<<「銀行システムは安全」の大ウソ>>
3/18現在、世界の金融危機が直面している二つの焦点、アメリカのファースト・リパブリック銀行(First Republic Bank :FR)とヨーロッパのクレディ・スイス(Credit Suisse :CS)は、それぞれ破綻寸前の事態に追い込まれている。それぞれ、300億ドル(FR)と540億ドル(CS)の初期救済後も、預金流出が続き、株価が下落し続けている。
まず、シリコンバレー銀行(SVB)、シグネチャー銀行(SB)、シルバーゲート(SGB)の連鎖的な破綻の後、次なる標的となったファースト・リパブリック銀行に対して、アメリカの大手銀行は破綻を食い止めるために急遽、300億ドルを自主的に提供、規制当局はこの動きを “大歓迎 “と高く評価したのであるが、3/17には、同行の株価はさらに50%も暴落している。この2週間で実に80%の下落である。
JPモルガンなど大手行は自行への預金流出を煽ってほくほく顔であったのが、地方銀行のデフォルトが連鎖すれば、再び大恐慌につながる、跳ね返りの危険が巨大化し始め、3/17、取り急ぎ、「バンク・オブ・アメリカ、シティグループ、 JPモルガン・チェース、ウェルズ・ファーゴ、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、BNYメロン、PNC銀行、ステート・ストリート、トライスト、USバンクが、ファースト・リパブリック銀行に合計300億ドルの無保険預金を行う」ことを公式プレスリリースで明らかにしたのであった。
この動きを歓迎して、ジャネット・イエレン財務長官、連邦準備制度理事会ジェローム・パウエル議長、FDIC 議長マーティン・グルエンバーグ、および通貨監督官代理のマイケル・シューによって、米中銀(FRB)、米財務省、米連邦預金保険公社(FDIC) の共同声明を発表、「本日、11 の銀行が First Republic Bank への 300 億ドルの預金を発表しました。 大手銀行グループによるこの支援の表明は大歓迎であり、銀行システムの回復力を示しています。」と高く評価したのであった。
しかしそれは、一日も持たなかったのである。
バイデン大統領は、3/13、アメリカ国民に「銀行システムは安全だ」と請け合ったのだが、それは虚勢を張った、拱手傍観し、事態を冷静に評価
できない大嘘であったと言えよう。銀行システムは崖っぷちに追いやられているのである。
3/17、事態の危険な進展に慌てたバイデン大統領は、破綻した銀行の幹部に対する罰則を強化するよう求める声明を発表し、クローバック(資金の取り戻し)、民事罰、業界追放を要求する事態に追い込まれている。
地方銀行、中小銀行は米国の商業・工業向け融資の50%、住宅不動産ローンの60%、商業不動産ローンの80%、そして消費者ローンの45%を占めており、ファースト・リパブリック銀行の危機は、氷山の一角にすぎないのである。シリコンバレー銀行やシグネチャー銀行と同じように、FRも保有していた国債が急速な金利上昇のために莫大な未実現損失を抱えていたのであり、経営幹部自身がインサイダー取引で事前に自社株を売却していたことも判明している。
バイデン政権の危険な対外緊張激化政策、高インフレのブーメランをもたらした対ロシア・対中国制裁政策、超低金利とイージーマネーに大きく依存し、マネーゲームに明け暮れる金融独占資本を野放しにしてきた経済政策こそが、直接、間接、中小、地方銀行の経営危機、経済危機を一層激化させていることからすれば、バイデン氏自身が政界から追放されるべきであろう。
<<WSJ「数十の銀行、破綻の可能性」>>
