【投稿】ロシアへの経済制裁で自滅する欧州と日本の今後の対応
福井 杉本達也
1 ロシア、ポーランド・ブルガリア2国へガス供給停止
ロシア国営ガスプロムは4月27日、ポーランドとブルガリアへの天然ガスの供給を停止したと発表した。ポーランドは国内消費の48%、ブルガリアは80%をロシアに依存する。すでに、3月末にプーチン大統領は、天然ガス代金のルーブル支払いに応じなければガスの供給を止めるという大統領令に署名していたが、ポーランドとブルガリアはルーブルでの支払いを拒否した。欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、米国の命令に従い、ルーブルによるガス代を支払へというロシアの要求に屈しないよう各国に指示していた。完全にガスがストップすれば、ポーランドやブルガリは餓死する。ポーランドのガスはドイツなどの他の国の口座を通じて支払われるかもしれない。しかし、高いスポット価格と仲介手数料を第三国に支払うこととなる。ポーランドの国民は異常に高い燃料価格や電気料を負担することとなる。また、ポーランドはウクライナがかつてしたように、パイプラインの1つで領土を横切るガス管からガスを窃盗するだけかもしれない。しかし、そうなれば、他の諸国はガス欠になる。もしドイツがノルドストリーム1を通じて追加のガスを購入することを選択した場合は、ポーランドのガスはドイツから逆供給されるだろう。いずれにしても、米英はロシアを経済制裁することにより、世界的な危機を作り出しており、EUの同盟国は、制裁の返り血を浴び、これらの行動に苦しむことになる。
2 ドイツやオーストリアなど4カ国はガス代金のルーブル支払いに応ずる
BloombergのFTからの転載記事によると、「欧州の一部エネルギー企業はロシアが求めている天然ガスの新たな代金決済システムに対応する準備を進めている。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が事情に詳しい匿名の関係者を引用して報じた。それによると、ドイツのウニパーやオーストリアのOMVのほかハンガリー、スロバキアのエネルギー企業がスイスのガスプロムバンクにルーブル建て口座を開設する準備を進めている。」と報じた(Bloomberg:2022.4.28)。ドイツは天然ガスの48%をロシアに依存する。ショルツ首相は調達を突然終わらせることはできないとしている。ロシアからの天然ガスを代替できない場合、ドイツの産業基盤がほぼ完全に消滅する事態に直面する。そのようなばかげた選択肢はドイツにはないのである。
3月25日、ロシア銀行はルーブルで金を購入するための固定価格を発表した。それは1グラムの金に対して5,000ルーブル(当時は59ドル)の価格を設定した。金と通貨価値を表す一連の商品の両方を含むロシア通貨の提供が含まれている。その結果、ルーブルの為替レートは、その実質購買力平価に対応する。その支払手段は本質的な価値と物価の安定を持ち、ドルに縛られていない。金と通貨価値を表す一連の商品の両方を含むロシア通貨の提供が含まれている。その結果、ルーブルの為替レートは、その実質購買力平価に対応する。ドイツがガスのルーブル支払いをすれば、ドル基軸体制が根本から崩れることとなる。ドルというただのペーパーマネーで世界を支配してきた幻想の世界秩序が根底からひっくり返ることとなる。
3 日経の錯乱社説
4月29日の日経新聞社説は、ロシアは「供給国としての責任を放棄し、経済的に圧力をかける『武器』としてガスを利用する行為だ。容認することはできない。」とし、そもそも論を持ち出して、「ドルで・取引できなくなったのはロシアがウクライナに侵攻したためだ。」と書く。しかし、ロシアをドル決済ができないようにSWIFT(国際銀行間金融通信協会)から締め出し、米欧の中央銀行が預かるロシアの3000億ドルにものぼる巨額の外貨準備を凍結・没収したのは米欧側である。ドルやユーロの外貨準備を使えない場合、ロシアは売ったガス代金を回収することはできない。ロシアが自国通貨のルーブルで支払いを要求するのは当然である。これは「資本主義」「市場経済」の当然の原理であり、日経の社説は根本から「資本主義」「市場経済」を否定したことになる。ルーブル支払いができないのであれば、ロシアからガスを買わなければよいだけのことである。米国はそれを狙ったのであろうが、考えがあまりにも浅はか過ぎた。EUが求める量のLNGの供給ができないのである。また、価格もパイプライン供給の天然ガスに比べ異常に高く、LNGは蒸発するので長期間の貯蔵もできない。ようするに長期的戦略は何もなく、全く考えていなかったことが暴露されたのである。
社説は続けて「欧州各国は市場の安定に向けて、カタールや米国など供給国と関係強化を進める意向だ。日本これに乗り遅れてはならない。」とし、さらに、「日本はロシア極東のサハリン2事業に出資し、年間600万トンの液化天然ガス(LNG)を輸入している。政府は権益を維持する方針だが、日本は『非友好国』に指定された。ロシア側から輸出を止められる可能性がないとはいえなくなった。最悪の事態を想定した準備をするときだ。」と煽っている。まず、ロシアがルーブル支払いを要求しているのはパイプライン供給の天然ガスであり、日本が輸入しているLNGは含まれていない。LNG市場は国際商品として、ドル基軸に深く組み込まれているからである。しかも、そもそも最悪の事態を想定して、サハリン2の8%のLNGの代替ができるのであろうか。円が130円台に下落する中、アジアにおいて、中国や韓国・台湾やインドに買い負けるのは必至である。日経は米軍産複合体・CSISの代弁者ではあるが、社説で主張することが前後で食い違い、目先の判断もできない、あまりにもひどい錯乱した提灯社説である。
4 米国の圧力に屈することなく、サハリン1・2の権益は守るべき
結論は単純である。日本の国民の生活を守るためには米国の圧力に屈することなく、サハリン1・2の権益は死守すべきである。どこにもLNGの8%の代替や石油の4%の代替は転がってはいないのである。もし現在の権益を放棄すれば、 中国海洋石油は28日、サハリン2の権益について、「関心を持って注視している」と報道されているように(日経:2022.4.29)」、また、インドもサハリン1に20%の権益があり、米国の圧力に「負ける」馬鹿な日本の権益を虎視眈々と狙っている。
日経新聞の太田泰彦編集委員は、ロシアのウクライナ侵攻で「 冷戦後の平和を支えた通商、金融の国際秩序が、音を立てて崩れている。」と現状を分析し、自らが関わった、かつての東芝機械のCOCOM違反を参考例にして、米国の「規制の線引きを見極め、是々非々で機敏に判断するか」、あるいは「意向を忖度しとりあえず、自粛して様子をみるか。」しかし、今最も重要なことは「 優等生を演じず、自ら情報を集め、自分の頭で考えことである。」と書いている(日経:2022.4.28)。日本に求められるのは、米軍産複合体の「優等生」を演ずることではない。それは、国民に死活的な負担をもたらすこととなる。