The Japan Times August 6-7, 2022
【O p i n i o n 】
“ Ukraine’ war viewed from Beijing”
Mark Leonard, Beijing, Project Syndicate
「北京から見たウクライナの戦争」
ロシアによるウクライナへの侵攻は、来年には、欧州が中東であるかのように思われる紛争の続きの、単なる最初のものなのだろうか?
先週、匿名を希望する一人の中国の学者は、私にそのような問いを投げかけた。そして彼の論法は、欧州の地政学秩序を塗り替える戦争への見方が非西洋人(”non-Westerners”)では、いかに違っているかを示していた。
彼らは、どのように世界を観ているかを理解する為の中国の大学の先生方や学究の人達(“academics”) との話し合いにおいて、彼らは、西側 (“the West”) が行っている多くの事について、全く異なった立ち位置からスタートしているということを私は見つけた。彼らは、ウクライナの戦争を Kremlin よりも NATOの拡大のせいにする傾向にある、ということではない。それは、彼らの中核となる戦略的な考え方、想定の多くが、又しても、我々自身のものの反対側にある、ということである。
欧州人や米国人が、この紛争を世界歴史の転換点 (“turning point”) と見なしている一方で、中国人は、それを一つの干渉戦争 (“war of intervention”) と見ている。この紛争は、過去75年間に起こった朝鮮半島、Vietnam, Iraq, Afghanistanの戦争に比べれば、むしろその重要性は大きくない。彼ら中国人の理解の中で、今回の紛争で、ただ一つ違うところは、干渉しているのは西側 (“the West”) ではない、ということである。
さらに、欧州の多くの人々が、この戦争は、米国の国際舞台への復帰を特徴付けた、と考えている一方で、中国の知識人たち (“intellectuals”) は、次にやって来る post-American world の確固たる証拠と見なしている。彼ら中国人にとっては、米国の指導権 (“American hegemony”) の終焉が、真空地帯を作り出したのであり、その真空地帯は、今ロシアによって満たされつつある、と見ている。
西側の人々、国々 (“Westerners”) は、法/規則に基づいた秩序/治安 (“rule-based order”) への攻撃と見なしている一方で、私の中国の友人達は、多元的世界 (“pluralistic world”) の出現と見ている。そこにおいては、American hegemony の終焉は、異なった地域やそれに準じる局地での企みを許している。彼らは論じている、即ち、rule-based order はいつも正当性/合法性 (“legitimacy”) を欠いてきている。西側の勢力 (Western powers”) は法/規則 (“rules”) を作り上げた。そして彼らは、それが彼らの目的に叶う時には ( Kosovo や Iraq におけるごとく)、それらを置き換えることについて、良心の痛み/罪の意識 (“compunction”) を決して示して来ていない、と。
これらは、中東の似たような出来事に導く議論である。私の中国における対話者は、以下のように見ている。即ち、ウクライナにおける状況は、主権国家間の侵略戦争ではなくて、むしろ Western hegemony の終焉に続く、植民地時代の後の国境(“post-colonial border”) の改定であり、中東において、国々は第一次大戦後に西側 (“the West”) が線引きした国境に疑問を持っているのと同じである、と。
しかし、最も際立った対比は、ウクライナ紛争は広く一つの代理戦争 (“a proxy war”) と見なされていることである。まさに、Syria, Yemen, Lebanon における戦争は、列強 (“great powers”) によって焚きつけられ、助長され、利用されてきたのと同様に、ウクライナにおける戦争も同じことである。 誰が一番の受益者であるか? 私の中国の友人は、それは、確かに、ロシア、ウクライナ、欧州ではない、と論じている。むしろ、最終的には、米国と中国が大部分を占める位置に立ち、両者はより拡大する対立関係に於ける代理戦争として、この戦争に接近し、対応して来ている、と論じている。
米国は、欧州諸国、日本そして韓国を取り込んで、米国の指令優先の新しい同盟に引き入れ、ロシアを孤立させ、中国に対しては、領土の保全のような問題について、いずれに立つかはっきりさせるように仕向けることで、恩恵を得てきている。 同時に中国は、ロシアの従属的位置(“Russia’s subordinate position”)*を強化することや、“the Global South”** のより多くの国々を、非同盟 (“non-alignment”) に応じ促すことによって、恩恵を得てきている。
*訳者注 : 総体として、ロシアより中国が上と見ている。参考までに
GDP比較は以下のごとくです。
面積 人口( 2021. 12.) 名目GDP (2022.)
ロシア 1,712.5 万Km2 1.26 億 1.8 兆 US$
中国 960 万 Km2 14.13 億 19.9 兆 US$
米国 980 万 Km2 3.31 億 25.3 兆 US$
日本 36 万 Km2 1.25 億 4.9 兆 US$
**訳者注 : the Global South
国連などの機関が、Africa, Asia, 南米を指す地理的な区分としての用語や、研究者、活動家が現代資本主義のglobal化によって、負の影響を受けている世界中の場所や人々を指して使う。
ヨーロッパのリーダー達が、自身を21世紀の Churchill (訳者注:ご存知のごとくイギリスの首相 [1874-1965] 第二次世界大戦でファシストのドイツと戦った。) に擬えて振舞っている一方で、中国人は彼らを、より大きな地政学のゲームにおける手先(”pawns”)と見なしている。 私が話し合った中国の学者達、見識ある人々のすべての間で一致した見解は、短期間ながら COVID-19 による混乱や、長期にわたる米国と中国の支配権を巡る争い (“struggle for supremacy”) に比べれば、ウクライナにおける戦争は、むしろ、つまらない、取るに足らない気晴らし (“unimportant diversion”) である、というものである。
言うまでもなく、私の中国における対話者の重要な論点について、異論ある人は議論も出来よう。確かにヨーロッパの人々(国々) (“Europeans”)は、中国人が暗に示したより、多くの手段を持っている。そして、ロシアの侵攻に対して、the West の力強い反攻が、1990年代の Yugoslav 継承をめぐる 10数年に渡り起こっていたように長期化がつきものの国境紛争の、最初の段階で、首尾よく拡大を防ぐことが出来た。
それにもかかわらず、中国の観察者達 (“observers”)は、我々が行っているのとは異なって、物事を組み立てて、言い表しているという事実は、我々に、ためらいを与える。 少なくとも、西側 (“the West”) にいる我々は、残りの世界の人々(国々)が、我々をどう理解しているか、もっと真剣に考えるべきだ。 そうは言っても、中国人の議論を、単なる話題として、さっさと片付けたくなる。その議論とは、敵対的で非民主的な政権(ウクライナについての公な討議は、中国では統制されている)の良い面を維持するように目論まれている。 しかし待てよ!多分、いくらかの謙虚さも必要ではないか。
中国の観察者達が、そのような一風変わった大局観 (“radically different perspective”) を持っているという事実は、何故に、ロシアに対する制裁で、西側 (“the West”) に、ほぼ全世界の支持 (“near-universal support”) が集まらなかったということを説明する助力になるかもしれない。
ウクライナにおいて、支配をロシアから取り戻す政策が優勢になっている一時期において、我々は他の国々では、ウクライナの重要性を割り引いて (“discounting”) 考えている、ということを知っても驚くべきではない。 我々が rule-based order の英雄的自衛と見なしている一方で、他の国々(人々)は、急速に多極化が進んでいる世界における Western hegemony の、最後のあがき (“last gasp”) を見ている。
Mark Leonard, Director of the European Council on Foreign Relation, is the author of “The Age of Unpeace: How Connectivity Causes Conflict” (Bantam Press, 2021)
(訳: 芋森) [ 完 ]