弾幕射撃)。また日本陣地に攻撃してくるときには、「連日昼夜の別なく猛烈な砲爆撃を行って人員を殺傷、陣地設備を破壊、ジャングル地帯も約一か月で清野と化し、その支援下に歩兵を進め」たとしても、「戦車に歩兵が膚接(近接)して突撃してくることは少ない。(略)じりじりと火力・機械力で押してくるのである」(ソロモン諸島ニュージョージア島での記録、1943年8月、日本軍撤退)。
このような圧倒的な火力という現実を見、米軍の強大さに対抗手段が存在しないことが認識されたにもかかわらず、日本軍は「伝統」の白兵・肉弾戦に執着する希望的観測と、(国民性から見れば)「ひたすら人命を奪えばアメリカは折れる」、「〇〇の戦場で××人殺した」などという空想的ではあるが、一見客観的に思える「戦訓」が付け加わって、とにかく米軍を足止めして人命を奪い戦意をくじき、戦争を遂行するということに一縷の望みをかけはじめたのである。その結果、土壇場での「対米戦法」として登場したのが、地雷と仕掛け爆弾であった。
その詳細は本書を見ていただきたいが、米軍の報告書には『作戦のなかで遭遇した地雷は量も質も多数であった。標準的に製造された地雷の使用は例外であった。地雷を即製で作るなかで、撃針用の針から手榴弾用の水道管まで、あらゆるものが使用された』(フィリピン、セブ島の戦闘工兵大隊の報告書、1945年7月)と述べられている。それは米軍の対日戦法に無力であった日本軍の必死の抵抗と工夫の跡でもあった。
このような急造の地雷や仕掛け爆弾による抗戦は戦争の状況を変えるには如何ともし難いものであったことは明らかである。しかし地雷は「敗勢挽回の焦りの中でプロの軍人たちの頭ではいつのまにか一発逆転の決戦兵器へと変化してしまっていたのである」という本書の指摘は、兵士を「一個の“地雷”視」する特攻作戦すら実行した日本軍の本質を言い当てている。
なおここでは詳しく紹介する余裕はないが、米軍が日本軍を『卑怯な日本軍』として描いたのと同様の構図を、かつての日本軍が中国軍に対して描いていたということも言っておかなければならない。
例えば上述の「死んだふり」について、『手榴弾教育の参考』(陸軍歩兵学校集会所、1939年)には、『攻防いずれを問わず敵〔日本軍〕の射撃などに対して仮死を装い、敵兵が近接すると不意に乗じて手榴弾を投擲する方法をしばしば実行する』とある。
本書はこれについて、「死体のふりという罠は、(略)『卑怯な日本軍』の専売特許ではなかったということになるし、対米戦で追いつめられた日本兵がかつて体験した中国軍の戦法を想起し応用した、という可能性もなくはない」と指摘する。追いつめられた中国軍と追いつめられた日本軍との対応の類似は興味深い。双方の軍の相違とともに探求されるべき課題であると言えよう。(R)

【出典】 アサート No.496 2019年3月

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【投稿】問われる野党共闘の内実 統一戦線論(57)

【投稿】問われる野党共闘の内実 —統一戦線論(57)—

<<「あの悪夢のような」>>
野党の質問と追及をせせら笑い、適当に口から出まかせでその場を取り繕う、安倍首相のウソとごまかし、暴言と妄言、その支離滅裂がいよいよ御しがたいものになってきたと言えよう。
新春早々、1/6のNHK日曜討論「あそこのサンゴは移している」という大ウソ発言以来、勤労統計の偽装が暴露され、厚労省や総務省が2018年の実質賃金はマイナスであることを認めているにもかかわらず、平然と「最高水準の賃上げが続いている」(2/10、自民党大会)とまたもやウソをつく。何の臆面もなく、「成長と分配の好循環によって、アベノミクスはいまなお進化をつづけています」 「この6年間、三本の矢を放ち、経済は10%以上成長しました」「戦後最大の国内総生産(GDP)600兆円に向けて、着実に歩みを進めてまいります」と言い放ったのである。
ところが、基幹統計である勤労統計の手抜きと賃金かさ上げを「首相案件」として当時の首相秘書官が厚労省に圧力をかけたことを追及されると、安倍首相は「統計なんかに関心を示すわけない。根本的に知らない」と開き直る。これでは自ら偽装統計を根拠に誇大宣伝してきた「戦後最長の景気回復」「最高水準の賃上げ」とは何だったのか、「統計なんかに関心を示すわけない」本人はもちろん、政権・与党幹部でさえ釈明しがたい、手の付けられない事態である。「賃金増」は虚構、家計消費も減、「戦後最長の景気回復」どころか「景気悪化」の深刻化、これでは、消費税増税の根拠は総崩れである。ここまでくると、次なる手として消費税増税再延期を掲げて衆参同日選挙を画策する手の内が見え隠れするのも当然と言えよう。
2018年の実質GDP成長率平均値は、かさ上げされた数値でも+1.3%で、景気が最低最悪と言われた民主党政権時代の+1.7%をも大幅に下回っているのである。もちろん、一人当たり実質賃金は約5%も減少している。それでも所得をめぐっては、毎月勤労統計でも、実質の値がマイナスであることを認めざるをえなかったにもかかわらず、「名目では良くなっている」と強弁する。
安倍首相は先の自民党大会で、前回の亥年選挙で参院選に敗北した経緯に触れ、「(その後)あの悪夢のような民主党政権が誕生した。あの時代に戻すわけにはいかない」と、強い口調で呼びかけた。安倍首相にとってはよほどの「悪夢」であったのであろう。しかしこの表現、暴言・妄言のたぐいである。「悪夢」の撤回を求められて、「言論の自由」などと見当違いの答弁しかできない。民主主義を深める「言論の自由」ではなく、民主主義を貶める暴言でしかない。底の浅さが自覚できないのである。そして答弁に詰まると、「総理大臣でございますので、森羅万象すべて担当しておりますので、日々さまざまな報告書がございまして、そのすべてを精読する時間はとてもないわけでございます。世界中で起こっている、電報などもあるわけです」(2/6、参院予算委)と、都合の悪いことはひたすら逃げる。森友問題で追及された時には、「森羅万象、私が説明できるわけではない!」とキレていたのが、手のひら返しである。
当然の結果として、首相が自慢するアベノミクスの実態は、その「悪夢」のような民主党政権時代をも下回っているのである。「悪夢」は安倍政権自らに命名されてしかるべきなのである。
そして首相の暴言・妄言は、さらに続く。2/12の衆院予算委では、総額6000億円超に及ぶ地上配備型ミサイル防衛システム「イージス・アショア」導入について、その必要性に疑問を投げかけられると、こう言ってのけた。「まさに陸上においての勤務となる。これは(洋上勤務となるイージス艦とは)大きな差なんですよ、全然ご存じないかも知れませんがね。(隊員が)自分の自宅から通えるわけですから。勤務状況としては違うんですよ。そういうことも考えていかなければいけない」。まるで「自宅通勤の戦争」礼賛発言である。この危なっかしい仰天答弁が安倍政権では堂々とまかり通っているのである。
そこへさらに、自衛官募集に自治体の協力が得られていないから、憲法9条に自衛隊の明記が必要だ、「自治体の6割以上が自衛隊の募集業務に協力していない」などと言い出した。9条改憲の根拠が突如変わってしまい、事実や実態を歪曲し、将来の徴兵制につながりかねない個人情報収集義務を地方自治体に強制する、「自衛隊募集に協力しない自治体があるから、憲法を変える」という論理展開である。底意を自ら露呈する底の浅さを、改めて示したとも言えよう。
もはや安倍首相には、政権担当能力も職務遂行能力も根底的に疑われる段階にきていると言えよう。

