【投稿】中東での戦争は、全て「ドル基軸通貨体制」の維持にある
福井 杉本達也
1 長期金利5%超で、米国は金融危機へ
10月21日の日経新聞は「米長期金利、16年ぶり5%」という見出しで、「米長期金利が一段と上昇(債券価格は下落)している。指標となる10年物国債利回りは19日に一時5%台と、16年ぶりの高水準を付けた。上昇幅は直近3カ月で約1・3%に達する」と報道した。
海外のドルは、米国の経常収支(貿易収支+所得収支)の赤字として、海外に支払ったものである。米国は、40 年も経常収支の赤字が続いている。2022 年も2 兆ドルの赤字を垂れ流している。海外のドル残高は、430 兆ドル(4500 兆円)である。米国は30 兆ドルの利払い(5%なら1.5 兆ドル(225 兆円)/年)をしている。米国が対外負債(日本・中国・ドイツ・スイスの対外資産)の利払い(1.5 兆ドル/年)ができなくなったときが、ドルのデフォルト=「ドル暴落」である。国債の利払いの危機→通貨の暴落→インフレ→金利の高騰→国債の利払いの不能(国債の発行不能)となる。
米国債の時価=4800兆円で、ドル国債の含み損は、4800-3550=1250兆円となる。米銀の自己資本は、総資産の5%(=リスク資産の10%)=4000兆円×5%=200兆円しかないが、国債時価の下落で(1250 -200=)1050兆円の債務超過に陥った。米銀は、9兆ドルの国債+債券をもつFRBを先頭に、大手・中小の全銀行が実質破産状態。金融危機は避けられない状態にある(『ビジネス知識源』:2023.10.28)。
2 なぜこれまで「ドル暴落」とならなかったか
米国の経常収支の赤字で海外に流れたドルは、輸入代金決済で、米銀に還流してくる。この仕組みが、ドル基軸通貨体制である。一般的には、経常収支の赤字は、海外にその国の通貨の支払い超過を示すので、赤字国の通貨は下がって(=輸入物価は上がり)、経常収支の赤字は、⾧期間続けることはでない。金を裏付けにしない基軸通貨の発行国は、経常収支が赤字だと、その通貨が下がっていくので、ドル金利が上がっていくと海外が使う基軸通貨の維持は、できない。ところが赤字のドルは79 年も基軸通貨を続け、「ドルの暴落」はなかった。
第二次大戦後の経済体制を決めた1944年のブレトンウッズ会議で①参加各国の通貨はアメリカドルと固定相場でリンクすること、②アメリカはドルの価値を担保するためドルの金兌換を求められた場合、1オンス(28.35g)35ドルで引き換えることが合意された。だが、ベトナム戦争により米国経済は大きく傾むいた米国はドルの金兌換を要求されても支払うべき金はなくなっていた。そこで、1971年のニクソンショックにより、金・ドル交換停止され、ドル紙幣は金という「貨幣としての貨幣」の裏付けのないただの紙切れとなった。金という錨がなくなれば、インフレーションによってその価値はどんどん下落し続ける。そこで米国は、産油国のリーダーのサウジと「『原油はドルで売る、代わりに米国は王家の体制の維持を米軍が守る』とするキッシンジャー・ヤマニ密約」をし、「信用通貨になったドルが、基軸通貨であることを続けた」。石油を持たなに非資源国は「産油国から原油を買わねばならない。その決済通貨はドルである。従って、世界はドル準備(外貨準備=ドル預金またはドル国債)をもたねばならない。これが世界に、赤字通貨のドル買いとドル貯蓄(外貨準備)を促してきた」・いわゆる『ペトロダラー・システム』である(「ビジネス知識源」:2023.7.17)。世界はこれを1971 年から52 年も是認してきた。
米ドルは、海外が貿易通貨として使い、米銀へのドル預金、MMF、ドル国債、ドル債券、ドル株として還流してくるので、「変動相場での貿易均衡(通貨下落)の原理」が働かない。米国はいくら赤字を続けても、ドルは下がらない。
3 超低金利の『異次元緩和』が米国財政を支え、円安をもたらす
短期金利0%、⾧期金利0.8~0.9%時(10月30日、一時0・890%まで上昇)と低いので、1 ドル≒150 円の、超円安となっている。ドルの金利は5%であり、ドル安というリスクをとっても、3%はドルの金利が高い。このため、円が売られ、円安となっている。
