【投稿】ハワイ・マウイ島大火災と新自由主義--経済危機論(115)

<<「これは最高の災害資本主義だ」>>
8/8、ハワイ・マウイ島、かつてのハワイ王国の首都・ラハイナは、大規模な山火事が発生し、島の3,200エーカー以上に被害が拡大、115人の死亡が確認され、約1,000人が依然として行方不明という、「大参事」に襲われた。この大規模火災に対して、ハワイの当局者自身が「公平」の名の下に、消火のための水の使用と警告音を差し控えたことを認めた、人為的被害の最悪の結果に唖然とさせられる事態である。
 この災害の中心にあるのは、ハワイ先住民(カナカ マオリ) の何世代にもわたる水と土地の権利をめぐる長く続く闘いである。ハワイ先住民の7世代目の農民であり、コミュニティのリーダー、教育者であり、非営利団体フイ・オ・ナー・ワイ・エハーの会長でもあるホクアオ・ペレグリノ氏は、8/21のCNN ニュース番組で、「これは最高の災害資本主義だ」と告発している。
かつては太平洋のベニスとして知られた、水資源豊富なラハイナは、1 世紀以上にわたり、最初はマウイ島の西部地域であるマウイ・コモハナの水が、大規模な砂糖農園によって、そして最近では市場競争原理主義の新自由主義政策、規制緩和政策に乗じて、ウエスト・マウイ・ランド・カンパニー(WML)とその子会社、カアナパリ・ランド・マネジメントやマウイ・ランド&パイナップル・インクなどの企業が、高級リゾート、ゴルフ場の開発のために独占的に水と島の天然資源を食い荒らし、資源略奪的な現代的プランテーション経済がさらに先住民の生態系から自然の水資源を略奪、土地と深いつながりを持つ先住民族コミュニティへの影響をさらに悪化させ、炎と戦うための水はほとんど残されず、乾燥した土地に変えてしまったのである。
そして、米軍もハワイの水危機の主な原因となっている。海軍ジェット燃料の汚染により、水の供給が脅かされ、地元住民が燃料貯蔵タンクの閉鎖を要求し、勝利したが、1か月も経たないうちに海軍は約束を反故にし、闘争が再開されている。
しかも、昨年、西マウイ島では、地元住民に対して最大500ドルの罰金を伴う強制的な水制限が導入されたが、水を大量に消費する企業群にはそのような制限は課されなかったのである。
 8/18のデモクラシー・ナウに出演したハワイの法学教授カプアアラ・スプロアト氏(カ・フリ・アオ・ネイティブ・ハワイアン法律センターの法学教授であり、ハワイ大学マノア校ロースクールのネイティブ・ハワイアン・ライツ・クリニックの共同ディレクター)は、「災害資本主義は、残念ながら、マウイ・コモハナ、あるいは西マウイで現在起こっていることを表す完璧な用語だと私は思う。資源の多くを支配してきた大規模な土地所有権であるプランテーションは、この機会を利用し、火災の翌日に知事が発令した非常事態宣言を利用し、これを特に水資源に関して自分たちの思い通りにしようとする機会として利用しているのです。」と、まさに、ナオミ・クラインが2007年の著書『ショック・ドクトリン』で明確にした、「災害を刺激的な市場機会として徹底的に利用」する新自由主義の「災害資本主義」を糾弾している。

<<全てを「気候危機」に押し流す大手メディア>>
この大火災から 13日後にようやく現地に顔を出したバイデン大統領、マウイ島の山火事への対応の一環として、自宅を追われた申請者に対し、1世帯当たり700ドル(約10万円)を一時金として支払うと約束したが、1人ではなく、1世帯で、この金額では災害後の住民のニーズを満たすには程遠く、事態を軽視していることが明らかである。一方、バイデン政権はウクライナでの代理戦争にすでに約1000億ドル以上を送っている。
 しかもバイデン氏は、事前に選ばれた住民との会見で、かつて自宅で起きた小さなキッチン火災で妻を失いかけたと嘘をつき、家、車、所有物をすべて失った数千人のマウイ島住民に喩えたがために、地元住民を激怒させ、「あなたは庶民とは無縁で、彼らとどう話せばいいのかさえわかっていない」、「最低で卑劣だ」と指弾されている。実際は、消防士が「かなり早い段階で発見」し、「20分で鎮圧」されていたのである。
バイデン氏は、次期大統領選に向けて「気候変動と先住民族の権利」の問題で、共和党候補にたいして有利な立場を取りたいとの考えから、マウイ島を訪れたのであるが、地元住民からは歓迎されない訪問となってしまった、と言えよう。実際のバイデン政権は、表面上の言葉とは裏腹に、アラスカのウィロープロジェクトのような石油掘削プロジェクトを承認し、メキシコ湾での掘削プロジェクトを競売にかけたりと、水と土地を脅かし、先住民の主権と自己決定を損なう政策を推進しているのである。
 大手メディアは、バイデン政権と同様、この大火災を、新自由主義政策による「災害資本主義」から目をそらすために、水資源略奪問題を全く報道せず、すべての原因を世界的な「気候変動危機」に流し込んでいることが明らかである。
ツイートで、「ハワイの当局者自身が公平の名の下に水と警告音を差し控えたことを認めたのに、メディアが死者の原因を大声で嬉々として気候変動のせいにしていることに、今でも驚いている。誰も責任を問われず、ごまかしの太陽神のせいにするとき、私たちには希望がありません。」と指摘されている通りである。

問われているのは、まさに政治的経済的危機の根底にある、新自由主義政策による「災害資本主義」なのである。
(生駒 敬)

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