<<内閣の支持率は上昇?>>
ところがである。各メディアの世論調査は、安倍内閣の支持率は上昇しているという。1/27の日経新聞の世論調査では、安倍内閣の支持率が前回から6ポイント上昇して53%、不支持率が前回から7ポイント低下して37%と大幅に好転、同じく読売新聞の世論調査でも、内閣支持率は2ポイント上がって49%、不支持率は5ポイント下がって38%だという。2/15発表の時事通信の世論調査では内閣支持率は前月比1.1ポイント減の42.4%だったが、不支持率も微減。2/13のNHK世論調査では、安倍内閣 支持44%、 不支持37%、安倍内閣を「支持する」と答えた人は、先月の調査より1ポイント上がって44%だったのに対し、「支持しない」と答えた人は先月より2ポイント上がって37%であったという。政党支持率は、自民党37.1、立憲民主党5.7、国民民主党 0.6、公明党 3.3、共産党 3.1、日本維新の会1.2、自由党0.2、社民党 0.4、支持なし41.5、であった。ここ数年、世論調査で自民党の支持率が35%から40%で、他の少数諸野党に対して圧倒的に高く、野党はすべて合計しても10%程度という悲惨な状況である。
その象徴が、2019年最初の注目選挙であった山梨県知事選挙の結果であった。現職の旧民主系候補に対し自民系が一本化した推薦候補を擁立、1/27投開票の結果は、自・公推薦の長崎幸太郎(無所属・新)氏が19万8047票で、立憲民主党や国民民主党が推薦した後藤斎(無所属・現)を3万票差で破ったのである。「民主王国」とも呼ばれていた山梨県での野党側の完全な敗北である。自民党県連を二分するほどまでの保守分裂を克服したしたたかさや狡猾さが、バラバラで連携も結束も意気も上がらない野党側を上回ったのである。野党は結集よりも、分裂に向かっている実態が浮かび上がったのである。
しかもここでは前回に続き2度目の県知事選出馬の共産党山梨県委員長の花田仁氏が立候補、16,467票(得票率4.1%)で、前回2015年の 49000票(得票率17.5%)を大幅に下回る、共産党の2000年代の最低の得票数・率を更新するという最悪の事態である。共産党の小池晃書記局長は、「(今回の)選挙戦では、中央政府言いなりの(山梨)県政ではなく、暮らしを守り、地域経済を元気にする県政への転換を訴え、多くの県民の皆さんの共感が得られた。勝利には至らなかったが、掲げた公約の実現のため、県民の皆さんと力を合わせる」というコメントを発表したが、こんな得票でどこに「多くの県民の皆さんの共感が得られた」というのだろうか。このところしきりに「本気の共闘」で“安倍政治サヨナラ選挙”を呼号しているが、実態は相も変わらずのセクト主義と民族主義によって、野党共闘と統一戦線を空洞化させ、大いに安倍政権を喜ばせているのである。この敗北を真摯に反省できなければ、有権者からさらに突き放されるであろう。
2/14に、「立憲野党と市民連合の意見交換会」が開かれ、立憲民主党・福山哲郎幹事長、辻元清美国対委員長、国民民主党・平野博文幹事長、日本共産党・小池晃書記局長、穀田恵二国対委員長、社会保障を立て直す国民会議・玄葉光一郎幹事長、自由党・森裕子幹事長、日吉雄太国対委員長、社会民主党・吉川元幹事長が参加し、市民連合より各野党へ以下の通常国会における7項目の要望が渡された。
1 ねつ造された数字に基づく虚飾のアベノミクスを総括し、正直な政治・行政の回復とエビデンス(事実根拠)に基づく政策形成を図る
2 沖縄県民の意思を尊重し、沖縄県名護市辺野古における新基地建設の即時中止を決断するとともに、普天間基地撤去の道筋をつける
3 米国の言いなりに高価な装備品を購入し、次世代につけを回す防衛予算を徹底的に吟味し、国民生活を守る予算への転換を図る
4 消費税増税を延期し、消費増税対策に名を借りた不公正なばらまき予算を撤回する
5 入管法改正の再検討と外国人労働者導入の制度設計を精査するとともに、人権侵害の温床となっている外国人技能実習制度を廃止する
6 排外主義から国際協調主義への転換を図り、東アジアにおける平和の創出と非核化に向けて、日本が積極的に行動する
7 安倍首相が進める憲法破壊の動きに反対するとともに、安倍政治を終わらせ、個人の尊厳の擁護を基調とした政治を実現するという国民の願いを受け止めて、立憲野党が相互の信頼とリスペクトの上に、国会の内外で協力して戦う
この要望を受け、各党・会派と市民連合の各構成団体から意見交換が行われ、夏の参議院選挙に向けて野党と市民の共闘をさらに強めていくことが確認された、という。

<<国会パブリックビューイング>>
この意見交換会で、安保法制に反対する学者の会・広渡清吾氏は、「市民連合はもともと、2015年12月に当面参議院選挙で野党が共闘して、安倍政権にかわる政権を出すことを目標に結成されたものです。市民と野党が共闘するといったこのスタイルは、日本の戦後政治史の中でも非常にユニークなスタイルのように思います。これは、安倍政権が日本の歴史の中で、ある意味キーになるような政治を展開しているということに対するカウンターとしてあると思います。このユニークなスタイルをどうやって今から、日本の社会を開くために位置付け、そのためのエネルギーを集中させることが私たちにとっての大きな課題であり、今後とも新しく市民連合との意見交換会に参加していただいた野党の皆さんも含めて一緒に参議院選挙に向けて新しい力を社会の中に作り出していく方向で頑張っていきたいと思います。」と述べている。大いに期待されるところである。
この「ユニークなスタイル」とも関連して、国会での聞くに耐えないやり取りや安倍政権の実態が、「~国会を市民に『見せる』(可視化)から、市民が国会を『見る』(監視)に~」=国会パブリックビューイングという新しい活動(法政大学の上西充子教授・#国会パブリックビューイング 代表)で注目されている。国会での質疑応答、首相の暴言・妄言、そのやりとりのビデオを可視化するのである。多くの人々が行きかう街頭、公衆の場で、大きなモニター画面で見ながら、場面場面で解説が行われ、画面には適切なフリップも入れられていて、人だかりの中から怒りや驚き、歓声、笑いや拍手も起こる。NHKや民放のニュースや解説、報道番組で垂れ流される内容希薄な政権持ち上げ番組などとはなどとは比べものにならない懇切さと分かりやすさが人々を引き付けている。実態の暴露、可視化と監視が一体となった活動として、大きく広がることが期待される活動である。
こうした「ユニークなスタイル」を、新しい力をいかに社会の中に作り出していくか、表面的な「絵に描いたような野党共闘」や、あるいは口先だけの「本気の野党共闘」では、たとえ多くの選挙区で候補者一本化が実現したとしても、それは単なる各野党間の取引と棲み分けによる「名ばかり野党共闘」に堕してしまいかねない。人々の共感と期待を真に担える、そして誰もが参加できる、草の根の力に成長させる政策綱領と共闘、多様な統一戦線のあり方が問われていると言えよう。前号に紹介した薔薇マークキャンペーンも、そうした努力の現れと言えよう。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.495 2019年2月

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【投稿】参議院選挙 勝利のカギは野党共闘の前進だ!

【投稿】参議院選挙 勝利のカギは野党共闘の前進だ!

7月の参議院選挙まであと5ヵ月を切った。一強多弱と言われる中、少なくとも自公と改憲勢力を3分の2以下に減少させることができるかどうかがメルクマールと言える。そこで、自公に対抗する野党勢力に問われているのは、如何に野党勢力の足並みを揃え、一人区(32選挙区)での統一候補を実現できるかどうかである。
そこで、筆者が把握している全国の状況について整理しつつ、今後の課題について考えてみたい。
複数区では、6人区(東京)、4人区(埼玉・神奈川・愛知。大阪)、3人区(北海道・千葉・兵庫・福岡)2人区(茨城。静岡・京都・広島)、そして一人区が32選挙区という中、一人区について、見ていきたい。

<15区(県)で、一本化進む>
共産党候補の去就問題を残しているとは言え、15県で野党統一候補、または立憲民主党と国民民主党との間で調整が進み、候補者の名前が明らかになっている。栃木・群馬・石川・長野・岐阜・三重・奈良・和歌山・岡山・愛媛・長崎・熊本・大分・鹿児島・沖縄である。無所属での野党統一候補擁立となっている県もある。
東北6県は、現状ではまだ調整が進行中である。前回の選挙では東北6県では、野党候補が勝利しており、統一・共闘が実現すれば大きな力となる。新潟は、前回選挙では野党統一候補が勝利、さらに原発再稼働問題を焦点とした2度の知事選挙を通じても野党統一を実現、地域レベルまで「市民連合」が活動している地域である。
問題は残り10選挙区の状況である。滋賀では立憲・国民両党間の調整が難航している。すべての一人区での調整が求められている。ほとんどの一人区では、共産党は候補者の擁立を行っているが、野党共闘・市民共闘重視との方針であれば、候補1本化のための決断も共産には求められており、野党共闘路線の本気度が試されている。

<2人区では若干の混乱>
2人区では、自公・野党が一人ずつ当選ということが最低求められるわけだが、茨城では立憲・国民間で問題が起こっている。現職の国民民主党候補が、立憲民主党への鞍替えを表明。原発関連の電機・電力系労組の力が強い連合との間で軋みが生じている。他方、安倍政権側は自民候補2人擁立の動きも出ている。両党での調整が課題である。京都でも立憲・国民からそれぞれ立候補の動きがある。広島では、現職で野党は一本化している。
このように、2人区では、茨城・京都で、立憲・国民間での競合問題が惹起しており、野党共闘とは名ばかりとなっている。