事態の深刻さは、シリコンバレー銀行が破綻して以降、たったの7日間で米国内の各銀行が連邦準備制度理事会(FRB)から借入れた合計額が1648億ドル(約21兆9千億円)という記録的な数字となったことが公表データから明らかとなっている。これらの資金は切迫する資金繰りに注ぎ込まれたのであるが、合計額のうち1528.5億ドル(約20兆3千億円)は、商業銀行を対象に最大90日間の短期貸出として割引窓口(ディスカウントウィンドウ)経由で貸し出されている。FRBのデータによると、今回の貸出額は同機能始まって以来の最高額となり、2008年のリーマンショック時の水準(1110億ドル=約14兆7600億円)をすでに上回っているのである。
しかし、これで事態が収束するどころか、さら
に危険な金融危機に進展する可能性の方が大なのである。3/17、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の報道によると、「シリコンバレー銀行は、金利上昇により資産価値が下落し、不安になった顧客が保険対象外の預金を引き出したことで破綻した。経済学者らは新たな研究で、同様のリスクにさらされる可能性のある186の銀行を発見したと発表した」、「数十の銀行がシリコンバレー銀行と同じ運命をたどる可能性」があるとまで報じる事態である。
<<クレディ・スイス、破綻寸前>>
さらに、も一つの焦点であるクレディ・スイスも、破綻寸前である。
近年、一連の損失とスキャンダルに見舞われている投資銀行、クレディ・スイスは、スイスで2番目の巨大銀行であるが、2022年末の総資産は 5,740 億ドルで、2020年末の 9,120 億ドルから 37% も減少している。なお、破綻したシリコンバレー銀行の総資産は2,120 億ドルであった。このクレディ・スイスは、国際金融安定理事会によってシステム上重要であると指定された 30 のグローバル金融機関の 1 つで、大きすぎて潰せない銀行の一つなのである。しかし、今やこの銀行でさえ、文字通り崩壊の瀬戸際にあり、次に倒れるドミノの最有力候補である。
直近の破綻のきっかけは、この銀行への最大の投資家で、筆頭株主であるサウジ国立銀行 (SNB) が、規制および法定の制限により財政支援をもはや提供できないと発表した直後からであった。第4四半期に預金の純流出が1,190億ドルに達し、株価急落が顕著となり、スイス国立銀行(SNB)が急遽、500 億ドルの救済資金を投入、それでも事態は悪化している。3/15には、株価がまたもや史上最安値を記録、午前中だけで株取引が数回停止させられる事態に追い込まれている。
危機打開に向けて、スイス国立銀行が全額預金保証で介入するか、クレディ・スイスの投資銀行全体を閉鎖するか、より現実的には、スイス第一の銀行であるUBSとの統合が提起されている。SNBは3/17日夜、米英の金融当局に対し、2行の統合がCSの崩壊を阻止する「最善策」であると説明した、と報じられている。しかし、この2つの銀行が統合される場合、10,000人の雇用を削減しなければならない可能性があると警告されている。
もちろん、こうした事態はヨーロッパ全体に波及しつつある。フランスのソシエテ・ジェネラル、スペインのバンコ・デ・サバデル、ドイツのコメルツ銀行が最大の株価下落を記録し、イタリアの銀行、UniCredit、FinecoBank、Monte dei Paschi などが自動取引停止の対象となっている。
いずれも各国が放置してきた金融バブルの中で、金融独占資本主導のマネーゲーム、自由競争原理主義の新自由主義が実体経済を弱体化させてきた当然の帰結でもある。しかも、破綻する金融資本救済策が、大量の資金投入がさらにまたインフレ激化要因となり、利上げ、緊縮政策と相矛盾する混迷に追い込まれているのである。
こうした金融危機の拡大は、これまでに経験したことのない経済危機の瀬戸際に追い込まれているということであり、2008年のリーマン危機を上回る事態ともいえよう。当時は、欧米 VS ロシア・中国の緊張激化、世界大戦の危機など存在していなかったのであるが、現在の危機はその真っ只中で危機が煽られているのである。金融危機打開のために、まず第一になされるべきなのは、実は、世界的な緊張緩和・平和政策なのである。
(生駒 敬)