【投稿】「台湾有事は日米同盟の有事」と煽る安倍発言とその背景

【投稿】「台湾有事は日米同盟の有事」と煽る安倍発言とその背景

                             福井 杉本達也

1 危機を煽る安倍元首相の「台湾有事は日米同盟の有事」発言

朝日新聞によると、「安倍晋三元首相は1日、台湾で開かれたシンポジウムに日本からオンライン参加した。緊張が高まる中台関係について、『台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事でもある』と述べ、中国側が軍事的手段を選ばないよう、自制を促す取り組みの必要性を訴えた。」と報道した(朝日:2021.12.1)。これに対し中国はすかざず反撃した。12月3日の『中国網』は、「中国外交部の華春瑩部長助理は1日夜、日本の垂秀夫駐中国大使と緊急に面会し、日本の安倍晋三元首相の中国関連の間違った言論について厳正な申し入れを行った。」と報道した。また、中国国際問題研究院アジア太平洋研究所の客員研究員である項昊宇氏の『環球時報』における発言を引用して、安倍氏は「『台湾当局に間違ったシグナルを発信しただけでなく、日本国内と国際社会に危険な情報を伝えた。その結果、『台湾独立』勢力を増長させるばかりか、台湾地区の一部の人物に情勢を見誤らせ、中日関係と日本自身の国家安全を危険な境地に陥れる』」とし、「『これは本質的には日本の右翼の間違った歴史観を反映したものだ。日本の一部の人物はまだ過去の植民地支配時代の古い夢に浸り、台湾地区を『自宅の裏庭』と見なしている。』」とし、さらに続けて「『安倍氏が台湾海峡の緊張を喧伝し、対立を煽ることにはさらに特殊な政治目的がある。これはつまり改憲と強軍の機運を高めるということだ。』」とした。

2 「台湾独立」は認めないとした米中首脳会談でのバイデン発言

11月16日のオンラインよる「米中首脳会談で習氏が『台湾独立勢力がレッドライン(許容でできない一線)を越えれば断固とした措置を取る』と警告したのに対し、パイデン氏は『一つの中国政策を守る』としつつ、一方的な現状変更や平和と安定を損なう行動に強く反対すると表明した。」(福井:2021.11.17)。この点についてSputnik11月18日付けでのロシアの政治学者ドロブニツキー氏は、「米国は、中国が台湾付近で軍事行動を行っていることに不快感を示しているにもかかわらず、台湾が平和的に中国に加わることにそれとなく同意している。これは誰も予想していなかったが、スキャンダルを起こして首脳会談を失敗させるか、両首脳が平和と相互責任に関して儀式的なフレーズを語って面目を保つかということ以外、他に選択肢はなかった。」と解説している。ようするに米国は「台湾独立」などは認めないということである。

3 米は「台湾防衛」を確約していない

元々、米国は1979年に成立した台湾関係法においては、台湾の自衛力強化の支援をうたいながら台湾防衛については確約していない。あいまい戦略なのである。それを、安倍元首相は「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事でもある」と踏み込んだのである。これについて、12月4日付け日刊ゲンダイで、国際ジャーナリスト・春名幹男氏は「米国は対応を明確にしないことで、中国との対立を避けつつ、中国による武力行使も抑止してきました。にもかかわらず、安倍さんは日米と中国の対立をあおっているのだから、無責任極まりない。そもそも、日本が台湾に加勢する法的な正当性もありません。稜線を歩くような対中、対台政策を展開してきた米国からすれば、『何勝手なことを言っているんだ』という思いでしょう」と批判している。安倍発言の裏には、一つは、バイデン・習会談で、やっと台湾を巡る米中の不測の事態が起きないよう緊張緩和を図ったにもかかわらず、米国内には、バイデンの“弱腰”を快く思わない勢力があるということである。それは米軍産複合体であり、台湾における緊張を煽り、軍事費を増大させたいと狙っている勢力である。8月に20年も足元を取られていたアフガニスタンからみじめな撤退をしたこともあり、軍産複合体に対する風当たりは強くなっている。それを挽回し、軍事予算を確保したいということである。もう一つは安倍元首相の出自そのものにある。戦犯として追及されるはずだった安倍元首相の祖父である岸元首相はなぜ復活したのかである。「逆コース」といわれるが、1949年の中華人民共和国の成立と国民党・蒋介石の台湾逃亡、1950年の朝鮮戦争の勃発によって、岸首相他戦犯・旧支配層の公職追放が解除され、米産軍複合体に身も心も預け「親米保守主義」という名前に変えて今日まで政権の座に居座り続けているのである。もし、台湾が中国に平和的に統一されるならば彼らの居場所はない。また、「朝鮮戦争終戦」になれば彼らの存在意義はなくなる。そのため、「台湾有事」を煽ること、「朝鮮戦争の終戦」に反対すること、極東における緊張を煽ることこそ彼らの目的であり立場を守ることなのである。11月17日に米国のワシントンで開かれた韓米日外務次官協議会の直後に3カ国の次官による共同記者会見が予定されていたが、日本の森健良外務事務次官が協議が始まる直前、「韓国の警察庁長の独島訪問のため、共同記者会見に参加できない」という立場を明らかにした。11月19日付けの韓国hankyoreh紙は「主催国の米国の立場まで困難にさせ、外交日程に支障を与えたのは異例のことだ。韓国と日本の間で強制動員や日本軍『慰安婦』問題など過去の歴史をめぐる対立が深まったうえ、終戦宣言などの朝鮮半島プロセスに対する日本の反対意見や、輸出規制をはじめとする経済への懸案が積み重なり、独島を紛争地域化しようとする日本の動きが強まるものとみられ、懸念が深まる。」と述べているが、極東の緊張緩和をさせたくないというのが今日の日本政府の一貫した姿勢である。

4 安倍元首相が悪あがきで中国の成長の動きは止められない

米軍産複合体の指令により、安倍元首相がこざかしくあがいているが、それで中国の成長を止め、米国の覇権が維持できるはずもない。米英の金融資本の一部はこうした米軍産複合体に愛想をつかしている。元HSBC(ロンドンに本拠を置く世界最大級のメガバンク・香港で創設された香港上海銀行を母体とする)アジア太平洋株式調査責任者ウイリアム・ブラットン氏は「中国の急速な台頭については、中国の発展モデルが成功するとは信じられない、信じたくない西側の批判派の大合唱を伴ってきた。彼らはあら探しを続け、中国の経済成長が減速するか、旧ソ連のような経済の崩壊につながることを期待さえしてきた。」「 様々な懸念にもかかわらず、中国は成長を続けた。『永遠の弱気派』の多くは、経済的な現実よりもイデオロギーの違いに突き動かされているようにみえる。」「中国の最近の動きは、一部がどれほど望んでも、中国経済の長期的な軌道を変えるものではない。」(日経:2021.12.4)と書いている。日本は早くまともな外交に復帰すべきである。

カテゴリー: 平和, 政治, 杉本執筆 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA