【投稿】電力危機を原発再稼働の理由にするも、福島第一「廃炉」の腰は定まらず

【投稿】電力危機を原発再稼働の理由にするも、福島第一「廃炉」の腰は定まらず

                              福井 杉本達也

1 またまた、「電力需給逼迫注意報」の発令

今年は東北地方以外は6月中の梅雨明けで、異常な暑さとなっている。経産省は6月27日、東京電力管内に電力の需給逼迫注意報を出した。注意報は電力の需要に対する供給力の余力を示す「予備率」が5%を切る見通しになると出すという。東北電力・北海道電力管内も供給余力は厳しい。さらに、関西電力も、計画停止中の大飯原子力発電所4号機(出力118万キロワット)の定期検査中に、蒸気発生器に水を送るポンプの二次系配管からの水漏れを確認し、発電の開始が7月下旬と予定より3週間程度遅れると発表した。運転再開の遅れにより、北陸、関西、中園、四国、九州の5電力管内の7月の予備率は3・8%から3%に下がる見込みとなった。関電によると原子炉起動・停止時に使用する電動主給水ポンプの配管に直径1ミリの穴が空いたというもので、1993年の営業運転開始以降、この配管は一度も交換していないという。実に恐ろしい状態で再稼働していたものである。関西電力には福島第一原発事故の教訓は何一つ生かされてはいない。

 

2 「電力自由化」という経産省の愚策が招いた3月の「電力危機」

経産省は、今年3月21日の夜、東電管内について「電力需給逼迫警報」を出している。気象庁は22日の東海、関東地方は真冬並みと発表していた。3月16日に、最大震度6強、マグニチュード7.4の福島県沖の地震が発生し、火力発電所が10箇所以上が停止し、3月18日には東電は節電を呼びかけた。その後多く火力発電所は復旧できず、新地火力(相馬共同火力発電の石炭火力100万kWが2基)、広野火力6号機(東電の石炭火力60万kW)などは損傷が大きく、その後も止まったままだった(参照:2022年6月「月刊たんぽぽ舎ニュース」山崎隆久)。

萩生田経産相は、電力供給力の低下の原因として、「火力発電の休廃止があいついでいる」ことをあげた。経産省の調べでも、2016年の電力小売全面自由化後、電力大手が持つ火力発電所が石油火力を中心に急激に減少している。具体的に見ると、東京電力と中部電力の火力発電部門を統合して発足したJERA(ジェラ)は、2020年までに茨城県神栖市の鹿島発電所5、6号機、福島県広野町の広野発電所2号機など東京電力管内13基、愛知県田原市の渥美発電所4号機など中部電力管内2基の石油火力をすべて休止ししている。2021年度はLNG火力の千葉県市原市の姉崎発電所5、6号機を廃止。三重県四日市市の四日市発電所4号機など計3基を休止した。関西電力も老朽化した火力発電所を廃止している。石油火力で2019年に和歌山県海南市の海南発電所1~4号機、2020年に大阪府岬町の多奈川第二発電所1、2号機、LNG火力では2021年2~3月に兵庫県姫路市の姫路第二発電所の既設5、6号機を廃止した。海南と多奈川第二は発電所自体を廃止している。石油火力でも和歌山県御坊発電所2号機を2019年に休止した。2021年までの5年間で休廃止された石油火力は原発10基分に相当する出力約1000万キロワットにのぼる。(長周新聞:2022.4.1)。経産省が主導した世紀の愚策ともいうべき電力の自由化政策で、採算性の悪い古い火力発電所が大量に廃止されてきたことが「電力危機」を招いている。

 

3 「電力危機」から原発再稼働を目論む政府・電力会社

資源エネルギー庁長官は、4月中旬の自民党本部の会合で「電気が足りないないなんてあってはならない。ロシアにつけこまれ燃料を接収されるかもしれない。原発を動かせ」と出席議員から叱責されたという(日経:2022.6.6)。日経は「主力電源の一つの原発は、原子刀現制委員会の安全審査を通過したもの17基ある。動いているのは4基のみで、残る13基の発電能力は計1300万キロワット、危機下でも電力は十分賄える。」と書く(日経:同上)。既に5月27日の衆院予算委員会で、岸田文雄首相は原発を巡り「エネルギーの価格安定、安定供給、温暖化対策を踏まえた場合、安全性を大前提に原子力を最大限活用していくことは大事だ」と述べ、再稼働を急ぐ方針を明らかにしている(福井:2022.5.28)。こうしたことを受け、日経の6月6日の社説は「原発には稼働中、二酸化炭素(CO2)をほとんど出さない」とまず嘘を並べ、次に「ウクライナ危機はエネルギー安全保障の重要性を再認識させた。」と、エネルギー安全保障を持ち出し、「原発がなぜ必要なのか。そのために国民の理解をどう得るのか。原発をやめるなら代替手段をどう確保するのか」と国民を脅す。

しかし、首相の口先の原発再稼働推進宣言のわりには、動きは鈍い。問題の第一は福島第一原発の”廃炉工程”である。40年で廃炉にするというが、全く先は見えない。常識的には”廃炉”などできっこないのであるが、“やっているふり”のために、無理やり「工程」をつくっているだけである。東京電力は5月23日、福島第一原発1号機原子炉格納容器底部を水中ロボットで撮影した画像を新たに公開したが、映像を見た資源エネルギー庁の木野参事官は「『それにしても激しい損傷で、ちょっとびっくりですね。これだけやられているとは思っていなかった』驚いたというのが、原子炉圧力容器の下で確認された、設備の激しい損傷です。木野参事官『下が空洞になっている。デブリの熱でコンクリートが溶かされたか、蒸発したことが考えられる』撮影されたのは、原子炉圧力容器の真下にあるコンクリート製の『ペデスタル』付近。圧力容器を支える土台に当たる部分です。本来、コンクリートで覆われているはずのこの場所が、映像からは空洞が確認でき、鉄筋が露出してしまっています。デブリの熱は2800℃ほどとされていて、コンクリートを溶かしてしまったとみられます。」(日テレ:2022.5.29)と報道されている。近づくだけで数秒で即死するような放射性デブリの回収などできっこない。政府はいつまで“廃炉ごっこ”をするつもりなのか。

日経新聞6月30日付けによると、西の中部電力・関西電力などの60ヘルツ帯の電力を東電などの50ヘルツ帯の東に送電できる電力融通は、大震災時点では100万キロワット、現在でもわずか210万キロワットしかなく、計画の300万キロワットににするには2027年度までかかる。同じ50ヘルツ帯の東電と東北電力管内でも電力融通は現在500万キロワットであり、1028万キロワットになるのは同じく27年度中である。大震災で電力網がズタズタになり、電力融通の重大さが認識されたと思われたが、11年たってもこのありさまで、首相を始め「原発再稼働」のみしか口にできない、しかも電力価格高騰には節電ポイントというズレまくった政策しか出せないようでは、いかに、政府・経産省が無責任・無用な存在であるかを今回の「電力危機」は明らかにしている。

カテゴリー: 原発・原子力, 杉本執筆 パーマリンク