2021年から中国が米国債を売るように変わった。そこで、日本はドル買いを一手に引き受けることとなっている。日本からのドル買い・ドル国債買い(=円安)が、米国金融を支えている(「ビジネス知識源」同上)。もし、ここで日本が金利を上げ、米国並みの金利にすれば、米国債を買うものがいなくなり、米国債は暴落する。そのようにさせないことが米国からの属国=岸田内閣への恫喝である。岸田内閣は円安を続けることによって、日本経済=日本国家の全てを米国に売り渡し続けている。日本で設備投資に回されるはずの金融資産を米国債の購入=米国の戦争経済体制につぎ込み続けている。これでは、経済が回復するはずはない。失われた30年が40年になるだけである。これが「新しい資本主義」の中身の全てである。
1996年から2008年(18年間)は、金融危機円安。2012年から2020年(8年間)は、アベノミクス円安。、黒田日銀の「異次元緩和」で2012年からは100→60 …40%円安となった。一方、この間にドルは2012年100→ 130 …30%ドル高となった。2021年からの3年は、コロナで大量の紙幣を供給したコロナ円安である(「ビジネス知識源」同上)。
4 中国は米国債売り
10月29日の日経新聞の一面トップは「中国が米国債の保有を減らし続けている。 8月末の残高は14年ぶりの低水準となり、足元では減少ペースが速まっている。米金利上昇(債券価格は下落)の一因」と見られると書く。「中国の米国債保有減が止まらなければ、金利上昇圧力として意識され続ける。米連邦準備理事会(FRB)の金融政策も影響を及ぼしかねない」。
1990年代の中国の人民元は、通貨の信用がなかった。通貨が外貨と交換できないと、貿易はできない。1994年から開放経済の輸出入のため、人民元をドルペッグにして、人民元の通貨の信用を確保した。その後、中国経済は飛躍的な成⾧をして貿易は増え、ドル買いで、日本とドイツを抜き1 位になった。中国も貿易黒字を米銀に還流した(『ビジネス知識源』同上)。
その中国が米国債を売り始めた。原因を作ったのは、米国である。ロシアへのウクライナ侵攻に対抗して、ドル決済システムであるSWIFT(電子銀行清算システム)から排除、ロシアの資産を凍結し、G7諸国やEU諸国による原油や天然ガスの禁輸などの経済制裁を行って、ロシアを破綻させようとした。ドルを海外に持つことは危険である。万が一の時に資産を凍結される恐れがある。中国やグローバルサウスの国々は、米国に逆らえば、次は自分たちの番だ、という結論に達した。そこで、中国は急いで米国債を売り始めている。中国がドル離れを起こしているのは米国の自業自得である。
5 BRICS通貨の構想
ドルは紙に印刷するだけで、他国の経済を犠牲にして利益を得るフリーランチである。他のすべての通貨に対し不当に過大評価されている。グローバルサウスはドルを稼ぐために一生懸命働かなければならない。こうした不当な状況からぬけだすために、BRICSは国際収支の黒字化に伴い、より多くのドルを得る代わりに、金を購入し、お互いの通貨を購入している。米ドルの需要は減少しているが、米国の貿易赤字と財政赤字のために供給は増加している。財務省証券を購入させなければならないが、もし、それが不可能な場合、彼らは軍事費の国際収支コストを支払うことはできなくなる。ウクライナやパレスチナ・中東どころの騒ぎではない。
BRICS通貨の構想は通貨バスケットで金・コモディティペッグ通貨で、金・コモディティのバスケット(加重平均の価格)が上がると、通貨も上がる。加盟国にとっては、国際貿易商品(原油、資源、穀物、食肉)が上がるインフレはなくなる(「ビジネス知識源」10.28)。
6 中東の戦争は、全て「ドル基軸通貨体制」を守ること
中東地域の戦争は、全て「ドル基軸通貨体制」を守ることである。今回のイスラエル・ハマス戦争もその例外ではない。既にサウジはOPECプラスでロシアと共同して、原油の価格を決め始めている。これまでドル体制を支えていた1974年以来の「ペトロダラー」システムは崩壊しつつある。また、中国とも原油の人民元取引を始めた。サウジが原油をBRICS通貨で売れば、他の産油国も全部、ドルでなくBRICS通貨で売ることになる。「ペトロダラー」システムが崩壊すれば、金の裏付けもコモディティである原油の裏付けもないドルはタダの紙切れになる。この動きを阻止するため、米国は必死で中東に介入しようとしている。今回もネタニヤフを動かして、中東大戦争を引き起こし、サウジを恫喝するつもりであったが、サウジ外務省は声明でイスラエルを名指し、アル・アハリ病院爆撃を「凶悪な犯罪だ」と非難した。米国の計画は完全に裏目に出た。ドルを買い支えるのは日本以外になくなった。タダの紙と化す米ドルにイスラエルの戦争を支え続けるだけの信用はない。最後はネタニヤフの首を挿げ替える以外にない。ドルの信用がなくなっているからこそ、米長期金利は16年ぶり5%台に上昇しているのである。「ドル暴落」は避けられない。