<<ロシア核部隊の「警戒態勢」>>
2/27、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナをめぐる西側諸国との緊張が高まる中、ロシアの核抑止力を運用する部隊に「警戒態勢」をとるよう命じた、と報じられている。セルゲイ・ショイグ国防相、ヴァレリー・ゲラシモフ参謀総長との会談で、「NATO主要国の高官がわが国に対して攻撃的な発言をすることを許しているので、私はここに、ロシア軍の戦略的抑止力を特別な戦闘態勢に入れるよう国防相と参謀長に命じる」と述べた、という。この「特別な戦闘態勢」は、核兵器の使用をも含めた「戦略的抑止力」(SDF)だという。明らかに核戦争事態への備えである。
同じ2/27、ウクライナ当局は、核兵器の不拡散に関する条約(NPT)に基づくIAEA査察の義務を放棄したと、セルゲイ・キシュリツァ国連大使の書簡の説明文を参照してRIAノーボスチが報じている。
文書では、キエフ政権はウクライナ領土内の核物質が軍事目的に使用されないことを保証できないとしている。この声明は、ロシア軍がドンバスでの特別作戦でチェルノブイリ原子力発電所を完全に掌握した後に出されたものである。
ウクライナは1991年の旧ソ連崩壊後、独立から間もないウクライナにあった旧ソ連の核兵器が残されていたが、1994年、NPT・核兵器不拡散条約に加盟・調印により、核兵器保持を放棄している。しかし、ウクライナは、核爆弾の製造能力に加えて、ミサイル搭載用の核弾頭も製造でき、弾道ミサイルを製造する工場が、同国ドニプロペトロウシク州にあるという。
さらに問題なのは、ウクライナは電力の半分以上を15基の原子炉に依存しており、戦闘の過程で脅威にさらされる可能性が増大していることである。これらの原発は、2基を除き、すべてソ連時代に建設されたもので、保守点検や燃料補給の大半をロシアが担ってきたものである。12基は、建設後30年以上経過している。ウクライナ国内での軍事行動は、それが意図的な標的であれ、あるいは偶発的であれ、原発に損傷を与えれば、制御機構、バックアップ電源、使用済み燃料プール、緊急冷却システムに影響を与え、チェルノブイリレベル、あるいはそれ以上の大惨事を引き起こす可能性がきわめて大きいのである。冷却水の補給が途絶えただけでも、あるいはウクライナの送電網へのサイバー攻撃でさえ、これらの原発の安全性と運転システムに重大な影響を与える可能性が大なのである。戦闘行為は即刻、全面的に停止されなければならないのである。
2/22、原発・核兵器廃絶運動のビヨンド・ニュークリア(Beyond Nuclear)の創設者リンダ・ペンツ・ガンター氏は、「発端や原因、誰が何を始めたかにかかわらず、ウクライナには稼働中の原子炉が15基あり、紛争が起きれば危険にさらされる可能性があるという現実は変わらない」と述べ、「クライナでの戦争の見通しはきわめて憂慮すべきものであり、これを回避することが緊急の課題なのです。」と強調する通りである。
<<危険なエスカレーション>>
さらに危険なのは、2/25、軍事同盟であるNATOが、70年の歴史上で初めて、4万人の部隊からなるロシアに対抗する対応部隊を発足させ、空軍・海軍の支援を強化する計画を発表したことである。NATO加盟国首脳は共同メッセージで、この動きを「予防的、比例的、非エスカレーション的」と位置づけ、「現在も将来も、同盟全体で強力で信頼できる抑止力と防衛を確保するために必要なすべての配備を行う」ことを明らかにした。NATOは、ロシアに直接対峙する「同盟の東部」に部隊を配備する計画だという。「非エスカレーション」どころか、ロシアに挑発を仕掛けるエスカレーションそのものである。
ウクライナ危機の最大の原因は、プーチン大統領が指摘する、ウクライナのNATO加盟の野心と、ロシア国境付近の同盟軍の存在を安全保障上の
主要な脅威として挙げて来たものである。米英、NATOは、このロシアが何年にもわたってNATO不拡大の約束の実行を迫ってきていたことそのものを根底から拒否するものなのである。