<3・4人区で野党の戦い方が問われる>
3・4人区には、自民2、または自公で2名が立候補し、野党と激突という構図である。4人区では立憲・国民・共産・自民・公明がそれぞれ立候補する構図となる。前回3人区の北海道では、2議席を野党が獲得。4月の北海道知事選挙では、野党統一候補が実現し、自公候補との一騎打ちとなり、参議院選挙の前哨戦という状況になっている。すでに、共産党を含む全野党と市民連合が石川候補と政策協定を結ぶ方向となっており、注目されている

<立憲民主党と国民民主党、分裂の構造>
こうした選挙区状況を見てみると、野党共闘に大きな影を落としているのが、立憲民主党・国民民主党という旧民進党グループの分裂状況である。
国民民主党は、結党以来支持率が低迷し、統一地方選挙でも、地方議員が国民民主党を離党し、立憲民主党への入党・推薦での立候補という流れが強まり、参議院選挙結果次第では、党存立の危機を迎える可能性が高い。そうであるが故に、安易な妥協ができないというお家事情があるため、野党統一の大きな障害となっている。
同様に、立憲民主党も「安易な政党の離合集散」には組みしないという枝野代表の、頑なとも言える姿勢は、少なくとも野党共闘という課題にとっては、評価できないものがある。
両党の分立状況を抱えつつ、少なくとも一人区では、自公に議席を渡さないという原点に立ち返ることが求められている。

<両党支援という連合の矛盾>
旧民進党が、二つに分裂し、一昨年の総選挙以降連合は、立憲民主党・国民民主党の両党を支援するというスタンスを取っている。自治労・日教組・私鉄総連・情報労連などは立憲民主党支持、電機連合・電力総連・UIゼンセンなどが国民民主党支持と、産別の政党支持は分断されている。そこで大きな意見の違いが、原発再稼働など原発への考え方であろう。国民民主党の玉木代表は、民進党時代の「原発ゼロ」をめざすという考え方に理解を示してはいるが、支持労組の電力総連や電機連合は、脱原発を訴える立憲民主党の候補者には明らかな拒否姿勢であり、野党統一候補への調整や選挙行動において消極的な姿勢で、さらには妨害行動も起きている。
原発再稼働を支持するとは、公言できない。もし、そうなれば国民民主党支持は限りなくゼロになり、政党としても残ることはできない。せめて、原発は将来的に自然エネルギーに置き換えるという姿勢に転換が求められている。連合内も各県連合で色合いが異なっており、市民連合などの統一推進派にも慎重で寛容な姿勢が求められていると言える。

<沖縄県民投票・統一地方選挙・北海道知事選挙で弾みをつけて>
7月参議院選挙までには、2月24日の辺野古基地建設の是非を問う県民投票、沖縄などの2つの衆議院補欠選挙、そして北海道知事選挙など統一地方選挙がある。政権末期状態の安倍政権に対する国民の意思はどう示されるのか。そして、改憲勢力を参議院で3分の2以下にできれば、さらに展望が開かれることになる。
野党統一に本気かどうかで、参議院選挙後も生き残れるかが決まるだろう。総選挙に向けた野党の再編も
その結果次第ということであろう。
立憲民主党・国民民主党・共産党・社民党・自由党などの野党への働きかけを強めて、野党共闘・統一候補で、参議院選挙に勝ち抜いていきたい。(2019-02-19 佐野秀夫)
【出典】 アサート No.495 2019年2月

 

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【投稿】事故を“なかった”こととするため、住民に大きな被曝を強いて帰還させる人権無視の政府―宮崎真・早野龍五論文不正の背景―

【投稿】事故を“なかった”こととするため、住民に大きな被曝を強いて帰還させる人権無視の政府―宮崎真・早野龍五論文不正の背景―
福井 杉本達也

1 福島原発事故、丸8年の恐るべき現実―加速する福島からの避難
2月9日付けの福島の地元紙:福島民友は「福島県立高25校を13校に再編 県教委・実施計画、近隣校 と統合へ」という、福島県民にとってショックな記事を掲載した。再編理由は「本県は少子化が深刻化しており17年3月と比べて28年3月の中学校卒業者数が約5300人減少する見通し」としている。福島県の人口は原発事故時・202万人であったものが、2017年には190万人を割り込み、今年1月では185万人にまで減少している。しかも、女性の減少率は男性の2倍となっており、今後、さらに少子化が進むと見られる。また、共同通信の小さな記事では、放射能から逃げ遅れた飯館村が「三つの小学校と一つの中学校を統合し、小中9年間の教育を一貫して行う『義務教育学校』を設置する方針を決めた。」(福井:2019.2.14)としており、人口減少と共に公共機能もどんどん縮小しており、小さな自治体から解体に近づいていることが伺える。

2 国連人権理事会が日本政府の福島帰還政策に苦言。 日本政府の避難解除基準は適切か?
昨年10月25日、国連人権理事会が日本政府の福島帰還政策に通知を出した。要旨は①日本政府には、子供らの被曝を可能な限り避け、最小限に抑える義務がある。②子供や出産年齢の女性に対しては、避難解除の基準を、これまでの「年間20mSv(ミリシーベルト)」以下から「年間1mSv」以下にまで下げること。③無償住宅供与などの公的支援の打ち切りが、自主避難者らにとって帰還を強いる圧力となっている。というものである。ところが、これに対して、日本政府は、「避難解除の基準はICRPの2007年勧告に示される値を用いて設定している」、「こういった批判が風評被害などの悪影響をもたらすことを懸念する」と反論した。事故直後は半減期が短いセシウム134等が多く、空間放射線量は比較的早く低下するが、事故後8年も経過すると、半減期が長いセシウム137(約30年)からの放射線が空間線量率の大部分を占め、空間線量率はなかなか下がらなくなっている。事故直後と8年後の現在では同じ年間20mSvでも、合計の被曝量は大きくなってしまう(参照:井田真人「ハーバー・ビジネス・オンライン」2018.11.1)。住民に大きな被曝を強い、無理やり帰還させようとし、これを批判する国連人権理事会を逆に「風評被害」と攻撃するとんでもない政府を持ってしまったことを恥なければならない。

3 個人被曝線量は低いと主張した宮崎真・早野龍五論文のウソがばれる
雑誌『女性自身』2月26日号が「東大名誉教授が福島調査で作成 政府の被曝基準論文データは『虚偽だらけ』」という見出しで、伊達市の主婦が2年間にわたり伊達市の被曝隠しに疑問を持ち追い続けた経緯を書いている。伊達市では事故後いち早く、仁志田前市長がガラスバッジと呼ばれる個人の累積線量計を配布したが、線量計は室内に放置されたままだったり、子供のランドセルに入れっぱなしになっていた。この線量計を基にして放射線量が低いからと、主婦が住むCエリアでは除染がなされなかった。これを追及する主婦に、高エネルギー加速器研究機構の黒川眞一名誉教授が協力の手を差しのべた。その中で、黒川氏は伊達市のアドバイザー宮崎真氏・早野龍五東大名誉教授の論文の中に、被曝線量がゼロの人が99%もあるという誤り等々を見つけた。これは「ガラスバッジが正しく装着されていなかったか、解析の過程で自然放射線の部分を引き過ぎたか」であるとして、宮崎・早野論文の誤りを指摘した。結果、市民の被曝線量を実際の3分の1に少なく見積もっていたことがわかった。

4 「空間線量が高いところでも、住んで問題はない」「除染も必要ない」と主張した宮崎・早野論文
宮崎・早野論文は2017年7月に国際専門誌に発表されたが、黒川氏の指摘により、2018年12月27日の毎日新聞で、伊達市・政府と早野・宮崎氏らによる、放射線量を低く見積もり、住民を避難させずに強制的に住まわせようとする犯罪が暴露された。
論文の内容を簡単に要約すると、第一論文では、伊達市は2011年8月から市民を対象としたガラスバッジによる個人線量測定のデータを使い、空間線量率の調査結果から、個人線量を推定する方法を確立するための研究をおこなっている。実測された個人の外部被ばく線量と航空機モニタリング調査における居住する場所の空間線量率を比較し、その比例係数はおよそ0.15倍だった。原発事故による被曝線量は、市内で最も汚染された場所に70年間住み続けても「データの中央値で18ミリシーベルトを超えない」と結論づけた。第二論文では、第一論文の結果を使った解析を行い、住民が受ける追加積算線量を推定し、また、除染が地域全体の個人線量の分布を全体として低減させる効果は見えない、と結論している。論文は、①空間線量が高いところでも、実際の被曝は少ないのだから住んで問題はない。②除染で空間線量が下がっても、被曝量は減らないのだから除染には意味がない。という、非常に政治的な主張になっている。(牧野淳一郎:「ハーバー・ビジネス・オンライン」2019.1.10)。
上記、毎日新聞の記事によると、指摘された問題点は、a) 論文では、約5万9000人分のデータを解析しているが、約2万7000人分について本人の同意を得ていない。b) 論文の著者の一人が所属する福島県立医大の倫理委員会に研究計画書の承認申請を行う前の15年9月に早野氏が解析結果を公表している。c) 図の一部に不自然な点があり、「線量を過小評価するための捏造が疑われる」。の3点であり、早野氏は、 (a) については「適切なデータを伊達市から受け取ったという認識で対応していた」(c)については「計算ミスがあり、線量を3分の1に過小評価していたとして出版社に修正を要請した」とし、(b) についてはノーコメントである。a)の同意を得ているかどうかについては、測定に参加した5万8000人あまりのデータが提供されたが、同意しなかった97人と同意書が未提出だった2万7233人が含まれていた。

