【投稿】バイデンの台湾軍事関与発言は東アジアでの「第二戦線」の構築
福井 杉本達也
1 台湾に「軍事関与する」と明言したバイデン大統領
毎日新聞によると、バイデン米大統領は、4月23日の日米首脳会談後の共同記者会見における質疑で、「台湾防衛のために軍事的に関与する意思があると明言した。米政府は、台湾防衛義務を意図的に明確にしない『あいまい戦略』をとっているが、バイデン氏は2021年にも台湾の防衛義務に2度言及しており、中国をけん制するために意図的に発言を強めている可能性がある。」「バイデン氏は会見で『有事には台湾の防衛に軍事的に関与する意思があるか』との質問に『ある(Yes)』と答えた。記者が『意思があるのか』と確認すると、『我々が約束した責務だ』と答えた。中国が台湾を領土とみなすことに異を唱えない歴代米政権の『一つの中国』政策には『同意している』としつつも、『力による(台湾の)奪取は適切ではない。地域全体を混乱させ、ウクライナで起きたこと以上の負担になる』と強調した。(毎日:2022.5.23)。同記事はさらに続けて「バイデン氏は21年8月に米メディアのインタビューで、条約上の同盟国である日本や韓国と同様、台湾を防衛する義務があると発言した。21年10月にも住民対話集会で『台湾が攻撃されれば、米国は防衛に向かうのか』と問われ、『そうだ。我々にはそうする義務がある』と述べた。いずれのケースも、事後に政権幹部が『政策に変更はない』と打ち消したが、バイデン氏自身は発言を修正していない」と続けた。バイデン氏は失言癖があると報道されているが、台湾への軍事介入を3度もほのめかすのは、もはや失言ではなく確信犯である。
2 またもや、ホワイトハウスは大統領発言を即日否定―痴呆大統領の妄言?
このバイデン発言について、23日、オースティン国防長官は「米国防総省での記者会見で『政策に変更はない』と説明、台湾関係法に基づき台湾に防衛の手段を提供する義務を強調したものだと主張した」(福井:2022.4.26)。さらに付け加えて「『大統領が3度同じ発言をすれば、それが政策であるのは明白だ』(政治サイト・ポリティコ)」との主張を引用している(福井:同上)。ダイヤモンドオンラインのノンフィクションライター窪田順生氏の記事によれば「政治家が自分の発言に責任を持てなくなったらおしまいだ。昨日言ったことを今日になって撤回するということが『平常運転』になれば、確かに『敵』はかく乱できるが、『味方』からもそっぽを向かれてしまう。『The Wall Street Journal』 も社説でその危険性を指摘している。<問題は、今の米国の方針がどういったものなのか、誰も確信が持てないことだ。ホワイトハウスが頻繁に大統領の発言を取り消せば、同盟国や敵対勢力にとってのバイデン氏の個人的な信頼性が損なわれる>(WSJ:5月24日)」と書いているが、窪田氏の見立ては、これは敵=中国を撹乱するための「バイデン大統領の政治家としての信頼を大きく失墜しかねない『捨て身の情報戦』なのだ。」という分析である。
3 「第二戦線」を東アジアで開く意図
しかし、バイデン発言は単なる「情報戦」であろうか。中国問題グローバル研究所所長の遠藤誉氏は、「バイデンが言っていたように『ウクライナはNATOに加盟していない(ウクライナとアメリカの間には軍事同盟がない)ので、アメリカにはウクライナに米軍を派遣して戦う義務はない』のと同じように、台湾とアメリカとの間にも軍事同盟はない。またバイデンが『ウクライナ戦争にアメリカが参戦すれば、ロシアはアメリカ同様に核を持っているので、核戦争の危険性があり、したがってアメリカは参戦しない』と言っていたが、これも『ロシア』を『中国大陸』に置き換えれば同じ理屈が成り立つ。すなわち、中国には『核』があるので、アメリカは直接アメリカ軍を台湾に派遣して台湾のために戦うことはしない、ということである」。しかし「武器の売却などを通して台湾が戦えるように『軍事支援』する。これも、ウクライナにおける『人間の盾』と全く同じで、ウクライナ人に戦ってもらっているように、『台湾国民に戦ってもらう』という構図ができている」と分析する(遠藤誉:Yahooニュース:2022.5.24)。「バイデン大統領は、武力攻撃をしそうにない中国大陸(北京政府)を怒らせるために、何としてでも戦争を起こさせ、戦争ビジネスを通してアメリカが世界一である座を永続させようというのが、ジョー・バイデンが練り続けてきた世界制覇の戦略なのだ」(遠藤:同上)と、台湾にアジアでの「第二戦線」を開かせる意図があるとする。
