【投稿】現代版「大政翼賛会」と化す、ウクライナ・ゼレンスキー氏の国会演説許可
福井 杉本達也
1 ウクライナ侵攻:米英に煽られて日本は大政翼賛会化―ゼレンスキー氏の国会演説
3月23日、国会において、ウクライナのゼレンスキー大統領がリモート演説し、与野党の国会議員が500名が参加した。紛争当事国の一方の演説に国会議員が拍手を送るというのは全く異様である。その様子をテレビ各局は生中継し、夕方のテレビはゼレンスキー氏の演説一色に染められた。演説後、山東参院議長は、「貴国の人々が生命をかえりみず祖国のために戦う姿を拝見し、感動しております」との挨拶には、第二次大戦末期の「特攻隊」を思い出させ、空恐ろしいものを感ずる。
岸田首相は「我が国としてもロシアに対するさらなる制裁、1億ドルの人道支援に加え、追加の人道支援も考えていきたい」と語った。また立憲民主党の泉代表は「日本としてどう受け止めるか、政府、国会で議論した。そういう中で実現にたどり着いたということは意義が大きかった」と語った。維新の馬場共同代表は「戦争中という状況の中で、落ち着きを持ってメッセージを発せられていた」と述べた。与党・公明党の山口代表は「子どもが121人犠牲になっているという数字を挙げて訴えたこと、チェルノブイリ原発事故で放射能汚染された資材が埋め立てられていたのに、戦車などで空中に放出されているとの訴えが印象的だった」と語った。国民民主党の玉木代表は「すでに金融制裁をしているが、貿易における何らかの制限、対応も必要になってくるかもしれない。」と語った。共産党の志位委員長は「ロシアによる侵略と戦争犯罪に対する深い憤りとともに、祖国の独立を守り抜くという強い決意が伝わってくる演説だった」。国連の民主的な改革の必要性を指摘し、ロシアが核兵器の使用の可能性についても言及している点について触れ、「生物化学兵器も核兵器の使用も断じて許さないという声を上げていくことが重要だ」とさらに踏み込んだ。社民党の福島党首は「難民の人たちへの支援など、日本がやれる限りのことはやっていくべきだ」と語った(朝日:2022.3.23)。れいわ新選組も今回3名の国会議員が参加したが、「国際紛争を解決する手段として武力の行使と威嚇を永久に放棄した日本の行うべきは、ロシアとウクライナどちらの側にも立たず、あくまで中立の立場から今回の戦争の即時停戦を呼びかけ和平交渉のテーブルを提供することである。国際社会の多くの国家がその努力を行わない限り、戦争は終結しない。」との談話を出した。続けて「今回、ゼレンスキー大統領のオンライン演説を本会議場では行わなかった。出席も任意であり、全議員の出席は前提としない形式であった。「本会議場を使用しない」という決定には、重い政治的意味合いがある。これまでの先例から見て、本会議場で外国首脳が演説を行う場合、それはその外国首脳が国賓として招かれた場合に限られている。もしゼレンスキー氏の演説を本会議場で行うなら、それは日本がゼレンスキー氏に国賓同等のステータスを与えることを意味する。これから停戦交渉を進めていかなければならない状況で、紛争当事国一方の首脳だけを国賓として迎えることの影響を考慮しなければならない。国賓として演説の機会を与えた場合には、招いた側の日本の議会として、演説内容への応答も求められることになる。」と談話で述べている(2022.3.23)。完璧な大政翼賛会とはならなかったことが日本の民主主義にとってせめてもの救いである。
一方、維新の鈴木宗男議員はブログに、ロシア外務省が「日本政府の決定に対する対抗措置」について発表したことについて、「経済制裁、個人制裁を日本がアメリカ主導の制裁に付き合っての結果であり、先に制裁した以上、いずれブーメランとなって返って来ることは予想していた」と記した。また、「紛争でどちらが良くて片方が悪いという論理は成り立たない。相方、自国の名誉と尊厳、そして自国の国民を守り抜く責任がある。一にも二にも話し合いが必要であり、仲裁に入る国が求められる。」(2022.3.22)との正論を述べている。
軍事社会学者の北村淳氏は「アメリカにとって幸いなことに、今回のロシアによるウクライナ侵攻後、日本政府、日本の主要メディア、そして多くの日本国民が、アメリカおよびウクライナ側が発信する戦争関連情報に何ら疑問を呈さず、素直に信じ切り、ウクライナを支持している。その姿を見てアメリカ当局者、少なくとも台湾有事の際に中国と対決する準備を固めている人々は胸をなでおろしている。なぜならば、『複雑な戦争』という事象をいたって単純にしか理解できないほどに平和ボケしてしまった日本を、台湾をめぐる米中戦争に参戦させるのはさして困難ではないことが明らかになったからである。」(JB press 2022,3.24)と皮肉った。これは、ウクライナという日本人にとってどこにある国かも分からない国家の出来事であるからであり、これが朝鮮半島・台湾という身近な存在となれば、さらなる体制翼賛会化は避けられないかもしれない。
2 アフガンでは協力者を見捨て、ウクライナの難民は受け入れるという露骨な人種差別
時事通信社は「ロシアの侵攻から逃れたウクライナ避難民を支援するため、岸田文雄首相が古川禎久法相を近くポーランドに派遣する方向で検討しているこ政府は松野博一官房長官や古川氏ら関係閣僚で構成する「ウクライナ避難民対策連絡調整会議」を設け、避難民の支援策を検討している。」(時事:2022.3.23)と報道した。「日本政府のこうした措置に対し、難民支援を手がけるNGOは、日本は2019年に難民申請をした人のわずか0.4%しか認定しなかったとして、これは『下手なパフォーマンス』であるとして、政府を非難している。たとえば日本は、1981年から2020年の40年間に、3,550人難民認定あるいは人道配慮の在留特別許可を与えているが、この数は、フランスが2021年の24日間で与えたのと同数となっている。」(Sputnik:2022.3.23)とされ、「他の難民のことも考えなければならなくなるとまずい」という外務省の身勝手な論理による。
昨年8月のアフガンではカブール陥落直前、15日に日本大使館を閉鎖し、17日には大使館員全員がアラブ首長国連邦のドバイに真っ先に逃亡してしまった。しかも、現地スタッフ・協力者などを残してである。協力者を他の国は同胞として責任を持って扱っている。日本だけが見放した。その後、アフガン人を難民として認定したのは570人である。卑屈なまでのアジア無視、欧米崇拝である。これでは完全にアジアから孤立する。Sputnikによれば、ウクライナから避難したアジアとアフリカ諸国の市民は、EU諸国の国境 で拘束され、EU法に反する差別を受けているとIndependent新聞が報じている(Sputnik 2022.3.24)。いかに欧米の価値観で見ているかである。
3 ゼレンスキー氏、日本が「アジアで初めてロシアに圧力」と皮肉?
