<<ジェノサイドの予告>>
10/13、イスラエル・ネタニヤフ政権は、パレスチナ・ガザ地区の北部住民に対し、24時間以内にガザ南部へ避難するよう警告を発した。「現地時間の日付が変わる少し前(日本時間午前6時前)、イスラエル軍から国連人道問題調整事務所とガザ警備安全保障省に対し、24時間以内にワジガザ以北のガザ住人が南部に避難するようイスラエル側から通達があった」と発表された。
10/15現在、イスラエル軍の大規模な地上侵攻は、避難ルートの2本の幹線道路を指定して時間限定の住民避難を促したが、避難は遅々として進んではいない。そもそも不可能なのである。
ガザ地区は、人口230万人余り、避難対象住民は実に110万人を超えている。世界一の人口密集地帯で、なおかつイスラエルによって陸、空、海の出口はすべて完全封鎖され、ガザ地区以外に出口がない。人口の半数を南部に受け入れる余地などないことは歴然としている。
長年にわたって、ガザ地区への人々の出入りや市場へのアクセスが厳しく制限されており、住民の63パーセントが食糧不安に陥り、国際援助に依存しており、人口の81.5パーセントが貧困の中で暮らしており、2022年第3四半期末の全体の失業率は46.6パーセント、キャンプで暮らすパレスチナ難民は48.1パーセント、若者の失業率は62.3パーセント、2023 年 7 月の時点で、電気は 1 日あたり平均 11 時間しか利用できず、人口の95パーセントはきれいな水を利用できない、当然、保健・衛生・医療サービスは極度に制限されている。もちろん、経済とその雇用創出能力は壊滅的な打撃を受けている。これらはすべてイスラエルによる、イスラエル国家のための占領政策、経済封鎖、アパルトヘイト(人種隔離政策)政策がもたらしたものであり、ガザが世界最大の「天井のない野外刑務所、強制収容所」と言われる所以である。
このようなパレスチナ人に対する、人権を根こそぎ踏みにじるアパルトヘイト、人種隔離政策、それに基づく戦争行為こそが、最大の差別なのである。ハマス(イスラーム抵抗運動)による反撃、暴力の爆発は、彼らが「テロリスト」であるから起こったものでは決してないのである。パレスチナの人々はもちろん、世界中の人権専門家、国連職員、人権団体が、イスラエルの政策をすでにアパルトヘイトと認定し、それはいつか耐えられなくなるだろうと長年警告してきたところである。
ところがイスラエル当局は、今回のハマスの反撃に対して、「これはイスラエルの9/11だ」(イスラエルの国連大使)と叫び、アメリカにおける9/11の余波と同様、テロと闘っているだけだと強弁し、イスラエル国防相はパレスチナ人を「人獣」と表現し「それに合わせて行動する」、「ガザを平坦化する」と公言している。ヘルツォーク大統領に至っては、ガザ住民にまで言及し、「民間人が気づいていない、関与していないというこのレトリックは、絶対に真実ではない」、「我々は彼らの背骨を打ち砕くだろう」と、全住民対象の集団懲罰まで発言している。ネタニヤフ首相は戦時統一政府の樹立を発表し、「ハマスのメンバーは全員死んだ人間だ」と宣告、パレスチナ人民への明らかな大量虐殺、報復ジェノサイドを予告、宣言しているのである。
しかし、このネタニヤフ氏自身は、汚職疑惑をめぐり公判中で、それを回避する司法制度改革に対しては大規模な反政府デモが何カ月も繰り返され、この抗議を支持する動きは軍や情報機関にまで広がり、予備役兵が軍務を拒否する事態にまで広がっていたのである。そのネタニヤフ氏が、ハマスの反撃に乗じて、一夜にして窮地に陥っていた事態から、戦時統一政府の指導者に変身し、野党を含めた挙国一致政府にこぎつけたのであった。
<<バイデン「気を付けるがよい」>>
問題は、本来孤立化されるべきこうしたイスラエル政権を、米バイデン政権が必至になって弁護、支援していることである。
バイデン政権は、ハマスの反撃後すぐさま、何の躊躇もなく、イスラエルにより多くの武器と弾薬を提供し、最新鋭の空母フォードと多数の駆逐艦を東地中海に派遣し、イスラエルに駐留する他の部隊を強化することを明言し、実行に移している。事態を鎮静化させ、平和を促せるのではなく、イスラエルの人道・人権無視、地上軍の投入、大量虐殺を背後から煽り立てているのである。パレスチナの武装抵抗運動と、この抵抗が代表するパレスチナ人民の主張には全く耳を傾けない、ガザで展開している人道危機に対して、信じがたいほど冷淡かつ無知、無関心は、驚くべきものである。
アメリカで唯一のパレスチナ系議員であるラシダ・トレイブ下院議員(民主党、ミシガン州)は「バイデン大統領は、残忍な空爆と、この人道危機を激化させるであろうガザへの地上侵攻の脅威に直面している数百万のパレスチナ民間人に対して、一片の共感も表明していない」と、「バイデン政権はガザにいるすべての民間人とアメリカ人の命を守る義務を怠っている。」と厳しく批判している。広がる批判に直面して、10/15段階に至ってようやく、民間人の犠牲を抑える「安全地帯」に言及した程度なのである。
バイデン氏は、国務長官をイスラエルに派遣して、無条件支持を言明、ブリンケン氏はテルアビブでネタニヤフ首相と会談後、「自分自身で自分を守るのに十分強いかもしれないが、米国が存在する限りそうする必要はない」と請け合い、「私たちはいつもあなたのそばにいます。」と明言している。
さらに危険なのは、紛争の中東戦争全体への拡大、世界大戦化への緊張激化である。バイデン氏は、10/11、米国のユダヤ系社会団体が主催した会合に出席し、「イランに対しては、気をつけろとはっきり伝えた」と述べ、中東情勢の緊迫化を当然の前提にしていることである。
すでに英国がイスラエルへの軍事支援を表明、P8ポセイドン航空機、監視装置、海軍艦艇2隻(ライムベイとアーガス)、マーリン・ヘリ3機、および英海兵隊が派遣され、英国の海上哨戒機と偵察機は早くも13日にはこの地域で飛行を開始している。
こうした事態を受けて、10/9、ロッキード・マーティン株の約9%上昇は、2020年3月以来最大の値上がりとなり、ノースロップ・グラマン株も2020年以来最高の日となった。こうした軍事紛争激化から最も多くの利益を得たのは、ロッキード・マーチン、ボーイング、レイセオン、ゼネラル・ダイナミクス、ノースロップ・グラマンの軍産複合体大手5社である。
ネタニヤフ政権は、パレスチナ封じ込め政策が破綻している現実を受け入れられず、これを不問にしたアラブ諸国との国交正常化を進めれば乗り切れるという甘い幻想を抱いていたのである。バイデン政権も同様である。パレスチナとの和平を実現させない限り、そのアパルトヘイト政策を放棄しない限り、パレスチナ領土への違法な入植地政策を撤回しない限り、中東和平はあり得ないのである。
米国国務省当局者は、ガザについて「緊張緩和/停戦」という用語を使用しないよう指示 「国務省職員らは、高官らは報道資料に『緊張緩和/停戦』、『暴力/流血の終結』、『暴力の終結』という3つの特定の文言を含めることを望んでいない、と報じられている。
逆に言えば、常に戦争状態を維持し、拡大することが、ネタニヤフ政権やバイデン政権が延命できる唯一のあがきでもある、と言えよう。しかし、それは彼ら自身を孤立化させ、政治的経済的危機をより一層激化させ、破綻せざるを得ないものである。
(生駒 敬)