5 誤った論文を「削除はするが問題はない」とした放射線審議会の異常さ
放射線審議会では「東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえた緊急時被ばく状況及び現存被ばく状況における放射線障害防止に係る技術的基準の策定の考え方について」の議論を2回(第141回:2018年6月22日、第142回:9月28日)行ない、宮崎・早野論文を引用した。宮崎早野論文の不正が明らかとなった後の2019年1月25日に第143回の放射線審議会が開催されたが、事務方の佐藤暁放射線防護企画課長は「事務局としては、当該論文の学術的な意義について全否定されるものではないと考えるが、論文の筆者が対象となるデータの影響を認めていること、またこの論文を根拠としない場合でも本審議会の今説明している資料の他の3つはその信頼性を確認しているので、この審議会の結論には影響を与えないのではないかと考える。したがって、当該宮崎・早野論文の引用を差し控えることが適切ではないかと認識している。学術論文としての信頼性が確認された場合には再度掲載するとしてどうかというのが事務局の考えです。今回は引用を差し控える。」と“まとめ”た。要約すれば、早野氏自身が1月8日に論文の誤りを認めたにもかかわらず、事務局としては(a) 「学術的な意義について全否定するものではない。」つまり、個人情報的な問題があっても学術的な意義は否定されない(b) さらに、「論文を根拠としない場合も結論に影響しない」という驚くべき結論を出した(参照:たんぽぽ舎:木村雅英・2019.2.12。上記:牧野淳一郎)。ようするに論文は帰還政策の単なるお飾りにしか過ぎない。いかに被曝線量が高かろうが、住民を強制的に帰還させるという結論は政治的に最初から決まっており、政策の変更はしないというのである。
なお、b)の研究計画書の承認申請を行う前に解析結果を公表したことについて、宮崎氏は2月5日、個人線量測定会社「千代田テクノル(本社:東京都文京区)」から提供を受けたデータを使っていたことを認めた。要するに千代田テクノルにいる教え子に頼んでデータを提供してもらったということである。同社は個人線量計測サービス事業者で、福島原発事故後、福島県内の多数の自治体からガラスバッジによる外部被曝線量測定業務を受託してきた。中でも伊達市とは、2011年8月から、他の自治体に先駆けて契約している。また研究は、仁志田昇司前伊達市長に持ちかけられたことも明かした。宮崎氏はさらに「2014年に伊達市長から、ガラスバッジ測定データの活用について相談を受けたことに端を発し、伊達市依頼の下、データの活用方法について伊達市と綿密なやり取りを行ってきた 。」と説明。論文執筆の背景に、市長の関与があったことを明らかにした。伊達市は住民の不安を打ち消すため、被ばく線量は十分に低いという報告書が欲しかった。その意向を受けた早野、宮崎両氏が不正論文をデッチ上げたというのが結論である(OurPlanet-TV 2019.2.8)。

【出典】 アサート No.495 2019年2月

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【書評】『餓死(うえじに)した英霊たち』

【書評】『餓死(うえじに)した英霊たち』
(藤原彰、ちくま学芸文庫、2018年7月発行、1,100円+税)

本書は2001年に刊行され、昨年7月に文庫化されたものである。かなり以前の書であるとはいえ、語られる事実は、今なお生々しい。
「第二次世界大戦(日本にとってはアジア太平洋戦争)」について、本書は述べる。
「この戦争で特徴的なことは、日本軍の戦没者の過半数が戦闘行動による死者、いわゆる名誉の戦死ではなく、餓死であったという事実である。『靖国の英霊』の実態は、華々しい戦闘の中での名誉の戦死ではなく、飢餓地獄の中での野垂れ死にだったのである」。
ところで飢餓には「完全飢餓」(食物を全く摂取しないで起こる飢餓)と「不完全飢餓」(栄養の不足や失調によって起こる飢餓)があるが、「この戦争における日本軍の戦闘状況の特徴は、補給の途絶、現地で採取できる食物の不足から、膨大な不完全飢餓を発生させたことである」。この結果病気に対する抵抗力の低下から、マラリア、アメーバ赤痢、デング熱等による多数の死者を出した。
「この栄養失調に基づく病死者も、広い意味で餓死といえる。そしてこの戦病死者の数が、戦死者や戦傷死者の数を上回っているのである」。
「戦死よりも戦病死の方が多い。それが一局面の特殊な状況ではなく、戦場の全体にわたって発生したことが、この戦争の特徴であり、そこに何よりも日本軍の特質を見ることができる」。
本書はこの視点から、アジア太平洋戦争での餓死の実態に迫る。本書で取り上げられる地域は、ガダルカナル島作戦、ニューギニアのポートモレスビー攻略戦およびアイタベ作戦、インパール作戦、敗戦局面でのフィリピン戦、さらにはアメリカ軍の後方に取り残されたメレヨン島やウェーク島の飢餓地獄、そして中国での「大陸打通作戦」である。
その個々の作戦の悲惨な実態は本書に詳細に述べられているが、本書はこれらの諸作戦を通して「何が大量餓死をもたらしたのか」と問う。そしてその原因3点を指摘する。
それらは、①補給無視の作戦計画(=作戦が他のすべてに優先する作戦第一主義と情報の軽視)、②兵站軽視の作戦指導(=兵要地誌の調査不足と現地自活主義)、③作戦参謀の独善横暴(=幕僚が人間性を欠いた作戦も決めた)である。この結果もたらされた凄惨な状況はもろに最前線の兵士たちに降りかかってきた。その状況は辛うじて生還した兵士たちからの証言が物語っている。
そして本書は、こうした事態を招くに至った日本軍隊そのものの特質に迫る。
これについての項目を上げれば、「精神主義への過信」(=白兵主義への固執)、「兵士の人権の無視」(=厳正な軍紀への絶対服従)、「兵站部門の軽視」(=輜重兵科、経理部、軍医部への差別)、「幹部教育の偏向」(=精神教育の重視と陸軍幼年学校出身者の要職独占)等々である。
さらに「戦陣訓」の「生きて虜囚の辱めを受けるな」という「日本軍の捕虜の否定、降伏の禁止というきびしい方針は、戦況不利の場合に日本軍にたいし悲劇的な結末を強制することになった。餓死か玉砕かという選択を、いやがおうなしに迫られることになったのである」。
これについて本書は厳しく批判する。
「尽くすべきことをすべて尽くし、抵抗の手段がまったくなくなっても、捕虜となることを認めない思想、万策尽きた指揮官が部下の生命を守るために降伏という道を選ぶことを許さない方針が、どれだけ多くの日本軍人の生命を無駄な犠牲にしたかわからない。どんな状況の下でも捕虜を許さず、降伏を認めないという日本軍の考え方が、大量な餓死と玉砕の原因となったのである」。
「そもそも無茶苦茶な戦争を始めたこと自体が、非合理な精神主義、独善的な攻勢主義にかたまった陸海エリート軍人たちの仕業であった。そして補給輸送を無視した作戦第一主義で戦闘を指導し、大量の餓死者を発生させたことも彼らの責任である。無限の可能性を秘めた有為の青年たちを、野垂れ死にとしかいいようのない無残な飢え死に追いやった責任は明らかである」。
まさしくこのような戦争を遂行できた構造を明らかにし、その根底的な批判へと導く必読書であると言えよう。