ゼレンスキー氏は「アジアで初めてロシアに圧力をかけ始めたのが日本だ」と日本を持ち上げたが、これは“贔屓の引き倒し”である。日本以外のアジア諸国は経済制裁に賛同していないことを意味する。ウクライナ侵攻で原油が高騰しているが、世界最大の原油生産国であるサウジとアラブ首長国連邦は米英の原油増産要求を拒否した(日経=FT:2022.3.24)。岸田首相は就任後の初外遊でインドを選び、「インドがロシアと従来通りの関係を維持すれば、制裁の効果が薄れる」としてインドに制裁に加わるよう説得したが、けんもほろろに断られた(日経:2022.3.20)。最近もインドはロシア産原油を輸入している。また、同時にASEAN議長国のカンボジアも訪問したが、ロシア非難の確約は得られなかった。
アフリカでもの南アフリカのラマポーザ大統領は、「ウクライナにおける戦争について北大西洋条約機構(NATO)を非難し、ロシア非難の呼び掛けに抵抗すると表明した」(ロイター:2022.3.18)。ウガンダ大統領はウクライナを巡る「日米欧とロシアなどの 対立についてアフリカは距離置く」とし、「欧州が歴史的にアフリカを搾取したことや、北大西洋条約機構(NATO)が11年に実施したリピア空爆でカダフィ政権が崩壊したことが地域へのテロ拡散につながったなどと主張。ウクライナへの肩入れは『二重基準』『欧米の浅薄さ』などと批判した」(日経:2022.3.18)。欧米の価値観に基づき、言われるがままに行動する日本の外交は「浅薄」以外の何ものでもない。少し頭を巡らせ、世界地図を広げてみれば、孤立しているのは欧米であり日本であることが分かる。
4 日本政府にとって都合の悪い「原発攻撃」に触れる
ゼレンスキー氏は、「核物質の処理場を口シアが戦場に変えた」、「ウクライナの原発、原子炉がすべて非常に危険な状況にある」と演説したが、日経はこれを「東京電力福島第一原発事故を経験したのを踏まえたとみられる」と避けるように解説した(2022.3.24)。チェルノブイリ原発では、爆発した4号機を覆うコンクリート構造物の「石棺」やそれをさらに外側から覆う巨大なシェルターも設置されるなど、放射性物質の飛散を防ぐための対策も講じられている。しかし、福島第一では事故を起こした4基の原発のうち覆いが完成したのは3基のみであり、2号機は裸のままであり、度重なる地震に襲われ、建物も崩壊直前であり、放射能汚染水はたれ流し状態で海洋放出も検討、住民も年間放射線量20mSv以下では居住を強制されるなど、放置し続けた日本政府にとっては非常に耳の痛い内容である。「原発大国で陸上戦が起きた初めての例だ。今後、国際的にも安全保障のあり方はガラッと変わるのではないかと思う。原発が小規模なものでも陸上戦に巻き込まれる壊滅的な状況。電源喪失だけを引き起こす小規模なダメージで引き起こされる原発事故の当事者である日本は、本来なら、その対策を一番先に考え実現しなければならない立場にあるが、3・11の教訓を最も生かしていないのが日本だ。」と東京外大の伊勢崎賢治氏は警告する(長周新聞:2022.3.17)。原発を54基も海岸沿いに配置し、再処理工場を抱え、高レベル放射能たっぷりの中間貯蔵施設を設けていて、高市早苗氏のように、適基地攻撃力や自衛隊による原発防護でもあるまい。「国防を真剣に考えるなら、戦争ができる国や国土ではないことを自覚したうえですべての選択をしなければならない。ミサイルを向け合い、胸ぐらをつかみ合うような乱暴な関係ではなく、体制の違いや見解の相違をこえて、すべての国と平和的な関係を築いていくほかないのが現実だろう。それは「お花畑」などといって茶化される話ではなく、日本社会の将来を決定づける超現実的な選択なのである」(長周新聞コラム:2022.3.22)。ゼレンスキー氏の演説を聞いた500人の国会議員は何を考えていたのか。我が国の原発とは全く関係のない遠い欧州の“他人事”と捉えていたのか。平和ボケも甚だしい。