何が事態をここまで危険なものにさせたのであろうか。一体、勝者は存在するのであろうか。この事態に至るまでの勝者は確かに存在する。軍需独占企業を中心とする軍産複合体であり、ヨーロッパへのロシア・ガスパイプラインを停止に追い込み、石油・ガス価格高騰で巨利をむさぼる米英石油独占体であり、これらに融資する金融独占資本である。政治的経済的危機を緊張激化で乗り切ろうとする政治勢力である。それを推進してきたのは、対ロシア、対中国の冷戦を煽ってきた米英の政権であり、ネオコン勢力である。彼らにとって、緊張緩和は敵であり、敗北である。彼らは緊張激化の中にこそ利益を見い出し、さらなる利権と巨利をむさぼろうとしているのである。
しかし、緊張激化と、世界戦争への加速は、アメリカを中心とする帝国主義的支配体制の衰退と地位の低下の現われでもあり、焦りでもある。パンデミックにも有効に対処できないG7はその象徴と言えよう。
今、世界中で再び平和を要求する声、行動が展開され
ているが、「戦争ではなく外交」、「緊張激化より緊張緩和」はスローガン以上のものでなければならないし、核戦争の防止、軍事同盟の不拡大・廃棄が提起されなければならない、と言えよう。ましてや、ウクライナの人々を「救う」ために、NATOによるさらなる軍事介入を要求したのでは、好戦勢力を喜ばせるだけであろう。
<<プーチンの大ロシア民族主義>>
こうした事態の経過から明らかなことは、ロシアに対するあらゆるフェイクニュースや偽情報を使って戦争の脅威を煽り、挑発を組織し、結果としてロシアを追い込み、わなを仕掛けたということであろう。
問題はこうしたわなに飛び込んでしまったロシアの、というよりプーチン氏の政治姿勢である。
2/21、プーチン大統領はウクライナ侵攻に際してウクライナは「我々にとって単なる隣国ではない」と述べ、「我々の歴史、文化、精神的空間の不可侵の一部である 」と述べた後、「現代のウクライナは、すべてロシアによって、より正確にはボルシェビキ、共産主義ロシアによって作られたのです。このプロセスは実質的に1917年の革命直後に始まり、レーニンとその仲間は、歴史的にロシアの土地であるものを分離、切断するという、ロシアにとって極めて過酷な方法でそれを行ったのです。」と、述べている。ここにプーチン氏の本音が露骨に現れている。
1917年の10月革命で、ロシアの労働者評議会と兵士評議会は、レーニンがとりわけ強調した、抑圧された人民の自決という原則を掲げ、後にソ連憲法に明記され、すべての社会主義共和国に無条件で分離独立の権利を認める、民主主義の原則としたのであるが、プーチン氏は、これを「国家としての基本原則 」に反する、「間違いよりも悪いもの 」だったと断言したのである。
大ロシア民族主義を厳しく批判したレーニンは、「われわれは、民主主義者として、たとえ少しでも一切の抑圧といかなる民族の特権にも反対する」ものであり、大ロシア人の民族主義は「現在、最も恐れるべきものであり、ブルジョア的であるというよりも封建的であり、民主主義とプロレタリアートの闘争にとって大きなブレーキなのである」と強調していたのである。とりわけスターリンのロシア大民族主義を前提に、レーニンは「抑圧民族の民族主義と被抑圧民族の民族主義,大民族の民族主義と小民族の民族主義とを区別することが必要である。われわれ大民族に属するものは、歴史的実践のうちでほとんど常に数かぎりない強制の罪を犯している。それどころか、自分では気づかずに数かぎりない暴行や侮辱を犯しているものである」。「抑圧民族、すなわち、いわゆる“強大”民族にとっての国際主義とは、諸民族の形式的平等を守るだけでなく、生活のうちに現実に生じている不平等に対する抑圧民族、大民族のつぐないとなるような不平等を忍ぶことでなければならない。このことを理解しなかった者は、民族問題に対する真にプロレタリア的な態度を理解せず、実はブルジョア的見地に転落せざるをえないのである」とまで断言しているのである。
このような大ロシア民族主義を、2022年の現在、このウクライナ危機の最中に振り回すプーチン氏の政治姿勢は、まさに「抑圧民族の民族主義」と言えよう。このような政治姿勢を取り続ける限り、プーチン氏の政治的基盤は掘り崩され、国際主義的連帯を前提としての民族自決権を否定するものとなり、ウクライナ危機の真の解決をますます遠のかせてしまうであろう。
(生駒 敬)
レーニン10巻選集の第10巻の
「民族問題または『自治化』の問題によせて」にあります。
上記のレーニンの論文または演説は、なんという文書名で収められていますか。
論旨に共感します。拙ブログに貴記事を貼り付けさせてもらいます。