なお兵站部門について付記すれば、本書では、対米英戦争を開始するにあたっても、日本陸軍は基本的には馬編成であったことが指摘されている。そして開戦時までに自動車編成になったのはわずか3個師団のみで(36年度の動員計画では全軍30個師団、人員148万人、馬35万頭であった)、他のすべての部隊に、乗馬、輓馬(ばんば、砲や車をひく馬)、駄馬(荷物を背負う馬)が配属されていた。この事実だけでも、戦車や牽引車や自動車を全面採用していた欧米諸国の軍隊との差は歴然としているが、これは国内の自動車工業の未発達と関係があった。
戦争が拡大するにつれて多数の馬が徴発されたが、軍需品としての馬は戦地に送られて死ぬまで使われた。戦争の全期間を通じて、どれだけの馬が犠牲になったのかは明らかでない。しかし41年開戦当時の陸軍の兵員は228万人、馬は39.4万頭という数字から推定すれば、敗戦時の陸軍総兵力は547万人であったから、100万頭近い馬がいたことになる。
本書は述べる。「日中戦争いらいの損害、とくに戦争末期の大陸打通作戦や南方諸地域での犠牲と、敗戦のさい外地に置きざりにされた数を加えると、戦争による馬の犠牲は、100万頭に近い数に達するはずである。少なくとも生きて還った馬は一頭もいない」と。
「補給の軽視と地誌調査の不足」という日本陸軍の方針がもたらした結果の一端がここにも垣間見える。(R)

【出典】 アサート No.495 2019年2月

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【投稿】泥沼にはまった安倍外交

【投稿】泥沼にはまった安倍外交
-統一自治体選踏まえ野党共闘再構築を-

「さらば国際捕鯨委員会」
年も押し迫った12月26日、安倍政権は国際捕鯨委員会(IWC)からの脱退を表明した。1960年代以降国際的に捕鯨は縮小していき、1982年にはIWCで商業捕鯨モラトリアムが採択され、日本も87年には南極海での商業捕鯨を停止した。
これに代わり開始された調査捕鯨も捕獲した鯨肉の一部は食品として流通していることから、事実上の商業捕鯨として国際的な非難を浴びてきた。
2014年には国際司法裁判所で日本の調査捕鯨を商業捕鯨モラトリアム違反とする判決が確定、同年9月のIWC総会でも調査捕鯨許可不発給勧告決議が採択されるなど、日本政府は窮地に立たされていた。
第2次政権成立以降この時まで、安倍は外遊のなかで反捕鯨国19か国を訪問し、経済援助を行うなど「買収」とも言える活動を進めていたが、これらの国々の態度を変えさせる事はできなかった。
そして業を煮やした揚句、ついに国際機関からの脱退と言う暴挙に出たのである。日本は自民党政権下においても、国際協調を基本とした外交を唱えてきたが、今回のIWC脱退はそうした原則の放棄を国際的に宣言する、象徴的な事件となった。
国民生活にとって死活問題ではない商業捕鯨を強行するために、国際協調を破壊する行為は自国第一主義そのものである。
政府の決定に対し、これを1933年の国際連盟脱退に擬える論調が多くみられるが、これを嚆矢として今後、アメリカの後を追うように国連人権理事会やユネスコからの脱退論も安倍周辺から噴出するだろう。
歴代政権は国連安保理常任理事国入りを目指してきたが、この間そうした主張は影を潜めている。
12月22日、国連総会第5委員会で合意された、19~21年の国連予算分担金比率で、日本は中国に抜かれ3位となったことが判明した。
これはGDPからも明らかなように、経済力の反映であるが、国連での発言力が低下するに伴い、国際協調からの離脱傾向は強まっていくだろう。こうした動きこそまさに安倍の言う「戦後外交の総決算」の一環であると言えよう。
安倍は自らの主張が通らず、意見集約が難しい国連のような形態よりも、共通の敵に対する同盟外交を志向している。それこそ「日独伊枢軸」への道であるが、現実は破綻の道を歩んでいる。
この間安倍は対中牽制をめざしているが、フランスとは「ゴーン問題」でギクシャクし、イギリスはEUブレグジットで混乱する中、あらたに捕鯨問題でオーストラリアなどの反発を買う形となってしまったのである。

フランスは素通り
とりわけフランスに関しては、「ゴーン容疑者」の拘留が長期化し、日本国内の刑事事件に止まらず、国際的な人権問題となりつつある。前近代的な日本の捜査機関、司法は、欧米に於いて中世の魔女裁判や江戸幕府のキリシタン弾圧を想起させるものとなっている。
こうしたなか、フランス検察は1月11日、東京オリンピック、パラリンピックの招致活動で贈賄があったとして、JOC会長竹田への捜査を本格化させたことが判った。
ゴーン逮捕以降の日仏捜査当局の微妙な動きについては先月号で触れたが、重大案件に急展開が起こったのである。これに対し安倍支持者からは「ゴーン逮捕に対する意趣返し」との非難が上がった。
時系列的には、東京疑惑については2年以上前から操作が進められており、直接の対抗措置ではないが、ブレストで行われた日仏外務・国防閣僚会議(日仏2+2)に公表のタイミングを合わせたことを考えるなら、ゴーン事件を意識していないとは言い切れないだろう。
日仏2+2ではこうした懸案事項は議題にならず、日本が対中牽制とするインド太平洋地域での軍事協力が論議され、日本側は世界で唯一核兵器を搭載する原子力空母「シャルル・ド・ゴール」との共同訓練を要請し合意された。
会議では重大な懸案事項は論議されず、河野、岩屋両大臣はマクロン大統領とも面会したが「表敬訪問」というセレモニーで終わっており、日仏協調を取り繕うための、及び腰での訪仏であったことは否めないだろう。
一方、安倍は9日から11日での日程でオランダとイギリスを訪問した。昨年11月のG20でマクロンから詰問された安倍は今回2大臣を身代りにし、フランスに降り立つことは無かった。訪仏を避けるため、オランダを利用したと思われても仕方がないだろう。
今回安倍はスルーしたが、フランス政府はルノーと日産の経営統合を要求していることが明らかとなり、いつまでも逃げおおせることはできないだろう。
安倍は10日イギリスでメイ首相と会談し、共同記者会見では合意なきEU離脱を避けるため、英政府の離脱協定案を全面的に支持すると大見得を切った。しかし協定案は15日、英議会に於いて2倍以上の圧倒的大差で否決され、安倍のスピーチは全く援軍にならなかった。
むしろ、多忙を極める時期での訪問は英政府に迷惑をかけただけだったのではないか。さらに17日には日立による原発計画が凍結され、トルコに続く計画の頓挫により原発輸出計画は失敗したが、一連の事案で安倍の外交力の程度が改めて露呈した。
今回日英はインド太平洋での軍事協力では合意したが、薄氷を踏む政権運営を強いられているイギリスに、フランスの様に計画通り空母「クイーン・エリザベス」をアジアに派遣できる余力があるかは未知数であり、日本の思惑通りには進まないだろう。

遠のく「北方領土」
この間の安倍外交の破綻を如実に物語っているのが日露交渉である。安倍は年頭会見で「北方領土のロシア住民には帰属が変わると言うことを理解してもらわないといけない」さらに「ロシアに対し元島民への賠償を求めない」(読売1/8)などと先走った発言をした。
さらに1月9日には自民党の河井外交特別補佐がワシントンで「日露提携は中国の脅威に共同対処するためにも有効」と発言した。
安倍はロシア人が居住する島が日本領になることを既成事実のように述べたうえ、内政干渉に等しい要求を行ったのである。河井に至ってはアメリカに対するリップサービスのつもりであったのだろうが、現在の中露関係を理解せず、ロシアを手駒の様に扱った。
安倍政権の平和条約交渉に臨む姿勢は、74年間にわたり強弱はあるけれども、常にロシアが優位であという現実を直視せず「領土はこれくらい(歯舞、色丹)にしといたるわ」という吉本新喜劇のセリフのような、滑稽と言うほかない対応を続けているのである。
こうした上から目線の発言に対しロシアは態度を硬化、早速9日にロシア外務次官が駐露大使を呼び出し抗議、11日の声明で「クリル諸島は第2次世界大戦の結果ロシア領になったことを認めよ」と重ねて要求した。
こうした雰囲気のなか、14日モスクワで開かれた日露外相会談は当然のことながら領土問題に関する進展はなく、次回の会談が決まっただけだった。
さらにロシアは日本側が会談後の共同記者会見を拒否したと暴露、日本側は「会談ではなく『交渉』だったから会見は開かないのが普通」と詭弁を呈して、会談の内容を隠蔽するのに躍起になった。
ラブロフ外相は会談後の記者会見で「大きな不一致があったことは隠せない」としたうえ「日本が北方領土と呼ぶことは受け入れられない」とも述べ、日本側に「第2次世界大戦の結果を認めなければならない」と伝えたことを明らかにした。
北方領土への米軍配備問題については、9日に在日米軍のマルティネス司令官が記者会見で「現時点で戦力を配備する計画はない」と明言したように、三沢に米軍が展開している現状では、軍事的に必要性のないことは明確である。
また、プーチンとトランプが直談判すればそうしたことは、案外簡単に合意できるかもしれない。それでもプーチンが安倍にトランプから証文をとって来いと求めるのは、踏み絵を踏まそうとしているのである。

