<<ガザへ核爆弾:一つの「選択肢」発言>>
この11月初旬までに、イスラエルのネタニヤフ政権は、パレスチナのガザ地区にすでに2万5000トンをはるかに超える大量の爆弾を投下しており、これだけですでに広島型核兵器・原爆2発分に相当すると言われる。
11/20現在、この空爆やミサイル発射で死亡したパレスチナ人はすでに1万3千人以上に達し、その半数以上が女性と子供である。爆撃対象は住宅街、市場、モスク、教会、病院、生活に不可欠なインフラ、救急車、民間輸送車等々、無差別で
、今や動くものは何であれ爆撃し、ガザ地区の文字通りのガレキ化を進行させている。しかし、それでも戦況は長期化の様相を呈している。
ネタニヤフ政権は、このガザ地区の大量虐殺・ジェノサイドを米バイデン政権の強力な支援、無条件の支持の下に推し進めてはいるが、その非人道的で許しがたい実態が次々と明らかにされ、全世界的な孤立化が急速に進行し、米・イスラエル両政権の内部矛盾もどんどん拡大し、両政権とも危険なジレンマに立たされている。バイデン氏自身が、ホワイトハウス前の10万人の抗議デモで「ジェノサイド・ジョー!」と糾弾される事態である。
その中で飛び出したのが、核兵器使用も一つの「選択肢」だという、ネタニヤフ政権の閣僚アミチャイ・エリヤフ(Amichay Eliyahu)文化遺産大臣の発言であった。11/5、地元イスラエルメディアとのインタビューで、報復攻撃の規模に不満を表明し、さらに「人道支援など行うべきではない」、なぜなら、「ガザ地区にハマスに関わっていない者などいないからだ」と、大量虐殺・ジェノサイドを正当化し、司会者から、ガザに核兵器を使用して「皆殺し」にする手法を容認するのかと問われると、「それは選択肢のひとつだ」と述べたのであった。
この発言には世界中から非難が相次ぎ、もちろんアメリカも11/6、米国務省のパテル副報道官が、パレスチナ自治区ガザへの核攻撃を認めるようなイスラエル閣僚による発言は「全く容認できない」と強く非難している。とりわけ近隣のアラブ諸国は直ちに反応し、UAEの報道官は「このような発言は国際法違反であるだけでなく、戦争犯罪など国際人道法への重大な違反を扇動するものであり、大量虐殺の意図があるという重大な懸念を引き起こしている。」と述べ、ヨルダン政府もエリヤフ市の発言は「無視できない虐殺と憎悪犯罪の呼びかけ」であると主張する声明を発表、アラブ連盟事務総長アフメド・アブル・ゲイト氏は「イスラエルは核兵器を保有しているが、これは公然の秘密である(…)(大臣のコメントは)イスラエル人がパレスチナ人に対して抱いている人種差別的見解の真実を裏付けるものである(…)これが占領政府の本当の姿である。」と強硬な声明を発表している。
このエリヤフ氏の発言に驚いたネタニヤフ首相は、「現実とかけ離れている」と否定する声明を発表し、イスラエル国防軍は「無実の人々への危害を避けるため、国際法の最高基準に従って活動している」と強調、すぐさまエリヤフ氏を停職処分とした。続いて、イスラエルの国防長官ギャラント氏は、彼の発言を「根拠のない無責任な言葉」と非難したのであった。
しかし、当のエリヤフ氏は、「私の原爆に関する発言は、たとえ話だということが明らかだ」と釈明しつつも、それでも「テロに対する強力かつ不釣り合いな対応が間違いなく必要だ」と、あくまでも「強力な武力行使」を引き続き主張している。そして、ネタニヤフ氏自身も閣議でイスラエルを「核強国」と表現し、自ら「エネルギー強国」と訂正した経歴の持ち主である。
<<イスラエルの「核保有」の実態>>
それでもなぜ、ネタニヤフ首相が驚き、急いでエリヤフ氏を停職処分に付したのか、それは、自国が核武装していることをイスラエル当局者自身が公然と認めたことに直接につながるからである。言ってはいけないことを言ってしまったので、彼を黙らせようとしたにすぎないのである。
今日に至るまで、イスラエルは核兵器の所有を公然と認めたことは一度もなく、国際原子力機関の査察官がディモナにある秘密基地を訪問することを一貫して拒否してきたからでもある。イスラエルは事実上の核保有国でありながら、米国の庇護によって核拡散防止条約(NPT)に非加盟である。
それは、ネタニヤフ首相自身が何年も前によく言っていた、「我々は中東に最初に核兵器を持ち込まないという長年の政策を持っている」という発言が全くのでたらめで、「噓」であったことをあからさまにしてしまい、公然の秘密=「核保有」が公然化してしまえば、国連や国際原子力機関の査察を拒否できなくなるからである。
そして、それ以上に重大かつ決定的なのは、米国の膨大なイスラエルへの軍事援助は、核非保有が前提条件であり、核保有が公然化されれば、米側の予算措置、議会通過が不可能となるからである。
イスラエルが米国政府から毎年得ている金額は巨大である。イスラエルは米国から年間38億ドルを得ているが、バイデン大統領は今年さらにイスラエルに対し、従来の38億ドルに加えてさらに143億ドルを要求している。そしてイスラエルは武器輸入の80%以上を米国から調達しており、米国政府はボーイング、レイセオン、ノースロップ・グラマンなどの米国軍需企業に年間数百万ドルを超える補助金を提供して、軍産複合体を構築し、緊張激化政策と軍事挑発政策で、政治的経済的危機に対処しようとしているのである。
ストックホルム国際平和研究所は現在、イスラエルの核兵器は80の兵器で構成されていると推定している(そのうち50は弾道ミサイルによる運搬用、30は航空機による運搬用)。イスラエルはまた、未知数の核砲弾や核破壊兵器を保有していると考えられている。実際の核兵器備蓄量は80発から300発と推定されており、後者の数とすれば、中国の保有量を上回っている。
さらにイスラエルでは、核生産施設を積極的に拡張する「大規模プロジェクト」が2021年に進行中であり、核爆弾で励起されるX線レーザー、流体力学、放射線輸送といった次世代兵器の集中研究にも取り組んでいるが、公の場で議論されたことはない。
この2021年には、バイデン大統領とイスラエルのナフタリ・ベネット首相が、ベネット大統領のホワイトハウス訪問中に、イスラエルの未申告の軍事核開発計画に関する米国とイスラエル間の戦略的理解を再確認、合意を更新(axios Sep 1, 2021 )している。
問題は、イスラエルがすでに核兵器の使用を検討しているかどうかに関係なく、実際には孤立し、行き詰まる戦況の打開を目指して、最も急進的なイスラエルのシオニスト過激派の側からこの核兵器使用「要求」が現れる可能性が非常に高いことを、エリヤフ発言が明らかにしたことである。
バイデン政権とイスラエル政権をさらに孤立化させ、即時停戦と緊張緩和に追い込む闘いが要請されている。
(生駒 敬)