【投稿】カザフスタン「カラー革命」の敗北

【投稿】カザフスタン「カラー革命」の敗北

                            福井 杉本達也

1 米英+トルコ?の干渉で始められた「カラー革命」

カザフスタンでは1月2日より液化石油ガスの価格の急騰をめぐって抗議の波が国を席巻し、警察と衝突し、トカエフ政権は首相を解任した。抗議行動は当初、西部で始まったが、5日には全国でエスカレート、抗議行動はますます暴力化し、4日の夜にはカザフ最大の都市アルマトイとマンギスタウ地域で非常事態と夜間外出禁止令を宣言された。アルマトイの市長舎が襲撃され、タルディコルガンでナザルバエフ前大統領の記念碑が破壊された。アルマトイの彼の前住宅は占拠された。全土でインターネット接続を停止した。アクタウでは、国家警備隊員の一部が抗議行動参加者に加わった。ATMは停止した。アルマトイの国際空港は事実上、反政府派に占拠された。

2 CSTOの迅速な対応による「カラー革命」の鎮圧

トカエフ大統領は暴動について、狙いは政権掌握のクーデターであり、行動は一つの司令塔により調整され、外国の「テロ集団」による外部の侵略行為であるとして、集団安全保障条約機構(CSTO)に派遣を要請した。6日の朝早くには、ロシア主導のCSTOは、秩序を維持するために平和維持部隊を派遣した。プーチンはこの出来事を2014年のウクライナの西側の支援を受けたメイダン・クーデターと比較し、内外両方の軍隊による政府打倒を目指した「ハイブリッド・テロ攻撃」であると断定した。

「トカエフ大統領が、暗号で『一つのセンター』に言及した際、高位の中央アジア機密情報情報提供者によれば、彼はアルマトイの南ビジネスハブに本拠地を置くこれまで『秘密の』アメリカートルコーイスラエルの軍-諜報機関指令室を言っていたのだ。この『センター』には、トルコによって西アジアで訓練されて、アルマトイに密かに送り込まれた破壊工作暴徒を調整する22人のアメリカ人、16人のトルコ人と6人のイスラエル人がいた。」(マスコミに載らない海外記事:2022.1.19)。作戦は、アルマトイ空港を占領して、外国から軍事補給を受け取るハブに変えるはずだったが、ロシア航空宇宙軍は、要請のあった6日には既に行動する準備ができており、電光石火の速さで空港を制圧し反乱を阻止した。

ところで、米軍はシリア・イラクからアルカイダやISの4000人の戦闘員をアフガンへ運び、また米軍やCIAの特殊部隊、1万6000名以上の「民間契約者」もアフガンから撤退せずに居座っている。その一部が、今回「トルクメニスタン国境近くで再編成されたISISだ。彼らの一部が適法にキルギスタンに輸送された。そこからビシュケクから国境を越え、アルマトイに現れるのは非常に容易だった。」(マスコミに載らない海外記事:同上)。

 

3 ナザルバエフ元大統領の完全な引退と暴動の原因

カザフは、1991年12月に崩壊したソ連邦から最後に分離した共和国である。ナザルバエフの下、対外政策は「多ベクトル」であり、欧州とアジア間の“橋”として自身を米欧に「身売り」することであった。ロシアとカザフは大規模な軍事的-技術的絆を持ち、バイコヌール宇宙基地で戦略的協力を行っている。ロシア語は国民の51%が話す公用語であり、少なくとも350万人のロシア人がカザフで暮らしている。ナザルバエフは、2019年に辞任するまで30年近くカザフの大統領を務め、トカエフに交代した。実際には、トカエフとナザルバエフがカザフを率いた移行期間が進行中で、競合する政策は、前大統領と現大統領の間の権力闘争の中で表面化した。CSTO派遣後、ナザルバエフは1月18日、ビデオメッセージで完全に政界を引退すると演説した(日経:2022.1.19)。

昨年12月、ハラルド・プロジャンスキは、カザフはエネルギーの輸出国だが、その利益は、カザフの国家資本主義の高級官僚に搾取されている。カザフの国家と経済の劣化しており、生活水準は低下し、西側諸国の反ロシア制裁政策の影響も受けてトランジット貿易国としてのカザフは経済的、社会的に衰退し、さらに、石油・ガス価格の下落で、年間成長率は2012年の8%から2018年には4.1%に低下した。そこで、カザフの民族主義者は、民衆の不満の高まりを取り込もうとしている。カザフの民主選挙の党首の一人、ガリムシャン・シャカキヤノフは2012年に米国に移住した。党首のルリャゾフはフランスに移住した。2021年3月8日、メッセンジャーサービスとソーシャルネットワークを通じて組織された部隊は、カザフの首都で約2,000人から3,000人の参加者を動員した暴動のテストを行った。カザフでの反ロシアクーデターの候補者の米国による役の振り付けが始まっている。(日刊紙『ダイ・ユンゲ・ウェルト』(独語訳)2021.12.4)と書いている。