国会から自治体選、参院選へ
安倍は外交的なアクションを起こす毎に「敵」を拡大しているようなものである。韓国とは国交回復後最悪の状況となっている。徴用工判決、慰安婦財団解散、と相次ぐ問題提起に対しては「解決済み」との硬直した姿勢を変えず、この間の「レーダー照射問題」については官邸が防衛当局を飛び越えて政治問題化させた。
以前ならオバマが、トランプ政権でもマティスがいれば「留め男」として登場したかもしれないが、1か月以上経過した今での着地点は見えていない。
安倍は国軍保持と言う原理主義的改憲も、北方4島も簡単に見限るポピュリストであるが、「韓国」と「沖縄」=「リベラル」に対してはイデオロギーを超越した生理的な憎悪感を抱いて忌み嫌っているようである。
安倍の周辺は、文大統領が新年会見でNHKの記者に「あなたを指名したのではない」と言ったことに無礼だと批判しているが、文は質問に答えており、河野太郎のほうがよほど悪質だろう。
安倍外交が泥沼にはまる中、通常国会は1月28日召集され、2月24日沖縄県民投票、4月7,21日統一自治体選、沖縄補選、6月26日国会閉会、7月21日参議院選という政治日程がほぼ固まった。
安倍政権は新年早々に発覚した勤労統計捏造問題の早期収拾に躍起になっている。野党は幕引きを許さず、安倍政権に有利なように操作されている疑念がある各種統計を徹底的に精査させるべきである。
増税の前提条件は瓦解しつつあるが、理路整然と政府の経済政策を追求し、消費増税の中止を求めていくべきである。
さらに引き続き新入管法の問題点を洗い出し、政府の思惑を超える共生社会への具体策を確立させ、それらが不可能であれば施行の延期も求めていかなければならない。
大阪W選、衆参W選という不確定要素はあるものの、限られた時間のなか、野党共闘の再構築は最重要、喫緊の課題となっている。そのためには統一自治体選挙の結果を参議院の候補者調整に反映させなければならないだろう。(大阪O)

【出典】 アサート No.494 2019年1月

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【投稿】日立も英原発事業から撤退するのに再稼働を諦めない安倍政権

【投稿】日立も英原発事業から撤退するのに再稼働を諦めない安倍政権
福井 杉本達也

1 日立も英原発事業からようやく撤退
「コストを民間企業が全て負担することには限界がある」。日立は1月17日、英原子力発電所の新設事業を凍結し、201 9年3月期に3,000億円の損失を計上すると発表した。東京電力福島第一原発事故後に安全対策費が高騰し、三菱重工のトルコ案件を含め、日本の原発輸出は全て暗礁に乗り上げた。欧米企業も苦戦が続き、国家が主導する中国.ロシア勢が台頭する。原発ビジネスは世界で「国策民営」の限界を露呈した(日経:2019.1.18)。第二の東芝かと思われていた日立であるが、英での原発撤退が伝わった11日、日立の株価は前日比9%上昇した。市場は英原発からの撤退を株価に織り込んでいる。「原発のように先行き不透明な事業を持つ企業の株を中長期で持ちたいとは思わない」(投資顧問幹部・日経:同上)というのが投資家の本音である。

2 海外では建設費が高騰し撤退、日本国内では旧式の原発を再稼働させる矛盾
経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)は1月15日の記者会見で、福島第一原発事故後に停止している原発について「再稼働をどんどんやるべきだ」と述べた。原発の新設や増設も認めるべきだとの認識を示し、「自治体が再稼働にイエスと言わない。これで動かせない。」と発言した。ほんの10日前、年初の報道各社とのインタビューでは「国民が反対するものはつくれない。反対するものをエネルギー業者や日立といったベンダーが無理につくることは民主国家ではない」と原発村企業としては正反対の本音発言したことで、安倍官邸から激怒されて慌てて官邸に聞こえるように“原発推進”を叫んだのではないかとみられている。中西経団連会長の新春インタビューについて、東京新聞では「経団連と足並みをそろえて原発再稼働を進めてきた安倍政権。『パートナー』のはずの経団連からも見直し論が出てきたことで、コスト高騰で競争力の失われた原発を無理に進めようとする政策の矛盾が鮮明になっている(東京新聞:2019.1.5)と書いた。日立の川村隆前会長は現在、東電の会長でもある。原発村の中核企業である日立の会長が国策に反旗を翻すというのは政府としては全く「想定外」だったに違いない。日立の英原発撤退発表後も安全運転や福島原発事故の収束のためにも「人材、技術、産業基盤の維持、強化は不可欠だ」と強弁する菅官房長官ではあるが(福井:2019.1.19)、先行きは真っ暗である。

3 再稼働を推し進める決定を下した広島高裁の「伊方3号再稼働差し止め却下」
伊方原発の3号機再稼働差し止め訴訟においては阿蘇山の破局的噴火については議論されたが、2018年9月25日に出された広島高裁の決定は、原発の立地の適合性は「自然災害の危険をどの程度容認するかという社会通念基準とせざるを得ない」との判断枠組みを示した。発生頻度は著しく低く、国が破局的噴火の具体的対策を定めておらず、国民の多くもそのことを問題にしていないことを踏まえ、「破局的噴火で生じるリスクは発生可能性が相応の根拠をもって示されない限り、原発の安全確保の上で自然災害として想定しなくても安全性に欠けるところはないとするのが、少なくとも現時点におけるわが国の社会通念だと認めるほかない。そこで原発の運用期間中に破局的噴火が発生する可能性が相応の根拠をもって示されない限り、これを前提として立地不適としなくても法の趣旨に反するということはできない。」として、「伊方原発の安全性は欠けていないというのが社会通念だ」と判断。四国電力が想定する火山灰の堆積量は合理的で、非常用電源確保の対策も取っているとし、噴火による対応不可能な具体的危険性は存在しないと結論付けた。しかし、東日本大震災までの原発の設計方針は、予想されるあらゆる事態に対応するには経済的に無理があるので、発生確率の低い事象については除外するという線引きをしていたものであり、これを高裁決定は「社会通念」と呼んでいる。東日本大震災の地震・津波はこの「社会通念」を根底からひっくり返したのであるが、「決定」は、また2011年以前の方針に逆戻りさせ、原発を何としても再稼働をさせるための「開き直り」である。

4 ようやく「破局的噴火」の調査を始めた原子力規制委
今年に入り、原子力規制委員会は2021年度にも、鹿児島湾にある火山「姶良(あいら)カルデラ」の海底に地震計などを設置し、地殻変動の観測を始める方針を出した。極めて大規模な「破局的噴火」が過去に起こった火山のデ―タを集め、原子力発電所の安全審査などに活用するとの方針を示した(日経:2019.1.8)。福井県若狭町にある年縞博物館の水月湖の年縞から、姶良噴火は、3万78年(±48年)前と極めて正確に推定されているが、同噴火によって、水月湖の湖底には火山灰が30センチも降り積もったことが年縞から確認される(年縞は季節ごとに異なるものが堆積することにより形成される。明暗1対の縞が1年に相当し、その縞には過去の気候変動や自然災害の履歴を知る重要な手がかりが記録されており、年代測定の精度を飛躍的に高めることとなった)。火山灰が30センチも稼働中の高浜原発や大飯原発に降り積もれは壊滅である。
カルデラ噴火は普通の噴火とはメカニズムが違い、エネルギーが桁違いである。日本には屈斜路カルデラ、阿蘇カルデラ、姶良カルデラなどがあり、そのどれもが噴火の可能性を持っている。約7300年前に九州南方の海域で起きた「鬼界カルデラ噴火」では、九州地方から西日本一帯にかけての縄文文化が途絶えた。カルデラ噴火は、日本全体では過去12万年間に10回起きている。
また、規制委は昨年12月12日に、福井県にある関西電力の美浜、大飯、高浜3原発について、約200キロ 離れた鳥取県の大山で大規模噴火が起きた場合の火山灰の影響評価を見直すよう関電に指示した。 関電は審査申請の際、3原発敷地内への降灰の厚さを10センチと想定し、規制委は妥当としたが、その後、大山からの距離がほぼ同じ京都市で、約8 万年前の地層に30センチの火山灰層があるとする論文が発表されたことを受けての指示である(福井:2018.12.12)。通常の大噴火であっても、大量の噴出物がまき散らされて、その火山の近辺で大飢饉を起こすだけでなく、世界中に異常気象を引き起こしたというケースはいくつもある。「大噴火」は日本の場合、100年間に4~6回ほどは必ず起きている。だが、20世紀は、1914年の桜島と、1929年の駒ヶ岳で「大噴火」があっただけで、ずっと静かな状態が続いていた。しかし、そろそろ活動期を迎えている。現代社会では、噴火による被害は甚大である。たった1ミリの火山灰で、空港の滑走路は使えなくなり、鉄道も道路も大混乱になる。電線の切断や水道やガスなどライフラインにも大きな影響が出る。雪と違って溶けてなくなるわけではなく、被害は長期にわたる。

