【投稿】使用済み核燃料中間貯蔵施設をめぐる関電の猫の目計画
福井 杉本達也
1 関電が突如の使用済み核燃料のフランス移送計画
「関西電力の森望社長は12目、県庁で杉本達治知事と面談し、高浜原発で保管する使用済みプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料と使用済み核燃料の一部を2020年代後半にフランスに搬出する計画を示した。電気事業連合会(電事連)がフランスで行う実証研究の一環。関電は県内原発から出る使用済み核燃料の中間貯蔵施設の県外計画地点を年末までに県に提示するとしており、森社長は『県外に搬出されるという意味で中間貯蔵と同等の意義があり、県との約束はひとまず果たされた』との認識を示し、県に理解を求めた」(福井:2023.6.13)。
これまでの経緯を知らない者には分かりにくい非常に絡み合った文章であるが、まず「中間貯蔵施設」とは、使用済み核燃料を一時的に保管する場所である。①使用済み核燃料は現在、原発内の使用済み核燃料プールに保管されているが、これが満杯に近いので中間貯蔵施設を造らなければならない。ところが、②福井県との約束で、中間貯蔵施設は福井県外に造る約束となっている。③約束が守られなければ原発の再稼働を停止する。④その場所を決める期限が2023年末である。⑤関電は2020年代後半に使用済み核燃料のごく一部をフランスに搬出する。⑥これは中間貯蔵施設を福井県外に作ると『同義』であり、2023年末という福井県との約束を果たした。⑦フランスではMOX燃料を試験的に再処理してみる。といった内容である。⑧しかも、これを西村経産相が追認したのである。
2 福井県の使用済み核燃料の県外搬出の経過
1997年、福井県外に使用済み核燃料を搬出すべきだと提案したのは、当時の栗田幸雄知事である。福島第一原発事故以前ではあったが、栗田知事は使用済み核燃料が大量に原発サイト内にたまり続けることに漠然と不安を抱えていたのであろう。
2017年の大飯3、4号機の再稼働に向けた地元手続きの際、当時の岩根関電社長は中間貯蔵施設の候補地を「最大の経営課題」とし、「2018年中に示す」と明言し、西川一誠前知事の再稼働同意につながった。しかし、中間貯蔵施設の候補地として、有力とされていた青森県むつ市の理解が得られなかった。2020年10月には杉本達也現知事が候補地提示が原発再稼働同意の前提となる(候補地提示がなければ再稼働同意はしない)との見解を示している。元々、関電は東電と日本原電が共同で設置したむつ市の中間貯蔵施設に相乗りする計画であった。ところが、これに強固に反対したむつ市長であった宮下宗一郎氏が2023年6月に青森県知事に就任したことから、候補地としてのむつ市が絶望的となったことが、今回の猫の目計画の端緒である。
3 フランスへの移送は県外搬出にあたらない
関電の提案に対し、自民党の県議は「福井県を小ばかにした話。詭弁であり、すり替えだ」とし、資源エネルギーの小沢典明次長が「中間貯蔵施設ではないが、県外搬出を行う手段として評価できる」と県議会で関電の主張を追認したことに対し、「開き直りの強弁だ」とし、「地元は原発を止めたくないはずだ、と見くびっている」と批判している(朝日:2023.6.29)。自民党福井県議会の山岸猛夫会長は全協終了後「『同等の意載がある』と言われでも納得できない。国の誠意が全く感じられない」と批判した上で「今回のような詭弁でなく、誠意を持った回答を持ってきてもらいたい」と述べた(福井:2023.6.24)。
また、櫻本副知事も30年ごろに2千トン規模の使用済み核燃料の中間貯蔵施設を操業開始すると約東していた関電の計画と比較しても搬出量が少ないと指摘。フランスへの「搬出が継続的に行われるものでもなく、県民からは根本的な問題解決になっておらず、先送りではないか」と苦言を呈した(福井:同上)。
4 猫の目の関電―中国電力の山口県上関原の中間貯蔵計画にも触手
