【投稿】制裁ブーメランの逆襲--経済危機論(80)

<<ドル決済体制崩壊への序曲>>
4/3、インドのトリビューン紙は、「インドが、ロシアとの貿易において西側の制裁を回避するために、専用の決済メカニズムの設立を計画していることが明らかになった。これにより、既存の貿易義務の支払いが可能になるとともに、インドの燃料価格が高騰する中、より安価な石油やガスの輸入に道を開くことになる。」と報じている。
インドを訪問したロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、

インドとロシア、ルピー・ルーブル貿易を模索(TribuneIndia Sunday, 3 April 2022)

4/1、ナレンドラ・モディ首相と会談し、モディ首相がラブロフ氏に、ウクライナの紛争における和平努力にいかなる形でも貢献するインドの用意があることを伝えたと同時に、ジャイシャンカール首相(S Jaishankar)との会談でインド・ロシア貿易・経済・科学・文化協力政府間委員会次回会合開催について議論したことを明らかにした。ジャイシャンカール氏は、インドは戦闘の終結を要求しているが、ロシアの攻撃を非難することは控えている立場について、「我々の会議は、パンデミックとは全く別に、困難な国際環境の中で行われる。インドは常に対話と外交によって相違や紛争を解決することに賛成してきた」と強調。ラブロフ氏は「我々は何も隠さず、一方的なやり方ではなく、事実の全体を調査した上で、インドの見解を評価している」と歓迎し、制裁を回避する決済メカニズムについて、「ますます多くの取引が各国通貨を使って行われ、ドルベースのシステムを回避するだろう」との見通しを明らかにした。
インドは石油需要の80%を輸入しており、ロシアからの輸入は通常2~3%程度であったが、原油価格が40%も上昇しているため、相対的に安くなったロシアの石油を積極的に利用。2/24にロシアのウクライナ侵攻が始まって以来、バイデン政権がインドを制裁で脅しているにもかかわらず、少なくとも1300万バレルの石油を購入している。2021年全体では、インドは1600万バレルの輸入にとどまっていることからすれば、大幅な増大である。石油の他に、インドはロシアとその同盟国であるベラルーシからより安い肥料を求めているという。

ロシアがインドに提案している決済システムは、SPFSとして知られるロシアのメッセージングシステムをルピー・ルーブル建ての支払いに利用するというもので、ロシアの中央銀行関係者がインドを訪問し、インド側の銀行システムの幹部と会合を持ち、詳細について話し合っていると、報じられている。この提案では、為替レートは固定か変動か、など未確定な要素もあるが、ルーブルはインドの銀行に預けられてルピーに変換され、同じシステムが逆にも機能するものである。インドは、すでにロシアの武器、肥料、石油を輸入するインドの必要性に基づいて、ルピーとルーブルの交換を行って来たとされており、これがロシア側でもインドから輸入される際の決済にも相互に利用、拡大されるわけである。ロシアはまた、制裁によって撤退したVisaとMastercardが業務を停止したのを受けて、インドとロシアの銀行が発行したカードをシームレスに使用するための、統一支払いインターフェースをインドの支払いシステムにリンクすることも提案している。
すでにインドは、イランの石油をルピーで購入するための同様の決済システムを以前にすでに構築しており、今回、インドとロシアのより大きな経済圏にそれが拡大することは、アメリカのドル支配体制に巨大な打撃となることは間違いがないであろう。
こうした動きに続いて、サウジアラビアが、中国への石油販売も、ドル決済を排除して、人民元で決済する可能性があることが明らかにされている。サウジアラビアの石油の25%以上が中国に輸出されており、これがドルではなく、人民元で決済されるとなると、サウジアラビアがドル以外の通貨で石油を販売するのは1974年以来初めてのこととなり、ドル支配を支えてきたペトロダラー体制崩壊の先駆けともなりかねない事態の急変である。

<<「制裁が効かない」(Sanctions Don’t Work.)>>
こうした事態の急変は、ロシアを緊張激化と軍事対決の罠に引きずり込み、緊張緩和と外交での解決を拒否する、米英EU側の性急なロシア制裁がもたらしたものである。制裁は、ロシア側に多大な困難を負わせ、ロシア経済は低迷せざるを得ないであろう。

ルーブルは持ち直した

罠にはまったプーチン政権の、大ロシア民族主義を振り回したウクライナへの軍事侵攻が、いつ泥沼から脱出できるかは、予断を許さないものである。

しかし、国際金融取引に使用される主要なメッセージングシステムであるSWIFTからロシアの銀行7行を排除する制裁は、逆に、ロシアのドルやユーロの使用をも対象にしていることから、ロシア側は、ヨーロッパに対してルーブルでのガス代支払いを要求す事態を生じさせることとなった。EU側にとっては、契約違反だと怒りはすれど、ドル決済システムからロシアを除外したのは米欧側であり、しかもロシアのガスへの依存度が高く、選択の余地がないのである。
さらにロシアは、石油・ガスにとどまらず、他国に輸出するものの決済に、もはや米ドルを受け入れないと決定している。
ルーブルでの支払いを義務付けることは、ルーブルの需要と為替レートを支えることになる。ロシアが実際に行っていることは、輸出業者にユーロとドルの80%をルーブルに割引で交換させており、これは膨大なルーブルの人工的な需要を生み出している。
2月24日にロシアがウクライナに侵攻したとき、1米ドル=84ルーブルの交換レートであったが、3月7日には、1米ドル=131.2ルーブルとなり、ルーブルは 36%の暴落であった。ところが現在、ルーブルは2月24日のスタート地点に戻っているのである。制裁が逆に、ルーブルの価値を高めることに寄与したわけである。「制裁が効かない」(Sanctions Don’t Work.)事態の到来である。
しかも問題なのは、制裁の急先鋒に立つアメリカが、他国にロシアの石油輸入の禁止を強制しながら、自らはその禁止されたロシアの石油の輸入を急増させていることである。米国エネルギー情報局(EIA)の新しいレポートによると、米国によるロシアの石油輸入量は、前週と比較して3月19日から25日に43%も増加している。そのデータによると、米国は1日あたり最大100,000バレルのロシア原油を輸入している。3月初旬、ロシアの石油の週次供給は2022年に最大値に達し、1日あたり148,000バレルにも達している。バイデン大統領が3月8日に大統領命令に署名して、ロシ

当ての外れたバイデン氏のツイート

アからのエネルギー輸入とロシアのエネルギー部門への新規投資を禁止したにもかかわらず、増大してい

るのである。やむをえず、米財務省は、4月22日までにロシアから同国への石油、石油製品、LNG、石炭の輸入取引の完了期限を設定せざるを得ない事態である。制裁の掛け声にもかかわらず、ロシアは米国への石油製品の総供給量の20%を提供しているのである。
3/27にバイデン大統領は、「私たちの前例のない制裁の結果、ルーブルは

制裁を加えているのはごく少数の国.(黄色)

ほとんど瓦礫と化した。ロシア経済は半分になる勢いである。この侵略の前には世界第11位の経済規模であったが、まもなく上位20位にも入らなくなるだろう。」とツイートしたのであるが、そのツイートから3日もしないうちに、ルーブルは損失をすべて取り戻しているのである。とんだ見込み違いである。

そして見込み違いの最たるものは、制裁に唱和し、実際に参加しているのは世界のごく少数の国々、地域に限定され、米欧諸国、オーストラリア、ニュージーランドそして日本、韓国にしかすぎないことである。ここに、「制裁が効かない」、逆に制裁のブーメランが制裁側に逆襲し、政治的経済的危機を深化させているのである。
(生駒 敬)

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