5 火山の噴火予知はできない
2014年の御嶽山噴火に続いて、2018年1月の草津白根山の噴火も、警戒レベル1という噴火から遠いと思われてきたものが突然噴火して、大きな被害を生んだ。浅間山や桜島以外のほとんどの火山は観測を開始してから噴火が繰り返されていない。噴火予知のデータとしては不十分である。かつて噴火予知は「見逃し」はないが「空振り」はあると言われた。しかし、地震予知については2017年の秋に政府が“白旗”を揚げが、「噴火予知」も「現在の科学では不可能」ということが明らかになっている。
日本は大規模な噴火や地震が繰り返し起きてきた国である。フィンランドのオンカロ(核廃棄物貯蔵施設)は、安定した地盤に作られていると言われているが、スカンジナビア半島でもこれまで、いくつかの地震があったことは分かっている。そもそも、10万年間という長期間、絶対に地震や噴火が起きないと言い切れる場所など、この地球上にはない。まして、太平洋プレートやユーラシアプレート、フィリピンプレートなどプレートのせめぎ合う地震・火山大国の日本ではそのような場所はない。日立の英原発からの撤退は安全対策費が嵩んだためであるが、既存の再稼働している原発は安全対策を削っているから撤退しないのである。広島高裁はカネに対する欲望を社会に転嫁し、「社会通念」という言葉で表現したが、そろばん勘定で旧式原発の再稼働を推し進めることは必ずや自然のしっぺ返しを受けざるを得ない。

【出典】 アサート No.494 2019年1月

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【投稿】問われる野党の民族主義への同調 統一戦線論(56)

【投稿】問われる野党の民族主義への同調 統一戦線論(56)

<<「あそこのサンゴは移している」>>
ウソと詭弁と偽装、そして責任転嫁が日常茶飯事となってしまった安倍政権、新年早々から決定的ともいえる躓きを露呈している。一つは、「あそこのサンゴは移している」という大ウソ。もう一つは、厚生労働省の「毎月勤労統計調査」の悪質極まるデータ改ざん。どちらも、もはや通用しがたい、押し通すことが不可能な、本来なら政権崩壊に連なる性格のものである。
1/6の今年最初のNHK「日曜討論」に登場した安倍首相、沖縄県・名護市辺野古の米軍基地建設工事を巡って、「土砂投入に当たって、あそこのサンゴは移している」と言い放ったのである。とんでもない大ウソ、偽装である。安倍首相は「辺野古へ土砂が投入されている映像がございましたが、サンゴについては(他の場所に)移しております。(砂浜の)絶滅危惧種は(砂を)さらって別の浜に移していくという、環境の負担をなるべく抑える努力をしながら行っているということでございます」と平然と述べたのであるが、これは事実、現実に反する虚言以外の何ものでもない。埋め立て海域全体では実に約7万4千群体の移植が必要だが、現在土砂が投入されている「埋め立て区域2―1」からサンゴは一つたりとも移植していない。試験的に移植したのは、別海域のオキナワハマサンゴ9群体のみであり、サンゴを移植しても生き残るのはわずかで、その移植困難性はすでに学会から強く指摘されており、「そもそも環境保全策にはならない」と指摘されている。沖縄県は政府に対して、「移植対象や移植先の選定が不適切」と指摘し、環境保全措置の不備を埋め立て承認撤回の理由に挙げていることは周知のことである。それを全く無視して、工事を強行しているのである。玉城デニー知事は翌1/7、「安倍総理…。それは誰からのレクチャーでしょうか。現実はそうなっておりません。だから私たちは問題を提起しているのです」とツイッター上で反論したのは当然のことである。
安倍首相は、確認すればすぐわかることを、それさえできないほど、劣化、一人よがりに陥っているか、あるいは実態を熟知しながらそれを平然と否定するほど腐敗してしまっているのである。
この問題でさらに指摘されなければならないのは、NHKの姿勢である。この安倍首相の出演部分は事前収録であり、「討論」どころか独り舞台で長々と持論を展開させ、あげくごまかしようのない“フェイクニュース”を放送したのである。調べればすぐにわかる事実確認すらせず、時間も十分あったにもかかわらず(収録があったのは、放送2日前)、NHKが“フェイクニュース”を垂れ流した責任について、訂正や釈明の姿勢を一切とらず。「番組内での政治家の発言についてNHKとしてお答えする立場にない。事実と異なるかどうかという他社の報道についてもNHKとしてコメントする立場でない」(1/10、NHKの山内昌彦・編成局計画管理部長)と開き直っている。安倍官邸にこびへつらい、忖度するNHK上層部の姿勢があらためて浮き彫りになっている。
首相を先頭にウソと詭弁と偽装がまかり通っているこの政権で、さらに決定的な偽装が明らかにされたのが、厚生労働省の「毎月勤労統計調査」である。法律で定められた「基幹統計」という最も信頼性が問われるデータが改ざんされていたのである。根深き国家的信用失墜事件なのである。
その影響は、雇用保険や労災保険の算定をはじめ国民生活の多岐にわたる分野から、国内総生産(GDP)にまで及んでいる。雇用保険には、失業給付だけでなく、傷病手当金、育児休業給付、介護休業給付など16種類あるほか、同統計は最低賃金、人事院勧告などの指標にも使用されている。したがってこの偽装の深刻さは、実に広範囲に及ぶものである。その意図的な「データ補正」という名のデータ改ざんによって、雇用保険の失業給付、労災保険の休業補償給付、育児休業や介護休業の給付など、さまざまな制度の給付額算定のベースとなる統計が低く抑え込まれ、当然、給付額も減少し、厚労省の発表では、給付不足がのべ2000万人、推計で総額約537億5000万円に達している。。
さらにこの偽装の悪質さは、昨年1月からは「データ補正」のソフトまでつくって、隠ぺいを重ねるもので、この「データ補正」の際にも隠し切れない問題として把握しながら意図的に放置し、昨年6月の現金給与総額が高い伸び率を示した際にもそのデータ変化が疑問視されながらも、組織的に隠ぺいしてきたものである。隠ぺい、放置してきたがための実害も深刻である。賃金台帳は3年保存のため、正確な給付確定ができず、推計による「追加給付」しかできない、しかも対象者のうち1000万人以上の住所は不明であるという。その隠ぺい、放置は、ひとえにアベノミクスを傷つけてはならない、日本経済は「戦後最長の景気拡大」を実現しつつあるというウソを喧伝するためのものであった。