フランスへの搬出計画を提案したわずか2か月後、「中国電力は、山口県上関町の同社所有地で、原発から出る使用済み核燃料の中間貯蔵施設の建設を検討していると表明した。単独での建設や運営が難しいとして、同様に施設が必要な関西電力と共同で進めるという。」「上関町では、1982年に町が原発誘致を表明し、2009年に準備工事が始まった。だが、11年の福島第一原発事故を受けて中断し、町側が地域振興策を中国電に要望していた(京都新聞社説:2023.8.11)。
京都新聞社説はこれを「関電は福井県との間で、中間貯蔵施設の県外候補地を今年末までに示すと約束している。できない場合は3基の運転を停止するとも明言している。中国電との中間貯蔵施設の共同開発は、まさに『渡りに船』だったのだろうが、場当たりが過ぎないか」と批判している(同上)。
しかし、杉本福井県知事は「県が求める使用済み核燃料の県外搬出に向け「(関電の取り組みが)少しずつ進んでいる印象」と評価(福井:2023.8.4)。どこまでも関電に舐められるつもりらしい。
5 使用済みMOX燃料の危険性
フランスに送る研究用の 200トンは関電の使用済み核燃料の一部にすぎず、それも一回限りである。MOX燃料は主にウランが核分裂するのではなくプルトニウムが核分裂することで発電する。そのため、発生する放射性物質の性格が異なり、半減期の長い、そして、中性子の発生が多いものになる。中性子の発生量は普通のウラン の使用済み核燃料に比較して10倍、ガンマ線の発生量は2割程度減って8割程度になる。発熱量がなかなか 減少しないために地上でプールの中に保管して水冷する期間が普通のウラン使用済み核燃料の約10倍必要になる。普通のウラン核燃料は30年程度プールで冷やすが、MOXの使用済み核燃料は300年程度はプールでの保管が必要となる。使用済み MOX 燃料そのものの再処理には、溶解しにくく再処理工程で厄介な作用をする白金族元素が多く含まれるため、極めて困難である。したがって、フランスへの搬出はあくまでも「試験」に過ぎない。しかも大規模放射能事故の可能性のある超危険な「試験」である。鈴木達治郎長崎大教授は「行き場のないものを海外に運んでも問題の先送りでしかない。」核燃料サイクル政策の「行き詰まりを直視し、全ての使用済み核燃料再処理する前提を含めて根本的に考え直すべきだ」と指摘する(朝日:同上)。
6 使用済み核燃料で一杯・危険性は増大で原発を止めるしかない
福井県内の商業用原発13基で生み出された使用済み核燃料は18,000体7,448トンであり。その約半分が英仏の再処理工場と東海・六ケ所村の再処理工場へ搬出されたが、現在もサイト内に9,578体、4,163トンが保管されている。これまで関電を始め各電力会社は2000年代から「リラッキング」という手法で、「使用済燃料を収納するラック(収納棚)をステンレス鋼製から中性子吸収材であるホウ素を添加したステンレス鋼製に変更し、使用済燃料プールの大きさを変えることなく、ラックの間隔を狭めることで、使用済燃料の貯蔵能力を増やす」(電事連解説)ことを行ってきた。しかし、それも限界に達している。関電は4.6年~6.6年で満杯になるとしている。しかも、福島第一原発事故・特に3号機核燃料プール爆発事故の教訓からは、使用済み核燃料が大量に格納容器のない核燃料プールに丸裸で保管されるということは危険極まりない。国は60年超の原発の運転を認めるというが、使用済み核燃料の置き場がなくては、60年超運転どころではない。自動的に原発を止める以外にはない。
7 原発を止めれば全電力会社は債務超過で破綻・国有化以外に道はない
関電の2023年3月末の貸借対照表によれば、固定資産のうち原子力発電設備が902,806百万円、原子力廃止関連仮勘定が45,123百万円、使用済燃料再処理関連加工仮勘定が180,035百万円、核燃料が494,026百万円で原発関連合計1,621,990百万円となる。一方、株主資本は資本金・剰余金など1,617,548百万円であり、もし、原発が止まれば、今までの発電資産は逆にお荷物の不良資産となり、関電は債務超過に陥る。この計算には、その後の原発の管理・解体・放射性廃棄物の管理費用などは含まれていない。倒産企業となる。全電力会社を国有化して放射能を管理していく以外に方法はない。