【投稿】米vs.中東:ドル支配の危機を露呈--経済危機論(87)

<<バイデン中東歴訪で原油価格急騰>>
7/18、バイデン米大統領が中東歴訪を終えるや、原油価格が急騰した。中東歴訪前までは、景気後退懸念による需要減退から、原油価格はここ一カ月で最大の下げ幅を記録、100ドル/バレルを下回る水準に下落していたばかりであった。
景気後退懸念は、7/13に発表された消費者物価指数(CPI)がこの6月にさらに加速し、9.1%と40年ぶりの高水準を記録したことからくるもので

バイデン氏、サウジの原油増産公約を勝ち取れず、原油急騰

あった。値上げ率が最も大きいのは、家賃、食料、燃料などの最低限の必需品目であった。インフレ調整後の実質平均時給は前年同月比3.6%減と、07年までさかのぼれるデータで最大の落ち込みとなり、実質賃金はこれで15カ月連続のマイナスを記録。インフレ圧力は後退していると期待していた政権やその取り巻きにとって、予想をはるかに上回る強力な基本的物価上昇圧力は衝撃であったと言えよう。(下図、上:消費者物価指数(CPI)、下:実質賃金)

 エネルギー価格を何としても抑え込むことが、バイデン政権にとって最大の課題となり、バイデン氏は世界の原油供給が増えれば、世界の原油価格が下がると主張。しかし一方で、足元の米石油独占資本が供給を低く抑え、市場支配力によって高価格に加担して最大限の利益をむさぼっていることを放置していては、何の説得力も持たない。
 そこでバイデン氏は、サウジアラビアと他の湾岸産油国に対し、石油生産を増強するよう求める中東歴訪を演出、サウジアラビア政府と米国政府はエネルギー問題、投資、宇宙開発、通信、保健など、18項目からなる協力協定に署名、ホワイトハウスによると、サウジアラビアは7月と8月に予定していた原油の掘削量を50%引き上げることを約束したという。歴訪中のサウジアラビアで行われた記者会見の中で、米国内のガソリン価格は連日低下し続けている、そして劇的に価格が低下するのは2週間後になるとまで言い放ったのであった。

<<「アメリカに残されたのはNATO諸国だけ」>>
ところが、である。バイデン氏帰国後、7/15、ニューヨークの原油先物市場は、2.1%上昇、7/18には2.4%上昇し、1バレル103.58ドルへの急騰である。その理由が、原油増産の約束を取り付けられなかった、サウジアラビアが原油供給を

バイデンに対するMBSの回答

強化するという誓約をすることなく終了したことからくるものであった。サウジアラビアは米側に追従することを拒否し、増やすことが可能なのは「生産量」ではなく「生産能力」だと表明していたことが明らかになったのである。バイデン氏は体よくあしらわれたのであろう。
それどころか、サウジアラビア皇太子ムハンマド・ビン・サルマン氏は、政府系紙・アルアラビーヤによると、3時間にわたる会談の中でバイデン氏に対して、イラクとアフガニスタンでの米国の失敗によって示されるように、ある国の価値観を力で別の国に押し付けようとすることは逆効果である、米国が協力するために残されたのはNATO諸国だけである可能性があるとまで警告したという。
さらに、同皇太子は、ジャーナリストのジャマル・カショギ氏の殺害は「遺憾」だが、米国の手はきれいではなく、他のジャーナリストも平気で殺されている、イスラエル軍に殺害されたパレスチナ系アメリカ人ジャーナリスト、シリーン・アブ・アクレについて「何をしたのか」とバイデンに詰問したという。
バイデン氏は、「私がここに来たのは、サウジアラビア皇太子に会うためではない。<GCC首脳+3首脳>会談に参加するためだ」と、語っている。3首脳とは、<アメリカ+イラク+エジプト>を指すが、対ロシア、対中国、対イランの制裁、対立激化路線は、エジプト、ヨルダンを含めてどの国の指導者からも明確な指示を得られなかったのである。

アメリカのドル一極支配体制の瓦解が、今回のバイデン氏の中東歴訪によって誰の目にも明らかな客観的現実として露呈された、と言えよう。
(生駒 敬)

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