<<「常軌を逸した国」>>
そして昨年来からことさらに煽られているのが日韓関係の緊張激化である。
安倍政権は、これほどのごまかしきれないウソと詭弁と偽装をあくまでも押し通し、切り抜け、目前の4月の統一地方選挙、7月の参議院選挙を乗り切り、内憂を吹き飛ばす格好の標的として、意図的、政治的に、韓国に対する強硬論を煽り、民族主義的な対立激化を押し進めていると言えよう。これに呼応し、さらに倍化さえしているメディアあげての韓国非難・罵倒は異様な日本の言論空間である。当然ながら、4月の天皇退位と代替わり、その宗教儀式としての大嘗祭も、安倍政権にとってまたとない民族主義高揚のチャンスとして、政権浮揚に利用されている。
1/11、自民党が行った外交部会・外交調査会の合同会議では、出席した議員から「韓国人に対する就労ビザの制限」や「駐韓大使の帰国」「経済制裁」などを求める声が相次ぎ、「徴用工判決」「レーダー照射事件」は韓国・文政権が仕組んだ策略だと放言し、内閣府政務官である自民党の長尾敬衆院議員に至っては、「一般論として、内戦などで危険な国へは渡航制限がなされます。今の韓国の様に、常軌を逸した国へ渡航した場合、日本人が何をされるかわかりません。感情だけで理が通じない。協議や法の支配、倫理、道徳も通用するとは思えない。先ずは、日本人の韓国への渡航を控えるなど出来る事はある筈です。」とツィートしている。
朝鮮半島を暴力的・軍事的に植民地支配したのは日本政府であり、徴用工問題は、三菱や新日鉄住金などの日本企業が、朝鮮半島の人々を労働力として不法に強制動員してきたことは紛れもない歴史的事実なのである。それを「慰安婦問題」と同様、「解決済み」と強弁し続けることで、その歴史を隠蔽しようとしているのは日本政府のほうであり、国際的にも許されるものではない。現に、日韓両国の政府と最高裁は「請求権協定の下でも個人の請求権は消滅していない」との認識では一致しており、「個人の請求権が消滅したわけではない」(河野太郎外相、昨年11/14、衆院外務委員会)と認めざるを得ないものである。個人の請求権が消滅していない以上、その実現、救済の問題は残されており、安倍政権がなすべきことは、日本の植民地支配とその下での人権侵害の責任に謙虚に向き合い、被害者の人権回復と救済に向けた努力を誠心誠意尽くすことなのである。それを「韓国側によって協定違反の状態が作り出されている」と突き放し、「責任を負うべきは韓国側」(1/15、菅官房長)などと居直っているのである。
韓国の文大統領が「〔徴用工問題は〕韓国政府がつくりだした問題ではなく、不幸な歴史によってつくられた問題だ。日本政府はもっと謙虚な立場をとらなくてはいけない」と語ったのは至極、当然なのである。自制心を失って「常軌を逸し」ているのは、日本政府であり、「レーダー照射事件」もそのために利用されており、安倍首相自身が強硬論の先頭に立っているのである。それはまた、危機感をあおり、野党をかく乱するための計算された策略でもある。

<<頼もしい援軍>>
問題は、この策略に野党が乗せられてしまっていることである。とりわけ、安倍政権を退陣に追い込み、野党共闘のかなめとならなければならない立憲民主党の立ち位置が、こうした民族主義的な扇動に乗せられ、迎合さえしていることである。
立憲民主党は、新年早々、「枝野代表、福山幹事長と仲間の国会議員達」が伊勢神宮を参拝し、公式ツイッターで「本日4日、枝野代表は福山幹事長らと伊勢神宮を参詣し、一年の無事と平安を祈願しました。」と報告している。なぜ、わざわざ安倍首相一行と「同日」に「同じ伊勢神宮」に「代表、幹事長、蓮舫副代表と仲間の国会議員達同道で」行く必要があるのか。歴代首相が伊勢神宮に参拝して年頭会見を行うこと自体、憲法の政教分離(憲法20条3項 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。)に反するものである。その伊勢神宮の参拝をめぐって、立憲民主党の逢坂誠二衆院議員が昨年1月に、「伊勢神宮の活動に関する助長、促進につながるものと考える」「憲法20条に反するのではないか」との質問主意書を政府に提出、問いただしていたものである。この「助長、促進」になぜ立憲民主党の幹部が揃いも揃ってやすやすと乗せられてしまったのか、その思慮の足りなさが、立憲民主党のふがいなさの象徴ともいえよう。
さらに「レーダー照射問題」をめぐっても、1/19、枝野代表は「いま我々が承知している範囲では、明らかに我が方に理があると思っている」と安倍政権を弁護している。この問題をめぐっては、安倍政権が先鋭化させている緊張激化ではなく、緊張緩和をこそ要求すべきなのである。
こうした民族主義迎合路線は、共産党も同罪と言えよう。1/6放送のNHK「日曜討論」各党党首インタビューで、「日本とロシアの関係で、平和条約や北方領土問題をめぐる政府の交渉をどう考えますか」と問われて、共産党の志位委員長は、「歯舞、色丹の返還で領土問題はおしまい、それ以上の国後、択捉などの領土要求は放棄する。これはとんでもないことで、私たちは、絶対にやってはならないことだと、思います。全千島列島が日本の領土だということを正面から訴える交渉をやってこそ、道が開けるということを、私は、強く言いたいと思います」と答えている。安倍政権以上の領土要求で、緊張激化路線を鼓舞し、民族主義迎合路線を下支えしているのである。日韓、日中間の竹島、尖閣列島問題をめぐっても、共産党は民族主義的な「独自領土論」・「固有領土論」を執拗に展開しており、安倍政権にとっては、利用できる頼もしい援軍とも言えよう。問われているのは、こうした野党の民族主義への同調なのである。

<<薔薇マーク・キャンペーン>>
政治に対する信頼は地に墜ち、安倍政権退陣への絶好のチャンスが到来しているにもかかわらず、安倍政権のかく乱戦法と民族主義的扇動に振り回されているのであろうか、野党共闘は一向に前進した姿を見せるに至っていない。
こうした事態を打開するために、この1/5、「反緊縮の経済政策」に賛同する立候補予定者を薔薇マークに認定し、有権者にアピールする「薔薇マークキャンペーン」が始動し、そのキックオフ記者会見が2/1に開かれることが発表されている。(ホームページ https://rosemark.jp)
その「趣意書」では、<2019年は、4月の統一地方選挙から7月の参議院選挙と、日本の今後が決まる重要な年になります。残念ながら野党側は、民主党政権のイメージをいまだ払拭できないままで、有権者に安心と希望を与える力強い経済政策を提起できていません。…
今度こそ安倍自民党に選挙で勝たなければなりません。そのためには野党は、人々の生活を良くするための経済政策を最優先の課題として争点にしなければなりません。強者から優先的に税金を取る所得再分配の考えに立ち返ること。介護、医療、保育など、人々が不安に思っている問題の解決に、圧倒的に投資すること。そのことで経済を底上げしてまっとうな雇用を拡大し、人々の暮らしを豊かにすることを、真っ向から訴えるべきです。私たちは、その過程で、政党を問わず、「反緊縮の経済政策」を打ち出す立候補予定者個人に、「薔薇マーク」を認定します。「薔薇マーク」は、人々が豊かな生活と尊厳を求める世界的な運動の象徴です。薔薇マークキャンペーンは、人々の抱える生活不安を希望に変える、新たな波を起こすことができると確信します。>と述べ、
<薔薇マーク認定基準として、財政規律を優先させる緊縮的な政策は正しくないと考え、おおむね以下の反緊縮の経済政策を第一に掲げている立候補予定者を「薔薇マーク」に認定します。>として
1. 消費税の税率を5%に
2. 100 万人分のまっとうな労働需要を追加創出
3. 同一労働同一賃金を実現
4. 最低賃金を1500円に
5. 雇用・賃金の男女格差を是正
6. 違法な不払い残業を根絶
7. 望む人が働いて活躍できる保障を
8. 外国の労働者を虐げて低賃金競争を強いる「労働ダンピング」は許しません!
9. 法人税の優遇措置をなくし、すべての所得に累進課税を
10. 富裕層に対する資産課税を強化
11. 金融機関の野放図な融資を抑制
12. 社会保険料も累進制にして、国保など庶民の保険料負担を軽減
13. 環境税・トービン税を導入
14. 「デフレ脱却設備投資・雇用補助金」創設
15. 健全財政の新たな基準を
16. 財務省による硬貨発行で政府債務を清算
17. 日銀法を改正
18. すべてのひとびとのため公金支出
19. 経済特区制度は廃止
20. ベーシックインカムの導入をめざします
21. 「デフレ脱却手当」で月 1万円配布
22. 社会保障制度を組み換え
23. 地方でも常に仕事が持続するインフラ事業
24. ひとびとの命や暮らしを守るのに必要な施設は建設を
25. 奨学金債務を軽減・解消
26. 教育・保育を無償化
27. 介護、保育、看護などの賃金大幅引き上げ
28. 待機児童ゼロ、介護離職ゼロを実現します
を掲げている。
呼びかけ人には、松尾匡立命館大学教授、森永卓郎獨協大学教をはじめとする経済学者、社会学者、ブレイディみかこさん、斉藤美奈子さん、池田香代子さんら、22名の人々が名を連ねている。その中の一人、西郷南海子さん(安保関連法に反対するママの会)は、<わたしはこれまで、「安保関連法の廃止、立憲主義の回復、個人の尊厳」という立場から野党共闘を求めてきました。でも、なぜ野党は勝てないのか、なぜ自民党が勝ち続けるのか、納得のいく答えに出会えませんでした。そして考えるうちに、この国で生きる多くの人が直面しているのは「来月暮らしていくお金があるか」「来年暮らしていくお金があるか」だということに突き当たりました。もちろんこれはわたし自身の現実でもあります。この現実に正面から取り組む運動として、わたしは「薔薇マークキャンペーン」を支持します。>と述べている。
野党共闘の前進と、統一戦線の質的な飛躍のために、このキャンペーンにも大いに賛同し、期待したいものである。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.494 2019年1月

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