また、総合欧州国際研究センターのドミトリー・ススロフ副所長は、「雑誌『フォーリン・アフェアーズ』に掲載されたの執筆者は、台湾有事に際し、台湾に完全な軍事支援を行うとしつつ、戦略的なはっきりしない態度を取るのをやめるよう米国に勧告している」とし、米軍産複合体の読みは「現在、中国は紛争を始めることに関心を持っていないという強い確信を持っているという。そして、それには深刻な国内事情に原因がある」。国内事情とは「今年、中国では第20回党大会が予定されています。つまり、中国はこの重要な行事が開始するまでは、武力を行使することはないということです。」一方、米中の経済・軍事力の力関係では「時間は『中国に有利に働く』からです。年を重ねるごとに、中国はますます強くなり、一方の米国は弱体化しつつあります。そしてその長期的な勢力図の変化によって、中国は武力を行使することなく、欲しいものを手に入れることができるのです。一方の米国は、アジアにおいて中国に負けつつあることを理解していることから、待っている時間がないのです。」とし、そのため「『剃刀の刃を渡っている』のである。しかし、米国は本格的な事態の激化を扇動することも、アジアにおける軍事紛争も恐れていない」と指摘する(Sputnik:2022.5.28)。
5月11日、米国防総省のカービー報道官はFOXテレビにおいて「バイデン政権は侵攻のずっと前から兵器を供与していた。大統領がウクライナに割り当てた最初の10億ドルには、確かに、致死的な武器の支援が含まれていた… 米国、カナダ、英国、その他の同盟国は、実際に(ロシアの特殊作戦に備えて)8年間にわたってウクライナ人を訓練をした」と語った。ウクライナの場合のロシアのレッドラインは、米・NATOの指揮官によるアゾフ大隊らのネオナチ部隊や外国人傭兵を主力とするドンバス2州への総攻撃の準備であったが、台湾の場合の中国のレッドラインは「台湾の政府として独立宣言」である。バイデンは台湾の暴発を煽っているのである。5月28日現在のホワイトハウスの台湾関係のHP『U.S. Relations With Taiwan』では、これまでの「Taiwan is part of China」という文字が消されたものの、「we do not support Taiwan independence」とい文字は幸いにしてまだ残っている。これが「台湾独立を支持する」と書き直された時が、東アジアにおける「第二戦線」が開かれる時である。
4 日本はどこまで盲従するのか
バイデン発言に対し、5月26日、安倍晋三元首相。「パイデン米大統領が台湾有事に軍事的に関与すると発言したのを歓迎した。安倍氏は『事前の打ち合わせで“こう答えよう”と協議していたはずだ』と指摘し『ある意昧、曖昧戦略を修正しながら意思を示してけん制した』と述べた。」(日経:2022.5.27)。佐藤正久自民党外交部会長、さらに踏み込んで、「バイデン米大統領が台湾防衛に軍事的に関与する意思があると明言したことについて『大変良い失言、最高の失言をされた』と評価した。」「『これまでの『あいまい戦略』から一線を越えた発言だ。だが、この地域の安定に資する発言で、大統領の本音が出た』と解説した。そのうえで『ここまでバイデン氏が発言した以上、我々は中国に対し、ロシアの侵略に明確な批判を行うよう強く求めると同時に、中国の武力による台湾統一、(沖縄県の)尖閣(諸島)有事に備え、日本自身が外交防衛力をさらに強化することが極めて大事だ』と、さらに踏み込んだ(毎日:2022.5.24)。
ウクライナ侵攻以降、NHKを始め各テレビ局や朝日新聞など新聞各紙はこの3か月ウクライナの位置も歴史も文化も知らないにもかかわらず、一喜一憂のウクライナ戦況の報道に踊っているが、その目的は米軍産複合体の後押しによる東アジアでの第二戦線の開戦にある。
米軍産複合体が台湾独立」をけしかけても、人口わずか2300万人、九州程度の広さの台湾単独で中国と戦うにはあまりにも戦力不足である。いくら蔡総統が無謀でも、完全に海上封鎖され補給もなしに単独では戦えないと考えている。そこで、先兵の役割を担わせるのが日本である。
しかし、元外務省国際情報局長の孫崎享氏は『アメリカは中国に負ける』(河出文庫:2021.9.20)において、「『ニューヨーク・タイムズ』紙はクリストフによる記事『どのようにして中国との戦争が始まるか』で、『最近、台湾海峡を舞台での、中国を対象とする18のウォ―ゲーム中、18で米国が破れたと知らされた』と報じた」とし、また「ランド研究所が台湾正面の戦いでは中国が優位」との報告書も紹介している。中国の保有するミサイルの命中精度は向上しており、2010年には米中ほぼ互角だったものが、2017年段階の台湾周辺では中国優位に傾いたと冷徹な分析を行っている。したがって、台湾有事でもウクライナ同様、米軍は出てこない。ましてや、自衛隊が「台湾有事」などとしで東シナ海・台湾で中国軍と戦うなどというのは無謀そのものである。岸田内閣は日本と米国の政治的な利益を、中国との経済問題よりもはるかに重要なものに据えた。後先を考えず突き進む岸田氏を筆頭に対米従属者の幼稚さは変わっていない。