 

4 「一帯一路」と資源国カザフスタン

今回、中国はいち早くトカエフ大統領への支持を表明した。習近平主席は7日、「中国は、カザフで故意に不安と『カラー革命』を扇動する外力に断固として反対する。」とのメッセージを表明した(Sputnik 2022.1.8)。なぜ、中国が今回、いち早く行動したかといえば、まず、テュルク系諸民族に対する対応である。テュルク系諸民族は中央アジアに広く分布し、言語的、文化的、歴史的な共通性を持っている。ソ連邦の崩壊後、中央アジア諸国が独立すると、トルコは積極的な経済援助を実施した。また、アゼルバイジャンやトルクメニスタン、ウズベキスタン、タタールスタンでは、従来、キリル文字を使用していたが、ラテン文字の正書法が制定されるなど、テュルク系諸民族の一体性が強調される動きが見られる(Wikipedia)。このテュルク系諸民族の1つが中国のウイグル族である。

また、中国は欧州と結ぶ「一帯一路」重要拠点としてカザフを位置づける。アルマトイから東へ車で4時間のホルゴスには2015年にカザフ国鉄が中国国境に開いた「陸の港」と呼ばれる物流基地がある(日経:2017.10.6)。カザフは、中国にとって、西側フロンティアに位置し、ヨーロッパと中国自身のエネルギー安全保障につながる「一帯一路」イニシアチブの重要な部分であり、戦略的に重要な地域となっている(RT:2022.1.10)。

 

5 ビットコインの一大採掘国

昨年12月1日付けの日経は「カザフスタンで暗号資産(仮想通貨)のマイニング(採掘)が急増し、電力不足が深刻になってきた。中国で採掘を禁止された会社が相次ぎ流入しているためで、電力消費の世界シェアは前年の4倍に達した。」「カザフは石油や天然ガス、石炭に恵まれた資源大国だが、大量の電力を消費する仮想通貨の採掘が盛んになり、電方需給が急速に引き締まっている。」「採掘拡大で電力の需要が急増して供給とのバランスが崩れ、2021年10月には3つの発電所が緊急停止した。」と報じた。2021年の電力の伸びは8%であり、原発10~12基分に相当する。また、2022年1月6日付けのロイターは「昨年8月時点のビットコインの採掘速度(1秒当たりの計算力)で、カザフは全世界の採掘能力の18%を占めるに至っていた。中国が採掘の取り締まりに着手する 前の昨年4月はわずか8%だった。」、とし、カザフはわずか数か月でいきなり、米国に次ぐ世界第2位の採掘国に躍り出た。カザフ政府は採掘業者が国内の電力の8%を消費しているとしている。いかにカザフに仮想通貨のマイニングが集中して電力不足におちいったかが分かる。カザフの電力の7割は老朽化した石炭火力であるが、「石炭が豊富な北部から電力不足が続く南部への送電網が弱い」と指摘されている。今回の暴動はこうした急激な電力不足に、自動車の移動に依存する生活で、燃料の液化石油ガス(LPG)価格の値上げが重なった。

資源エネルギー大国のカザフであるが、その資源の多くは米欧系企業に握られている。「カザフ当局によると、2005年以降の米国勢による対カザフ投資は450億ドル(約5兆1300億円)を超えた。石油大手シェブロンやエクソンモービル、化学メーカーのダウ、デュポンといった米企業およそ600社が現地で事業を展開している。」(WSJ:2022.1.14)。

大黒岳彦は2017年時点において「ビットコインという疑似“貴金属”の採掘に専ら従事する『採掘者』と、単なるピットコイン『利用者』との役割の分化と固定化が生している。“採掘”に参加するには、もはや普通のパソコンを所有しているだけでは事実上無理で、『PoW』用に設計された ASIC(特定用途向けチップ)を搭載した高性能ワークステーションがなければ到底先行者たちには太刀打ち不可能である。莫大な電力も消費するため“採掘”はいまや一つの産業と化しており、電力が安価な中国や北欧の大掛かりな専用プラントで実際の“採掘”作業は行なわれている」と書いているが(『現代思想』2017.2)、カザフはその貴重な資源を利用されて、今後5年間でわずか3億ドル(340億円)をマイニングで消費する電力に課税できるだけで(日経:2021.12.1)、そのほとんどの富を外国に持っていかれる。

「ピットコインの取得、所有、移転において匿名性が維持されることと、規制を無視した国境を越える送金が実行できてしまう」「 計算能力の大半は無駄に難しい数学問題を解くことに使われ、最も速く解けるパワーを持つ者の取引記録が正式のものとなり、報酬が得られる。これがピットコインのマイニング(採掘)であり、多大なエネルギーを消費する活動になっている。」と『大機小機』のコラムニスト「山河」氏は喝破している(日経:2021.7.30)。

今回のトカエフ大統領の要請によるCSTOの派遣と中国の支持はこうした米欧との力関係を大きく変えることとなろう。

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